ラスト スタンド オブ・ジェットジャガー 作:よよよーよ・だーだだ
シートピア・アーカイブスの基地は海の底、地中深くにあった。
「こんなところ、泳げるはずないよ……」
震えるミアナの声は、わたしたちの心の中で膨れ上がりつつある恐怖を代弁しているようだった。果てしなく広がる暗い海の底、その先でいったい何が待ち受けているのか――考えるだけで、背筋が凍るような心地がする。
わたしもミアナも泳ぎには自信がある。けれど、こんな深い海を泳ぐなんて無理だ。凍えてしまうし、まず息が続かず溺れてしまうだろう。
無意識のうちに、わたしの視線は“じぇーじぇー”に向かった。
「どうしたら……?」
そんな中でも“じぇーじぇー”は自信たっぷりに親指を立てて応えた。なにか考えがあるらしいが、わたしには正直、不安の方が大きかった。
「……!」
“じぇーじぇー”が突然動き出した。
見上げるわたしたちの目の前で“じぇーじぇー”が何やら規則正しく両腕を動かすと、“じぇーじぇー”の全身が光り輝き、周りにまばゆい光の幕が現れた。“じぇーじぇー”が発した光の幕、つまり輝くバリアーが、“じぇーじぇー”が抱きかかえているわたしたちをも包み込む。
そしてわたしたち皆がバリアーに包まれたのを確かめた“じぇーじぇー”は、迷うことなく海の中へと飛び込んだ。
「えっ、あのっ……!?」
冷たい海水が襲いかかる感覚を覚悟して、わたしは思わず目を強く閉じた。心臓が喉元まで跳ね上がり、体中が硬直する。
けれど、その瞬間は訪れなかった。
「息が……できる?」
「寒くない……?」
目を開けたわたしたちは、自分たちが息をしていることに驚いた。深い海の底だというのに、わたしたちはちっとも息苦しくなかった。冷たくもないし、呼吸もできる。そもそも濡れてすらいない。
そのときになってようやく“じぇーじぇー”のバリアーのおかげだろうかと思い至る。
「まさか、“じぇーじぇー”が……?」
わたしの呟きに“じぇーじぇー”はゆっくり頷いてくれた。
わたしは、自分たちを抱きかかえている“じぇーじぇー”の姿を見上げた。冷たいはずなのにどこか温かな鋼の身体に、わたしたちを守るように抱きすくめる逞しい両腕。この不気味な大男がこんなに頼もしく見えたのは、初めてだ。まるでわたしたちの不安を吹き飛ばしてくれるかのようだ。
「ありがとう、“じぇーじぇー”!」
ミアナがお礼を言うと、“じぇーじぇー”は再び親指を立てて応えてくれた。
かくして無事に脱出し、海を越えて静かな砂浜に降り立ったとき、わたしたちはようやくほっと一息つくことができた。
「ふう……」
わたしたちを抱えた“じぇーじぇー”が着地したのは、波が静かに打ち寄せる砂浜。周りを見渡してみれば、ここがわたしたちの村にほど近い海岸であることにすぐ気がついた。
「ここ、村の近くだよね?」
わたしの問い掛けに、“じぇーじぇー”はゆっくり頷いた。
わたしたちを見下ろす“じぇーじぇー”は出会ったときと同じく無言で無表情、笑顔なんだか顰め面なんだかよくわからない顔つきけれど、なんだか安心する。
隣で同じように降ろされたミアナに、わたしは声をかけた。
「ミアナ、大丈夫?」
「うん、大丈夫……」
ミアナは笑顔で頷いたけれど、その表情には疲労の気配が隠しきれていない。ミアナは自分の身体を見下ろしながら、ぽつりと呟いた。
「でも、この格好……」
そう言われてわたしも自分の体を見下ろしてみると、まだヒギンズから押し付けられた『文明人の格好』のままだったことを思い出した。
豪勢すぎるドレスと窮屈すぎるコルセット、これらのせいで身体は重いし、息苦しくて動きづらい。しかもヒールが砂に沈み込んでまともに歩けやしないし、顔に至ってはメイクとやらのせいで酷い有様だ。締め付ける下着で起伏を極端に強調された体型もあって、到底人前に出られた姿ではなかった。
「どうしよう……」
「このまま村に戻るなんて絶対無理だよう……」
わたしとミアナが困り果てている中、またしても“じぇーじぇー”が動き出した。“じぇーじぇー”は無言で身を屈め、大きな手をそっとミアナの背中へと伸ばす。
「ちょ、ちょっと……!?」
ミアナに手を伸ばす“じぇーじぇー”の姿にヒギンズの恐ろしさがダブり、わたしは思わず制止しそうになる。
けれど、そんなのは杞憂だった。
“じぇーじぇー”はまず、ミアナのドレスの背中の留め具に手をかけた。彼が一つ一つ丁寧に外していくたびにミアナのドレスが少しずつゆるみ、ミアナの体が次第に自由を取り戻していく。
そう、つまり。
「服を脱がせてくれるの?」
ミアナの問い掛けに、これまた親指を立てて答える“じぇーじぇー”
“じぇーじぇー”はまるで繊細な壊れ物を扱うかのように、ミアナを扱ってくれた。胴体を締め付けるコルセットの締め付けを解いたあと、次はヒールの複雑な靴紐をほどく。
そしてこれまた脱がせ方がわからない下着を外し、ミアナは裸になってしまった。
「あー、苦しかった……ありがとう、“じぇーじぇー”!」
喜ぶミアナに、またしても親指を立てて答える“じぇーじぇー”。
裸ん坊の姿のまま、ミアナは深く息を吸った。そして深く息を吐き、海の水で顔を洗ってメイクを落としてから、砂浜を気持ちよさそうに舞い踊った。模様の入った褐色の肌としなやかな体躯、そして潮風に吹かれてさらさら揺れる銀色の髪。とても気持ちよさそうだ。
一方、ミアナの服を脱がせ終えた“じぇーじぇー”は、次にわたしの方へと振り返った。
「え、わたしも……?」
そう言いながら、わたしは思わず後ずさりしてしまった。
……正直わたしだって、こんな服なんて脱いでしまいたい。苦しいだけだし、まともに動けないし、ろくに歩けもしない。
「だけど……」
かといって、こんなところでミアナみたいに素っ裸になってしまうのは抵抗がある。
そんなわたしの躊躇を感じ取ったのか、途端に“じぇーじぇー”も手を止めた。無理に脱がすつもりはないらしい。
悩むわたしを傍から眺めていたミアナが言った。
「マイナも脱がしてもらっちゃいなよお~」
「う、うるさいな、もお……!」
散々逡巡して、悩んで、迷いに迷いまくった末に、とうとうわたしは覚悟を決めた。
「……じぇーじぇー、わたしのもお願いしていい?」
おずおずと頼むわたしに対し、“じぇーじぇー”は即座に動き始めた。
まず“じぇーじぇー”は身を屈めてヒールの靴紐を丁寧にほどき、わたしの足を解放してくれた。砂浜に素足をつけた瞬間に感じる、砂の柔らかさ。なんとも心地よかった。
続いて“じぇーじぇー”は、わたしのドレスの背中に手をかけた。
「うぅ……うん、大丈夫……大丈夫……」
服を脱がしてもらう恥ずかしさで顔が熱くなるのを感じながら、わたしは自分に言い聞かせるように呟いた。その手がドレスの背中の留め具に触れた瞬間、わたしの心臓が大きく跳ねるのを感じた。
「……んっ」
けれど“じぇーじぇー”の動きは驚くほど繊細で、まるで壊れ物を扱うかのように慎重に一つ一つ拘束を外していく。“じぇーじぇー”の指先が背中に触れるたびにキッツキツだったドレスが少しずつ緩んでゆき、わたしの体が少しずつ自由になっていくのがわかった。
やがてドレスが完全に外れ、重たい布の山がどさっと地面に落ちる。コルセットが外れたことで胸が広がり、ようやく体が軽く感じられた。
「すぅー……はぁー……っ」
まずは深呼吸。思いきり息が吸える、息を吐ける。なんて素晴らしいのだろう。まったく、なんて酷い格好だったのだろうと改めて思う。
そして最後に、わたしの身体を無理矢理寄せて上げていた下着を外す番が来た。“じぇーじぇー”はまるで無駄な力を一切使わないかのようにゆっくりと慎重に下着を取り外し、わたしの体が完全に自由になるのを手伝ってくれた。
……とうとう、わたしは素っ裸になってしまった。とっさに顔を真っ赤にするわたしを見て、ミアナが笑い声をあげた。
「あっはっは、マイナったら恥ずかしがっちゃって、変なのー」
「ミアナ、あんたこそ平気なの? こんな……こんな格好で……!」
「えー、服を脱げば裸になるのは当たり前じゃーん。それに他の人もいないし~?」
「そ、そうじゃなくってえ……!」
わたしは無意識に腕で体を隠そうとしたけれど、やっぱり全然隠しきれない。それに隣のミアナが平然としているのが、なんだか恥ずかしさを余計に際立たせているような気がした。
(むしろなんでミアナは平気なのかしら……?)
内心でそうぼやいたところで、ミアナのこの手の行動を理解しようとするのを辞めた。だって、ミアナだし。
まぁ、そんなことはさておき。
「…………。」
そんなわたしの様子を見て、“じぇーじぇー”が静かに立ち上がった。砂浜に落ちていたドレスの一部を拾い上げ、その大きな手でビリビリと器用に裂き始めたのだ。
「いったい……?」
「なにしてるの?」
怪訝に思うわたしたちだけれど、“じぇーじぇー”は黙々と作業を続けた。無駄に豪勢なドレスの縫い目をバラバラに解いて布切れへと分解し、巧みな手捌きで裂いた布を器用に結び合わせてゆく。
そして出来上がったのは、2着の服だった。元のドレスと比べたら遥かにシンプルだけど、遥かに軽やかで動きやすそうだ。
「この服……?」
「わたしたちに……?」
わたしたちが少し戸惑いながら尋ねると、“じぇーじぇー”はまた頷きながら親指を立てて応えた。相変わらず表情は変わらないけれど、その仕草には温かさが込められているような気がした。
受け取った服を、さっそくわたしたちは身に纏った。
「わあ、素敵な服!」
ミアナが喜んでいるように新しい服は驚くほど軽く、柔らかい感触が肌に伝わってきた。まるで自分が新しい自分に生まれ変わったような気分。
ミアナもまた美しい蝶が羽ばたくようにくるりと回って見せてから、“じぇーじぇー”に笑顔をほころばせた。
「ありがとう、“じぇーじぇー”!」
「……………。」
素直にお礼を言うミアナだけれど、そんなミアナがわたさしはなんだか羨ましかった。
無邪気に“じぇーじぇー”へ感謝できる妹ミアナの様子を見ていると、姉である自分もちゃんと自分の気持ちを伝えなければいけないような気がしてくる。
「…………。」
だけど、どうしても素直に口には出せずにいた。
ヒギンズたちシートピア・アーカイブスの魔手から救ってくれたことといい、服のことといい、心の中ではいくら感謝してもしきれない。だけどそれをそのまま言葉にするのは、なんだか自分がミアナよりも子供っぽくなってしまうような気がしてしまう。
そんなわたしのちっぽけな葛藤を、隣のミアナは目敏く見抜いた。
「マイナも、ちゃんとお礼を言わなきゃダメだよ~」
「だ、だってえ……」
にこやかに促してくるミアナの言葉に、わたしはさらに惑った。素直にお礼を言うべきだと頭では分かっているのに、なんだか気恥ずかしくて、言葉が喉元で引っかかってしまう。
……勘違いしないでほしいのだが、別にわたしはつまらない意地を張っていてお礼を言えないわけじゃあない。言うべきタイミングというのがあるだけ。そう、タイミングがあるのだ、何事も。
わたしが顔を洗い終えたとき、遠くから声が聞こえてきた。
「ミアナ! マイナ!」
砂浜の向こうから走ってきたのは、何人もの村人たち。わたしたちのことを気遣って、海まで迎えに来てくれたのだ。ミアナも気づいたようで、手を振りながら「みんな、こっちだよー!」と声を上げた。
村人たちはわたしたちに駆け寄り、安堵の表情を浮かべながら次々と声をかけてきた。
「ミアナ、無事かい!?」
「マイナ、大丈夫!?」
ええ、大丈夫、大丈夫……!
そう答えたわたしたち二人が無事なのを理解すると、村人たちは「無事でよかった……本当によかった……」と心から安堵してくれた。
そんな中、村の長老が“じぇーじぇー”に気付いた。
「ミアナ、マイナ、この方は……?」
すかさずミアナが応える。
「“じぇーじぇー”だよ! わたしたちのことを助けてくれたの! ね、マイナ?」
「え、ええ……」
わたしたちの言葉を受け、一人の年配の女性が“じぇーじぇー”に向かって深々と頭を下げた。
「わたしたちの“巫女”を救ってくださって、ありがとうございます!」
一人が頭を下げたのを端緒に、他の村人たちも一斉に“じぇーじぇー”に感謝の言葉を捧げ始めた。まるで波のように広がる感謝の声が、砂浜に響き渡る。村人たちはみんな心からの感謝を込めて、“じぇーじぇー”に頭を下げたり、祈りの言葉を捧げる。
「ありがとうございます、“じぇーじぇー”様……!」
「あなたがいなければ、どうなっていたか……!」
「本当に、本当に、ありがとう……!」
村人たちの言葉は、“じぇーじぇー”の無表情な顔に柔らかな光を当てているようだった。惜しみなく降り注ぐそれらを受け止めるかのように“じぇーじぇー”は静かに立ち、まるでこの村を守る守護者のようだ。
「……………。」
そんな様子を見ているうちに、わたしの胸の奥もまたじんわりと温かくなった。ミアナ、それに村の人たち。皆が嬉しそうに“じぇーじぇー”に向かってお礼を言ったのを見て、わたしも自然とその気持ちに引き込まれていく。もう、意地を張る理由なんてどこにもなかった。
……もう、しょうがない。渋々、そう、渋々なんだからねっ。そんなふうに自分に言い聞かせながら、わたしはなんとか言葉を捻り出した。
「あ、ありがと、“じぇーじぇー”……」
やっとのことで口に出したその言葉は思っていたよりも小さく、そして酷くぎこちないもの。
けれど“じぇーじぇー”はそれでも満足したかのように、またサムズアップで応えてくれた……こらっ、ミアナ、横でニヤニヤするんじゃあないっ。
そんな和やかな時間が流れ始めた、まさにちょうどその時のことだった。
「…………!」
海の向こうに広がる水平線が不穏な波を纏って揺れ始める。真っ先に気づいて顔を上げたのは、勘の良いミアナだ。
「なに、あれ……?」
ミアナが指をさすと同時、砂浜に立ち尽くす村人たちは一斉に目を凝らした。そのとき遠くの海上で浮かび上がる、黒々とした巨大な二つの影。
村人の一人が震えながら呟いた。
「か、怪獣だ……!」
海の向こうから現れたのは、二体の怪獣だった。
一体は真紅の怪獣、鋭利で不気味なオーラを放っていた。シグモイドカーブを基調としたつるりと流線型のボディに、両腕にはギラリと輝く黄金の鎌。くちばしを備えた顔は
もう一体は漆黒の怪獣、これまた破壊と恐怖を形にしたような異形だ。カブトのような角を着け、鎧のような羽根つけて、
二体とも背の丈は60メートル近く。どちらも恐るべき大怪獣だ。
「まさか……っ!」
「あいつら……っ!」
そのときわたしたちは、フツア族で伝えられている伝承を思い出した。
……遥か遠くの大昔、のちにフツア族の“神”となる怪獣がまだこの地を守っていた時代。わたしたちフツアの“神”は数多の怪獣と戦ったとされていたが、その中でも特に手強い怪獣のコンビがいたという。フツアの神が奴らと戦い、なんとかこの地を守り抜いたとされるその伝説が今まさに現実のものとなろうとしている。
偉大なる
「ガイガン=レクス……!」
「メガロ=レジーナ……!」
わたしが指差す先で、ガイガン=レクスはその鋭い鎌を打ち鳴らしながら、こちらに向かってゆっくりと進んでいる。赤い目が光り、まるでわたしたちを見据えているかのようだ。一方、メガロ=レジーナはその強力な角とトゲトゲを誇示するように振りかざしながら、巨体を海から引きずり上げようとしている。
「あいつら、シートピア・アーカイブスが送り込んできたんだ……」
目の当たりにしてわかる、その異様と違和感。今わたしたちの方へと迫ってきているガイガン=レクスとメガロ=レジーナには、シートピア・アーカイブスのヒギンズと同じく作り物のような雰囲気があった。
「か、怪獣だあっ!」
誰かが叫ぶと同時に、村人たちは一斉に駆け出した。わたしもミアナの手を取り、一刻も早くここから離れようとする。
だけどそのとき、わたしの手の中からミアナの手がすり抜けた。わたしが振り向くと、ミアナは“じぇーじぇー”と共にその場に立ち止まったままだった。
「なにしてるのミアナ! 早く逃げましょう……!」
「待って、マイナ! 逃げよう、“じぇーじぇー”、早く!」
ミアナが必死に“じぇーじぇー”を引っ張っていたけれど、“じぇーじぇー”はじっと怪獣たちを見据えたまま動かない。まるで、奴らが来るのを待ち構えているかのように。
「まさか、“じぇーじぇー”……?」
ミアナが呆然と呟く中、“じぇーじぇー”はなおも仁王立ちしながら怪獣たちを見据えていた。相変らず何を考えているのか分からない無表情――けれどその目には確固たる決意が浮かんでいて、その背中にはフツアの神が再び立ち上がったような力強さがあった。
ミアナが叫んだ。
「おねがい……わたしたちを守って!」
その声に応えるように、“じぇーじぇー”はこれまた頼もしく親指を立てて応えた。鋼の体が太陽の光を反射し、新たな戦いへの決意を示すかのように勇ましく光り輝く。
その雄姿はまさに、偉大な
ガイガン=レクス、メガロ=レジーナ。
遥か昔の『怪獣黙示録』の時代、人間の科学が創り出した恐るべきサイボーグ怪獣。シートピア・アーカイブスが繰り出してきた敵の戦力はまさに圧倒的、それらを前にして私の論理回路は急速に最適解を模索し始めた。
……しかし、どのようなシミュレーションを走らせても、現在の状態では勝利の可能性が見えてこなかった。理由は単純だ。身長60メートルのガイガンとメガロに対し、今の私は身長2メートル。相手になどなろうはずもない。
ただ立ち尽くしている私の腕に、ミアナが縋り付いて叫んだ。
「にげよう、“じぇーじぇー”、はやく!」
ミアナの言うとおりだ。ロボット三原則第三項に則るならば、私もまた自らの身を守らねばならない。現にフツアたちもそうしているし、ミアナとマイナも逃がしてやらねばならない。
……だけど、どういうわけか私はその場から動けなかった。逃げるのが最善策だとわかっている。なのにその場から動けないのだ。
……いや、違うな。
私は、より正確に表現すべきだった。
私の電子頭脳がより正確な答えを導きだしたとき、私は驚愕せずにいられなかった。なんと、私は
それは明らかに何かが間違っていた。なにをどう考えたって、私は逃げるべきだ。なのになぜ逃げない。
戦う? 馬鹿な。ガイガンもメガロも『怪獣黙示録』を勝ち抜いた歴戦の猛者、恐るべき強大なサイボーグ怪獣どもじゃないか。たかだか見世物でしかなかった私が叶うわけがない。
そこまでわかっていて、なぜ逃げない。なぜ逃げたくないんだ、私は。私の電子頭脳は答えの無い答えを探し求めて迷妄に嵌まり込み、ひたすらにヒートアップしてゆくばかりだった。私の思考は速度を増し、全ての計算が限界に近づいてゆく。
そのときのことだ、ミアナが叫んだのは。
「おねがい……わたしたちを まもって!」
その瞬間、私の中でひとつの“回路”が構築された。
ミアナの祈りが、私の電子頭脳の奥深くに眠っていた何かに触れたのだ。通常の戦闘プログラムが持つ冷静な判断ではなく、それを超えた激情。この激情は単なる命令ではなく、自発的な意思のようなものだった。守らなければならない、何としてでも。フツアたちを、マイナを、そしてミアナを、目の前の怪獣たちから守るために。
突然、私の電子自我の奥底で何かが弾けた。私の存在の奥底から湧き上がった「守らねばならない」という思いが、論理を超えて私の全回路に火を灯したのだ。
途端、私の身体が軋み始めた。
……通常、私のナノメタル超合金の構成は厳密に制御され、必要な限りの強度と柔軟性を保つように設計されている。これによって、最適なエネルギー消費で最大のパフォーマンスが得られるようにプログラムされている。しかし、今目の前に立ちはだかる敵は、その設計に基づく限界を遥かに超えていた。私の標準的な戦闘アルゴリズムは最適な戦術を導き出すことができず、分析は失敗を繰り返す。
しかしこのときこの瞬間この刹那、私の電子頭脳の中で新たな可能性が生まれた。
それは『ナノメタル構成のリミッター解除』という禁じ手。
ナノメタルは自己修復と自己再構成の機能を持っているが、その力をフルに引き出すことなど通常あり得ない、でなければ制御不能な事態を引き起こすリスクがある。私の電子頭脳の冷静な部分が、私にそうやって
だが、芽生えたばかりの“回路”が私に語りかける。
「今、この瞬間において、リスクを恐れることが本当に合理的か?」と。
私の論理回路がより冷徹に、そしてより厳密に分析を行う。ガイガン=レクスとメガロ=レジーナを打ち倒すためには、私のボディは現状の限界を超える必要がある。そのためにはナノメタルのリミッターを解除し、ボディの急速な巨大化を許容するしかない。これによりエネルギー供給が一時的に跳ね上がり、各部位の強度と柔軟性が飛躍的に向上する。
通常の運用では絶対に許されないであろうこの操作を、私は論理的に正当化する。なぜなら今この瞬間において、最大限のパフォーマンスが必要だから。
私はなんとしても守らなければならない、フツア族を。
かくしてリミッターが解除され、私の機体を構成するナノメタル超合金が自己再構成を開始する。私のボディが一瞬にして拡大し、質量とエネルギーが急速に増加する。センサーはこの変化をリアルタイムで感知し、私の視界が広がり、手足の動きが一層強力かつ精密になるのを感じる。内部構造が再編成され、エネルギー効率が最適化される一方で、外部の装甲が強化されてゆく。
私のサイズは拡大する一方で、地面を踏みしめる感覚が増していく。私の使命は明確だ。最大のパワーを持って、目の前の敵を殲滅すること。私の電子頭脳はそれを指示し、私の論理はその正当性を保証する。
……私の中に突如と芽生え、究極の進化を成し得たこの回路。
いわば、それは『良心回路』とでも呼ぼうか。
かくして身長50メートル、まさにゴジラ並みの巨大化を果たした私:ジェットジャガーは、スピーカーの大音量で台詞を生成した。
「しぃーばぁーらぁーくぅーッ!!」
「「!?!?」」
私から放たれた突然の咆哮に、ガイガン=レクスとメガロ=レジーナは明らかにたじろいでいた。当然だ、身長2メートルのロボットが唐突に50メートルまで巨大化した挙句、いきなり芝居がかった啖呵を切ったのだから。
けれど構うものか。むしろ奴らをこれで怯ませられれば、それだけ私が有利になる。そう鼓舞する良心回路に背を押され、私は高らかに名乗りを上げた。
「遠からん者は音に聞け、近くば寄って目にも見よ! 問われて名乗るもおこがましいが、知らずば言って聞かせよう! 身体は鋼、頭脳は電子、泣く子も黙る、黙る子も泣く! ジェットジャガーとは、私のことだアアッ!!」
そして私は両手を振るい、拳を固く握って仁王立ちした。背後にはミアナたちフツア族が、目の前には強敵ガイガンとメガロの極悪怪獣コンビ。
……シートピア・アーカイブスの尖兵どもめ。奴らにはこれから先、一歩たりとも通しはしない。迫り来る強敵たちに、私は躍りかかった。
「ここで会ったが百年目、いざ尋常に勝負……ッッ!!」
ジェットジャガー対ガイガン=レクス&メガロ=レジーナ。
この私:ジェットジャガーによる
良心回路で巨大化、やりたかったんですよね
次に読みたい話は?
-
魔法少女バトラちゃん
-
ゴジラ学会「エメゴジはゴジラではない」
-
新人ボクっ娘ウルトラ戦士、地球に赴任する
-
ポリコレ姫
-
カネゴンの繭リメイク
-
天体制圧用四次元炸裂兵器ブルトン
-
ガメラのおねえさんとツンデレショタ
-
ネガティブ星人の侵略
-
怪獣娘の島
-
ガラダマ遊星より愛を込めて
-
いいからラドンとガイガンの続き書けよ