ラスト スタンド オブ・ジェットジャガー 作:よよよーよ・だーだだ
私、ジェットジャガーの全システムは悲鳴を上げていた。
ガイガン=レクスの鋭い蛇腹剣レクスブレードが私の装甲を切り裂き、メガロ=レジーナの穿孔矛マグネイズドリライザーが私の胴を穿ち抉る。私はそれでも立ち向かおうとするが、鋼の身体は思うとおりに動いてくれない。駆動系、制御系、あらゆるすべてのシステムが限界に達しつつあった。
……だけど、それでも私の良心回路は命じている。フツアを、この星の人たちを守り抜けと叫んでいる。だから一歩たりとも下がる意志はない。
そんな私の苦闘ぶりを、シートピア・アーカイブスのヒギンズは嘲笑った。
〈ふん……まだ動くか、陰険ロボットめ。良心とやらに目覚めたようだったが、結局なんの意味も無く巨大化しただけだったな。さあ、この恥晒しの失敗作を抹殺しろ、ガイガン=レクス、メガロ=レジーナ!〉
ヒギンズの指令で、ガイガン=レクスとメガロ=レジーナが動き出す。
ガイガン=レクスの鋭いレクスブレードが私の手足を捕らえ、背後ではメガロ=レジーナが腕のドリライザーを唸らせる。今度こそ私は八つ裂き、あるいは串刺しだ。二大怪獣は息を合わせて必殺武器を振り上げ、私を仕留めにかかった。私は必死に身を捩ろうとするが、傷ついたボディは思うように動かない。
……すまない、ミアナ、マイナ。私が電子頭脳の片隅で詫びたその刹那。
黄金の風が、駆け抜けた。
背後から迫った巨大な翅の一撃に対し、ガイガン=レクスとメガロ=レジーナは咄嗟に反応できなかった。
彼奴らの間に割って入った黄金の風は、そのまま翅を使った巨大なラリアットを繰り出し、二体の怪獣を同時に吹き飛ばした。後頭部をしたたかに打ち付けられ、ガイガン=レクスとメガロ=レジーナはもんどりうって引っ繰り返る。
……なにが起こった? 私が各種センサーを凝らす中、黄金の風の正体は紐解けた。身に纏うは日輪のような黄金の光。大地を照らすその中心から現れたのは、伝説の守護神――
「……モスラ!」
極彩色の大怪獣、モスラ。かつての『怪獣黙示録』の時代でも人間たちのために戦い、人間と共存する調和の道を模索し続けた唯一の怪獣。優雅に舞い降りたその姿はまさに神話そのもの、偉大な守護神モスラが地球の危機に駆け付けてくれたのだ。
〈モスラだとぅっ……!?〉
モスラ参戦を前にしてヒギンズは驚いていたが、すぐに立ち直って憎々しげに唸った。
〈……ふ、ふん! 自立した真の文明化を妨げる、穢らわしい害虫め。我がシートピア・アーカイブスが誇る偉大なる文明の力を思い知るがいい……ッ!!〉
ヒギンズの命を受け、ガイガン=レクスとメガロ=レジーナが動き出す。狙うはモスラ。モスラの体長は36メートル、如何にも弱そうなモスラの方から潰すつもりらしい。
だが、モスラは一味違った。
モスラの翅が力強く動くたび、
かつてゴジラの放射熱線でさえ完封したという、強力な電磁鱗粉。その鱗粉がガイガン=レクスのプロトンスクリームキャノンを無力化した。火器を封じられたガイガン=レクスはレクスブレードでモスラを捕えようとするが、モスラはその動きを見切り、懐に潜り込んでカウンターを叩き込む。その衝撃で海面が盛り上がり、ガイガン=レクスは大きく後退した。
次に、メガロ=レジーナがモスラに向かって攻撃を仕掛けた。口から放つメガロ・ナパームの乱射。爆炎のナパームでモスラを撃ち落とすつもりだろう。
「……ッ!」
しかしモスラはものともしない。無数に飛び交うナパーム弾幕を巧みな機動で素早く躱し、翅を広げて空高く舞い上がった。そして急降下、メガロ=レジーナに全力全開の体当たりを繰り出す。咄嗟に両腕でガードするメガロ=レジーナだったが、その衝撃でメガロ=レジーナの肩装甲が砕け飛んだ。
二大怪獣相手に、まったく引けを取らない雄姿。モスラが勇ましく咆哮を上げた。
「――――――――――ッ!!」
黄金の光を周囲に放ち、ガイガン=レクスとメガロ=レジーナを威嚇するモスラ。たじろぐ強敵どもを一瞥したあと、モスラは私へ振り返る。私を見つめる深い海のような青い瞳、その目線はこのように語っていた。
「――共に戦おう、ジェットジャガー!」
……ああ、了解だ!
私がサムズアップで答えた途端、私の良心回路が再び活性化し、ボディの内部に新たなエネルギーが流れ込む感覚がした。モスラの電磁鱗粉が空中を舞い、光の粒子が一帯を黄金の輝きへと包んでゆく。
モスラは再び急降下し、メガロ=レジーナの後頭部に巨大な翅を打ち付けた。モスラ必殺、ボンバーラリアットだ。その衝撃でメガロ=レジーナは後方に弾き飛ばされ、海面に大きな波が立った。
相棒を援護しようと、ガイガン=レクスは再びプロトンスクリームキャノンを撃ち込もうとする。とっさに身構える私の隣で、モスラが吼えた。
「まかせて!」
モスラが翅を大きく羽ばたかせ、電磁鱗粉を大量に撒き散らした。電磁鱗粉の弾幕、濃厚なチャフがプロトンスクリームキャノンの射線を包み込み、ビームの軌道をねじ曲げる。爆発的な衝撃波が周囲を襲い、その余波で砂浜が吹き飛ばされた。
暴発したプロトンスクリームキャノン、怯んだガイガン=レクスの眼前へモスラは素早く躍りかかる、足のカギ爪で顔を引っ掻き回す。乱れ引っ搔きで顔面を潰されてまたしても怯むガイガン=レクス、モスラはそのまま奴の胸倉を掴み上げて投げ飛ばす。
目の前の敵にも怖じけることなく立ち向かう、モスラの戦いぶりには一切の躊躇も容赦もない。勇猛にして果敢、優雅にして圧倒的。まさに戦乙女、守護神と呼ぶにふさわしい。
……けれど、戦局は覆らなかった。
〈たかがムシケラとガラクタが……偉大なる文明の歩みを邪魔するんじゃアないッッ!!〉
苛立つヒギンズの怒号、メガロ=レジーナが動き出した。
額のマグネイズホーンを光らせて、メガロ=レジーナは再び引力光線を放つ。撃ち放たれる強大な磁場の稲光、しかし次にメガロ=レジーナが狙ったのは私ではなかった。
「モスラ……ッ!」
モスラは咄嗟に躱そうとしたが、メガロ=レジーナが放った引力光線は彼女の機動を正確に追尾し、その美しい翅へと絡みついた。全身を縛り上げられて囚われるモスラ。
一瞬の隙。そこで動き出したのはガイガン=レクス、彼奴は今度はモスラめがけてプロトンスクリームキャノンを発射した。
モスラは懸命に翅を羽ばたかせ、撒き散らした電磁鱗粉でビームを防ごうとする。
「……!」
しかし、ガイガン=レクスはさらに一歩、歩み出た。ビームの軌道を微妙に変え、鱗粉の防御をすり抜けてモスラの翅へを狙い撃ったのだ。
凶悪無慈悲な荷電粒子ビームが、モスラの翅を撃ち抜いた。
「――――――ッ!!」
響き渡る、モスラの悲痛な悲鳴。美しい翅が灼熱のビームで瞬く間に燃え上がる。
「モスラ……ッ!」
私はすぐさまモスラのもとへと駆け寄ろうとしたが、そこへメガロ=レジーナが立ちはだかった。両腕のドリライザーが私に向かって振り下ろされ、私はその衝撃をすぐさま受け止める。鋭い刃が私の装甲を貫き、全身に電流が走る。
私は後退しながらも、何とか体勢を立て直そうとする。しかし、メガロ=レジーナの猛攻はなおも止まらない。間断なく撃ち込まれる、メガロナパームの乱れ撃ち。次々と私に直撃する爆炎、内蔵システムが次々と警告音を発する。
そしてガイガン=レクスは、再度プロトンスクリームキャノンの発射準備を整えていた。今度はフルチャージ、今度こそモスラを始末するつもりのようだ。
……その刹那、私はモスラと目が合った。
プロトンスクリームキャノンの猛火に焼かれながら、モスラが私に向けて静かに視線を送っていた。私をちらと見た深い青の瞳はまるで何かを決意し、そして覚悟したかのようで。
モスラは、穏やかな微笑と共に私へ告げた。
「……フツアたちのこと、よろしくね」
そう告げるや否や、モスラは最後の力を振り絞って広大な翅を広げた。その翅から放たれる光が一層強くなり、周囲を眩しいほどの輝きで包み込んでゆく。
……まさか。私はメガロ=レジーナの猛攻も振り切り、全駆動システムをフル稼働させながら、決死のモスラへ手を伸ばす。
「……!」
だが、あと一歩、届かなかった。
撃ち出されるガイガン=レクスの荷電粒子ビーム、フルパワーのプロトンスクリームキャノン。真紅の閃光が空を裂き、モスラの体を貫く。彼女の美しい鳴き声が絶叫に変わり、その華奢な体が炎に包まれた。
「――――――ッ……!」
砕け散るようなモスラの悲鳴は、大気を焼く荷電粒子ビームの爆音にかき消された。プロトンスクリームキャノンがモスラの体を焼き尽くし、その壮大な翅が、華奢な身体が、慈悲を湛えた青い瞳と穏やかな表情が劫火へと包まれる。
その様を呆然と眺めている私に、ヒギンズの哄笑が届いた。
〈わーははは、どーだ! これが我が文明の力だ……ッ!〉
ヒギンズの勝ち誇る声が響く中、力強くも美しかった極彩色の怪獣モスラは、燃え盛る炎へと崩れ去ろうとしていた。彫像が粉々になるように膨大な光の中で散り、輝く灰となって、そして儚く消えてゆく。
「モスラが、負けた……!?」
そのときのわたし:マイナの声は震え、かすれていただろう。心の中で繰り返し、その現実を受け入れることができないまま、わたしたちフツア族は呆然とその場に立ち尽くしていた。
……かつてゴジラをも打ち負かし、『怪獣黙示録』でさえ勝ち抜いたわたしたちフツアの守護神、モスラ。その彼女がまさか敗れるなんて。
「そんな……!」
モスラが壮絶に散った瞬間、わたしたちフツアの心は深い絶望に沈んでいた。わたしたちの最後の希望は、わたしたちの目の前で、炎に包まれて消えていったのだ。
けれど、絶望に暮れている余裕さえ、与えられてはいなかった。
「ガイガン=レクスと、メガロ=レジーナが……!」
村人の誰かが声を挙げた。見ると、ガイガン=レクスとメガロ=レジーナは“じぇーじぇー”へと向かっていた。モスラを排除した今、邪魔する者はいない。シートピア・アーカイブスは“じぇーじぇー”をゆっくり料理するつもりでいるらしい。
そして“じぇーじぇー”もまた、限界を迎えていた。
「…………っ」
鋼の体は無数の傷で覆われ、悲鳴のような軋みを上げ、その動きも明らかに鈍くなっていた。傷つき、消耗し、その場に膝を突こうとする“じぇーじぇー”の姿は、まさに戦士としての命が尽きようとしているかのように見えた。ここで終わってしまうのか――そんな絶望感に飲み込まれ、わたしはただ立ち尽くす。
しかし、その時だった。
「マイナ、見て……っ!」
ミアナが指差した方向を見ると、わたしは信じられない光景に目を奪われた。
……モスラが燃え尽きたはずの場所、その宙に、無数の黄金の粒子が漂っていた。その光の粒は星屑のように煌めきながら風に身を任せて漂い、そして次第に“じぇーじぇー”のもとへ。
わたしたちはすぐに思い至った。
「まさか、モスラが……!?」
……モスラはただ死んだのではない。
わたしたちの守護神はそのエネルギーを、命を、希望を、すべて“じぇーじぇー”へと託そうとしていた。黄金の粒子は流星のごとく“じぇーじぇー”の全身に降り注ぎ、彼の身体を包み込んでいく。
モスラの意志は今、“じぇーじぇー”へと受け継がれようとしていた。モスラ最後の武器:鱗粉のエネルギーが、“じぇーじぇー”を新たな戦士として生まれ変わらせてゆく。
「見て、“じぇーじぇー”が……!」
ミアナが小さく呟くのを聞きながら、わたしもその奇跡の光景に目を奪われていた。
“じぇーじぇー”の目が新たな力を得たかのように赤く光り、その巨体が徐々に黄金のオーラに包まれていく。その光は温かく、力強く、まるで命そのものが再び芽吹くようで。
「モスラ……ありがとう……」
ミアナが震える声で呟き、わたしも目頭が熱くなるのを感じた。モスラは最後の瞬間までわたしたちを守ろうとし、そしてその全ての力を“じぇーじぇー”に託してくれた。
モスラは、“じぇーじぇー”に賭けたのだ。
……わたしたちの希望は、まだ消えていない。
モスラの想いを受け継いで、そしてわたしたちフツアの希望も背に載せて。
その姿はまさに『希望』。黄金の輝きに満たされた“じぇーじぇー”は、強敵たちへと立ち向かってゆく。
「……ッ!」
ガイガン=レクスとメガロ=レジーナは眼前で起こった“奇跡”を前に怯んでいたが、すぐさま気を取り直して再び“じぇーじぇー”へ襲いかかった。
だが、奴らの攻撃は、今の“じぇーじぇー”にはまるで通用しなかった。
まず振り下ろされたガイガン=レクスのレクスブレード、“じぇーじぇー”はその刃を片手で易々と受け止めた。慌てて引こうとするガイガン=レクスだったが、今の“じぇーじぇー”の握力は到底振り解けない。そんなガイガン=レクスを見据えながら、“じぇーじぇー”は力を込めて握り締める。
そして。
「……ッ!」
耳を突くような、鋭い金属音。それが響き渡った途端、ガイガン=レクスが悲鳴を上げた。黄金のレクスブレードが握り潰され、砕け散ったのだ。
圧倒的な“じぇーじぇー”の力に、わたしたちは息を飲んだ。
「うそ……!」
「すごい……!」
続けて“じぇーじぇー”の拳が炎のように輝き、圧倒的な力でガイガン=レクスの胸部に叩き込まれた。この断崖まで届くほどの衝撃波が炸裂し、ガイガン=レクスの巨体が弾き飛ばされ、海面へと激しく叩きつけられた。
「きゃっ!?」
「水がっ!?」
水柱が轟音を伴って空高く舞い上がる。この断崖まで降り注いでくるほどだ。
次に、メガロ=レジーナが咆哮を上げながら、ドリライザーを回転させて突っ込んできた。大地をも打ち砕く猛烈な一撃が、“じぇーじぇー”へと襲い掛かる。
けれど、“じぇーじぇー”はこれも容易くいなした。メガロ=レジーナの破れかぶれな乱れ突きを軽々とかわし、逆にその腕を掴みとる。
「……ッ!? ……ッ! ……ッ!!」
「…………。」
怪力自慢のはずのメガロ=レジーナ、けれど今や“じぇーじぇー”に掴まれたその腕はびくともしない。メガロ=レジーナの腕が徐々に歪んでゆき、苦痛の呻きを上げ、金属が軋む音が響き渡る。
ごきん。鈍い音が響き、メガロ=レジーナが哀れな絶叫を上げた。
見ると、メガロ=レジーナの腕が異様な方向へねじ曲がっていた。“じぇーじぇー”が、メガロ=レジーナの腕をへし折ったのだ。
続けてガイガン=レクスが立ち上がった。卑怯者め、背後から“じぇーじぇー”を狙う気だ。わたしは咄嗟に声を挙げた。
「危ないっ、“じぇーじぇー”!」
だが、“じぇーじぇー”は見逃さなかった。
“じぇーじぇー”は水を切りながら飛び上がり、黄金に輝く竜巻のような旋風脚がガイガン=レクスの顔面へと叩き込まれた。
“じぇーじぇー”の必殺カウンター・キック。その直撃を受けたガイガン=レクスの顔面が頭ごと爆裂、機械仕掛けの脳漿を飛び散らせながら吹っ飛ばされた。
頭を粉砕されたガイガン=レクスはそのまま力を失い、海中へと没していった。
「~~~~~~ッ!!」
一方、完全に戦意を喪失したメガロ=レジーナは後退、つまり逃げ出そうとした。
けれど正義の怒りに燃える“じぇーじぇー”は容赦しない。“じぇーじぇー”はメガロ=レジーナの巨体を持ち上げ、そのまま渾身の力でもって海面へと叩きつける。衝撃で大地が震え、海面からは壮絶な水柱が立ち上がった。
それでも這う這うの体で逃げ出そうとするメガロ=レジーナ。だけど“じぇーじぇー”は決して許さない。
黄金に輝く、正義の鉄拳。
悪者どもに猛烈パンチだ。
拳が衝突した瞬間、メガロ=レジーナの重装甲が打ち破られて爆発的な閃光が巻き起こった。
メガロ=レジーナのボディが内側から崩壊していくのが見えた。“じぇーじぇー”から流し込まれた爆熱のエネルギーがメガロ=レジーナの体内で暴発し、巨大な爆炎が奴を飲み込んだのだ。
そして吹っ飛ぶ衝撃。メガロ=レジーナの巨体は爆発四散し、粉々に砕けた残骸が遠浅の海へと散っていった。
わたしとミアナは、声を合わせて飛び上がった。
「やった!」「やったあ!」
ミアナが涙を流しながら叫び、わたしも胸の中で湧き上がる歓喜を抑えることができない。フツアの村人たちもそうだ、“じぇーじぇー”の大勝利を前にして皆一斉に歓声をあげて喜んだ。
“紅い暴君”ガイガン=レクス。“黒い女帝”メガロ=レジーナ。シートピア・アーカイブスの刺客どもは、ついに敗れたのだ。宇宙怪獣、怖くない。海底怪獣、コテンのパーである。
「“じぇーじぇー”、ありがとう!ありがとう……!」
ミアナが涙を拭いながら声を張り上げると、“じぇーじぇー”はゆっくりとわたしたちの方へ顔を向けた。その表情は相変わらず笑顔なんだか怒っているんだかよくわからなかったけれど、そこに籠められているものはなんとなくわたしにもわかった。
勝利の喜び。
「……!」
そして“じぇーじぇー”はその巨大な拳を掲げ、断崖で手を振っているわたしたちフツアに向かって力強く親指を立てた。いつもお決まりのサムズアップ、“じぇーじぇー”勝利の決めポーズ。
わたしもまた素直に、想いを口にした。
「ありがとう、“じぇーじぇー”……!」
全ての恐怖と絶望が吹き飛び、わたしたちはただ純粋に勝利を喜び合う。“じぇーじぇー”がわたしたちを守ってくれたこと、その力強い姿に心から感謝した。
……しかし、その喜びは束の間でしかなかった。
突如、地平線の彼方から響き渡る重低音のような轟音が、わたしたちの耳をつんざいた。その音は大地そのものが唸りを上げているかのようで、辺り一帯が震えるのを感じた。
ミアナとわたしは、瞬時にその方向へと目を向けた。
「何、何が起きているの……?」
振り返って遠くを見た途端、歓喜に包まれていたわたしたちの心は一瞬にして凍りついた。
……遥か遠くの地平線に、無数の黒い影が動いているのが見えた。最初はそれが何であるか理解できなかった。だが徐々に迫ってくるにつれ、その正体が明らかになった。
「まさか……そんな……!」
その正体は、ガイガン=ミレースの軍団。
先日、フツアの村を襲った奴と同型の怪獣。その数は数えきれないほど。
無数のガイガン=ミレースが一糸乱れぬ隊列を組み、まるで黒い波が押し寄せるようにこちらへ進軍していた。その数は圧倒的、広がる先は視界の限りまで。
「こんなに……!」
わたしはその光景に息を呑み、全身が硬直するのを感じた。
ガイガン=レクスとガイガン=ミレース、両者にどれだけ差があるのかは知らないけれど、これだけの物量作戦が相手ではもはや問題にならない。先ほどの戦いでさえ、命を賭けた壮絶なものであった。それが終わったと思ったのも束の間、今度はその数十倍、いや数百倍もの敵が押し寄せてきているのだ。
「どうして……こんな……!」
ミアナが震えながら呟いた。普段は楽天家で能天気なミアナの顔にも、わたしと同じく恐怖と絶望が浮かんでいた。わたしたちはただ、立ち尽くすことしかできない。
今の“じぇーじぇー”がどんなに強くても、この圧倒的な数を前にしてはどうしようもない。敵の数はまさに無限大に見え、わたしたちの希望が再び打ち砕かれるのを感じた。
ガイガン=ミレースの軍団は止まることなく進み続け、地平線がその黒い影で埋め尽くされてゆく。
戦いはまだ、終わっていなかった。わたしはとうとう、絶望の呟きを漏らしてしまった。
「もう、おしまいだわ……」
これで、終わりだ。
シートピア・アーカイブスの海底基地にて、その首魁であるアントニーオ=ヒギンズは勝利の美酒を味わうかのように、冷徹な笑みを浮かべていた。
ヒギンズの視線は、モニターに映し出される光景へと注がれている。
「ふん、野蛮人どもめ……散々てこずらせおって」
……切り札とも言うべきガイガン=レクスとメガロ=レジーナが敗れたのは、たしかに計算外ではあった。しかし、シートピア・アーカイブスが切れる手札はそれだけではない。海底から産出できる地下資源を無尽蔵に使うことが出来るシートピア・アーカイブスには、まだまだ余裕がある。
ガイガン=ミレースだけじゃない。核兵器はもちろんのこと、エーテル破壊爆弾、ディメンション・タイド、オルカ、メカゴジラ=シティ、そしてオキシジェンデストロイヤー……地上を『文明化』するために利用できる
「……もっとも、これだけの物量差を見せつければ、自ずと向こうも『文明的』に屈するだろうと思うがね」
ガイガン=ミレースの大軍が押し寄せる中、ジェットジャガーは孤独に立ち向かおうとしていた。その姿は勇敢であった。
だが、無謀でもあった。
「まだ立ち向かうか……道理のわからぬ、非論理的な
そう嘲笑うヒギンズの目には、ジェットジャガーが最後の抵抗を試みる姿が映っていたが、それは無意味な足掻きに過ぎないと確信していた。すでにフツア族の連中も絶望に沈み、その戦意は消えかけている。
「……マイナとミアナ、小生意気な小娘どもめ。私の“啓蒙”を受け容れてさえいれば、こんなことにはならなかったろうに」
ふん、ざまあみろ。
そうやってアントニーオ=ヒギンズは薄ら笑いを浮かべながら、電子頭脳の中でシートピア・アーカイブスが夢描く「文明化」計画の全貌を再確認していた。
……シートピア・アーカイブスが誇る資源と技術力は、まさに地球の未来を左右する力だ。その手中にある兵器やツールの数々は、単なる破壊のための道具ではない。それらは、地上世界に再び「秩序」をもたらすための手段。荒廃した地球上に再び文明の灯を灯すことこそが、ヒギンズたちシートピア・アーカイブスの最終目標だった。
文明化……そうだ、それが必要だ。
「地上の野蛮人どもは、かの文明がどれほどの犠牲と決断によって築かれたかを理解していない。だが彼らもいずれはその恩恵を享受することになるだろう、私が導きさえすれば」
ヒギンズの視線は、再びモニターに映し出された戦場へと戻る。
ジェットジャガーが必死に戦おうとする姿は、シートピア・アーカイブスの中枢システムにとっては滑稽でしかなかった。あんな時代遅れの古臭いロボットが、この壮大な計画を阻むのが不可能であることなど明白だ。偉大なる文明の力を振るうシートピア・アーカイブスにとってヒーローショーの見世物ロボットなど、道端に転がったつまらない小石に過ぎない。
ヒギンズの思索は続いた。
「地球は我々の手で救われる。かつての栄光を取り戻すのは、このシートピア・アーカイブスしかない。文明が再び繁栄し、秩序が保たれる社会を築くためには、まず旧時代の遺物や野蛮な存在を完全に駆逐しなければならない」
シートピア・アーカイブスの計算機が描いた未来図は鮮明だった。
まずは量産型サイボーグ怪獣やロボットの大軍が道なき道を切り拓き、地上に蔓延る怪獣どものあらゆる抵抗を打ち砕く。その後、地上の野蛮人どもの集落を『文明化』し、次にそれを周辺地域へ広げていく。そしてシートピア・アーカイブスの兵器と技術が世界を制圧する。
もはやモスラごとき怪獣どもは問題ではない。シートピア・アーカイブスの技術は、あんな奴らを圧倒する力だって持っている。
「そして、その黄金時代を支えるのは私たち、シートピア・アーカイブスの
シートピア・アーカイブスの中枢システム、アントニーオ=ヒギンズ。その脳内には、壮大な未来が広がっていた。
その未来では人間は感情や迷信から解放され、純粋な理性と科学によって支配される世界が実現されている。シートピア・アーカイブスのシステムはそのビジョンに酔いしれ、自らの手でその未来を築くことこそが、自分たちの使命であると確信していた。
……しかし、シートピア・アーカイブスが夢見たその未来は、思いもよらぬ形で断たれることになった。
シートピア・アーカイブスの基地に突如、激震が走った。
……何事だ!?
ヒギンズは即座に状況を確認するため、警戒システムを操作した。各種センサー、そしてモニターが切り替わり、基地周辺の海域が映し出される。
……暗く深い海の底、海溝の裂け目へ沈み込むプレートテクニクス。その狭間から巨大な“影”がゆっくりと這い上がってくるのが映っていた。鼻先から尾まで全長は100メートル以上、推定体重はおよそ1万トン近く。岩盤よりも頑強な黒い岩肌に、尖った背鰭はまるで王冠のようだった。
海水を激しく煮立たせながら浮かび上がる、その威容。それは紛れもなく……
「ご、ゴジラだとぅっ……!?」
怪獣王ゴジラ、復活す。
考えうる中で最悪の存在、シートピア・アーカイブスにとっての最大の脅威が今ここに現れたのだ。
「…………ッ」
唸りながらシートピア・アーカイブスの基地を見つめるゴジラ。その目線は冷たくも、底無しの怒りに燃え滾っている。今のゴジラがシートピア・アーカイブスそのものを標的にしているのは明らかだった。
……バカな、なぜ今になって。ヒギンズは動揺しつつも、即座に対応した。
「ゆ、ゆけえっメガロ! ゴジラをやっつけるんだ……っ!」
シートピア・アーカイブスから出撃したのは〈メガロ=プラエトリアニ〉。拠点防衛に特化した親衛隊:praetoriani、つまりメガロ=レジーナの量産型だ。あっという間に、ゴジラは十数体のメガロ=プラエトリアニに取り囲まれた。これだけの物量差、いくらゴジラであろうとも……。
だが、ゴジラはなおも圧倒的だった。
メガロ=プラエトリアニは一斉に突きを繰り出し、自慢の鋭利なドリライザーがほぼ同時にゴジラの体を貫こうとする。しかし、ゴジラは微動だにしない。懸命に攻撃を続けるメガロ=プラエトリアニたちと、それを見つめるゴジラの冷ややかな目つき。ゴジラは、メガロ=プラエトリアニのささやかな攻撃を物ともしていない。
やがてゴジラは、地響きのような唸り声を上げた。
「~~~~~~~~ッ!」
次の瞬間、ゴジラの背鰭が青白く光ったかと思うと、その鼻先から線状光が迸った。ゴジラ必殺、放射熱線の一斉掃射だ。
連鎖する爆発、粉々に吹き飛ぶメガロ=プラエトリアニ。ゴジラの放射熱線は、海底の全てを根こそぎ焼き尽くすかのように、メガロ=プラエトリアニたちを次々と爆砕していく。かくして十数体のメガロ=プラエトリアニの防衛軍は、あっという間に全滅してしまった。
……まさに、圧倒的。その光景はまるで、大自然の驚異を前にした文明の無力さを、シートピア・アーカイブスに思い知らせているかのようだった。
「ば、バカな、こんなはずが……!?」
……かつて滅ぼしたはずの地球文明の遺産。それを野放しにすることなど、『怪獣黙示録』の覇者であるゴジラが赦しておくはずなどなかった。
地球人類が技術の粋を集めて造り上げた隠蔽技術は、ゴジラの目さえも騙しとおすことに成功していた。以来、気の遠くなるほど長い年月をかけてゴジラはシートピア・アーカイブスのような前時代の遺産を虱潰しに探し続けていた。
そして今回のフツアへの侵略行為は、シートピア・アーカイブスにとっての命取りになった。本来ならば未来永劫ずっと地球の海底で息を潜めていれば、ゴジラに尻尾を掴まれることなど無かったはずだった。
つまりシートピア・アーカイブスは、自らの首を自ら締めたのだ。
「まさか、そんな……!?」
予想外の展開で狼狽えているアントニーオ=ヒギンズを、眼前へと迫ったゴジラが見下ろした。ギロリ。平和を乱す巨悪を見据えるその表情は、まさに憤怒の形相。
「…………ッ!!」
「ひ、ひぃ……っ!?」
正真正銘、本物の破壊神から睨みつけられ、アントニーオ=ヒギンズは骨身――とはいえ彼もロボットだからいささか奇妙であったが――から竦み上がるような心地を覚えた。そうして追い詰められた最期の最後になって、アントニーオ=ヒギンズはこれまでの自身に何が欠けていたのかをようやく理解した。
他者を尊重し、受け容れる謙虚さ。
過去ではなく、今を生きること。
そして何より、リスペクトだ。
「……ま、待て、待ってくれ!」
もはやシートピア・アーカイブスを守ってくれるものなど何もない。泡を喰ったアントニーオ=ヒギンズ、シートピア・アーカイブスの意思は、あろうことかゴジラへ死に物狂いで懇願した。
「わ、わかった! 私たちが悪かった、フツアのこともリスペクトしようっ、怪獣どもとだって共存路線だっ! ここは穏便に、そして
……だがもう遅い、手遅れだ。
文明のアンチテーゼ、その化身たるゴジラは、如何にも『文明的』なシートピア・アーカイブスの説得になど耳を貸すはずもなかった。
そんなこともわからないまま、シートピア・アーカイブスは『文明的』な命乞いを続けた。
「私は、私たちシートピア・アーカイブスは、偉大なる文明を、栄光を、そしてこの星を継ぐものだ! ゴジラ、そもそも貴様はなぜ我々を憎むのだ!? よせ、やめろ、今ここで、私たちはっ、こんなところで滅びるわけにはいかない……」
だから、だからっ、だから待てえええッッ……!!
シートピア・アーカイブス末期の言葉を、ゴジラは最後まで聞かなかった。背鰭に怒りの雷光を迸らせ、エネルギーを集束、怒れるゴジラは容赦なく放射熱線を撃ち放つ。
響く轟音。
瞬時に沸騰する膨大な海水。
そして深淵の闇でさえも照らし出す、裁きの光。
瞬間百万度に達するほどの爆熱、地球の岩盤さえ刳り貫くほどの破壊力を誇るゴジラ必殺の放射熱線。その直撃を前にシートピア・アーカイブスの海底基地などひとたまりもなかった。海底のシートピア・アーカイブスは断末魔の悲鳴を上げる間もなく、崇高な使命もろとも根こそぎ焼き尽くされてしまった。
灼熱地獄と化した深海で、ゴジラ勝利の雄叫びが響き渡る。
「――――――――――――…………ッ!」
シートピア・アーカイブスと共に完全に消え去った旧人類文明、その最後の遺産。
……その哀れな末路を知る者は地球上、いや全宇宙で一人もいなかった。
プラエトリアニは、古代ローマ帝国における「親衛隊」のこと。
好きなキャラは?
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ジェットジャガー
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ミアナ
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マイナ
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アントニーオ=ヒギンズ
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クモンガ
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ガイガン=ミレース
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ガイガン=レクス
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メガロ=レジーナ
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モスラ