ラスト スタンド オブ・ジェットジャガー 作:よよよーよ・だーだだ
戦況が変わったのは、突然のことだった。
海の方から続々と迫りくる、ガイガン=ミレースの大軍団。しかし、その毒牙をわたしたちフツアへ掛けようとした寸前で動きを止めた。
「……停まった?」
誰かがそう呟くと同時に、ガイガン=ミレースたちの巨体は一斉に崩壊し始めた。
まるで悪夢が終わりを告げたかのように地面に散らばって、そしてまるで子供が作った砂のお城が風に吹かれて崩れ落ちてゆくのように。わたしたちの目の前で崩れ去った敵の残骸は脆くも形を失い、やがてさらさら消えてゆく。
そのとき、誰かがこう呟いた。
「……勝った、ってこと?」
その言葉が村人たちの間に広がると同時に戦いの緊張が一瞬にして解け、やがて静かな歓声が湧き上がった。
そんな中、遠い潮騒の彼方から重い足音が響いてきた。
「……!」
ゆっくりと、しかし確実に近づいてくるその音は、まるで戦いの終結を知らせるかのよう。やがて廃墟と化した大地を背景に、“彼”の姿が現れた。
……壮絶な戦いを終えた“彼”の姿は満身創痍、まさにボロボロだ。その鎧の素肌には深い傷が刻まれ、あちこちから煙が立ち上っている。それでも彼は堂々と立ち、ゆっくりとわたしたちフツアの村へと歩み寄ってくる。
村の皆が動き出すよりも真っ先に、駆け出したのはミアナだった。“彼”の下へと駆け寄りながら、ミアナは声を張り上げて叫んだ。
「……“じぇーじぇー”!!」
ガイガン=ミレースどもの巨体が海中に没してゆく様子を見届けてから、やっと安堵の感情が私の回路を駆け巡った。フル稼働していた良心回路が機能を停止し、私は即座に元の大きさへと戻ってゆく。
……私の使命は果たされたのだろうか。その問いの答えは、即座に聞こえた声から得られた。
「――――!」
「~~~~――!」
「~~~~~~~~!」
……周囲から歓声が聞こえる。フツアの村人たちが私の周りに集まってきているようだ。彼らの顔には喜びと安堵の表情が浮かんでいる。村人たちが歓声を上げている。彼らの歓喜に満ちた笑顔が、私の光学センサーに映る。
やがてフツアの村人たちは歓喜の輪を広げ、私を中心にして踊り始める。誰もが笑顔を浮かべ、勝ち取った平和を謳歌していた。
「~~~~♪♪」
……そうだ、フツア族は救われた。これこそが私が守るべき世界だったのだ。それを今、ようやく実感できた気がする。私の存在意義は、まさにこの時この瞬間のためにあったのだと。
……だが、それを堪能できる時間があまり残されていなさそうなのは困った。
私は漏出を続ける駆動系のエネルギーを何とか維持し、膝からよろめきそうになるのを必死に堪えていた。ひずんだ装甲と関節がミシミシと音を立て、今にも自壊して倒れそうになる。
そんな中、私のセンサーは遠くから駆け寄ってくる二人の存在を捉えた。
「じぇーじぇー!」
ミアナの声だ。振り返ると、ミアナとマイナが私に向かって抱き着いてきた。本当は私も、彼女たちを優しく抱き締めてやりたかった。だが、もうこの機体は思うように動いてくれそうにない。
そうとも知らずミアナとマイナは、心から嬉しそうな様子で私に告げた。
「みんな、たすかったの!」
「じぇーじぇーのおかげ!」
ミアナとマイナの声を聞きながら、私の視界が赤く染まり始める。システムからの警告が次々と点滅する。エネルギー残量、危険域。構造破損、危険域。機能停止まであと60秒――。
それでもなんとか立ち続けようと踏ん張る私の様子に、二人も勘付くものがあったようだ。
「……だいじょうぶ?」
「いたくない?」
そう問いかけるミアナとマイナの声には、気遣いが滲んでいた。
……大丈夫、平気だ。私はそう言って彼女たちを安心させてやりたかったが、ただかすかに首を横に振ることしかできない。
なんとか頷いた私に、ミアナとマイナは少し安堵したようだった。
「よかった……じぇーじぇー、あなた、すごいよ!」
「ありがとう、じぇーじぇー。みんなを まもってくれて、ありがとう」
ミアナとマイナの言葉が、私の中で温かな感情を呼び起こす。
……かつて時代に取り残され、忘れ去られ、そして一人置き去りにされることになった私。ただの見世物ロボットだった私。そんな私がこんなふうに人間から感謝されることなど、かつては夢にも思わなかった。
……ミアナ、ありがとう。マイナもありがとう。フツアの人たち、ありがとう。君たちが教えてくれたんだ、私が本当に守るべきものを。
「じぇーじぇー……?」
ミアナの不安そうな顔が、私の視界に入った。
……大丈夫だよ、ミアナ。そう答えてやりたかったが、音声出力装置はもう機能していなかった。
その様子でミアナたちも察したようだ、今の私が限界を迎えていることに。
「じぇーじぇーっ!!」
ミアナの叫び声が聞こえた。
申し訳ない、ミアナ。もう立っていられそうにない。私の動力系および駆動制御系が一斉に限界に達し、私はとうとう膝から崩れ落ちた。地面に倒れる衝撃で、残っていた機能のいくつかが停止する。
……シートピア・アーカイブスとの戦いで私が受けたダメージは致命的なものだった。ボロボロになった装甲と関節、ありとあらゆるところからスパークが散り、あちこちから黒煙が立ち昇る。ナノメタルの自己修復でも追い付かない、もはや復旧は不可能だろう。
つまり私はこれから機能停止、死ぬ。
「じぇーじぇー! おきて! おねがい!」
ミアナの泣き声が聞こえる。彼女の小さくも温かい手が、私の冷たいナノメタル超合金ボディへと触れる。
システム停止まであと30秒。私はかろうじて動く腕を伸ばし、ミアナの頬を優しく撫でた。
「……っ!」
私はこれから永遠に動かなくなる。その現実を、ミアナとマイナは直感で感じたようだった。
私を見つめるミアナとマイナのつぶらな両目に、大粒の涙が浮かんでいるのが見えた。なぜだろう。私たちは勝ったはずなのに。
「じぇーじぇー! いかないで! いっしょにいて!」
「…………っ」
そうやって激しく泣きじゃくるミアナと、そんなミアナの隣でじっと涙を滲ませているマイナ。
……ごめんよ、ミアナ。私だって、本当は君ともっと一緒に遊んでいたかった。マイナもありがとう、君はちょっぴり意地っ張りなだけで、本当はとても優しい子だったんだね。
「なおせる! きっとなおせる! だから、だから――ッ!」
ミアナは必死に声を張り上げていたが、私は首を横に振って応えた。もう元に戻れないことは分かっている。
でも、それでいい。私は彼女たちを守れた。それだけで、十分だ。
「そんなの、そんなこと、いわないでよ……!」
……だから、どうかもう泣かないでほしいんだ。天真爛漫な君には、楽しい笑顔が一番似合うから。
15秒。周りの景色が霞んでいく中、最後のエネルギーを振り絞って、私はミアナに向かって親指を立てて見せた。
「――――ッ」
……それはかつてヒーローショーでも数え切れぬほど繰り返してきた、私の決めポーズ。そして、これが私にできる最後の“ファンサービス”だ。
それを目にしたミアナの泣き顔が、一瞬だけ綻んだ。
「……っ!」
5秒。五感を支える各種センサーの機能が限界を迎え、私の意識が暗くなっていく。システムシャットダウンの警告が点滅する。
その中で最後に私が見たのは、泣き笑いを浮かべるミアナの顔だった。
「じぇーじぇー……ありがとう……」
0秒――。
その言葉を最後に、私の意識は永久の闇へと沈んでいった。それは、永遠の眠りへの入り口。
さようなら、ミアナ。
さようなら、フツアのみんな。
そしてさようなら、わたし。
こうして私、JJ-23Xジェットジャガーは完全に機能を停止したのであった。
シートピア・アーカイブスとの戦いから数か月後、わたしたちフツアの暮らしは以前と変わりなく平穏に続いていた。森に出て狩りをし、村人同士で互いに協力し合い、この自然と共に生きてゆく。
ただ、変わったこともいくつかある。
まずは“じぇーじぇー”のこと。戦いのあと“じぇーじぇー”の体は、わたしたちフツアの村へと運ばれて祭壇に祀られた。
命懸けの捨て身でわたしたちフツアの村を守り抜いてくれたヒーロー、“じぇーじぇー”。そんな彼のためにしてやれる、これが精いっぱいの感謝の気持ちだった。
それから変わったのは、わたしとミアナだ。
「……来たよ、“じぇーじぇー”」
そう言って“じぇーじぇー”の祀られた祭壇へお参りするミアナと、そんなミアナの隣で共に祈りを捧げるわたし。わたしたち巫女の役目に、村を守り抜いてくれた“じぇーじぇー”へ感謝の祈りを捧げる日課が加わったのだ……まあ、仮にそんな役目を課されなくとも、ミアナはきっと毎日会いに行っていただろうけれど。
祭壇で動かない“じぇーじぇー”に、ミアナは穏やかに語り掛ける。
「今日はね、すっごい大きなアンギラスがいたんだよ! 山みたいに大きくて、歩くたびに地響きがするみたいで! 危うく踏み潰されちゃうところだったんだ……」
ミアナが“じぇーじぇー”に話すのは、外の世界の探検談だった。外の世界で見てきた物、出会ったもの、あるいは村の中でのつまらない世間話まで、隅々まで語り聞かせていた。
「“じぇーじぇー”が寂しかったら可哀想だからね」
そう言ってミアナは毎日のように“じぇーじぇー”の祭壇へと通い、毎日のように楽しいお話を聞かせてやるのだった。
「それでね、それでね……」
こんなふうに、わたしたち二人の巫女が毎日祭壇で“じぇーじぇー”へ祈りを捧げる姿は、いつのまにやら村の日常の一部となっていた。
“じぇーじぇー”についてわたしたちフツアの村では「
そしてその日も、ミアナとわたしはいつものように祭壇に向かっていた。太陽がちょうど西に傾き、空が黄金色に染まる頃、いつもと同じようにわたしたちは祭壇を訪れ、“じぇーじぇー”に祈りを捧げていた。
「……今日はね、村のみんなが“じぇーじぇー”のことを話してたの。もしもあのとき“じぇーじぇー”がいなかったら、わたしたちの村はいったいどうなっていたんだろうって。きっとわたしたちはいないんだ、ってね……」
ミアナは言った。
「でも、そんなことにならなかったのは、“じぇーじぇー”のおかげなんだよ」
“じぇーじぇー”といるとき、ミアナの声はいつだって明るく楽しげだった。ミアナの毎日の語り掛けは、自然で温かかった。まるで“じぇーじぇー”が、まだそこにいてくれているかのように。
「それでね“じぇーじぇー”、今日はね……」
けれど、その日は何かが違っていた。まだ語り始めたばかりだというのに、ミアナの言葉が自然と途切れてしまったのだ。
……どうしたの? 心配になったわたしが促すと、ミアナは言った。
「……本当は、少し寂しいんだ。だって毎日お話ししてるけど、“じぇーじぇー”は何も答えてくれないから。時々、前みたいにお話したり、遊んでくれたりしてくれたらいいのにって思うんだ」
「ミアナ……」
ミアナの目にはかすかに光るものが浮かんでいたけれど、その雫を懸命に拭いながらミアナは笑顔を取り繕うのだった。
「だけど、大丈夫だよ、“じぇーじぇー”。わたしにはマイナがいる。村の皆もいてくれる。だからあなたもずっとここで、安らかに眠っていてね」
その時、ふとわたしの耳に微かな風の音が届いた。ミアナにも聞こえたようで、ミアナもまた顔を上げ、静かに広がる空を見上げた。浮かんでいるのは、暮れなずむ穏やかな夕陽。薄紫色に焼けた空はすでに薄暗くなり始めており、星がちらちらと輝き始めている。
……なんだか、“じぇーじぇー”がわたしたちの頭を優しく撫でてくれたみたい。そんなふうにも思った。
わたしたちの祈りは終わった。
「“じぇーじぇー”、今日はもう帰るね」
「“じぇーじぇー”、また明日も来るからね」
わたしたち二人が物言わぬ“じぇーじぇー”へ別れを告げながら、祭壇を後にしようとした時だ。
空に、巨大な影が差し込んできた。
二人で同時に見上げると、夕焼け空が不気味に暗くなっていることに気づいた。そして空の彼方から、巨大な“影”がゆっくりと降りてくるのが見えたのだ。
それはまさしく、
「
かつてこの星を捨て、遠い天上の世界へと旅立った
「ミアナ!」「マイナ!」
わたしたちは即座に行動を起こした。
瞬時に村へと駆け戻ると、村人たちも次第にその異変に気付き、ざわめきが広がっていった。皆で船を見つめている中で、船からは一筋の光が村の中心へと降り注いでくる。
……帰ってきた“ワタリガラス”は、敵か味方か。もしも“じぇーじぇー”のような善人だったら良いけれど、もしシートピア・アーカイブスのような危険な連中だったら、そのときは戦わなければならない。
「ミアナ、あなたは長老たちに守りを固めるように伝えて! わたしは様子を見てくる!」
「わかった、マイナ! あなたも気をつけてね!」
ミアナは急いで村の中央に向かい、村人たちに指示を出した。各戸の扉を固く閉ざし、武器を持った者たちが村の周囲を警戒する。子供たちは急ぎ、村の中心にある安全な場所へと避難させられる。
わたしはというと、村の中でも屈強な若衆の
そうしてわたしたちフツアが出迎えた“ワタリガラス”。
降り立った彼らの目的は――。
好きなキャラは?
-
ジェットジャガー
-
ミアナ
-
マイナ
-
アントニーオ=ヒギンズ
-
クモンガ
-
ガイガン=ミレース
-
ガイガン=レクス
-
メガロ=レジーナ
-
モスラ