崩壊世界の記録番   作:サイリウム(夕宙リウム)

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第5話 足りないピース

 

(やはり、収穫はなし、か。)

 

 

今日のことを思い出しながら、記録していく。視界の端では探索の中で見つけた面白いものを吟味しながら、薬師の家から持ってきたマットレスの上でニコニコするピー。今回のように長期滞在した都市でよく見る光景で、この町から出る際にどれを持って行くかでひと悶着ある事までがセットだ。今回は長引かなければいいが……。

 

 

(今は……、ちょうどいい棒を振り回しているところか。)

 

 

何処かに投げ飛ばさないよう彼女に注意しながら、手元の本へと視線を移す。私が得た記録は、その町で発見した書物に書き足したり、後世に残るように頑丈な壁に彫り込むことが多い。だがそれだけでなく、自身が持つこの本に書き込むこともしている。いずれこれもどこかの町に残し、後の人類に託すことになるのだろうが……。残す手段は多い方がいい。

 

今日見聞きしたものをまとめながら、思考に耽る。

 

あの後、町の中を探索しなおしたのだが……、自身に“情報”を与えてくれる存在は見つけることができなかった。ロープや鉄製品など、何かと使える物資の調達ができたのは確かだが、これだけなら他の町でも入手することができるだろう。

 

 

(やはり、引っ越されたのが痛いな……。)

 

 

薬師の彼が召された後、どうなったのかはわからないが……。おそらく住民のほとんどがこの町から出てしまったのだと推測できる。功労者である男を埋葬した後、病の危険から逃れるために外へ。あり得ない話ではない。もしくはその時点で文明が崩壊するような事件に巻き込まれ、すべて消えてしまったか。

 

 

「この町のひとつ前、ピーがトカゲを食べていた町はどうだったか。」

 

 

手元の本を見返しながら、思い出してみる。この町と、あの町。距離は確かに離れているが、人の脚で移動できない距離ではない。病から逃れるための引っ越し先としては近すぎるかもしれないが、何人かが流れ着き定住していたとしてもおかしくはないだろう。言ってしまえば、人から人へと移る病であればあの年で感染者が出ていなければおかしい。そしてそれに付随する記憶が残っていてもいいはずだ。

 

だが、あの町では病の痕跡すら残っていなかった。時間経過により、“想い”が残っていた品々が朽ちてしまった可能性、バケモノによって破壊された可能性も0ではないが……。

 

 

(ということはやはり、この町独特の病。)

 

 

もし宝石化の病が人から人へ移り行くものであれば、この町だけでなく付近全体が病の脅威に襲われていただろう。しかしその痕跡を見つけられなかったということは、やはりこの土地自体に問題がある。薬師は問題はないと判断したようだが、何か見落としがあったのかもしれない。

 

都市の放棄、文明の崩壊によってこの地に人の手が加えられることはなくなった。原因がこの土地独特の何かであれば、その原因がより大きくこの地に現れていてもおかしくはないだろう。そこを探し、病の原因を探る。根源さえ判明すれば、手に入れることができれば。

 

 

(彼が作る事の出来なかった薬を、完成させることができる。)

 

 

自然と、目が彼女の方へと。未だ教会の椅子に座り、祈りを捧げる彼女へと向く。

 

既に彼女は、宝石と化してしまっている。故になんの効果もないかもしれないが……。薬が完成すれば、彼女にも投与すべきだろう。彼もそれを望んでいるはずだ。

 

今日はもう遅い故に調査はできないが、明日からはこの土地に対して理解を深めていく方向で、調査を進めていくことにしよう。一度目を通した場所でも、もう一度見れば何かの異変に気が付けるかもしれない。今日見たこの町の光景をゆっくりと思い出しながら、夕食の用意のため、保存食に手を伸ばそうとする。

 

 

(……そういえば、この町で他の生き物を見ていないな。)

 

 

バケモノのみならず、他の野生生物。トカゲのような小さき存在も見当たらない。そして、植物さえも。

 

 

「いや、例外があったな。あの花……。」

 

 

待て。

 

 

「…………これか?」

 

 

カバンから押し花を取り出す。水色と白の花弁を持つ花。

 

この小さな花以外、植物が生えておらず、小動物もバケモノすらも寄り付かない。彼らは私たちとは違い、本能で危機を察知できるという。そんなところに自然と生えている、この花。

 

明らかに、おかしい。

 

 

「ピー、少しいいか。」

 

「うにゅ? なにー?」

 

「やってみたいことがある、付き合ってくれるか?」

 

「いいけど……、もう暗くなるよ?」

 

 

彼女の言う通り、すでに火が沈み始めている。だが今は一刻も早く、調べたい。もしこれが原因だった場合。磨り潰し、薬に混ぜ込めば成立するかもしれない。彼が探し続けた一ピースが、これかもしれない。普段の私であれば明日にしようと言えたかもしれないが、今はただこの可能性を探らなければならないと考えてしまっている。

 

 

「たのむ。」

 

「……わかった! じゃあおおいそぎ!」

 

 

そういいながらぱっと立ち上がり、背に乗るように声をかけてくれる彼女。

 

 

「ありがとう。道は私が覚えている、指示に従ってくれ。それと、新鮮な花が必要だろう。いくつか積んでいくから寄ってくれるか?」

 

「もっちろん!」

 

 

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 

 

今日の探索で、この町にはバケモノや野生動物がいないということが解った。しかし“火”というものはバケモノたちを寄せ付けてしまう。この町に“何か”があったとしても常に腹を空かしているのが奴らだ。闇夜の中で目立つ行動をとってしまえば、町の外から相手を呼び寄せる結果となってしまうだろう。警戒するに越したことはない。

 

私はピーのように夜目が効くわけでないので暗闇の中で採取という細かい作業をすることはできない。それに少し夜目が効くといっても、夜間にピーを走らせるのは非常に危険だ。彼女の速度で何かにぶつかった場合、最悪二人とも召されてしまう。軽くこけただけでも、骨を折ってしまうかもしれない。医師はおらず薬もないこの崩壊した世界の中では、どれだけ危険を減らすか、というのが重要になってくる。

 

 

(薬師の『レニ』、そしてこれまでの“記憶”のおかげで簡単な処置はできなくもないが……。本業には劣る。私は決して治すものではない。)

 

 

故にピーに無理を言い速度を出してもらうことで、何とか日没までに薬師の家にたどり着く必要があった。夕日の中あの小さな花を採取し、薬師の家に駆けこむ。本来ならこれでお終いだったのだが……、この家が薬草などの劣化を避けるためか、一切窓のない家であったことが幸いした。

 

外に出て確認してみたが、光が外に漏れ出ていることはなかった。この場でなら夜間、明かりを付けながらの作業が可能である。

 

 

「夜なのに明るいのしんせん。……それで、どうするの?」

 

「先に作ったあの薬の残りに、この花を潰したものを混ぜる。どう処理するのが正解なのか解らないが……、とりあえず量は確保できた。少量で思いつく限りの作業をする予定だ。……もう遅い、先に寝ておいてくれ。」

 

 

流石に教会からマットレスを運んでくる時間はなかったが、普段使用している寝袋や毛布などは持ってきている。これさえあれば十分に休むことができるだろう。ピーには悪いが、今はそれで我慢してほしい。

 

 

「ん? ピーも見てるよ? ジェス一人だったらさびしいでしょ? ピーならさびしい。」

 

「……なら後ろで見ていてくれ。」

 

 

そういってくれる彼女の優しさに感謝しながら、作業を進めていく。薬師の彼がなぜこの花にたどり着けなかったのかはわからない。だが、動植物がいないこの町で唯一存在する例外だ。可能性がないとは言い切れないだろう。少しの希望を胸に、作業を進めていく。

 

 

「まず、試作一つ目。処理方法が間違っていたとしても、これが正解であれば効果の向上が見込めるはずだが……。」

 

 

淡々と調合を終わらせ、一つ目の薬を作り終える。出来上がったのなら、試すのみ。

 

背後からピーの視線を感じながら、出来上がった試薬を水で溶かし、宝石へと掛ける。

 

 

「ん? ……あ! あ! 溶けてる! ちょっと溶けてる!」

 

「あぁ!」

 

 

自分のものとは思えないほどの強い歓喜が沸き上がってくる。目の前に存在している宝石、“彼”が遺してくれたその肉体の一部が確実に溶けだしている。白い煙を上げながら、尖っていた先端が確実に丸くなった。おそらく薬の効果がまだ足りていないため確実とは言えないのだろうが……。薬師のレニが最後にたどり着いたあの薬よりも、確実に効能が上だ。

 

 

「最適な処理を施せれば、確実にこの薬を完成させることができるはず。そうすれば、彼女も……。」

 

「だね! 頑張れジェス!」

 

 

相棒の応援に応えるためにも、彼が遺してくれた“記憶”をもとに様々な方法を試していく。これまでの自身であればただ潰して混ぜる、という方法しか取れなかったが、今ならばわかる。この花から必要な成分だけを取り出すために煎じ、元あった薬とかみ合う形を探していく。

 

試行錯誤を繰り返しながら、幾度も薬を調合していく。気づけば昼頃に作った元となる薬もなくなってしまい、もう一度調合のし直し。最後まで頑張って起きていたであろうピーに毛布を掛けてやりながらも、作業を進めていく。

 

そして時間は過ぎ、朝日が昇ろうとするころ……。ようやく求めていたものに手が届く。彼の記憶と、自身の勘。普段は頼りにならぬものだが、読み取った彼の記憶たちが太鼓判を押す方法にたどり着くことができた。後はこれをもとの薬と混ぜ、試してみるのみ……。

 

 

(……どうだ。)

 

 

先ほどと同じように、宝石に薬を垂らす。

 

だが……。

 

 

「……うにゅ? あさ? じぇすー、おくすりできたー?」

 

「…………かわら、ない?」

 

 

宝石から帰って来た反応は、最初と全く同じ。いやむしろ効能が下がっている……? いやよく考えろ。ここまで繰り返し調合をしていたが、そのすべてに於いて検査を行った。その時の反応を思い出せ。初回に比べ、どうだった? 処理方法が間違っていたのだと勘違いしていなかったか?

 

 

「鮮度か?」

 

 

もしや採取した瞬間から劣化し始めるタイプの植物だったのだろうか。……だめだ、私個人の知識では何の役にも立たない。彼の記憶の中にもこの花の情報が残っていない以上、他の手段を持って調べるしかない。

 

即座にこの家の中を探し、植物図鑑らしき本を手に取り、採取した花について探し始める。

 

 

(小指の爪ほどの大きさ、花弁は外側から青で、内側に行くほど白に。花弁は一枚だが外側に行くほど広がっている……。)

 

 

だが、どれだけ探しても、似た存在が見つからない。

 

 

「ジェス?」

 

「……あぁ、ピーか。いやすまない。悪いが追加で花を取って……、いや今から花を採取しに行く。付いて来てくれるか?」

 

「あ、うん。いいけど……。大丈夫?」

 

 

あぁ、体に問題はない。

 

……情報がなくとも、何とかなるはずだ。先ほどの調合でこの花の最適な処理方法は確実に理解した。だが鮮度が問題で効能が落ちるのならば新鮮なものを使えばいい。それだけのことだ。何かに背を押されるような感覚を覚えながら、外に出る。

 

 

「ほんとに?」

 

「あぁ、動けるとも。……それに、一人なら迷うだろう?」

 

「うっ!」

 

 

彼女にも自覚があるのだろう。私はもとより、彼女本人も自分の記憶力を信用していない。曲がり角を曲がった先でここがどこなのかわからなくなることもたまにある。私が近くにいればそれを目で追うだけでいいし、声が届く範囲であればまだ何とかなる。だが私が薬師の家で作業している間に、彼女が採取に出た場合……。

 

最悪、帰って来れない。

 

 

「責めているわけではない。人には適材適所がある。種族の差はもちろん、性格の差もある。苦手なものは私に任せておけばいい。それに……、案外近場にあった。」

 

 

そういいながら、思ったよりも傍に生えていた花を採取するためしゃがみ込む。……私の力は、“物”にしか作用しない。人や動物のような生き物はもちろん、“植物”にも作用しないのだ。故に普段の探索ではあまり植物を目で探すことはなかった。故に少し考えれば思いつきそうな事実にたどり着くまで、ここまで時間がかかってしまったのだろう。

 

 

(……反省、だな。)

 

 

本職ではないのだ、ある意味仕方のないことかもしれないが……。今後もしかすれば、“植物”を操るバケモノと相対するかもしれない。あいつらに常識が通用しない以上、どんなことにも気を配っていた方がいいだろう。相棒であるピーに戦闘を任せているのならば、そういった分析は私がすべきだ。

 

 

「と、こんなものか。」

 

「結構とったね~。」

 

「あぁ、鮮度が関係するのならば、もう少し調べておきたいことがある。それに……、意識してみてみればいたるところにこの花が咲いていたのだな。」

 

 

花自体の群生地は小さい、しかしながらこの町のいたるところにこの花が生えている。先日の探索を思い返せば、どの風景にもこの花が映っている。この花、病の元凶と推測できるこれが不足するという事態には陥らないだろう。鮮度が関係するのであれば、分割し、劣化する速度を調べなければならない。

 

劣化速度と、その低下する効果。また製薬後の効果。“彼女”を完全に元にするのならば、まだまだ効能が足りない。最大効率を探し求める必要があった。

 

 

「…………うにゅ?」

 

「どうしたピー。」

 

「ん~、なんでもない。」

 

「そうか、なら帰るぞ。」

 

 

そう言葉を交わし、“彼”の家へと足を向ける。この花以外の材料の在庫はまだかなりの量が残っていたはずだ。それにあの“元の薬”、花と合わせる前の薬は製薬さえしてしまえば数か月は効能が変わらなかったはず。多めに作ってしまった方が効率がいいだろう。

 

 

(鮮度の調査も並行して行わなければならない。……少し順序に気を付けなければならないな。)

 

 

何も進まなかったあの時とは変わり、少し進展が見えて来た今は、自然と足が速くなってしまう。……だが、数時間後私はもう一度絶望を味わうこととなる。

 

思いつく限りの手法を用いて調査を行ったのだが、この花は鮮度の落ちるスピードが異様と思えるほどに早く、製薬手法に関わらずその効能が劣化する速度は一定。最初に見ることができた宝石を少しだけ溶かすという現象以上のことを、起こすことができなかった。

 

つまりこれは、“この花”では効能不足。

 

薬を完成に導く最後のピース“ではない”、ということを示していたのだ。

 

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