崩壊世界の記録番   作:サイリウム(夕宙リウム)

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第6話 バケモノと花

 

「ジェス……。」

 

「……あぁ、すまない。それほど顔色が悪いか。いや、想像以上に応えたものがあってな。」

 

 

薬を完成できなかった私たちは、一旦製薬の手を止め教会に戻ってきていた。

 

徹夜してしまった故に体力の消耗は大きく、ピーも夜遅くまで起きていたため本調子ではない。ある程度設備が整っていてスペースがある場所で休んだ方がいいだろうと考え、こちらに戻ってきている。……それに、なぜか自然と足がこちらに向いていた。

 

あの花で効果があった以上、病の感染経路の一つであることは確かなのだろう。しかしながら……、あれでは“毒”の濃度が足りない。いや足りなすぎると言ってもいいだろう。もしアレが病の元凶であれば、人の一部を硬化させることはできても、全身を宝石化させるには力が足りない。もっと他の存在。病の元凶が他にある。

 

そしてそれを見つけなければ、一向に病の治療薬を完成させることはできないだろう。より“毒”の濃度が高いものが、必要だ。

 

 

(本来なら、煮詰めたりして濃度を高める。という手法をとるべきなのだろうが……。)

 

 

あの花は、鮮度が落ちるのが異常と思えるほど速い。いや“変化に弱い”と言っていいだろう。

 

何らかの方法で、毒が抜けて行ってしまっている。時間経過はもとより、加工すればするほどにその効能が薄くなっている可能性がある。つまり“煮詰める”という作業を開始た分の時間だけ劣化し、加熱分さらに劣化するのだ。最悪作業が終わる頃には、何もせずに製薬したときと同等か、それ以下の効能しか持っていない、という状況になりかねない。

 

 

(それに、製薬後の劣化スピードも異様なほど早かった。)

 

 

もし彼女をこの手でもとに戻すためには、より強い毒を持つ存在を発見し、調合した直後に投薬せねばならないだろう。幸い、この場にはピーがいる。調合台をあの家から持ち出すことは難しいが、ピーの脚があれば製薬直後に持って行くことが可能。……つまり、“私”に足りないのは、より強い“毒”を持った存在のみ。

 

 

「過去に水や大地は調べている。何が原因であの花に“毒”が集まったのかはわからないが、おそらく大本がどこかにあるのだろう。そこから水や大地を経由して、花に。……なら何故当時原因だと分からなかった?」

 

 

“彼”の記憶を鮮明に思い出しても、思い浮かばないその理由、その元凶。

 

自然と目線は彼女、キティアへと向かい、なぜか口から懺悔の言葉がこぼれ落ちそうになってしまう。……残された文献の中に、教会では聖職者に向かって過去の過ちを懺悔するための部屋が誂えられていた、と見たことがあったがそれが影響しているのだろうか。

 

 

「ん~、あ、そうだ! ジェス! ピーのど乾いた! お水!」

 

「……急だな。確かまだそこの皮袋に、ないな。そういえば飲み干してしまったのか。……補給しに行こう。」

 

「うん! いど行こ、いど!」

 

 

彼女の少し強引に引っ張られながら、空になったいくつかの皮袋片手に水を汲みに行く。まだ完全にこの辺りの地理が頭に入っているわけではないが、この都市から川まではかなりの距離があるだろう。のどが渇いた状態でピーを走らせるのは忍びない。

 

過去の調査では水は感染経路ではなかった、そしておそらく今もそれは変わりないだろう。だが解っていても恐怖は残る。……あの時何も反応が出なかったのだ。煮沸した水を口に含みなんの問題もなければ、そのまま使ってしまってもいいはずだ。

 

 

「あ、あった! 近くだったね~。」

 

「教会も井戸も町の集会所のような役割があったという、中央に自然と集まるのだろう。……滑車は無事だな。ピー、落ちないように中を見てくれるか? 水が枯れていないか確認してくれ。」

 

「うん! え~っとね……。キラキラしてるからだいじょうぶそ!」

 

 

ロープはすでに朽ちてしまっていたようだが、水をくみ上げるのに必要な滑車はまだ生きているようだ。案外水をくみ上げる作業というのは、重労働だ。これが残っているか、残っていないかでかなりの違いになる。運が良かったと言えるだろう。

 

そんなことを考えながら、上に掛かっていた蓋を外しピーに中の様子を確認してもらう。井戸が死んでいれば町の外まで遠出する必要があったが、ピーの反応を見れば心配は杞憂だったのだろう。後は飲めるかという心配だが、とりあえずは汲んでみないと分からない。

 

町の内部で見つけた金属の鍋に縄を縛り付け、滑車に通す。後はこれを中に放り投げ、引っ張るだけだ。

 

 

「ならいい。じゃあ少しよけて「あ、お花あるよ!」……花?」

 

 

その声によって、手が止まる。井戸の中に、花、だと?

 

彼女の言葉に釣られ。急ぐ必要などないというのに、自身も即座に井戸の中へと顔を向ける。そこにあるのは真っ黒な闇。……夜目の効かない私では何も見ることはできない。ピーの目を信じないわけではないが、やはり私自身の目で確認すべきだ。灯りがいる。

 

 

「すまない、少し下がってくれ。」

 

 

ぱっとカバンから火打ち石と解いた縄を取り出し、強く叩きつけることで火花を得る。そこから火を大きくし、近くに放棄されていた廃材へと引火、十分な光源を作成する。これを放り込めば、確実に見やすくなるはずだ。

 

私のしたいことを察してくれたピーは井戸からその首をどけ、道を作ってくれる。水が生きている以上、そのまま放り込めば見えるのは一瞬だろう。先ほど用意した鉄鍋に火が付いた木材を放り込み、ひっくり返らぬようゆっくりと井戸の中に垂らしていく。

 

 

「……これは。」

 

 

最初は何もない石壁の側面。そこからえぐり取られた土の壁へと変わっていく、何の変哲もない井戸。しかしながら途中で、明らかに変化する。植物の緑が見え始めたのだ。苔のようなものではなく、蔓のようなもの。そしてそこからもう少し縄を下げた瞬間、側面の色が確実に変わる。

 

茶から、青と白へ。

 

花で、埋め尽くされている。

 

 

「この、先か。」

 

 

この井戸は井戸の中に異物が入り込まないように、蓋がされていた。つまり植物が基本必要とする“光”が存在しなかったことになる、これはつまり、ここに生える植物が“光”を必要としないタイプである、ということ。地中こそが、この花の最適な立地なのだ。

 

距離が離れていても解る、あの花は、地上に咲いていた花よりも、色が濃い。水色が濃い青へ、白がよりもっと濃い白へと変わっている。ただの直観でしかない。しかしながらこの先に、“元凶”がいると確信してしまう。

 

そう考えてしまえば、もう止まれない。今滑車に掛かっているロープを取り外し、外に固定する。あの中にはそれほど多くの木材を入れていない。流れぬようにさえ気を付けておけば、ひっくり返ることもないだろう。井戸の中を照らす光源として、利用する。

 

その確認後、新しいロープを取り出し滑車の通す。後は自分の腰にそれを頑丈に巻き付ければ、準備は終わりだ。

 

 

「すまないピー。これを離さないでくれるか。」

 

「……も、もしかして。」

 

「あぁ、少し見てくる。止めてくれるな。」

 

 

相棒が何か言おうとしていたが、私が井戸に飛び込む方が早かった。後で謝らなければならないが、それよりも今の私は、すべてを解き明かさなければ真面ではいられない。

 

自身を縛るロープを握り、その側面に足と背を当て、そのまま落下死しないように努めながら、下へ降りていく。井戸特有の湿気、閉塞感、徐々に暗くなっていく世界。そして途中からくる背中で花を押し潰す感触。世界が切り替わっていく感覚と、背中で生命を壊していく感覚、気分が悪いが、耐えなければいけない。

 

永遠に続くかと思われたそれは、足が井戸底へとつくことで、ようやく終わる。

 

 

「……深くは、ないな。むしろ浅い。」

 

『だいじょうぶーッ!?』

 

「あぁ! 大丈夫だ! だが次声を挙げるか! 紐が引っ張られたら全力で引き上げてくれ!」

 

『わかったー!!!』

 

 

上から響いてくるピーの声、上を見上げると表情は解らないが、彼女が覗き込んでいるのが解る。この身の無事を示すために声を挙げ、そう頼む。返答が聞こえ彼女が井戸から首を引っ込めたのを確認した後、行動を開始する。

 

水面に浮かぶ鍋の中から火を取り出し、周囲を照らすように持ち上げる。井戸の底は空間に繋がっていたようで、しゃがみながらでしか動けないが、十分に活動できるスペースがあったようだ。空気もどこからか流れているようで、呼吸の心配もない。

 

しかも下を流れる水はそこまで早くなく、水面も高くはない。これだけ水位が低いと水をくみ上げるのには苦労しそうだが……、探索にはもってこいだ。

 

 

(やはり……、ここに群生している。それに、道だ。)

 

 

上からの光はわずか、離れれば離れるほどに暗闇が濃くなっていく。生命線とも呼べる手元の火を壁に当て周囲を探りながら、より奥へと進んでいく。案の定というべきか、側面には数多くの花が咲き誇っており、確実に色が濃い。最初は暗闇故の見間違いかと思ったが、違う。おそらくだが、地上で採取したものよりも“毒性”が強いのだろう。

 

つまりより奥に行けば、もっと強い“毒”。元凶というべき存在がある。

 

壁に生えた花を薬に必要な分だけ採取した後、さらに奥へと足を進める。

 

 

(……水の流れと、同じか。)

 

 

ゆっくりとした流れに乗りながら、壁に手を当て足を進める。自然にできたスペース故か、足場が悪く歩きにくい。故に花が咲く壁に強く手を押し潰してしまうことが何度もあった。花がすり潰れ、自身の手に汁が刷り込まれていく感触。

 

不快感を超えた違和感。おそらくだが、私の手をゆっくりと蝕んでいるのだろう。灯りは手元のものしかなく、しっかりとしか確認はできないが……。今は気にしている場合ではない。進めば進むほどに、花の色が濃くなって行っているのだ。この先に、“私”が求めるものが存在しているはず。

 

薬さえできてしまえば、何も問題はない。

 

 

(ん?)

 

 

手に先ほどとは違う感触を受け、火を向ける。

 

見えるのは少し崩れかかった壁。どうやらこの部分の壁だけが、もろくなっているようだ。……いや、もろくなっているというよりも、すでに崩れているというべきだろうか。手で触って確認してみれば、すでに壁は土でなく、植物のツタが編み込まれたものだけで構成されており、柔らかい。もともと土に絡みつきながら成長していたツタが、そのすべてを埋め尽くしてしまった、というものだろうか。

 

 

(もしやこの先に?)

 

 

疑念を晴らすために、火を近づけその部分を焼き切りながら、その壁の奥を覗く。

 

 

「これは……。」

 

 

目の前に広がるのは、この世のモノとは思えない存在。

 

植物、いやこれは……。バケモノの部類だろう。外と変わらず群生していたはずの花々が、完全に宝石化している。柔らかさを保っていたはずの花弁が、石となり輝きを放っているのだ。柄やツタの部分は変わらずに植物のもの、しかし花びらだけ、宝石になっている。

 

そんな異様な存在たちは、この空間。地殻変動などで生まれたのであろう何もない筈の空間を埋め尽くし、自分たちの根城としてしまっている。そしてその根城の中央に居座る、大きな物体。何よりも目を引く存在は、人の何倍も大きな、宝石花。

 

その花弁はやはり確実に宝石と化しており、その輝きは周囲に広がる小型の物とは比べ物にならない。もし文明が生きている頃の価値観を持ち合わせていれば、ただの宝の山とした見えなかったであろう光景。これを売れば文字通り巨万を富を築くことが出来るであろう代物。私が俗物であれば、何も考えず飛び込んでいたに違いない。

 

だが、今。すべてが崩壊したこの時代では、全てなんの価値もないものだ。

 

 

「ピー! 頼むッ!」

 

 

足元に生えていた宝石たちを握り取り、同時に持っていた火を投げつける。そして声を出しながらロープを引く。

 

その瞬間、獲物を見つけたせいか、対象に動き。

 

私の声に反応したのかはわからない。だが確実に、目の前のバケモノが動き始めた。目の前にあったはずの大きな花が隆起し、轟音と共に飛び上がる。下から現れるのは大きな口と牙を持つ植物型のバケモノ。地面に埋まっていたのであろうツタが数えきれないほど飛び出し、私に襲い掛かってくる。

 

 

(こんな場所に大好物の人間が来るのは久しぶりだろう、だがッ!)

 

 

ピーもこちらに気が付いてくれたのだろう。体が引き裂かれるかと錯覚するような強さで、私の体が引っ張られていく。縄が食い込みこれが原因で死にそうになってしまったが、そのおかげで射出された敵のツタは、軽く頬を掠った程度。食われるのと比べれば、安い代償だ。

 

置き土産として放り投げた火、幾ら花弁が宝石化していたとはいえ、そのツタや地面に埋まっていた胴体は植物。彼らにとって火は害でしかないだろう。……しかし近くに水が流れている上、手元にあった火がそこまで大きくはない。あれだけで殺せるとは思えなかった。

 

 

「ッ、やはりか!」

 

 

変わらぬ速度で引っ張り続けられる縄。初撃は何とか避けることが出来たが、やはり相手の方が速度が上だ。体勢は悪いが、やるしかない。即座に腰から鉈を引き抜き、私の脚をつかもうとしたツタへと、振るう。

 

 

「くッ!」

 

 

だが、跳ね返される。私の胴よりも太いツタに直撃させること自体はできたが、少し勢いを緩められた程度。そしてこれだけでは終わらない。何本もツタが、私に向かって襲い掛かってくる。どこまで耐えきれるか……!

 

 

(他に手段は……、そうだ火ッ!)

 

 

視線を後ろにずらせば、ようやく見えて来た上へと続く道と、水面に浮かぶ灯り。即座にそれへと手を伸ばし、バケモノに向かって放り投げる。

 

やはりバケモノとはいえ植物型。火には弱いようで、ほんの少しだけ奴のツタがこちらを追う速度が遅くなる。だが、その一瞬だけで十分だ。強い力と共に、急速に体が上へと引っ張られていく。私の様子は、ピーには確認できない。だが何かしらの問題があったことは伝わっているはずだ。

 

彼女の人間を軽く超えた強い力が、私を驚異的な速度で地上へと戻してくれる。未だ私を追って来る、あのバケモノよりも早く。

 

視界が緑、茶、白と。視認できるギリギリで切り替わり、井戸の屋根を破壊しながら思いっきり外へ。

 

それでも勢いが弱まらなかったのか、大空へ放り出されてしまう。

 

 

「ピー! 敵だ!」

 

「え! あ! うん!!!」

 

 

私の危機を感じ、一心不乱に縄を引っ張ってくれたのだろう。彼女の翼は物をつかむのには適さないが故に、口で引っ張っていたようだ。一瞬私の声の内容に驚いていたようだったが、即座に空へと浮かぶ私の姿を確認し、行動に移してくれる。

 

彼女は空を飛ぶことはできないが、“跳ぶ”ことはできる。誰よりも力強く。

 

 

「きゃっちーッ! ジェス! 大丈夫!?」

 

「あぁ、平気だ。それよりもバケモノが来る!」

 

 

そういった瞬間、井戸の外周を破壊しながら、何本ものツタが外へと弾き出されていく。地下から地上に上がってくるのは、大きな宝石花と、大きな口だけが張り付いた緑の胴体。植物型のバケモノ、人類の宿敵が、この町に出現した。

 

 

「ピーッ!」

 

「おまかせー!」

 

 

着地した瞬間、私を後方へと放り投げたピーが、地面を蹴る。その瞬間彼女の姿はあのバケモノの前へと出現し、その足が胴体へと炸裂する。過去の人類が遺した一軒家よりも大きな巨体が宙へ浮き、吹き飛ばされていく。だが、あちらもそれで終わるほど、弱くはない。

 

 

「ツタが来るぞ!」

 

「うにゅ!」

 

 

奴の体が宙に浮いた瞬間、その胴体に繋がっている何本ものツタたちが、彼女に向かって襲い掛かっていく。だが、相棒の方が速い。最低限の動きでその攻撃を回避しながら、その脚部をツタに向かって振るい抜くことで、切断。少しずつではあるが、相手の攻撃手段を減らしていく。

 

 

(植物型は決定打が少ない、早く用意しなければッ!)

 

 

バケモノも自身の手段が削られていくことを理解したのだろう。ツタを一時体の周囲へと戻し、その倒れた肉体をもとに戻す。速度差ではピーの方が上だが、その図体からわかるように体力差ではあちらの方が上だろう。つまり相手がとるのは……、近距離戦!

 

バケモノの肉体が一瞬後方へと下がった瞬間、声を挙げる。

 

 

「跳べッ!」

 

 

その瞬間、轟音と共に、ピーがいたはずの場所に奴の体が。おそらくすべてのツタをバネのように使い急加速からの突進を行ったのだろう。しかしながら、私たちの方が上手だ。ピーの体は天高く飛び上がっている。もちろんバケモノも、ピーがどこに移動したのかぐらい理解しているだろう。

 

だが、それでいい。

 

 

(私から注意を逸らしていれば!)

 

 

このタイミングしかない。即座に弓をつがえ、狙うのは開かれた奴の口、体内。先端に付けられた“ソレ”の重さも考慮し、少しだけにその切っ先を置く。

 

奴に目はないが、明らかにピーにしか意識が行っていない。ここで、決める。

 

 

(っ!)

 

 

狙いを定め、止まる時間の中で手放された弦は、その矢を押し出し、バケモノの口の中へと吸い込まれていく。その攻撃によって、奴の意識はこちらに向くだろうが……。もう遅い。

 

瞬間、奴の口内が、弾ける。

 

 

「先人が遺してくれた火薬だ。数はないが……、痛いだろう、人の文明は。」

 

 

だが、これだけでは足りないだろう。……やはり最後は、君が決めるべきだ。

 

 

「くらえっーーーーー!!!!!」

 

 

空高く飛び上がっていた彼女が、重力をその身に乗せて、奴の体を貫く。響く声にならない声、バケモノの、断末魔だ。……なんとか、なったか。

 

ほっと一息つくと、貫いた奴の肉体から緑の体液で汚れてしまった相棒がぴょこっと顔を見せてくれる。こちらの無事を確認できたようで、嬉しそうに笑みを浮かべながら手を振り、こちらに走ってこようとしている。

 

 

「あとで洗ってやらねば、な。……井戸がまだ使えればいいが。」

 

 

水自体は大丈夫だろうが、奴が飛び出してきたことで過去に彫られた穴を壊してしまっている。崩壊の危険性もあるが、近場に水場はない。気を付けて汲み上げねば、な。そんなことを考えながら、走ってくる彼女に軽く手を振り返してやる。

 

 

「ジェス! 倒した……、って!? え! 大丈夫!? ケガして……、ケガしてるーッ!? というかお手々! 石になってる! 真っ白! たいへん! たいへん!!!」

 

「あぁ、やはりか。……だが、採取はできた。これで何とかなるはずだ。」

 

 

井戸内部を探索していた時、側面に当てていた手と、小型の宝石花を握り締めた手は同じ。戦闘中は急いでいたため気にならなかったが、やはり病が進行していたようだ。採取する時に宝石花は一部握り潰してしまっているだろうし……、薬にするには何も問題はないのだが、毒を直接喰らったようなものだ。こうなってしまうのも仕方ないと言えるだろう。

 

だが、まだ完全に石になったわけではない。

 

感触は残っているし、違和感はあるがまだ自由に動かせる。薬を調合するのには何の問題もない。……この手を見る限り、確実にアレが元凶だったのだろう。

 

 

「そのまま家、薬師の家に向かう。これで治療薬を作るぞ。」

 

「わ、わかった! すぐ行く!」

 

 

なに、他の材料はすでに揃え調合済みだ。製薬に数分もかからない。私が宝石と化すことはないだろう。だからピー、そんなに心配しなくてもいい。私は君の相棒だ、君がいなければ今回も生き残れなかった。私から君の元を離れることはない。

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