話は妹のあかねちゃん視点です
ちなみにあかねちゃんは5歳ですよ!
あかねは今、お姉ちゃんに抱きしめられていた。
抱きしめられたまま、あかねはお姉ちゃんの胸に顔をうずめる。
目を開けたくなかった。周りを見たくなかった。自分が何をしたのか、分かりたくなかった。
なくなったお姉ちゃんの右手。ずっと流れる赤色。苦しそうなお姉ちゃん。
なんでこんなことになっちゃったんだろう。だってあかねは、遊んでただけなのに。
体の中にふわふわしたものがあったから、それを使った。
そしたら手がきらきらして、すごく綺麗だった。
お姉ちゃんにも見てもらいたくて、お姉ちゃんを呼んだ。
──そして、お姉ちゃんの腕がなくなった。
目の前が赤くなった。見るもの全てが赤に染まっていく。
無くなった右手から、赤が溢れる。
あかねがお姉ちゃんの手を消した、と思った。そういう感覚があったから。
でも、お姉ちゃんはお姉ちゃんだった。あかねが酷いことをしたのに、許してくれて、抱きしめてくれた。
あかねは、そんなお姉ちゃんに甘えた。何も見たくなくて、お姉ちゃんにひしっと抱きつく。
……でも、背中に回される手は片方しかなかった。
少し時間が経って、落ち着いてきた。
お姉ちゃんのことをママとパパに伝えなきゃいけないと思った。ママとパパなら、なんとかしてくれる。
だから、お姉ちゃんから離れようとした。
……? 何かがおかしい。
いつもならすっと離れられた。
でも今は違う。お姉ちゃんが重い。お姉ちゃんがあかねに寄りかかっている。
「……お姉ちゃん?」
返事がない。お姉ちゃんは、あかねのことを絶対無視しないのに。
嫌な感じがして、無理やり離れようとした。その拍子に、背中にあったお姉ちゃんの左手がだらーんと垂れ下がる。
しんでるみたい。
ぞっとした。胸がばくばくしてうるさい。取り返しがつかないことをした気がした。
怖くて、離れられない。
もしこのまま離れたら、お姉ちゃんが倒れて。
この温もりがなくなって。
お姉ちゃんがいなくなっちゃう。
あかねには、もう一度お姉ちゃんを抱きしめることしかできなかった。
水たまりみたいな血を見ないように、目を瞑って抱きしめた。さっきみたいに、しがみつく。
でも背中には何も感触のない。
お姉ちゃんは、抱きしめ返してくれなかった。
ガチャと玄関のドアが開いた音がして、目を開けた。
パパとママが帰ってきたんだと気づいた。
部屋はもう暗くなっていた。あれほどまでに赤く見えた床は、黒くなっていてよく見えなかった。
お姉ちゃんの息遣いが耳元で聞こえる。
そして、周りから血の匂いがした。
全部、悪い夢だったらよかったのに。
突然、暗闇からママの声が聞こえた。その声はいつもより冷たく感じた。
「鈴、あかね、今から手当てをします」
声がした方を見ると、やっぱりママがいた。でも、いつ来たのだろうか。玄関が開いた音しかしてなかったのに。
「あかねより、お姉ちゃんが……」
ママがお姉ちゃんに視線を移す。
「お姉ちゃんは、パパに任せましょう。あかね、少し離れてもらえますか?」
言われた通りにお姉ちゃんから離れる。お姉ちゃんの温もりがなくなって、残念に思った。
ママがお姉ちゃんを支えて、仰向けに倒す。
その最中に電気が点き、周りが明るくなった。
そのとき、初めてお姉ちゃんの体を見た。
顔は青白く、赤黒く染まった右手は半分しかなかった。着ている洋服も赤黒く汚れていた。
「……ぁ」
死んじゃいそうだった。見たくないのに、お姉ちゃんから目を逸らせない。
今更、あかねが何をやったのかを理解した。痛くなるくらい、胸がばくばくしていた。体が寒くなって、手足の震えが止まらない。
パパが近くに来てママと話す。
「桃華、襲撃の線はなさそうだ。侵入された形跡がない」
「分かりました。私はあかねを見るので、鈴をお願いします」
パパが横になったお姉ちゃんの顔や首に触れる。
「……鈴、意識はあるか? ……脈と呼吸はあるが、弱いな。右手は……思ったよりも出血が少ない。血の色を見るに、それなりに時間が経っていると思ったんだが」
どこからか持ち出した包帯を右手に巻いていた。
いまにも死にそうなお姉ちゃんから目を離せずにいると、ママがあかねの体を見ながら聞いてくる。
「あかねは、どこか痛むところはありますか?」
「……痛くない」
痛いわけがなかった。
あかねは痛くない。あかねは怪我をしていない。……だってあかねがやったんだから。
ママがあかねに触れようと、手を伸ばす。
──触れた瞬間に、その手が真っ赤になった気がした。
「触らないで!」
手を弾いて、ママから逃げる。
「ママの手も、なくなっちゃうっ!」
「……分かりました。……ですが、本当に怪我をしていないか、見せてください」
ママはすごく辛そうな顔をしていた。でも触ることはできない。触ったら、なくなっちゃう。
言われた通りに手足とお腹、背中を見せると、ママがホッとした。
「あかねに、怪我がなくてよかったです」
あかねのことはどうでも良くて、とにかくお姉ちゃんが心配だった。
「……お姉ちゃんが……」
青白い顔のお姉ちゃんを見た。右手に包帯を巻かれて、ちょっとだけ顔色が良くなった気がした。
「……腕の傷だけであれば、すぐに目を覚まします。出血の量も少ないので、大丈夫です」
お姉ちゃんが起きても、もう右手はない。……あかねが、消したから。
「……桃華」
お姉ちゃんの傍にいるパパが、険しい顔をしてママに話しかけた。
「鈴が異能を使った。だから出血が少ないんだろうが、体に流れる魔素の量があまりにも少ない。このままだと脳に影響が出る。……魔素を流してくれ」
「……他人の魔素は毒です。それに、病院には無毒化した魔素補充剤もあります」
「今ここに魔素補充剤はない。ここで処置をしなければ、鈴の容態は悪化する。俺の魔素は毒性が強くて使えない。……頼む、魔素を流してくれ」
言っていることはよく分からなかったが、お姉ちゃんが危ないことは分かった。
「……分かり……ました」
ママの顔は見えなかったけど、ギリっと歯を食いしばった音がした。
「…………鈴、ごめんなさい」
ママがお姉ちゃんのおでこに触れる。おでこに触れた指から、微かに桃色の光が漏れる。
そして、お姉ちゃんの様子は大きく変わった。
「……ぅぅ……ぁぁあ゛……」
顔から汗が流れ落ち、苦しそうに呻く。胸を掻き毟るように手が動いた。ヒューヒューと苦しそうな呼吸が聞こえて、口から血が流れる。
見ていられなかった。
「ママ! お姉ちゃんが!」
それでも、ママはお姉ちゃんから離れない。桃色の光は無くならない。
「パパ! お姉ちゃんが、しんじゃう!」
「……こうするしかなかった。すまない、あかね、鈴」
止めたい。止めたいけど、あかねは触れられない。お姉ちゃんが苦しむのを見てることしかできない。
なんでこんなことになったんだろう。なんでお姉ちゃんがこんなに苦しそうなの。
目の前の出来事に疑問を持ったが、すぐにその答えは出た。
──全部、あかねのせいだ。
「……ぅぁあ゛……ぁあ゛ぁああ゛」
お姉ちゃんの呻き声が、あかねを責めている気がした。
お姉ちゃんが霞んで見える。あかねの目から、涙がぽろぽろと溢れていた。
あかねがやったことなのに。泣いていいはずがないのに、涙が止まらない。
「……1分、経ちました」
ママがお姉ちゃんから離れる。ママの顔はよく見えなかったけど、頬に光るものが見えた。
「ありがとう、桃華。それと、すまない」
パパは、無表情でお姉ちゃんをじっと見ていた。
まだ、お姉ちゃんは苦しそうにもがいていた。
この後のことは、あまり覚えていない。
この後、ピーポーと高い音が聞こえて、白い服の人たちが入ってきた。
お姉ちゃんが、白い人たちに運ばれる。
流されるがままに救急車に乗って、病院に着いた。パパとママがお医者さんと話していたけど、あかねにはよく分からなかった。
でも、お姉ちゃんが白いベッドの上で寝ているのは覚えている。お姉ちゃんが、すごく遠くに行っちゃったみたいだった。
結局、お姉ちゃんは目を覚まさなかった。
ぼーっとしてたら、あかねもお医者さんに診てもらうって言われた。
あかねに触らなければ、なんでもよかった。
あかねが診てもらったあと、ママとお医者さんが喧嘩してた。あかねが危ないから、閉じ込めるんだって。
あかねは、それがいいと思った。だって、パパもママも消えちゃうのが怖かったから。
あかねは病院に残った。
パパとママは悲しそうにしてた。
その日は、初めて1人で眠った。
あとがき
読み飛ばしても問題ないです。
正直、ここまで読んでくれる人がいるとは思ってませんでした。ありがとうございます!
ちょっと投稿の期間が空いちゃってすみません。理由としましては、作り込みが甘かったからですね。話の大筋はできてるんですが、曇らせることしか決めてなくて。その曇らせの収拾がつかず、四苦八苦してました。できれば週一で投稿したいと思っていますが、月一でも許してください。
最後に、ここまで読んでくださりありがとうございます。まだ序盤ですので、続きも読んでいただけると幸いです。