曇らせ姉妹   作:片足うさぎ

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最初に、ジャンルから冒険・バトルを消しました。それを期待してくださった方には申し訳ありません。よく考えたらあまり戦いませんでした。

話は妹のあかねちゃん視点です
ちなみにあかねちゃんは5歳ですよ!


第四話 罪

 

 あかねは今、お姉ちゃんに抱きしめられていた。

 

 抱きしめられたまま、あかねはお姉ちゃんの胸に顔をうずめる。

 

 目を開けたくなかった。周りを見たくなかった。自分が何をしたのか、分かりたくなかった。

 

 なくなったお姉ちゃんの右手。ずっと流れる赤色。苦しそうなお姉ちゃん。

 

 なんでこんなことになっちゃったんだろう。だってあかねは、遊んでただけなのに。

 

 体の中にふわふわしたものがあったから、それを使った。

 

 そしたら手がきらきらして、すごく綺麗だった。

 

 お姉ちゃんにも見てもらいたくて、お姉ちゃんを呼んだ。

 

 ──そして、お姉ちゃんの腕がなくなった。

 

 目の前が赤くなった。見るもの全てが赤に染まっていく。

 

 無くなった右手から、赤が溢れる。

 

 あかねがお姉ちゃんの手を消した、と思った。そういう感覚があったから。

 

 でも、お姉ちゃんはお姉ちゃんだった。あかねが酷いことをしたのに、許してくれて、抱きしめてくれた。

 

 あかねは、そんなお姉ちゃんに甘えた。何も見たくなくて、お姉ちゃんにひしっと抱きつく。

 

 ……でも、背中に回される手は片方しかなかった。

 

 

 

 

 少し時間が経って、落ち着いてきた。

 

 お姉ちゃんのことをママとパパに伝えなきゃいけないと思った。ママとパパなら、なんとかしてくれる。

 

 だから、お姉ちゃんから離れようとした。

 

 ……? 何かがおかしい。

 

 いつもならすっと離れられた。

 

 でも今は違う。お姉ちゃんが重い。お姉ちゃんがあかねに寄りかかっている。

 

「……お姉ちゃん?」

 

 返事がない。お姉ちゃんは、あかねのことを絶対無視しないのに。

 

 嫌な感じがして、無理やり離れようとした。その拍子に、背中にあったお姉ちゃんの左手がだらーんと垂れ下がる。

 

 しんでるみたい。

 

 ぞっとした。胸がばくばくしてうるさい。取り返しがつかないことをした気がした。

 

 怖くて、離れられない。

 

 もしこのまま離れたら、お姉ちゃんが倒れて。

 

 この温もりがなくなって。

 

 お姉ちゃんがいなくなっちゃう。

 

 あかねには、もう一度お姉ちゃんを抱きしめることしかできなかった。

 

 水たまりみたいな血を見ないように、目を瞑って抱きしめた。さっきみたいに、しがみつく。

 

 でも背中には何も感触のない。

 

 お姉ちゃんは、抱きしめ返してくれなかった。

 

 

 

 ガチャと玄関のドアが開いた音がして、目を開けた。

 

 パパとママが帰ってきたんだと気づいた。

 

 部屋はもう暗くなっていた。あれほどまでに赤く見えた床は、黒くなっていてよく見えなかった。

 

 お姉ちゃんの息遣いが耳元で聞こえる。

 

 そして、周りから血の匂いがした。

 

 全部、悪い夢だったらよかったのに。

 

 

 突然、暗闇からママの声が聞こえた。その声はいつもより冷たく感じた。

 

「鈴、あかね、今から手当てをします」

 

 声がした方を見ると、やっぱりママがいた。でも、いつ来たのだろうか。玄関が開いた音しかしてなかったのに。

 

「あかねより、お姉ちゃんが……」

 

 ママがお姉ちゃんに視線を移す。

 

「お姉ちゃんは、パパに任せましょう。あかね、少し離れてもらえますか?」

 

 言われた通りにお姉ちゃんから離れる。お姉ちゃんの温もりがなくなって、残念に思った。

 

 ママがお姉ちゃんを支えて、仰向けに倒す。

 

 その最中に電気が点き、周りが明るくなった。

 

 そのとき、初めてお姉ちゃんの体を見た。

 

 顔は青白く、赤黒く染まった右手は半分しかなかった。着ている洋服も赤黒く汚れていた。

 

「……ぁ」

 

 死んじゃいそうだった。見たくないのに、お姉ちゃんから目を逸らせない。

 

 今更、あかねが何をやったのかを理解した。痛くなるくらい、胸がばくばくしていた。体が寒くなって、手足の震えが止まらない。

 

 パパが近くに来てママと話す。

 

「桃華、襲撃の線はなさそうだ。侵入された形跡がない」

 

「分かりました。私はあかねを見るので、鈴をお願いします」

 

 パパが横になったお姉ちゃんの顔や首に触れる。

 

「……鈴、意識はあるか? ……脈と呼吸はあるが、弱いな。右手は……思ったよりも出血が少ない。血の色を見るに、それなりに時間が経っていると思ったんだが」

 

 どこからか持ち出した包帯を右手に巻いていた。

 

 いまにも死にそうなお姉ちゃんから目を離せずにいると、ママがあかねの体を見ながら聞いてくる。

 

「あかねは、どこか痛むところはありますか?」

 

「……痛くない」

 

 痛いわけがなかった。

 

 あかねは痛くない。あかねは怪我をしていない。……だってあかねがやったんだから。

 

 ママがあかねに触れようと、手を伸ばす。

 

 

 ──触れた瞬間に、その手が真っ赤になった気がした。

 

 

「触らないで!」

 

 手を弾いて、ママから逃げる。

 

「ママの手も、なくなっちゃうっ!」

 

「……分かりました。……ですが、本当に怪我をしていないか、見せてください」

 

 ママはすごく辛そうな顔をしていた。でも触ることはできない。触ったら、なくなっちゃう。

 

 言われた通りに手足とお腹、背中を見せると、ママがホッとした。

 

「あかねに、怪我がなくてよかったです」

 

 あかねのことはどうでも良くて、とにかくお姉ちゃんが心配だった。

 

「……お姉ちゃんが……」

 

 青白い顔のお姉ちゃんを見た。右手に包帯を巻かれて、ちょっとだけ顔色が良くなった気がした。

 

「……腕の傷だけであれば、すぐに目を覚まします。出血の量も少ないので、大丈夫です」

 

 お姉ちゃんが起きても、もう右手はない。……あかねが、消したから。

 

「……桃華」

 

 お姉ちゃんの傍にいるパパが、険しい顔をしてママに話しかけた。

 

「鈴が異能を使った。だから出血が少ないんだろうが、体に流れる魔素の量があまりにも少ない。このままだと脳に影響が出る。……魔素を流してくれ」

 

「……他人の魔素は毒です。それに、病院には無毒化した魔素補充剤もあります」

 

「今ここに魔素補充剤はない。ここで処置をしなければ、鈴の容態は悪化する。俺の魔素は毒性が強くて使えない。……頼む、魔素を流してくれ」

 

 言っていることはよく分からなかったが、お姉ちゃんが危ないことは分かった。

 

「……分かり……ました」

 

 ママの顔は見えなかったけど、ギリっと歯を食いしばった音がした。

 

「…………鈴、ごめんなさい」

 

 ママがお姉ちゃんのおでこに触れる。おでこに触れた指から、微かに桃色の光が漏れる。

 

 そして、お姉ちゃんの様子は大きく変わった。

 

「……ぅぅ……ぁぁあ゛……」

 

 顔から汗が流れ落ち、苦しそうに呻く。胸を掻き毟るように手が動いた。ヒューヒューと苦しそうな呼吸が聞こえて、口から血が流れる。

 

 見ていられなかった。

 

「ママ! お姉ちゃんが!」

 

 それでも、ママはお姉ちゃんから離れない。桃色の光は無くならない。

 

「パパ! お姉ちゃんが、しんじゃう!」

 

「……こうするしかなかった。すまない、あかね、鈴」

 

 止めたい。止めたいけど、あかねは触れられない。お姉ちゃんが苦しむのを見てることしかできない。

 

 なんでこんなことになったんだろう。なんでお姉ちゃんがこんなに苦しそうなの。

 

 目の前の出来事に疑問を持ったが、すぐにその答えは出た。

 

 ──全部、あかねのせいだ。

 

「……ぅぁあ゛……ぁあ゛ぁああ゛」

 

 お姉ちゃんの呻き声が、あかねを責めている気がした。

 

 お姉ちゃんが霞んで見える。あかねの目から、涙がぽろぽろと溢れていた。

 

 あかねがやったことなのに。泣いていいはずがないのに、涙が止まらない。

 

「……1分、経ちました」

 

 ママがお姉ちゃんから離れる。ママの顔はよく見えなかったけど、頬に光るものが見えた。

 

「ありがとう、桃華。それと、すまない」

 

 パパは、無表情でお姉ちゃんをじっと見ていた。

 

 まだ、お姉ちゃんは苦しそうにもがいていた。

 

 

 

 この後のことは、あまり覚えていない。

 

 

 この後、ピーポーと高い音が聞こえて、白い服の人たちが入ってきた。

 

 お姉ちゃんが、白い人たちに運ばれる。

 

 流されるがままに救急車に乗って、病院に着いた。パパとママがお医者さんと話していたけど、あかねにはよく分からなかった。

 

 でも、お姉ちゃんが白いベッドの上で寝ているのは覚えている。お姉ちゃんが、すごく遠くに行っちゃったみたいだった。

 

 結局、お姉ちゃんは目を覚まさなかった。

 

 ぼーっとしてたら、あかねもお医者さんに診てもらうって言われた。

 

 あかねに触らなければ、なんでもよかった。

 

 あかねが診てもらったあと、ママとお医者さんが喧嘩してた。あかねが危ないから、閉じ込めるんだって。

 

 あかねは、それがいいと思った。だって、パパもママも消えちゃうのが怖かったから。

 

 あかねは病院に残った。

 

 パパとママは悲しそうにしてた。

 

 その日は、初めて1人で眠った。










あとがき

読み飛ばしても問題ないです。

正直、ここまで読んでくれる人がいるとは思ってませんでした。ありがとうございます!

ちょっと投稿の期間が空いちゃってすみません。理由としましては、作り込みが甘かったからですね。話の大筋はできてるんですが、曇らせることしか決めてなくて。その曇らせの収拾がつかず、四苦八苦してました。できれば週一で投稿したいと思っていますが、月一でも許してください。

最後に、ここまで読んでくださりありがとうございます。まだ序盤ですので、続きも読んでいただけると幸いです。
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