石の上にも三千七百年   作:不落八十八

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#1


 平々凡々で普遍的なつまらない人生を送った事がある、だなんて誰が信じるだろうか。

 地元の広末高校に流れる様に入学した今生のオレは、今日も今日とて普通に生きていた。

 巷で大人気の異世界転生かと思えば近代社会の現代日本であり、歴史に差異はあるものの概ね前世のそれと同じだった。

 TCGが主流になって年刊世界の危機になっている訳でも無い。

 中国らへんから光る赤ん坊が産まれて個性に目覚める訳でも無い。

 魔法少女が悪の組織と戦っている訳でも無い。

 仮面でライダーな人たちが怪人と戦っている訳でも無い。

 ニチアサ系が居ないならと思い浮かぶもやっぱり特撮系も居る訳も無い。

 ならば日常系か、と麻雀や異次元サッカーやらテニヌが流行ってたりするかと思えばそれも無い。

 成程、原作の無いマジモンの平行世界に転生したんだなぁとオレは半ば諦めた。

 ……SOS団や奉仕部や隣人部とかあったりしないかと密かに期待したが、やっぱり無くて項垂れた。

 生憎オレはジャンプではなくサンデー派だったからこの世界がジャンプ系列だったらお手上げだ。

 いや、思えばマガジンやらガンガン、そうか、ギャグマンガ系である可能性もあったり……する訳無いか。

 

「よぉ、憂鬱そうな顔してんな」

「ん、千空か。大樹はこっちには居ないぜ」

「そりゃそうだろうよ、ほれ、あそこ見てみろよ。唆る展開が見れるぞ」

「……告白に校舎裏に呼び出しとか、ほんっと王道を行くアオハルしてんなぁ」

 

 うちの広末高校には問題児と言うか名物生徒が居るのだが、その内の一人である石神千空がケケケと悪い笑みを浮かべていた。

 千空の後ろを見やれば科学部の面々が杠と大樹の告白模様で賭けをしているようだった。

 

「ま、片思いで人の字を作ってたような奴らだし、よっぽどの何かが無けりゃくっつくのが安牌だろ」

「……本当にな。よーやくくっついてくれるってんならちったぁ楽になるぜ」

 

 名物生徒その二である大木大樹はこの千空に悪い道……と言うか、科学方向で助手をやってる事で注目されているド根性青春青年であり、真っ直ぐ過ぎる愚直さが目立つ筋肉盛り盛りのマッチョマンだ。

 川原で千空が科学の実験をしていた事から知り合った所謂幼馴染であり、捻くれているこいつと真っ直ぐなアレを足して二で割れば真人間が産まれそうな程にこいつらの関係は凹凸だ。

 中学校の頃のオレは未だに何かの原作世界だろうと探求に勤しんでいた頃であり、自分の名前からして麻雀の能力が使えるんじゃないかと麻雀大会やら雀荘に入り浸る日々を過ごしてたっけな。

 今生のオレの名は白發中と書いて、はくほかなめと読むとんでもネームだったので、大三元辺りの麻雀能力があると思ってたんだがそんな事は無かったんだよなぁ。

 ただまぁ、大木大樹だなんて如何にもな名前の知り合いも居る訳だし、まさかと思うが西尾維新先生の新作だったりするんだろうか。

 頼むから空々空だなんて中学生が居て今にも地球が悲鳴を上げたりだなんて展開は止めてくれよ、死ねるから。

 

「と、言う事で告白成功にリーチ棒分賭けとくぜ」

「なら俺もフラれねぇに一万円突っ込んでやらぁ」

「にしても、クスノキの下で杠に告白するとかお前の入れ知恵か?」

「いんや、あいつの事だから校舎裏の良い感じにある待ち合わせ場所だから選んだだけだろ」

「それもそうか、伝説の樹の下で告白すれば結ばれる、だなんてジンクスに躍らされる奴じゃねぇもんなぁ」

 

 二人して窓枠に両腕を置いて乾いた笑みを浮かべる。

 オレと千空の間柄は元は友達の友達、あの馬鹿大樹がきっかけで知り合った関係だった。

 幼い頃に両親が事故で死に、祖父母の家で暮らしている大樹が勤労感謝の日のために手料理を作りたいと言って千空を頼ったらしい。

 んで、科学馬鹿で宇宙馬鹿な千空が料理だなんて物に精通している訳も無く、手っ取り早い方法として料理部に所属していたクラスメイトであるオレに白羽の矢が立った訳だ。

 当時のオレはワンチャン咲の世界になるんじゃねとか細い希望を持っていたので、女の子からの評価が上がりそうな料理を学ぶために料理部に入っていた。

 オレは前世で流行ったドレスドオムライスを披露して歓声を浴びたりと中々良い経験をした事もありそのまま料理にハマった。

 高校生になってからアルバイトの解禁により金を使う事にも挑戦できる事になったので、海に行って魚を釣り上げて刺身とあら汁を作り、山に行けば猟師の爺ちゃんの手伝いをしてジビエを調理したりと変な方向に青春を謳歌していた。

 猟友会の爺ちゃんずとの経験が色々と濃厚だったが、楽しい幼少期を送っていたと思う。

 高校でも家庭科部、いや料理部に入り、そう言った場所で手に入れた物を部長に献上し、皆で食べるだなんて和気藹々な部活動に貢献なんてして青春を送っている訳で。

  

「まぁ、分かり切った結末を見るのもアレだ、飲み物買ってくる」

「祝杯には早くねぇかぁ?」

「へっ、言ってろ」

 

 そう言って階段の踊り場近くに設置されている自販機に歩いて行った千空を見送る。

 やれやれ大樹大好き野郎め、まぁ、川原で殴り合いの和解レベルで仲良しレベル高いからなあいつら。

 親友が両想いを果たして幸せになるからって感慨深く感じてるんだろうよ。

 千空の不摂生な食事改善計画だなんてぶち上げる奴だからな大樹は。

 何処ぞのアグネスのヤバい方みたいな食生活してたからな千空。

 川原でキャンプしたり、青空カレー教室したり、バーべキューなどに強制参加させたのは去年の良い思い出だ。

 ……まぁ、千空も千空で、両親が死んでて宇宙飛行士の百夜さんのとこに転がり込んでる訳だし、家族団欒と言う物に有り付けなかった事もあって複数人で食べる事に良さを感じてなかったんだろうしな。

 宇宙飛行士ってのは超が付く程のエリートな職業であるため、幼い千空と食事を共にした回数も少なかった事だろう。

 何せ、川原でエンジン擬きを自由研究のノリで開発してしまう程の天才児だ、手も掛からなかった事だろうよ。

 食事と言う物に意味を見出さなかった千空に、皆で、多人数で食べる事の楽しさを経て、料理と言う概念に触れさせたのは我ながら良い考えだったと思う。

 

「は? コジマ粒子???」

 

 杠への告白劇も佳境と言った頃に空が緑に輝いた事で視線が其方に集まる。

 待て待て待て、嘘だろ、この世界フロムゲーの世界だったのかよ。

 明らかにコジマ粒子な輝きの爆発の余波があっと言う間に此方に到達せんと向かってくる光景が広がっていた。

 咄嗟にその場にしゃがみ込み、頭を守る様に両手を組んで頭頂部に回して耳を塞いで、仕上げに身体を丸めて防御体勢を取る。

 え、なに、コジマ粒子が撒き散らされて汚染される感じの展開なんてあったか?

 つまり、アーマードコアの新作の世界で時系列的には前日譚だったり――。

 

(……し、死んだ? その割には意識があるな……)

 

 防御体勢を取った後に目を瞑った事もあり視界は真っ暗のまま、其処に加えて身動きもできないし外部の情報を感じ取れない状態に陥っていた。

 いしのなかにいる、と言うのは多分こういう心地だったに違いない、そりゃ即ロストするわ。

 数秒、数十秒、数分、数十分、数時間――、意識だけが取り残された状態は普通に居心地は最悪だった。

 輪廻転生のために魂をウォッシュされる前段階と言う感じでも無く、ただ、時間が止まって意識だけが残った様な感覚だった。

 つまり、時間停止物の一割側を引いたと言う事になるんではなかろうか、貞操のピンチだ。

 ……くだらない考察で時間を、永遠にも感じる孤独を紛らわせていく。

 時折寝落ちする手前の様に意識が薄っすらと飛ぶ事があり、意識を飛ばしたら最期だと気を張り直す。

 よーし、こんな時にしか出来ない事をしよう、……具体的に何を?

 こんな状態で出来る事だなんてイメージトレーニングやら思い出す事しか出来ないだろうに。

 自分より強い奴に会いに行くだなんて気概は無いのでイメトレは無しで、前世のアニメとか漫画の事でも思い出すか。

 …………擦り切れた思い出を繋ぎ合わせてそうだったかもしれない物語を思い浮かべていく。

 ………………それが本当に合っているかだなんて答え合わせなんてできやしない。

 ……………………せめて、内なるもう一人のボク的な人格が居たりしてくれたら楽になれるのに。

 ――じゃあ、諦めるか?

 それは……、なんか、負けた気がするから嫌だ、それに、此処で諦めてはいけない気がしている。

 思い出せない前世の記憶の何かが諦めたら試合終了だ、とオレの前世のゴーストが囁いている気がする。

 けど、いつまで耐え続ければ良いんだ、これは、これはちょっと……きっつい苦行だぜ。

 ――なら、もう頑張るしか無いだろ。

 それは、そう。

 石の上にも三年と言う言葉があるんだ、今のオレはきっとそう言う状態に違いない。

 数字を、数字を数えるべきだ、素数じゃなくて、風呂の中で数える百カウントの様な気軽さで。

 前世で見て来た物を時系列順に並べて数えて整えても、三十に満たない年数で見られる内容だなんてたかが知れてる。

 あぁ、分厚い本でも読んでおくべきだったな、それだったらそれを原本にアニメ化してみただなんてアイデアに発展できたのに。

 さぁ、オレがオレで在り続けるためにこの苦行を続けよう、数字を並べて今を感じるんだ。

 この数字こそが無限に続く命綱なのだと、本能で掴み取ったそれを必死に手繰り寄せていく。

 意識を失った時こそがオレの死なのだと、いつかに感じた死を感じる。

 そうして――、数え忘れでリセットした回数幾星霜の数字の綱がふっと消えた。

 いや、違う、これは――。

 

「だらっしゃぁあああッ!!」

 

 出口だ、動かない筈の身体が動く事に違和感がゴールテープを切った瞬間だったんだ。

 全身に纏わり付く何かが砕けて零れ落ちていくのを感じながら、卵生の生物ってこんな気分で産まれるのかと思った。

 砕け散った拘束を振り払って、幾星霜振りに目にした世界は黒から抜け出した色彩が広がっていた。

 

「こ、此処は……ど、何処だ?」

 

 目の前に広がる青々しい森林のジャングルに見覚えがある訳も無く、素っ裸カーニバル開催中の身体に瑞々しい空気の感覚が生を実感させる。

 ……何処ぞのゾンビだらけの街で露出に走る金髪の男の理由が少しだけ分かった気がする。

 成程、これは清々しい気分だ、生きてるって感じがする。

 後ろを振り向いてみれば崖の根元に居たようで、憶測であるがこの場所に引っ掛かって留まった様だった。

 上を見やれば鳥の巣らしき物が幾つかあり、真下を見やれば鳥の糞で白と黒に染まっていた。

 恐る恐るオレの身体から離れたであろう石の欠片を見やれば、……うん、まぁ、ですよねー。

 溜息を吐いてから辺りを見回すと……ホラーが広がっていた。

 思い思いのポーズを取った石像があちらこちらに自然に飲み込まれており、中には砕けてしまったものもあった。

 

「……え、マジで、いしのなかにいる、状態だった訳? あの緑はコジマ粒子じゃなくて石化粒子って事か」

 

 良かった、汚染しまくりの企業代理戦争の幕開けなんてなかったんだ。

 ……もしや、東京ジャングルとか、そう言うアポカリプスゲーが原作だったりしますかねこれは。

 唐突に始まったサバイバルクラフト生活に俺は少し心を浮き沈みさせながら辺りの探索を始める。

 クラフトゲーの基本として、手頃な石と枝を拾いつつ歩みを続けて辺りを見回す。

 良い感じなツタを見つけて木の幹から剥ぎ取り、尖った石に枝の断面を押し付けて上から叩いて半ば行かないくらいに二つに割る。

 先端が平たくてそこそこにでかい石を枝の間に挟んでからツタでぎゅぎゅっと締め付ければ。

 

「原始的なストーンハンマーの出来上がり、ってな」

 

 やっててよかったサバイバルクラフトゲーム、まぁ後半は殆ど当てにならんけども。

 同じ要領で石斧擬きも作っておき、両手に装備して野生の獣対策として備えておく。

 衣服も欲しいが、目に見える物は植物だけなので大き目の葉っぱをツタで繋げた葉っぱの服が精々だった。

 ゴブリンの腰蓑って案外ちゃんとした衣服だったんだな、と溜息を零す。

 さて、今後どうするかと目標を考えるが状況が状況過ぎて思いつかない。

 

「取り敢えず、第一拠点を何処かに作らなきゃな。雨風が凌げる様な場所がありゃ良いんだがね」

 

 孤独であると言う寂しさからくる虚しさから正気を保つために独り言を止めない。

 周囲に人は沢山居るけどな、石像のまんまだけども。

 ……そうか、そうだな、千空と大樹を探すか、ついでに杠も。

 厄介な所に引っ掛かってたりしたら後が事だからな、安全そうな場所に安置する事も視野に入れねぇとだ。

 

「よし、よしよし、目標は大事だな、生きる気力が湧いてくる」

 

 土塗れの足を気にする事無く、知り合いを探すために探索を始める。

 石像になった人たちの様子と言うか年齢を見るに、外に居たであろう人たちが近くに居たのは地殻変動かそれに類似する地形の変化が起きていたからだろう。

 同じ場所に居るならば近くに居るのは学生である年齢でなければならないが、明らかに年配な人や幼稚園生くらいの子供も見受けられた事から学校の外に俺が流された可能性が高い。

 そうなると考えられるのは火山の噴火や地震から生じる津波による洪水だろうか。

 森林から左右に開けた川原へと辿り着き、水の流れを見やる。

 向かうべきは上流、押し流されたであろう俺と一緒に流されている可能性もあるが、思い浮かぶのは杠の位置だ。

 あいつはクスノキの下に居た事もあり、大樹が掴まる様にと叫んでいた事もあってあの場に居る可能性が高い。

 クスノキは巨木になるタイプの樹木であるので、植物の成長に杠が巻き込まれている事もあり得る話だ。

 あれから何年……、何百年経ったかは分からないが、学校に植えられていたクスノキが十メートル級の巨木に育っている可能性は非常に高い。

 巨木が乱立している場所、つまりは広末高校の跡地を見つける事が出来れば、オレ移動説が濃厚になる。

 

「……ん?」

 

 前方の奥の方から何やら石を叩く音が聞こえてくる。

 響いてくる感覚からして大分先に居る様だが、野生動物の癇癪のそれとは違った様子に期待してしまう。

 足裏の痛みも忘れる程に歩いて、歩き続けて、大岩に石を擦り続ける見慣れた色合いの人物を見つけた。

 そして、彼方も砂利の音で此方の接近に気が付いたようで滝の様に汗を流して疲れた様子で、ニッと笑った。

 

「おっす、久しぶり千空。何百年振りだな」

「よぉ、久しぶりだなカナメ。三千七百年とちょっと振りだな」

「……マジで?」

「……マジだ」

 

 石の上にも三千七百年って訳かよ、随分な苦行だったなぁ。

 千空と言う頼りになる知り合いの顔を見てホッとしたオレは近くにあった大石に座り込んだ。

 そして、それを見た千空はバツの悪そうな顔を浮かべ、やや頬を赤らめて視線を逸らした。

 

「お前よぉ……、一応年頃の女なんだからちったぁ隠せよ」

「っと、すまんね。見苦しいもんを見せた」

「ったく……」

 

 そう、オレの今生の性別はXXの女性であり、見目麗しいボーイッシュガールな訳だ。

 座り込んで前屈みになったもんだから葉っぱのブラがズレたらしい。

 かつての性別に引き寄せられたのかオレの発育は実にスポーティであり、つるんぺたんすとんと言う擬音が聞こえてくる感じだ。

 貧乳はステータスだ、希少価値だ、と心の奥底で推しが叫んだ気がするが、まぁ、それは置いておこう。

 彼女と違ってたっぱだけはあるからな、人並みにではあるが。

 

「会えて嬉しいぜ、千空」

 

 これだけは言っておかないと駄目だろうからな、ちゃんと言える時に言っておかねぇと後悔しちまう。

 千空は此方を見ずに肩を竦めて、俺もだよ、だなんて小さい言葉を返した。

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