石の上にも三千七百年   作:不落八十八

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 ――サイド、チェストぉぉぉおお!! むむ、此奴では無か、誤サイドチェストでごわす!

 ――薩摩ッスル死すべしッ、イヤーッ!!

 ……くっそ、夢の内容が朧気なのにこの会話だけが印象的過ぎて今も頭の中でリフレインしやがる。

 なんで薩摩藩士の恰好をしたボディビルダーがサイドチェストしたら人が死ぬんだよ、意味わからんわ。

 もっとも、竹机に乗っていた竹筒から焼肉臭と白い固形の油脂が固まったにしては硬過ぎる物を発見して、動物性石鹸を作った時の臭いで夢見が悪かった事が判明したけどな。

 

「んで、何がどうしてこれを作ってたんだ。どうせなら海藻使った方にしろよ」

「ひぃん……、そろそろお風呂入りたいなぁって思って」

「入ってんだろ、毎日」

「水風呂じゃん、比喩無しのガチの水風呂じゃんか」

 

 こいつも立派に女の子してた、と言う事か。

 しかし、風呂、風呂か……、昨日の疲れが未だに残っている事もあり、必要性を感じてしまう。

 大量の水を温めてお湯にして身を沈める行為がどれだけ贅沢かを理解しているが故に理性が拒む。

 しかし、しかし……っ、給湯器が壊れてスーパー銭湯に行った時の足が伸ばせる風呂の良さを知ってしまっているが故に、身体が誘惑に負けている。

 くっそ、風呂、入りたくなってきた……、お湯で頭洗いてぇ……。

 

「……硝酸の洞穴に面した川原への引っ越し、進めるか」

「おぉ、つまり……!」

「あぁ、お前が、カナメがどうしても、どぉしてもと言うからな、風呂なんてコスパが最悪なもんを作ろうだなんてこれっぽちも思わねぇが、かぁーっ、仕方がねぇなぁー!」

「ひゅー! 流石千空! そこに痺れる憧れるぅ!」

「取り敢えず、引っ越しの場所下見しに行くか」

「だね」

 

 本調子に戻り始めているカナメの活発さに頼もしさを感じつつ、プチ遠征の準備をする。

 竹槍二本にアトラトル、石斧と竹籠があれば十分か。

 カナメがソーセージを茹でて昼飯を用意してくれたので、準備も完了したので早速歩いて行く。

 渓谷へのマーキングに突き立てた枝の場所に体感で二時間弱歩いて辿り着く。

 ぱっと見はあんまり変わらないが、休憩拠点と比べて川原の石の大きさが大きい物が転がっている印象がある。

 

「位置的には洞穴に十数分、海へは二時間いかないくらいか、やっぱりここ等に拠点を構えたいな」

「水車兼住居にしちゃう?」

「それやると水車で作業している時の音がダイレクトに響くぞ、夜もな」

「うへぇ、断音材なんて無いから壁ドン案件だぁ」

「あん? 壁ドンってアレだろ、壁に異性を追い詰めるやつ」

「違うけど? 薄い壁のせいで聞こえてくる隣の部屋の騒音にキレて騒音を諫めるために陳情の代わりに壁をドンと叩く行為の事だが?」

「お、おう、……杠、言ってた事ちげぇじゃねぇか」

「千空の言ってる壁ドンって壁に追い込むやつでしょ。あれは好意があったり気になる人だから、急接近してドキっと胸が高鳴るって言うシーンになるけど、普通にやったらドン引きもんだからな。ただしイケメンに、なおかつ気になる人に限る、と言う面食いギャルの妄想なのだな。それはそれとして二度と壁ドンを誤用しないようにな千空。世間は許そう、しかしオレが許すかな……?」

「くっそ早口で言うじゃん……」

 

 カナメ曰く、オタク文化を嘲笑っていた奴らが我が物顔で盗用して起源を主張している心地になるらしい。

 壁ドン過激派こっわ……、こいつの前では使い方間違えない様にしよう。

 正直どっちでも良いだろってのが俺の考えであるが、それを口にすると面倒になる気配しかしない。

 地動説が事実なのに天動説が広まってるのを嘆くガリレオやニコラウスみてぇな心境なんだろうか。

 ……いやまぁ、なら少し分かるな、科学者の性が故に。

 

「まぁ、いいや。母屋は水車から離そうか。なら必然的に騒音が発生する鍛治工房は併設だね。水力動力のハンマーは必要になるだろうから離したくないし」

「だな。母屋から少し離れた場所、洞穴への方向に科学工房を置くか。まぁ、暫くは石化復活液の研究になるだろうけどな」

「あ、お風呂で思いついたんだけど、硝酸って水で薄めると効果下がる?」

「あ゛ー……、言いたい事理解したわ、確かにな。原液定点付与よりも硝酸風呂に入れて全体腐食させた方が効果あるかもな。ただ、石化復活のメカニズム次第では逆効果になるが」

「石化エネルギーが復活を邪魔してるパターンなら有効で、卵の殻みたいに閉じ込められてるパターンなら効果が薄まるだけ、か」

 

 ……カナメの勘は嫌なくらいに当たるからな。

 石化現象をカナメらしく説明するなら、石化デバフが掛かっている状態なのだろう。

 俺たちの復活時に肌表面だけに薄い石化層があった事から考えられる事は、石化状態に複数の状態がある可能性が高いと言う事だ。

 全身が石化しているのを割れた断面から窺える石像があるように、全身石化状態のAパターン。

 肌表面だけが石化していて中身はコールドスリープ宜しく細胞が停滞して老化していないBパターン。

 そして、石化状態の強弱により上記のニパターンを行き来しているABパターン。

 

「けど、Bパターンだと人に内在している微生物は動く事になるよね。人間とは別のジャンルな訳だし」

「確かにな、石化光線が対象を選ぶならそうだ。実際、撃ち分けは可能の筈だ。世界中で石化したツバメが見つかっているからな。周波数みたいに石化対象に波長を合わせるだとか制限は何かしらある筈だ」

「じゃあ、その周波数的なのは石化対象へのマーキングとかで……。ん? 緑の光線が石化のアレだったなら、光の速度で辿り着く訳だし見てから防御態勢なんて取れなくない? 光の速度で石化された事はあるかい、って事でしょ?」

「つまり、あの緑色の光が周波数と言うかマーキングで、続く何かが俺たちを石化した、って事か……」

 

 成る程、あの緑色の光こそが石化現象のそれだと思っていたが、カナメの推測通り見てから守るだなんて行為は間に合わない筈だ。

 緑色を見た瞬間に石化していないとおかしいんだからな。

 つまり、緑色の光そのものでは無い可能性は高く、下手すると無味無臭で不可視の何かが石化現象を引き起こしたのかもしれない。

 また緑色の光に見えたものが直接的な原因なら、ツバメが石化する時に観測されていないのは不可思議だ。

 つまり、ツバメは不可視の何かにより石化された可能性が高い。

 

「カナメ、ツバメが石化する瞬間とか見てないよな」

「無いねぇ。そのツバメがなんか関係ある感じ?」

「あぁ、つっても喉に刺さる小骨みてぇな疑問だがな。世界中でツバメだけが石化していた現象、人類総石化現象を引き起こした奴の最初の犯行と言えるそれを誰も見てねぇんだよ。凡ゆる機械にも緑色の光なんざなかった」

「んー……? 単純に出力の問題じゃないの? 人間ってツバメ何羽分よ」

 

 ……撃てば響くとはこの事だな。

 成る程、出力か……、ツバメの体躯なんざ足と変わらねぇくらいだ。

 その何倍もある人間を石化するなら、それ相応の出力が必要になるってのは合理的で納得できる。

 しかし、緑色の光には石化能力は無い、故にその石化物質Xを活性化や増幅させるのが緑色の光の真価と言う訳か。

 

「……ワカンネ。謎の異星生命体とか宇宙の謎由来の物体Xとかじゃねーのもう。千空の知識で分からないなら、そもそも地球で判明してないナニカだった、みたいなオチの方が納得できるんだけど」

「悔しいが、いつかぜってぇ解き明かす」

「男の子してんねぇ、んで、結局大樹は硝酸浴で良いのかな?」

「……そういや、復活した時に周りに誰も居なかったよな?」

「へ? まぁ、うん、隠密に特化してたりしない限りは誰も居なかったかな」

「つまり、俺たちは自然復活してた訳だ。カナメは産地直送だが、俺は雨か何かで硝酸を浴びてる。んで、一番最初に石化が解けたのは頭からだった」

「ふむふむ、……成る程、分かったぞ、そう言う事だったんだな」

「それ分かってない奴が言うやつだろ。……はぁ、一箇所が崩れたら連鎖的に石化から解放されるって事だ。お前の症例がよっぽど顕著だろうが。全身に必要ならカナメは復活出来てないだろうが」

「そゆことか」

 

 恐らくだが、体の微量金属元素で作った保護膜のようなもので、元素の位相を謎原理でズラしてるんだろうな。

 マジで謎原理で意味分からんが、案外カナメが言ってた様に未知の宇宙物質だったりしてな。

 と言う事で大樹への硝酸点滴は変わらず額に受けて貰い続ける事になるのだった。

 

「んで、お風呂なんだけどさ。檜で良いよね、あそこに生えてるっぽいんだけど」

「待て待て待て、お前まさかガチの風呂を作ろうとしてんのかよ。ウッドアッシュでセメント加工した掘った穴に水と焼けた石で良いだろうが」

「やだ!」

「一番説得し辛い返答しやがってからに……」

「足を伸ばせるようにして欲しいのと、シャワーも欲しいな」

「……はぁ。分かった、折れてやるよ、俺も入りたいしな」

「やったー!」

 

 感情論でぶん殴って来た上に駄々っ子を畳み重ねられたら勝てる訳無いだろカナメに。

 曲げたくない事には徹底抗戦始めるタイプだからなこいつは……。

 土の上に満面の笑みで枝を使って設計図を書いていくカナメに微笑ましく思う。

 生理による不調も大分落ち着きを見せているようだし、何より頼まれちまったからなぁ。

 最終的に檜のしっかりとした風呂場を作る事を約束する事で、今は俺の提案した簡易的な風呂を採用と言う事になった。

 まぁ、カナメの場合普通に実用的で機能美な趣のある良い感じの物に落ち着いてくれるので助かる限りだ。

 大樹に図案のアイデアを聞いてみたら、デカくて凄いやつを頼む、だなんてド直球なお気持ちで返すだろうからな。

 

「これから毎日森を焼こうぜ、っと」

 

 風呂作りのために休憩拠点に戻って来てしまったが、下見は十分終えたので問題無いだろう。

 大分不穏な事を呟きながら木を火にくべていくカナメに呆れつつ、竹シャベルで長方形の風呂を掘っていく。

 カナメの腰から足までの長さが大体……、まぁ、一メートルもあればゆったりできるだろ。

 幅は肩幅よりも拳二つ分くらい大きくしておき、深さは石などの大きさを加味して少し深めにする。

 長方形の風呂場に繋がる様に焼けた石で水を温める場所も掘っておき、石を取り出しやすい様に浅く広く作っておく。

 風呂場の内側に平ための中くらいの石を木槌で埋め込んでいき、モルタルでその間を埋める様な形になる様に適当に並べていく。

 石を焼くための石積コンロを荒い粘土で土台を固め、上には何時の間にかカナメの作っていた平たい円状で穴が幾つも開けられている土器を設置する。

 穴が幾つも開いているので非常に効率良く焼けるだろう、多分炭の着火用に作ったろこれ。

 素材の所に四角いままに転がってるあれ、珪藻土を切り出したもんだろうからな。

 あれで七輪を作って炭で焼こうとしたんだろうが、金網は無いし肉は薄く切れないしで焼肉を断念した可能性が高い。

 幾ら黒曜石の切れ味が良くてもその厚さは誤魔化せないからなぁ。

 

「あぁ、それ? 焼き鳥作りたかったんだけど、鶏見つからないから見つかってからで良いかなって」

「焼肉じゃなかったのか」

「……復活してからほぼ毎日ステーキパーリナイしてるのにまだ肉食いたいの?」

「……ぶっちゃけるとちょっと飽きてきた」

「ですよねー……。そろそろ終わるから、海、行こうね」

「あぁ、魚食いてぇからな」

 

 カナメが作った大量の白い灰を水を入れて混ぜ、浮かび上がった炭酸カリウムなどを上澄みと一緒に取り除いてから沈殿した物を集めて一つに纏める。

 纏めたペレットを直火で焼いて、炎が酸素の薄いオレンジ色になるまで焼き続けたら水を張った小さい土器に入れて冷やす。

 土器の中で焼いたペレットを崩しておき、サラサラと乾燥させた川の砂を加えて練り混ぜる。

 そして、風呂のバスタブになる予定の場所に竹の表面を使って塗りたくっていく。

 

「千空! 竹の鏝で撫でた後は気泡とか入ってないか確認してね、んでもって表面で数回タップして上側にあった砂とかを沈殿させてね。ある程度乾いたらもう一度鏝で押さえてね、土間の基本だよ!」

「……この進捗だと夕方コースじゃねぇか?」

「風呂の方が優先でしょ?」

「……うっす」

 

 カナメの鋭い眼光に口を瞑んだ俺は黙々とモルタル塗りの作業に戻ったのだった。

 

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