石の上にも三千七百年   作:不落八十八

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 千空が手伝ってくれた事もあり、三枚打弓擬きの大部分が終わった。

 楔を入れて養生しているそれを見て千空は目を輝かせていて、やっぱり男の子だなぁと笑みが浮かぶ。

 さて、竹の工作をしていた事だし、そろそろこれも下準備しておくか。

 川原の方に向かい、トイレなどに使ってる手前側では無く、向こう側の方に先端を尖らせた中木を杭にするため打ち込む。

 でかい木槌で深めに打ち込んだら、住居に戻り、一週間ぐらい天日干しした小割竹の束をこの杭に引っ掛けていく。

 間違っても取れない様に紐でしっかりと固定すればオッケーだ。

 このまま一週間放置して柔らかくして漸く一番時間の掛かる下準備は完了となる。

 

「んー、竹紐も作ろうかな。麻は夏頃だからなぁ、収穫時期。そもそも見つかっても無いから皮算用だけども」

 

 河川敷とかで見つかった事例もある訳だし、この川に沿って探したら見つかるかもしれないなぁ。

 と言っても、確か実を付けると枯れるんじゃなかったかな麻とかって。

 そしたらやはり八月頃、早くても三ヵ月後くらいになるよなぁ。

 なので、麻の代替品として竹で紐を作ろうかなと思う次第だった。

 真竹を回収し、土器で煮れる大きさに切り揃えてから縦に割って外皮と内皮を取りやすくする。

 大岩の下でそこそこ大きな石を当てがってから、竹を石に押し当て動かない様にして表面の硬い部分である外皮を石で根気良く削り取っていく。

 竹はこのツルっとした外皮が一番硬いので、ノミの様な形の石で、気合っ、入れてっ、行きますっ、するしかないので普通に苦行である。

 しかし、これをしないと竹の繊維が取れない事は濾紙の時に散々失敗して学んでいるので、根気良く続けるしかない。

 ……これこそ千空に手伝って欲しかったが、千空はウッドアッシュで何やら工作中なので声は掛けなかった。

 必死こいて一枚二枚三枚と外皮を剥いでいき、内側も少し削って柔らかい部分を露出させる。

 はぁー……、これだけで時間がごっそり溶けていく、辛い、けどやるしかない、やっぱつれぇわ。

 金属工具があればもっと早いのになぁ、と弱音を吐きつつも黙々と続ける。

 

「くぅ~、疲れました。マジで疲れたわ、手がもう棒の様だわ……」

 

 ぷるぷると石を掴み続けて動かし続けた右手がもう限界に達していた。

 けれどもまだやる事はある、此処で終わってしまったら後日に回す事になるからな……。

 皮を削り終えた竹を今度は縦割りしていき、延々と二等分に裂き続ける。

 そのまま煮ても良いのだが、煮る時間に影響が出るので自分に対して心を鬼にして竹割りを続ける。

 

「……最初からこれくらいに割ってから削った方が楽だったのでは???」

 

 失敗から学ぶのはとても大事な事だが、可能なら先んじて閃いてスキップしたかったなぁ。

 いや、割り過ぎると握り辛いから八等分くらいの大きさでやるべきだったな。

 次回があればそうしよう、と失敗を胸に抱いて記憶に刻むのだった。

 住居のコンロを使うと夕飯が作れなくなるので、適当に石を積んで作った即席コンロで煮込み作業をする。

 土器を作る時に端っこで焼いていたカメノテの貝殻を砕いて、皮を剥いだ竹と一緒に煮込んでいく。

 確か、二時間から三時間くらい煮るんだっけかな……。

 薪を追加したら問題無さそうだし、別の事をやるかぁ。

 空を見やれば夕暮れにはもう少し時間がありそうだ。

 

「んー……、そろそろ風呂も使える様になるし、簡易的な納涼場所作ろうかなぁ」

 

 面倒だしもう全部竹で作って良いよな……?

 孟宗竹の長いのを根元で切り倒し、二メートル程に歩幅で測って印を付けて切り揃える。

 川に近く、それでありながら風呂場に近い、そんな中間の場所に一メートル×二メートルの長方形になる様に川原の石と砂利を掘り起こし、孟宗竹の柱を三十センチ程埋めてぶっ刺してから埋め戻して踏み固める。

 そんでもって孟宗竹を二メートルちょっとの長さで切り揃えてから縦割りした物を並べて、細い真竹で両端を上下から挟み込む様にして紐で縛り上げて固定する。

 この天井をよいしょと持ち上げてディスガイアの投げシステム宜しくぽいっと投げたくなるが、そんな簡単に乗っからないので横にして内側に入れてから持ち上げて片側に引っ掛け、残りをジャンプしてから動かす事で柱に乗っける。

 棒で下から場所を調整して、頑張れば転がせられる大きさの大石を動かして踏み台にして柱と天井を紐で縛る。

 

「ふぅ、あとは簾を作るだけか……」

 

 真竹の細いのを二メートルで沢山切り揃え、両端に紐を縛り付け、その紐にS字を描いて細い竹の端に紐を通し、折り返して反転したS字を描いて上で止めたら完成だ。

 これを風呂場のある方角の壁になるように天井に縛り付ければ、……そろそろ腕が、背中もきつくなってきたな。

 一応下も紐で柱に縛って風で動かない様にしておくか。

 後は適当な竹で雑に長椅子を作って中に入れておけば竹で作った納涼場所の完成だ。

 試しに中に入って座ってみれば、川の近くで気温が低い上に、日光を遮る天井と簾のおかげで大分涼しく感じる。

 

「ふへぇー……、此処で昼寝するのも良いかもなぁ」

 

 横たわって仰向けになると夕暮れの光量の少なさも相まってとても良い感じで眠気を誘う。

 ……っと、あっぶね、マジで寝そうになっていた、上半身を起こして寝ない様に首を横へ振る。

 流石に風呂に入る前に寝落ちはしたくない、今日は大分頑張ったし。

 起き上がって住居に向かうと香ばしい匂いが漂っていて、千空が夕飯を作ってくれているようだった。

 見やれば、猪の脂を多めに溶かして猪肉を揚げ焼きにしているようだ。

 揚げ焼きを終えた脂は野草と何時の間にか採取したらしいキノコの入ったスープに少し垂らしてアクセントにしているようだった。

 おぉ……、流石は千空だ、かつてオレがやった事を参考に編み出したんだろうなぁ。

 

「随分と美味しそうだねぇ」

「おぅ、揚げ物を食いたくなってな。これに塩を振って、どうよ?」

「いやこれ絶対美味いやつじゃん……」

「此処に米がありゃ文句無しなんだがな。イネ科だし川原を歩いてみたらワンチャン近くに生えてるかもな」

「または海から近くの淡水になった湖とか池の近くとかね」

「その可能性もあったな。……米食いたくなってきた」

「それな」

 

 やはり日本人は食事に脳を焼かれている人種なのだろう、遺伝子に一生消えぬカルマの如く刻み込まれているに違いない。

 米食いてぇし、肉も食いてぇし、けど痩せてぇのが日本人と言う生き物なのだ。

 東京でも米は作られていた訳だし、三千七百年も経って野生化して味も変わっているだろうが何処かに生えてると思いたい、切実に。

 

「燻製肉もあるし、野苺を乾燥させてドライフルーツにしたら携帯食はばっちりだね。気温にもよるけど一週間くらいなら片道分にはなるかな」

「最初は日帰りで確かめられる距離にしとくべきだな。大樹たちが復活したら本格的な遠征も視野に入れるぞ」

「そうだね。そしたら農耕と牧畜の場所を準備しなきゃだ。連れ帰って衰弱死とか目も当てられないし」

 

 硝酸洞穴付近の河原の近くに本拠点を作るとなれば、軽くて加工もしやすい竹で小屋を作るべきだろうな。

 そうなると大量の紐が必要になるので、その準備をするために草を刈らねばならない。

 ……とある素材を作るための素材を作るのに必要なモンスターをハムるみたいな苦行だぁ。

 滑車を延々と駆け抜けるハムスターの如く、素材集めをしなきゃならないんだが……。

 へへっ、1%以下の素材をハムるよりかはマシだよね、最低保証があるとか現実って神ゲーでは?

 ログインボーナスも詫び石も無いじゃん、やっぱクソゲーだわ現実。

 千空お手製の夕飯を食べ終えて一息吐いたオレに千空は苦笑していた。

 

「何で目が死んでるのかしらねぇが、お待ちかねの風呂の準備しようぜ」

「先行はオレが貰う」

「なんでTCG風なんだよ。まぁ、良いけどよ」

 

 風呂の準備をするために全速前進し、予め用意していた縦割りした長い竹をセット。

 そして、大石に置いて只管に川の水をそこに流す。

 千空からのストップが掛かるまで水を流したら、ひっくり返して内側が汚れない様にしておく。

 暫く置いて落ち着いたら水面に浮かぶゴミを捨てて、焼き石が焼けるのを待つ。

 

「そんじゃ、入れてくぞ」

「わーい!」

 

 竹のトングでぼちゃんぼちゃんと入れられていく焼き石を見送り、竹の端材で水を掻き混ぜてお湯の比率を増やしていく。

 

「……これ直接入れた方が早かったんじゃね?」

「……だな。すっげぇ時間掛かったわ」

 

 焼き石ぶっ込みゾーンは直ぐに温まったが、流入が手作業だった事や浅過ぎた事で地味に温まらなかった。

 次からはもう最初から風呂の方に入れて、温まったら此方に移す方針になった。

 んじゃごゆっくり、と一番風呂を譲ってくれた千空の背が住居の方に見えなくなってから、先に河原に行き身体をざっと洗ってからお風呂に入った。

 

「あ゛〜、良いお湯だぁ〜」

 

 ざぶんと頭を湯船に沈めて髪と頭皮を洗い、身体を擦ると予想以上に垢が浮かび上がっていた。

 毎日川で身体を洗ってはいたけど、お湯に浸かるとやはり隠し切れないもんなんだなぁ。

 ……この状態のまま千空にパスするのは不衛生だよなぁ。

 多分千空も似た様な事になるだろうし、竹トングで焼き石を再びコンロに置いて焼いておく。

 着ていた衣服を焼き石ぶっ込みゾーンに置いて汚れを落としてから汚いお湯を捨てる。

 水面に浮かんだ垢などを押し出す様に捨てて、もう一度頭を洗ってから外に出る。

 温かい身体と涼しい気温差で心地良いが、衣服の水気を手動サイクロン式で雑に切り、着用して何とも言えない気分になる。

 着替えている間に静まった水面に浮かんだ汚れを再度捨てて、川の水を足してから焼き石を放り込む。

 

「んー……、丁度良いかな。教訓になったなぁ」

 

 住居に居た千空に、川の水で一度洗う事とめっちゃ垢が浮く事を伝えてから暖炉コンロに当たる。

 ボケーっと暖炉の火がくゆるのを見つめていると、そこそこの時間を経てしっとりした千空が、先程オレが浮かべていた様な表情で隣の椅子に座り込んだ。

 

「……風呂は最優先だ」

「危険が危ないしね」

「ニュアンスは伝わった。まぁ、そう言う事だな。今の俺らに不衛生は死神の吐息に等しい。植物性石鹸で身体を洗える様にしねぇとマズいぞ……」

「だね」

 

 案の定、千空も垢に塗れた水面を目撃したらしい。

 お風呂関係でアップグレードできるものとすれば……ヘチマスポンジ、とか?

 ただこれも実が成る頃が九月であり、植え替えを考えるなら探しても良い植物だろう。

 本拠点の建築を早めないとだな、風呂だけ先に出来ても二時間徒歩は流石に湯冷めする。

 うーむ、もどかしいな、取り敢えずタスクとしては塩の生産と紐の生産が優先かな。

 そう結論付けて外で消石灰と煮込んでいた竹を取り出して、石の上で木槌で叩きまくる。

 こうする事で繊維に引っ付いた柔細胞組織をぶち壊し、後で水洗いする時に取れやすくする訳だ。

 煮込みが足りないな、これを洗って繊維だけにはならない。

 二回か三回かはこの木槌でぶっ叩くのをした方が良いかもなぁ。

 再び竹を土器に戻してから薪を追加しておいて、確認は明日の朝でも良いかな……。

 ……そういや、植物性石鹸に貝殻と海藻が必要だった気がするなぁ。

 海水を煮詰めながら海藻を回収してカメノテを乱獲して貝殻を奪わねばならない訳だ。

 いっそ、カメノテも天日干しにして保存食に加えてしまえば良いのでは?

 燻製猪肉、ドライ野苺、干しカメノテ、……水で煮れば立派なスープだなぁ。

 

「やる事が、やりたい事が多過ぎる……、嬉しい悲鳴と言うべきか」

 

 何も出来ないで詰むよりかは遥かにマシだからね、仕方が無い。

 冬に至るまでにどれだけ蓄えを増やせるか、と言うスタートラインに早く立たねばならない。

 今、貯蔵している物は一ヵ月が精々であり、冬の期間を乗り越えるためのノルマには到底足りない。

 干しカメノテの様に、数ヵ月は保つ物をもっと増やさないといけない。

 そのためには遠征や周囲探索の範囲を広げないといけないが、それをやれる人間が居ないと言うジレンマ。

 冬の間に雪が降るのか降らないのかで難易度は変わるし、最悪を想定して降ると仮定すれば準備を早めないといけない。

 塩漬けは諸刃だからなぁ、塩分の取り過ぎで成人病とか笑えないからな。

 ……本拠点の住居の中に井戸とか掘れたりしねぇかなぁ、川がもしも凍った場合に備えて地下水を得られるようにしてぇ。

 それに、井戸の水は地上の水よりも冷えているので、夏までには作っておきたいな。

 …………やる事が増えてしまった、うごごごご、けどやるしかねぇ、やるしかねぇのだ。

 思い付けただけマシと考えるべきだろうな、マジで。

 それならもう、開き直って氷室も作る事を考えよう、ふへへ、仕事が増えるよ、やったね。

 前に考えた冷暗所のアイデアを流用して、最後に上に天井を着けて埋めてしまう形にして一室作ってしまうのだ。

 そして、井戸と冷暗所と氷室に別れる様に作って地下空間の涼しい環境を活かす。

 なお、それに掛かる労力は考えない物とする、ぐへぇ。

 一度作ってしまえば半永久に使えるので、作る価値はありますぜ、と言う感じだ。

 ふへへ、実に生きてるって感じがするぜ、死神の靴の音が遥か遠くから聞こえるくらいになぁ。

 ……はぁ、千空が居てくれて本当に良かった、科学方面に超絶明るいからな、安心感が凄い。

 本拠点さえ拵えてしまえば後はもう千空の独壇場と言える発展を魅せてくれる事だろう。

 そのためにも、オレはオレのやれる事をせねば、千空と言う主人公の道標に縋って生き延びるために。

 

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