石の上にも三千七百年   作:不落八十八

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「んで、この後どうするよ」

「寝床作りかなぁ。暗くなったら詰むし、夕飯集めと役割分担する?」

「定石だな、んじゃ夕飯宜しく」

「うぃ、まぁ期待せずに待っててくれたまへ」

 

 白發中と言う野生味溢れる少女にして、中学校からの悪友が、こんなに早く合流する事は正直考えてすらいなかった。

 恐らくながら復活する場所が好条件だったのだろう。

 今の所石化現象の仕組みや目的、その復活方法に当たりを付けられてないが、夕飯辺りに話し合えば取っ掛かりくらいは思い付くだろう。

 誰が呼んだか生粋のギャンブラー。

 そこらの男よりも男らしく、女子共からはスパダリガールだなんて呼ばれているカナメは勝負勘が鋭い。

 何せ、俺をセリヌンティウス宜しく人質にした闇麻雀に連れ込んだかと思えば、雀荘を潰しに来たヤクザ連中を真っ向から叩き潰す程に賭け事に強かった。

 本人曰くこんな名前してるから麻雀にゲン担いでるんだろとの事だが、こいつの才覚は賭け事、いや、勝負事全般に渡る。

 何となくでじゃんけんに全勝する奴なんて普通に居ないんだわ。

 すわ動体視力かと当たりを付けて対策するも意味を成さず、後出しジャンケンをしてみればイカサマを見破られ、大樹と杠を連れて挑戦するもするりと一抜けする始末。

 故に俺と似た様な環境で復活していた可能性は高い。

 勝負運、つまりは悪運にも優れている訳で。

 葉っぱのビキニ擬きで森林に歩いて行った背中を見送る。

 

「はぁ、此処に体力馬鹿が入れば効率馬鹿上がりなんだがな」

 

 大木大樹、小学校からの友人であり、底無しの善性の男。

 俺が復活した近くにそれっぽい腕が地面から生えてたので、居場所の特定からしなくて良いのはおありがてぇばかりだ。

 しっかし、大樹と俺の位置は近かったのに関わらず、同じ時期に復活しなかったのはなんでだ。

 比較的俺は地面に埋もれずに露出していたが、大樹は見ての通り埋まっていた。

 

「っと、先に寝床だな。ついでに火の準備もだ」

 

 思考に没頭して夕暮れを越えてしまえばカナメにどやされる。

 あいつは性に寛容でサパっとした性格の奴だが、料理に関する感情が地味に重い女だ。

 料理に調味料を掛けるのは許容できるが、好き嫌いを理由に残したり悪態を吐くと露骨に機嫌が悪くなる。

 百夜不在の食事の経験から食を栄養補給と蔑ろにしていた俺はそれはもうおありがてぇ程に矯正を受けた。

 ……そして、食事を誰かと共にする大切さも学んだんだっけな。

 寝床の位置は水源の近く、この川原付近で取り敢えず作っておけば良いだろう。

 そのためにも色々と利用価値のある紐を作るべきか。

 お手製の石斧を掴んで森林へ入って背の高い雑草を刈り取っていく。

 その中で解す事のできる奴を見繕ってある程度の量を確保して解して捩じっていく。

 手芸部の杠が居れば手早くやったんだろうなと思いつつも無心になって植物性の紐を生産していく。

 そうして出来上がった紐を弓状にしなった枝の両端に組み合わせ、良い感じの細く硬い棒とセットで置いておく。

 火起こしはカナメにやらせれば直ぐに点く事だろうしな。

 

「寝床、寝床か……。俺だけなら適当でも良かったんだがな」

 

 一応カナメは女であるし、性的な視線にも動じないタイプではあるがプライバシーは守られるべきだろう。

 大きな樹木が近くに並ぶ場所を探し、植物紐を頭上に通してカーテンレール擬きを作る。

 近くの草むらから蔓状の植物を拾って来て紐に掛けて行き、下も結んで骨組みを作る。

 そしたら葉っぱの多い細枝を探し集めて縫うように下から積み上げてやれば緑のカーテンの出来上がりだ。

 これを仕切りにして衣服の交換などをすれば良いだろう。

 

「……竈も作っておいてやるか」

 

 川原から石を拾い集め、地面の表面を掘って土を剥き出しにさせた所に良い感じに積んでいき、風防を兼ねた積み石による原始的な竈が出来上がった。

 上を見やれば良い感じに夕暮れ時であり、乾いた枝を探してくれば丁度良い時間になるだろう。

 そう思って寝床から出て枝を拾っていると、ひぅんひぅんと風を切る音が聞こえて短い断末魔が響いた。

 見やればカナメがツタを束ねた投石器によって石を発射し、兎を仕留めている場面に出くわした。

 ……自然への適応性半端ねぇなおい、と思いつつ兎を拾い上げて首を黒曜石の小さなナイフで掻っ切るのを見てしまう。

 あぁ、うん、運が良いもんな、そりゃ黒曜石の欠片くらい拾ってるよなお前なら……。

 血抜きをし終えた兎二羽と毒見済みの木の実を持って来たカナメは意気揚々の様子であり大変ご機嫌だった。

 

「いやぁ、猟友会のじっちゃんに色々と教えて貰ってたのが功を奏したぜ。兎の捌き方も習ってるからな、貴重なタンパク質ゲットだぜ」

「おありがてぇこった。……しかし、お前兎食えたんだな」

「ん? あぁ、見た目がって事だろ。いやぁ、猫なら兎も角、兎なら別に気にしないかな」

「そーかい……。ほれ、火を起こすならこれを使え」

「おぉ、弓キリ式だっけか、なんか前に縄文時代のビデオで見た事ある奴だ」

 

 乾いた枝木を重ねたお手製竈の前で、石斧で縦に割った半円の木板の上で火起こしを始めたカナメはあっと言う間に種草に火を点けて竈に点火していた。

 半分に割った石をフライパン代わりに熱し、解体された兎の肉がじゅぅじゅぅと焼けていく。

 木の上で此方を見ていた野生の猿たちが何処か物欲しそうに見ていたが、俺らは知った事では無いとそれに喰らい付いた。

 塩が無いから素朴な味だが、脂肪から溢れ出る肉汁が満足感を与えてくれる。

 

「んー、塩気が欲しいなぁ。あぁ、千空。多分だけどあの川の方向に沿って洪水か何かで流されてるっぽいから、ある程度の地理は同じだと思うぜ。地殻変動とか火山噴火が起きてたら地中で化石だっただろうし」

「ふぅん、確かにな。上流に登って行けば街の跡に辿り着く訳か。そういやお前は何処で復活したんだ?」

「あっちの方の崖の下だな、ちょうどそこに引っ掛かって難を免れたっぽい。近くに居る石像の容姿が外の、学生以外の年齢層っぽかったからあそこまで流されたんだろうな。防御姿勢取ってたからコロコロと転がりやすかっただろうし」

「他に近くに何か無かったか? こっちの方は洞穴があったが」

「あ、真上が鳥の巣地帯だったな。オレのっぽい石像の欠片が酷い有様だったぜ」

 

 鳥の巣、そして鳥の糞、か。

 はぁん、俺の近くにあった洞穴には蝙蝠が沢山住み着いてやがったし、糞から成る物とくれば硝石、つまりは硝酸。

 方向的に洞穴に溜まった硝酸が雨か何かで外に流れ出て俺に行き当たったんだろうな。

 実際俺が復活した時に足からではなく頭から罅割れたのもきっとそのせいだろう。

 

「なんかわかった?」

「あぁ、多分硝酸だな」

「硝酸、あぁ、織田信長が死体から硝石作ってたっけな」

「何処情報だよそれは。いやまぁ、昔にそう言う製法してたみたいな話は聞いた事はあるけどよ……」

「んで、その硝酸があれば復活する感じ?」

「多分、な。復活するまでに何か感じた事はあったか?」

「んー、真っ暗闇の中でずぅーっといしのなかにいる状態だったから何とも。あぁ、寝落ちしないように歯を食いしばってたくらいかな、アニメや漫画とか思い出してたけど底を突いて途中からずっと数字数えてたし」

「へぇ、お前も起きてたのか」

「千空も? あぁ、三千七百年のソース何処だよと思ってたけどそっからかぁ、ようやるわ」

 

 お前も大概だって気付いてないんだろうなぁカナメだし。

 俺とカナメの共通点、それは硝酸を浴びていた事と意識を保ち続けていた事。

 もう一人くらい復活している奴が居たら方向の舵を切れるんだがな。

 

「それじゃぁ硝酸を集めて石像にぶっかけてみるのが良いかな」

「そうだな。恐らく大樹っぽい腕を俺の復活ポイント近くで見つけてるから掘り返すぞ」

「良いね、大樹が居たら力仕事が楽になるから建築に入れる。あぁ、それで何だけど遠征する時さ、スーパーがあった所辺りを探しに行っても良い?」

「ぁん? 見ての通り大概のもんは使えなくなってるだろ」

「生鮮品を取り扱ってたんだから野菜の種とかから群生してる可能性あるじゃん? ワンチャン欲しいものがあってさ」

「んー……、大豆か?」

「正解。いやほら、日本人だからね、味噌と醤油は欲しいなぁって。それに肉野菜って呼ばれるくらいタンパク質もあるし、冬の巣籠りには必須かなぁって」

「冬? ……確かにな。あの頃じゃあり得ないが、どっからか流れて来た種子が育ってる可能性は十分に在り得るな」

 

 そうだな、早期に冬支度を整えるのも必須か。

 大樹が硝酸をぶっかけて戻らなかった可能性を考えれば俺とカナメだけで冬を越える事になる。

 硝酸は直ぐには溜まり切らないだろうから土器を作って溜めとかねぇと駄目か。

 いや、点滴とばかりに硝酸が落ちてくる場所に大樹を放置しても良いのか。

 あいつが未だに意識を保っているかは賭けになるが、俺らと同じ条件で早急に復活できる可能性はある。

 

「因みにカナメ、洞穴の硝酸が落ちてくる場所に大樹を放置してたら復活すると思うか?」

「んー、復活するんじゃね? 多分だけど硝酸が石化肌と反応して何かしらがマリアージュして復活に至るんだろうし。それに、石化してる時は中身も石になってるみたいだから浸透する量も重要になるんじゃないかな。流された時に砕けたっぽい石像がちらほら有ってさ、大体身体の全身が石化してるのは間違いないっぽい。まぁ、全員を調べた訳じゃないから何とも言えないけど、最終的にはそうなるってのは間違いないかな」

「へぇ、そうだったのか。となると復活した時に肌の表面に取り付いてた奴しか残ってないってのは……」

「卵の殻みたいに内側から戻ってたとか? まぁ、それだと何で三千七百年も生きてたのか分からないけど」

「……コールドスリープならぬフォッシルスリープって訳か。実際成功例は無いが精子の冷凍保存は成功している訳だからな、完全凍結の方よりも冬眠に近い方法での低温保存はそれなりに成功例はある。意識を保っている場合だと冬眠に近い状態で正しく卵の殻の様に生身の身体を残して老化を防いでいた、みたいな可能性はあるな。逆に意識が無いと身体が完全に石化して完全石化式のフォッシルスリープになる、とか」

「ふーむ、絶滅させるための石化じゃなくて、状態保存のための石化みたいな感じで起きたんかな?」

 

 ふと、カナメの言葉で思い出した事があった。

 辺りを探索している時に石化現象を引き起こした原因Xの目的を考えていた事だ。

 宇宙人の科学攻撃説やどっかの国の軍事兵器説やら新種ウイルス説を思い浮かべたが、どれもしっくりこなかった。

 だが、もしも種の保存、人類の保護のために引き起こされたとすればどうだろうか。

 俺とカナメの様に三千七百年を経て復活している事例から、生きたまま石化していると言えなくも無い。

 と言っても何から守るためだったのか、となるとこればかりはフィールドワークが必要だろう。

 だが、隕石は先ず無い、それだったらもっと悲惨な事になって形が残っている訳が無い。

 大型地震による洪水、耐えうるだけのシェルターを各地に作るだけで事足りる。

 

「もしかして、不老不死の研究でもしてたんかね。意識がある事を生きていると定義すれば、確かに不老で不死ではあるし」

「……は?」

 

 カナメのその何気ない一言で、かつての前提が、誰かからの攻撃であると言う考えが崩れ去った。

 そうか、石化状態を死なない状態であると定義すればコールドスリープのそれと同じ理屈だ。

 どちらも長い年月を生き延びるための老化予防対策だ。

 実際、三千七百年と言う時間経過を俺たちはクリアして五体満足で生き延びている。

 不老不死の研究のために石化現象を研究していた、成程、確かに可能性は高い。

 石化現象のために必要なエネルギーが高く、融点を越えて暴走した事で世界中に撒き散らされた。

 ……いや、それはおかしい、ならなんでツバメが、世界中のツバメだけが石化していた?

 もしかするとその石化現象を引き起こすマシーンか何かには周波数的な物があり、それを調整していてツバメだけが石化していた?

 つまり、これを引き起こした奴は個人ではなく、世界中をターゲットにしていたと言う結論になる。

 手始めにツバメの周波数で世界中のツバメを石化させ、準備期間を経て人間の周波数に切り替えたそれをぶっ放した。

 それならば野生動物が闊歩しているのも当然だ、何せ石化していたのは人間だけだったんだからな。

 

「いや、石化を免れた人間が居た可能性もあるか……」

「そういや、百夜さんって当時宇宙に居なかったっけ? あの緑のって宇宙にも飛んでたりしたのかね」

「どうだろうな……。もしかしたら今も宇宙軌道に居るかもしんねぇな」

「うひゃー、それじゃ大変だな千空。宇宙に百夜さん助けに行かなきゃじゃん」

「……そうだな」

 

 無邪気に言うカナメの言葉に籠る期待の色とは裏腹に、俺の脳裏では最悪の答えが導き出されていた。

 それはカナメの疑念通り、宇宙に居た百夜たちが難を免れて誰も居ない地球に戻って来ていた可能性を。

 仮に、この可能性が当たっていたとすれば……、もう百夜には会えない。

 顔に出ていないと思っていたが、訝し気な表情を浮かべたカナメの様子を見て勘が鋭過ぎると苦笑いが浮かぶ。

 

「……すまん」

「いや、後々になって気付くよりかは良かった。三千七百年だもんな、流石に無理があるだろ」

 

 同じ考えに至ったらしいカナメはバツの悪そうな顔で、自分の分の兎の肉を俺の方に寄越していた。

 これでも食べて元気だしなと言わんばかりの表情であり、やはりこいつ野生に若干還ってないかと不安になる。

 いや、昔からこういう奴だったな、美味い物を食べたら国士無双級にハッピーだなんて叫ぶ奴だし。

 

「千空、この問題は今はシュレディンガーの猫みたいなものだ。だから、どちらに転んでも大丈夫の様に心構えをしておこう。……ぶっちゃけ、オレの家族も生きてるか分からんし。流された時に身体がバラバラになってたら、硝酸を掛けても元にはきっと戻らない。そう言う可能性だってあるんだって事を今の内に心の内に秘めておこう」

「……だな。お前が居てくれて良かったよ」

「此方こそだ。千空と言う科学チートが居てくれるんだからな、いざと言う時も安心だ」

 

 ……まぁ、こいつ理数系壊滅的だからな、その分文系に偏ってるんだが。

 カナメの発想は理系の頭をしてる俺には無いものだ、ある意味値千金と言って良い。

 もっとも、どっちかと言うとこいつの勝負運の強さに助けられる事が多そうだけどもな。

 




このオリ主原作知らないとかマ? と思う方も居るだろうけども、初期の段階で文系の奴が居れば頭の回転が速い千空なら容易に辿り着いていた説。
なおこのオリ主に勝負運チートは無く、単純に運が良いだけのゲーム脳思考のオタク系パンピーです。
ぶっちゃけ、運が良くないと洪水あたりで砕けて死ぬよね、っていうご都合主義です。
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