……湯船に漬かりながら夜空の星を見つめ、心頭滅却の心地で無を感じる。
カナメの事だ、男友達感覚で俺を頼りにしているからあんな事を言ったのだろう。
だが、自分の優れた容姿を客観視してから言って欲しいんだがな、マジで。
あいつは自分の事をちんちくりんだの貧相だのと卑下しているが、比較対象に杠を選んでるからだ。
すらりとしたスレンダーなスポーツ体型と言うべきか、幼児体型と言うよりも痩せ型と言う印象の方が強い。
ほっそりとした筋肉質な体躯で身体能力は平均以上と言うべきで、体力測定では上位に入っているのが常である事を加味するに特化型ではない万能型タイプと言える。
長距離も短距離も専門とする陸上部員の後追いができるポテンシャルと言う時点で、麻雀好きと言うインドアな趣味とは掛け離れたアウトドア適正を持っている。
顔は可愛いと言うよりかは綺麗の分類で、活発的に運動しているからか丸顔ではないモデル系。
男勝りを越えてオジサン臭さのある性格ではあるが、コミュニケーション能力は人並みにちゃんとある。
あの良く分からんネットミームスラングは俺や大樹に杠の準幼馴染と言える人物にしか披露していないようで、他にはスポーツ系王子様な猫を被っているのが特徴的だった。
……まぁ、素の性格で何事も言い合える仲であるからこそ、先程のアレが引き起こされたのだろうけども。
「はぁー……、勘弁しろよ、確かに俺はそう言う欲求は人並み以下だが、あるにはあるんだからな……」
普通に女性を魅力的だと感じているし、無論、性的に感化される時もある。
通い妻めいた幼馴染悪友ムーブを仕掛けてくるカナメの無防備さに頭を抱えた日だってあったくらいだ。
あいつは自分の事を下に見過ぎであり、魅力的な少女である一面から目を逸らしているせいで距離感が近い。
……はぁ、あんな顔されたら反応するに決まってんだろうが。
なに赤面しながらニヤケてんだ、嫌悪感見せろよ脈ありだってばらしてるようなもんだろうがよ……。
滅多に赤くならない顔が今でも熱い、いや、風呂の温度が高いせいだ、そうに違いねぇ。
二人っきりってのが悪ぃんだ、早く大樹と杠を復活させねぇと理性と情緒と倫理感のピンチだ。
ったくよぉ……、周りの奴らと違って善意と友情で接してくるお前を好意的に思わない訳ねぇだろうが。
「……考え続けるとドツボにハマる気がする、思考打ち切り、別の事を考えろ俺」
で、だ。
本拠点制作に使える様に捩じり編んで完成させた竹紐で脚立や梯子を作ったのは良いが、あいつの進捗の速さのせいでお役御免になってないだろうな……?
此処の住居を作った時の経験で速度が上がっているんだろうが、根伐りどころか暖炉と煙突まで作っているだなんて誰が思うかよ。
いや、待てよ、あいつの性格の事だ、本当に今日やった事だけを羅列していた可能性は高い。
となると暖炉コンロが必要になるエントランス、いや、リビング部分だけ作っていたと考える方がそれらしい。
「本拠点か……」
食事を作り、寝る場所があり、食べ物を保管できる、最低限でもそれだけあれば機能するだろう。
風呂から上がり、浮いた汚れを掬い取ってから焼き石を最大数焼き、風呂に落してお湯を沸騰させてその場を離れる。
明日になれば半分以下になっているので掃除の時に掻き出しやすい量になる訳だ。
完全に水を掻き出せないので煮沸消毒も兼ねているが、屋外にある時点でどうなんだろうな。
洗った衣服を着直し、住居に戻れば既にカナメは寝ているようで寝息が聞こえていた。
暖炉に薪を足して、それなりの温度を保ってから衣服と髪を乾かしてぼーっと呆ける。
常日頃から何かを考え続ける日々を過ごしていたが、何も考えずにくゆる炎を見続けるのも意外と飽きないものだ。
太めの薪を足して、竹ベッドに寝転がると真横からカナメの寝息が聞こえてくるようになる。
……これで意識せずに居ろと言うのは無理がある、本拠点には自室を付けるか、寝室は離すべきだ。
明日になったら一度間取りについて話してみるか、目を閉じて寝息をBGMに意識を――。
「おはよう、千空。朝ごはんそろそろできるよ」
「……あ゛ぁ、助かる。おはよう」
翌日、昨日の一件を引き摺って無さそうな顔でカナメがのほほんと笑みを浮かべる。
ほんっと、こいつの神経の図太さは真似してぇもんだわ、と内心に隠して挨拶を返す。
川に行って顔と頭を洗ってから住居に戻り、竹机に並ぶ朝食に手を合わせる。
豚汁の味噌抜き汁に焼いた燻製アジと言う朝っぽいメニューに舌鼓を打ち、会話を振る。
「そういや、本拠点の間取りはどうするつもりなんだ。今はリビングと入口だけなんだろ?」
「うん、入口から見て左右に部屋を作る予定だよ。左に寝室、右に食料庫兼冷暗所って感じに」
「ほぉん……、寝室は個別か?」
「へ? いや、四人で暮らすなら雑魚寝で良いかなって思ってたんだけど」
こいつ、俺と大樹と杠の共同生活を前提に考えてやがるな。
他の奴を復活させた後の事を全く考えちゃいないようだ。
いやまぁ、石化復活液が完成していない以上、そこまで頭が回っていないと言うよりも現実的な人数キャパで制限していると言った方が良いか。
……大樹と杠、そしてカナメとの共同生活か。
ふっと笑みが零れるくらいに、夢と希望の溢れる状況だと感じてしまう。
きっと騒がしいんだろうな、と予想できてしまうくらいに現実的な将来設計だった。
「石化から復活するための量がどれくらいになるかも分からんしな。生活基盤がしっかりするまでは四人で十分か」
「うん、それに見知らぬ人が居るとなるとストレスマッハだからね。適当な場所を作るまでは増やさないで欲しいなぁーって面倒だし」
「……うん?」
今、カナメらしからぬ言葉を聞いた気がするが、気のせいだろうか。
……いや、マジで言ってるなこいつ。
そうだった、カナメは身内主義だ、グループ形成している俺らなら兎も角、知らない誰かとの生活なんてそもそも考えてない節がある。
それこそ、住める場所を作ったから君らはそこで暮らしてね、と他人扱いしてても可笑しくない。
俺と大樹と杠のグループとそれ以外、だなんて分け方をしているに違いない。
おいおいおい……、そうなると第二グループにある程度自活できるリーダー格を置く必要が出て来ないかこれ。
ある程度不和が出ない様に立ち回るだろうが、心開くまでめっちゃ時間掛かりそうだなこりゃ。
「あ゛ー……、カナメ」
「ん? なんぞ?」
「カナメ的に、大樹や杠以降の復活はどれくらいの時期に考えてる?」
「んー、二年後の春とか、食料の生産が整うまでは別に要らないんじゃないかな」
……まずい、こいつ俺ら以外の人間をマジで人員としてしか見てねぇ、コロニーゲーの感覚だわこれ。
人手が必要だから仕方なく復活させるけど、個人的には居ても居なくてもいいやくらいの感覚だなこれ。
思わぬ所でカナメのドライさを垣間見たと言うか、人類の復活を長期的に、それも次世代に投げようとしているのが透けて見えるぞこれは。
いやまぁ、俺にあそこまで厳しく言ったカナメだ。
俺以上に社会コミュニティを作る事に対して色々と考えているに違いない。
全員が全員復活に肯定的ではない、老若男女問わずに悪人が出る、と言うフレーズからして、色々と考え過ぎて人間不信のきらいが見えてるなこれ……。
極まった身内主義もこうなれば恐ろしいものがある。
つまり、大樹と杠以降に復活させるべき人間は、自立して新たな村を任せられる様な人物である事が望ましい。
今の状況では知力よりも体力や武力を持っていて、尚且つ善人思考であると尚更に良い、と言う感じか。
居るのかそんな奴、少なくとも俺の知り合いには百夜くらいしか該当する奴居ねぇんだが。
……まぁ、大樹や杠の伝手に望みを掛けるか、最悪有名人を探すのも手ではあるし。
「そうか。そしたら農耕や酪農も本拠点に作るべきだな」
「そうだねぇ。お米とか小麦は高望みだけど、蕎麦とかじゃがいもは植えたいねぇ。家畜にされてた羊は望み薄だけど、ヤギとかは野生に居るだろうし高い場所とか探しに行きたいね」
「そうだ……は? 今蕎麦って言ったか? 何処で見かけたそんなSSR食材」
「え? いやほら、あっちの本拠点の方の森の方で白い小さな花が見えててさ。時期的にもしかしたら蕎麦かもなーって、期待してただけだよ」
「確認はまだしてない、って事か」
「うん。食べられる野草は知ってるけど、逆にポピュラーなのはうろ覚えなんだよね」
可能性の話だが、もしもそれが本当に蕎麦なら恒久的に栄養価のある食材を手に入れられるチャンスだ。
蕎麦は大体八十日程で実を付ける一年草で、年に二回、いや、三回は見込める。
カナメは十割蕎麦を打てるやべー調理技術持ちだからな、こりゃ探索する時が楽しみだな。
「あ、そうだった。炭を作るための炉も作りたくてさ。炭さえあれば色々と便利になるから良いよね?」
「当り前だ。むしろ、青銅、そして鉄を得るための必須アイテムだからな。流石にそこらの薪じゃ効率が悪ぃ。水車で風を送るにしても燃える物がイマイチじゃ熱も上がりづれぇからな」
「そっかー、良かった。そしたら水車の位置に合わせて炭炉を作らなきゃだね。その時についでに蝋石から作った耐火煉瓦なんかも作って、本格的に高炉を作ろうね。そして、鉄のフライパンと玉鋼の包丁を作るんだ……!」
「……だな、お前の料理がもっと美味くなるだろうからな、実に楽しみだぜ」
「へへへ、褒めても実益しか出ないよ」
「十分だろ」
そうはにかむカナメに肩を竦めて苦笑を返した内心で、鉄を欲しがっている理由に見当が付いた。
漆に鉄を混ぜた黒漆が欲しいんだろ、鎌倉時代の武士が使ってたって言う重籐弓を真似るために。
金属工具が手に入れば、妥協した作品と言っていたあの三枚打弓とやらを越える弓胎弓に使う木材を加工できるからな。
弓胎弓+黒漆で作った和弓の最終形態を作ろうとしてるのが雰囲気でバレバレだっつーの。
接着剤に使う膠だけだと腐って耐久性が悪いからな、漆を防腐剤と耐久性のために使うのは目に見えている。
朝食の片付けをした後、カナメは俺に一言断ってから竹紐を一部持っていき、捩じり上げる様に細い糸を紡ぎ始めた。
同時に膠を湯煎し始め、素材保管庫から小さな土器を持って来ている辺り用意周到だ。
竹の糸を膠でコーティングしてから竹にピンと張って乾かして、硬くなったそれらを縒って細い糸から紐に縒っていく。
小さな土器に入っていたのは、やはりと言うべきか薬練であり、聞けば竹を焼くと断面から竹瀝と言う竹の脂が出てくるらしく、これで松脂を煮て作ったのだとか。
「本当は淡竹で作るのが一般的なんだけど、孟宗竹と真竹しか見つからなかったからねぇ。炙って出てくる竹の油は抗菌性が高いから石鹸に少量混ぜるのも良いかもね。ただ、撥水性が凄いから量を研究しないとだけど」
「へぇ、そうなのか。こいつで料理とかは……、あぁ、うん、駄目そうだな」
「これね、一回で取れる量が半端無く少ない上に見極めが大変なんだよ。少しでも焦げたらそのまま竹着火ファイアーだから。そんでもって匂いがちょっときついから料理には使わないね、お酒には使うみたいだけど。青い淡竹に穴を開けてそこからお酒を入れて放置すると薬用酒になったりするよ。入れた後に焼いても良いみたいだけど、やった事無いから分かんないや」
「随分と苦労したんだな……」
「油が取れる菜種とか、軒並み収穫できる時期がずっと先だからね……。正直、これも上手くいくか分かんないし」
ピンと張った竹紐にお手製薬練を塗って、葉っぱで余分な部分を拭い去って一息吐いたカナメはそれを冷暗所の方に立て掛けて乾燥させるようだった。
カナメ曰く、弦を舐めてはいけない、との事で熟練の弦職人になるまでの道は遥か遠いらしい。
正解の太さを知っているから見様見真似でしているだけであって、本来の完成品には程遠いんだよ、と自嘲するように呟くあたりクラフターとしてのプライドがあるようだった。
職人へのリスペクトの現れと言うか、自分よりも凄い人であると敬意を払っているのを感じる。
後はまぁ、未熟な自分を末席に置く事の忌避感と言うか、一線を引いてアマチュアであると認識しているようだ。
俺から見ればとんでも技術のプロの様に見えるが、カナメ的にはまだまだ未熟のアマチュアなのだとか。
……そこらへんを突くと面倒な長話に繋がるだろうから言わないが。
は? オレ如きがプロの職人とかおこがましいが??? だなんて言うに違いない。
「竹炭を焼いた時の煙を蒸留して竹酸液を作るのも良いかもねぇ。これこそ石鹸に使える素材だから安全性がぐっと高まるよ」
「竹炭か、炭炉を作ったら作っても良いかもな。濾過にも使えるし、畑の向上にもばっちりだ」
「いやぁ、ほんと竹って万能素材だよね、無駄が無くて良いねぇ」
この後は本拠点の方の続きをするとの事だったので、オレはそろそろ目を背けていた青銅器作成のための必須素材である十円玉の発掘作業に向かう事にした。
カナメの行きつけだったらしい、レトロアーケードショップの存在を教えられた事もあり負けてられない。
何でも、ワンプレイ十円のインベーダーゲームにハマってたらしく、十円玉に交換するための両替機が入口近くにあるそうで、広末銀行を発掘するよりも遥かに可能性が高かったからだ。
もっと早くに教えてくれよ、と思ったがカナメも行っていたのが小学生の頃だった事もあって思い出せなかったらしい。
行かなかった期間に潰れてたらごめんね、との事だったがはてさて、どうなる事やら……。
作者のカナメの外見イメージは、ネプテューヌの日本一ちゃんを黒髪短髪にした感じです。
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