石の上にも三千七百年   作:不落八十八

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 翌日、目を覚ますと既にカナメは起きている様で、外で座り込んで草履を編んでいるようだった。

 朝食の準備はある程度済んでいて温めるだけになっているあたり、ほんと家庭的だよなぁと有難みを感じる。

 暖炉コンロに火口の種火を移して着火して、朝食を温めるべく土器を乗せる。

 そして、顔を洗うために外に出てカナメの背中に声を掛ける。

 

「おはよう、早いな」

「ん、おはよー。前から作ってた竹縄が完成したから草履を編んでたんだ。千空のは、ほら、こっちだよ」

「助かるぜ、足元はちゃんとした物を履いておきたいからな。おぉ、随分と作りがしっかりとしてるな」

「重さも太さも倍になったけどね。けど、その分耐久性は抜群だよ、若干のクッションにもなるだろうしね」

「中敷きなんてもんねぇからな、革の端材でも挟んでおくか?」

「いや、それやると臭くなるよ確実に」

「……それもそうだな」

 

 カナメから受け取った竹の草履を早速履いてみれば、足元から返ってくる衝撃がやや緩和している様に感じる。

 耐水性や抗菌性にも優れた竹で出来たこの竹草履は今の状況では値千金の代物と言えるだろう。

 早速川原を歩いてみれば突き刺さる様な尖った石の感触は無く、かつてのビーチサンダル程の感覚で歩く事が出来た。

 顔と頭を洗ってスッキリしてから戻れば既にカナメは自分の分を作り上げた様でドヤ顔で仁王立ちしていた。

 

「どうよ」

「最高だぜ。流石はカナメだな」

「へへへ、どんなもんよ。科学無双になったら千空の独壇場だからね、今の内に活躍しとかないと」

「はぁ? んな事考えてたのかよ、ったく、期待しても出来る事しか出来ねぇぞ」

「千空の場合その出来る事が広いじゃん……、オレができるのは精々江戸時代までくらいだからさ」

「……いや、十分過ぎるだろ、お前の活躍度SSRだからな、それは百億%断定してやる」

「いやぁ、そこまで褒められると困っちゃうなぁ」

 

 だなんて、はにかんでからニコニコとするあたり感情が分かりやすいなぁこいつ。

 この様子なら今日中は機嫌が良さそうだから作業も捗りそうだな。

 朝食が燻製アジのつみれと塩漬け猪肉のベーコンの入った豪華なスープに変貌していた。

 随分とご機嫌な朝食になったものだ、と外れの無いカナメの手料理に舌鼓を打つ。

 やはり調味料の少なさが目立つが、出汁を中心とした旨味ある味のお陰で気にならない美味しさだ。

 

「そんで、今日はどうする感じ? オレは川原で蝋石を拾いながらまた本拠点を弄ろうかなって」

「そうだな……。両替機は本拠点の方に転がしておいたから、水車に使うための素材を作る予定だ」

「ん、りょーかい。格好良い水車作ってねー」

 

 そういつも通りの笑みを浮かべたカナメは竹籠を背負って石斧やらを持って、下を見ながら本拠点の方へと歩いて行った。

 ……あんのアホ、短パン履いてるからと言ってこっちに尻突き出して蝋石を探してんじゃねぇよ。

 健康的な肌色が腰元から見えて普通に目に毒だし、それを指摘するのも小っ恥ずかしいので視線を逸らす。

 軽く溜息を吐き、竹藪の方へと向かって歩き始めて伐採を始める。

 節目の下の方を狙って石でぐるっと傷を付けてからそこ目掛けて石斧を振るう。

 綺麗にパキッと割れる事もあれば、複数回殴打してやっとの時もあり、金属製の薄い刃と言う恩恵を得られない今ではこれぐらいが限界だ。

 石で付ける傷を深めにしても良いが、それに注力すると効率が悪くなる。

 竹を伐採して一纏めにして仮拠点に戻り、先端から生える枝木と葉を取り除いて縦に割っていく。

 大きさを二本指くらいの幅になるまで縦割りしてから、石の上で横に立てて割断していく。

 そして、水瓶サイズの大きな土器に投入して焼成した貝殻を砕いた消石灰を加えて煮込んでいく。

 此処までくれば後はほぼ放置で良いので火加減と掻き混ぜの時だけ見れば良い。

 

「あ゛ー……、取り敢えずこれくらいありゃ良いか。昨日の分も含めたらそこそこの量だしな」

 

 石に座り込んで地面に枝で水車の設計図を書いていくが、壊れる事を考えてシンプルなデザインに纏める。

 と言っても原材料が竹と言う事もあり、基本的に竹を交差させて中心に軸となる棒を差し込めば良い。

 竹の先に水を受け止める機構を取り付ける事もあり、Xにクロスさせた立体的なアスタリスク状に組み立てる。

 川の幅は四メートルから五メートルのお椀型で、最大の深さは膝程度で然程深くない。

 そうなるとそこまで大規模な物は作らなくて良い。

 今必要なのは数時間以上動き続ける動力であって、最終的な完成品じゃなくても良い。

 炉に風を吹き込むブロアーを動かし続けるだけの動力で十分だ。

 水車のサイズは直径一メートル程に収めて、使い終わった後に動かせる様にしておく方が良いか。

 回転速度的にプロペラは駄目だ、ギアによる段階的速度アップを図るしかねぇ。

 小さいギアを少しずつ大きくして力を増幅、平歯車を作る。

 緻密なギアを平たくした木に石のノミで掘り込む、だなんて非効率的な事はしねぇ。

 

「ギアも竹で作っちまえば良い。頑丈で、耐水性に優れて、簡単に作れちまうお手軽ギアだ」

 

 要するにギアとして機能すりゃ良いんだ、中くらいの竹に細い竹を飛び出す様に括り付けて簡易的な物を繋げる。

 んで、交互にぶつからない様にして、軸の摩擦部には石鹸で潤滑油を注しときゃ完成だ。

 ……まぁ、似た様なサイズの太さを集めるってのが一番の面倒ポイントか。

 いや、飛び出させる長さを短く整えれば複数本でもいけるか。

 

「へぇ、原始的なクラフトでも中々唆るじゃねぇか」

 

 物作りにおいて完成品への過程は決して無駄にはならねぇ、そこから疑問を持って派生する事なんてざらにある。

 簡単に作れる物からブラッシュアップしてギアだなんて緻密な代物に仕上がった訳だしな。

 地面に三十センチ程穴を掘り、其処に樹皮を剥いだ真っ直ぐな丸太を打ち込んで動かない様にしてから、一メートル程に切り揃えて油抜きした真竹をクロスさせながらアスタリスクを描く様にシンメトリーに縛り上げる。

 真竹の両端に切れ込みを入れて、四分割したやや弧を描いた竹を挟み込んでから固定する。

 これで水車部分は出来たから軸受けを作っていく。

 一節を残して油抜きした竹を用意し、残した部分を炙って温めてから先程の丸太に引っ掛ける様にしてぐいっと曲げてやり、半円を描く形にしてから川の水で冷やしてやる。

 水車の軸になる丸太部分を受け止める半円状の軸受けが出来たので、これを川の真ん中に打ち込んだ二本の杭に縛り付ければ完成な訳だ。

 もう片方の軸受けを作ってから杭を打ち込んで縛り上げ、先程作った水車部分をUを描いた此処に置いてやれば……。

 

「水が流れ続ける限り半永久的に動き続ける動力源、水車の完成だ!」

 

 川の水を受け止めて回転し続ける水車を止める動きをしてみれば、中々の反発が返って来て成功を感じさせる。

 回る丸太軸を持ち上げてやれば水車の勢いが弱まり、簡単に取り外しもできる。

 ぶっ刺した杭以外は回収できたので一輪手押し車に乗せておく。

 水の中に入れておくからぶっ刺す杭は表面を炙っておいた方が良いだろうな。

 磨製石斧で水の中での耐久性抜群の細い松を伐採し、樹皮を剥いて先端を円錐状に削っておく。

 松は水分のある場所だと窒息せずに百年くらいは腐らねぇ性質があるくれぇに水辺の杭にぴったりな素材だ。

 実際、水路の土留めなんかにも使われる木材だから、本拠点の風呂を作る時には松を柱に使うのがベストだろうな。

 

「うっし、次は歯車だな」

 

 アリストテレスやアルキメデス、レオナルドダヴィンチだなんて豪華な面子が考える程にこの歯車と言う代物は唆る発明だ。

 何せ、かつての現代ではエンジンだなんて鉄の塊を動かせる程の動力を作り上げる傑作に進化してるんだからな。

 まぁ、こっちの方は大分シンプルと言うか、正しく歯の車と呼ぶべき存在なのでクラフトは簡単だ。

 樹皮を剥いた松の細い丸太の先に節で切り揃えた油抜き済みの細い竹を長短の二種で並べて縛り付けるだけだ。

 横から見れば凹凸になるこれを先程の水車の軸の先にも縛り付け、大中小三つの丸太竹歯車を作り上げる。

 大きいギアであれば力強く遅く、小さいギアであれば力弱く速く、それがギアの機構だ。

 水車の歯車から大中小と繋げて、小の歯車の軸の反対側にブロアーの風力を生み出す羽を付ければ良い。

 そうすれば段階的に加速したギアが羽を回転させ、水車が回る限り炉へ風を送り出してくれる訳だ。

 真竹を四つに割って内側を削って軽量化した羽を縛ってから、根元の部分にウッドアッシュセメントをくっつけて外れない様に補強しておく。

 次に、竹羽の周りを覆うためのホイッスルの様な形状の部分を粘土を焼成して作っていく。

 取り外せる様に蓋付きにしてL字の引っ掛ける部分を付けておく。

 軸が入る様に中央に穴を開けておき、風の吸引口も兼ねて幅を広過ぎず狭すぎずの穴に調整するのを忘れない。

 そして、カナメの火吹竹を真似て排出口の長い部分の近くに吸引孔を螺旋になる様な角度で開けておき、排出口をやや窄めて空気に圧が掛かる様にしておく。

 ブロアー用の土器を野焼きで焼き上げて……、何度か失敗したので作り直して、完成した頃には夕暮れだった。

 

「お疲れ千空、進捗は良い感じ?」

「おぅ、ばっちりだ。今日作ったのを本拠点に持っていけばすぐにでも簡易水車は使えるぞ」

「おぉー……、おぉ? なんかちっちゃいね」

「今回必要なのは炉に使うやつだからな。勢いが強過ぎても困るんだよ」

「成程ねぇ。一度あっちに持って行って長さ測ってから炉は作らなきゃだね」

「だな。後々の事を考えて専用レーンを作るってのも手だな。そしたら水の量で勢いの調節も出来るからな」

 

 合流したカナメがやや疲れた様子で相槌を打つ様子に、少しだけ違和感を感じる。

 何処か空元気で明るくしているような、そんな素振りが見え隠れしている。

 ……あ゛ー、そうか、そろそろ復活して三週間くらい経つんだもんな。

 十分な糖質、と言うか炭水化物が取れてねぇからストレスが溜まり始めてるのかこいつ。

 タンパク質や脂質にビタミンはある程度肉や野草から摂取できているが、炭水化物はあまりとれていないのが現状だ。

 糖分も野苺に含まれているのが精々な事もあり、環境変化のストレスと糖質不足で苛々し始めてて、それを表に出さない様にしてやがったな。

 

「カナメ、明日は野外探索でじゃがいも探しに行くぞ」

「へ? じゃがいもが必要な事なんかあったっけ?」

「炭水化物が不足してる事に今更に気付いてな、お前、糖質が不足しかけてて不調が見えてんぞ」

「……ほぁっ!? え、最近なんか苛々したり過激な事考えてたのもしかしてそれのせい? うっわぁ……、炭水化物とかマジで頭から抜けてた、お米とかどうせ手に入らないしって諦め入ってたし……」

 

 生理の頃に苛々しているなら分かるが、それを終えた後にも苛々してたなら理由があんだろうがよ……。

 あぁ、そういや俺も休憩をしなかったり昼食取り忘れたりとポカしてたな……。

 地味に弊害出てやがったな……、干し野苺を摘まんでたから発覚が遅れたなこりゃ。

 じゃがいもの収穫時期は大体春か秋、今が丁度実ってる時期でタイムリーな野菜だ。

 救荒作物だなんて呼ばれるじゃがいもなら、何処かでしぶとく生えてる可能性は非常に高い。

 可能なら近くに植え替えておきてぇな、割と死活問題だぞこりゃ。

 

「取り敢えず、本拠点の方に畑の準備しておいてくれるか」

「うん、ある程度大きなものを作っておくね。うわぁぁ、台所番失格じゃんか……」

「……カナメ、俺らの問題は俺らのミスだ。どっちか一方に押し付けるってのは無しだ」

「…………ぁぃ、ありがと」

 

 大分か細い声で礼を言ったカナメは非常に気まずそうに頷いてから、食材置き場から干し野苺を持って来て摘まみ始めた。

 俺も差し出された土器から干し野苺を摘まみ、応急処置であるが糖分を補給しておく。

 二人して黙々と干し野苺を小動物の様に摘まみつつ、大事に至らなかった事に安堵の息を吐いたのだった。

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