石の上にも三千七百年   作:不落八十八

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 カナメに畑作りを任せたからには、其処で植えるための物を探さなきゃならねぇ。

 目下の目標は救荒作物と名高いじゃがいもの回収、そして炭水化物を微量に含むキノコの収穫だ。

 一切手をつけられていない自然の中で、目当ての物を探すのは実に非効率的であるが、頭を使う俺たちに糖質不足はマジで死活問題だ。

 こればっかりはどうにもならねぇ、都合良くクッソ甘ぇ樹液が出る大木がドーンとある訳が無い。

 だからこそ、農耕で増やす事の出来る食材は今の状況では値千金の価値がある。

 

「……み、見つからねぇ。キノコは水気を辿れば近くにあったがよぉ……」

 

 野草の類はそこらにあったが、肝心の欲しいじゃがいもが全く持って見つからなかった。

 遠くから立ち上る煙で本拠点の場所は分かっているが、ここまで遠出して収穫零とかマジでありえねぇ……。

 何処かで見落としたか、いや、そんな筈は無いと思うんだがな……。

 生えていたぶなしめじを竹籠に放り投げながら、一向に見つからない事に頭を抱えた。

 森林だから見つからねぇのか、原っぱとかだったら可能性あるのか、そこら中に木々が生い茂っている此処で?

 ……まずいな、本格的に手詰まりだ。

 救荒作物として名高いじゃがいも、生息地は冷涼で日当たりの良い場所だなんて矛盾めいてる様な場所だ。

 拠点の近くに流れている川の上流辺りで分岐したりしているのか、沢をよく見かけるが……。

 

「そういや、前にカナメが言ってたな」

 

 スーパーの跡地になら色々と生えているんじゃないか、と言う事を話題に上げた事があった。

 何かと運の良い、と言うか勘の良いカナメだ、この可能性に賭けてみるか……。

 脳内に浮かべた末広町の地図でスーパーのあった場所をピン止めし、カナメの居る本拠点から算出した現在地から位置と方角を導き出す。

 精々徒歩十三分ってところか、ダムの洪水があった事を踏まえて進む方角を調整する。

 跡地に生えてるか、それとも流されて生えてるか、はたまた地中深くに埋まって腐ってるか。

 ……俺一人だったら確実にこんなに遠くまで行きやしねぇだろうなぁ。

 

「ビンゴ、あったぜ」

 

 スーパー跡地から洪水によって流れてきた土砂に混じっていたのだろう、立派に育った一メートル級の茎に特徴的な葉っぱが其処にはあった。

 日に効率良く当たるために螺旋階段の様に重ならず、日中は水平に向いていた。

 そして、野生動物に掘り返されたのであろう穴から特徴的な地下茎、スーパーで売られているあのじゃがいもの姿が見えていた。

 掘り進めて見れば立派に実ったじゃがいもを手にする事が出来た。

 品種は……何だろうな、これ、色々とごっちゃになってて分かりづれぇが男爵がベースだろうな。

 そりゃまぁ、野菜コーナーから流されて来たんだ品種も三千七百年もあれば混ざるか。

 手に取ったそのじゃがいもはずっしりと重く、キャンプに行った時に切らされたそれよりも遥かにでかい。

 よくよく見れば葉っぱの方もまばらに生えていたそれが、正しく螺旋階段の様に並んでいて効率の化身となっていた。

 

「品種改良で良質になったもんを掛け合わせ続けたら、そりゃまぁキングスライムみてぇなのになっても可笑しくはねぇか」

 

 木の様に時間の掛かる品種改良と違い、一年サイクルで花を付けたりする物はかつてのそれと違った姿をしている可能性もあったりするだろうな。

 ……獅子唐とか祖先返りを完遂してたりしてそうだな、三千七百年の月日恐るべしと言うべきか。

 品種改良されたものが原種に戻っていたりするパターンもきっとあるだろうな。

 竹籠からきのこを一旦取り出し、じゃがいもを下に敷いてから置き直す。

 そして、一株だけ根っこと土を丸めた状態で固めてから飲料用の水を掛けてから回収する。

 現物がありゃ、仮に本拠点の畑で失敗しても原因究明に使えるからな。

 カナメがロックカットしたじゃがいもの端材をプランターに植えて、ベランダで育ててるのを見た事があるのでこの地下茎の部分でも事足りるが念を入れておくべきだ。

 そのロックカットされたじゃがいもはバターの海で揚げられ、塩だけの味付けなのに美味かった事を覚えている。

 ……ふと、ダイヤモンドカットされたじゃがいもが入ったカレーの事を思い出してしまった。

 出会った頃のカナメは、俺の食事習慣の改善のためにあの手この手を使ってたっけな。

 珍しい形をしていたら物珍しさで食べてくれるとでも思ってたんだろう。

 実際、作ってくれたカレーはとても美味かったしな。

 こうして思い出に残る程に印象が焼き付いているのだと思うと、何処か笑えてくる。

 食事関連の思い出の大半にカナメの笑顔とドヤ顔があるな、と。

 残りの数パーセントは百夜の代弁即興劇と言う寒いもんだったので、比較してしまうと華やかになるのは当然の事だった。

 

「他にもなんかありそうだが……、お?」

 

 少し離れた位置に特徴的な形をした野菜を見つけた。

 地面からやや飛び出す様に白く太い根を見せつける大根がそこに生えていた。

 茎の部分を握って上に引っこ抜こうとしても、ぐっと引っ張っても抜けない程に力強い反発が返ってくる。

 竹スコップで周りを掘ってみれば、十センチ、二十センチ、三十センチと掘って行っても終わりが見えない。

 成程、土砂崩れか洪水か何かで此処に辿り着いた事で、真下が柔らかな地面になっていた事でより深くまで下に根を伸ばす品種になっているのか。

 はたまた三千七百年と言う歳月により、より深く栄養を得ようと進化したのかもしれない。

 捩じってみようとしても強固な根を張っているのかびくともせず、まるで木に打ち込んだ太い釘を指で引っこ抜こうとしている気分だった。

 

「おいおい……、面白い事になってんな」

 

 三千七百年もあったんだ、面白い成長を遂げた野菜や植物なんかがもっとあったりするかもしれねぇな。

 野菜自体に興味がある訳ではないが、突然変異した物は少し見てみてぇなと思ってしまう。

 この面白大根を圧し折る事で収穫してみれば、中から水が零れ落ちた。

 断面を見やれば、収穫時期を越えて放置していると引き起こされる鬆らしき中央に開いた空洞があった。

 恐らく先程の垂れた水はこの中に貯蓄されていたものなのだろう。

 匂いを嗅いでみれば腐っている様な感じはせず、やや青臭い感じの大根の匂いだった。

 この鬆が入っている状態と言うのは内部に気泡が生じて大根がスポンジ状になるものなのだが、この大根はそれを乗り越えた品種なのだと言えるのではないだろうか。

 引き抜いた大根を皮から押してみれば硬いのに柔らかいと言う言葉にし辛い感触が返ってくる。

 断面を押して見れば、それこそスポンジの様にやや硬めながら押されたところから水が滲み出てくる。

 試しに一滴舐めてみればほぼ水であり、後味に凄くほんのりと青臭みを感じる程度だった。

 

「ほぉん……、皮が分厚くなって中がスポンジ状になってんのか。これで水を蓄えてる訳か、いや、どんな進化してんだよ……」

 

 収穫されないまま過ごした事で自立したと言うのだろうか、考えれば考える程、ユニークな進化が垣間見えてしまい思わず笑みが浮かぶ。

 恐らくながら、葉っぱに水分を持ってかれて根がカラカラになるなら、葉に供給するだけの水分を蓄えておけば良いだなんて考えをしたんだろうな。

 地中深くから水を組み上げて貯蓄している訳だ、もはや井戸みてぇなもんだなこりゃ。

 

「命名するに、井戸大根って所か」

 

 んじゃ、あのじゃがいもは螺旋階男爵と言ったところか。

 ……なんか親父くせぇな、百夜みてぇな名付けしちまったぜ。

 だが、何となくだがカナメに今のを伝えてみれば白けずに笑ってくれそうではあるな。

 井戸大根も竹籠に放り込み、辺りを散策する。

 流石はスーパーから流れ出た物の集積地と言うべきか、青い唐辛子や大蒜があった。

 もっとも、唐辛子はバナナみてぇになってたし、大蒜は玉葱の様に横に大きくなっていたが。

 唐辛子は兎も角、大蒜はこれから大きくなるんじゃなかったか。

 ……この大きさで青いって事かよ、時間の流れってやべぇな本当に。

 ある意味、人の手から離れたのが功を奏したパターンと言うべきか。

 

「つーか、どれもこれも野生動物が食わねぇもんばっかじゃねぇか」

 

 キャベツや人参などはとっくの昔に食われたんだろうな。

 そうなると玉葱なんかがあっても可笑しく無いんだが、それっぽいのは見当たらない。

 スーパー跡地に行ったらとんでもない事になってそうだな、こりゃ。

 ……そん時はカナメと行ってみるか、喜びそうだしな、

 そうなると今行くのは勿体無いか、竹籠もいっぱいであるし、下見をあえてせずにおく事にした。

 何となくであるが、先に答えを知っちまうのが勿体無い気がした。

 

「……帰るか」

 

 今も尚立ち登る煙を目印に本拠点の方へと向かって行く。

 そこそこの距離があったが、夕暮れの前に辿り着けたので良しとしよう。

 本拠点の入り口辺りに作られたらしい畑を見て――。

 轟々と燃え盛る切り株を見つめているカナメを見つけた。

 何やってんだあいつ……、マジで何をやってんだあいつは。

 焼畑農業ってそう言うもんじゃねぇからな?

 足音で此方に気付いたらしいカナメが二ヘラと心底楽しそうな笑みを浮かべて振り返った。

 ……あぁ、そういやカナメはキャンプファイアー好きだったな。

 

「おかえり千空、大戦果じゃん。やるねぇ」

「おぅ、ただいま。色々と面白ぇもんが取れたんだが、必要ねぇくらいに楽しそうだな?」

「あははー、畑に邪魔だった大木を斬り倒して切り株にムカ着火ファイアーしたのは良いんだけどさ、掘り返してみたらかなりの規模でさぁ。あ、周りに伸びた根は断ってあるよ。……で、朝から燃やしてるんだけど……、生木だからか全然終わんないんだよね。だからもう、笑うしか無いかなって……」

「諦めの笑みだったのかよ……。そこまで燃やしとけば十分だろ。柵に引火する前に消しとけ」

「はーい」

 

 無慈悲にバシャーっと水を掛けて鎮火させたカナメは肩を落としていた。

 端に放られている根の残骸を見るに、全体に広がっていたらしい。

 ……耕すのを邪魔された私怨も含まれてねぇか?

 二人で丸太をてこの棒にして軽くなった切り株を持ち上げ、燃え残りを警戒して河原の方へと放ったら既に夕暮れだった。

 切り株のあった場所に水を撒いておき、鎮火を確かなものにしてから二人して息を吐いた。

 

「んじゃ、頑張って帰りますかー」

「だな」

 

 竹籠を交代しながら仮拠点への帰路に就く。

 収穫した物の紹介は明かりのある場所で、と言う事になったので二人並んで歩いて行く。

 それでもカナメは収穫物に興味深々の様で、俺の背負う竹籠に視線が向いていた。

 

「取り敢えず、当面の栄養は約束された感じかな?」

「だな。スーパーから流れ出た作物が収穫出来れば時短になる」

「味が保証出来ないのがちょっとアレだけどね。ある程度はセオリーに沿ってくれてると良いんだけど」

 

 それについては同意だった。

 螺旋階男爵はまだ良い、だが、井戸大根みたいな成長を果たした物は未知数だ。

 前にカナメから聞いた話だが、大根の殆どは水分らしい。

 ……貯水に進化したこの大根は可食部あるんだろうか。

 焼いたら干からびた物になりそうだが、あぁ、いや、おでんみたいな出汁を吸ってくれるなら美味そうだな。

 この面白野菜で何を作ってくれるんだろうな、楽しみだぜ。

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