千空が頑張って収穫してきた野菜たちを仮拠点の竹机の上で広げているんだが……。
キノコ類は割と安定していて、かつての姿とあんまり変わってないのが逆に印象的だった。
じゃがいもは、うん、大蒜も唐辛子もまぁ、うん、ただ、大根お前だけマジでどうしてそうなった。
「水分率99%を目指したくなったのかな……?」
「もはや水じゃねぇか」
「いやまぁ、脱脂綿と水で育てられる野菜もあるからそう言う事も……あるのか……?」
恐るべし三千七百年の年月……ッ!!
品種改良が可能な物全てがもう疑わしくなってきたなぁこれ。
試しに大根を断面の所で輪切りにしてみれば、べしゃりと瑞々しさたっぷりに音を立てて倒れた。
二人して不安が浮かぶ表情を浮かべ、顔を見合わせてから恐る恐るフライパン代わりの平たい石に乗せてみた。
すると、熱されてじゅわじゅわと音を立てる大根の姿が……、姿が……、…………。
「ずぅーっとじゅわじゅわしてるんですけど!?」
「そんだけ中に水を蓄えてたって事だな……」
大根の栄養価に含まれるビタミンCや消化酵素は熱に弱いのだが、こうも焼かれるのを抵抗されるとそのままで食べてくれと主張している様にも思えてくる。
ただ、これを、生で食うのか……。
昔の人たちほんとすげぇな、食っても安全か分からないのに食べてみたいの一心で食した勇者が居るんだもんな。
一センチ程の厚さで切った大根からじゅわじゅわ音が聞こえなくなるまで大分掛かり、出来上がったそれは厚みのある皮が自らの水分で発せられた蒸気で蒸された事で柔らかくなった大根のステーキだった。
しっかり焼いているから大丈夫……だと思うが、はてさて。
千空を見やればまるで科学実験をしている時の様な輝いた表情をしている、可愛い奴だな本当に。
新芽がガチの毒性を持つじゃがいもと違って大根は生でも食える野菜だ、えぇい、当たらば当たれっ。
はむっ、と一口齧ってみれば……、ジューシーさを感じる、マジでただの大根……だな。
先程までの見た目と今味わった味覚との差異に脳が混乱しているが、問題は無さそうだった。
「んで、味はどうなんだ」
「んー……、普通に大根だね。はい」
「んぐっ、……だな、ただの大根だなこりゃぁ」
食べかけのそれを口に突っ込んであげたら、味見をする時の様に素直にぱくついた千空がつまんなそうな表情を浮かべた。
いや、異常があったらあったで困るでしょうが、食材として集めて来たんだからさ。
分厚く切った大根を焼いている間に他の食材の様子も調べてみる。
唐辛子はでかくなっただけの外見で、ピーマンみたいな甘みも感じるので何処かで交わったのかもしれない。
大蒜はまさかの二重構造になっており、内側に六欠片、外側に八欠片入っていた。
内と外のを剥いて断面を見ると、内側の方が肉厚で引き締まっている感じで、外側が新しめの瑞々しさがあった。
いやまぁ、大蒜は確かに球根だけどさぁ……、順当な進化したなぁ君は。
そして、一番危険性があるかもしれないじゃがいもだが。
「……大きくなっただけ、かな? 見た目からして男爵だからホクホク食感で粉っ気のある感じの筈なんだけど……、切った断面が若干ねっとりしてるからメークインっぽさもあるなぁ。完全に混ざってるなぁこれ」
「そりゃまぁ横に並んでたら流されても同じ場所に辿り着く可能性は高いだろうが……」
「新芽の部分取ったらいけるかな……、後は水に浸けるとかだね、ソラニンとかは水溶性だから」
皮を取り除いてから薄めに切ったそれを大根の隣で焼くと、普通に火が通って焼き色が付いた。
それを齧ってみれば懸念される毒性の有るソラニンやチャコニンらしき苦味は感じられず、湿った粉質と言うべきか、ふっくらとねっとりしているだなんて面白い食感と生来の甘さを感じられる。
千空に食べさせてみれば、普通に食えるなぁと頷くだけだった。
いやまぁ、男爵やメークインの食べ比べとかはしてなかったからあんまり気付かなかっただけかな。
「お腹が痛くなって?」
「ねぇ」
「有毒な苦みを感じて?」
「ねぇ」
「ヨシ! 安全だな」
「……成程、それそう言う使い方するのか。何を見てヨシとしたんだお前は」
「千空の敏感な味蕾なら確実だよ」
「信頼が重ぇなぁ……」
実際、この世界で信頼できるのは千空だけだからな。
科学の申し子ってのが良いよな、あらゆる方面への安心感が違うぜ。
捨て身の毒見も終えた事だし、本格的に作るかぁ。
と、言っても肝心の調味料が無いので大分質素な物になってしまうが。
取り敢えず、余った大根はぶつ切りにしてスープの具材にし、じゃがいもも具材に、アクセントに大蒜を一欠片を半分に切って投入、……何かやけにスープだけ豪華になったな。
そのまま焼いてた大根ステーキに、猪脂を追加してから炒った唐辛子を少量振りかけ、塩で味を付ける。
「素敵な大根のステーキに、具材たっぷり素朴な野菜スープの完成だよ」
「おぉ……、塩以外の味があるってのは新鮮で良いな……!」
「だね、アクセントのつもりだったけど結構濃厚だなぁ」
今までとは文字通り一味違う夕飯にご満悦な千空を見て自尊心が高まる。
いやはや、千空がこんなに食事で感動するようになるとはなぁ、成長したなぁほんと。
和気藹々と夕飯を楽しんでから、お風呂の準備をしに行った千空を見送ってからクッキングを再開する。
じゃがいもと大根が手に入ったなら、作れちゃう甘味があるんだよねぇ、ぬへへ。
先ずは生のじゃがいもから皮を剥いて、表面に薄っすらと浅い溝が出来る様に引っ掻いた土器で磨り潰していく。
煮沸消毒した後で冷えた水を加えてもう一度ごりごりと磨り潰してから、竹濾紙で別の容器に漉してから土器に水を入れて揉み洗いしてからそれも漉して移す。
放置して沈殿したら水を捨てて、もっかい水を入れて混ぜてから再び沈殿させる。
それを何回か繰り返して水の色が透明になったら暫く放置させる。
お風呂の準備が終わった千空が戻って来たので、一番風呂を頂いて戻ってくる。
千空が訝し気にオレが作っているものを見ていたが、風呂に送り出して退散させる。
こう言うのは秘密にしてサプライズするのが楽しいんだぞ千空。
「よーし、でんぷん抽出完了っと。こいつを水で煮ていくぜぇ」
調理用の表面がつるりとした土器ででんぷんと水をじっくりことこと煮ていく。
とろりと糊状になったら火から下ろして、大根をすりおろしてから、ぐわしと掴んで絞り汁をでんぷん糊に加えていく。
どろり、とろり、さらり、と柔らかさが変化していくのでさらっとしたら入れるのを止める。
よーしよしよし、蓋をしてっと、後は朝起きたら仕上げるだけだ。
ふふん、ちょっとした科学クラフトって奴だぜ、料理の分野なら千空にも負けないぞーっと。
「んで、何作ってんだ?」
「むぅ、風情が無いなぁ。水あめだよ水あめ」
「はぁ? あぁ、その材料……、でんぷんを大根の消化酵素で糖分解してんのか」
「そそ、ちょっと大根っぽい味になっちゃうけど、素材で食べるよりも手軽で美味しいんだぜ」
手に持った小土器に入ったそれを冷暗所に仕舞い込んで、明日の出来上がりを期待しておく。
今はこの少量だけだが、じゃがいもが大量に作れたらその分だけ量産できるからな。
原始世界最初の調理された甘味の誕生である、祝えっ、微妙なんて言わせないからな。
水あめにする事でダイレクトに美味しく糖分を補給する事ができる利点は主に利便性だ。
生の素材よりも遥かに効率的に糖分を摂取できる上に、後の仕上げで水分を飛ばすので腐る可能性が激減するので貯蔵が出来るようになる。
作ってから小分けにして密封できれば長期保存に携帯食として扱える事だろう。
……まぁ、原料から作れる量が少ないってのが一番のウィークポイントだけども。
大量生産は後々だね、先ずは手持ちのじゃがいもと大根を増やさないと話にならない。
いや、じゃがいもは兎も角大根の方は別のを探した方が良い気がするけども。
ただなぁ、含まれる栄養価がどんなふうに推移したのかが分からないので一概に否定も出来ないんだよなぁ。
なんでそんな面倒な進化しちゃったの大根君さぁ……。
「それに、でんぷんを抜いた後のこれも丸めて焼けば結構美味しいんだこれが。まぁ、欲を言えばもっと味付けしたいけどね」
「味付けなぁ……。魚醤はそろそろやるか?」
「今の時期にはやらないよ。夏を乗り越えられる本拠点や冷暗所とか作ってからじゃないと普通に腐るって」
「まぁ、そりゃそうか」
「だから、胡椒とかバジルとかみたいな味付けの素材になるのが良いね。ハーブの類は土器でプランターを作って増やしたいねぇ」
「バジルはあるから……、ミントとかか?」
「良いね、ミントはお茶にしたいねぇ。色々と栄養価があるから常飲する価値はあるよ」
ミントは胃腸にも良いし、口臭予防にもなるし、何よりも夏の時期に熱中症予防に最適だ。
繁殖力強いから幾らでも取れるのが利点だね、小さいからこそ量を取らないといけないし。
……家庭菜園か何かでプランターで育てられてたのが、人類総石化後に流出して軍勢になってたりなんかしてないよな?
洪水とかに混ざってたら……、よそう、これ以上は悪夢の憶測になる。
いやまぁ、確実にあるだろうなハーブ群の原っぱとか。
地表を覆い尽くす程の一心不乱の大侵攻とかになってても可笑しくは無いが、そうなって無いと言う事は物理的に分断されている場所になっているんだろうな。
川で囲まれてるとか、断崖絶壁の谷の下とか、繁殖できない条件に囲まれている可能性は高い。
または……、大脱走をかました鶏とかが食ってるとかだな。
ハーブで育てた鶏卵とかあるにはあったし、そう言う鶏が……今も生きてるかぁ……?
自分で考えながら段々と首が勝手に傾げてる程に自分の憶測に自信が持てなくなった。
品種改良で美味しくなった鶏なんて肉食動物の高級食材に等しいよなぁ。
だがまぁ養鶏場に居る数って結構な数だったと記憶しているし、割と逞しく生きてるかもなぁ。
いや、絶滅されてたら困るなぁ、流石に良く分からん鳥の卵とかは食べたくないんだが。
「千空、鶏ってまだ存命してると思う?」
「存命ってお前……、いやまぁ懸念は分かるがよ。絶滅はしてねぇだろうな。何せ母数が母数だ、相当な数が居ただろうからな。餌食うところから脱走かましてるだろ確実にな」
「良かった……、七輪で焼き鳥しながら卵掛けご飯食べるのはできそうだね」
「なんだその鶏尽くしの願望はよ……、あぁ、くそ、口ん中が鶏の気分になってきたじゃねぇか」
「残念ながら燻製肉しか無いねぇ」
「くっそ……、大樹たちが復活したら先ず食生活を改善してやる」
「成長したなぁ千空……、ほろり」
科学無双はどうした主人公、だなんて野暮なツッコミはしない。
人類総復活計画の中には確実に食料インフラの復活も含まれてるからね、むしろ此処からやらないと詰むし。
科学でお腹は膨れないからね……、ペースト合成食料とか今の千空は考えもしないだろう。
うぅ、思い返すだけでもお腹が減ってくる気分になる、やはり日本人は食が主軸になるよねって言う。
美味い物で満たされていたらこの原始世界もきっと満足に過ごせる事だろう、多分。
随分と腹ペコキャラになってしまったが、未来に思いを馳せている事はきっと良い事だ。
本来の彼が描いた原作がどうだったかは知らないが、きっとこんな未来もあっても良い事だろう。
それにまぁ……、美味しそうに食べてくれるから作り甲斐があるからね。
お腹を押さえてひもじそうな表情を浮かべている千空を見てつい笑みが浮かぶ。
これからもずっと、こんな平和が続いたら良いんだけどなぁ……。