石の上にも三千七百年   作:不落八十八

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 我ら石神千空探検隊は森林地帯の奥地に存在する、ド根性青春男の謎を探るべく、復活ポイント近くへと足を進めたのだった――、だなんて愉快なモノローグを頭に浮かべながら上流に向かって歩みを進めていた。

 千空曰く、なるべく直線で歩いて印も残して来たとの事なので、比較的早く見つかるとは思う。

 にしても……、オレ、随分と洪水で流されたんだな……、十数分は歩き続けてるんだけど……。

 

「よし、アレだ。アレを目印に森林を突っ切れば目的の場所だ」

「うへぇ、随分と歩いたんだけどまだ歩くのか」

「……本当にな。俺も色々と考えながらだったから歩けたが、正直きっちぃ」

「んで、次はあの渓谷っぽいのを進む感じ?」

「まぁ、そうなるな」

 

 地殻変動は起きてない、と思っていたんだがここら辺ってこんな地形だっけと首を捻る。

 適当に当たりをつけるならば、かつてビルだった建造物に土が被さって疑似的な渓谷になっている、とかだろうか。

 地震の影響で地面が沈んだりズレたりしていたのは知っているが、此処まで隆起する様な感じにはならないだろう。

 火山灰が積もった、と言う説はそこらへんに居る石像がそれを否定している。

 目を窄めて焦点をずらしてピントを外す様に渓谷を見やると、成程、道路を挟んで並び立つビルの面影がある、ような?

 

「この地形、中にビルが埋まってる可能性あるよな」

「ぁ゛ー、確かにな。でも流石に三千七百年も残ってるとは思えねぇ。コンクリートジャングルだなんて呼ばれてた都会でこの有様だ、よっぽどの自然災害に苛まれた結果だろ」

「推定でも洪水はあっただろうしな。……てか、あっちの方にダム無かったっけ。方角的にオレが流された方向に水が流れるルート通ってるんだけども」

「……排水されないダムか。そりゃもうひでぇ事になるだろうな。鉄砲水ってレベルじゃねぇぞ、最悪満タンを越えた過貯水から放たれてるとなりゃ、あ゛ー、多分その憶測当たってるな。じゃねぇと直立している石像がある事に説明がつかねぇ。ダムの崩壊に巻き込まれなかった、そう考える方がよっぽどそれらしい確率だぜ」

「つまり、地理的には昔とあんまり変わってない訳か。ダムの被害にならなかったであろう場所のスーパーとかなら昨日の説がワンチャンあるのでは」

「確かにな。だが缶詰に期待してるなら流石に無理だぞ。アレに使われているアルミとスチールは腐食しやすいからな」

「……ですよねー。取り敢えず千空、そっちの方で欲しい物って何かある?」

「そうだなぁ……、衣服、何とかしねぇか?」

「鹿、狩るかぁ」

「…………ナチュラルにその発想が出てくるお前が居てくれて頼り甲斐があるぜ、ほんと」

 

 談笑しつつ渓谷を登ったり下ったりとしていると段々とそれっぽい地形にデジャビュを感じてくる。

 あぁ、成程、確かに此処は地球で、オレたちが生きて来た広末なんだな、と。

 そうして歩き続ける事また数十分くらい、漸くオレたちは千空の復活ポイントに辿り着く事が出来た。

 ……なんであそこにチョークアウトラインめいた殺人現場みてぇのがあるんだ?

 と、思ったが背丈からして千空があそこで復活した場所っぽいな。

 千空はその殺人現場擬きの奥を、ぽっかりと開いた洞穴に視線を向けていたが、首を振って辺りを見回し始めた。

 そして、地面からにょっきりと生えているやけにごつい男性らしき腕を見つけて近付いていく。

 

「あいつの身長そこそこあったよな……。掘り出すの大変な奴ではこれ」

「それな。だがこのデカブツを掘り出したらその役目から解放されるぜ」

「ほんとかなぁ?」

 

 内なるゴロリが首を傾げたが、千空先生の言う事だ、多分合ってるだろ恐らく。

 石化から解放する復活液こと硝酸であるが、ざっと見た感じあの洞穴から流れ出た物が溝を通って千空の頭から滝行宜しく垂れ流されていたっぽいが、肝心の大樹の元には届いている様子は見えない。

 そうなると硝酸を浴びている量は……、止めよう、親友が復活するかもしれないと期待マックスな千空に冷や水をぶっかけるのは忍びない。

 千空お手製の石のシャベルを受け取り、親指に木片を挟んで緩衝材にしつつ推定大樹の周りを掘り進めていく。

 化石とかを掘ってる人たちもこんな気分なのだろうか、とおっかなびっくり先端を押し込んでいき周りに土を捨てる。

 踏み固める誰かが居なかった事からか比較的土は掘りやすく、両腕を前に突き出す恰好だった事もあってそんなに深い量を掘る羽目にもならなかったので作業はサクサクと進んだ。

 掘り出し終えた人物は千空の読み通り大樹であり……、あー、うん、一応視線を逸らしてやった。

 石像に衣服だなんて残ってる訳がなく、大樹の大木の様なそれを目の当たりする羽目になった。

 杠が大変そうだなぁと遠い目をしつつ、二人でえっちらほっちらと大樹を硝酸が滲み出ている洞穴へと移動させる。

 一応近くの葉っぱを草のベッドにして仰向けに倒し、天井から滴り落ちる硝酸が顔に当たる様に設置し終える。

 

「……ヨシ!」

「なんだその奇っ怪なポーズ、そこはかとなく不安になるんだが」

「何を見て良しとしたんだろうな、いや本当に。取り敢えず大樹はこのまま復活待ちで放置かな」

「……はぁ、そうだな。この愚直馬鹿の事だ。杠への告白ができてない事を無念に感じて今も意識が残ってるだろうよ」

 

 脳裏で劇画チックにサイレンススズカがウソでしょとマジの絶句顔をしていたが、心からの同意である。

 いやいや、流石にそれは無いだろ、人への想いで三千七百年を乗り越えるとかそんな馬鹿な。

 オレの心内を察したのだろう千空がしたり顔で鼻で笑った。

 

「大樹だぞ?」

「……大樹だしなぁ」

 

 千空の言葉に思わず頷きを返してしまい、半信半疑ながらも納得を感じてしまった。

 あいつならやりかねない、そんな心境でシンクロした瞬間だった。

 大樹の設置も完了した事で次点のやる事となると杠探しだ。

 

「野獣は見つかったから次は美女だな」

「杠かぁ……、可能性があるとすればあのクスノキのところか?」

「クスノキって横幅十メートルくらいにはなるらしいからワンチャン埋もれてるかもだけどね」

「地面の中に埋まってるよかまだマシだろ」

「それはそう。場所は何となく分かるよね、さっきの渓谷からデジャビュしまくりだったし」

「……だな。そんじゃ探しに行くか」

 

 広末高校はオレらの地元で一番近い高校だった事もあり、その周辺の地理は何となく頭に入っていた。

 先程の渓谷が大通りの跡地だった事を考えると、千空と同じ方向に視線が向く。

 黙って二人して渓谷からやや外れる様に森林に入り、懐かしの道を空想しながら歩いていく。

 あそこが肉屋でハムカツの美味かったとこ、あぁ、あそこはバーガーキングだな。

 ……見事に食事関連の場所しか思い出せてないが、目的地に関連してるから問題無い。

 少し感傷に浸りながら、やけに見覚えのある形の変な丘陵を見つけ、校舎の跡だと察して周りを巡る。

 するとそこには十メートル以上のクスノキが点々と存在している場所があった。

 校舎跡の位置から推測したクスノキをぐるりと回ってみれば、上の方に抱き寄せられたかのように引っ掛かる杠の石像が見つかった。

 

「ふぅ、これで四人揃ったな。杠も大樹の横に転がしておこうか」

「……いや、こいつは此処に残しておく」

「はぁ? なんで?」

「…………あいつの事だ、復活したらこの場所に一目散に走ってくるだろ。隣に置いといても気が付かずに猪突猛進して此処に来る可能性が百億%ありやがる」

「……あぁ~」

 

 んな訳あるか、とツッコミたいところであるがオレと千空の共通認識である大樹の生態から考えるに否定し切れない。

 それに千空の推理に、先程の三千と七百年前から愛してる説が加わり、その可能性はほぼ確定だろう。

 杠の居る場所へと登って行った千空は大樹の体躯と顔の位置から割り出したであろう場所に伝言を残しているようだった。

 遠目からは見え辛いが、腕の動きでデカブツとだけは読み取れた。

 戻って来た千空に内容を聞けば拠点の場所を書いたとの事だった。

 

「じゃあ、今の拠点を発展させる形で頑張るぞい、って感じで良いのかな?」

「まぁ、そうなるな。カナメが言ってた通り、冬への対策も考えなくちゃならねぇ。何せ今は西暦五七三八年の四月二日だ。半年も過ぎれば冬の寒さに耐え忍ばなきゃならん訳だ。寒くなり始める十月後半から二月くれぇか、五カ月は保つ様に保存食も作らなきゃならねぇ」

「となると、川を下り切った先にあるであろう海にも拠点を作らないとね。海水を持って此処に往復ってのはきついだろうし」

「そうだな。ある程度装備を整えたらイカダでも作って川下りだ」

 

 今後の目標ができた事で少しだけ身が引き締まる思いだった。

 サバイバルクラフトの鉄板であるが、拠点周りに農耕をする事も視野に入れて拾えるものは拾ってきた方が良さそうだ。

 取り敢えず広末高校を軸にMAPを作り、スーパーの跡地への遠征もするべきか。

 帰路に就きながら辺りを見回して使えそうな物を探すが、森林と言う場所と言う事もあり木々に栄養を持っていかれているのか雑草しか生えていない。

 本格的に探すならば低木地帯や丘の様な場所を探すべきだろうか。

 今後のためにもニンニクとショウガは絶対に何処かで見つけておきたいし、なんなら増やしておきたい。

 かつての日本で風邪を引いてそのまま死んでいった者は数多い、医療と言う盾を失った今のオレたちに病気や怪我は死に直結すると言っても過言では無い。

 となれば食す事で免疫を高められる食材であるニンニクとショウガは数え役満級に必須と言えよう。

 途中で拾っていた木の実を昼食にしつつ、漸く拠点へと戻って来れたのは体感で一時頃、行って帰ってで半日を要するとは不便になったもんだ。

 

「取り敢えずカナメは食事の準備をしてくれるか。俺は野生動物を狩るための武器を作っておくからよ」

「了解。ついでに紐括り系の罠も宜しく。竹ならあっちの方で見かけたから」

「……なんだ、てっきり投げ槍で仕留めるのかと思ってたが」

「んー、歴史資料の見過ぎじゃないかなぁ千空。普通に罠を仕掛けて逃げ出せない所を滅多打ちにした方が早いよ」

「……お前のその殺伐とした回答は何処から来てるんだよ、こえぇわ」

「そう? 原始人フェーズとは言えウホってる場合じゃないんだから効率的に行くべきでは」

「RTAのし過ぎで脳まで最適化されてんのかお前は……。いやまぁ、罠の方が合理的ではあるか」

 

 三千七百年振りに大樹をキメたからか若干千空がアホになっていたが何とか戻す事に成功した。

 投げ槍で仕留めるとかマジで石器時代の住人の所業だし、第一野生の鹿に人の脚で追いつける訳無いだろ。

 流石に人間離れしたパウァーの持ち主じゃないっつーの。

 

「それに、投げ槍で仕留めると後の血抜きで大変だよ。心臓止まった状態だと血が抜け切らないからクソ不味いし」

「あ゛ー、そりゃ死活問題だな。なんとかする調味料も手元にねぇし」

「そゆこと。鳥とか兎くらいなら死んでても血液の量が少ないから何とかなるけど、鹿や猪サイズは無理無理。対策するとしたら川にドーンかな。死体が血液の温かさで傷むのが問題だから物理的に冷やしちゃえば良いしな」

「ほーん、そんなもんか」

 

 猟友会の爺ちゃんの受け売りだけど、知っているのとそうじゃないのではトライ&エラーの工程数を省けるしな。

 工作は千空に任せて狩猟に出かけると、ウキャキャと猿たちが騒いでいるのを見つける。

 すわ何事かと見やれば脚を骨折したらしい雌鹿が呻いているのが見えた。

 あぁ、ビルや一軒家で地形が上がり下がりしてるからこう言うアクシデントもあるよなぁ。

 猿は雑食であるが植物性偏向のきらいがあるので、小型の鳥とかはまだしも鹿なんて大型は手を出さない。

 オレを見つけた雌鹿が逃げ出そうと震える脚で立ち上がろうとするが、四足歩行動物の骨折は割と死活問題だ。

 怖がらせない様に近くの木の実を捥ぎ取ってから、左手で差し出す様にしてゆっくりと近付いていく。

 わざと掌の中で一部を潰して匂いを発せさせ、警戒心を食欲に移し替えながら残り数歩まで近付いた。

 此処で形振り構わず逃げ出す様なら木の実を転がして放置だが、目の前の雌鹿は此方の意図を理解したらしく木の実を食べようと首を伸ばした。

 ……付近にオレたち以外で復活した奴は居なさそうだな。

 雌鹿も見た事の無い人間に困惑している様で、逃げ出すべき存在か分かりかねている様だった。

 オレの掌にある木の実を無警戒に食べ始めたのを機に、首をさする様にしてグルーミング擬きをして接触への警戒心を解いた。

 ――瞬間、首裏の脊髄に隠し持っていた投石用の石を叩き付ける。

 パキリと小気味良い音が聞こえ、崩れ落ちる雌鹿を無情に見下ろす。

 真上に居た猿たちが絶句している様な雰囲気だが、知った事では無い。

 幸い拠点からそこまで離れて無い事もあり、そこそこ重いが川まで引き擦っていく。

 首元に黒曜石の欠片で切り込みを入れ、下流に血を垂れ流させて血抜きを始める。

 

「んー、凄い光景になっちゃったな」

 

 真っ赤に染まる川に絵面やっばと若干引きつつ、持ってかれないように見張りをしながらその場に座り込む。

 ……千空は竹を探しに向かったっぽいので今の内に、と小水と大便の排泄を川で済ませる。

 天然のウォーターペーパーで汚れを拭って済まし顔で何事も無かった様にするのも忘れない。

 ボットン式和製便所をまだ作って無いので仕方ないのだ、うむ。

 羞恥心はこの先の戦いについて来れないから置いて来た、恥は掻き捨てとは言ったもんだよな。

 農耕をする事を考えるに早めに作らなきゃなぁと思いつつ、河原に血抜きを終えた雌鹿を上げる。

 肛門から腹を裂き、腸の中身が撒き散らされないように直腸辺りを鷲掴みにして引っ張り出す。

 川に腸の中身を出すために晒しつつ、大きめの葉っぱを集めて即席の皿にして内臓を取り分けていく。

 寄生虫の心配があるが、そこら辺は千空の観察眼に任せるとして、首を落として皮を剥いでいく。

 仰向けにした雌鹿を肛門と前脚の付け根まで裂いた部分を基点に四肢の足先へナイフを入れていく。

 切れ味のそこそこ良い黒曜石であるが流石に切り辛いなぁ、脂で滑るから切り口が若干荒くなったがまぁヨシ。

 脂と肉の間にナイフを入れていき、何とか皮を剥ぎ取る事に成功した。

 脂でぬるぬるとする皮を川でナイフで削ぎ落とす様に洗いながら内側の脂を落としておく。

 次の工程は鞣であるが、タンニン、渋柿に含まれる成分の用意をしてないので大きな石を挟んで川に沈めておく。

 皮は鞣さずに乾かすと硬くなり縮むので取り敢えずこのままだ。

 再び大きな葉っぱを集めて即席の調理台にして鹿肉を部位ごとに小分けしていく。

 骨は何かしらに使えるかも知れないので洗って集めておく。

 黙々と作業を続けていると夕暮れ時になり、竹を現地で加工して罠を作って来たらしい千空が戻って来た。

 遠くから自信満々に竹罠を掲げて来た千空だったが、昨日の兎よりも遥かに多い肉を包んだ葉っぱの塊を見て察した様で呆れ顔でその手を力無く落とした。

 

「てめぇ、やっぱり野生に還ってねぇか?」

「いやいや、骨折した雌鹿を見つけただけだから、元気な鹿には千空の作った罠が無いと無理だから」

「ほんとかぁ? ……まぁ、良いか。鹿を仕留めたって事は皮もあるよな」

「勿論、其処に沈んでるぜ。どっかにあるであろう渋柿を見つけたら皮鞣しかな」

「あ゛? ……噛んで唾液で鞣せば良いだろ」

「半日潰れる奴じゃん……。渋柿のタンニンで放置した方が早いし楽だよ」

 

 千空は手元にある材料で何かしらをする思考ルーチンがあるのか、面倒だからと非効率に走る時が時々ある。

 と言うよりも面倒だから手元で済ませようとしてしまうのだろう。

 何処かにあるであろう渋柿を見つける努力=皮を全力噛み噛みする手間がトントンと言う時点で、ね。

 まぁ、千空の根底に疲れる事したくない、つまりは探索しに行きたくない、要するに出不精と言う訳なんだろうけども。

 

「まぁ、一刻も早く衣服が欲しいから皮を噛み噛みするってんなら使ってもいいよ。オレは渋柿探しに行くけど」

「……分かった、そっちの方が合理的だしな」

 

 あぁ、若干不貞腐れてしまった千空の機嫌をどうするかなと思うも、葉っぱに包まった鹿肉でどうにでもなるなと思い直す。

 やはり思春期な少年には肉だよ肉、性欲的な肉欲は千空には無いっぽいけど、食欲ならきっとあるでしょ。

 しょうがないにゃあとばかりに塊肉を寝床へと運んでいくオレの後ろを、竹罠を下ろして運搬を手伝ってくれるあたり優しいよなぁ千空。

 一人で往復するよりも合理的だ、だなんてツンデレに言いそうではあるが。




今後の展開で思いついた事があったので鹿表記から雌鹿に変更。
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