石の上にも三千七百年   作:不落八十八

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#33

 普段と少しだけ寝心地の違う竹ベッドで目を覚まして辺りを見回す。

 ……よし、寝相は乱れてないな、とやらかしをしていないかを確認してから上半身を起こす。

 ん~~っ、と伸びをしてからあくびをして脳と身体がすっきりした事で頭が回り始めた。

 隣を見やれば既に千空は起きているようで、換気用に作った上ハッチを棒で押し上げてどかすと既に日が昇っている様だった。

 炭炉の火を見るために短時間の睡眠を繰り返すから本拠点で寝るわ、と言い出した千空に二つ返事で頷いてしれっと付いて行って寝たんだっけか。

 顔を洗おうとしてリビングに出るも、此方にはまだ水瓶を設置してなかったのを思い出して川へとふらふらと歩いて行く。

 此処は比較的山に近く、川の上流に位置するので水質もある程度沢から離れていない事から綺麗な方だ。

 明日には、いや、今日の午後には……、と少しだけ怠けつつも川の水で身支度をする。

 

「煙がモクモクしてんなぁ……」

 

 川原を突っ切る竹のパイプを辿れば未だに煙が上がっている炭炉があり、入口の方で中をじっと見ている千空の姿が見えた。

 何だっけな、手前の熱を奥の炭にする用の木材に送るのが炭炉の役割なんだとか。

 そのため、直火で引火しない様に手前に薪を焼べたり、空気穴を調整したりと徐々に熱が上がる様にしていくんだっけ。

 ……なんとも研究好きな千空の好きそうな作業だなぁ、トライアル&エラーとか好きだもんな千空。

 奥の方をじーっと見たり、手前の薪の燃え具合や煙の量などを測定している千空は、すっごーい、科学が大好きなフレンズなんだね、って感じの様子だ。

 雨の後の水溜まりではしゃぐ子供の様な微笑ましさが込み上げてきて、あの様子だと朝食を抜かす勢いだなぁと苦笑する。

 朝食を作ろう、としてふと思い出す、仮拠点から食料品などは回収してきてなかったなぁ、と。

 千空が此方に泊まる事を言い出したのが夕方近かったので、夕飯は釣ってきた魚の燻製だけだった。

 ちらりと辺りを見回すもそう都合よく獲物がぴょこんと顔を出してくれる訳も無く、近くで生えてたふきとノビルを摘んで来て食材に加える。

 土器から一度漉した海水を塗して天日干しした藻を取り出して、握り潰してやや粉末にして野菜炒めの味付けをしていく。

 焼き燻製イワシと野菜炒めを完成させて、千空を呼びに炭炉へと向かう。

 

「おっはよー、千空。進捗どーよ」

「おぅ、おはよう。ぼちぼちってところだな。温度管理がきちぃがやれない事はねぇな」

「流石は科学の申し子だねぇ。科学部を立て直した経験が活きてる感じ?」

「はっ、怠け者共に楽しい愉しい科学教室開いて科学スキーに洗脳しただけだっつーの。単純に論文やら動画で研究してた事が頭に入ってんだよ。木材が400℃あたりで自然発火するのを利用して温度を確かめてるだけだ」

「あぁ、だから焼き芋焼いてるみたいな恰好してたんだ」

 

 長い棒を炭炉の空気穴から突き刺して中を見ていたのはそれが理由だったのか。

 棒を抜き出した事で、先端に突き刺さる様に捻じ込まれた木片が燃えているのが見える。

 千空の先程の話を鵜呑みにするのならば炭炉の中の温度が400℃を越えている事の証明になるのだろう。

 

「はっ、杠の友人AとBが居たらこっそり焼いてるかもな。綺麗だからって勝手にタンクの水に染料ぶちこんでた前科があるしな」

「懐かしいねぇ、入部したての新入部員だって言うのにロケット開発してたんだっけ?」

「あぁ、つってもお前も似た様な事してたろ。半熟のドレスドオムライスをしれっと作って、おあがりよ、だなんてニヒルな笑みを浮かべてたって話だろうが」

「あの頃ジャンプで食戟のソーマがやってたから、料理部の部長が嵌ってたみたいで……。食戟をやって分からせただけだよ、実力をね」

「……やっぱりお前も大概だろうが」

 

 いやぁ、懐かしいなぁ。

 入学式で「宇宙に行く」と新入生代表として誓いの言葉をアドリブでぶっ放した千空は止まる事を知らずに、花岡くんと曰く付きな科学部に入部したんだっけな。

 因みにオレが料理部に入部した時には、食戟のソーマに感化されたらしい部長が十傑気取りで、新入生の腕前を見てやろうじゃないかと勝負を吹っ掛けてきたんだっけな。

 オムライスと言う御題は、シンプルかつ繊細なフライパン操作を必要とするオムレツ、具材を切って焼いて味付けをすると言う料理の初歩の極みと言える料理だった。

 べちゃべちゃなチキンライスや崩れたオムレツなどなど、同期の子たちが屈するなか、雀荘の賄とかで作ってたドレスみたいにした卵をチキンライスに乗せた物を出してみたのだ。

 実際、オムレツを作るよりも火の通りがシビアである半熟のドレスドオムライスは難易度が高く、素に戻った部長たちに作り方を強請られる事になったんだっけな。

 なので即席のドレスドオムライス講座が始まり和気藹々としていたので、ベーキングソーダとかを借りに来たらしい大樹たちは大分塩対応を喰らって追い出されたと言うのは後から聞いた話だ。

 材料的に科学のおやつと言えるカルメ焼きでもしてたんだろうな、ベーキングソーダと聞くと首を傾げる奴も多いだろうが重曹と言い直せば分かりやすい。

 科学に重曹とくればザラメを入れてお玉で炙り練るカルメ焼きを連想するのは容易い事だ。

 新入生歓迎会用に部長たちが焼いてくれていたクッキーを齧っている間にそんな面白い物を作っていたとはなぁ。

 ……あれ、あの時ザラメは部長たちが使って空っぽだった筈なんだけど、まさかザラメ抜きで作ったのか? ザラメ抜きで作れるもんだっけあれ。

 …………そう言えばクエン酸も借りてたっけ、重曹にクエン酸……もしや炭酸水?

 オレンジジュースとかを炭酸水で割ったりして新歓でもしてたのかな、科学部っぽいなぁ。

 

「いやいや、千空せんせには負けますとも」

「……はぁ、ダイダロス39の打ち上げは科学部総出のもんだ、俺だけが頑張った訳じゃねぇ」

「あはは、だろうねぇ。小説で148ページ分くらいの頑張り物語くらいはあるんじゃない?」

「やけに具体的だなぁおい。まぁ、噴射実験あたりの失敗あたりを省いたらそれくらいの文量になるかもな」

「その後くらいだっけ、高校一年の九月辺りに大樹が料理部に颯爽登場して来たの」

「あ゛ぁー、敬老の日に手料理が作りてぇってんで、杠に教えて貰えば良いもんを何でかトチ狂って俺に頼みに来たんだよなあいつ。曰く料理は科学だろう、ってな」

「惜しいなぁ、バケガクの方の化学なんだよなぁ。んで、クラスメイトのオレにぶん投げたんだっけか」

「はっはっは、お料理教室でもやってくれれば御の字ってな。まぁ、俺の栄養管理に口出して通い妻みてぇな事をする様になるとは思わなかったけどよ」

「はァー??? お前は何処のアグネスタキオンだよって感じの食事してたろうが。野菜と果物だけじゃ飽き足らずカロリーバーまでミックスしたスムージーをお手軽料理と称するだなんてなァ? 初めてだったよ……、ここまで料理と言う概念を虚仮にしたおバカさんはよォ……?」

「……戦闘力五十三万が混ざってんぞ。正直悪かったと思ってる……」

 

 アグネスタキオン? と千空が小首を傾げてたが、ウマ娘はまだリリースされてなかったなこっちだと。

 宇宙飛行士の訓練などで家を空けがちだった百夜さんはお世辞にも料理が出来る人ではなく、インスタントラーメンが主食な人だった事もあって千空の食生活は最悪に尽きる。

 外食が大概だった百夜さんの価値観からして、コンビニ弁当を買う事は当然の選択肢だった事はまぁ許そう。

 だが、それすらも研究を優先したいがために面倒臭がって時間短縮のためにカップ麺に逃げ、最終的にカロリーメイトなどの栄養バーで済ませる始末に陥ったのは流石に許さん。

 百夜さんは許すだろう、だが、料理好きのオレがそんな暴挙を許すかな!? と言う感じで、突撃友人の夕ご飯と言う形で矯正したのだった。

 まぁ、千空も誰かと一緒に卓を囲んでご飯を食べる時間が足りなくて、食事の大切さを感じられなかったんだろうしな。

 誰かと一緒に食べるご飯は特別な物じゃなくても美味しい、と言う事を半年くらいかけて教え込んだんだっけな。

 

「……今思えば半年ちょっとの間柄なんだよなぁオレたち」

「……そう言えばそうだな、一緒に居る時間が濃密過ぎて濃縮還元したみてぇな幼馴染っぽい距離感だがよ」

「千空が幼馴染かぁ……、それならもっと……」

 

 未来に恐怖せずに気軽に生きれたのかな、だなんてくっそ重い台詞を吐こうとした口を閉じる。

 実はオレ前世の記憶を持ってんだ、だなんてアホみたいなカミングアウトなんてする気は起きない。

 この世界の、と言うよりも名前も知らない原作の情報を知っていたら話は違っただろうけども。

 これから起きるであろう試練めいたイベントの数々を乗り越えるために、原作知識と言うカンニングが出来ただろうになぁ。

 まぁ、人類総石化するって分かってたらもうちょっとサバイバル技術を頭に叩き込んだよねって言う。

 正直技術面では足りているが、野生動物や植物からなる知識をもう少し覚えていたかったなぁとは思ってしまう。

 つっても、人間論文サイトみたいな知識量を持つ、暫定主人公の千空が一緒なのが一番嬉しいけどな。

 ……時折ギャルゲーのヒロインめいた乙女チックな思考をしちまうのは何かの呪いだったりするんだろうか。

 アレか、自己分析するに人との交流に飢えていると言うべきか、どちらかと言うとスキンシップか。

 うちの両親がよくハグをしてくるタイプの溺愛する親馬鹿だったもんだから、寂しく感じているのかもしれない。

 

「俺が幼馴染だったらどうだってんだ?」

「んー、助手をしてたかもね、君の」

「……お前が?」

「嫌?」

「いんや、少なくとも栄養面は喜んで管理されてやるよ」

「オレで手料理童貞を捨てた癖によぉ」

「もう少しマシな言い方あったろ」

 

 思わずと言う感じで突っ込みを入れた千空の必死さに若干笑いつつ、食べ終えた皿などを洗いに川へと向かう。

 千空がもしも幼馴染だったら、かぁー……。

 ベタなシチュだが、隣の部屋に千空と百夜さんが住んでいたと仮定すると、隣人のよしみで交流はあっただろうな。

 お人好しな百夜さんの事だ、千空の事を想って拙い隣人関係を築いて見せる事だろう。

 度が過ぎる程の科学スキーな千空の言動と、特徴的過ぎる髪色と髪型で暫定主人公の幼少期に据えるだろうからストレスも軽減されているだろうな。

 昔から食べる事が好きだった、のではない、不安やストレスからくる飢餓感を満腹感と言う幸福で上塗りしていただけだ。

 太っていないのは猟友会の爺ちゃんずと母の祖父母経由で関係を築いて山を駆ける事が多かったと言うだけで。

 ……まぁ、引けたらくれてやるよと言われ、できらぁと小学生の体躯でぐぬぬと負けん気を見せて立派な和弓を引いたりして筋力トレーニングの場に恵まれた事もあって身体面も平均以上はある。

 だからと言ってタイ捨流を学ばせようとせんでくれ島津の爺さん、生身に木刀は堪えるから、痛いって言ってんだろうがっ。

 チェェすんぞコラぁっ、と木刀でチャンバラごっこに興じたっけなぁ、懐かしい。

 お陰で砂の入った竹の棒で猪をぶちのめせたぜ、やってて良かった真剣ゼミってな。

 洗い終わった土器をテーブルに置いて白湯を飲む千空の所に戻ってから声を掛ける。

 

「この後はずっと炭当番?」

「まぁ、そんなところだな。カナメは何かする事あるのか?」

「んー、藻塩用の漉してある海水漬けの藻を天日干しさせたら狩猟に行こうかなぁって」

「まだ燻製肉あるだろ?」

「それがさぁ、最初期に作ったのが痛み始めてるからちょっと危機感感じててね。天日干しとかが甘かったのかなーって色々と改善点があるから、もう少し良いのを作りたいなって」

「成程な」

「それに、本拠点に付きっ切りで仕掛けた罠を見るの忘れてたなぁって」

 

 あー……、と納得した様子を見せる千空。

 炭炉の近くで天日干ししたら早く乾きそうだし、小さい獲物でも良いので仕留められたらなと思う次第である。

 三枚打弓と矢筒を装備して、内臓などを処理するための太めの竹筒を背負って本拠点を出る。

 あ、そう言えば竹の罠を仕掛けた所って仮拠点の方じゃん。

 昼食は仮拠点の方で取る感じにするために、罠の確認する順番をいつもの逆にする。

 一つ目、外れ、と言うよりも逃げ出した形跡があるので仕掛け直しておく。

 二つ目、外れ、捕まった様子無し。

 三つ目、当たり、だが捕まっているのは本命の鹿ではなく狸……、いや、アライグマかなこれ。

 尻尾を見やればふわっとしていて長く、縞模様があって顔にも目鼻の周りが白い。

 狸だと短い尻尾で縞模様が無くて、目鼻に白い体毛は無かったりする。

 かつてペットとして人気が出た事もあって愛玩動物として飼育されていたが、愛くるしい幼体からがっしりとした成体となって力が増して気性の荒さが露わになった事で野に解き放たれたり脱走したりして野生化したんだとか。

 農作物への被害から害獣として認定されており、アライグマの飼育等は禁止されている始末。

 人間のエゴが原因とは言え、愛くるしい容姿とは打って変わった畜生具合に幻滅してしまったんだろうなぁ。

 アライグマは夜行性なので夜に引っ掛かったのがそのまま残ってたんだろう、心なしか逃げれずに不貞腐れている感じだった。

 矢筒から矢を引っこ抜き、三枚打弓に番えて容赦無く頭を射抜いて始末する、慈悲は無いよ。

 顔の辺りは使い道が無いからなぁ、矢を引っこ抜いてから近くに穴を掘ってから首を切り落とし、大雑把に血抜きをしておく。

 

「アライグマの肉って地味にジビエだと上等の分類だったりするんだよね」

 

 海外のアライグマはアライグマ回虫や狂犬病やレプトスピラ症のキャリア動物だったりするのだが、日本だと狂犬病予防法により回虫と狂犬病は飼育施設で駆逐されているので清浄化されていたりする。

 基本的に日本に居るアライグマは海外輸入産の動物園から逃げ出した個体から繁殖した個体や元ペットなので、その辺りは安心して良いだろう。

 残るレプトスピラ症は熱帯や亜熱帯地帯での分布が見られ、沖縄に居るアライグマなら発症している可能性はあるが、東日本であれば距離と温度の関係で早々見つかる病原菌ではない。

 ついでに言えば50℃以上で十分以上加熱すれば死滅するので生肉を食わなければ問題はない。

 近くの沢でアライグマの体毛を洗いつつ血を抜きながら冷やしていく。

 アライグマの肉は癖の少ない地鶏の様な味わいで、脂を蓄える冬の頃だと美味しさが増す。

 爺ちゃんずと鍋にして食べた事があったなぁと咥内に涎が込み上げてくる。

 血を抜き終えたアライグマの内臓だけを取り出して先んじて中身を洗い流しておき、ついでに皮を剥いで別々の竹筒に仕舞い込んでおく。

 四つ目、五つ目と来て外れが続いた事もあり、竹罠の存在を気取られている可能性が高い。

 野生動物からすれば人間と言う未知の動物の臭いがついている訳だからな、慎重深くなるのも頷ける。

 もしかしたら普段の調理の際に出している火から香る煙などの臭いなどで異変を感じて、この辺りを敬遠している可能性もあるな。

 全てが当てずっぽうな憶測であるが、野生動物の人には無い嗅覚の強さは侮れない。

 取り敢えずはアライグマが狩猟できた事もあってボウズにはならなそうだ。

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