石の上にも三千七百年   作:不落八十八

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 本拠点に移り住んだ事と杠たちの復活が近付いている事もあり、衣食住の衣類、食事に力を入れる方針になった。

 と、言う事でオレは山に狩猟に、千空は家で炭炉と青銅作りの下準備をする事にした。

 藻塩のために用意した一度漉し海水が大量にあるので塩の不足については悩まなくて良い。

 獣道を遠目で確認しながら、オレらの行動範囲から外れた遠い場所に狙いを付ける。

 

「木の枝に登って遠視する、だなんて古典的な事をしてみようと思ったけど……」

 

 斜め下の獣道を監視するには十分だが、遠い場所を見るには適してないな。

 枝が目線の高さに来るもんだからまーったく見通せないし、仮に見つけられても降り立つ時の音で逃げられるなこれは。

 するとしたら幹の半ばくらいに蝉宜しくくっつくしか無いか?

 ……そう言えば、電柱の点検をしている電気工事の人が腰と電柱を引っかける紐を掛けていた気がするな。

 竹紐の長さは……、少し足りないかもしれないが幹に回すぐらいなら足りるか。

 比較的背が高く、枝がそれなりに上にある木を選んで幹に竹紐を回して棒で上げる。

 そして斜めに引っ掛けてしがみついて高くなった視界で辺りを見渡す。

 んー……、成程ねぇ、これ、確実に鹿よりも上に立ってる肉食動物が居るな?

 群れと称するには少なすぎる鹿の群れが見え、時折耳を立てて辺りを警戒している素振りがあった。

 鹿みたいな群れで暮らす動物が罠に引っ掛かって個体で居た事にそもそも気付くべきだった。

 群れの動物を追いかけ回す様な肉食動物と言えば、犬、か?

 だが、日本に居たであろう犬がハイエナ宜しく鹿を追い回す程に進化するか?

 フロムゲーならまだしも、現代日本のペットから派生した犬が?

 

「……動物園、か。ライオン、トラ、……場所によっては熊、とかか」

 

 熊は肉食ではあるが川で魚を取る事だろうし、足の速い鹿を追いかけ回すとは思い辛い。

 となるとライオンとトラになるが、動物園から脱走した個体から繁殖したとすればその個体数は数少ないだろう。

 実際、生物界の頂点を取る程に大量繁殖していたのならそこら中でうろうろとしているに違いない。

 ……いや、ライオンとトラの二大派閥で縄張り争いをしている可能性もあるのか。

 お互いにネコ科であるが、群れを成すライオンと孤高を行くトラだったら数の差でライオンの方が有利か。

 犬と違ってライオンは遠吠えなんてそうそうしないからなぁ、ぷにぷにな肉球も相まって静音性高めで近寄ってくる事だろう。

 

「ライオンってネコ科じゃん……、えぇ……、仕留めたくないんだけど……」

 

 ただまぁ、猫派と言えども襲われて死に掛けるのはノーサンキューなのでマタタビでも探してみるか。

 マタタビは北海道から九州に掛けて生息する樹木であり、猫がごろにゃんと酔っぱらう様に擦り付ける事で有名な代物だろう。

 実際、マタタビの成分が猫を酩酊させるので間違いは無い。

 猫が好きな日本人は多かった事もあり、マタタビの枝や実はペットショップにあったりした。

 何なら個人の庭に植えていた物好きも居た事だろう。

 ……実際、うちの庭の真ん中に母が植えて、猫の集会場にして貰おうと画策してたっけなぁ。

 

 

「……マタタビを染料にしたら襲われないどころか、仲良くなれるのでは……?」

 

 いやほら、ライオンってでっかい猫な訳だし、マタタビの効果はネコ科全般に効果あるし……。

 粉末状にしてぶちまけると言うのも手ではあるし、ついでにマタタビ探すかぁ。

 いやぁー、別に必要は無いけどー、襲われる可能性を減らすためにはー、仕方がないかなー!

 ……帰るか、家に。

 そう思って家のある方向に足を踏み出して、止まる。

 ……分かってる、人類は全員石化したんだ、母さんと父さんもきっと石化してる筈だ。

 けれど、五体満足で残っているかどうかは本当に運次第だ。

 家に居たであろう母さんは兎も角、仕事に行っていたであろう父さんを探すのは大分後になる事だろう。

 

「ゾンビパニックで自宅に帰りたくなる気持ち、こんな感じなんだろうなぁ……」

 

 物語の主人公パーティに入るメンバーならばご都合主義で無事でいる事だろう。

 ……いや、最近だと普通に曇らせるために死んでるパターンも多いか。

 オレは転生者と言う物語の第三者であり、千空を主軸とした原作に組み込まれていない人物だ。

 ……そんな人物の両親が無事でいて、物語に関わってくるだなんて希望的観測を無邪気に信じられる訳がなかった。

 素直に言えば、事象を確定してしまう事が怖かった。

 シュレディンガーの箱の中を覗きたくなかったのだ。

 もしも、目の前にバラバラになって修復の目途の立たない家族の成れの果てを見てしまったら……。

 きっと、悔やむ事だろう、こうなる事を予測できなかったオレを、もしも原作を知っていたら防げていた事だったかもしれな……。

 

「……いや、無理だわ。三千七百年の運ゲーは流石に無理だわ、それこそ核シェルターでコンクリートの棺桶に閉じ込めるくらいしなきゃ無事を祈れねぇわ」

 

 千空、杠、大樹は恐らく原作の主人公パーティで、そこに加わっているオレだけが奇跡的なんだろう。

 止まっていた足を動かして家の方向に向ける。

 むしろ、家族の成れの果てがあったとして、それを埋葬してやれるのはきっとオレだけだ。

 弓を握り締めて意を決して家のあった場所へと歩いて行く。

 広末高校は自宅から一番近い高校だった事もあって此処でも十分に歩ける距離にある。

 それっぽいビル群だった地形に目星を付けて足取り重く歩いて行くとそれっぽい道なりに出た。

 

「あー……その可能性は考えてなかったなぁー……」

 

 そう、マタタビを取りに来たのはライオンやトラ対策だ。

 故に、恐らく自宅の跡地と思われる場所に五メートル程の高さのマタタビの木が群生しており、その下でごろにゃんと寝転ぶライオンの一家を見て思わず唖然とした。

 たてがみふさふさの雄が一匹、奥さんと思われる雌が四匹居て一家団欒と言う感じでくつろいでいるようだった。

 近くに転がっている鹿の食べ残しが妙に生々しいが、あれから発する血の臭いでオレの事を嗅ぎ取ってはいない。

 ……これは千空に報告だなぁ。

 本拠点から離れているのが幸いと言うべきか、抜き足差し足でその場を去って離れる。

 確かに猫だな、ネコ科と言う分類ではあるよ、大きな猫だなぁ、最大サイズのなぁっ!!

 嘘だろ、そんな事あるか、なんてこった、猫の楽園予定地が百獣の王国と化してるじゃねぇか。

 

「いや、逆に考えるんだカナメ、マタタビの木を占領させちゃってもいいさ、と」

 

 とあるジョースターな紳士が言っていただろう、くれてやっても良いのだ、良い方向に転ぶのならば。

 あの場所に留まってくれるなら狩りに出る以外の時はマタタビに酩酊しているに違いない。

 マタタビによって猫が得るのは酩酊感が大部分であるが、快楽やリラックスなどの気持ちを落ち着かせる効果も確かにある。

 ……あ、でもマタタビって慣れるんだよなぁ、実際あのライオンも涎を零している感じではなかったし。

 日曜日にテレビの前でソファへ寝転がっていると言うべきか、あの場所は憩いの場所であって酔っぱらう酒場では無いのだろう。

 んー……、あの近くに居る、と言う情報だけに留めるべきかな、普通に歩き回るだろうし。

 あの場にずっと留まっている、とは何とも言い難いし、間違った情報は伝えない方が良いだろう。

 

「……まさかと思うがあのライオン、近所に居たであろう野良猫たちを餌にしてたりしねぇだろうなぁ?」

 

 野生の動物に猫や犬と言った愛玩動物だった動物たちの姿が見えないのが非常に気掛かりだ。

 まさかと思うが絶滅なんて……、してない、よな?

 マタタビを取りに来ただけと言うのに変な気苦労を背負ってしまった気分だぜ。

 なるべくあの場所から離れて獣道を探して歩き回っていると、川の水を飲んでいる雌鹿を見つけた。

 辺りを見回すも番の雄は見えない事から群れから離れた個体であると憶測できた。

 ……しっかし、出会う個体が群れから離れた鹿ばっかりだな。

 夜行性の気質である鹿がこうも真昼間に歩いているのがどうもしっくり来ない。

 いやまぁ日中に移動しないと言う訳ではないのだが、主食となる草はそこらに鬱蒼と生い茂っている訳で。

 

「もしかして、逆に群れの数が多過ぎて一部の腹ペコが遠出して迷ってたりする?」

 

 森林に住まう鹿であるが、餌不足で農地に足を運ぶ事も少なくない。

 そこらの草よりも美味しいと感じたらそれを探しに向かう個体が現れても可笑しくは無い。

 ……あー、スーパーの跡地に群れを成してたりするんかなぁこれ。

 けど、その場合あっと言う間に食べ尽くされているんじゃなかろうか。

 そうなると主食にしている草を食べる範囲の外円部にスーパー跡地が引っ掛かっている可能性も有り得るか。

 そこで味を占めた個体がこうして放浪の旅に出ている、と考えれば割と当たっているんじゃなかろうか。

 ……と言うか、跡地に残れば良いのにそうしていないって事は、追う存在が居るって事だよなぁ。

 心当たりあるなぁー、めっちゃあるにゃー?

 ライオンが跡地方向に狩りに出ているのがほぼ確定したと言って良いんじゃなかろうか。

 実際、マタタビの木の近くに鹿の食べ残しがあった訳だし。

 

「……地味に広末高校の付近も危険地帯じゃね?」

 

 杠が未だに高校の裏庭跡に取り残されているの危険じゃなかろうか。

 いやまぁ、杠が、ではなく、杠を復活させようとしたメンバーが、だが。

 ……千空は大樹が突っ走るから駄目だと言っていたが、こうなるともはや致し方無いのではなかろうか。

 硝酸の取れる洞窟の前にミロのヴィーナス宜しく置いとけば流石の大樹も気付くだろ、うん。

 一応千空への相談をしてからだな、ライオン対策に色々と考えてから動くべきだな。

 マタタビエリアからしっかりと離れた事を確認してから、安堵の息を吐いて額の汗を拭う。

 腕に噛み付き対策のアームカバーみたいの作ろうかな……、と言うかもういっその事革鎧とか作ってみた方が良いか。

 炭が出来上がったら青銅の製作に手を出すって言ってた訳だし、青銅を中に仕込んで部分的な革鎧を作りたいなぁ。

 

「んふふ、革鎧に身を包んで弓を装備してるとか、もう立派なファンタジーのローグじゃんね」

 

 ……無いよな、ダンジョン的なナニカ。

 緑色のアレの正体が異世界の産物だったりしたら、もしかしたら何処かで次元的なサムシングで道が繋がってたりとか……。

 しないか、してたらもっとひでぇ事になってるよな地上が。

 異世界からの侵略に迎撃に当たる人物皆無だし、何なら全員石化してるし。

 そうなってたら初代勇者は百夜さんだったりするんだろうか、六人ぐらい居ただろうから頭数は足りるな。

 人類総石化からの三千七百年後の科学無双物語に異世界ダンジョンまで追加されてたら情報のインフレも甚だしいからな、流石に編集に却下される事だろうよ。

 

「さーて、チュートリアルもそろそろ終わりって感じかなー」

 

 楽観視するのならば、第一のボスの正体が露見したと思うべきだろうな。

 科学封印状態からの拠点作りがある程度終わって、遠征も視野に入り始めた時に現れた強敵は百獣の王!

 存在を知ってしまった我らが石神千空探検隊は「こんなこともあろうかと」と千空博士の発明品を取り出した!

 ライオンの撃退を経て、仲間の絆を深めた千空たちの開拓期は続く!

 みたいな? 一巻の半分とは言わないが、一章の終わりくらいには丁度良い塩梅ではなかろうか。

 本来なら、千空を先頭に大樹と杠で立ち向かうんだろうなぁ、ライオンと。

 ……いや、普通にライオンってリアルだとFOEじゃん、世界樹でもFOE級だろうけども。

 と言うかオレの家は原作にはなかっただろうし、そもそも正体露見せずにばったり出くわす展開も有り得るのでは。

 

「そんでもって逃げた先に新たな仲間が居て、とか展開としてはあるあるだなぁ」

 

 それはまぁゾンビパニック物のお約束みたいなもんではあるが、主人公が貧弱系だとよくある話かもな。

 んー、となると、メタ的に展開を見るなら、全滅の危機に瀕した事から拠点を放り出して逃げて、新たな生活基盤を作っている途中に何かしらの第三者が現れて、第二部が始まるって感じだろうか。

 ……仮に、百夜さんが、宇宙船ソユーズのメンバーが降りてきているならばそこから子孫が生じる可能性はある。

 そんで、彼らを子孫とする人類が生活していてそれに接触する、とか?

 それならマンパワーも足りるし、何よりも科学を知らない人たちに千空が説明しながら発明をして活躍すると言う展開に持っていける筈だ。

 または、現代に居た猿が人類の道具を手に入れてワープ進化していき新たな人類が生まれたパターンか。

 ……いや、それは無さそうだな、そうなってたらこんなにも荒廃、と言うか樹木が生い茂っているのはおかしい。

 普通に都市があってもおかしくは無い筈だ、三千七百年と言う長い日数はオレら旧人類の進化し続けた時代を越えているのだから。

 木に寄り掛かってうんうんと頭を唸らせていると、視界の端にちらっと顔を出した小鹿が居たので頭を切り替える。

 

「辺りに親は……いねぇな、完全にはぐれか」

 

 好奇心旺盛だったのか親元から離れる程に森を疾走したのだろうか、疲れた様子で沢の水を飲んでいるようだった。

 矢筒から矢を引き抜き、三枚打弓に番えて照準を合わせる。

 息を止めて筋肉を制し、腕の揺れを抑えてから――放つ。

 風を切る音を察して頭を上げる事を予見して、やや高めに射った矢が側頭部に突き刺さり脳を穿つ。

 見事、こめかみあたりに矢を生やした小鹿が痙攣しているので肩に担ぎ上げて川の方へと走る。

 此処で血抜きをしていると探しに来た親鹿と出くわすかもしれないからな。

 それに、ライオンと言う肉食獣の存在を知った事もあり、ド派手に証拠を残すのも躊躇われた。




あのあたりにライオンが居た理由が特段思いつかなかったのでそれっぽくでっちあげ。
いやまぁ、霊長類最強に百獣の王の毛皮を着せたかったからなんだろうけども。
熊でも強さの証明はできるけど見た目バーバリアンになっちゃうからね……。
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