石の上にも三千七百年   作:不落八十八

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 うーむ、千空のラボ作り二日目な訳だが、進捗は程々だ。

 と、言うのも基本的に建築資材を生産しながらの建築のため、床に撒く砂利くらいしか省略できないからだ。

 手頃な形の石は川原でごろごろ転がってるしね、けど壁に砂利は使えないんだわ、辛い。

 千空のラボと言う事はこれから長い間通い詰める場所と言う事になるので、それなりの強度のある壁を作らなきゃならない。

 手頃な土塊は寝室とリビングを掘り抜いた事でほぼほぼ使い切っているので、建築方式は必然的に竪穴式になる。

 前回の教訓から、深く掘れば掘る程に大黒柱の設置が楽と言う発見があった事もあり、今日も今日とて穴掘りである。

 

「ふぃー……、五メートル四方に一メートル掘りってこんぐらいかなぁー……」

 

 正確な測定なんてできないので歩き幅によるガバガバな見積もりである。

 四方に大黒柱ズが埋まる位置をそれなりに掘っておき、対角線上から此処に嵌めてぐいっと持ち上げながら嵌め込むつもりだ。

 支柱となる四本の伐採は、昨日やった川原で最硬選手権と言う名の叩き付けによって選ばれた優勝物のデカくて硬い石を斧に加工したグレードアップしたビッグストーンアックスによって物理的に解決させた。

 石斧改? あいつには丸太は荷が重いので置いて来た、……この流れ前にもやったな。

 革はもう石斧改に使ってるので、竹縄を巻いてそれっぽくしただけ。

 重い、でかい、硬いの大石斧は丸太の伐採に非常に役立ってくれた。

 具体的には伐採時間が半分くらいになったくらいには有能だったね。

 やっぱり物理しか勝たないね、やったね千空効率上がるよ。

 

「これでー……、最後っ!」

 

 四方の支柱の最後の一本を木槌で叩き込み、高さを目測で均等にしてからウッドアッシュと砂と細かい砂利を水を加えて混ぜた生コンで根元を巻いたら完了だ。

 ぶっちゃけ、土壁を背にしているので倒れる心配は殆ど無いんだけどな、支柱同士に上で梁を付けたら物理的に折れない限りは倒れては来ないだろうし。

 三メートル程の支柱を立てたので天井の高さはそれなりにあり、竹の梁と屋根を付ければ十分だろう。

 床に散らばった土を取り除いて平に整地してから砂利を撒いて木槌で叩いて均していく。

 少し大き目の砂利を撒いて敷き詰めて、最後に平たくてやや大きい石で床をパズル宜しく埋めていく。

 最後に出っ張りを木槌で叩いて平にすれば完成だ。

 これで床に薬品を零しても水を流せば地面に流れて掃除ができる機構の出来上がりだ。

 

「ふぅー……、流石に腰痛ぃ、普段使わない筋肉が悲鳴を上げてるぅー……」

 

 土を階段状に削ってから半割した竹で蹴込み部分を覆って、中を掘り下げてから砂利でこの床と同じような感じに仕上げた出入り口へ腰掛けて小休憩を取る。

 竹筒から煮沸済みの水を飲んで喉を潤して、額の汗を拭った。

 ……はー、作業用の服とか欲しいなー、普段着な上に寝間着も兼任してるこれを酷使し過ぎてる気がする。

 そうなると布で出来た作業着とか良いかな、昔の人って麻の服とか着てたんだっけか。

 駄目だ、流石に服飾系の知識はオレには無い、そう言うのは杠の専売特許だ。

 んー……、この前の小鹿を鞣した革を使って作業着でも作ろうかな。

 しっかりとした衣服にしちゃうと汗を吸って本末転倒だから、胸元だけ覆うアレ作ろう。

 名前は……何て言ったっけかな、ベアトップ、いや、チューブトップとか言うああ言う感じのやつ。

 あぁ、いや、ズレずに裁縫とか無理そうだからエプロン状にすればいいのか。

 そしたら前掛け的な感じで前はしっかり隠れるし、背中空いてたら涼しいだろうしね。

 時期的にも春の次は夏になる訳だし、そう言う涼しい恰好を作っておくのも手だよなぁ。

 

「セクシー過ぎてすまない、なーんつって」

 

 オレの場合然程胸も大きくないので形が崩れる心配も少ないし、構造的にもエプロンは作るのも楽そうだ。

 この七分丈な短パンと併用する形になるのかな、今の恰好よりかは凄く通気性は良くなるだろう。

 ……いや、けれども過度な露出は森林とかは禁物だよなぁ、此処等一帯は虫除けの防虫しては居るけど素材を集めるには森に入らないといけないし。

 そうなると背中剥き出しは危険かな、そしたらショートベストみたいな感じで通気性を良くする方向で作るか。

 腕が抜ける様に穴を作って、前を竹縄か何かで閉じればそれでオッケーだしね。

 

「いや、そもそもの話虫除けの類を作って持ち歩けば良いのでは?」

 

 蚊取り線香的な感じで、それの前身に当たる蚊遣火のセットを持ち歩けば良いんじゃなかろうか。

 竹筒の中をウッドアッシュセメントでコーティングして、松の葉や杉の葉の若葉やヨモギとかを乾燥させた物を突っ込んでおいて伐採とかで居座る時に燃やしてモクモクさせれば良いか。

 そうなると今のうちに若葉を集めておいて乾燥させた方が良さそうだなぁ。

 千空のラボを作り終えたら今の時期にしか取れない素材を集めておくのも良いかもしれない。

 ある程度の小休憩を終えたので続きの作業である屋根に取り掛かる。

 と、言っても既に切り出しておいた孟宗竹を梁として竹紐で縛って固定し、その上に竹を並べて両端を縛るだけなんだけどね。

 一応竹の間に隙間ができちゃうので竹紐を作る際に出た硬い筋の部分を交差するように敷き詰めてから、ウッドアッシュと混ぜた粘土を厚めに塗っておく。

 そして、仕上げに元の屋根材にした竹と交差するように半割した竹を粘土の上に被せていく。

 この時に川原の方に先端を伸ばしておいてやや長い軒先にしてから傾斜を付けておくのを忘れない。

 これで雨が降っても川原の方へ水が流れるので浸水を防げる訳だ。

 そしたら今度は中へ戻って内装の続きに取り掛かる。

 外の地面より少し高い長さに切った半割の竹を支柱と支柱の間の土壁の部分に立てて埋め込んで叩き込み、隙間に粘土を捻じ込んで封をしておく。

 外に出たら中の竹壁に面する地面の土を少し取り除いて、浸水対策として横にした竹を並べて縛っておいてウッドアッシュのモルタルで隙間を埋めてから粘土と大き目の石を組み合わせて石壁を組んでいく。

 外壁を四方全部に作っていったら外装は完成だ。

 内側を粘土でペタペタと左官して耐火性に優れた粘土壁に仕上げればオッケー。

 

「ふぅー、天井と壁の間に十センチくらい隙間があるから換気も完璧。後は内装の棚かな」

 

 まぁ、棚は竹をHの形に二つ程縛り合わせてから中央と上部に棚の部分を紐でがっちゃんこすればあっと言う間に完成だ。

 組む時間よりも伐採する時間の方が長いくらいのお手軽DIYだしね。

 

「換気良し、広さ良し、棚良し、外が土なので防火性もヨシッ、完璧だな」

 

 指差し確認で千空のリクエストをクリアできている事を確認してから、必要になるだろう内装を考える。

 確実に大き目な作業机は必要だろうから同じ作り方で一メートルの横幅と五十センチくらいの奥行き幅の竹机を作っておき、後で平たくした板が置ける様になるべく水平になる様に仕上げる。

 ついでに道具を入れられる小物入れを机の端に竹筒を縛り付ける事で作っておき、丁度良い高さの椅子も作っておく。

 

「ま、こんなもんかな。中々の達成感だなぁ、はぁー……、久々にサイダーとか飲みたいなぁ」

「……お前の建築技術はどうなってんだ。二日でラボできてんじゃねぇか」

「あ、千空。こんな感じでおっけ?」

「オーケーオーケー、これ以上無いくらいにオーケーだわ」

 

 五段の階段を半ば降りた所で内装をぐるりと見渡した千空のサムズアップに安堵する。

 後はこのラボに隣接する倉庫を作れば良いかなー、と展望を語れば首裏を掻きながら千空が近寄って来た。

 見やればもう片方の手には四角い木材の様な物を持っていて、ん、と無言で渡してくるので受け取る。

 

「せ、千空、これまさか……」

「そのまさかだ。カンナが欲しいって言ってたろ」

 

 受け取ったそれは記憶に残るカンナのそれであり、丁寧に拵えられている事から自分用にも持っているのが窺えた。

 試しに丸太の柱に沿って使えば、鰹節とまではいかないが十分に薄い木屑が排出され石床に落ちる。

 これが、これさえあれば和弓の最終進化系たる弓胎弓の製作に取り掛かれるし、何よりも――。

 

「檜のお風呂が作れる! やったー!!」

「……大分我慢させてたしな。二人でやれば明日には作れるだろ」

「うん! ありがとう千空!」

 

 此方の本拠点に移り住んでから土器に貯めたお湯で身体を洗ってたから、漸く湯船に浸かれるとなると嬉しさが爆発する思いだった。

 そうなると檜風呂の構成を考えなきゃな、と思案すると千空がニヤリと笑みを浮かべて腰裏に差し込んでいたらしい木の板を手渡して来る。

 受け取り見やれば、樽を半分に割った様な露天風呂タイプの構造の図案だった。

 へぇ、足元に排水機能を付けて洗い易くするんだ。

 温度調整の焼き石は桶に入れて安全対策するらしい。

 しっかりと考えてくれたんだなぁと伝わる書き込み量に思わず頬が緩む。

 

「んで、これが出来てるって事は青銅の精製が上手くいったんだね」

「あぁ、と言っても成功率は半分くらいだけどな。錆びて剥げた分が多くて総量は減るわ鋳型は成形がシビアだし。それも本来なら斧の刃にするつもりだったんだが、形整える過程で叩いたら半ばで折れやがった」

「んー、粘土の型に流し込む遣り方だったよね?」

「あ゛ー、そっくりそのまま使うのが駄目だったかもな。あくまで十円玉として用いるための配合だしな」

「科学者から鍛冶屋に転職する?」

「ははは、んな訳あるか。そう言うのは体力が有り余ってる奴にやらせる」

 

 そう言ってふっと笑った千空は杠たちの居る方を見遣って肩を竦めた。

 成程、大樹なら一日中鎚を振っても疲れ知らずに働いてられるかもしれないな。

 タンクトップに捻れ鉢巻の恰好の大樹は似合いそうだなぁ、配合辺りの助手を器用な杠がサポートしてやれば良い具合だ。

 ふむ、千空村の鍛冶屋夫婦として名匠になりそうだなぁ。

 ……いつか、オレも千空と、だなんて淡い希望を込めて見やるも大樹の方向に顔を向けて黄昏てやがった。

 …………大樹復活させないと駄目そうだなぁ、こりゃ。

 一心同体の竹馬の友にして精神的半身が居ないとなると、心の靄が晴れないといった感じなのだろう。

 ま、代わりになる、だなんて安易な考えの擦り寄り方はしないさオレは。

 千空の右腕は大樹なのだから、その反対の左腕になれば良い。

 人間関係において排斥は一番簡単で安易な感情的選択肢であるが、人の心を顧みれば愚策も愚策、後の関係に明らかなデメリットを生じさせる愚行である。

 大体ヤンデレ展開とかでありがちな、自分には貴方しか居ないの、と嘯きながら敵視する人の立ち位置に成り替わろうなどと矛盾した行動が関係破綻に繋がると何故分からんのか。

 お前の惚れた相手に代わりが居ない様に、お前が排斥しようとした奴もまた惚れた奴の替えの効かない人だろうにな。

 詰まる所、独占欲は身を滅ぼしかねない要素である、と言う事だ。

 ……まぁ、意中の人が別の誰かを見ていて、此方を見ないってのがヤキモキする事と言うのは否定はしないけどな。

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