石の上にも三千七百年   作:不落八十八

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 俺が竹林でせっせと竹罠を作って戻ってきたらカナメの野郎、しれっと鹿を仕留めてやがった。

 高低差で脚を骨折していたのを狩ったとの事だが、既に解体されているせいでその証拠は目に見えない。

 何となく石に潰される形で置かれていた鹿皮を見てみれば、確かに外傷が一ヵ所、後ろ脚の部分に存在していた。

 嘘は言って無さそうだな、とんでもラッキーガール、実に非科学的な奴め……。

 皮鞣しは口で噛んでしてたんだぞ、と昔百夜に蘊蓄を語られた事もありついそれを口にしてしまったが、ある意味俺よりも狩猟に関するプロフェッショナルなカナメに論破されてしまった。

 

「ふふん、日持ちしないからこれからドゥンドゥン鹿肉を焼こうぜぇ」

 

 だなんてルンルン気分なカナメを見ているとささくれ立った気分が落ち着く心地だった。

 渋柿か、確か柿は実が熟すと生理落果で全部落ちるからこの時期には取れないんだが。

 ……近くに柳があったから樹皮を剥いで煮ておくか。

 竹罠と一緒に竹細工の網皿などを編んでたので取りに行かなかったが、明日辺り背負い籠を作る時にでも捥いでくるか。

 石の平たいフライパンに鹿肉がデデンと厚切りに乗せられ、焼けていく様を見ながら今後の事を考える。

 カナメと同時スタートを切れた事で冬への支度に十分な戦力で以って取り掛かれる事は僥倖だ。

 それに、狩猟関係で俺よりも知識のあるカナメが狩猟を担ってくれるおかげで俺の方の工作も捗る。

 竹と言う水に強くしなやかで頑丈な素材を手に入れられた事で得られる恩恵はでかい。

 土器を作る予定だったが竹と木材で樽を作った方が頑強であるし、土器のために大竈を作らないといけない事もあり短縮できるところはしていくべきだ。

 

「ほら見ろ千空、良い色だろ。しっかりと焼いていくからなぁ」

「あぁ、そうだな。楽しみにしてるぜ」

「へいへい、任されたぜい」

 

 竹で作ったトング擬きで楽しそうに鹿肉を焼いているカナメであるが、ほんっとこいつ自分が女である事を忘れてねぇだろうか。

 大きな葉っぱを腰蓑みたいに吊り下げただけの防御力皆無な恰好で前屈みになって小さい尻を振ってんじゃねぇよ。

 鎌首を持ち上げそうな性欲に理性による圧を掛けて耐えているが、こちとら思春期の男子高校生だぞ。

 ……まぁ、小っ恥ずかしいから口にはしねぇけども。

 はぁ、大樹と杠の非合理的な片思いシーソーを五年間程見せつけられてきた俺だが、ひょんな事で加わったカナメとの交流のせいであいつらの想いの一端を理解しちまった事もあり何とも言えない。

 この丁度良い距離感の関係が、一言で壊れてしまったら、だなんて思うとあいつらの事を笑えない。

 宇宙馬鹿だった俺と単純に馬鹿な大樹と知り合った当時のカナメは実に鋭い奴だった。

 多分雀荘通いで培った勘の鋭さだろうが、それを日常生活にも使ってくるものだから堪ったもんじゃねぇ。

 百夜との微妙な生活を見抜かれて、態々料理の練習だからと味見役を押し付ける様に通い妻みてぇな事をしやがった上に、その理由が下心一切無しの友情からだなんて脳が焼ける思いだった。

 事ある毎に隣人の幼馴染が如く乱入参戦しては、快刀乱麻にサパッと解決していく様はもはや漫画の主人公だ。

 なのにこいつは自分の事を運の良い一般人モブAだなんて思ってやがるから質が悪い。

 よく分からんネットミームを日常会話に入れたり、個性付けにと麻雀関連の口癖を後付けしたり、ほんっとよく分からん女なのだが不思議と不快感は無くて面白く楽しいのが実情だ。

 

「よぉーし、焼けたぜ千空。美味い所は折半な」

「つっても二人で食い切れる量じゃねぇだろ」

「そんときゃ魚を取る時の餌にしちまおう。竹で籠とか作ってるんだろ? 返しの付いた奴作ってくれよ。それを川に設置しとけば生け簀を作って食料確保の時間を別に充てられるぜ」

「はいはい、わぁーったよ、作っておく」

 

 にしてもサバイバル力強過ぎないかこいつ。

 聞けばサバイバルクラフト系のゲームからの受け売りだぞ、との事だが専門的な知識も混ざってるからなぁ。

 サバイバルガチ系には勝てねぇよと宣うが、十分アマチュアで通用しているから問題無いだろうに。

 ……こいつの変な所で自信の無い様子は何が原因なのやら。

 いや、こいつの場合もしや俺以外に見る視線が無いから本来の自分を発揮しているだけなんじゃなかろうか。

 

「あ、鹿の腸があるし、一部は燻製してソーセージにしようか。塩が無いのがちょっとネックだけど、ハーブならきっと何処かにしぶとく生えてるだろうから習作しとこう」

「ハーブか。確かあっちの方にバジルっぽいのが生えてたな」

「バジルか、良いね。ローズマリーとかは匂いは良いんだけど味は人を選ぶからなぁ。明日渋柿探すついでに採ってくるわ」

「あ゛ー、渋柿だがそれに代わるのが竹林近くにあったからあの皮の処理はこっちでやっとく」

「お、マジか。助かる助かる。じゃあ、明日はハーブを拾って来てソーセージ作りかなぁ。冷蔵庫は流石に無理だから冷暗室作りたいね」

「あ゛? ……あぁ、冷暗所、か」

 

 一瞬霊安室が浮かんで何事かと思ったが、話の流れからして貯蔵のための場所が欲しいのか。

 確かにこれから春を通って夏に至る訳だし、折角取った肉類を腐らせるのもアレだから早めに作るべきか。

 ……仮に俺だけのスタートだったら保存の利くキノコ類で乗り越えようとしてたかもしれねぇ。

 やっぱりこいつが居て良かったわマジで、生活水準が馬鹿上がりしやがる。

 

「そしたらアレだね、地下に貯蔵庫を作ってから上に家を建てた方が良さそうだな。冬になったら外に出るのも一苦労かもしれないし」

「そうだな。ツリーハウスを予定してたが、竪穴式住居の方が良さそうか」

「ツリーハウスかぁ、浪漫あるね。上の方に作る利点は雨対策?」

「まぁ、そうだな。後は肉食動物が来た場合を想定してる」

「あぁ~、肉食動物かぁ。なら両方作っておいても良いかもね。貯蔵庫兼食事場の竪穴式と、睡眠と安全策のツリーハウス」

「んじゃ、竪穴式は任せた。キッチン周りはお前の担当だろうからな、好き勝手に作ってくれや」

「あはは、了解」

 

 大樹の復活を待たずに住居の建築が決まってしまったが、まぁ、あいつが居ても木材辺りを担当するぐらいだしな。

 鹿肉は昨日の兎よりも淡白であるが、量もある事で食べ応えが相当にあった。

 残った塊肉は葉っぱで包んでから、地面を掘った後に川原の石を敷き詰めた簡易的な地中収納スペースに仕舞い込み、火付けに使った半円の板の残りで蓋をして保存しておく。

 その見た目のやばさにカナメがやや唸っていたので、恐らく明日の作業は冷暗所作りになる事だろう。

 交代で川で身体を洗って排泄も済まし、寝床の葉っぱの布団に転がる。

 ……昨日は復活のテンションと石割りの疲れで気にしていなかったが、隣にほぼ裸同然のカナメが居る事実に思い至ってしまう。

 夜間の安全策としてお互いの間に石造りの焚火を設置してはいるものの、簡単に区切れる訳ではない。

 のだが、肝心のカナメは疲れ切った様子で数分後にぐっすりすやすやと寝始めやがった。

 幼馴染の様な距離感の近さが災いしているのか、こいつ俺の事を男と認識してねぇんじゃなかろうか。

 上半身を起こして焚火越しにカナメの寝顔を見やる、……安心し切ったすやすや顔に毒気が抜かれてしまった。

 

「……はぁ、ほんっとにこいつは…………。寝るか」

 

 寝心地の悪い葉っぱの感触に違和感を覚えながらも目を瞑っていれば段々と眠気が訪れて――。

 翌朝、目が覚めて起き上がると既にカナメは寝床から出ているようだった。

 顔と口を濯ぐために川へと向かうと、昨晩よりも肌色の多いカナメの姿がそこあった。

 朝っぱらから朝シャンよろしく水浴びをしていたらしく、線が細くも筋肉質に引き締まった身体を晒しながら川の水で身体を洗っているようだった。

 ……流石に居た堪れなくなった俺は無言で踵を返し、手洗い用に汲んでいた水で朝のルーチンを終わらせた。

 暫く寝床から立ち上がれなかったが、カナメがルンルン気分で戻ってくる頃には動けるようになっていた。

 

「おっす、おはよう千空」

「おう、今日はどうする感じだ」

「えぇと、なんか機嫌悪い?」

「気にすんな、罪悪感覚えてるだけだからよ」

「そ、そうか。何か困ってたら言うんだぞ?」

 

 お前の事で困ってんだよと叫んでやれればどれだけ楽だったろうか。

 疲れを吐き出す様に溜息を吐いてから、カナメに焼いて貰った鹿肉を朝食にして機嫌を取り戻す。

 そして、竹林へと向かって魚を取るための仕掛け罠を組むために竹を伐採し始める。

 竹の繊維は扱いやすく、そして耐水性も優れる事から使い方は無限大と言える。

 かつてのエジソンが電灯を作り上げた時のフィラメントにもこの竹が使われているくらい、竹は素材として非常に優秀だ。

 切って、割って、裂いて、と繰り返し胴長の竹籠を組み上げ、円状に丸めた物に鼠返し宜しく内側に向かって返しの部分を取り付けて嵌め込めば奥に入ったら抜け出せない仕掛け竹籠罠の出来上がりだ。

 ……一応竹の槍も作っておくか。

 細長い竹を見つけて強度を確かめてから切り落とし、先端を斜めに切って内側の膜になってる節部分を棒で抜けば完成だ。

 竹を使った物を作るなら、とカナメから教わった方法であるが、石槍よりも鋭利かつ作りが単純な事で量産もしやすい利点に目を見張る。

 

「中が空洞だから其処から血が流れ込んで出血死に追い込むんだよ、か。ほんとお前の知識が実戦的過ぎておありがてぇ限りだぜ……」

 

 投げ槍作るならやっぱり竹槍だね、だなんて恐ろしい事を考えるもんだ。

 肉食動物に出くわしてもこいつを使えば突き刺しておくだけで勝手に出血して衰弱死する訳だ。

 実際、竹槍を用いた一向一揆は数の暴力だった事もあって鎮圧に苦労したとか何とか。

 竹槍でどんと突き出す二分五厘、だったか、今の状況には頼り甲斐のある武器だな。

 突き刺されば筒状の穴が開き、石の切っ先と違って抜きやすいため槍として優秀で、素材特有のしなりと頑強さが強みになっている訳だ。

 ……大石の上で先端の石刃をトンテンカンと作らなくても良いのは楽で良いな。

 何よりも素材が竹で軽いので利便性に長けている事も嬉しい限りだ。

 大木から作る本格的なイカダではなく、竹を繋いだものでイカダを作る方が回収も楽そうだな。

 だなんて事を考えながら仕掛け竹籠罠を量産しつつ、しっくりと来る竹槍を作ってみたりもした。

 

「そういや、あいつツタで投石器作ってたよな」

 

 仕掛け罠の量もそれなりにできたので太い竹を使った竹バケツの余りで工作を始める。

 と言っても手順は簡単であり只管に裂けるチーズ宜しく竹を割いていくだけだ。

 焚火で炙って油抜きしてから内側から剥いでいって、植物の紐を作った要領で竹紐を編んでいく。

 ……大分一本一本が硬く、針金で三つ編みをしているかのような心地だが、まぁ、やれなくはない。

 気合で編んでいき両端を縛って一メートル行かない程が出来上がった。

 二つ折りにし、その中心部に石を乗せるための部分を八分の一カットした竹を埋め込む形で作り上げる。

 

「よし、竹紐投石器の完成だ」

 

 試しに近くにあった石を乗せて真横に回転させて投げてみれば、遠くの竹に良い音を奏でて当たった。

 ……これ、非常時にあったら便利だな?

 今の様に近くの石を投げても良いし、唐辛子の粉末を包んだ物を投げるために使っても良いかもしれない。

 冷暗所から会話が繋がって話題に上がった肉食動物への対策の一つに良いかもしれない。

 弓矢やクロスボウを作るのも良いが、その後の予備としてこういうもので備えておくのも良いかもしれない。

 自分用にももう一つ作ってから、竹籠に作ったもんを乗せて寝床へと戻る。

 

「っと、柳の樹皮を回収しておかねぇとか」

 

 鹿の皮を鞣して衣服を作っておかねぇと今後の活動に支障が出るだろうしな。

 ……と言うか、あんな防御力の低い恰好をさせておきたくないと言うのが本音だ。

 そのためにも獣の皮はあればあるだけ良いんだが、そこらへんはカナメの腕次第だからな。

 今後も使うであろうと想定して樹皮を回収し、竹バケツの中に収納しておく。

 まぁ、竹バケツと言っても節の片方を取り除いただけのなんちゃってバケツだけどな。

 俺の拳二つ程もある太い竹で四個くらい作ったが、もうちょっと作っておくべきだったろうか。

 カナメが狩猟した肉の保存方法に成り得るだろうし、量産したら寝床に戻ってくるべきか。

 

「お、おかえり千空。どうよこれ」

「……お前の生産性バグってねぇか? なんで一日で竪穴式住居の土台が完成してんだよ」

「いやぁ、やってみたら意外と楽しくてついつい進めちゃったぜ」

 

 寝床に戻って来てみたら、広けた場所だったところにぱっと見三メートル×六メートル、高さ一メートル程の立方長方形に掘られた場所が作られており、四隅には腕程の太さの木が羅列し埋め込まれていて土と区切られていた。

 入口と思われる場所は階段状に三段掘られており、山道の階段宜しくぶった切った丸い木で補強されて、踏み場は平たい石がパズルのように表面に埋められてしっかりと踏めるようになっていた。

 自分で作ったのだろうやや大き目な石斧が近くに転がっており、材料となった木材がそこらに放り出されていた。

 ……ほんっとこいつが居て良かったな、と竹籠を下ろしながら俺は割とマジで心から思うのだった。

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