石の上にも三千七百年   作:不落八十八

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 川上の奥の方にあった小さい広場、そこは無縁塚と名付けたバラバラ石化パーツの供養場所だった。

 日常的な生活をしている時に、ふとした時に見つけてしまったそれらをそこに集めたのは何となくの事だ。

 熱心な仏教徒で供養を上げたいから、だなんて徳の高い考えは無く、もしかしたら自分もこうだったかもしれない、というちょっとした共感性めいたセンチメンタルから来る感情のせいかもしれない。

 これは偽善だと分かっていても、何処か胸の奥にある良心がそのままにしておく事を咎めたからだ。

 ……分かっている、もしかしたらこの中に家族のそれがあるかもしれない、と思っているのも。

 石化した家族の事を探しにいかないのは、無事を祈る一方で無事ではないと臆病風に吹かれているだけだ。

 だからこれは、一種の願掛けにして、一種の禁忌の行いだ。

 

「……掛けるぞ」

「……うん」

 

 千空はオレの手前、パーツ復活の経過観察だけで済ませようとしていたが、オレがそれを良しとしなかった事で踏み込む実験を進めてくれた。

 この実験はオレと千空だけの今の内に済ませるべきだと理解していたからだ。

 杠と大樹を復活させてから彼らの前で行うには業が深い行為であると理解していた。

 ぽっきりと折れた腕のパーツを繋ぎ合わせ、断面に他の石化片を磨り潰して作った物を噛ませると一体化して人体の一部になる、というのは値千金の情報と言えた。

 青銅のナイフで解剖し、石化粉末が単体で復活するのではなく新たな細胞として癒着しているのも確認できた。

 これにより、バラバラになった人を石化粉末で繋ぎ合わせれば完全蘇生も可能である、という可能性が生まれた。

 

「……流石にこれ以上は実証できねぇな」

「……だね、仮に成功したとして、今後そのまま後遺症無く生き続けられる可能性までは分からないし」

 

 正直に言ってそこまでの責任を負いたくない、という保身があった。

 復活させたからには復活させた責任をある程度担うべきではあるし、人体実験に使った石化のパーツの持ち主たちのためにも誠実であるべきと見え透いた言い訳を考えていた。

 けれども、もしも大切な人がそうする事で生き返るのであれば、だなんて事を思えば禁忌を犯す事もまた道理なのだろう。

 人の業と呼ぶと印象が悪いが、生存欲求と言えばそれらしく飾れるだろうか。

 次の実験は繋がった足を石斧で叩き割り、断面にしっかりと宛がい復活液を掛ける物だった。

 結果は叩き割った部分が傷になるという事もなく、しっかりと繋がったままで骨なども正常になっていた。

 

「本人の物であれば繋がるのか、はたまた形が繋がったから治ったのか」

「……どうだろうね。別の腕で試してみようか」

 

 二の腕の半ばで折れた右腕と肘で砕けた右腕を取り出し、肘の部分で繋ぎ合わせて石化粉末で補強してから復活液を掛ける。

 すると、肘の半ばで明らかに肌の色が違うその二つの腕はしっかりと癒着して合体していた。

 検分すると正常な骨の繋がり方をしていて、ある程度の誤差も復活時に修復される事が判明した。

 

「なぁ、カナメ。身体の何処かに石化残ってたりするか?」

「へ? 何処にも無いと思うけど」

「俺は首の所に少しだけ残ってる」

「あ、本当だ。……なんで?」

「自力での復活だから、と思ったんだがカナメが違うなら別条件っぽいな……」

 

 治すか聞いたら一応残すとの事だったので、何かしらの考えがあるんだろう。

 石化から復活する際に怪我の修復が可能なら、石化する手段を手に入れれば治療にも使えそうだなぁ。

 幾つかの検証を終えた後に、復活したパーツたちを一纏めにして焼却して残った骨を骨壺へ。

 無縁塚の近くに作った慰霊碑と言う名のでかい岩の下へと埋葬した。

 二人並んで手を合わせて冥福を祈るも、手足だけで冥福を祈るのも何かへんだなと二人して小首を傾げたのだった。

 

「それじゃ、杠たちを復活させようか」

「そうだな。一応全身を見て欠けたパーツが無いかを確かめてからだが」

 

 貯蔵庫の壁側に安置していた二人の所に向かい、杠を居間に連れて行ってから検分する。

 うんうん、ほんと良い形のおっぱいしてんなぁ杠。

 だなんて親父臭い事をしつつ奇跡的にも欠片一つ壊れていない身体に、杠用に作った貫頭衣の鹿服を着せてやる。

 パンツを履かせるには太腿が邪魔だなぁ、後で渡すか。

 準備を終えたオレたちは今一度杠と大樹を元の体勢、つまりは壁に押し倒すシチュエーションへと戻した。

 二人してニヤリと笑みを浮かべてから先程の憂鬱な思いを吹き飛ばす様に行動に移した。

 せーの、という合図で手に持った石化復活液を二人にぶっかける。

 石化復活液を浴びた部分が浸透していく音が小さく聞こえ、嫌な予感がしたオレは耳元を塞いだ。

 

「うぉおおおおおおおぉおおっ! 破ったぞぉおおおおお!!」

「うっせぇっ!?」

 

 ガッシャ―ンと石化片を弾き飛ばして雄叫びを上げて復活した大樹の雄叫びをもろに食らった千空がよろめいていた。

 実際、耳元を押さえていた筈のオレも相当な声量にくわんくわんと脳が揺れた心地だった。

 見やれば復活したのは大樹だけで、壁に立掛けられたままの杠は罅が進むのが遅い様に見える。

 千空の考察通り、思考する意識を保っていた者は石化から復活する時間が早まる、という説の信憑性が上がった。

 ひとしきり雄叫びを上げた大樹だったが、千空の悲鳴にはっとした様子で正気に返ったのか其方を見ようとして――。

 

「ん、あ、あれ……、大樹、くん?」

「ゆ、杠!?」

 

 ぶつかった衝撃と共に耳元に囁かれる様にして聞こえたのだろう杠の声に過剰に反応した事で、横に向かれた顔が前に戻る。

 すると、どうなるかと言うと……、所謂ガチ恋距離だなんて揶揄される様なマジでキスする五秒前と言った近さで顔を合わせる事になる。

 お互いの顔をまじまじと見る事になった二人の顔が見る見ると上気して真っ赤に染まる。

 そして、ギギギと錆びたブリキの様な速度で仲良く此方を見た二人をオレらはニヤニヤと迎えるのだった。

 

「よぉ、寝坊助共。あの緑の光によって人類が石化して早三千七百年と一ヵ月ちょいってところだ。良い夢見れたかよ」

「やっほ、言いたい事やら何やらあると思うけどさ、先ずは熱烈なハグの続きをどーぞ?」

「「へ? ……あっ」」

 

 胸元に倒れ込んだ形で受け止められている杠の状態に、漸く理解が浮かんだのだろう大樹が百面相し始めた。

 けれど、千空曰く今も尚意識を保ち続けていたであろう大樹は感情に身を任せる事にしたらしい。

 真正面から小柄な杠の身体を抱き締めて、三千七百年の想いを噛み締めていた。

 

「すまない、不快だったら突き飛ばしてくれても良い! だが、今は。今だけで良い、こうさせてくれ……」

「ワァォ……情熱的だぁ。わ、私としてはこのままでもゴニョゴニョ」

 

 熱烈な再会を喜ぶ親友の姿に口角を上げた千空は良い仕事をしたとばかりに笑みを浮かべていた。

 三千七百年杠への想いだけで意識を保っていたとの事なので、恐らくさくっと寝落ちたであろう杠との温度差が半端無い。

 けれどもまぁ両想いを知らぬ片思いの二人なので、安心して見てられるのは助かるな。

 

「良かったね千空」

「あぁ。……でもまぁ、またこのじれったいラブコメを見せられるのかと思うと胃もたれを感じるけどな」

「ふーん、まぁ、恋愛って難しいからねぇ。ころころと彼氏彼女の関係を止めるような浅いそれと違って、あの二人の場合は一生を見据えてる清い在り方だからねぇ。勇み足になったり臆病風に吹かれるのも当然だと思うけど」

「ほーう? 何だ、自称恋愛マスターとでも名乗るつもりか?」

「落とした女の数は幾星霜、幾多の嫁を持ったオレに掛かれば恋愛なんてちょちょいのちょいだね」

「……ギャルゲーと現実を混同してんじゃねぇドアホ」

「へへっ、まぁ、まだわっかんないかなー。恋ってのは落ちるものらしいからね、落とし穴みたいで気が付かずに落ちるもんなんでしょ、多分」

「落とし穴みたいに、ねぇ……」

 

 鼻で笑うと言うよりかは何処か感心する様な様子で少し気に掛かったが、大樹たちがそっと離れた事で談笑を止める。

 愛しの大樹に抱き締められて顔真っ赤でくらくらしている杠と神妙そうな顔を浮かべた大樹の対比に笑みが零れる。

 

「それじゃ、ざっくりとだけど現状の説明しとこうか。と、言ってもさっき千空が言った事がほぼ全てだけど」

「カナメちゃん、ほ、本当に三千七百年も経ったの?」

「そうだよー、此処はオレの作った竪穴式住居の貯蔵庫」

「流石だなカナメは! よぉしっ、遅れてきたからな、何でも手伝うぞ!」

「いやいや、それだけで良いのかよテメーは」

「ふっ、俺は千空を信じているからな! それに、この四人なら何でもできるだろう!」

 

 胸を力強く叩いて笑う大樹の朗らかな雰囲気が伝播し、やれやれ仕方がないなぁとむず痒い気分になる。

 まぁ、単純に人手が二倍になったからやれる事は倍以上に増えたと言っても過言では無いのは確かだ。

 狩った鹿などの革から衣服などを作って家事に力を入れてくれればオレのやれる事がぐっと増える。

 体力自慢な大樹が居れば伐採から発掘まで幅広い土木作業に従事してくれる事だろう。

 千空は設計や科学分野で便利な品を作る事に専念する事もできる。

 ……正直言って、他の人たちを復活させなくても良いんじゃねと思わんでも無いが、他ならぬ千空の野望なので力を貸さなきゃならない。

 未来の事を考えれば必然と人を増やさないといけない事は分かっているが、そのための基盤を作るための労力は大変な道のりだ。

 輪になって和気藹々としている三人の幼馴染らしい近さに疎外感を感じつつ、だからこそオレだけはシビアな目線で居た方が良いだろうな。

 そのもしもの時が来ない事を願うが、人が誰しも優しい訳では無い事を知っている。

 

「……ったく、なぁーに黄昏てるんだテメーは」

「へ?」

 

 三人の輪から離れた千空がオレの手首を掴んで引っ張り、二人の前に引きずり込む。

 その様子に杠と大樹がきょとんと眼を丸くしていたが、顔を見合わせてニンマリと笑ったのを見て顔が熱くなる。

 やれやれ仕方がないなとニヒルに笑った千空がオレの目を見て言った。

 

「お前が隣に居てくれねぇと大変なんだ、しっかりフォローしやがれ」

「ぇ、ぁ、うん……」

 

 返事がか細い声と頷きになってしまったのはきっと悪く無い筈だ。

 嗚呼、本当にこの無自覚主人公め、オレの欲しい物をあっさりとくれるんだから。

 胸の高まりと頬の熱さに参ってしまったオレは意趣返しに千空の後ろから首に手を回して抱き着いて不貞腐れてやった。

 案の定、格好良い事を宣った顔は崩れ落ちて年相応な初心な少年の顔を晒した。

 へへっ、ざまぁみろ、まったく、千空の癖に小生意気な、まったくもぉー。

 この後、恥ずかしさで暫くの間千空の顔が見れなかったのは言うまでも無かった。




なんか進捗どうですかでダメージ負ってる人が多いので処方箋置いときますね……。

石化粉末を使って~の部分はオリジナルの設定です、原作には無いです。
最初は剥がれた石化片の石化粉末の予定でしたが、ぶっちゃけ中も石化してるなら別に変らないなと思ったのでこうなりました。
コミック九巻のZ=73で杠が何かしらの接着剤で壊れた石化像を治してるんですが、その接着剤の素材is何と言う疑問から爆誕した設定です。
水に溶かした石化粉末でなんかこうモルタルみたいな感じで良い感じにくっつくみたいなふんわりしたファンタジーで宜しく。
……原作のあの時、蒸した米は無い筈なので、松脂とかねっちゃりとする何かでくっつけてるんだと思いますが、それ復活した時に身体の中に入ってても問題無いんかそれ、と思った次第で。
石化粉末であるならば身体に混じってても復活の時に合体しそうかなぁ、と。
……いやほんと、何を使ってくっつけてたんだ原作の杠は……。
というかその状態でも復活したら後遺症無しで治してくれる石化現象すげぇな?
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