石の上にも三千七百年   作:不落八十八

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 大樹と杠が復活してから生活は大分安定した。

 やはりというか人手が二倍に増えた事で役割分担という形で効率化ができたからだ。

 カナメは基本的に狩猟による食糧調達を主軸にし、弓と釣竿を引っ提げて朝に出て夕方前に戻ってくる様になった。

 杠はカナメから皮鞣の遣り方を伝授され、紐や衣服に竹の草鞋を作るのが主な仕事になった。

 俺と大樹は井戸の完成を目処に水車小屋を作ろうと画策したりと専ら建築関連をしていた。

 畑の面倒と食事は全員で行う事に合意したものの、大体カナメが先回りして準備したり杠が追従したりで俺らは片付けが殆どだったりする。

 

「そう言えば千空、井戸の進捗どーなの?」

「まぁ、ぼちぼちって所だな。上総掘りしても良いが、大樹のアホみてぇな体力で浅い手掘りでも良い。三千七百年も人が地上を汚染してねぇから地下水も綺麗だろうしな」

「うむ、かずさぼり? と言うものはよく分からないが、深く掘れば良いんだろう? 何が違うんだ千空」

「距離がちげぇんだよ。地層ってのは歴史の積み重ねで、バウムクーヘン宜しく幾つもの層を積んだもんだ。テメーが掘って湧き出る地下水は表層に近いが、日本が誇る上総掘りは五十メートル以上、何なら百メートル越えも掘れるとんでも技術だ」

「ふむ、そうなのか。なんかこう、ドリルみたいにガガガと掘るのか?」

「聞いて驚け、人力だ。日に五、六メートル掘れる上に人数も数人で事足りる。崩落事故も起きねぇから安全面でも素晴らしい。明治二十年辺りに上総、千葉県で生まれた井戸掘りの技術だ。発展途上国にも出荷される程に汎用性があり、竹や鉄管がありゃ何処でも出来ちまう優れ物だ」

 

 昼飯の時間に大樹に説明してやるが、なんかすごいぎじゅつ、と顔に浮かんでるアホ面を晒していた。

 うんうんと頷いてるカナメは理解している様だが、杠は若干怪しいのか、ソーナンダーと似たような面を晒している。

 きっちり図解で説明してもわからねぇだろうなぁと呆れていると、カナメが苦笑してから口を開いた。

 

「土を掘り砕く棒と泥水を引き出す筒の二つで掘るんだよ。泥水を引き出す方の筒の中に仕切り弁があって、圧力の関係で上に押し出される訳。原理としては手動のポンプみたいなものだよ」

「ワァォ、昔にそんな凄い事を考えた人が居るんだねぇ」

「だねぇ。そういう技術は今のオレらに一番適してるからちゃんと活用して次代に受け継がせるべきだね」

「そうだな! ご先祖様たちに感謝せねば!」

 

 そう言って適当な方向に拝み出した大樹へ嘆息しつつ、上総掘りをするべきか少し悩む。

 と、言うのもカナメと一緒に此処を本拠点にしようと話したものの、此処では自然由来の素材を得られる代わりに鉱物資源が乏しいのが問題だった。

 今後科学的な発展を望むのであれば鉱物資源は必須と言える代物だ。

 そのため、かつて鉱山のあった箱根の方に本拠点を移す事も視野に入る程に重要な悩みと言えた。

 ……と、言うのも、カナメの精神的なストレスが大分緩和されているとは言えども完治しているとは言い辛いからだ。

 

「……せめて、家があった場所辺りに行けりゃ荒療治だが変化が得られるんだがな」

 

 騒ぎ立てる大樹の声に埋もれる様な声で悩みを呟いた。

 毎晩隣で寝ているが故に、時折家族の名を呟いて魘されているのが聞こえてしまえば馬鹿でも理由が分かると言うものだ。

 なまじ石化復活薬を作れてしまったが故に、シュレディンガーめいた家族の安否に心を濁らせているんだろうな。

 俺や大樹と違い、有りふれた家庭の子供だったが故の苦悩なのだろう。

 俺たちの様に運良く形が残っていて欲しいと祈る一方で、三千七百年の運ゲーにより悲惨な結末を悲観してしまうのも無理は無い。

 いっそ早めに箱根へ引っ越して仕事で忙殺させて、悩む時間を無くしてやるのも手ではある。

 けれどもカナメのことだ、いつかは結局それに向き合う事になるだろう。

 

「千空?」

「ん、あ゙ー……、鉱物資源を得るために場所を移すべきか迷っててな。それを考えると上総掘りは過剰かもしれねぇ」

「あー……、成る程ね。数年後ならしても良いけど、科学パワー不足な千空的には直ぐにも遷都したい訳だ」

「遷都って規模じゃねーだろまだ」

「うん、まだ、ね」

 

 まだ、に含まれる途方も無い願望の濃さを滲ませる様な含ませ方だったが、こいつの言動からして科学都市めいたものを期待してそうだな。

 

「行く行くはマスドライバー設置して宇宙開拓の最前線にするんだよね、分かってるよ千空。目指せ宇宙世紀だもんね」

「もはや都市のレベルじゃねぇだろそれ、無茶言うな」

「けどそれぐらいしなきゃ、生きてる間に千空の夢を叶えられないでしょ。宇宙戦記だなんて打って付けの教材あるんだからそれを土台に夢へ邁進だよ」

「よくわからんが全力で応援するぞ!!」

「アハハ……、河川敷で打ち上げたロケットを思い出すね」

 

 モビルスーツに乗りたいだけだろお前ぇ。

 ……はぁ、本拠点の移設には肯定的ってだけでおありがてぇ限りだわ。

 だが、カナメの言う事は一理ある、生きている内に行かねばならないのは確かだからだ。

 そうなると最初から宇宙進出を目標に都市作りをすると言うのは良い指針なのかもしれない。

 

「食料の問題的にも港に近くて火山にも近い、そんな場所を探さないとだな」

「ふむ、そうなると前に言っていた箱根は丁度良い様に思えるな」

「箱根なら温泉もあるしね。ついでに旅館も作っちゃおうか」

「ワァオ、自宅に温泉があるだなんて夢がありますなぁ」

 

 箱根への移住計画を和気藹々と話し合った昼食を終えて、各々の仕事に戻っていく。

 滑車付きの樽バケツを作ってひたすらに井戸の土を掘り出しては、改良した手押し車で捨てに行く。

 一メートル毎に粘土で表面をコーティングしていき、崩落防止に割った竹を壁に打ち込んで仮の支えにする。

 最終的には凹凸に先端を加工した木材で延長しながら四方の支柱にし、側面に溝を掘った部分に板を差し込んで完成する予定だ。

 大樹の馬鹿体力によって既に十メートル程掘っているのだが、未だに水が出て来ないので少し逸る。

 近くにそこそこ深い川があるので地下水脈も表層にあると思っていたが、段々と上総掘りするべきだったかと思ってしまう。

 

「む? お、おぉぉおお! 千空! 水だ! 水が出たぞ!!」

「でかした大樹! 足取られる前に登って来い!」

 

 縄はしごで戻ってきた大樹と共に井戸の奥を見やれば、薄っすらとした光源の中で煌く水面が見えた。

 漸くの開通に拳をぶつけて喜びを交わしつつも、水没する前に加工済みの支柱を滑車を使って下ろす作業に入る。

 凹凸の先端を噛み合わせ、長い支柱になったそれを上から木槌でぶっ叩き、上部で木材を噛み合わせて倒れない様に固定を施す。

 ……ふぅ、最低限それらしい井戸が作れたな。

 後は上から板を叩き込んでいけば完成だが、流石に腕がパンパンで工具を掴む手も震える始末なので今日は終わりだ。

 一週間ほどかけて作り上げた井戸の完成が見えた事に確かな満足感を抱いて笑みが浮かぶ。

 

「これで水が飲み放題だな千空!」

「元から水は飲み放題だっつーの、美味い水で言い直せ」

「うむ、美味い水が飲み放題だな千空!!」

「馬鹿正直か。……はぁ、まぁお前が居なきゃこうも早くは作れなかったろうよ。お疲れさん」

「俺は千空の指示に従って掘っていただけだ! お前の優秀な指示あっての事だぞ」

「……ふっ、俺の知力、お前の体力、カナメの武力、杠の技力がありゃなんだってできるさ」

「それは違いないな! 夢のドリームチームと言う奴だな!!」

 

 腰に手を当てて呵々大笑する大樹の言葉に静かに頷いていると、川の方から鹿を仕留めたらしいカナメが立派な角を生やした雄鹿を担いで戻って来ていた。

 既に血抜きを終えているらしく、杠の教材にするべく持ち帰ってきたらしい。

 その逞しさに苦笑しつつ、見事な手際で食料を増やしてくれるカナメに感謝しかなかった。

 

「お、もしかして井戸掘れたの?」

「ああ! しっかりと水を掘り当てたぞ!」

「さっすがー、やるねぇ。これで飲み水の煮沸もしなくて良さそうだね、助かる助かる」

「確かに必要があるとはいえ煮沸作業は手間だったからな……」

「川の水をそのままってのもアレだしね」

 

 森林の湧き出したばかりの水ならまだしも太い川の水をそのままってのは流石に、な。

 作業の合間に川の水を汲んでは煮沸して、大きな土器に移し変える作業は大変だった。

 

「かつて煮沸の作業は必須だった――、だが今は違う!」

 

 ギュッという擬音が聞こえてきそうな握り拳を構えたカナメは井戸を指さしてサムズアップ。

 いやまぁ、ある程度水が浸透して総量が増えて濁りが収まってからじゃないと使えないけどなこの井戸。

 その事実を伝えるのは止めておくか、使おうとしたら止めれば良いしな。

 

「なんだか騒がしいけど、何かあったのかなってワァオでっかい鹿さんが……」

「あ、杠。これ次の練習台ね。目指せ皮剥ぎの達人!」

「う、うん、頑張るよ、頑張ります……」

 

 リビングから出てきた杠の瞳から生気が一瞬失われた様だったが、丸々と肥えた様子の雄鹿を受け取って気を取り直した姿に涙を隠せなかった。

 そうだよな、お前最初の一匹やる時も大分呻いてたもんな、直ぐに慣れる訳じゃないよなぁナマモノだし。

 大樹に手伝って貰いながら解体場へと雄鹿を運んで行ったのを見送った。

 

「んで、井戸は無事に掘れたみたいだけど、次は何を作るつもりなの?」

「ん、あ゛ー……、そうだな、水車小屋を作って中に風呂を作ろうかと思ってたんだが」

「だが?」

「穀物やら無いから粉挽きには使えんし、水流式のハンマーにするにしても鉄が無ぇから作る物が無ぇ。そうなると風呂に半自動で川の水を汲むだけの水車になるから、別にこれ水車じゃなくても良いんだよな」

「あー……、成程ね。川の上に作るなら手押しポンプでも良いしね」

「そういうこった。ならもう普通に風呂を作った方が早いってなってな」

「おぉ、漸く露天風呂もお役御免かぁ。使い心地は良かったけど掃除が大変だったもんね」

「だな、排水機能はぜってぇー付ける。必ず付ける」

 

 前の簡易風呂よりも大きいからか露天風呂の掃除がクッソ大変なのが唯一の不便だった。

 巨大化するなら隣に湯を沸かす機能を付けようと思わざるを得ない、あ゛ー……鉄が欲しい、パイプが作れれば大分楽になるんだが。

 鉱物は主に地層の積み重ねで作られるため、火山の近くであれば期待値は高くなるからな。

 埋まった鉄筋を使おうと考えていた時もあったが、大樹の協力の元再び掘り返してみれば散々な結果が待っていた。

 持ち上げる事すら出来ずに錆びたナニカが崩れ落ちる様は時間の残酷さを感じたものだ。

 銅の入った十円玉が無事なら鎌倉の大仏も形残っていそうだな。

 

「鉄鉱山を探すよか川から砂鉄拾った方が可能性あるか……?」

「へ? 砂鉄? んー……、砂金集めるみたいに篩で根気良く集めるしか無いよねぇ磁石無いし」

「そうだな。ある程度集めて磁化させちまえば小さい磁石を作れる。木の板に溝を彫った奴を作って全員でやればそれなりになるだろ」

「磁石って作れるんだ。雷にドカーンってやるやつしか知らんけど」

「南北方向に熱した鉄を冷やしても作れるぞ。地球の磁場を利用する遣り方だな。天然磁石が拾えない場所ではそうしてきた」

「南北方向分かるの?」

「大体な。太陽が東から西に向かう性質を利用して木の棒で日時計を作りゃ良い。一番短い影の場所が北だから反対が南、作った磁石に印付け忘れない様に目印付けりゃ完成だ」

「へー、日時計って方角も分かるんだ」

「コンパスと違って狂わないのが利点だな、時間が掛かるのは難点だが覚えておいて損は無いぞ」

 

 ある程度地理は頭に入ってるので方角を知っておくのは必要だな。

 後で一日中日の当たる場所に長めの棒をぶっ刺して夜明け前に起きて確かめておくか。

 何となく分かってはいるが、ある程度正確な方角を理解しといて損は無いしな。

 起きる時にカナメの腕に捕まってなきゃ良いが。

 こいつ寝る時に抱き締める癖があるからな……。




原作で千空が鉄の棒に銅線巻いて雷ドーンとしたやり方は「着磁」と呼ばれるやり方の様で、磁気の無い磁石を磁気化して永久磁石にする手法らしいですね。
銅線がコイルの役割を果たして、磁気化する鉄の棒に発生磁界の方向を固定する事でSN極が生まれるみたいな感じっぽいです。

天然磁石が手に入らない所だと、今作中の南北方向に向けた鉄の棒を熱してから冷やし叩くやり方で磁石を作ってたみたいですね。
鉄の常磁性により、熱すると鉄原子が熱運動で無秩序状態になり磁石にくっつかなくなり、冷えるとそれが整列して磁石に付く様になります。
この時に南北方向に鉄の棒を向けておくと、地球の磁場により整列する鉄原子の位置が南北方向、つまりはSN極と呼ばれる方向に整列するのでSN極持ちの磁石として固定される訳ですな。
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