石の上にも三千七百年   作:不落八十八

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 オレと千空が目覚めた日から早二ヶ月が経過し、春から夏へと移り変わる最中の季節に至った。

 拠点の前に作られた井戸と氷冷室も完成し、四人総出で砂鉄集めをしたり、ライオンの居る高校近辺を除いた地域の探索などを行ったりして充実な毎日を過ごしているとサバイバル生活も悪く無いなと思う今日この頃である。

 

「……わりぃ、やっぱつれぇわ」

 

 嘘である、流石に飽きが来ていた。

 新鮮な事でいっぱいの毎日であるが、慣れ親しんだサブカルチャーな娯楽が無い事でホームシックならぬカルチャーシックを発症しかけていた。

 オレと千空だけの二人の生活から、杠と大樹が増えた四人での生活は遥かに利便性と生産性が上がった。

 そのため、一日中忙しなく動かなくて良い環境になった事で考えられる時間が増えてしまい、ふとした時に制作が決まってたあのアニメの新作見たかったなぁとかあの漫画の続きどうなる予定だったんだろうなぁと考えてしまい、手元に無いサブカルチャーの有難みというものを思い知らされるのである。

 失って気付く本当の価値を噛み締めながら、細い竹を炙ってから一本線の溝を掘った板に嵌め込んで真っ直ぐに矯正する。

 鳥の羽根の在庫が無くなったので、硬い竹の葉を代わりにした代替品の矢を手作りしていく。

 尾羽の形に切り揃え、飾り包丁宜しく羽根に似せて切り込みを入れていく作業は只管に地味だ。

 矢に付ける尾羽は空気抵抗で矢を回転させるための部品であるため、鏃がしっかり重ければそれっぽい物でも問題無い。

 基本的に矢は消耗品であり、獲物の肉に刺さった物を再利用してはいるが壊れる時は壊れるので予備を大量に作っている訳だ。

 先端に付ける鏃もただの石が多く、いざと言う時の必殺の矢として青銅の鏃も用意しているが今の所使いどころはない。

 

「千空に鋼の鏃を作って貰う様に頼もうかなぁ……、いつ使うか分からんけども」

 

 千空お手製の鞴と耐火煉瓦で製鉄を何度か行い、無事に青銅のツールから鋼のツールになったがその数は少ない。

 混ざり物が多く不純物として吐き出されたノロは意外と多く、最初に行なった時の製鉄では最終的な量がハンマーを作る分しか無かったしなぁ。

 何回も製鉄を繰り返し、包丁とフライパンを完成させた時は皆で喜んだっけなぁ。

 皮鞣し用のナイフや焼き鏝、拳二つ分くらいの大きなハンマーも作った事で作業性は遥かに向上して万歳三唱したなぁ。

 

「あ、やべ、ずれた……」

 

 数日前のホットニュースを思い返していたら手元を盛大に事故らせていたので黙々と作業に戻る。

 すっと差し込んでから切った方が早いなと気付いた時に、ふと外にある日時計を見て時間を確かめた。

 大体の時間が分かる程度の精度だが、行動の目安になるため意外と重宝しているんだなこれが。

 そろそろお昼に差し掛かる時間帯だな、と居間を見て杠が居ない事を確かめて立ち上がる。

 冷暗所に移動させた食料品を点検しつつ、献立でも考えるかなと思っていると、ふと学校のある方角に視線が向いた。

 ……気のせい、だろうか。

 何かが叫び声を上げた様な気がしたんだけども、警戒しつつ手元に置いていた漆塗りの弓胎弓を手に取る。

 腰元に矢筒をマウントし、左手のアームカバーの内側に孟宗竹で作った竹簡の防具を忍ばせた。

 各種小袋を結んだ竹縄を腰に縛り付けて、戦闘態勢に入ったオレは今朝の事を思い返していた。

 確か今日は硝酸の回収の日だから準備を済ませたら大樹と一緒に向かうと言っていた筈だ。

 

「うーわ」

 

 フラグでも立ててしまったのか、遠くから雄叫びめいた咆哮が響き渡るのを聞いてしまった。

 どうやら千空たちはライオンに出くわして必死に逃げ出している最中っぽいな。

 思考を狩猟の時のそれに切り替え、即座に掛け出した。

 杠に一言伝えるつもりだったが事態は予断を許さない状況に至ってしまった。

 狩猟用の矢の中でも完成度上澄みの矢を引き抜き、いつでも射掛けられる様に備えておく。

 此処から硝酸の洞窟まで大体徒歩で三十分程なので走れば半分以下だ、走れメロスをリスペクトして気合を入れて走る。

 千空の事だ、ライオンを撃退するためのあれこれは持ち合わせているだろう。

 となれば遅延工作をしつつオレの居る方角に走ってくるのが安牌である筈。

 ――だなんて思っていたら、すんごい鈍い音と一本の樹木が悲鳴を上げる音が響き渡った。

 ぐわんぐわんと揺れ動く枝葉の騒めきにより場所が分かったが、……はて、何時の間に火薬を完成させてたんだ千空は。

 何処ぞの第六天魔王が硝石と硫黄で玉薬を作れると宣っていた様に、硝石はあれど硫黄はまだ見つけてなかったと思うんだが。

 ライオンを吹っ飛ばせる膂力なんて大樹には無いだろうし、ウッドハンマーを使ってもあんなに揺れ動く訳ないしなぁ。

 それは兎も角として、未だに揺れ動く場所へと急行し、藪を分け入ったと同時に弓胎弓に矢を弦に番える。

 飛び出した瞬間に放てる様に少しずつ右腕に力を入れ、近くの落石と思われる岩を駆け上がり跳躍する。

 

「……ん???」

 

 当たらない様に射角を取るため二メートル程は飛び上がった状態で狙いを定めて牽制矢を放とうと狙いを付けて――。

 見知らぬ大柄の青年の上半身が先ず視界に入り、その足元にぐったりと倒れているライオンが泡噴いてるのが見えた。

 そして、此方を見てあんぐりと口を開く千空と大樹を見て状況が終わっていると察したのだった。

 ずざざざーっと雑草を踏み躙りながら着地して、引いていた弓を戻して矢筒に矢を仕舞い込んだ。

 

「あー……、窮地は脱したみたい、だね?」

 

 彼らの前にピタリと止まり、こめかみを掻いて困惑の表情を浮かべるのは仕方がないと思うんだ、うん。

 のっそりと見知らぬ青年が立ち上がろうとしたが、手で制して止めさせる。

 丁度良い感じにライオンの頭が股間隠してるんだよ、立ち上がるな馬鹿。

 

「あ゛ー……、その、だな……」

「あぁ、うん、何となく分かるから良いよ説明は。ライオンに追われて助けを求めたって形でしょ。……お知り合い?」

「む? なんだカナメは知らないのか。彼は獅子王司! 霊長類最強の高校生だ!」

「……超高校級みたいな感じ? オレは白發中、カナメさんで良いぜ」

 

 あー……、あのライオンってこの青年を仲間にするためのフラグかなんかだったのか。

 となると原作のメンバーの一人って感じだな、見た感じ格闘家か。

 ……あぁ、知力の千空、体力の大樹、そして武力枠としてこの獅子王くんが加入する予定だったのか。

 

「……こんな格好ですまないね、紹介に預かった通り獅子王司だ。司で構わないよカナメさん。見ての通り、彼らに助けられて助けた直後という訳だ」

「あ゛ー……、丁度腰道具下ろして休憩してた時にアレに出くわしてな。それはそうと助かったぜ司。俺は石神千空、頭脳担当だ。んで、こっちのデカブツは大木大樹、体力馬鹿だ」

「おう! 体力には自信があるぞ! 宜しくな司! 難しい事は千空かカナメに聞いてくれ!!」

 

 がっしりと司に握手をした大樹の朗らかな様子に獅子王くんも若干たじろいでいた。

 千空はアホな事を言っている大樹に呆れつつ、肩を竦めてから笑みを浮かべた。

 ……が、その瞳は優しいそれではなく、訝しみの色が浮かんでいたのが気掛かりだった。

 成程な、獅子王司、こいつ中ボスか何かだろ、最初は敵だったけど後半で仲間になるタイプ、またはドラクエのヒュンケルみたいなポジの奴。

 千空、大樹、杠、そして司の加入で拠点作りが捗るも何かしらのいざこざで敵対する訳だ。

 そしたら千空の事だ、武力には武力をってんで硝酸の洞窟から硝石を、近くの火山である箱根で硫黄を集めて火薬を作って返り討ちか相打ちにするんだろ。

 んでもって平和担当の杠あたりが偶然にも獅子王くんに対するキーマンでも復活させて仲裁したりして、頭を冷やすために別行動を取って後々の敵と戦うための軍団でも作り上げるってオチあたりが濃厚か?

 あの時の借りを返しに来たよ、だなんて台詞吐きながら見開きバーンって感じで加勢したりしてな。

 ……と、此処が何かしらの原作がある世界と断定してメタ推理をしてみたが、わりと有り得る話だよなぁ、じゃねぇとストーリーが盛り上がらないし。

 いやまぁ、割と軽いノリで高校生くらいの若人が集まってベースキャンプから村づくりをしていくみたいなほのぼの系でも良いんだけどな、一向に構わんよそっちの方が安全だしな。

 

「取り敢えず、何か着る物あった方が良いね。先に戻って杠に頼んでおくからそれ何とかしてから来なよ」

「ん、あぁ、それもそうだな。司、そいつはお前が仕留めたもんだ、ハンティングトロフィー代わりに加工して貰うと良いんじゃねぇか」

「良いのかい? それは助かるな。この手で命を奪ったからね、糧にせずそのままは忍びないと思ってたんだ」

 

 千空はオレの提案へ乗るようにして警戒を善意で隠し込んで獅子王くんに接していた。

 さぁて、何処に地雷があるのやら、おっかなびっくり暗がりを歩く様な心地で彼らに背を向けて歩き出す。

 オレが居たんじゃ獅子王くんは立ち上がれないだろうしな、後ろ髪を惹かれつつも拠点の方へ歩いて行く。

 先程の轟音を聞いて戻って来ていたのか井戸の近くで右往左往していた杠を見かけてホッとする。

 

「か、カナメちゃん! さっきの音なにカナ!?」

「おぅおぅ、落ち着け杠。問題は起きてたがなんやかんやで何とかなったから。誰も怪我はしてないよ」

「そうなの? ハァ~~……、良かったぁ。大樹くんや千空くんが居なかったからもしかしてと思っちゃった」

「あ、そうだった。やったね杠、仲間が一人増えるよ」

「……へ?」

 

 ぱっと見大柄な大樹と似た様な背格好だったし、大樹用に作っていたであろう予備を持って来て貰う。

 その間に弓胎弓などの武装を居間の一角に仕舞い込み、ラフな格好に戻っておく。

 どーせあのライオンの始末はオレがやるんだろうしな、ライオンの毛皮で衣服作るってんなら皮鞣しはしっかりやらないといけないだろうし。

 それから十数分後に、千空と大樹が急ごしらえの葉っぱの腰蓑をした獅子王くんと戻ってきた。

 肩にライオンの死体を軽々と担いでいる様子からして、近接戦闘は勝ち目が無さそうだなぁ。

 

「おかえり。獅子王くん、悪いんだけどあっちの川の方にライオンを持って行って貰っても良いかな」

「……ああ、構わないよ。それなりに重いからね、ありがとう」

「どういたしまして。その恰好は地味に辛いよなぁ」

「ははは……、ついでに着替えも済ませておくよ。流石に見苦しいからね」

 

 川のある方に指差してから、持っていた紐でサイズ変更が可能な貫頭衣を手渡す。

 それを受け取った獅子王くんは若干苦笑を浮かべて歩いて行った。

 名前で呼んでくれ、と言ったのに苗字で呼ばれたからか、若干何か思う所があったようだが男女の意識の差異とでも思ったのか深掘りはしてこなかった。

 というかあんまり色のある視線を向けて来なかったな。

 格闘技の達人は高みを目指して煩悩を断つ人が多いらしいし、獅子王くんもそういうタイプなんだろうか。

 ……または姉か妹が居て女の扱いに慣れ切っているパターンだろうか。

 あくまで紳士的というか、礼儀正しくあろうとしている様子だったから、実はチャラ男で虎視眈々と擬態しています、という風には見えなかった。

 

「……千空」

「……あ゛ぁ、分かってる。お前の警戒は正解だ。酒池肉林を欲する暴君じゃねぇようだが、何かしら抱え込んでるなありゃぁ」

「だよねー……。取り敢えず、元貯蔵庫だった所に寝床を用意しとくね」

「ああ。……いや、今更だが男女で別れても良いんじゃねぇか?」

「やだ」

「……おぅ」

 

 千空の提案に笑顔で却下しつつ、居間に近い場所へ半割した竹で作った簡易的な寝床を用意するために準備を始める事にした。

 といっても素材置き場から端材を持って来て並べるだけだが。

 縦に長いのを並べると寝辛いので、一メートルないくらいの物を横にして並べていく。

 これが終わったら川に寝そべっているであろうライオンを解体しなきゃなぁ。

 ライオンの肉はどうしようかな、ネコ科だし多分美味しくないよなぁ……。




ぶっちゃけ製鉄まで進めちゃうと本格的に拠点作りに終始しちゃうので、エタらない様に話を進めます。

読み返してみると原作の司がライオンの毛皮を革鞣しとかせずに着ているっぽいんだけどワイルド過ぎませんかねぇ……。
というか羽織ってる毛皮がマント状になってるから大きさ的にそれで雄ライオン一匹分くらいなんだけど、その赤茶の衣服は何処から調達したんですかね……?
千空たちの拠点に戻って来てから改めて自己紹介してるので地続きの話である筈だし、一応アニメの方も見てみれば赤茶の服の裏地が白っぽいので染色した革の服っぽいんだけど。
杠に着せる用のやつを渡したのかなと後書き書きながら思ったけども、確かめてみれば大樹がキャンプに戻って服を着せてから復活させようと提案してるので持って来てないんですよね。
……司の身長が公式ファンブックから195㎝だそうなので、羽織ってる毛皮と着ている革服のサイズがどう考えても雄ライオン一頭分以上なんだよなぁ……。
描写的にも5mサイズのやべぇのだった、という感じでも無いし……。
(雄のライオンの成体で最大3m弱くらい)

なので、Z=4のサブタイトルの合間に大樹が杠を置いて一度猛ダッシュでキャンプに戻り、猛ダッシュで赤茶の衣服を持って来ている描写を省いた可能性が濃厚ですね。(すっとぼけ
……ただ、赤茶の革って牛とかなんだよなぁ。
最近の食事は兎肉が精々だ、とか言ってたので、鹿革を染色したんでしょうけど何を使って染めてるんだ問題にぶち当たると言うね。
アニメで色を確認したけどもタンニンとかではその赤茶にはならんし、マジでその色どうやって染色したのぉ……?(大困惑)

まぁ少年漫画だから細けぇこたぁ良いかぁ!!(思考停止
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