石の上にも三千七百年   作:不落八十八

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 いやぁ、予想以上に竪穴式住居作りが楽しくてソーセージのためのハーブ摘み忘れてたな。

 かつてのようつべで見ていた固めの土を掘り出して作り上げる竪穴式住居の動画が印象に残っていて、あれもこれも必要だなと機能を増やしていたら土台が完成していた。

 何度も鋸があればなぁと思ったが、石斧で根気強く加工を続け、怪我をしない様に石で表面を削ったりと頑張った。

 後は柱となる場所を掘って丸太を埋め込んで行って、と言う途轍もない力仕事が残っている訳だ。

 大樹ぅー! 早く復活してくれぇー!

 石斧で細い木を伐採するのは何とかなったけど、大黒柱たちになる太めの木を切るのは流石にきっついんだがー!

 

「これ、上の方はどうするつもりだ。流石に丸太はきついだろ」

「そうなんだよねぇ。中木を使っても良い?」

「当たり前だろ、何百キロを持てる腕には見えないっつーの」

「ですよねー。流石に昔ながらの茅葺が安牌かなー」

「そうしとけ。集めるための竹籠は作ってあるからそれ使って良いぞ」

「おぉ、背負い籠作ったんだ、凄いな千空。手先が器用だな」

 

 背の高い竹籠に紐を通しただけの背負い竹籠であるが、両手を空ける事が出来るのは良い事だ。

 嵌め込み式に削るのは流石に手持ちの工具では無理なので、精々が溝を掘って噛み合わせるのが限度かな。

 長さの同じの四本……、いや、雪が乗るかもしれない事を加味して倍の八本の柱を作ってから梁を作って……。

 ううむ、重労働だなぁこれ、けど冷暗所付き竪穴式住居を作るためには仕方が無いかぁ。

 だなんて唸っているとひょいっと何かを千空が投げ渡して来たので、ぱしっと受け止めてみれば投石器だった。

 だが、オレの作ったなんちゃって投石器よりもしっかりとした作りで、試しに回して見ればめっちゃくちゃ良い品だと分かる。

 

「作ってくれたの?」

「おぅ、手慰みにな。これでもっと獲物狩ってくれや」

「おぉー、ナニコレめっちゃ紐がしっかりしてる!」

「竹で作った紐だからな、頑丈性は保証するぜ」

 

 近くの石を拾ってセッティングし、ひぅんひぅんと回して川原の方角へと投げてみる。

 おぉぉ、変にブレないし真っ直ぐ飛ぶなぁこれ。

 ツタで作った奴は真っ直ぐ飛ぶ時と飛ばない時があったりしたのだがこれは無い。

 良い物作ってくれたなぁと千空に笑みを返してお礼を言っておく。

 

「ありがとう!」

「……おう」

 

 にしても手先が器用だなぁ千空。

 確か竹縄って一週間くらい日干しして更に一週間水に浸して柔らかくしてから作るもんなんだが……。

 裂きに裂きまくって細くしたのを編んで作ったんだろうなこれ、よく作れたなぁ。

 あ、それならあれを千空にあげるか、多分力になってくれる筈だ。

 端っこの方に置いていたそれを拾い上げてお返しとばかりに千空に下手投げで放る。

 ぱしっと受け止めた千空がそれを見て首を若干傾げたので、得意げな表情を浮かべて説明してやるとしよう。

 

「そいつは槍の投擲器、アトラトルって言うアステカ辺りの補助機だぜ。曲がってる部分を掴んで、そっちの端に槍の石突を引っかけてオーバースローで投げ付けるんだ。それに竹槍を組み合わせれば、多分千空でも狩りができるぞ!」

「……お前の知識はどうなってんだマジで。こうもピンポイントにサバイバルに適したもんをよく覚えてたな」

「ははは、残念ながらそいつはゲームの知識だぜ。槍投擲器って腕の装備があってだな、気になって調べただけだ」

「そーかい。……まぁ、ありがとよ」

「おう。まぁ使い勝手が悪かったら適当に改造してくれぃ」

 

 あぁ、とぶっきらぼうに返事した千空は持って来た竹槍を掴んで、オレお手製のアトラトルにそれを引っかけて近くの木目掛けて投擲した。

 タイミングが悪かったのか地面に深々と突き刺さったそれを見て微笑ましい心地になった。

 無論、負けず嫌いで成功主義者の千空は思いっきりしかめっ面を浮かべ、竹槍を引き抜いて再び投擲体勢に入った。

 

「千空、野球のボールを投げるみたいな感覚で手首に意識して投げてみ。インパクトの瞬間に力を込める感じで」

「あ゛ぁ、つまり――こうだなっ!!」

 

 栄えある第二投は助言と自身の感覚で誤差を修正したお陰もあって綺麗に真っ直ぐ飛んだ。

 スコンッと良い音を立てて樹木にぶっ刺さった竹槍を見て、千空もその威力に目を見張った。

 そう、投石器然り、投擲器然り、これらの発明品は投げる物を更に遠くへそして強く飛ばすための補助機だ。

 それはプロの野球選手の投擲並みに、素人の投擲を向上させる脅威の補助力がある。

 

「すげぇだろ千空。これがありゃ誰でも強くなれる。肉食動物対策には十分だろ」

「だな。これなら俺みたいな奴でも戦力になる」

 

 金属が普通じゃなかった頃の発明品だからな、今のオレたちにぴったりの代物だろう。

 まぁ、竹があるってんならもっと殺意の高い武器が作れるんだけどな、和弓って言うんだけども。

 しなりの強く元に戻る力もしっかりとある竹で弓を作れば、弦を引っ張った時の力が強まるので殺傷力と飛距離が伸びる。

 そのためには弓矢の素材のために鳥の羽根が必要な訳だが……、罠、作るかぁ。

 落とし穴を掘って、円盤に棒をくっつけて左右に乗ると引っ繰り返る古典的な奴。

 安置スペースに置いといた鹿肉を引っ張り出して大きな竹筒に入れ替えて、夕飯に必要な分を焼いていく。

 んー、もう少しバリエーション増やさないと気が滅入るなこれ。

 千空も似た様な感想を抱いたらしく、もにょっとした表情を顔に浮かばせていた。

 

「千空、キノコとか判別できたりする? オレは野草ならいけるんだけど」

「暇潰しにキノコ辞典読み込んでたからいけるぞ」

「助かるぜ、んでもって調理器具もそろそろ新調しよう。具体的にはスープが作れる感じで」

「……土器でも作るか?」

「土器作れるの?」

「あぁ、竹が便利だから作ってなかったが、作ろうと思えば作れるぞ」

「一家に一人千空だな、その博識さは頼りになるぜ」

 

 明日には茅葺屋根の骨組み辺りを完成させたいところだな。

 マジで鋸が欲しいが、磨製石斧くらいしか無いから踏ん張りどころだなぁ。

 千空が持って来た渋柿……じゃないなこれ。

 樹皮、匂い嗅いでみれば甘い匂いを仄かに感じる。

 これ、柳の樹皮か、渋柿の代わるものって此れの事かぁ。

 土器で細かくした樹皮を煮込み、粗熱を取ったら鹿の皮と一緒にぶち込む。

 水で薄めるべきだったかな、と思ったが取り敢えず原液のまま蓋をして放置だ。

 タンニンで柔らかくなった皮を木槌で叩いて鞣す作業は明日でいいか。

 寝る前の一仕事や水風呂を終えて寝床に戻ると既に千空が眠りについていた。

 此処から竹林がやや遠いから足が疲れて眠りやすいんだろうなぁ、と思いながら葉っぱのベッドに横になる。

 ……一刻も早く獣を狩りてぇ、肉ではなく皮が、革が欲しいぜ切実に。

 だなんて考え事をしていたらあっと言う間に眠気が来てそのまま――。

 翌日、目が覚めたオレは朝のルーチンのために川へと水浴びをしに行き、完全に目が覚めた状態で寝床へと戻る。

 未だにぐーすか寝ている千空をそのままに、朝食を作って昨日の作業の続きをする。

 まぁ、カツンカツンと石斧で伐採するだけだけどな。

 

「ふぅー、ちったぁコツが掴めてきたかな」

 

 大木と違って両側に切り込みを入れる必要が無いので、一点を只管に石斧をスイングしていく。

 グローブやら軍手が無いから掌が痛んでくるが、背に腹は代えられないので小休憩を取りつつ伐採をし続ける。

 計八本分の中木を切り倒したら、横に並べて枝を取り除いていき、オレの歩幅で測った二メートル程で印をつけていく。

 今度は横に振っていた石斧を縦に振っていく作業になる訳で。

 駄目になる石斧を予備と交換しつつ、小休憩の間に石斧を作ったりして時間が過ぎていく。

 振り上げる動作が必要になるから伐採よりも重労働だなこれ、と思いつつ無心で石斧を振り下ろす。

 普通にてきとーに振り下ろすのは何か勿体無い気がしたので、肩幅に足を開いてやや半身になり、示現流の蜻蛉切り宜しく気合を入れて振り下ろしてみると効率が少しだけ上がった。

 時折竹筒から水を飲みながら八本の柱を切り終えたので、えっちらほっちらと土台に運んで行く。

 シンメトリーになるように八本の柱を立てる場所を決めていき、石のシャベルで掘り進めていく。

 八本の柱に根元から、小指から親指を伸ばした距離二回分の部分に印をつけてから穴へと叩き込んでいく。

 中木から作った木槌でカンコーン☆と上からぶっ叩き、先程の印に合わせて柱を埋めていく。

 一本埋めたら動かない様に土と河原の丸石を混ぜて埋め戻し、これを八回繰り返すと夕暮れになっていた。

 死ぬ程疲れた顔で一旦寝床に倒れて体力の回復をしていると、そんなオレを笑うように千空が土器を持って来ていた。

 その土器の大きさはカレーを作る時の鍋程の大きさで、ぼんやりと湯気が立っているのが見えた。

 

「ケケケ、疲労困憊なお前の代わりに俺が夕飯を作っておいたぞ。鹿の骨から出汁を取った特製キノコスープだ」

「うわぁぁ、めちゃ美味しそう……。ありがとう千空……」

「いやまぁ、めっちゃ重労働してたしな、流石にお前に任せる判断はしねぇわ」

「へへへ、それじゃあご相伴に預かろうかな」

 

 のっそりと寝床から起き出して竹の深皿によそった千空特製キノコスープに口を付ける。

 うぉぉ、旨味の相乗効果でめっちゃ美味い。

 オレもなー、材料があればなー、これぐらい作れるんだけどなー、と内心で不貞腐れつつ、美味しいスープに舌鼓を打つ。

 

「つーか、お前の生産能力マジでどうなってんだ。こんな重労働日にち分けてやれよ」

「それはそうだけどさぁ、やりっぱなしで他の事に進みたくないと言うか、タスクが残ってるのに別行動したくないと言うか何と言うか」

「ゲーム脳止めろや。お前の身体が持たないだろ」

「へーい……」

 

 千空先生に叱られてしまったので、もう少し余裕見て作業するかぁ。

 と言っても、後の作業は然程重労働じゃないので、茅葺屋根を作るための素材を作るための素材作りをするために素材を集める段階に入ったので今日ほどには疲れないけどな。

 茅葺屋根の主材料であるススキや藁になる長めの雑草を搔き集めつつ、竹で組んだ屋根の骨組みを縛るための紐を作るために草を刈り……、と考えた辺りで、竹縄を作って耐久力を上げる方向で良いのではと思い直す。

 後の作業は竹で骨組みして藁などを被せると言う感じなので、完成形ではなく豆腐ハウスの様な形に整えておくだけにしておいて雨を防げるようにしておけば良いだろう。

 仮組みと言う事で使う紐はそこらの雑草から作ったなんちゃって紐で良いだろうし、何本か竹を切って紐を作って縛って一旦の仮屋根を作る感じにするか。

 今の所雨が降ってくる感じは無かったが、今後降ってくる事は普通に在り得る。

 そうなると雨を防げる場所は言うまでも無くあった方が良い。

 

「……いや、茅葺屋根と言う形にこだわってたけど、普通に竹で屋根と壁を作っても良いのでは?」

「まぁ、海外でバンブーハウスっつーのがあるな。リゾート地にあるとかなんとか」

「ッスー……、柱も竹で良かったじゃんだなんて言ってくれるなよ千空、絶対に絶対だぞ」

「言わねぇよ。竹は虫が食いやすいから柱には向いてねぇし、防止の塗料が無い現状じゃお前の今日の行動は正解だ」

「そっかぁ、なら良かった。明日は紐を作るために草を刈って、竹を束ねて乗っけるかぁ」

「それくらいなら問題はねぇか……。と言う事で頑張った褒美に、これをくれてやる」

 

 そう言って千空は後ろに隠していたそれをオレに手渡した。

 それは昨日浸けておいた鹿の皮を鞣した革の衣服だった。

 貫頭衣の様な形の代物で、両端に紐でサイズを調整できるような工夫がされているものだ。

 ……ふふふ、流石だな千空、こんな素敵なサプライズプレゼントを用意しておいてくれるとはな。

 あー……、いや、千空の性格だし、防御力の低い恰好をしてるオレを直視しないようにするための対策か?

 いやまぁ、どちらにせよ嬉しいものは嬉しいからな、きちんと礼を言っておこう。

 

「おぉこれは……、ありがとう千空」

「お前のサイズ分かんなかったから横で調節できるようにした。まぁ、大丈夫だとは思うが」

「おう、多分大丈夫だろ、オレ細いし」

 

 にっこりと裏の意味も分かってるからなてめぇと意思を込めた笑顔で返しておく。

 ややバツの悪そうな表情で視線を逸らしたので確信犯だったらしい。

 一つ溜息を吐いてから千空の作ってくれた緑のカーテンを利用して貫頭衣に身体を通す。

 ふむ、若干裾の高さが怪しいが葉っぱのパンツでも作って付けといてやるかね。

 

「どうよ、似合ってる?」

「おう、似合ってる似合ってる。はよ寝ろ」

「ぬっへっへ、安心してくれ、ちゃんと履いてるからな」

「おありがてぇこった。目に毒だからちゃんとしまっとけドアホ」

 

 だなんて塩っぽい感想で寝床に寝転んだ千空を見届けてから、静かにオレも寝床に寝転んだ。

 ……あの、しまっとけって事はその、み、見る機会があったと言う事では……?

 ううむ、どのタイミングで見られてたかは知らないが、この状況で見せるのは不味い。

 やはり早めに寝床のアップデートしないとプライバシーに配慮した環境が作れないからなぁ。

 いや、別行動している時間はあるから大丈夫か、つっても千空がそう言うのをする奴だったかと思うと首を傾げるが。

 大樹と杠の片思いシーソーを見て、恋愛なんぞ非合理的だ、と宣ってたしなぁ。

 そんな事を思い出してから静かに瞼を閉じて眠りについた。

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