石の上にも三千七百年   作:不落八十八

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 獅子王司、霊長類最強の高校生だなんて言われた無敗の総合格闘技の世界王者。

 そんな肩書きの奴を仲間にするなんてこれっぽっちも予定していなかった。

 実際、俺や大樹、そしてカナメや杠よりも遥かに強靭で屈強な肉体を持つ司は抜身の刀と変わりない存在だ。

 何せライオンを一撃で始末する膂力があるんだからな、小細工しても真正面からは負け必至だろう。

 そんな状況であるとカナメも理解しているのか、警戒を怠る様な奴じゃあなかった。

 貫頭衣の予備を着て川にライオンを安置して戻ってきた司は、カナメと入れ替わる様に此方に戻ってきた。

 

「幾つかルールがあるんだが、守ってくれるな?」

「安心してくれ、不和の種になるつもりはないよ千空。……まぁ、カナメさんは少し警戒してしまっているようだ。女性だからね、気心の知り得ない男が混ざったんだ無理も無いだろう」

「理解が早くておありがてぇ限りだ。実際、お前が暴れたらこんな木っ端な拠点吹っ飛んじまうだろうからな」

「……それにしても、この完成度は恐れ入ったよ。確か、竪穴式住居、だったか。君たちはどれくらい前に目覚めたんだい?」

「あ゛ー、大体二ヵ月前だな」

「……二ヵ月? この規模で?」

「あぁ、此処は二個目に作った拠点だが一ヵ月ちょいだ」

 

 いやまぁ、立派な母屋に井戸と炭炉、極め付けに鍛冶炉もあるからな、驚くのも無理ないだろう。

 特に時間の掛かるであろう井戸が出来ているのは驚きに値する事だろう。

 顎に手を当てて静かに訝しみながら驚く司に苦笑しつつ、癖になりつつある首裏を掻きながら肩を竦めた。

 辺りを見回していた司だったが、居間の入り口からひょっこりと顔を出す杠を見て視線を止めた。

 

「初めまして、獅子王司だ。司と呼んでくれて構わない」

「あ、小川杠です。私も杠って呼んで大丈夫だよ司くん。主に衣服の装飾系の担当やってます」

「そうか、彼らの衣服を作ったのは君なのか。今、カナメさんが仕留めたライオンを解体しているから、その毛皮で俺の衣服を作ってくれると有難いんだが頼めるだろうか」

「へ? ライオン!? まさかあそこでどったんばったんしてたのってライオンと戦ってたの!?」

「うむ、ちょっと偶然ばったりと出くわしてしまってな。それを司に助けて貰ったんだ。司は凄いぞ、ライオンを一撃だったからな!」

「ひぇ……、テレビで知ってたけどやっぱり凄いんだね司くん」

 

 これで顔合わせは終わりだな、後はトイレや役割分担の事を伝えれば良いか。

 川の方で水面を真っ赤に染めながらライオンを解体しているカナメを尻目に、半自動水洗なトイレの使い方をレクチャーして他の設備の紹介をさらりとした。

 しっかし、総合格闘技の王者である司の武力を活かせる仕事は狩猟担当一択なのだが、そこは既にカナメが座ってるんだよなぁ。

 肛門から首に掛けて線を入れて腹側から綺麗に毛皮を剥がし終えたカナメに相談と称して声を掛ける。

 

「んー、獅子王くんの役割? 狩猟担当で良いんじゃない?」

「良いのか?」

「ライオン仕留められる実力あるみたいだし、矢の消費考えなくていいから助かるかな。解体担当と言うか、食事関連に移れば良いだけだしさ」

「お前が良いなら別に良いが……」

「それに保存食の方にそろそろ本腰入れたかったからねぇ。作りたいものが多いからそういう意味では助かるよ」

「此処での食事はカナメさんが担当しているのかい?」

「まぁ、大体はカナメが作ってくれているな。正直、カナメが居なかったら俺たちの食事は極貧のそれだったろうな」

「ははは、んな訳」

 

 マジなんだよなぁ……、カナメは謙遜しているがこのサバイバル生活のMVPは間違いなくカナメだ。

 もしもカナメが居なければ保存食はキノコ類だったろうし、俺と大樹の二人暮らしが続いていたに違いない。

 鹿の革も罠を仕掛けて得られる分くらいだったろうし、下手すると食卓に肉が無い生活をしていたかもしれない。

 猟友会の爺ちゃん婆ちゃんたちに色々と学んだと言う知識で救われているのは間違いない。

 まぁ、カナメ自身のポテンシャルがサバイバルに適していた事も要因かもしれないが。

 あれ程時間の掛かっていた皮鞣しも今では数分で終わる程に技術も極まっている事もあり、その手の技術の引き出しの多さも魅力だろう。

 と、言う事を伝えれば若干顔を染めたカナメがふへへと笑みを浮かべた。

 

「やだなぁー、そんなに褒め殺しされてもそろそろ良い感じに漬かった塩漬けメンマが夕飯に出るくらいだぞぉ」

 

 いやほんと、食に関する技術は俺以上なので尊敬の念を抱かざるを得ない。

 干し肉や燻製魚を軸に考えていたようだが栄養価を考慮した結果、孟宗竹のタケノコを回収して手作りメンマを作る事にしたらしかった。

 二メートル以下の若い竹を収穫し、硬い節の部分と先端を取り除き、湯がいて水溶性のシュウ酸とホモゲンチジン酸と言う灰汁を取ってから塩漬けにしてメンマにするのだとか。

 タケノコにはタンパク質もあり、メンマにして発酵させるとアミノ酸やビタミンなども含まれる栄養価の高い保存食になるのだと熱弁していた。

 一部は天日干しして乾物にしておき、水で戻せる様にして保存期間を高めた物も用意しているあたり抜かりはない。

 

「まぁ、そう言う事で獅子王くん、狩猟担当になった訳だし猪とか狩って来てくれると嬉しいかな」

「あ、あぁ……。凄いね、食糧問題をこれまで解決してきたんだと感じさせられるよ」

「因みにその猪で何を作るつもりなんだ?」

「ペミカンを作ろうかなーって。猪のラード、干し鹿肉、メンマで作れば凄い携帯保存食作れそうだなぁって思ってさ」

 

 カナダやアメリカに住まうインディアンの携帯保存食、だったな。

 乾燥肉、ドライフルーツ、脂肪を一つの鍋で混ぜ合わせて冷やして作る奴か。

 高カロリーのラードに高たんぱく質の鹿肉、食物繊維とビタミンのあるメンマを組み合わせる訳か。

 塩辛く作ればお湯に溶かして即席スープが出来そうな利便性に優れた物になりそうだな……。

 確かペミカンは冷暗所に置いておけば年単位の保存も可能とか聞いた事がある。

 保存食として非常に優れた物ができそうだ、期待が持てる。

 司を見ればカナメの有能さに感心している様子だった。

 

「さてとー、剥ぎ終えたし、このお肉は釣り用の餌か何かに加工しとくね」

「食べられないのかい? 赤身が多い様に見えるけども」

「基本的に肉食動物の肉は不味いよ、餌になる動物のアンモニアとかを分解できずに蓄積しちゃうからね。特にネコ科の肉はゲテモノ食いに定評のある某国の人たちですら食べないくらい不味いらしいし」

「……成程、臭いが強いから魚の餌に最適なのか」

「そゆこと。まぁ、本当に食いつくか分かんないけどね」

 

 解体した毛皮を川底に沈めて重しを置いて固定したカナメは、手押し車を持って来て洗った骨やら肉を回収して森の方へと歩いて行った。

 肉は餌に加工するとして、骨とかは何に使うつもりなんだろうか。

 司は川底に沈められた毛皮を見つめながら何かを考えているようだった。

 

「カナメさんは随分と逞しい子なんだな」

「あぁ、俺らの中で一番頼りになるおありがてぇ存在だよ」

「……ふぅ、随分とハードルが高いが、任されたからには役目を果たさないといけないね」

 

 此方を見て二ッと笑みを浮かべた司は何処か楽しそうにそう宣った。

 ……こいつに武器を渡すのは正直博打だが、今の様子なら問題は無さそうか。

 何かしらの兆候が見られるまではある程度信用しても良いかもしれないな。

 本当にやばい奴ならカナメが先んじて何かしら策を講じるだろうしな。

 

「んで、得物は何が欲しいんだ総合格闘技チャンピオン?」

「俺は基本的に徒手格闘だったから特に要らないかな」

「へぇ、そりゃぁ凄い自信だな。血抜きのためのナイフとかで十分か」

「そうだね、やり方はカナメさんに教わった方が良いかな」

「だな。あいつ以上に狩猟のプロは居ねぇからな」

 

 一応の信頼の証として一振りの鉄のナイフを手渡すと、それを見た司は驚愕の表情を浮かべていた。

 受け取ったそれをまじまじと見つめ、近くの葉っぱを切って試し切りをしてから感嘆の息を吐いた。

 

「驚いた……、もう鉄の道具を作れているんだね」

「最初は十円玉を溶かした青銅製だったけどな」

「……既に近代文明に近付いているんだね、凄い速度だ」

「ククク、じゃねぇと俺が生きている内に夢を叶えられねぇからな」

 

 太陽が真上に昇る空を見上げて、何か言いたげな司の視線を背に受ける。

 ……もしや、自身の肉体の強さをアドバンテージにできる社会を構築しようと画策してんのか?

 我儘三昧のガキ大将ではなく、暴力を持って下民を統治する皇帝にでもなりてぇのか?

 近代文明は自分の強さを脅かす銃やらなんやら色々とあるからな。

 後ろを見やれば苦々しいと言うよりかは憂いを帯びた表情を浮かべて思案する司の様子が見て取れた。

 ……いや、暴力で支配しようってんなら既にやってるか。

 分からねぇな、こいつ何を考えてやがる。

 

「夢のため、か。……そうだね、確かにそれは生きている間じゃないと叶えられない事だ」

 

 独り言ちる様に呟いた司は受け取ったナイフを腰の帯に差し込んで踵を返した。

 早速仕事をしてくるよ、とだけ言い残して。

 その場に残り、歩いて行く背をしっかりと視認してからカナメの所へ向かう。

 そして、今先程の会話の内容を伝えて司のプロファイルを進めた。

 

「んー……、大切な人が死んでる、とかかな。近代文明の死因にありがちな車の交通事故とかで」

「成程な、そうなると近代文明に進める事を忌避してる可能性がある訳か」

「総合格闘技の世界チャンピオンになっていると言う事は賞金が沢山あった筈だけど、貫頭衣や食事について不快感を示している様子は無かったから成金趣味は無さそうだね」

「あぁ、確かにそうだな。高級車や時計に稼ぎを入れているって感じの雰囲気じゃねぇしな」

「あー……、もしかしたら婚約者が不治の病に罹ってるってパターンかも。治療費に当ててるとか」

「治療費か。生きている、と言う所に力が籠ってたな、植物状態にでもなってんのかもな」

「あれ、そしたら石化から復活したら治るんじゃない?」

「と、言うと?」

 

 大分飛躍したカナメの考えに一応相槌の返しをしておく。

 そういう存在が居るかもしれない、と言う仮定の話であるが、こいつの直感は当たる事が多いからな。

 大体七割くらいの確率で当たるから馬鹿にできねぇんだよなぁ。

 

「いやね、杠の足先に石化の欠片が残っててさ。試しに復活薬を垂らしてみたら隣接してた擦り傷とかも治ってたんだよね」

「は?」

「だから多分、石化から解放される時に何かしらの治癒効果があると踏んでるんだよね。だから、全身が石化してる状態なら治療されて復活するんじゃないかなーって」

 

 ……成程な。

 割れていた石化像から身体の内部も石化している事は分かっていた。

 石化から復活する際に細かい破損は繋がって修復されているのは俺らの顔とかにある割れ痕からして確定だ。

 人が歳を取って死ぬ理由は細胞の劣化、及び老化による機能低下が原因な訳で。

 三千七百年の間フォッシルスリープしていた間、石化現象がこの細胞劣化を防止していた事は間違いない。

 人は細胞の集合体だ、その細胞を全て石の状態に構造変化を引き起こしていたのならば表面だけじゃなくて内部も石化していた事に仮説として頷ける。

 もっとも、原理が分からないのはその石の構造状態から再び人の細胞に構造を戻せる部分だ。

 ……幾ら考えてもファンタジーな魔法めいた内容になるので取り敢えず保留し、そういうものだと仮定して話を進める。

 石から細胞へ構造を戻す際にDNAなどを参照してこうなる部分だからこういう構造の細胞になる、というプロセスならば傷などが修復した状態で石化から復活する事が有り得るんじゃなかろうか。

 ……それだと石化粉末で元通りにくっつくのも変か、となると万能細胞の様な変化を一度経るのかもしれないな。

 と、脳裏に浮かんだそれをカナメに説明すれば、思わずと言う感じで頭を抱えていた。

 

「それが本当なら石化するあの緑の光を発生させる装置が手に入ったら医療は要らなくなるね……」

「……だな。はぁ、近代文明を作ったとしてもそれの利権か何かで面倒になる未来が見えるな……」

「もうフリーコンテンツにして絆創膏感覚で使える様に法整備すれば良いんじゃないかな」

「絶対独占しようと考える馬鹿が生まれるだろうしな、家庭に配っちまうくらいが丁度良いか」

「民間委託は駄目だね、国の管理に置くべき案件だなぁこれ」

 

 二人で深い溜息を吐いて、そこらへんは未来の俺たちにぶん投げる事で同意した。

 そもそも石化発生装置があるかすらも分からないしな、カナメの言っていた通り宇宙人の仕業かもしれねぇし。

 ……ぶっちゃけ、こんなとんでも現象を引き起こす研究してたら論文の一つや二つあるだろうし、マジでその説が濃厚かもな。

 どっと疲れた気分になった俺たちは、気分転換に昼食の準備をする事で発散する事にしたのだった。




Dr.STONEの石化現象は掘り下げていくと結局漫画らしいファンタジーのそれとして片づけざるを得ない罠要素なんだよなぁ(n敗
全身石化してるのに意識が残る余地があるとかマージで説明不能です。
石化と解除を繰り返したら若返ったりするんですかね(発狂

明確に銃弾でぶち抜かれてるのに石化して解除したら治りましたの世界なので、元に戻るプロセスに万能細胞か何かを挟んでないと修復不可だよなって言う。
破損した細胞も一度万能細胞化し、その後DNAとかを参照してそこにあるべき細胞に戻してから石化解除してるのかなと思う次第。
千空の脊髄損傷を首にあった石化片を解除して治るくだりからして、解除の際に石構造化した細胞が万能細胞化して周辺細胞に癒着する時に周辺の破損部位をついでに治している感じなのかなーと考察してます。
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