石の上にも三千七百年   作:不落八十八

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 大根と野草のつみれ汁にきのこと鹿肉のラードソテーと言うちょっと豪華な昼食を作り、一つ椅子を足した居間で五人で座る光景は少し手狭に感じた。

 それはガタイの良い獅子王くんと大樹も同じだったようで、隣に座っていた千空もやや苦笑いを浮かべている始末。

 

「んー、箱根に作る時はもっと大きく作るべきだね。ごめんね獅子王くん、ちょっと狭いでしょ」

「ははは……、千空から聞いたが元々人を増やす予定では無かったんだろう? それにこんなに豪華なもてなしをしてくれているんだ、不満は言わないよ。箱根への移住を考えているんだね、いつ頃の予定なんだ?」

「梅雨が明けた頃、今から一カ月くらい先の予定だな。此処だと鉱物資源が足りねぇから色々と物足りねぇんだ」

「成程……、その鉱物資源は何に使う予定か聞いても?」

「抗生物質だ。これからこのストーンワールドを生きていく上での超重要アイテムだ」

「こうせい物質か! ……ってなんなんだ千空」

「あ゛ー、要するに医療品だ。カナメが漢方の準備もしてくれてるが、科学的アプローチが出来る様にしておいて損はねぇ」

 

 抗生物質……、と口の中で噛み締めるかのように呟いた獅子王くんの反応は悪いものではなかった。

 先のプロファイルの話からして、やはり拳銃などの武器運用される様な事柄に敏感なのだろうか。

 ……それにしては好青年なんだよなぁガワが、清廉潔白な武人家のそれにしか見えない。

 うぅむ、実は善の者だけど過去の出来事で精神が歪んでるタイプか?

 竹から削り出した箸で質素な食事に不満を表情共に言い出さないあたり、毎日良い物食ってましたと言う感じの成金には見えない。

 ……むしろ、ちょっとした所作が庶民的であり、此方側であるように見えてくる始末だ。

 うーん、もうちょっとバラエティとか見ておくべきだったか。

 ニュースや新聞などは世界観を掴むために毎日血眼で見ていたが、格闘技などのスポーツ関連は割とノーマークだったのが悔やまれる。

 スポーツ系の原作なら大抵ニュースになるような、大金星になるのが定番だからチェックしなかったんだよなぁ。

 

「鉱物資源があれば抗生物質が作れるのかい?」

「あぁ、割と手間は多いがあの火山地帯であれば大概の素材は手に入るからな。青カビから作られるペニシリンの利便性に埋もれちまったサルファ剤だが、運要素が欠片もねぇから地道にコツコツやりゃぁ百億%作れちまう」

「おぉ! 努力の天才とも言える薬なのだな! 何を集めれば良いんだ千空!」

「今すぐには無理だ、立ち上がるな座ってろデカブツ。ある程度は手元にあるが、硫酸やリンみてぇな途中に挟まる素材が足りねぇから作れねぇんだ」

「りゅ、硫酸って、あの人が溶けるって言う?」

「ケケケ、そうだぞ、理科室から持ち出されてやべぇ事になるアイテムことその硫酸だ。クロロ硫酸を作るのに必須な訳だ。火山の有る様な場所で硫酸溜まりがありゃ万々歳ってところだな」

「……そう言えば、俺が石化から解き放たれたのは偶然ではなく、意図的だったんだろう? 石化から復活する薬品を既に作っている事になるが、それも複雑な素材あっての賜物なのかな」

 

 石化復活薬への探りを入れてきた、か。

 若干話題をぶった切る流れだったけど訊ねるには丁度良いタイミングではあるかな。

 獅子王くんの視線の先に居る千空は数秒瞑目してから、あぁ、と頷いてみせた。

 

「ナイタール溶液っつー腐食液を真似した代物だ。生産にアルコールが必要だから大量には作れねぇ」

「いずれは全員の蘇生を目指していく、そういう方針であってるかい?」

「あぁ、俺は善なる科学者だからな。悪徳に利益啜るつもりはねぇが、行く行くは人類総復活を目指すべきだとは思ってる。……思ってる、んだがなぁー?」

 

 あー、困ったなー、それを反対する奴が居るんだよなー、と言わんばかりな口調で喋ってから此方を見る千空。

 あぁ、うん、オレにそういう印象を付けてイメージ操作をしてカマかけるつもりだなこりゃ。

 獅子王くんの考えている事に探りを入れるためだからって酷いなぁもぉー。

 

「はんっ、人類の命運を握るだなんて事をオレらがしなくても良いでしょ。管理できる少数だけ蘇生させて、次の世代あたりに投げるのが吉だよね。オレらの手はそんなに長くないんだ。人類全員が恒久的に飯を食っていくシステムを作り切れる訳がない。蘇生するにしても段階的にしていくべきだと思うよ。そうだろ獅子王くん」

 

 千空が掲げた目標に相反する様な素振りを見せつつ、管理者として上に立つべしと言うスタンスを口にする。

 これに賛同するか否か、または別の事を言い出すか、獅子王くんの善悪を量る天秤には丁度良いだろう。

 思考の癖なのか顎に手をやった獅子王くんは数秒程沈黙した後、瞑目した瞼を開いて頷いて見せた。

 

「あぁ、俺はカナメさんの案に賛成だ。最初の内は石化から助けられた事で恩義を感じるだろうが、やがてかつての資産を理由に強請る輩が出てくる筈だ。此処にあった土地は自分たちの物だ、その上にあるこの場所は自分たちが使うに相応しい、だなんて事を宣うのが目に見えているからね」

「……石化から蘇生する事自体は反対じゃねぇって事だな?」

「そうだね。若い世代を、それも純粋な若者だけを復活させて、自然と共に生きる新たな秩序を作るべきだと思っているよ」

「新たな秩序ねぇ……、多分それは無理だよ獅子王くん」

「……何故だい?」

「そりゃ、今石化している人たち全員がかつての現代社会の恩恵を受けて生きていた人だからだよ。そも純粋の人って、あはは、もしかして性善説を信仰してたりするのかな? 人は楽に生きようと怠ける生物だ。電気があって科学があった生活を良しとするよ、絶対にね。まさか自称自然愛護団体の人みたいな事言い出さないよね、片腹大激痛どころか失笑もんだよ、それ」

「…………流石にアレと一緒にされるのは御免被るかな」

 

 此方が本音混じりのペラ回ししている間に、千空が目の前の舌戦に目を白黒している大樹と杠に黙ってろのジェスチャーを飛ばす。

 それに気付いた二人は何かしらの意図があっての事だと理解してくれたのか瞑目して小さく頷いてくれていた。

 人の本音を吐き出させるテクニックの一つとして、己の感性で間違っていると思った事へ反論しようとする性質を利用する物がある。

 ブラック企業に勤めている人に対して、あのホワイトを謳っている会社ですよね、だなんて話題を振れば、それを否定しようとバイアスが掛かって愚痴が吐き出される訳だ。

 それはもう実感の籠った言葉が返ってくる事だろう。

 

「だよねぇ。純粋な人ってのは、あくまで誠実な人って意味合いでしょ?」

「そうだね、心が汚れている人じゃない事が条件だね」

「それはまた……、ハードルが高いね。今の、いや、かつての情報社会だと千人に一人居るかどうかじゃない?」

「……あぁ、だからこそより良い集団になる筈だ。君たちを見ていれば分かるよ、人としての繋がりがちゃんと結び付いている。お互いに思い遣り、健康を願う君の様な人は稀有な存在と言えるだろう」

 

 ……なんか凄い褒められたな、自分でも大分捻くれている性格だと自覚しているんだけども。

 ただまぁ、此処まで心根の証言が揃っていれば自ずと獅子王くんの性格が、歪みの原因が見えてくるという物だ。

 仮説として、悪徳な大人に虐げられてどん底から這い上がった世界チャンプ、と言う背景が見えてくる。

 死んだ両親の遺産を貪ろうとする親戚筋とかだったり、借金を理由に何かしらの圧迫を受けてきたのだろうか。

 借金を返すために総合格闘技の世界チャンプになった、うーん、成程、中ボスの背景として十分過ぎる過去だな。

 何が面白いって自分は純粋な人間ですよ、そういう奴らの仲間入りしてませんよ、と言外に言ってる所だ。

 残念ながら獅子王くんよぉ、心根の良い人は自分の事をそう言う風に言ったりしねぇんだわ。

 何故かと言えば、彼らにとってそれは当たり前の事で理由付ける事柄じゃないからだ、聖人か何かかな?

 

「……ふむ、世界チャンプになるための道で何かしらの大人の妨害があったって感じ?」

「八百長の話を持ち掛けられた事はあったが撥ね除けたよ、そこまで弱くは無いからね。……昔の、子供の頃の話さ」

 

 そりゃまぁ、ライオン仕留めるだけのポテンシャルがあるなら負け知らずだろうね。

 子供の頃のトラウマ、か。

 随分と根深い物になってそうだなぁ、DVとか受けて生きてきたとかそういう類だろうか。

 身近な大人を見て、大人と言う大きな括りで憎悪するって言うのは有り得る話だし。

 

「俺には病弱な妹が居てね、大きな手術のために此方へ住居を移したんだ。手術を怖がる妹のために、人魚姫が付けているような貝殻の首飾りをあげたいと思ったんだ」

「うぅ……、良いお兄ちゃんじゃないか……」

 

 まだ始まったばかりなのに涙ぐむ大樹に場が若干白けたが、獅子王くんは何かしらの感銘を受けたのかふっと笑って語りを続けた。

 

「手術の前日、幼い俺は堤防を下りた先で桜色の綺麗な貝殻を拾い集めたんだ。あぁ、これで未来に綺麗な首飾りを作ってやれると喜んでいた。……だが、それは束の間の事で、後ろから蹴飛ばされた事で手から離れてしまった。……あぁ、今も覚えている。鱈腹酒を飲んだのだろう赤らんだ顔で、酒の臭いを帯びた中年男性はこう言った。クソガキ、此処は漁業権のある俺らの土地だ、盗みを働きやがったな、ぶちのめしてやる、と」

 

 ……ん?

 漁業権って言ったか今、千空をちらりと見れば反応している様には見えなかった。

 まさかと思うけど獅子王くん、海浜公園とかの砂浜とかじゃなくて人様の管理する海岸で貝殻拾ったの?

 …………今指摘する事は止めておこう、オレの予感だけでこの場を混乱させたくはない。

 もやもやと霧が掛かってきた様な心地であるが、もう少しだけ真面目な表情を続けるべく耐える。

 

「当時の俺は身体を鍛えていなかったからね、顔が変わる程に殴られたよ。そんな顔で妹の前に立つ事も出来ず、手術に向かう未来を見送る事も出来やしなかった。手術は成功したが、大病は快復しなかったどころか臨床的脳死状態になって延命機器へ繋がれる事になった。その時の悔しさを発条に俺は身体を鍛え、治療費のため賞金を得るために高みを目指したと言う訳だ。……随分と情けない話だろう? 無敗の世界王者の肩書が泣いているよ」

「くぅぅ、苦労したんだな司! むごっ」

「あ、あはは、すこーし黙ってようね大樹くん。……カナメちゃんの目がマジだから」

 

 成程ねー、その事が原因で大人を、権利を振りかざす有権者が嫌いな訳か、ふーん……。

 ある程度知識が無ければ、可哀想だね、と言う悲劇のサクセスストーリーの序章になるんだろうけども。

 再びちらりと千空を見れば何とも言えない表情を浮かべていた。

 此方の視線に気づいたのか、大分苦々しい様子で頷いたので重い腰を上げるかのように口を開く事にした。

 

「えーっと、だから有権者の大人が嫌いって事で良いのかな?」

「あぁ、だからこそ、今の状況は好都合なんだ。利権を振りかざす様な者が居ない今だからこそ、より良い秩序のある社会を作り出せると思っている」

「あぁうん、つまりなんだ……、密猟者の子供と間違えられてボコボコにされて未だに根に持ってるから大人を排除したいって訳だね?」

「……密猟、者?」

「漁業権を持ってる中年男性って言ってたけどさ、それ漁業協同組合に入ってる、多分漁師のおっさんって事だよね。何処の海岸かは知らないけど、貝が取れるって事は潮干狩りとかで商売してる所だと思うんだけど。そこに入って先んじてあさりとかを取る恥知らずな密猟者が居て商売に支障が出てる状態だったんだろうね。じゃないと大量に酒を飲んで時間を潰すくらいに熱心に見張りを立てないと思うんだけど」

「……つまり、俺は、密猟者と断じられて殴られた、と……?」

「うん、状況証拠的にそんな顛末だと思うんだけど。漁師にとって密猟者とかゴキブリ並みに叩き潰したい相手だろうからね。家族ぐるみの密猟者だって居るだろうから、子供相手に殴る蹴るするのは流石にやりすぎだけど、それぐらいに鬱憤が溜まってる状況だったんでしょ。一生懸命に育てた物を我が物顔で窃盗されてる訳だし、被害の額分の殺意が溜まってるのは間違いないね。だからまぁ、殴り殺されなくて良かったね?」

 

 と、獅子王くんから伝えられた内容で当時の事件を読み解いてみれば、ぽかんと口を開いて唖然としていた。

 無実の少年への理由無き理不尽な暴力が、窃盗行為を働くクソガキへの八つ当たり気味の折檻だった、と見方が変われば当然か。

 無実の被害者だと思っていたら実は加害者側だった、その事実の見方の反転が随分と堪えたのだろう。

 口にはしないけど、前科が付かなくて良かったね獅子王くん。

 相手が冷静な人だったら警察に突き出されて漁業権侵害とかで前科持ちになり、対戦相手からの信用を損ねて大分苦労する事になった筈だ。

 いやまぁ、内容的に酌量の余地有りだし、その場の注意で終わるかもか。

 漁師の人って夜明け前に出て朝方に戻って来て、加工やらの色々で夕方まで働いて帰宅するんだっけな。

 家族経営とかならもう少し変わってくるだろうけど、漁から戻って来て市場に流してから密猟者の出る海岸を缶ビール片手に監視するとなると相当数飲むよなぁ。

 そんな状態で明らかに密猟してる子供を見つけたら問い質す前に手が先に出るよねって言う、中年男性って言ってたから昭和世代くらいの人だろうしね。

 漁業権云々と口にしてるなら確実に漁業協同組合の人だろうし、オレの推理は多分間違ってない筈。

 完璧な推理だったな、と自画自賛しながら千空を見れば、手を顔に置いて天井を仰いでいた。

 え、やり過ぎた? じゃ、じゃあ、なんかフォロー入れておくか。

 

「えーっと……、盗んだ貝殻で作らなくて良かったね。そんなの献上されたら人魚姫じゃなくて海賊姫だしさ」

 

 ぐふぅっ、と痛烈なボディブロウを受けたかのような様子で獅子王くんは机に顔を突っ伏した。

 おっとぉ……、オレなんかやっちまいましたかね、と周りを見ると処置無しとばかりに首を振られた。

 もうちょい手心をだな……、と言いたげな千空の深い溜息が居間に響いた。

 まだ核心の部分を突いてないからセーフでしょ、ワンダウン取っただけなんだからさ。




忌憚の無い意見ってやつッスね。
多分、原作の司の過去はそういう経緯があったんだろうなぁと考察してます。
酒気感じるくらいに呑んだおっさんがそう都合よく徘徊老人宜しくポップしねぇって。
しかも漁業権のある人なら尚更にパトロールでもしてた人だろ密猟対策に。

あ、下げてから上げるのって基本なので説得パート前半です、後半もあるよ。
冷凍保存前の遣り取りとか好きなシーンなので嫌いじゃないんだよなぁ司くん。
言葉で解決する余地あるならそりゃぁそうするよねって言う。

公式ファンブックで獅子王兄妹の幼年期がスカスカでマージで困る、大阪産まれなのになーんで神奈川の病院に居るんだよ(困惑
と言うかご両親何処行ったんだよ、記載がねぇぞクリハラァ!
過去の深掘りが無いキャラ多過ぎでままならないね……(n敗
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