霊長類最強の高校生だなんて肩書きの獅子王司くんが仲間入りしてから早数日が経った。
あのカウンセリング擬きな昼食会を経ているからか、最初の頃にあった何処か陰のある雰囲気は見えなくなった。
性格は真っ直ぐかつ誠実で、千空と馬鹿をやる事が度々見受けられる程に割と男子学生をしていた。
千空曰く、つまらねぇ青春をやり直してるんだろ、との事で、今では千空を先頭に大樹と司くんを連れ歩く有り様だ。
格闘技の世界王者に年若くして成り上がる様な波乱万丈な生活で友人が少なかったのか、千空と大樹の会話に時折混ざって笑う姿はすっかりと見慣れた光景になりつつあった。
「……此処だ。未来は無理を言って海の見える病室にして貰う様に頼み込んだんだ」
「って事は大体この辺りにあった病棟に居た訳か。地形からして此方から彼方に流されたくせぇな」
「つまり、あの辺りを掘りまくれば良いんだな! うぉぉぉおお!! 全力で掘り出すぞ!!」
男三人並んで丘の上から病院跡地だった場所を見下ろしながら計画を立てる様子はとても楽しそうだ。
うーむ、男心を理解しているもののあの中に分け入るのは何となく違う気がするなぁ。
仲良しさんだねぇ、だなんてニコニコと笑っている杠に肩を竦めながら、車軸を改良して操作性が良くなった手押し車から鉄製の剣スコップを拾い上げた。
知識のある千空が棒で引いた線に沿って区分けした小高い丘を端から削る様に掘り出す作業を始める。
最初の内は後ろ五メートル程の場所に土砂を投げ捨て、埋没していた患者と思われる石像のサルベージをしながら作業を進めていく。
土砂の山から十メートルを離れ始めたらオレと大樹が手押し車を走らせる係となり、怪力無双する司くんの掘り出した土砂を運び出していく。
流石の一言に尽きるが、全体が広い事もあり進捗はコツコツとしたものになったのは言うまでもない。
斜面上に崩落に気を付けながら作業を進め、大きな岩をツルハシで粉砕するとんでもな光景に唖然としながら作業は順調に進んでいく。
「千空ー、次は何処に置けば良い?」
「おぅ、この辺りだな。よーやく土台が出来上がって来たぜ」
「掘り出した土砂で揚浜式の塩田を作るだなんてよく思い付いたね」
「煮炊きで張り付いたまんまじゃ効率が悪いからな。行く行くは作る予定だったんだ、良い機会だったな」
揚浜式塩田。平安時代の頃に作られていた塩の製法の一つで、塩浜と言う砂浜に海水を撒いて乾燥させる方法だ。
最後にこの砂を搔き集めて、海水と攪拌して砂に付いた塩の結晶を取り出して、高濃度の塩分が含まれた鹹水を作る。
この鹹水を煮炊けば効率良く塩を大量に作れると言う訳だ。
司くんが掘り出し、オレと大樹が運搬し、千空と杠が転圧して地盤を作る。
その際に入浜式の要領を一つまみするらしく、転圧した地盤の形状に凹凸を作り全体を傾斜させる。
これにより上部の海水を溜める場所から全体へ用水路めいた凹凸に沿って塩浜の砂地盤に行き渡り、毛細管現象により塩水が表面に浮かび上がる訳だ。
後は揚浜式と同じでたっぷりと塩の結晶を含んだ塩浜の砂を回収して塩を精製するらしい。
塩はどれだけあっても良いからね、保存食の生産にも大量に使うので万々歳だ。
「ふぅー……、流石に疲れてきたな……」
「そりゃ毎度走るからだよ大樹、司くんの疲労もあるんだから歩きで良いんだよ歩きで」
「むぅ、だがなカナメ。司の妹を逸早く探してやりたいじゃないか」
「それはまぁ、そうだけども」
「ははは、ありがとう大樹。君は本当に優しいな。カナメさんが言う様に歩きでも良いさ。……まだ一割にも満たない進捗だからね、早く短くではなく、遅く長くでも問題ないさ」
「大樹くーん! カナメちゃんに司くんも! お昼の時間だよ!」
弾ける笑みと共に昼食の用意を知らせてくれた杠に礼を言いつつ、小休憩を取る事にした。
六月の前半とは言え陽射しはしっかりしているので、適宜水分補給などは必須だ。
鳴り子を取り付けた釣り竿で千空と杠が吊り上げた魚を豪快に塩を塗して焚火で焼き上げた焼き魚に、試作で作ったラードと乾燥鹿肉と塩漬けメンマで作ったペミカンが添えられた食事に舌鼓を打つ。
ペミカンは乾燥鹿肉の乾燥具合やメンマの硬さの調整や配分量などで四苦八苦している。
携帯保存食であるからして、今の様に食事に添える用の美味しさを追求した物。長期の携帯を目的としたお湯で戻すタイプの物だったり、常温でも形が崩れず塩辛過ぎ無い塩梅の常用タイプなど、色々と研究を続けている。
ぶっちゃけ、ラード、干し鹿肉、メンマと別々にして携帯した方が早い。
しかしながら冷蔵庫の無い今はラードの保存が難しいため、背油をブロック状にして塩漬けにするぐらいしか対策が出来ない事もあり、混ぜ合わせる事で長期の保存が可能になるなら研究しておいて損は無いのだ。
大豆が見つかれば完全栄養食の様なペミカンの研究をするのも良いかもしれないなぁ、と密かに思ってたりもする。
片っ端から川の近くを探して大豆の派生種を探すべきかなぁと思うくらいには欲しい食材だ。
何よりも大豆があれば味噌が作れるし、そこから醤油や酢の生産も視野に入れられる。
発酵食品であるため早期に見つかれば見つかる程に作れる量が増えるので早く見つけたいものだ。
「そう言えば……、千空、カナメさんとは恋仲なのかい?」
「「……へ?」」
「大樹と杠もそうだが、二人とも同じ寝床で寝ているだろう? 今朝も起こそうとした時に仲良さそうに抱き合ってたじゃないか」
「あ゛ー……、その、だな……」
「オレとしてはそういう関係でも良いんだけどなー?」
「おまっ、……や、やるべき事をやってからだ。中途半端な関係はきちぃだろ」
「ヤる事ヤったらデキちゃうもんねぇ。娯楽の無い世界だし、爛れた退廃的な性活になっちゃうかな?」
「お前と言う奴ぁ……」
ニンマリ笑顔を浮かべて茶化す程度で話を終わらせておくに限るね。
男性の時の様に出すもの出して満足、と言う訳にはいかないのだ。
……いや、互いに互いのオカズになると言う手もあるのか。
こんな貧相な体躯であるがちゃんと反応してくれるくらいには色気を感じてくれている訳だしね。
「んで、司。進捗はどうなんだ、お前の愛しの妹は見つかりそうか」
「ふっ、馬に蹴られる前に黙っておくよ。そして進捗だが、千空、君が予想したA地点には居なかった」
「そーかい、ならB地点だな。ぶっちゃけ一日二日の進捗速度じゃねぇが、この分なら見つかるのも時間の問題だろうよ」
「あぁ、それにしても良かったのかい。聞く話によれば石化復活液は数を揃えてないんだろう?」
「バーカ、お前が変な暴走しない様に情報統制しただけだっつーの。材料さえありゃこの天才科学者様直々に完璧にクラフトしてやるっての」
「それはまた……、警戒されたもんだね先日の俺は」
「冬眠から目覚めた熊みてぇなオーラ出してたからな、腹に黒いもん抱えてますーってな」
「……痛い腹を探られた気分だ」
理由無く暴力を振るう人物ではないと分かったからか、随分と気安い関係になったなぁとほっこりする。
「そんな事を言っているが知っているんだぞ千空。司の妹のためにしっかりと一人分を用意していたじゃないか」
「うっせ、ばらすな大樹。こう言うのは然るべき時にそっと差し出してやるのがお約束なんだよ」
「なにぃー!? そうだったのか!? すまない千空!」
「もう手遅れだデカブツ。……はぁ、まぁそう言う事だ、ちゃーんとお前のために取り置いてあるから安心しろ」
「あぁ、安心した。このまま未来を見つけ出して蘇生したとして、その後の事は考えているのかい?」
「……いんや、そもそもの話、お前も本来なら復活させるつもりは無かったからな。見ての通り、俺たちは俺らの食い扶持を何とかする土台作りで手一杯だ。そこが安定軌道に乗らない限り、人を増やすのはリスクだ」
「カナメちゃんが言ってた通りに安牌を取る、ってやつだね?」
「あぁ、そう言うこった。人手はあって困るもんじゃねぇが、三原則に則った清く正しいお手伝いロボット宜しく動いてくれるかどうかは未知数だ」
「実際、オレらって知り合い少ないからね。司くんは誰か居たりするの復活させたい人」
オレの問いかけに司くんは苦笑してから、口元を押さえる思考の癖を見せながら沈黙した。
世界王者になった後、バラエティー番組に出るくらいメディア出演があった司くんだ、その手の伝手があるかもしれない。
「そうだな……。一人、それも一番最初に起こすべき人物が居ると推薦しよう。名前は浅霧幻、マジック心理学の第一人者にしてメンタリスト。……実に面白い男だよ」
「マジック心理学……、あぁ! 前に理科室で心理テストをやった覚えがあるな!」
「その時の著者さんだっけ。そんな凄い人と面識あるんだね司くん」
「メンバトと言うバラエティー番組に出た時知り合ってね。生放送のマジックショーで脱出マジックをしているのを、懐かしさを感じてジムの休憩の時に見ていたんだ。あのスタジオだろうから場所は何となく分かるよ」
「なーるほどな。心理学齧ってるメンタリスト、そいつに今後の復活者の説明と説得を任せる訳か」
「……で、信用はできるの、その人」
話題をぶった切る様にして必ず聞いておくべきことを代わりに訊ねておく。
司くんは口元に手を当ててから瞑目した後に、静かに瞑目して頷いて見せた。
……此処まで信頼されてるって事は中ボスの参謀役なのではそいつ。
「……ふふふ、彼の気質はトリックスター。正しく俺の通った道の逆側に居たであろう男だよ。恐らく、千空とは気が合うだろうな」
「……ふーん、だってさ千空」
「いやいやいや、お前の反対側に居たって事は口先の魔術師だって事だろうが、筋力の狂戦士がよぉ」
「成程、口先の魔術師か、彼にはぴったりな名前だね」
「……いやぁ、その渾名は止めた方が良いと思うなぁ」
ウッディと叫びながら人様の金属バットを振り回して、過去にエアガンでやらかしてそうな少年っぽいし。
前に科学部の面々と集まっていた時にやっていた心理学テストの本の著者、というとあさぎりゲン、だっけか。
……浅い霧に幻であさぎりゲン、か?
それはまた随分と奇術師として名を成してる名前だなぁ、名前負けしてなさそうな経歴だ。
司くんの逆って事はひょろもやしって事だし、有事の際には処理しやすいか。
「まぁ、その人がなんかやらかしたら始末は司くんよろしくね」
「……俺が言うのもなんだが、カナメさんは随分とドライなんだな?」
「その分身内には甘ぇぞ、じゃなかったらお前を信用して復活の賛同はしてねぇだろ」
確かにそうだな、と言った様子で頷いた司くんの様子を見てやや気恥ずかしい気分になる。
いざと言う時に人を害する覚悟はしているが、態々自分の手を汚したいとは思ってないだけだし……。
でも一度でもそれをしてしまえば、一生その選択肢が今後の選択肢に浮かぶんだろうなと思うとビビるのも仕方がないと思う訳で。
けれど、そんな葛藤のせいで千空たちを失うならオレは他人を失う方をきっと選ぶだろう。
いわゆるトロッコ問題で、千空たち三人と司くんなら司くんを見捨てるだろうし、その四人と誰かならきっとその誰かを見捨てる事を選ぶだろう。
人の命は平等な重さだが等価値ではない、個人の差異で優先順位があるだけだ。
……願わくば、そんな命の天秤を量る様な出来事があらん事を。
日々の平穏のために微力を尽くすだけだ。
「……にしても、見つからないねぇ。結構掘ってるのに」
「露骨な話題変更だなぁおい。……まさか掘る順番を俺が決めたから凶引いたか?」
「あー、かもしれないね。なんだかんだで千空の運悪いし」
それから一週間後、右手前をA地点として九分割に割り振ったG地点で未来ちゃんは見つかった。
立ち位置的にスタートのA地点の反対側で、海側ではなく陸側から掘れば二日目くらいで見つかったであろう場所だった。
先日の自身の言葉を思い出して思わず顔に手を覆う千空。
石化した未来ちゃんを抱えながらその背を何とも言えない表情で見る司くんの姿があった。
非常に滑稽なコントみたいな感じになったのはきっと偶然の筈だ、タブンネ……。
友人の居ない司くんと違い、色々と伝手のありそうなゲン経由で司帝国の人たちをなんやかんやで復活させていく予定です。
計三十二人復活してるっぽいんですが、浅霧幻、西園寺羽京、紅葉ほむら、上井陽、花田仁姫、北東西南、氷月、そして硫酸のガスで死んだゴーザン、ユーキ、レン、アカシ、キョーイチロー、モリト……あれ、死んだの五人じゃなかったっけ?一人増えてるような……。
まぁいいか、名前の出てないモブの人たちが九巻あたりで出てくる訳ですが、全員を復活するかどうかはまだ考えてないです。
ぶっちゃけ、司の知り合いはゲンくらいで、その他はなんか若そうだから復活させたって可能性が高いんですよねー。
(年齢の分かってる羽京が二十四歳で、次が氷月の二十三歳。(公式ファンブック))
なので、どうこじつけて復活させるかは後の自分に投げます(暴投
司くんは所属するジムでスパーリングしている時に石化していて、ゲンはマジックショーの脱出マジック中に石化しているので、スパーの休憩中に備え付けのテレビか何かでゲンのマジックショーでも見てたんじゃないかなーと思ってしまう訳で。
なので司くんが推薦するとしたらゲンじゃないかなーと、実際一番最初に復活させたっぽいですし。