石の上にも三千七百年   作:不落八十八

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 獅子王未来発掘計画は一週間弱のプロジェクトで完了を告げた。

 主目標が司の妹を探し出す事だったので病院跡地からのサルベージは一旦保留する事になった。

 想定以上に掘り出した石像は壊れないように安置してそのままにしておく。

 全員で確認したものの知り合いが居なかった事もあり、来たる日の復活ができるようにするためだ。

 大事そうに妹の石像を抱えた司は普段よりも数倍は柔らかい笑顔を浮かべて拠点へと連れて行った。

 その後は、杠によりデザインされたワンピース型の衣服を着用して新設した司と未来用の竹ベッドの上に寝かされていた。

 因みにそのワンピースは司が仕留めたライオンの毛皮を使ったものであり、鬣はフリルの様な感じで裾に使われていて可愛らしい物だった。

 

「さぁて、司。三千七百年と六年振りの再会だ。テメェの手で決めな」

 

 じっと石化した妹を見つめる司の手に石化復活液の入った土器の小瓶を握らせる。

 カナメの想像通りであれば脳死状態も石化から復活する時に修復される筈だ。

 それに、仮説であるが意識を絶っていた杠が無事に復活できた事から、脳死状態と言える無意識石化状態から復活する事は脳死状態から復活する事と同義であるとも言える。

 恐る恐る手に持った石化復活薬を持ち上げてから、意を決したのか衣服に掛からない様に振りかけた。

 一秒、二秒と時間が経ち、すわ失敗かと冷や汗が流れるが、パキパキと罅の入る音が寝室に響いた。

 そして、寝返りを打つ様な身動きをして全身に入った罅が砕けて割れていく。

 

「……うぅん、寝心地わる……」

 

 だなんて寝ぼけた言葉を発した未来の一言に、石化からの復活が成功したと察した司は笑いながら泣いていた。

 そっと大切な物を扱う様にして上半身を起き上がらせ抱き締めた司のくぐもった声が聞こえてくる。

 良かった、未来、本当に良かった、と呟き続ける司の様子に貰い涙したのか大樹と杠は涙を零していた。

 そして、そんな啜り泣き声に起こされたのか、目を開いた未来は何故か泣いている兄を見てぎょっとしていた。

 

「どうしたん兄さん……? なんや、悪い夢でも見たんか……?」

「あぁ、そうだな。悪い夢を、六年も見ていたよ、あぁ、未来、生きててくれて本当に……良かった」

「いしし、なんや、よ~見たら兄さん随分と大きくなったなぁ。随分と……恰好良くなったなぁ」

「未来が自慢できるような格好良い兄になると約束したからな。……何処か、悪い所はあるかい?」

「……ううん、なんでか知らんけど、随分と身体が楽やわ。手術、成功したんやね」

「…………あぁ、三千七百年越しに、だけどな」

「……なんやて!? と言うか此処何処や!? 病室やない!?」

 

 がばりと起き上がった未来は司によって埋まっていた視界から脱し、辺りを見て驚きの声を上げた。

 まぁ、無理も無いか。司の言い分を聞けば六歳の時に脳死によって病院で寝たきりだったらしいからな。

 良˝か゛っ゛た゛な˝ぁ゛、と感動に打ち震える知らないデカブツと同じく良かったねぇと涙ぐむ杠、目の前の成功事例を見て石化現象のやばさを再認識したであろうカナメは天に顔を仰いでいた。

 そして、俺は腕を組んで頷いていた、そりゃ困惑するわ。

 

「に、兄さん!? 何があったんや!? まさか、ノストラダムスの大予言が遅れて来よったんか!?」

「大予言……? そんなものは無かったと思うが、千空」

「ねぇよ、一ミリもねぇよ、ただのおっさんの寝言だ、寝ていない時に言ったから無駄に騒いだだけのな」

「そ、そうなん……? じゃあ、何が起きたん? 此処、病院じゃあらへんよね」

 

 六歳児にしては妙に早熟な未来の様子に若干首を傾げつつ、一から順に今の状況を説明してやった。

 今が五七三八年の六月半ばであり、現代と呼ばれていた時代から三千七百年は経っている事。

 その原因であると仮説される緑色の光線は全世界に広がり人を石像化させた事。

 俺とカナメが最初の石化復活者であり、そこからなんやかんやで石化復活液を作って大樹たちを復活させた事。

 そして、ライオンに追われた先で司を見つけたので即戦力として復活させ、実妹である未来を友人の誼で復活させた直後である事。

 

「ほぇぇ……、なんや、私三千七百と六年も寝てたんか……。そら六年も経てば兄さんも恰好よぅなるわ」

「ふふふ、あの頃の俺はひょろっとしていたからね。今は、いや、かつて総合格闘技の世界王者になっていたりしたんだと言ったら信じるかい?」

「ほんまか!? 凄いやないか兄さん! あぁー……、勿体無いなぁ、私も兄さんがチャンピオンになるとこ見たかったわぁ」

「……ふっ、もう俺には必要の無い肩書きさ。未来がこうして元気になってくれたのなら、それだけで十分だ」

 

 それはもう優しい声で呟いた司は、胸元であわわと目を白黒している未来を愛しそうに抱き締め直した。

 恐らく未来の感覚では、数日前に会った兄が非常に凛々しく格好良くなってそれはもう大事そうに抱き締めてくると言う混乱する心地の筈だ。

 だが、それはそれとして満更でもないのかふぅと溜息吐いた未来は今も尚抱き締める兄の背中を安心させるようにぽんぽんと叩いてから抱き締め返した。

 六歳児っつーと小学一年生だよな、それにしては大人びている様な気がするんだが気のせいか?

 司のかつての生活を聞くにネグレクト気味だった事もあり、テレビを見て色々と学んだ口だろうか。

 ……まぁ、大人びる理由は此処にはねぇし、年相応の暮らしをさせてやりたいものだな。

 一年生と言うと平仮名の読み書きあたりか?

 そこらの雑草から紙でも作って木炭の鉛筆持たせて勉強会でも開いてやるか。

 後で司と擦り合わせて勉強の内容を打ち合わせておくか、最低でも四則演算とひらがなカタカナに簡単な漢字くらいはできた方が良いだろうしな。

 社会と地理とかは……微妙だな、かつて大陸が繋がっていたのがバラバラになってるくらいに大陸ってのは簡単に動くもんだ。

 実際に確かめてからじゃねぇとかつての現代における指標でしか教えられねぇ。

 社会は覚えていても娯楽程度にしかならねぇくらいに文明が終わってやがるからなぁ……。

 あらゆる年表に三千七百年を足さなきゃならねぇからな。

 小学校のカリキュラムは、国語、算数、理科、社会、音楽、図工、家庭科、体育、道徳、とかだったか。

 ……算数、国語と体育が必修で後は選択履修だな、道具の準備しねぇと間に合わねぇし。

 

「あー……、千空? 何となく学校とか考えてるんだろうけど、六年分じゃなくて基礎だけで良いと思うよ」

「まぁ、そうだが……。後々で必要になるだろ」

「先ずは教科書作りでしょ。作業もあるんだから自習ができる環境は作っておかないと」

「雑草を水酸化ナトリウム……、いや、炭酸水素ナトリウムの方が良いか。塩化ナトリウムとアンモニアと石灰石を二酸化炭素で反応させてから加熱して炭酸水素ナトリウム、つまりは重曹を作る、んで煮る。そうするとドロドロに溶けて紙の素材に早変わりだ」

「塩水、尿、貝殻、火の燃焼? 成程、作れるか、一部材料がアレだけど」

「心配すんなそのまんま使う訳じゃねぇからよ。そこらへんは何とかするっつーの」

 

 尿を強アルカリのもんと混ぜて蒸留するとアンモニア水ができる、尿そのままで使う訳じゃねぇから安心しろっての。

 行く行くは気軽に使える紙は必要になってくるからな、皮紙にがりがり書くのは非効率的だし何なら革が勿体無いくらいだ。

 だなんて事を考えていると未だに抱き締められていた未来が微妙な表情を浮かべていたのを見てしまった。

 

「……お勉強せんとあかんの」

「んー、別にしなくても良いよ?」

「え? そうなんか、なら――」

「その代わり、頭の良い人から馬鹿にされるけどね」

「えっ」

「勉強ができない、と、しない、じゃ意味合いが違ってくる。勉強が出来ないくらいに働いてる人と、勉強が出来る環境に居てしなかった人では他人から見た印象が違うでしょう? つまり、お兄ちゃんである司くんは恋人が出来た時にこう言われる訳だ。司くんの妹ってその、なんか、アレだよね、って気まずい感じで」

「い、嫌やぁー!? 兄さんを見初めてくれた人にそんなけったいな言われ方されとぉない!!」

「そうだよねぇ。おぉっと、なんと偶然な事にテストの順位一桁キープだったお姉さんが此処に居たりするんだけど……」

「お姉さん! 勉強教えてぇな!?」

「良いよー。未来ちゃん、カナメお姉さんと一緒に楽しく覚えていこうねぇ」

「宜しくお願いします!」

 

 ……こいつ家庭教師の才能もあるのかよ、と言うか地味に詐欺師くせぇな。

 そう言えば中間や期末テストで頭から湯気を吹き出す大樹に勉強を教えてたりしてたな。

 授業中に何かしらの内職をしていて、尚且つ放課後に塾へ行っていた形跡も無いんだがなぁ。

 本人曰く、禁則事項です、または、何でもは知らないかな知っている事だけだよ、だなんて笑っていたな。

 

「……すまない、宜しく頼めるかな」

「馬鹿こそ東大に行け、って言葉があるぐらいだからね。任せてよ、現役合格だ!」

「東大だとぉ!? カナメ! 俺にも教えてくれ!」

「……大樹くん、合格を出せる学校がそもそも無いよ」

「それもそうだったな! なにぃー!? では未来は何処で学ぶのだ!?」

「青空教室ってやつだよ、大樹。学びってのは何処でも学ぼうと思えば学べるもんだからね。一枚の葉っぱから黄金長方形を見出すんだ。黄金長方形の軌跡で回転せよ、だ。できるわけがないと言う台詞は四回までだからね」

「黄金の長方形で回転をすれば良いんだな! ……何を回転させれば良いんだ? 俺が回れば良いのか!」

「……七部じゃねぇか。大樹、カナメのそれは適当言ってるだけだから聞き流して良いぞ」

 

 てへぺろ、と小さな舌を出してから、これでもかと言うぐらいに下手くそな口笛を吹いて誤魔化した。

 カナメから勧められてジョジョの奇妙な冒険シリーズを貸されていたので嫌でも分かっちまった。

 読んだ事が無いのか獅子王兄妹は小首を傾げていたが、格闘技覇者と精神年齢推定六歳児だもんな無理も無いか。

 両腕を水平に広げぐるぐると回ってる大樹は……、うん、放っておくかその内止まるだろ。

 なーにが半径85センチは~だよカナメ、そのまま歌い出しても伝わるか怪しいぞ。

 ……まったく、随分と姦しくなったもんだなこの一団も。

 かつての科学部の面々の喧噪を思い出し、何処か懐かしい気分になりながら笑みが零れる。




原作だとダイナマイト発掘でしたが時間掛ければ行けるだろ理論で発掘完了です。
鉄製のツルハシあれば司があっさりと岩盤ぶち抜く光景が容易に見えたので……。
小童め、お前は岩よりぶ厚いのか?って感じで。

と言うか原作の未来ちゃん六歳児の筈なのにしっかりし過ぎてるよなぁ、と何度読み返しても思いますがリアル六歳児させるとアレなので本作もそれっぽくいきます。
五歳で大病発症、六歳で手術して臨床的脳死に至ってる(ファンブック抜粋)ので、一年の入院生活があるっぽいので、未来ちゃんの性格的に他の入院患者と交流を深めて会話していた可能性はあるので、そっちの方が可能性としては高いですかね、テレビカード地味に高いので。
最終的に段々と弱っていって寝たきりになった、みたいな感じなら有り得るのかな、タブンネ。

……変な大阪弁、似非っぽくなっても勘弁な(関東住み
気になったら誤字修正投げてくれると助かります。
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