石の上にも三千七百年   作:不落八十八

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 無事に未来ちゃんを石化から復活させてから数日経った。

 実妹と言う守るべき者を得た司くんは、それはもうはっちゃけていた。

 七月に入る手前と言う事もあり夏仕様の衣服を作るべく、オレの御下がりの三枚打弓と鉄鉈を装備して四方八方に狩猟へ繰り出しては川にドサドサと鹿を積み上げた。

 それをせっせと血抜きし、皮を剥ぎ、鞣して、保存食と平行で常用の肉を小分けする作業は死に物狂いだった。

 途中で鹿を捌く姿を見て戦々恐々としていた未来ちゃんを駆り出し、道徳の課外授業と称して手伝って貰ったぐらいには大変だった。

 鹿十五頭に猪五匹、大小合わせた魚五十三尾、やる事が、やる事が多い……ッ!! と忙殺されかけたぐらいに司くんは活き活きとしていた。

 

「……分かったでしょ、未来ちゃん。オレたちが生きていく上で他の生き物を食べる事は礼節を持って行なうべきって事が」

「……うん、堪忍なぁカナメ姉さん。兄さんがやらかしてもうて……」

「よ、良かれと思っての事だったんだ……、すまない」

「いーよ、別に。お陰でこれでもかと保存食作れたし。……死ぬ程大変だったけどね、備えあれば患いなしってね」

 

 大概にせぇやぁっー! と渾身の妹ドロップキックを決められた事で一発KO負けした司くん。

 半年分くらいのペミカンが量産され、十数人分くらいの衣服が作れるぐらいの蓄えができたのは僥倖だ。

 ……まぁ、責任取らせて皮剥ぎから鞣し作業を手伝わせたので許してあげよう。

 未来ちゃんは意外と手先が器用な様で、皮を剥ぐ作業が上手だった事もあり大分逞しい成長ができたと思う。

 合間合間で鹿一頭からこれぐらいできて、ペミカンがこれぐらいできるから何日分になるかな、だなんて実用的な算数を教えたりして授業っぽくしたのも良かったんじゃなかろうか。

 算数の必要性を気付いた様で家計簿の如く保存食の管理に意欲的だったのが印象的だった。

 貯蔵庫の管理を共同で行うようにして、より充実した算数の研鑽をして貰おうじゃないかと画策してたりする。

 今の生活で必須なのは算数であり、割とマジで生死に直結する内容なので手加減はしない。

 四則演算くらいはできる様にしてあげたいからね、日常的に使える数少ない算数ポイントだし。

 殺意の湧く動く点Pやらサインコサインタンジェントあたりはまぁ要らないけど、二次関数の序盤くらいは割と使える分類なので最終目標はその辺りかな。

 

「……畑とかの面積算出で面積系は十分だし、意外と何とかなるもんだなぁ」

 

 実践算数と言うべきか、目の前の必要に応じた計算を教えてあげる事により未来ちゃんは乾いたスポンジの如き吸収を見せてくれた。

 人間必要に駆られたら覚えるもんなんだなぁとしみじみと思いつつ、正直うろ覚えな社会や歴史、そして専門的な理科は千空に投げようと決意したのだった。

 日々の食事の時に未来ちゃんに手伝って貰い、上手上手と褒める方向で指導もしたので簡単なお料理もマスターしたし、杠に教えて貰って司くんの夏服を作る過程で裁縫も学んだので家庭科もばっちりだ。

 国語は今の所会話ができてるので問題はなく、時偶に慣用句などを混ぜてあげる事で教えている。

 ……おや、改まって青空教室で授業する必要無いなこれ。

 案外、格式張って教室で授業、つまりは勉強をするってのがネックポイントだったのかもしれない。

 ある意味教室で行う勉強って強制な訳だし、束縛感を感じる子は嫌がるのも無理ないか。

 

「カナメ姉さん味見てくれる?」

「ん、良いよ。……うん、良いねぇ、塩の塩梅分かってきたね」

「えへへ、ありがとなぁ」

 

 褒められて可愛い未来ちゃんの頭を撫で回しつつ、自分に子供が出来たらこんな感じの生活なのかなとふと思う。

 ……案外良いかもなぁ、自分の知識を受け継がせてるって感じで楽しいし。

 ぎゅーっと未来ちゃんを抱き締めてから、手を繋いで作業中の千空たちを呼びに行く。

 今現在している事は箱根遠征のための荷車作りだ。

 大き目の車輪を取り付け、渡河する時に浮力が得られる様に車体の下に竹の浮き輪を取り付けたり、その際に水が中に入って来ないかどうかも確かめて防水性も考えているのだとか。

 川原であーでもないこーでもないと男三人で楽しそうに工作しているのを、岩の上に座ってちくちくぬいぬいと裁縫している杠が笑って見守っている。

 先生になる、と言う事で未来ちゃんの御守りはオレがしている事もあり、杠は彼らのストッパー役だ。

 この荷車は二台作り、一つは大樹が、もう一つは司くんが運ぶ手筈になっている。

 確か大樹の方に保存食などを積み込み、ツールや資材などを司くんの方に乗せて人が乗れるスペースも作るとか言ってたな。

 基本的に徒歩だが、道中で何があるか分からないので休める場所は必須だしね。

 まぁ、小さいスペースなので未来ちゃん用の場所なのは確定的に明らかではあるんだけども。

 流石にその場所狙う程大人気ないと言うか、そんな浅ましい事をオレと杠はしないので安心して乗せて欲しい。

 トンテンカンと聞こえる工作音をBGMにして、杠に合流して革の鞣作業を進めていく。

 もしもの予備としてフリーサイズに作って備える事も忘れない。

 

「ワァオ、未来ちゃん手先器用だねぇ。しっかり縫えてるよ」

「えへへ、兄さんの服を繕うのにお勉強してたんです。……その、うちの家庭が、その、アレだったので」

「あぁ、うん、あんまり無理して言わなくて良いからね。オレらはそんな理由で未来ちゃんを虐める様なクズじゃないから」

「あはは……、そう言って貰えて助かります」

 

 未来ちゃんが時折闇サイドに落ちるのが居た堪れないんだが???

 これはもう杠と一緒にデロデロに甘やかして、年齢相応の笑顔を引き出してやらねば。

 オレらがやらずに誰がやると言うんだ、お姉ちゃん力を見せてやる。

 胸元に抱き込んで良い子良い子と撫で回し、歳上の包容力(物理)により未来ちゃんを甘やかす。

 

「……えへへ、お姉ちゃんが居たらこんなんだったんかなぁ」

 

 だなんて可愛い事をモニョモニョと呟いた未来ちゃん。

 明るい未来ちゃん計画の進捗は順調の様だ、そのまま司くんみたいな闇堕ちせずに元気に育ってね。

 裁縫の続きを一緒にやって、前日に司くんが狩猟してきた分を全部革にする事ができた。

 脳漿漬けの方はこっそりとやっておいたので気付かれていない筈だ、流石に未来ちゃんにあの光景は悪夢が過ぎるだろう。

 おやつのペミカンを齧りつつ、漸く一台作り終わったらしい千空たちの様子を見やる。

 

「では早速試乗だな! この中で軽いのは千空、一番乗りだぞ!」

「此処まで有難くねぇ一番乗りはねぇぞ。仕方がねぇな、大樹お前がエンジンだ。司! 流されない様に頼むぞ」

「あぁ、任せてくれ。仮に溺れてもカナメさんが居るからね、きっと大丈夫だ」

「アレだな、ドラえもんのテーマですると言う奴だ!」

「……間違っても最新版でやるなよ、初代の主題歌だからな。こんなこと良いなの方だからな!?」

「いや、溺れるの前提でやるべきでは無いと思うが……。まぁ、大丈夫だろう」

 

 川原で荷台へと千空が乗り込み、人力馬車めいた大樹がそれを引っ張り、その様子を司くんが監視すると言う楽しそうな事をしていた。

 うぉぉおおと叫びながら大樹が川の浅瀬へと突入し、腰まで漬かる程の深さまで歩く。

 荷台の下に仕込まれた六本の竹筒により浮力を得た荷車が沈む事は無かった。

 ……が、運動神経がお世辞にも良いと言えない千空が上でバランスを崩した事で荷台の淵に掴まり、事無きを得たかと思えば勢いよく荷台が回転して川へドボンと落ちた。

 あぁ、千空を心配した大樹が振り返ったからその勢いで荷台が傾いて回転したのか。

 何とも言えない表情で苦笑していた司くんが満を持しての御役目を果たし、川から千空をレスキューした。

 そして、普通に川の水を飲んだ程度でピンピンしていたので人工呼吸等の蘇生は必要無さそうだった。

 ……ちょっとだけ残念だな、と不謹慎な事を思ったが首を振って忘れる事にした。

 流石にそんな浪漫の無いファーストキスはしたくないからな。

 

「アハハ……、何と言うか楽しそうだね三人共」

「かつての科学部みたいな感じだな、あんな感じにカオスだったろ確か」

「兄さん……良かったなぁ、ぼっちじゃなくて、仲良い人できて……」

 

 しみじみと言う未来ちゃんを二人で目を交わしてから撫で回し、笑顔を引き出して雰囲気を霧散させる。

 ネガティブな事を抜かす可愛い口はこれかーっとほっぺをムニムニしてから、口角を上げて笑顔にして差し上げた。

 生活に慣れてきたとは言えども五年くらい、いや物心付き始めた頃からなら一年ちょっとくらいか。

 まだまだ十分に挽回できる日数なので、楽しい思い出で重苦しい過去を塗り潰してやらなくちゃね。

 助け出された千空がしっとり千空となって色気が増しているのを眺めて目の保養をしつつ、温かい物でも作るかとキッチンへと向かう。

 丁度良い所にお湯で戻すペミカンスープタイプがあるからね、試作も兼ねて試食して貰おうかな。

 お湯を沸かして竹筒のコップにペミカンスープストックを放り込み、乾燥した海藻を加えてお湯を注ぐ。

 ふやけた乾燥鹿肉とメンマが海藻と混ざり、猪のラードの効いた塩っぽいスープの完成だ。

 試しに一口試食してみたが塩梅は大丈夫そうだ、ちゃんと美味しい。

 未来ちゃんと杠を手招きし、六人分のスープを川原へと運んでいく。

 濡れた衣服を脱いでセクシーな上半身を晒した三人にそれぞれスープを手渡すと、有難いと喜んでくれた。

 川は流水なので気温よりも冷たい事もあり、若干身体が冷えた三人には丁度良い差し入れになったようだ。

 

「ほぉ、美味ぇじゃねぇか。これあのペミカンのスープのやつだろ」

「そうだよ。其処に少しお腹が溜まる様に乾燥海藻も足してたりするよ」

「そしたらそれもペミカンに混ぜたら良いんじゃねぇか?」

「それすると湿気を吸っちゃってカビの温床になっちゃうんだよね。保存食としては駄目だったよ」

「日常使いには問題無さそうだが、まぁ、こうして別途に付け足せば良いか」

 

 思い思いに岩に腰掛けてスープを啜る音が聞こえてくる。

 美味しいと顔が綻んでいるのを見て、千空も大分情緒が育って来たなぁとかつての不愛想な千空を思い出して笑みが零れる。

 栄養とカロリーが取れれば良いだろ、だなんて言ってた千空に今の千空を見せてやりたいものだ。

 そんな視線に気づいたのか、千空が若干困惑しつつ面映ゆい思いをしていた。

 

「なぁに笑ってやがる」

「美味しい?」

「……あ゛ぁ、美味いが、だからなんだその顔は」

「べーつに。美味しくなぁれって作った物を美味しいって言ってくれたのが嬉しかっただけだよ」

「そぉーかい」

 

 ぜってぇー別な事考えてるだろ、だなんて口の中で溶ける程度の大きさで呟かれた事に花丸を上げつつ、スープを飲んで一息吐く。

 箱根への遠征を成功させるためにも準備をしっかりと進めないといけないからね。

 頑張ろう、と素直に思えたのはきっとしっとり千空の色っぽさに元気を貰ったからだろう。

 こればっかりは未来ちゃんから摂取できる元気とは違う元気なので致し方ない。

 隣に座る千空の肩に頭を乗せて、軽く体重を任せてしまうのもきっと仕方がない事なのだ。

 最近の頑張りで筋力が付いて来た今の千空なら受け止めてくれるだろうと信じて。

 ……徐々に体温が上がっていく千空の初心さに可愛いなと思いつつ、今この瞬間を素直に楽しめていた。

 

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