石の上にも三千七百年   作:不落八十八

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 今日も元気だ空気が美味い、と言う感じで川で水浴びを終えてから昨晩の残りを温めて朝食にする。

 今朝は千空もしっかりと起きていたようで、オレが野苺採取、千空が土器作りと役割分担した。

 大きな竹のバケツを背負い籠に入れて、千空お手製の投石器を腰に引っ掛けて、短い竹槍を一本持っていく。

 

「あ、千空、土器で一つ作って欲しいのがあるんだけどさ」

「あ゛ん? どう言うのが欲しいんだ」

「膠を作りたいから長時間煮れる様に分厚い鍋が欲しいんだよね」

「膠……? あぁ、皮から作る動物性の接着剤か。んなもん何に使うんだ」

「竹で弓作ろうかなって」

「……やっぱりお前生まれる時代を間違えたろ」

「ひっでぇ、と言うかこの新石器時代に生きてるんだからむしろどんぴしゃだろうが」

「それもそうか。作っておいてやるよ」

「よろしくー」

 

 そこまで女を辞めてないんだが???

 趣味嗜好は前世に引っ張られてるけど今は普通に女の子してると思うんだがオレ。

 と言うか女子力なんてこんな状況で披露しても意味無いだろうが。

 文明の発展を数百年くらい進めようとしてる千空であるが、地盤はしっかりしていればしている程良いだろうに。

 躓いたり停滞した時に絶対に必要になるからな、備えあれば嬉しいな、と言う奴だ。

 それに……、奇跡的に復活できたのがオレたちだけってのも不可解だ。

 絶対に何処かで似た様な環境のウルトラCして復活してるような奴居るだろ。

 今と同じ時期かどうかは分からないが、何処かでオレたちの様に文明を求めて暮らす様になったらそれは勢力になる。

 もしもそれが秩序を持たないスカベンジャー、フォールアウトなレイダーみたいになったらどうする。

 オレたちの様に復活の目途が立てば、自分たちの富や欲のために石化を復活させて労力や奴隷にするかもしれない。

 ……だからこそ、武力は一定以上のものを保有しておくべきだ。

 その武力で相手を活かすも殺すも此方次第ではあるが、選択肢があるのとないのでは振舞いが変わってくる。

 実際、言葉が通じないような奴なんざ日本人ですら沢山居るんだ、そこに外国人も加わったら言語の壁のせいで静止の対話すらも怪しい事だろう。

 もしも石化現象を神の御業だ、だなんて宣って新興信教作り上げ始めたらどうすんだって話だ。

 何かがトチ狂って女神転生のメシア教みたいなのに悪魔合体したら本当に目も当てられない悲劇が起きるぞ、マジで。

 そのもしもの時に、後悔しないようにも備蓄を、蓄えを増やさないといけない。

 目には目を、歯には歯を、それを実行できるだけの力は持っておくべきだ。

 

「……全部回収しちゃって大丈夫かな、これ。来年も実ってくれると良いんだが……」

 

 野苺が鬱蒼と生い茂る場所へと辿り着いたので背負い籠を下ろして、竹のバケツに収穫していく。

 八割くらい収穫できたら竹籠の蓋で閉じて紐でしばっておく。

 オレの心配が杞憂になりそうな程に野苺畑みたいになっていたので、竹のバケツ三個分程回収できてしまった。

 ずっしりとした背負い籠をえっほえっほと寝床へ運んで、土器を作るために丸窯を制作中の千空の横を通り過ぎて竪穴式住居(仮)の安置スペースにしまっておく。

 これが本当の床下収納か、だなんてくだらない事を考えつつ、野苺をリクエスト通りぜんごろしするための調理器具を作っていく。

 と言っても握りやすいサイズである、親指と人差し指で作る輪っか程の太さの枝を探してきて良い感じに切り、反対側にそれよりも分厚い枝を輪切りに叩き切ったのをがっちゃんこするだけだ。

 見た目的には吹奏楽で叩くバスドラムのバチ、いや、マッチみたいな感じと言うべきか。

 磨り潰す側の部分を黒曜石の欠片で整えてから荒い面の石で表面を整える。

 

「これってぱっと見、電マじゃね……、……フザケルナバカヤロォ-」

 

 ……くっそ懐かしいネットミームが脳裏を飛来したが、首を振って忘れる事にする。

 丸太状に輪切りした作業台にガンゴンと叩き付けて使用感を確かめておき、問題無さそうなので野苺と一緒に置いておく。

 いや、別に置かなくて良いな、と言うかもう潰してしまってもいいか。

 ぜんごろし棒を片手に竹バケツを開封していき、中身の野苺を何処ぞのドリフターなカルタゴのお爺ちゃんの様に潰して潰して食べやすく、じゃない、果汁の状態にしていく。

 野苺の甘酸っぱい匂いが安置所に漂うが、これ食用じゃなくて素材になるんだもんなぁ。

 三つ全部潰し終えたので、竹笊を持って来て新しい竹のバケツに漉していく。

 残った皮と種とヘタの部分を小さな竹筒に残しておいて、果汁百%な野苺ジュースとなった三つの竹バケツに竹笊の蓋をしておく。

 まだこの冷暗所の拡張が終わっていないのと、外張りが終わってないので土が入るのを防ぐためだ。

 アルコール発酵の具体的な方法は分からないが、取り敢えず被せておいて損は無いだろう、多分。

 間違ってたら千空先生が叱ってくれるだろうしな。

 さて、この冷暗所を拡張しておくべき理由ができてしまった事もあり、後々のためにも外周周りを整えておこう。

 まだ雨が降っていないから良いが、今の状況だとこの冷暗所に向かって雨水が流れてきてしまうだろうからな。

 竹籠を背負い直し、川原へと向かって千空を一瞥してから歩みを進める。

 土器を作るのを手伝っても良いのだが、既に成功品を作ってコツを掴んでいるであろう千空の邪魔をするのもね。

 川原で掌二つ分くらいの手頃な大きさの石を竹籠に放り込んでいき、過積載にならない様に気を付けながら運搬する。

 何かと石は使う事は多いので多少余っても問題無いので頑張って運搬に努める。

 

「ふぅ、こんなもんか。小休憩したら掘るかぁ」

 

 計十往復程して材料を集めたオレは住居の日陰で竹水筒から煮沸した川の水を飲んで水分補給をする。

 冷暗所で常温以下に多少冷えていた事もあって水が美味い。

 千空タイムカウントによると四月辺りらしいので、これから暑くなるんかねぇ。

 あぁ、でも、三千七百年も人類の汚染から免れてる訳だし温室効果ガスの発生も減って温暖化も収まってるのかな。

 そうなると茹だる様な夏にはならないかも知れないな。

 ……って事は逆に冬の寒さが増してる可能性高くね?

 此処の屋根と壁が完成した事を想定して、暖炉を作って内側に設置する換気口を作っておいた方が良いな。

 そうなると暖炉の位置はこの冷暗所と反対側に作る感じになる訳だ。

 いや、この冷暗所に続く道がちゃんと扉で遮断されてれば問題無いか。

 床の一ヵ所から地下に掘り進めて作ろうかと思ったが、壁の一部を一回外して扉にしてから進めた方が良いか。

 地下のまま掘り抜くとなるとそれに耐えれる地盤かどうかは素人のオレには分からないからな。

 それなら最初から上から掘り抜いて頑強な部屋にしてから天井作って埋めた方が安心だ。

 そうなると壁材にする中木をまた切っておかないといけない訳で。

 

「……青銅の斧欲しいなぁ、切実に」

 

 石と木の硬さが割と近いのか削れるまで時間掛かるんだよなぁ。

 ううむ、利便性を求めると作業量が増えるなぁ。

 けれど真冬の気温で二人して毛皮に包まってガタガタと震える未来を考えたら行動するしか無いんだよなぁ。

 後々に地下になると言う事を考えたら壁材に使う中木は燻煙乾燥しないと腐って潰れるからな。

 中木を纏めて燻煙するとしたら……、小さな洞穴が無いか今度探してみるか。

 入口を塞いで窯みたいにして燻煙する方が、デカい土の窯を作るよりも効率的だろうしな。

 残った灰は固めて着火剤か何かにしたり、今後作る農耕の肥料にしてもいいしな。

 そうなると……、何処かで珪藻土手に入れたいなぁ。

 七輪の素材であり耐火性と保温性に優れる代物だ。

 三千七百年も経っている訳だし、そこら辺から取れてもおかしくないのが珪藻土だ。

 水と消石灰と練り合わせて壁に塗れば保温性のある壁を作れるから凍え死ぬリスクを一段と減らせる。

 そしたらこの住居の入り口も扉にしたいなぁ、現代の扉みたいに蝶番なんてもんはないから嵌め込み式の扉になるけど無いよりは絶対にマシだしな。

 枝で地面の土に住居の完成図を描いていくと段々とやるべき事が見えてくる。

 ……まぁ、中木を沢山伐採しろ、と言うのは分かり切った事なんだがね、トホホ。

 

「……布なんて無いしなぁ、この衣服を切り取って掌のバンテージを作るのもアレだしなぁ」

 

 川原から石を大量に持って来たが取り敢えず素材として放置しておく事が決定した。

 千空が竹槍を作る時にごっそりと持って来たであろう竹から手頃で握りやすい太さの物を一本回収する。

 オレの背を頭一つ分越すくらい、精々百七十センチ程度の位置に印をつけて節の近くで切り落とす。

 中の節を一番下を残して細い棒で突き壊して中から取り出して、日当たりの良い場所で乾いている砂を中へと入れていく。

 棒でしっかりと突いて圧してから入口に丁度良い石を蓋をする様に詰め込む。

 飛び出して来ない様に剥いだ薄い竹を折り曲げて取り付けて紐で縛り付けておく。

 丈夫でしなやかな竹に砂と言う緩衝材と重りを付け足した自衛用の竹棒を作り上げる。

 それなりの棒の先に石を取り付ける形のものでもいいが、気絶ないし撲殺するためにしなりを加えて遠心力を高めたこの武器の方が今のオレには使いやすい。

 槍投擲器は千空にあげたので、良い感じの枝が見つからないと作れないからな。

 竹筒と紐を組み合わせただけの投石器用の石を入れておく投石ホルダーを腰に巻き付けて縛る。

 竹罠を仕掛けた場所へと準備万端で向かう事を千空に一声掛けてから森林へと入っていく。

 

「そろそろ引っ掛かってくれると良いんだけどなぁ」

 

 基本的に鹿や猪などの四足歩行の獣は人が通れない場所は通らない。

 そのためそれを避けて獣道と言うべき薙ぎ倒された自然の道路が出来上がる訳だ。

 竹罠を仕掛けるのはそんな獣道で足元が雑草で見えなくなるような場所だったり、根っこを避けるために乗せざるを得ない土の場所だったりだ。

 千空は宙吊りになるとんでも仕掛け罠を作るつもりだったようだが、そんな事をしたらストレスで肉質が悪くなるので不味い肉を食べる羽目になる。

 そのため、樹木に紐の反対側を繋いでおいて掛かったら逃げられない様にする、その程度の仕掛け罠を作って貰った。

 買い物で飼い主に外で待つよう言われた犬の如く、その場からある程度動けるだけで逃げ出せない状況になっている雌鹿を見つけてニヤリと笑みを浮かべる。

 投石器に石をセットして鹿の足を狙って投石する。

 風切り音を聞き取って耳を立てて警戒していた雌鹿の後ろ脚に石が当たり、短い悲鳴を上げた。

 今の一撃で脚を痛めた雌鹿がぴょんぴょんと跳ねる様に足を引き摺りながら逃げ出そうとするが、前足に掛かった仕掛け罠のせいで樹木から遠ざかれない。

 近付いて投石から逃げられない距離で再び投石器で石を脚目掛けて投擲する。

 先程当てた側の脚に再び当たったようで、痛みを堪えるためかその場に倒れ込んだのを機に距離を更に詰める。

 下がった頭を狙って竹棒をフルスイングしてかっ飛ばす。

 首を狙ったがちょっとズレて後頭部へと竹棒の先端が叩き込まれ、気絶したのか雌鹿はそのまま地面に頭をだらりと下ろした。

 逃げ出す様子が見られないので仕留めたと判断して、竹棒で身体を突くが痙攣するだけで動き出す様子は無い。

 仕掛け罠を取り外し、雌鹿を肩に担いで寝床を過ぎて川原へと運んで川へと叩き込む。

 

「っしゃぁ、雌鹿、捕ったどぉー!」

「おぉ……、ご機嫌な戦果じゃねぇか。流石だな」

「いやぁ千空のための衣服が必要だなぁと思ってね。……その端材で掌に巻くものも欲しいなぁって」

「へーへー、そっちが絶対理由だろうが。どういう思考パターンでそうなったか言ってみろや」

「いやぁ、それがさ、三千七百年も経ってるんだから温暖化ストップしてるんじゃないかなぁって思って」

「あぁ、その可能性はあるな」

「だから、夏は抑え気味だけど、逆に冬がやばくなってるだろうなぁと思って。竪穴式住居に暖炉を作りたいなぁと思って考え始めたら、冷暗所の場所をもう一つ横に部屋を作って天井を埋めて作った方が安全だなぁと」

「……成程な?」

「だから、燻煙乾燥させるための中木を伐採するために、磨製石斧のアップグレードは見込めないからせめて耐久力を伸ばそうと掌に巻くバンテージが欲しいなぁって。手袋にしちゃうと摩耗も早いだろうしさ」

「はぁ、そう言う理屈でぶっ飛んだ行動し始めたのか。集めた石がほったらかしで何事かと思ったらよぉ……」

「へへへ……」

 

 首の裏を掻きながら千空が呆れた様子で此方を見ていたので、何となくバツが悪くなり視線を逸らした。

 考え無し、と言われても仕方がない行動をしているが、最終的な目標に必要な事だから勘弁してくれぇ……。

 だなんて思って祈っていると千空は寝床の方に行き、何かを手に戻って来た。

 ん、と伸ばされた手に掴まれていたそれを受け取る。

 それはオレの衣服を作った時に出た端材と思われる切れ端であり、ぐるぐると巻くには足りないが緩衝材にするぐらいには十分な量はあった。

 ……そうだね、最初から千空に端材が残ってないか訊ねるべきだったなぁ。

 

「その成果に免じて目こぼしするが、次はもうちょい頭を使うように」

「うっす……」

「それと、手に巻くんじゃなくて石斧の手元に滑り止めを兼ねて巻き付けとけ。柄、革の端材、紐になる順でだぞ」

「あっ、はい……」

 

 仕方がない奴め、と言う感じの長い溜息を吐いてから千空は寝床の方へと戻って行った。

 確かに、手持ちの工具をアップグレードするのって何も刃先だけじゃないもんな。

 これは一本取られたなぁと思いつつ、黙々と雌鹿の血抜きを始めた。

 前回と違って死んでないからか首元から出る血の量がどっぱどっぱで一瞬で川が赤く染まる。

 やはり暴力、暴力は全てを解決する……、と時間を潰してから黒曜石の欠片を使って解体を始める。

 二回目とあって前回よりも綺麗に皮を剥げた気がするな。

 今回は最初から竹の入れ物に入れられるから衛生的で何よりだ。

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