石の上にも三千七百年   作:不落八十八

9 / 57
#9

「それとも、人類皆性善説だなんて可愛い事考えてたりする?」

 

 石神千空と言う少年の軸は科学ではなく、宇宙であり、科学は宇宙に行くための道具に過ぎない。

 いや、宇宙も科学も、未知を知りたいと言う欲求を満たすための理由に過ぎないのだろう。

 だからこそ、千空を未知の生き物として見ていた奴らの事を、彼は欠片も気にする事は無かった。

 裏山から発射された小型ロケットの打ち上げを偶然、当時のオレは目撃していたんだ。

 それは後から仲良くなった杠から聞いた話であるが、千空が大樹の手伝いにより無人の宇宙ロケットを飛ばす事に成功した時の出来事だったらしい。

 しかも、大気圏を突破して一枚の宇宙写真を撮っていると来たもんだ、とんでもない天才が居たもんだと思ったよ。

 民間企業が血眼になってやるような宇宙ロケットの実験を、中学生の子供が二人で成功させる?

 そんな事ができるとするならば、この世界を舞台とした何かしらの原作の主人公格ぐらいだろう、と。

 ……分かってた、分かってたんだよ、こいつが主人公の原作の世界に転生したんだな、と。

 けれども、当時の俺はそれを認めたくなかった。

 当然だ、とんでも頭脳の科学少年が主人公になる世界だなんて、ロボゲー系の、スパロボみてぇな世界だろ、と推理していたからだ。

 いつ恐竜帝国の爬虫人類めいたのが侵略しに来るのか、はたまたBETAみたいな工作機械が侵略しに来るのかと恐怖に震えていた。

 ロボット生命体が宇宙からやってきて地球を舞台にドンパチするかもしれないし、超古代文明の遺産が発掘されてその研究から戦闘ロボットが開発されるかもしれないし、未知のエネルギー源が発掘されて文明が超発展するかもしれない。

 もしかしたら黒猫をサイボーグにしてしまったり、奇天烈な発明品から絡繰りロボができるのかもしれないし、天才なだけの幼女な博士がゼンマイ式のお姉さんロボを作ってまったりと過ごしているだけかもしれない。

 何なら未来から猫型だったロボットがタイムマシンで来てくれても良いし、人の心を持った鉄腕のロボットの誕生の前日譚だったりしても良い。

 しかし、日常的なロボ系よりも遥かに、圧倒的に戦闘系のロボ系が多いのは事実であり、どう考えても争いごとに巻き込まれるのは目に見えていた。

 オレは、かつて空が落ちてくるかもしれないと恐怖した人の事を笑えなかった。

 この幾つもの考えが、予想が、憶測が、全てが全て杞憂な笑い事であると笑い飛ばせなかった。

 転生と言う非科学的な現象を身をもって実感している身である、何故それらが起きないと断言できる?

 サバイバル技術を、猟友会の爺ちゃん婆ちゃんから学んだりしていたのは、いつかそういう環境になった時に生き延びれるようにだ。

 今の科学力で侵略者相手にレジスタンスするなんて無理ゲーが過ぎるし、かと言って何かしらに備えないと安心ができなかった。

 そして、オレは自分の命欲しさに千空たち幼馴染組に絡む様に動いていた。

 ロボゲーのお約束、開発者の周りは何だかんだで危ないけど安全、と言う法則に期待しての事だった。

 じゃなかったら料理なんざカロリーバーで十分だと抜かす様な千空にお料理アタックなんてしねぇんだよ。

 ……まぁ、今も昔も普通な人間だったから、千空と言う面白人間に触れて感化されて普通に友達やってるけども。

 

「人類の復活、確かに良い事ではあるけど、それ、オレらがやるべき事かな?」

「何が言いてぇんだ」

「だってさ、千空、国王になりたい訳でも、救世主になりたい訳でも、神様になりたい訳でも無いでしょ?」

 

 千空、君の友人として中学時代から共に過ごしたオレだから言うけどね、君は上に立つ人じゃないよ。

 上に立つ人は、誰かの視線を知らんぷりして我を通せる人じゃ無理だよ。

 それは国の一部として一生を過ごす事を許せる、何処ぞの金ぴかな古代の王様じゃないと無理だ。

 君はあくまで課題に取り組むチームのリーダーに相応しいのであって、間違っても村長の素質は無い。

 民主制を取り入れた集団を作るとしたら、千空、君は奴隷の様に働かされるよ、あれを作れ、これを作れってね。

 人は責任を取りたくない生き物だ、だから他者に責任を擦り付けたり押し付けたりする。

 そうならない人だって居るけれど、今の現代でそんな風に育った人がどれだけ居るのやら。

 

「千空、人は怠惰に生きる生き物だ。今の現代に生きていた人間なら尚更に。お前らがやれば良いじゃないか、もっと良い物を寄越せ、自分は働きたくない、だなんて糞みたいな事を抜かす奴は確実に出てくるよ。老若男女問わず、ね。そうじゃない人たちも居るだろうけど、ワインの樽に入った泥の一滴の様に、全てを台無しにする未来が見えてる」

「復活する人間を選別しろって事か」

「違う、いや、あんまり違わないか。無作為に選ぶんじゃなくて、順番をちゃんと決めないと駄目だよ、って事だよ。最終的に人類を復活するのは別に良いけど、その復活させる人の順序はちゃんと決めないと駄目だ。そして、協力できない様な人をどうするのかをちゃんと決めないと駄目だ。分かるかい千空、君がやろうとしてるのは科学だけで発展していくシティシムじゃないんだぜ、人を使って都市にするコロニーゲーの方だ。しかも現実って言う糞ゲーなんだぜ」

 

 恐らく千空は誰もが復活に好意的である、と言う前提で考えているんだろうけども、それは現代の環境が整っている事が前提なんだよ。

 未文明な原始時代で復活を果たして、心機一転頑張って村の一員になろう、だなんて思う奴はきっと少ないよ。

 死にたくないから渋々と、欲を満たすためにこっそりと、何かしらの後ろめたい考えを孕んで村人になる。

 村人になるしか生きる道が無いから、だなんて理論武装して、都合が悪くなったら文句を言い出すに違いない。

 オレの言葉を理解しているであろう千空は、自身の考えが甘かったと言う感じで歯噛みしていた。

 ……千空には善の塊みたいな大樹が居たからね、他人への関心が薄かった事もあって、考え至る事も無かったんだろう。

 だからこそ、オレみたいな奴が教えてやらねばならない、人の悪意と言う汚さを。

 だって千空、君、上に立った時に人を殺す選択肢を選べないでしょ。

 だから、その時が来たら人を殺せる側に立てるオレがその役目を負うよ。

 人類を救うだなんて無理無茶無謀を、蛮勇でも使命感でも正義感でもなく、やりたいからと言う君だからね。

 

「千空、そもそも食料の安定供給も確立してないのに人増やすとか馬鹿なの死ぬの」

「う゛っ」

「衣服の生産も整ってないのに人増やすつもりなの? 裸体を見てニヤニヤしたい感じ?」

「んな訳あるか」

「そこは即答するんだ……。それに復活した人たちは何処に住むのさ、自分たちですらアレなのに」

「……分かったよ、俺が悪かった。省き過ぎて言葉が足りてなかった、もっと地盤を固める」

「ならまぁ、いっか。あぁ、因みにあんまり基盤作ってから復活させると、あれもこれもやってくれって無責任な糞ムーブ喰らうだろうから気を付けてね。正直、旧社会の人たちじゃなくて、今を生きているであろう新社会の人たちに科学を教えて発展させる方が精神的に楽なんだけどなぁ」

「とことんリアリストだなお前は……」

「じゃないとこの時代は生き残れないだろうしね」

 

 石化復活液が完成したら先ず大樹と杠を復活させるのはまぁ予定調和として、その後の事だ。

 マンパワーが足りないからと片っ端から復活なんてしてたら酷い有様になってた事は間違いない。

 それに、集団になった時に責任を負う立場になるのはきっと千空だ。

 千空の頑張りを無に帰して踏み躙る様な奴が居たらきっとオレは、これから作る弓の弦に指を掛けるに違いない。

 今、この環境で和を乱す様な奴は居なくて良い、視界からもそうだし、この世からいなくなってくれる方が後の憂いを気にしなくて良い。

 まぁ、それもきっと千空は許さないだろうけどね、科学は人のためにあるものだ、と言える人だし。

 そして、オレを人殺しにしないように立ち回ってくれるだろう。

 ……じゃないと過激な一面を見せた意味が無いしね。

 

「だから、マンパワーが足りないからってそこらの人を復活させない事。どうせ復活させるなら君の知り合いからにしてよね。科学部の人たちとかさ。ある程度知見があって従わせやすい人から仲間にしていかないと、それこそマンパワーで全てが台無しになるよ」

「交換したポケモンじゃあるまいし……」

「オレとしては女神転生の仲魔くらい忠実であって欲しいけどね」

 

 まぁ言うは易しであるし、この問題は復活者二号、……うん、多分二号であるオレにも降り掛かる問題だから。

 言い出しっぺの法則と言う物がある訳だし、此処で諸手を挙げて賛同していたら、千空の事だから、じゃあ後頼んだわ、と村長を任されるに違いないしな。

 まぁ、その場合、オレが上に立ったなら容赦無く離反者は殺すけどね、後が怖いし。

 今のこの世界では法律は機能していないし、何よりもそれに付随して人権も息をしていない。

 何も無い世界だからこそ、恐怖や暴力による政治ができてしまう環境なんだから。

 村から逃げ出せば良いのに、帰属意識と不安からその圧政を良しとして耐えようとしてしまう。

 そうなったら何処ぞの独裁国家の様な恐怖政治と情報統制による圧政が始まるだろう。

 そして、それの何が怖いかと言えば、オレらの知らない場所でそんな事が起きていた場合どうしようもないと言う事に尽きる。

 もしも、そんな場所からスパイが潜入して離間工作でも仕掛けてみろ、酷い事になるぞ。

 科学による発展を主軸に立ち上げられた村に結束力なんてもんは無い、人が上に立っていないからだ。

 仮に、千空が科学村の村長として立つ、と言うのなら話は違ってくるが、彼の性格からしてそうはならないだろう。

 

「そこんとこどーなの、千空せんせ?」

「あ゛ぁ? ……確かに、俺は国王にも救世主にも神様にもなりたい訳じゃねぇ。だが、一人の科学者として人類の発展を願う側に居てぇんだよ。Dr.Xに毒電波流し込まれた事もあって尚更にな」

「なんぞそれ」

「あぁ、言ってなかったか。昔、宇宙ロケットの開発で分からないところがあって、科学者に手当たり次第にメールを出した事があってな。んで、返って来た相手が名前も格好も不詳のNASAのDr.Xだった。Xは事ある毎に俺に科学者第一主義を吹き込もうとあれこれと論説してきやがってよぉ……。科学があれば賢い人間が、衆愚を正しく導き支配することができる、ってのが口癖みたいな人だったな」

「……あぁ、成程なぁ。マッドサイエンティストの類の人かぁ。何と言うか人間社会の倫理感が邪魔で、やりたかった実験ができなくてストレス溜まってそうな人だな」

「なんで今の情報だけでそこまで毒吐けるんだてめぇ、一応俺の恩人だぞ」

「いやだって、明らかにラスボス系じゃん、そいつ絶対にどっかで遭遇して敵になるパターンじゃん、やだー」

 

 思わず頭を抱えて唸ってしまうが、これオレ悪くないよね。

 どう考えてもそいつがこの世界のラスボスじゃん、人類石化計画もそいつだろ絶対に。

 一度文明リセットしまーす、自分は復活の手段を用意しまーす、やりたかった実験しまーす、素材はそこらへんに居る人間でーす、みたいな奴だよこれ。

 今頃全身サイボーグになって不老不死みたいな状態になってんじゃねぇのそいつ。

 NASAって事はアメリカに居るのかね、良かったぁ大陸の間に海が挟まれてて。

 けど千空の事だから科学の発展のための素材を集めるためにアメリカ大陸に行くよね絶対。

 理由は……何だろうね、科学云々の素材でアメリカでしか手に入らない様な物があるのかな。

 

「千空、お願いだからアメリカに行くってなった時に丸腰で行かないでね」

「あ゛ぁ? どう言う考えの飛躍だそりゃ。NASAから発想が飛んだのか?」

「日本は銃刀法で誰も持ってないけど、銃社会のアメリカは基本的に銃で武装する事が頭に入ってるからね。いざ武器を作ろうってなったら弓じゃなくて真っ先に銃作ろうってなるに決まってるから」

「まぁ、そりゃまぁ……、そうだろうな。防弾チョッキでも作れって事か?」

「……そうだね、まぁ、そう言う事だよ」

 

 こっちも銃を作れば良いのか、と返事を返さないあたり千空らしいよなぁ。

 いやぁぁぁ、ほんとマジで止めてよ、ラスボスの魔王城に丸腰で平和的話し合いで事が済むだなんて思わないでくれよ、絶対無理だから。

 秘密裏にオレも銃を作った方が良いんだろうか、異世界のドワーフが作れるんだし、構造を知ってるならオレにも作れるよなきっと……。

 けどなぁ、絶対に許さないよなぁ千空が。

 うーむ、大樹と杠が復活したら二人だけの相互関係も解消されるだろうからワンチャンあるかな。

 まぁ、作れる銃と言っても黒色火薬の火種銃みたいなのが精々だろうけども。

 ……あれ、そしたら鉄の鏃を付けた弓矢とあんま変わんないような。

 …………ヨシ、オレは日ノ本一の弓の名手になるのだ、ならねばならんのだ。

 

「明日はどうする?」

「そうだな、午前中は俺の衣服を作るつもりだから自由にしてていいぞ。あぁ、あの住居は暖炉くらいは良いが、冷暗所は小さくて良いからな」

「りょーかい。残りの竹の罠の所見てから、住居の改築に手を出すかぁ」

「暇なら海で使う用の釣り竿とか作ってみたらどうだ」

「ん? 近々行く感じ?」

「あぁ、流石にそろそろ塩の準備をしておきてぇ。今は鹿から取れてるが、暑さが増して来たら塩分は必須になる」

「確かにね、海かぁ。此処からだと磯子港辺りかな。あれ、意外と近い?」

「そうだな。精々直線で十キロちょっとぐらいじゃねぇか」

「おぉ、半日も掛からない、と言うか洞穴と同じくらいじゃない?」

「かもな。一度行ってみねぇとわかんねぇぞ。途中が崖になってたりしたらどうするよ」

「そっかぁ、その可能性はあるなぁ」

 

 と言う事は万が一遭難した時用の道具を準備しないと駄目だな?

 ファイヤースターターだなんて便利グッズが無い訳だし、弓キリ式の着火セットもう一式作っておかなきゃじゃん。

 後は竹筒で水のろ過装置も作っておくか、後は、止血用に清潔な紐とか添え木とかもか?

 ……はっ、脳みそ腸詰と言う保存食の出番なのでは、と思ったけどもう食べちゃってたな。

 一度燻製して茹でた腸詰の保存食を用意しておいた方が良いだろうなぁ。

 

「……お前はそう言う事を考えてる顔の方が良いっつーの」

 

 寝支度を終えたらしい千空が寝床に入って何かを呟いていたが、微妙に聞こえなくて聞き取れなかった。

 何だろう、凄い気になるんだが、もやもやするからもう一回言ってくんねぇかなぁ。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。