トリニティ4兄弟   作:Utena(臺)

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第10話 絆

 太平洋上空、洋上。

 クロードも合流したスローネ編隊は、スローネアインの修復の為に移動していた。

 

「ヨハンにぃ。手酷くやられたみたいだね。」

「クロードォ!ミッションをサボってた奴が偉そうにアニキを揶揄ってんじゃねぇよ!」

「そうよクロにぃ!なんかヘンよ?」

「良いさ。ミハエル、ネーナ。クロードも、憎まれ口を叩けるくらいには調子が戻ったか?」

「あぁ。絶好調だよ。これからのことを思うとね。」

「? そうか。なら良い。次からは頼むぞ。」

 

 会話を終えた瞬間、前方からスローネ達へ向けてビームが飛んでくる。

 

「何だッ!?」

「あれは……ガンダムエクシア!?」

 

「ガンダムエクシア、目標を補足。駆逐する!」

 

 急速で接近したエクシアは、スローネツヴァイへとGNソードを振りかぶる。

 それをなんとかスローネツヴァイはGNバスターソードで受け止めた。

 

「何だってんだ!?突然攻撃しやがって!!」

 

 突然の攻撃を受け、トリニティは混乱する。

 

「ちょっとアタシら味方よ!?」

「違う!!お前達はガンダムではない!!」

「クッ!何故俺達の邪魔をする!?ソレスタルビーイング!?」

「お前達がガンダムではないからだ!!」

「何を言って……!ミハエル、反撃を許可する!」

「あいよぉ!!!!」

 

エクシアの攻撃を受けていたスローネツヴァイの腰部から、ファングが飛び出していく。

 

「喰らえ!ファングゥ!!」

 

 エクシアは直後ツヴァイから距離を取り、GNソードを折り畳む。そして、目も追いつかぬ程の速さで、ビームダガーとGNブレイドを投擲し、真正面から突っ込んでくるファング3基を破壊する。

 さらにビームダガーを両手に持ち、残りのファングを踊る様に避けながら、すれ違いざまに切り伏せた。

 

「刹那……凄まじいな……。」

 

 エクシアを駆る刹那の凄まじい反応速度、そして機体操縦能力、空間把握能力に、クロードはただただ感心する。

 一方、刹那と交戦しているミハエルは、改めて距離を詰めようとするエクシアに向けて、予備のファングを放つ。

 

「ファングはまだあんだよォ!」

 

 2基のファングが飛び立ち、エクシアに接近しようとした瞬間、光に飲み込まれた。

 

「これは……!?ガンダムヴァーチェ!?」

 

 エクシアの飛来した同方向から巨体がぐんぐんと近付く。

 

「ヴァーチェ。目標を破壊する!!」

 

 

 

 トレミー艦内は、突然の急報に困惑していた。

 

「エクシアとスローネが戦っている!?」

 

 驚きの声を上げるスメラギさんに、フェルトがさらに追撃を加える。

「ヴァーチェも戦闘に加わった模様。」

「ティエリアまで……。」

 

 メカニックのイアンが、この戦闘自体への懸念を述べる。

 

「ガンダム同士で戦うだなんて……。下手すりゃ共倒れだぞ?」

 

 比して、ラッセとリヒテンダールは、刹那とティエリアの行動を支持する。

 

「いいじゃねぇか、おやっさん。」

「そうですよ、トリニティのやり方、ムカつきますよ!」

 

 そしてこっそり、ヨハンとのツーショットを削除するクリス。

 

「いい男なのに……。」

 

 この突然の事態に対して、トレミーのクルーの反応があっさりとしたものだ。

 首まで覆うぴっちりとした黒いシャツを着たアレルヤが、スメラギさんに、この行動が計画に与える支障がないかと不安を伝える。

 

「しかし、彼らの行動が計画の一部である可能性も……。」

「私たちがこうして動くのも、計画に入っているかもしれないわ。」

「スメラギさん……。」

 

 アレルヤの疑念に、しゃんと立ち上がり髪と胸元を揺らしながら、スメラギさんは刹那とティエリアの行動を暗に()()()()

 そして、静かにモニターを眺め続けるフェルトから続報が届く。

 

「ロックオン・ストラトスから緊急暗号通信。指示を求めています。」

「できることなら、戦いを止めてと伝えて。ただし、現場の状況によっては、自身の判断を尊重すると。」

「はい。」

 

 スメラギさんがロックオンに対し素早く指示を送ると、リヒテンダールとラッセが軽口をこぼす。

 

「実質、好きにしろってことじゃないですか。」

「戦術予報士の名が泣くぜ?」

「ほんと、そうよね。」

 

 スメラギさんはふたりの軽口を受けて、軽く自嘲するように溜息を吐いた。

 そしてアレルヤは、椅子から振り向いたクリスに声をかけられる。

 

「アレルヤは?出撃する?」

「いや、ここでプトレマイオスを守るよ。こうなった以上、ここも安全じゃない。出ていきたい気持ちは、燻ぶってるけどね。」

 

 

 

 指示を受けたロックオンの反応は早い。即座に無人島に隠されたMSコンテナが開き、約18mの巨体が滑らかに90度起き上がる。

 

「まったくとんでもねぇことすんな~。あの機関坊は。」

 

 呆れたような、それでいてどこか楽しげなロックオンの声色。そんな様子のロックオンにハロがツッコむ。

 

「ロックオン!ロックオン!トメナカッタ!トメナカッタ!」

「あぁら見てた?けど、そのおかげでミス・スメラギの腹も据わった。それにな、刹那の気持ちもわかるのさ。」

 

 ここで、ロックオンは何かを深く思うように、目を閉じて続ける。

 

「あいつはガンダムそのものになろうとしている。紛争根絶を体現するものにな。」

「ドースル!ドースル!」

「ぶっちゃけ、撃つ気満々だ!行くぞハロ!デュナメス、ロックオン・ストラトス、離陸する!」

 

 舞い上がる濃緑の機体。ガンダムデュナメスが緑の光を散らしながら、空へと舞い上がっていった。

 

 

 

 ビルの窓の外を眺めながら、緑髪の青年と赤いスーツの男が言葉を零している。

 

「ガンダム同士の戦い……。」

「思ったより早かったな。」

(第3段階への移行。もう後戻りはできんか。)

 

 男の名はアレハンドロ・コーナー。チーム・トリニティを実質的に()()する男である。

 その背後に控えるリボンズ・アルマークは、静かに口角を上げた。

 最初のガンダム同士の戦いは、世界に変革を齎そうとする者達へと共有された。

 計画は新たなステージへ進む。

 

 

 

 エクシアは一度スローネらから離れ、ヴァーチェと合流すると、お互いに近づき、連携を取り始める。

 

「フォーメーションS32。」

「了解。」

 

 ティエリアの呼びかけに応じ、エクシアがヴァーチェの背後に回る。

 それと同時に、ヴァーチェはGNフィールドを展開し、スローネたちが放つビームガンを一身に受け止める。

 

「GNフィールドか。」

「ヨハンにぃ!」

 

 ネーナが叫んだ時には、ヴァーチェとエクシアはスローネらの目前まで接近しており、ヴァーチェの背後から飛び出したエクシアがトリニティへと切り込んだ。

 

「テメェ!」

 

 かと思えば、エクシアは後ろへ少し退き、誘い出されたツヴァイの真下からGNバズーカが撃ちだされ、トリニティは散開を余儀なくされる。

 

「ふん。まさか君とともに、フォーメーションを使う日が来ようとは思ってもみなかった。」

「俺もだ。」

 

 

 

 トレミー管制室にて、ソレスタルビーイングのガンダムとトリニティのガンダムの戦闘の報告が、フェルトの口からクルーへ伝えられる。

 

「エクシア、ヴァーチェ、スローネとの交戦を継続中。」

「戦術フォーメーションを使っているみたいですよ。」

「えっ……?」

 

 続くクリスの報告に、刹那とティエリアの()()の合わなさを知っているスメラギさんは困惑の声を漏らす。

 

「S32、D07、F52まで!」

「ティエリアと刹那が……。」

 

 思わぬマイスター同士のかかわりの変化に、スメラギさんの頬は思わずふっと緩んだ。

 

 

 

 ツヴァイが振り下ろされたGNソードをGNバスターソードで受け止める。

 そして、フィアーはヴァーチェと対面し、なんとかGNバズーカの射撃を、広く空中を飛び回りながら身をよじり躱している。

 

「ネーナ、ドッキングだ。」

「オッケー♪」

 

 その間隙を縫うように、アインとドライが上昇、ドッキングを図る。

 

「くっ!ドッキングさせるわけには!」

 

 ティエリアが焦ったその時、アインとドライに向けて熱源反応が接近。

 アインとドライは距離をとる。ヨハンが邪魔者にアタリをつける。

 

「この攻撃!デュナメスか!」

「狙い撃つ!」

 

 続くデュナメスからの射撃が、今度はフィアーを縫い付ける。

 

「グっ!容赦ないな!ロックオン……!」

 

 そして余裕のできたヴァーチェは、アインとドライへ接近。

 

「まっすぐ来るか!その機動性では!」

「いっただきぃ!」

「ナドレ!!」

 

 ティエリアが声を上げると同時に、その虹彩が金色に光る。

 そして、ヴァーチェのコックピットのミニモニターに赤く映る「TRIAL」の文字。

 アインとドライへ接近するヴァーチェの外部装甲がパージされてゆく。

 顔面の装甲が外れ、よく手入れされた女の髪のような艶やかなチューブが空にのびてゆく。

 

「なんだ!?機体の制御が!?」

「システムダウン!?」

「クルシイゼ!クルシイゼ!」

 

 トライアルシステムの制御範囲に入ったアインとドライは、エラーを発するとモニターが暗転。

 GN粒子による飛行能力を失った二機は地上へ真っ逆さまに落ちる。

 

「きゃぁぁぁぁ!」

「ぐっ……何がっ!」

「ヨハンにぃ!ネーナ!」

 

 また、落ちるアインとドライへ向けて、フィアーがデュナメスを振り切り接近。

 

「ぐっ!」

 

 そして、トライアルシステムの制御範囲に入り、フィアーもまた落ちた。

 ティエリアのいるナドレのコックピットには赤く蠢くラインが走り、その機能の禍々しさを表している。

 

「ヴェーダとリンクする機体をすべて制御下に置く。これが、ガンダムナドレの真の能力。ティエリア・アーデにのみ与えられた……ガンダムマイスターへのトライアルシステム!」

「アニキィ!ネーナ!クロード!」

 

 突如落下したアインとドライ、フィアーに気をひかれるツヴァイ。

 

「グッ!?」

 

 そんな隙をエクシアが見逃すはずもなく、GNソードを叩き込まれる。なんとかGNバスターソードで受け止めるが、とても兄妹を助けに行く余裕はない。

 

「君達はガンダムマイスターに相応しくない。そうとも、万死に値するッ!!」

 

 上空にいるナドレがGNビームサーベルを展開、地上で動けずにいるアインとへ迫る!

 しかし、その歯がアインへ突き刺さる直前、アインは再起動。紙一重でナドレの攻撃を躱した。

 ナドレは勢いを殺せずに地面へぶつかるように着地。あたりに砂煙が舞う。

 

「トライアルシステムが強制解除された!?一体……何が!?ハッ!」

 

 再起動したアインとドライに困惑するティエリアの脳裏に、ヴェーダに潜った際の違和感がよぎる。

 

(レベル7の領域にあるデータが一部改竄されている。このデータ領域は一体……!!拒否された!?この僕が……アクセスできないなんて!?)

 

 思い至ったティエリアは、悔しさに歯を食いしばる。

 

「やはりヴェーダは!」

 

 ナドレの背後の上空にそのまま回ったアインとドライの間をデュナメスのビームが通り抜け、機先を制する。

 

「ミハエル、クロード、ネーナ、後退するぞ。」

「そりゃねぇぜアニキィ……。」

「どうして!?」

「ガンダム同士で潰しあえば、計画に支障が出る。」

「チッ!わかった……よ!!」

 

 鍔迫り合うGNバスターソードを払い、ツヴァイ、はアインのもとへ向かう。

 横並びになるフィアーを除いたスローネ3機。ヨハンは、未だ地上に伏せるフィアーに向けて通信を送る。

 

「クロード、どうした?」

「ケッ!落ちた衝撃で気絶でもしてんじゃねぇか?」

 

 そうしているうちに、ソレスタルビーイングのガンダム3機がスローネ3機に対した。

 

「逃げんのかい?兄弟を置いて。」

「クロードはマイスターとしての義務を果たせないほどに落ちぶれた。それに、君は私たちよりも先に戦うべき相手がいる。そうだろう?ロックオン・ストラトス。いや、()()()()()()()()()()。」

「!?」

「ニール、ディランディ……?」

 

 機能が停止している様子のフィアーを捨て置き撤退しようとするヨハン達に対し、ロックオンは皮肉を込めて煽りを入れる。

 しかし、ヨハンから続けられた言葉が、ロックオン、そしてソレスタルビーイングのマイスター達に戸惑いをもたらす。

 ロックオンは突然本名を明かされ、モニター越しにアインをにらみつける。

 

「貴様っ!俺のデータを!!」

「ヴェーダを通じて、閲覧させてもらった。」

「なっ!?レベル7の情報をっ!!」

「ロックオン……君がガンダムマイスターになってまで、復讐を遂げたい相手は、君のすぐ側にいるぞ。」

「なんだと!?」

 

 ヨハンはミハエルとネーナを引き連れ、ソレスタルビーイングと距離を取りながら話し続ける。

 

「クルジス共和国反政府ゲリラ組織KPSA。その構成員の中に、ソラン・イブラヒムが居た。」

「!!」

「あぁン!?誰だよそいつは!!」

 

 凄むロックオンに対し、ヨハンはしたり顔で、恐ろしい真実を伝える。

 

「ソラン・イブラヒム。コードネーム ()()()F()()()()()()。」

「!? 刹那だとぉ……!?」

「そうだ。彼は君の両親と妹を殺した組織の一員……。君の仇というべき存在だ。」

 

 そこまで伝えると、スローネアイン、ツヴァイ、ドライは反転。青い空の彼方へ飛んで行った。

 

「刹那……。」

「ロックオン。とりあえず今は、下で仁王立ちしているアイツをどうにかしなくてはならない。」

「は?ティエリアお前……って、起き上がってるじゃねぇか。いつの間に。」

 

 ソレスタルビーイングのガンダムのカメラの向く先には、直立不動で自分たちを見上げ、降伏の光信号を発するフィアーの姿があった。

 

 

 

 まるで、水底に沈んでいるようだ。静かで、息苦しい。そんな病室で、今日も左慈・クロスロードは、家族と、自身の腕をガンダムの攻撃によって失ったルイス・ハレヴィの病室の花に水をやる。

 

「左慈……。日本に帰って。」

「えっ……。」

「学校、休んじゃダメだよ。一緒に居てくれるのは嬉しいけど、いつまでも居たらいけないよ。」

 

 窓の外を眺める、少しうわずったルイスの声が、優しく左慈を咎める。

 

「そんなこと、できないよ。ルイスを一人にして帰るなんて……。」

「左慈の夢は、宇宙で働くことでしょ?」

 

 ルイスは、左慈へと向き直り、その美しいヒスイの瞳を向ける。

 

「私のせいで、左慈の夢が叶わないのは、イヤ。」

「でもっ「今一緒に居ても、後で辛くなるよ。私は、ずっと引け目を感じて、左慈は後悔し続ける。」

「そんなことっ!」

 

 大きな病室の窓から注ぎ込む光は、ベッドの上にルイスの影を作り出している。

 

「ねぇ、左慈に私の夢を託してもいい?」

「えっ……?」

「夢を叶えて。それが、私の夢なの。だから、私の夢を叶えて。左慈。」

「ルイス……。」

「約束よ?」

 

 優しく左慈に微笑む微笑むルイス。

 その微笑みは、ひたすらに左慈の幸せを願うものだ。

 だからこそ、左慈は一人、病室を出て行った。

 

 陽光の降り注ぐ空の下、ルイスの病室を外から眺める左慈の目に、立ちあがり、右手で手を振るルイスの姿が映る。

 左慈の脳裏に浮かぶ楽しいルイスとの日々。

 これまでの幸せが、左慈の背を押す。

 その背を見届け、ルイスは、窓に涙の筋を刻んだ。

 

 

 

「本当なのか?刹那。お前はKPSAに所属していたのか?」

 ソレスタルビーイングのガンダムを収めるコンテナのある無人島。コンテナ脇の小川のほとりで、ロックオンと刹那が対面し、ティエリアとクロードは木に寄り掛かり二人の対話を眺めている。

 クロードは抵抗の意思をついぞ見せなかったことで、現在は拘束から解放されている。

 

「あぁ。」

「クルジス出身か?」

「あぁ。」

(ゲリラの……少年兵。)

「ロックオン。トリニティが言っていたことは?」

「事実だよ。俺の両親と妹は、KPSAの自爆テロに巻き込まれて死亡した。」

 

 ちらりと、クロードは腕を組みながらロックオンと刹那へ視線を向ける。

 

「全ての始まりは、太陽光発電計画に伴う世界規模での石油輸出規制が始まってからだ。化石燃料に頼って生きるのはもうやめにしようってな。だが、一番割を食うのは中東諸国だ。輸出規制で国の経済が傾き、国民は貧困にあえぐ。貧しき者は神に縋り、神の代弁者の声に耳を傾ける。富や権力を求める浅ましい人間の声をな。そんでもって、20年以上に及ぶ太陽光発電紛争の出来上がりってワケだ。神の土地に住む者たちの聖戦自分勝手な理屈だ……。勿論一方的に輸出規制を決議した国連もそうだ!だが、神や宗教が悪いわけじゃない。他要綱発電システムだってそうだ。けどな……どうしてもその中で世界は歪む!」

 

 世界は歪む、そのワードが耳に入ったクロードが小さく息を漏らす。

 

「それくらいわかってる……。お前が、KPSAに利用されていたことも、望まない戦いを続けていたこともな。だがその歪みに巻き込まれ、俺は家族を失った!失ったんだよ……。」

 

 過去を振り返り、ロックオンの表情に悲しみと憎悪の感情が浮かび上がる。

 

「だから、マイスターになることを受け入れたのか。」

 

 ティエリアは納得とともにひとりごちる。

 

「あぁ!そうだ。矛盾していることも分かっている。俺のしていることはテロと同じだ。暴力の連鎖を断ち切らず、戦う方を選んだ。だがそれは、あんな悲劇を二度と起こさない為にも、この世界を根本的に変える必要があるからだ。世界の抑止力となりえる圧倒的な力があれば!」

「……ガンダム。」

「人を殺め続けた罰は、世界を変えてから受け入れる。だが、その前にやることがある。」

 

 クロードは、ロックオンの独白静かに聞く中で、この男の自罰的な在り方を変えたいという思いがふつふつと湧いてきていた。

 それは、もともと好きなキャラだからとかいう先入観からだけではない。一人の男の苦しみに深く共感し、力になりたいと心の底から思ったからだ。

 

 ロックオンはおもむろにハンドガンを取り出し、刹那へ向ける。

 

「ロックオン!」

 

 それを見たティエリアが、ロックオンを諫める。

 

「刹那。俺は今無性にお前を狙い打ちたい。家族の仇を討たせろ……!恨みを晴らさせろ……!」

 

 パァン……!

 

 ロックオンの持つハンドガンから放たれた弾丸は、刹那の顔面すれすれをとおり、彼の髪の毛を少し散らした。

 微動だにせずロックオンの射撃を受け入れた刹那は、自分の意志を話し出す。

 

「俺は神を信じていた。信じ込まされていた。」

「だから俺は悪くないってか?」

「この世界に……神はいない……。」

「答えになってねぇぞッ!!」

「神を信じ、神がいないことを知った。あの男がそうした。」

「あの男……?」

「KPSAのリーダー……アリー=アル=サーシェス。」

「アリー、、、アル、、、」

「サーシェス?」

 

 ティエリアとロックオンが初めて聞く名に戸惑う。そして、クロードはきつく眉を顰めた。

 

「奴はモラリアで、PMCに所属していた。」

「民間軍事会社に?」

「ゲリラの次は傭兵か!ただの戦争中毒じゃねぇか!」

「モラリアの戦場で、俺は……奴と出会った……。」

「そうか!あの時コックピットから降りたのは!」

「奴の存在を確かめたかった。奴の神が何処にいるのか知りたかった!もし、奴の中に神がいないとしたら……俺は……。今まで……。」

「刹那……「刹那!これだけは聞かせろ。お前はエクシアで何をする?」

「戦争の根絶!」

「俺が撃てば出来なくなる。」

「構わない。代わりにお前がやってくれれば。この歪んだ世界を変えてくれ。だが生きているなら俺は戦う。ソラン・イブラヒムとしてではなく、ソレスタルビーイングのガンダムマイスター、刹那・F・セイエイとして。」

「ガンダムに乗ってか……?」

「そうだ。俺が……ガンダムだ。」

 

「……ハッ!」

 

 ロックオンが銃口を刹那から外し、笑い声をあげた。

 

「まったくお前はとんでもねぇガンダムバカだ!」

「ありがとう」

「おっ?」

「最高の誉め言葉だ。」

 

 ロックオンは、自分をまっすぐ見据えて、表情を柔らかくしながらそう返した刹那に驚き、手を頭において笑い始めた。

 

「は、はっはっは!あーははははは!!」

 

 その様子を見て、ティエリアも頬を緩めた。

 

「これが……人間か。」

 

 そして、ロックオンはひとしきり笑うと、クロードのほうへ向いた。その目は、今先ほどまでの笑みなど無かったかのように鋭い。

 

「それで、アンタは?どうするんだ?お世辞にも、アンタらトリニティは平和のため力を振るっているとは思えなかったぞ?」

「あぁ。トリニティは歪んでいる。」

「民間人を攻撃するなんて、紛うことなきテロだ。アンタらはガンダムをテロのために使うのか?それに、アンタの家族はアンタを見捨てた。」

「そうだ。そうなんだ。」

 

 クロードがそう返した途端、ロックオンはクロードに銃口を向ける。しかし、クロードは怯まずに言葉を続ける。

 

「だから、俺が断ち切るんだ。俺のガンダムで。世界の歪みを。」

「歪んでるアンタがか?」

「だからこそだ。俺もまた、ガンダムマイスターなんだ。」

「……。」

 

 まっすぐにロックオンを見つめ返すクロードに、ロックオンは降参したように両手を軽く挙げる。

 

「お前も刹那と同じクチか。はぁ、悔しいが、結局のところやっていることは俺達は変わらないしな。」

「ロックオン!彼を信じるのは軽率じゃないか?」

「いいんだよ。ティエリア。コイツ、刹那と全くおんなじ目してやがる。生粋のガンダムバカだ。それに、内緒にしていたが、初めての接触の時、コイツは密かに自分の機体のデータを俺たちに譲ってる。」

「何っ!?」

「コイツは元々トリニティを裏切るつもりだったのさ。」

「そうだ。俺の行いは、ヴェーダのもとに動くガンダムマイスターとしては不適格なものだ。だが、戦争根絶のために、何が世界を歪ませているかを見極めなくてはならない。そして、俺はその歪みに恭順してきた。俺は、まさにこれから、戦争根絶のために戦う、真のガンダムマイスターとなるんだ。」

「真の……ガンダムマイスター……。」

「俺は俺の意志で戦う。ガンダムマイスターとして。」

「……自分の意志か……。」

 

 クロードの言葉を受け、ティエリアは自分の意志について考え始める。そして、ヴェーダに従って戦ってきた自分歪みと断じ、自分の意志で戦っていくという自分をガンダムマイスターとして定義するクロードの言葉は、ティエリアがヴェーダへの疑いを加速させる、その小さなひと押しとなった。

 そしてクロードは刹那の隣へゆっくりと歩いて近付く。

 

「クロード、お前はどうしてそこまで、世界の歪みに対して抗う。」

「兄妹のためさ。このままじゃああいつ等、ロクな死に方しないだろ?せめて、家族には往生してもらいたいのさ。だが、俺達トリニティの命は歪まされている。何者かによって。だから、その歪みを断ち切ることで、兄妹達に健やかな命をもたらしてやるんだ。それに……。」

「それに?」

「案外、もっと単純なもんかもな。家族や友達、仲間、恋人、色んな人と、たくさん話し合って、分かり合いたいんだ。変だろうと、弱かろうと、愛することや通じることで。俺はお前達ソレスタルビーイングと分かり合い、兄妹達と分かり合いたい。分かり合うための場を作る……それが、戦争の根絶をはじめとした、世界の変革であり、俺の、ガンダムだ。」

「それがお前の……ガンダムか。」

 

 クロードのガンダム観を聞いた刹那は、小さく笑った。それに釣られるように、クロードもまた小さく照れ笑いを漏らした。

 

 

 

 アフリカ大陸 北西部

 密林の中に、トリニティの隠された地上基地がある。

 

「まさか、ガンダムの襲撃を受けるとはな。」

「アイツらトチ狂いやがって。」

「チュウまでしてあげたのに!」

 

 ミハエルは呆れたように手をひらひらと振り、ネーナは腕を組んでそっぽを向いて怒りを全身で表現している。

 

「それに、クロードが彼らに投降したようだ。とにかく、ラグナに指示を仰ごう。状況次第では再びガンダムと戦うことになる。」

「りょーかいっ♪クロにぃも返してもらわなきゃ♪」

「望むところよ!」

 

 

 

 南極大陸

 各勢力圏から招かれた軍人たちは、地下に広がる多数のGNドライブを視界に収め、感嘆の声を漏らす。

 

 ガンダムの力が、世界に広がる。世界の力が、統一を始める。




 大いなる計画の改変が、世界のバランスを劇的に変えた。
 その中で、人は涙し、戦い、死するしかないのか。

――――――次回、変革の刃

      この苦悩、誰に届く―――
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