――久し振りだな、こうやって会うのは。
一ヶ月ぶりくらいか? ここに来て、こんな風に…お前と話すのは。
ん?
……あぁ、これか?
これはな…この間、というかここ二週間くらい仕事で出張でな。そこのお土産だ。
前にお前から北海道の土産もらったからな、そのお返しってところだ。
まぁ今の時代に北海道土産で本当に木彫りのクマを送ってくるやつがいるとは思わなかったが。
そう怒るなよ、別に貶したりしてるわけじゃない、なんなら今も玄関においてあるんだぞ?
アイツからは片付けてもいいんじゃないかって毎度言われるが…、お前からもらった今のところたった一つのお土産なんだ。会う機会が減ったからって、そう簡単に仕舞ってしまうのは…なんというか……そう、気が引けてな。
お土産は何かって?
まぁまぁ、そうせっつくなよ、長生きできないぞ?
なんとな、今回のお土産はだな―――広島名物、もみじ饅頭だ!
あ、今露骨にテンション下がっただろ。
そうだよな、お前、あんこ食べれなかったもんな。
ちゃんと覚えているとも、ついでに中学校の頃お前がおしゃれな喫茶店に行ってよくわからないまま雰囲気で頼んだらあんこたっぷりのトーストが出てきてあたふたしてたのもな。
なんでってお前、覚えてないのか?
その喫茶店私とアイツも一緒に行ったじゃないか。
アイツは普通に好きでお前と同じやつを頼んでたから結局私のトーストと交換することになっただろうが。
まぁ何だ、つまり私はお前があんこが尋常じゃないくらい苦手だってことを十分知っているってことだ。
そんな私が、わざわざあんこ入りのもみじ饅頭をお前に渡すと思うか?
そんな捻くれ者は私の周りにはアイツだけで十分だ。
そんなわけで私が買ってきたのはカスタードクリーム入りのもみじ饅頭だ。
正直私はお前も知っての通りこういうのにはあんこが鉄板にして至上だと思っているんだが…流石に人に渡すお土産に自分の好みを混ぜるのはな。
私も現地で食べたから味は別に心配しなくていいぞ。
しっとりとした食感にカスタードクリームの甘味と塩味が絶妙にマッチしててな。
個人的にあんこには及ばないがとても美味しかったぞ。
じゃぁとりあえずここに置いとくから、食べて―――
―――なんだ、アイツも来てるんじゃないか。
この前私と会ったときはもう行ってない、なんて言っていたくせに。
どれどれ、まさかものが被ったりしていないだろうな。
…よしよし、別のやつだな、ついでにあんこ入りでもなさそうだ。
というかこれにあんこが入っていたらもう普通に恐怖だな。
アイツも成長したということか? いや、それはないな。
まぁいいか、とにかくここに置いとくからさっさと食べてくれよ? こいうのってどれもこれもすぐ悪くなっちゃうんだから。
こんな暑いところに置いといたらすぐだめになってしまう。
そう言えば、お前の方は大丈夫なのか?
今は少し収まってきたがこんな暑い中ジーッとして、もう一度熱中症になるのだけは勘弁してくれよ?
なんなら私が直接水でも掛けてやろうか?
そうすれば少しは涼しくなるだろ。
ちょっと待ってろ、今取ってきてやる。
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――えっと、何話してたんだっけ?
あぁ、そうそう。お前は最近どうなんだってことだ。
こっちか? こっちは正直色々辛いよ、ただでさえ夏は暑いから嫌いだっていうのに、最近ますます暑くなってきやがる。東京の方だと40度超えるところもあったらしいしな。
このまま行くといよいよハワイみたいな南国の国みたいになっちまうんじゃないか?
ハワイが年々少しずつ、数cmくらいだったか? 日本に近づいてきてるっていうのは有名な話だが、このままだとハワイが日本に来る前に日本がハワイになりそうな勢いだ。
良かったな、お前が好きなフルーツが庭で育てられるようになるかもしれんぞ。
ま、そんな風になる前に私はとっくに死んでいるだろうがな。
学生の頃はアイツやお前なんかを誘って市民プールやら何やらにいったが、この歳になると外に出るのも億劫になってきてな。
十年経つだけで色々変わるもんだな、私も、もちろんお前も。
いや、私よりはお前のほうが変化あっただろ。
見た目の変化って意味だとお前以上に変わっちまったやつを私は知らないんだが。
十年って言えばこの前、高校の頃の同窓会に言ってきたんだ、アイツと一緒にな。
良い意味でみんな誰が誰だか全く分からなかった。
というよりは高校のときはもっぱらここの三人でつるんでたからな、正直高校の頃誰がどんなやつだったかもよく覚えてない。
そう言えば、政経の副島先生、覚えてるか?
あのやったら課題出してきた先生。
あの人が結婚したらしい。
5年前くらいに結婚してお子さんもいるそうだ、あのときの授業の様子からは想像できないくらいウッキウキで写真見せてくれたよ。
アイツいわくクラスメイトだった……らしい人たちも何人か家庭を持ってるやつがいてな、なんというか、ただただ凄いと思ったよ。
私は仕事でいっぱいいっぱいなのにな、別に羨ましいとは思わんが。
今更になって慌ててそういう相手を探すよりは、少ない友人とでもこうやって馬鹿話ができる方が私は楽しいし、幸せだ。
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―――よっ、元気してるか?
うんうん、その調子だとお前も元気そうだな。
姉貴は今なんか出張で広島あたりまで行ってるらしいぞ、全くご苦労なこった。
あ? 俺?
俺はまぁ……いいんだよ、これでもちゃんと働いてるしな。今日は祝日なんだ、お前もカレンダーくらい見たらどうだ?
家出る前に旅行ガイドみたいなやつとにらめっこしてたからお土産は期待してていいと思うぜ。
俺の予想だと…そうだな、いろいろ見てめっちゃ悩んだ挙げ句、ド定番のもみじ饅頭あたりを買ってくると見た。
当たってたらそのもみじ饅頭一個もらっていいか?
あぁそうだそうだ、俺も一応持ってきたんだった。
行き道で適当に買ってきただけなんだが、俺はこういうのよくわかんないからよ。
昔のよしみってことで許してくれや。
にしても、いつ見ても殺風景だなーここはよー。
もう少しお洒落なものを置こうかとは思わんのかね。
そんなんだから誰も来ないんだぞ。
実際今も俺以外いないしな。
姉貴も熱心だよな、なんだかんだ言ってお前のところにずっと通ってやがる。
もしかしたら、お前に気があったんじゃないのか?
ま、俺にはなんにも、一切関係ないことだからよく分からねーし、今更姉貴に聞くつもりもねーけどよ。
もしそうだとしても、もうとっくにどうしようもないくらいに間違っちまってるんだからそれを撚り直すなんてことは無理な話なんだろうな。
俺も姉貴も、何より――お前も。
いつだったか、お前に話したことがあったよな。
青いたぬきのもしもボックスって、使った人以外は変化を知覚できないんだからそのままにしておけば自分の都合の良い世界でずっと生きていられるんじゃないかって話。
結局のところあの作品の世界では大概ろくでもないことが起こって元の世界に戻ってくるわけなんだが、それは極論すると、あいつらの『選択』だ。
これって凄いことだと思わないか?
元々あれを使ったのお世辞にも綺麗とは言えない願望が理由だったとはいえ、まだ小学五年生の子どもだ。
理由なんてどうだっていい、夏休みの宿題が間に合わないから一週間だけ夏休みを伸ばしてほしいだの、怒られたから家出したいだの、はたまたもっと荒唐無稽に魔法が使いたいなんてものでもいい。
重要なのは願望じゃない、最初他ならぬ自分自身が願ったその理想の世界を捨てるような『選択』を、たかだか小学五年生が出来たってことだ。
正直俺にはそんなことできる気がしないが、姉貴はそれができる人間だって信じてる。
だから姉貴がなにか言わない限り俺から姉貴の軌道を無理やり変えるような真似はしない。
姉貴がまだここに通ってるってことは、それが少なくとも今の姉貴にとっては幸せなことなんだろうから。
あ、でも玄関のあのクマだけは何とかならないか?
いや、置いてあるのはいいと思うんだが…いかんせんでかすぎてな。
アレだけは移動させたほうがいいんじゃないかって言ってるんだが、どうにも姉貴が勘違いしてるっぽいんだよな。
じゃ、話したいことも話したし、もう帰るわ。
また休みができたら来るからよ、そのときにお土産なんだったか教えてくれや。
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―――おっと、長話をしていたらもう日も暮れてきてしまったな。
9月に入って日が暮れるのも早くなったな。
明日からはまた仕事だから……そうだな、来週の土曜日辺りにまた来るよ。
次は……うん、アイツと同じように、久し振りだが花でも持ってくることにしよう。
何がいいだろうか、定番は菊やカーネーションなのだろうが、お前は何がいいと思う?
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