TOA ~突き進め、我が道を!~   作:あきあ

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一章 第一話 進むは我が道

「……あんた、何してるわけ?」

 

聞き覚えのある声に、上を見上げる。鳥の嘴の様な仮面を付けた緑の髪の少年が、木の上から俺を見下ろしていた。

 

「よう、奇遇だなシンク……だったっけ?」

 

ダアトを目の前に、目下一番目障りな六神将。あまりいい状況ではない。

 

「質問に答えなよ」

 

「おう、ちょっとヴァン師匠に用があってな。当てがなくて、とりあえずはダアトから探すことにしたんだよ」

 

嘘をついても仕方がない。正直に言ったら師匠の所に案内してくれるかもしれないし。……まあ、流石にそれは無いだろうけど。

 

「ヴァンならダアトにはいないよ。それで、何で一人なの?」

 

「ん? ああ、お前も知ってんだろ、俺がアクゼリュス落としちまったの」

 

声が少し震えた。俺の放った超振動が、全てを飲み込む感覚。あれから一日もたっていないのだ、鮮明に思い出すことができた。

 

脳裏に焼き付いたあの時の記憶に嘔吐しそうになる。それを必死に抑えながらシンクに向かって続ける。

 

「だから俺って犯罪者じゃん? 逃げて来たんだよ、皆から」

 

正確には皆に見限られたからだ。俺の頭の痛くなるような言い訳に、いい加減頭に来たのだろう。

 

「……へえ、良く逃げられたね」

 

若干、興味を持ったような声でシンクは相槌を打った。

 

「意外と簡単だったぜ、イオンが協力してくれたし。それよりお前、ヴァン師匠がいる所知ってるか?」

 

「ヴァン師匠、ね。あんたさ、もしかしてまだ何にも知らないわけ?」

 

木の上から飛び下り、俺の目の前まで来たシンク。少し警戒しながらも、俺は平静を装い答える。

 

「俺がレプリカだとか、ヴァン師匠に利用されるために生まれて来たとか、本物の“ルーク”はアッシュだー、とかなら知ってるぜ。つーか、アッシュが大声で喚きちらしてた」

 

正直、聞いた時はショックだった。自殺しかけた程だ。だが、今は多少落ち着いている。

 

「…………」

 

「ん、どうしたんだよ? 腹でもいてえのか?」

 

押し黙るシンクに、俺はへらへらと笑う。笑ってでもいないと、気分が沈んで鬱になりそうなのだ。

 

「何でそんなに……」

 

苦虫を噛み締めるような声。血が滲むほど拳を握りしめるシンクに、俺は然程疑問を抱かなかった。イオンからシンクの生い立ちについての予測を聞かされていたのだ。

 

「ったく、信じられるか? 俺はまだ七歳なんだってよ」

 

いい機会だとばかりに、カマをかける。

 

「あんたの頭が七歳児だってのは十分に信じれる」

 

喧嘩売ってんのか、こいつは。

 

「イオンが二歳だってことは? つーか、お前も二歳だろ? 俺はそれが信じられねえや」

 

「――っ! お前、知ってたのか!?」

 

「あ、やっぱそうなの。いやー、確信は無かったけど、イオンがもしかしたらーって言うからな」

 

万一にも俺にしてやられるとは思っていなかったのだろう。仮面の上からでも、ありありと驚きが伝わってくる。

 

暫くして、忌々しそうに舌打ちをし、シンクは口を開いた。

 

「そうだよ。僕もオリジナルイオンのレプリカさ。まあ、レプリカイオンやあんたと違って、生まれてすぐに捨てられた出来損いだけどね」

 

自嘲の後、シンクは俺に刺す様な視線を向けた。

 

「僕にはわかんないよ、何であんたがそんなヘラヘラ笑っていられるのか」

 

「別にわかってくれなくていいぜ。それよりお前に一つ聞きたいんだけど、何でお前はヴァン師匠に協力してるわけ? 作ってくれてありがとう、お礼に僕は貴方の為に働きます、なんてことはないだろ?」

 

シンクの言葉からは、度々ヴァン師匠への憎しみを感じる。感謝はしていないだろう。

 

「ヴァンの計画が、僕にとっても価値のあるものだから」

 

「言い回しがうぜえ。お前が何したいか教えろ」

 

言葉とは裏腹に、内心ではガッツポーズをする。これでヴァン師匠の目的を何となく推測できる。ひねくれっ子代表のシンクが『世界が平和になりますように』なんて願うことはないだろうから。

 

「この世界をスコアから解放すること」

 

「嘘つくな。ユリアシティの市長から聞いたぜ、アクゼリュスの崩落はスコアに詠まれてたってな」

 

俺の言葉にシンクは仮面を外して笑う。綺麗な笑顔だったが、邪悪な笑顔でもあった。

 

「知らないよ、そんなこと。僕にとったら人間が死のうが滅ぼうが、スコアが無くなるんならどうだっていいんだ。僕はスコアが無ければ作られなくてすんだんだから。ヴァンだって、僕と一緒の考えなだけさ」

 

壊れたように笑うシンクに、怒りよりも共感を覚えた。シンクの感情を俺も理解できるのだ。親の愛情からではなく、人間の都合で作られた存在、それが俺たちだ。数時間前に、俺だって勝手な都合で俺を作った奴らを恨んだばかりだ。だが、その感情も一時のものだった。

 

「はは、確かに納得だな。俺たちはスコアがなけりゃ、生まれなかっただろうよ。オリジナルの身代わりの為って、ふざけた理由でレプリカを作った奴ら、冗談抜きでムカつくよな」

 

キョトンとした後、シンクは感心した様な表情を浮かべた。

 

「……へえ、良くわかって――」

 

「――だけどよ、それが人間殺していい理由にはなんねえ。それにお前、人類滅亡なんてシャレにならんぞ。そんなことしたら、スコアがなくなったって、生きてくのが楽しくなくなるじゃん」

 

 

再びキョトンとした後、シンクは絶叫する。

 

「ば、ばっかじゃないの! あんたやっぱり何にもわかってないじゃないか! 楽しく生きるだって!? 僕たちはレプリカなんだよ、オリジナルの身代わりなんだよ! 僕たちは、僕たちは――!!」

 

痛々しいほどの悲鳴。始めて見せる仮面の下の素顔は、苦痛と悲愴しか映し出していなかった。

 

アッシュの代わりに死ぬ為に作られ、死ぬ為だけに七年間も軟禁されて来た俺だ。考えてみるとマトモな人生ではない。だが、それでも――それでも、生きることは楽しいと思う。

 

「それだ、それ、その考え方。そもそも根本的なところで間違えてるんだ、お前は。アッシュ……いや、ルークか……わかり難いな、やっぱアッシュでいいや。まあとにかく、アッシュもさ『お前は俺なんだよ!』って吠えてたけど、オリジナルとレプリカが一緒って考え方、おかしいだろ。さっきイオンにも言ったんだけど――」

 

困惑するシンクに、俺は自信と誇りを持って宣言する。

 

「俺は俺で、俺以外の誰でもねえ。だから俺は俺として――俺らしく生きる。アッシュはアッシュ、シンクはシンク、レプリカイオンはレプリカイオン、オリジナルイオンはオリジナルイオン。皆それぞれカタチが一緒でも、中身は別」

 

「な、何を言って――」

 

「お前らさ、頭良いからかは知らねえけど深く考えすぎ。ようはアレだ、俺とアッシュは双子みたいなもんだ。で、お前らは三つ子。な、そう考えると簡単だろ?」

 

そう、これが俺の出した答え。オリジナルもレプリカも関係ない。俺は俺の道を行く。

 

「…………」

 

ついに愕然としたまま固まってしまったシンクに、俺は勝利の笑みを浮かべた。

 

「…………あのさ」

 

数分間、一人で百面相をしたシンク。片手で頭をぐしゃぐしゃと掻き、俺を呼ぶ。そして何度か深呼吸し、

 

「思いっきり、精一杯、全力で、一発ぶん殴っていい? ていうか、殴らせろ」

 

一気に言い切った。

 

俺が反応する間もなく、シンクは完全に開き直った大声で続ける。

 

「あんたの馬鹿みたいな話聞いてたら何だか今までのこと全部どうだって良くなっちゃったじゃないか! 何その発想!? 双子? 三つ子? ばっかみたい! 俺は俺だから自分らしく生きるだって!? ああもう! 馬鹿なのは悩んでた僕の方みたいじゃん!!」

 

何その発想!? で本気で殴り飛ばされた俺。……くそ。野郎、ミゾに入れやがった。

 

「……くそ、やっぱりお前ら全然似てねえ。イオンなんて俺の台詞に泣いたんだぜ。お前らは三つ子なんて立派なもんじゃねえ、顔がそっくりなだけの赤の他人だ」

 

肩で息をするシンクを、俺は確実な殺気を込めて睨みつける。

 

呼吸が落ち着いたシンクは殺気を軽く流し、その場にどかりと座り込んだ。

 

「……馬鹿だ馬鹿だとは思っていたけど、まさかここまで馬鹿だったとはね」

 

「喧嘩売ってんのか、台所」

 

立つのは面倒なので、というか痛くて動けないので、木にもたれかかったまま話を続ける。

 

「あんたの話は不愉快で理解し難いけど……まあ、そんな考えもあるんだね。だからと言って、僕は自分の考えを変えようとは思わないけど」

 

肩をすくめて見せるシンク。やはり意地っ張りだ。

 

「……なあ、ヴァン師匠はスコアを世界からなくしたいんだよな?」

 

「そうだよ」

 

「じゃあ、さっきお前が言った『人間が滅ぶ』ってのは、どういう意味だ?」

 

重大な確認だ。スコアをなくそうとするのは、俺だって多いに賛成だ。しかし、問題はその方法だ。

 

「……僕が、わざわざそれを教えると思う? そもそも、あんたは何の為にヴァンを探してるのさ、僕たちの邪魔をするつもりじゃないの?」

 

「俺の目的はスコアをぶっ壊すことだ。目的だけで言えばお前達と一緒。だけどさっきも言った通り、人を無意味に殺すやり方には賛成できない。ヴァン師匠を探してたのは、アクゼリュスを落とした理由を聞き出す為と――俺と一緒に罪を償わせる為だ」

 

皆から罪を宣告され、俺は罪を償うことを決心した。

 

だが最期に一つ、やりたいことがある。俺だって、罪を犯したくて犯したんじゃない。そのくらいの我が侭、無理矢理にでも世界に認めさせてやる。

 

――この俺に町一つ滅ぼさせやがった師匠とスコアに、俺なりのケジメをつける。

 

それが俺の我が侭。

 

「罪を償うって……あんた、もしかして死ぬつもり?」

 

「ああ。ヴァン師匠にも、きちんと出る所に出てもらう…………つもりだったんだよ! だったんだけど、アクゼリュスの崩落ってスコアに詠まれてたんだぜ! 法的に罪にならないんじゃねえのか、今回の事件!! 俺はもうどうやって死ぬか考えてるからいいけど、ヴァン師匠をどうしたらいいんだよ!! 無罪、あれだけやっといて無罪!?」

 

「ああー、もう! うるさい!! 少しは落ち着きなよ。だいたいあんたは楽しく生きるんじゃなかったの? 死んでどうすんのさ……」

 

呆れた様子で溜め息をつくシンク。それを適当に見ていた俺は重大なことに気付いた。

 

「おお、大変だシンク。俺いいこと思いついた」

 

「話をそらすなよ」

 

「お前って、スコアさえなくなればいいんだろ?」

 

「人の話を……。……ふん、まあそうだけど」

 

「人を憎んでるってわけじゃないんだろ?」

 

「僕を作った奴らは憎いけど、他の人間はどうだっていいさ。例え何人死のうが、人類が滅ぼうが」

 

「そうかそうか。ならお前、俺に協力しろよ。目的は一緒なんだし、いいだろ?」

 

口を開けたまま、停止するシンク。さっきから思っていたが、なかなかのリアクションをする。

 

「…………仮にあんたと組んで、僕になんの得があるんだよ?」

 

「お前の話を聞く限りじゃあ、ヴァン師匠はスコアのついでに人間まで殺すつもりなんだろ? ……何の為かは知らねえけどな。だけど俺は、無駄な犠牲を払わないで、スコアだけをぶっ壊すつもりだ。俺に味方したら、お前はスコアのなくなった世界で、好きなように生きれる。な? 俺に協力したら得するだろ?」

 

にやりと笑い、シンクの出方を見る。

 

「……理想論だ。ヴァンはその方法が無理だから、人間ごとスコアを壊すつもりなんだよ」

 

「知るかそんなこと、誰が無理だって決めたんだよ。お前は俺の方法が無理だと思えば、俺を裏切ればいい。やりもしねえで諦めてんじゃねえよ」

シンクは眉間にしわを寄せる。悩んでいるのか、呆れているのか。

 

「……僕は楽しく生きようなんて考えてない。それに生きることなんて、楽しくない」

 

「シンク……お前、馬鹿だろ。まだ生まれて二年しかたってないんだぜ、爺さんかよお前は。今までが楽しくなくても、今から楽しくなるかもしれねえじゃん」

 

一区切りし、眉間にしわを寄せたままのシンクに笑顔を向ける。

 

「――それによ、俺たちはスコアに詠まれてないんだ。スコアをぶっ壊すまでもなく、俺たちの未来は決まってない。最高じゃねえか、俺たちは自由なんだぜ。俺なんて、それだけで楽しいって」

 

そうだ、自由は楽しい。理不尽な拘束からの解放は、本当に嬉しかった。体験談だから、間違いない。

 

シンクは一度大きく溜め息をついた。そして愉快そうに鼻で笑う。

 

「わかったよ。あんたに協力してやるさ。だけど、あんたの温い方法が無理だと思ったら、光速で裏切るから」

 

光速とは随分とまた……。一言文句を言ってやろうとしたが、憑き物が落ちたようなシンクの表情を見たらそんな気は失せた。

 

「おう、存分に裏切れ。――ただし、この俺様の命がけの行動だ。無理なはずがねえ」

 

誇張は大事だと思う。

「よろしくな、シンク」

 

優雅に差し出された俺様の手を、まるでゴミのように払いのけるシンク。

 

「アッシュの気よりも短い間になるだろうけど、とりあえずよろしく、ルーク」

 

「…………てめぇは俺に喧嘩を売ってるんだな」

 

確信した。こいつは敵だ。剣の柄に手をかけた俺に、シンクは言葉で先手を打つ。

 

「それで、具体的にはどうするのさ?」

 

「ああん? 今から考えるに決まってんだろ」

 

こちとら真実を知ってから、まだ一日もたってないのだ。そんな短時間で名案が浮かぶほど俺の頭は良くない。むしろ、俺の頭は悪い。考えるのはどっちかと言うとシンクの役目だ。

 

「ほんとに短い間だったね。さよなら」

 

すたすたと背中を向けて歩き出すシンク。俺は慌てず騒がず襟首をつかむ。

 

「さてと、それじゃあ始めに、ヴァン師匠が何するつもりか話せよ」

 

「なんで敵のあんたに話さなきゃならいのさ」

 

「振りだしに戻ってんじゃねえよ。このまま超振動で吹き飛ばすぞ」

 

制御なんてまったく出来ないが、全力で放つことだけはできる。

 

「わかったから放しなよ」

 

わざわざ俺に聞こえる様に舌打をする。何でシンクはこんなにひねくれてんだろうね。俺以上だぜ、絶対に。

 

襟元を整えながら面倒くさそうにシンクは語り出す。

 

「ヴァンの計画は、この外郭大地ごと全てを破壊し、レプリカで新たに代用すること。それがこの世界をスコアから解放する唯一の方法……らしいよ、ヴァンによればね」

 

「…………それで人間の滅亡か……突拍子もない、飛躍しすぎた話だな」

 

というか、そんなことしたら意味ないじゃん。レプリカで代用って、ヴァン師匠は神にでもなるつもりかよ……。溜め息が出る。

 

「決定だな。とりあえず、スコアの前にヴァン師匠の方からなんとかしねえと」

 

「……まあ、人間を助けたいって言うんなら、そっちが先だね」

 

今後の方針が決まった。このまま詳しいことを相談したい所だが、俺の体力はそろそろ限界に近づいていた。超振動を放ち、更にアラミス湧水洞を一人で突破したのだ。それはもう……とんでもなく眠たい。

 

「なあシンク、ちょっと疲れたわ。眠いから――――っ! っつう……やべっ、頭がっ!!」

 

 

激しい頭痛。脳に直接響く不協和音。

 

「くそっ、アッシュか!?」

――お……レプ……屑が……どこ……!!――

 

完全に聞き取ることは出来なかったが、あいつが言いたいことなどたかが知れている。ガイから聞かされた情報によれば、本物の“ルーク”の頭は良かったらしい。しかし、俺の知っているアッシュのボキャブラリーは果てしなく少ない。

 

屑。劣化野郎。レプリカ。

 

どうせその程度だろう。勘弁してくれ。

 

「ああああぁぁぁぁあああ!! うっぜえんだよ、この雑魚があああ!!!」

 

ただでさえ限界なのに、頭が割れるような頭痛。今はアッシュにかまってやる元気はない。

 

わずかに脳内に感じるアッシュの存在。それに向かって呪詛の念を叩き込む。

 

「俺の睡眠を、邪魔するんじゃねえぇぇ――――!!」

 

痛みと共にアッシュの存在が消えて行く。完全に頭痛が治まったのと同時に、俺は意識を失った。…………アッシュめ、俺に叩きのめされた復讐のつもりか。

 

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