TOA ~突き進め、我が道を!~   作:あきあ

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第二話 俺は熱血のアッシュだ屑が! 見てんじゃねえぞ屑が! えっと……屑が、この屑が!!

ふわふわと意識が宙に浮く感覚。とうてい自分のものとは思えないほど自由に動かない身体。

 

今まで体験したことのない感覚の中、視界に光が差し込んだ。

 

しだいに光景がはっきりしていく。

 

「――――!」

 

視界一杯に映ったナタリアの顔に、俺は絶叫した。しかし声が出ない。

 

「あのレプリカ野郎、自力で俺の意識を追い出しやがった……」

 

俺の意志とは無関係に口から言葉が発せられる。ナタリアの後ろには、アニスとイオンがいた。視界のすみにはタルタロスが。

 

「それではルークの……いえ、ルークは貴方でしたね」

 

「今の俺はアッシュだ」

 

かっこつけてんじゃねえよ。

 

何となく理解した。俺は今、アッシュの中にいる。頭に直接響くアッシュの声を追い出した時、何らかの作用で逆に俺がアッシュの中に入ってしまったらしい。

 

「わかりましたわ、アッシュ。ではルークの……いえ、あの犯罪者の居場所はわからなかったのですね?」

 

「ああ」

 

かつてないほど優しい表情のナタリアに、俺は泣きそうになる。

 

「おそらくルークは……いえ、あの外道はダアトの近くにいるわ」

 

タルタルスの上からティアの声が聞こえた。視界がそちらに動く。

「どういう意味だ」

 

「ユリアロードを使ったのよ、ルークは。町の人を買収して、ユリアロードを開かせたらしいわ、私達の武器を売ったお金でね。あの犯罪者がお金とアイテムまで一つ残らず盗って行ったせいで、私達は一文無しよ」

 

なるほど、それで外道か。

 

「私はイオン様を人質にしたことが許せませんよ! ぜ~ったいに見つけ出して、アニスちゃんのお金を取り返してやるんだから!」

 

……本音はそっちかよ。

 

アニスの言葉にナタリアは賛同し、さらに俺を罵倒する。

 

「まったく、信じられませんわ。仮にも王族として育てられた者が、罪を犯した挙句逃げ出すとは。やはりアッシュの言う通り、頭まで劣化しているのですわ」

 

「ええ、私も本当にそう思うわ。それに加えて、私達を縄で縛って譜術まで使えないように猿轡まで噛ませるなんて、ルークは最低よ」

 

そう言えば、時間稼ぎの為にやったな。それで皆ぶちギレてんのか。

 

俺に向かって吐かれる毒だらけの言葉に、イオンは引きつった顔で笑おうとするが、まともな笑顔にはどうしてもならない。猿轡はイオンがやったのだ、俺はそこまでやってない。

 

「まあ、いいじゃないか。町の人が見つけてくれたんだし」

 

ガイが汗を拭きながら、タルタロスの中から出てくる。

 

「俺の隣がジェイドとアッシュだったのは、あいつなりの優しさなんだろな」

 

うん、流石の俺でもガイが発狂するようなことは避けたかったのだ。

 

「彼が優しいかどうかは知りませんが、それなりの罰は受けてもらいますよ」

 

タルタロスの拡声機から、ジェイドの冷たい声が流れる。

 

「スコアに詠まれていたことなので、アクゼリュス崩落の罪に問われることはないかも知れませんが、彼には窃盗罪、ファブレ公爵家の子息を語った罪、私をまんまと出し抜いた罪、その他色々な罪がありますからね。何処まで逃げようとも、必ず捕まえてみせます」

 

素直に逃げて正解だったと思います。

 

「さて、皆さん。タルタロスをセフィロトツリーで打ち上げる準備が出来ましたので乗り込んで下さい」

 

よくわからないが、タルタロスごと外郭大地に戻るということだろうか。

 

「死霊使い、まずはベルケンドへ向かえ。ヴァンが何をするつもりか、あそこへ行けばわかるはずだ」

 

「兄さんの目的……お爺さまは、兄さんがスコアを遵守しているだけと言ったけど、やっぱり違うのね」

 

ティアの悲しみを押し殺した呟き。アッシュはそれに答えず、タルタロスに歩を進めた。

 

「何してやがる、さっさと行くぞ。俺達はヴァンの計画を暴くだけじゃなく、スコアに詠まれている戦争の方もどうにかしないといけないんだぞ」

 

 

* * *

 

 

無事に外郭大地へと上がり、ベルケンドに向けて進み出したタルタロス。

 

「皆さん、話したいことがあるので集まってもらえますか」

 

イオンの堅い声に、皆は何事かと集まる。

 

「話すべきかどうか迷いましたが、皆さんには――ルークと行動を共にしてきた皆さんには、やはり話しておくべきだと思います」

 

「……ルークの話ですか」

 

驚きの声をあげる一同。ジェイドだけが、冷静に相槌を打った。

 

「ルークには止められていましたが、事情が事情ですので仕方がないでしょう」

 

俺がイオンに口止をした時は、テオドーロ市長に、バチカルとマルクトの戦争についてのスコアを聞かされていなかったのだ。イオンが言いたいのはそういうことだろう。

 

「あなた達は、ルークが自分の犯した罪から逃げ出したと考えているようですが、ルークは逃げたわけではありません」

 

「何を言ってやがる! 劣化野郎は現に逃げ出したんだぞ!!」

 

アッシュだけでなく、全員が揃って頷く。

 

「ルークは自分の罪を認めています。あなた達の言葉のお陰だと言っていました。そして、全てが終わったら、罰を受けるとも言いました」

 

「全てが終わったら、とは?」

 

ジェイドがずれてもいない眼鏡を指で直す。

 

「“もしもまだ、これ以上ヴァン師匠が何か企んでるんなら、俺はそれを止めたい。ただ死んで罪を償うなんて嫌だ。救える命を全部救って、その上で俺は死んでやる”……ルークはこう言いました」

 

静まりかえった場に、イオンの声だけが響く。

 

「アッシュ、あなたにはルークからの伝言があります。本当は、これだけを伝える様に頼まれたのですが……」

 

苦笑するイオン。アッシュに向かって、俺が言った通りに伝える。

 

「“俺は確かにお前のレプリカらしいが、ただそれだけだ。俺は俺で、お前はお前。それと、お前に『ルーク・フォン・ファブレ』を返す。”――確かに伝えました」

アッシュの手が、思い切り机に叩き付けられた。

 

「ふざけるなっ! あの――――」

 

そこからは、まともな音にならなかった。耳鳴りと共に、視界が狭まって行く。

 

どうせなら最後まで聞いていたかったが、時間切れらしい。イオンの真意もわからず終いだ。

 

俺の意識は、そこでブツリと切れた。

 

 

* * *

 

 

「…………ん? 起きたの?」

 

目を開くと、シンクが椅子に座っていた。

 

「……ここ、どこだ?」

 

見慣れない部屋。シンプルを通り越して、ほぼ何もない部屋。ベッドと机があるだけの部屋で、俺は床に寝かされていた。

 

「……いや、その前に、なんで俺は床で寝てるんだ」

 

読んでいた本を机に置き、シンクは順に質問に答える。

 

「ここはローレライ教団にある僕の部屋。あんたをベッドに寝かせると、汚れるから」

 

「後半は納得しかねるが、お前がここまで運んでくれたのか?」

 

「うん、ここまで引きずって来た」

 

またしても俺の手が剣の柄へと伸びるが、どうにも力が入らない。

 

「シンク、腹減った。何か食うもの」

 

まずは飯だ。腹が減りすぎて何もやる気が起きない。

 

シンクに連れて来られたオラクル騎士団の為の食堂。シンクによると何でも俺は今『アッシュ』としてここにいるらしい。

 

「あんまり目立たない様にしなよ、バレはしないと思うけど……」

 

汚れた服は洗濯中であり、俺はアッシュと同じ服装をさせられている。

 

「当たり前だ、俺を誰だと思っていやがる。俺にとっちゃあ、アッシュのモノマネなんて楽勝だぜ!」

 

勢いよく食堂の扉を開け、ずかずかと入り込む。俺は息を一杯吸い込み、叫んだ。

 

「おっす、屑ども! 俺は六神将兼特務師団長の熱血のアッシュだ屑が! 飯を食いに来たぞ屑が!」

 

飯を食いつつ談笑していた兵士達の視線が一気に俺に集まる。ついで始まるひそひそ話。

 

「おい、今日のアッシュ特務師団長、機嫌いいな。髪型も何時もと違うし、何か別人みたいだ」

 

「そうだな。しかも俺達がつけたあだ名使ってるぞ」

 

「ああ、『熱血』か。本気で別人に思えてきた」

 

ここで俺は怒声を飛ばす。

 

「屑が! てめえら聞こえてるぞ屑が! ちなみに間違えたぞ屑が! 俺は自虐のアッシュ……え、違うって? 俺は鮮血のアッシュだ屑が!!」

 

「おお、あの喋り方は間違いなくアッシュ特務師団長だ!」

 

「ああ、テンションは違うが間違いない!」

 

満場一致で答えを出す兵士達に手を振って挨拶し、俺は料理を注文する。

 

「えっと、このAランチくれ。あ、ニンジンは退けといてくれよ、ニンジン嫌いなんだわ。……は? 残さず食べろ? いや、食えないんだって。……言い訳するな? くそ、もういい。誰かこの鮮血のアッシュ様の代わりにニンジン食ってくれる屑はいねのか!?」

 

「特務師団長、自分達が食べさせて頂きます!」

 

爆笑しながら敬礼する兵士に、俺はヘラヘラと笑い答える。

 

「おお、すまねえな。ニンジンはどうしても苦手でな。代わりに俺がチキン貰ってやる、ありがたく思え屑が」

 

「ひどいです、師団長!」

 

食堂が笑いに包まれる。Aランチを受け取り、ニンジンのソテーとチキンの交換を済ませる。チキンをくれた奴のテーブルに、お礼として別に注文したオカズを置き、シンクの座る席へと向かう。

 

「見てたか、シンク? 俺にかかりゃあ…………って、お前何してんの?」

 

顔を机に突っ伏し、ぴくぴくと痙攣するシンク。

 

「……あんたがアッシュの恰好でそんなこと言うから、変な噂が飛び交ってるのさ。アッシュ師団長は頭を打って狂ったとか、額の後退のせいで精神的ショックを受けて狂ったとか、友達いなくて孤独死寸前まで追い込まれて狂ったとか……アッシュの真似下手すぎだよ、あんた」

 

適当そうに告げるシンクだが、声が震えている。笑いを堪えているのだろう。

 

俺は料理をどんどん口に運びながら思考する。

 

俺がやらなきゃならないことは三つある。

 

スコアの破壊。ヴァン師匠の計画の妨害。戦争の回避。

 

アッシュ達はヴァン師匠の計画を探る為にベルケンドへ向かうと言っていた。事態は俺が思っていたより悪かったのだから、一度アッシュ達と会っておいた方がいいかもしれない。

 

しかし、折角ヴァン師匠の本拠地にいるのだし、ここでやれることはやった方がいいだろう。

 

「なあ、シンク。アリエッタがどこにいるかわかるか?」

 

「……アリエッタだって? 多分ダアトにいると思うけど、あいつに何の用があるのさ」

 

「イオンと約束したんだよ。アリエッタに真実を――」

 

言い終わる前に食堂の扉が勢いよく開かれた。ヒールで床を鳴らし、女性が中に入ってくる。

「失恋のあまり精神崩壊を起こしたアッシュが今までのヘアスタイルを変えてイメージチェンジまでしてシンクを人質に食堂のメニューの変更を武力で訴えはじめたと言うのは本当か?」

 

色々と間違えた情報を並べる女性はリグレット。彼女の後ろからは、たった今話題に上がっていたアリエッタがライガを引き連れて続く。

 

「……うわ、やべえな。リグレットが出てくるのは予想外だ」

 

呑気に飯なんて食ってるんじゃなかった。

 

「どうするのさ、逃げる?」

 

頼んだBランチをもぐもぐやりながら、シンクはトレーを抱え上げる。

 

「いや、この際だ。リグレットにも聞いときたいことがある」

 

俺は立ち上がり、食堂全体に聞こえるように声を張り上げる。

 

「屑ども、たった今からここで臨時会議を行う! だから出てけ。飯を食いたりない奴はダアトの高級レストランにでも行け。支払は全てモースの名前でつけておくように! 貴様ら屑の頭でも理解できたな、要するにモースが全額支払ってくれる高級食べほうだいだ!! オラクル騎士団全員に伝えろ、たった今から食堂には立ち入り禁止だ。それと食堂のおばちゃん、メニューの上から下まで全部頂戴。もちろん請求はモースで」

 

一瞬の静寂。

 

そして、爆発したかのような喝采。入口に向かって爆走する兵士達。次々と俺に感謝の言葉が送られる。

 

「最高です! ありがとうございました、師団長のそっくりさん!!」

 

「よっしゃ、皆食いまくるぞ!」

 

「ああ、あの豚野郎だけにいいモノ食わしてたまるか!」

 

全員が退出した後、シンクがぽつりと呟く。

 

「しっかりアッシュじゃないってバレてるじゃないか。……ていうか、モース終わったね」

 

もぐもぐとやりながらシンクは俺のオカズにまで手を伸ばす。やめれ。

 

「大量に追加したんだから文句言わないでよ」

 

オカズを奪い合う俺とシンクに、リグレットの冷たい声が突き刺さる。

 

「アッシュではなく出来損ないだったか。どうして貴様がここにいる」

 

人間を見るとは思えないほどの冷たい眼を向け、譜銃を突きつけ、引金に指をかけるリグレット。俺はガタガタと震えるのを必死に抑え、可能な限り余裕を見せつける。

 

「座れよ、俺もお前に聞きたいことがある」

 

「使い捨ての代替品が生意気な――」

 

「ルーク……?」

 

リグレットの声を遮り、アリエッタが目を見開く。

 

「ああ、俺だ。お前の母親を殺したルークだ」

 

 

「っ!! ママの仇!」

 

俺を母親の仇だと認識した瞬間、アリエッタはライガに命令を出そうとする。

 

「それについての話があるんだよ」

 

構えるアリエッタとライガを刺激しないよう、俺は慎重に言葉を選ぶ。

 

「聞いておいて損はないと思うぜ。ここで俺と戦うよりも、確実に母親の仇を取れるだろうしな」

 

「……どういう意味、です」

 

「それを話すって言ってるんだよ」

 

俺に逃げる意志はないとふんだのだろう、アリエッタは数秒の困惑の後に俺の対面に座った。

 

「リグレットも座れよ。俺は平和主義なんだ、むやみに戦いたくねえ」

 

とりあえずトレーごと奪いやがったシンクの頭を叩き、俺はリグレットを見据える。戦うつもりならばこちらも手段は選ばないと、瞳に意思を込める。

 

「…………わかった。ただし、逃げようとすれば射つ」

 

俺程度では訓練された軍人の表情を読むことは出来ない。リグレットが何を思って座ったのかはわからないが、話し合いの機会を持てたことは貴重だ。

 

「さて、では私から聞こうか。なぜ貴様とシンクが仲良く食事をしている」

 

「…………」

 

どちらかと言うと、シンクが答えるべき質問なので俺は沈黙を貫いた。しかしシンクはステーキをもぐもぐやるだけ。挙句の果てには愚痴り始める。

 

「……うわ、この肉まだ焼けてないじゃないか。ほんっと雑だな」

 

もう諦めたね、俺は。こいつはとことん好き勝手に生きるらしい。

 

俺はシンクに自分らしく楽しく生きろとは言ったが、好き勝手に生きろと言った覚えはない。よって、シンクの態度は俺の責任ではない。

 

「……実はだな――」

 

俺はリグレットとアリエッタに語った。

 

俺の目的と、シンクが俺に協力するということを。

 

ヴァン師匠に敵対することを伝えた時点で、俺はリグレットが銃口を向けると予想していた。しかしリグレットは俺の予想に反して、最後まで静かに聞くだけだった。俺の話が終わると、彼女はアリエッタに向かって言う。

 

「……アリエッタ、この二人が注文した料理を取って来なさい」

 

「はい、です」

 

ライガを伴い、とことこと厨房へ歩くアリエッタを見送り、リグレットはシンクに厳しい視線を向けた。

 

「レプリカ同士、馴れ合うつもりか? なぜ世界を憎んでいるお前が世界を救おうとする」

 

アリエッタに席を外させたのは、シンクがイオンのレプリカだと悟らせないだめだろう。

 

真面目な話をしている俺たちを横目に、シンクはアンニュイ気味に答える。

「ルークの話聞いてたら、全部ばからしくなったんだよね。世界を憎んだって仕方ないしさ、僕は僕の生きたいように生きることにしただけ。

ルークに協力するのは、ヴァンに協力するより楽しそうだから。こいつ何て言ったと思う? レプリカとオリジナルなんて所詮は似てるだけの他人で、要は双子とか三つ子みたいなもんだ……そんな馬鹿みたいな意見、初めて聞いたよ」

シンクは俺達の方は見向きもしないで、アリエッタが入っていったままの厨房に向かって言う。

 

「アリエッター、さっさと運んで来なよ! ほんっととろいなあ」

 

「アリエッタとろくないもんっ!」

 

律義に返事を返すアリエッタ。リグレットと俺は二人の間抜けな会話を華麗に無視し、真面目な話に戻る。

 

「リグレット、何でお前はアリエッタにイオンが死んでることを話さない」

 

声を低くした俺に合わし、彼女も声を低くする。

 

「…………あの子を、利用する為だ」

 

「建前はいい、お前の本心を聞かせろ」

 

リグレットの目が、ほんの少し揺ぐ。

 

ティアはリグレットについてこう語った。“任務に対しては非情になるが、本当は優しい人”

 

それならば、彼女の本心は別にあるのかもしれない。

 

「何を言いたいかわからないが、私の本心からの言葉だ」

 

動揺は一瞬だけで、今は軍人の顔に戻っている。不意打ちはもう無理だろう。

 

「別にお前の弱味を握ろうとか考えてんじゃねえよ。お前がどんな解答をしようが、俺はアリエッタに真実を伝えるつもりだし」

 

「……何が目的だ。そんなことをすれば、あの子は――」

「どいつもこいつも……揃いも揃って、何か勘違いしてねえか?」

 

俺の怒りを含んだ声に、リグレットは疑問の眼差しを向ける。

 

確信した。こいつは確かに、ティアの言ったような優しい人間なのだろう。だが俺に言わせれば、その優しさが時に人を追い詰めることになる。

 

「お前さ、“世の中には知らない方が幸せなことがある”とか考えてるだろ」

 

かつてイオンが俺に言った言葉。俺はその言葉には賛成しかねるのだ。

 

「…………当然のことだ」

 

それはアリエッタの幸せを願っての言葉。しかし、俺はその考えのせいで間違いを犯したのだ。

 

「当然のはずがあるかよ。俺は何も知らなかったせいでヴァン師匠の計画の片棒を担がされて、見事に犯罪者になったんだ。今更それを言っても仕方ないけどな」

 

「…………」

 

 

「それに俺は自分が『過去のルーク』、アッシュとは別人だって知れて良かった。俺は常に記憶を亡くす前の“ルーク”と比べられて生きてきた。誰も俺自身を見てくれないことは苦痛だったよ。…………ああ、くそ、愚痴になっちまったじゃねえか。今のは忘れてくれ」

 

鬱になりそうな自分を叱咤し、何を言いたいかを端的に伝えることにする。頭の悪い例え話なんてするからいけないんだ。

 

「とにかく俺が何を言いたいかと言うと――その時は知らない方が良かったって思っても、何時かは知って良かったって思える日がくるってことだ」

 

敵に、しかも年上に人生観もどきを説く恥ずかしさから、適当にお茶を濁したくなる。

 

「……それにさ、アリエッタだってお前が思ってるほど子供じゃないだろ。秘密なんて、いつかはバレるもんだよ。俺が現にそうだったんだ。出来れば信頼のおける人間から聞かされた方が、アリエッタも幸せだと思うぞ」

 

「…………」

 

リグレットは静かに息をついて肩をすくめる。

 

「……体験談というわけか、重みがあるな。私がどう思って――いや、閣下が何をお考えになられていようと、結局はアリエッタに真実を伝える、そう言いたいのだな?」

 

「おお、簡単に言うとお前の口から伝えろと脅してるわけだ」

 

「まさかこの私が、劣化した出来損ない風情に脅されるとはな……」

 

冗談抜きで凹んだ表情に加え、しょんぼりした声で言うリグレット。……俺が凹みます。

 

「出来損ないとか劣化って言うな。確かにアッシュより頭は悪いだろうけど、俺はあいつより強いっつーの」

 

正直に言えば、若干卑怯な手は使った。しかし勝ちは勝ちだ。

 

俺の華麗な勝利を(ちょっとだけ脚色を加えて)話してやろうとしたところで、アリエッタがカート一杯に料理の皿をのせて運んで来た。

 

「ありがとう、アリエッタ。まずはこの馬鹿共が無駄に頼んだ料理を片付けるとしよう」

 

カートから素早く料理の皿を取る俺とシンクを睥睨し、リグレットは話を一旦締めくくった。

 

「ほんっと、この食堂ってメニュー少ないよね。全部頼んでもこの程度の量なんてさ」

 

「まあこんなもんだろ、軍の食堂だしな。四人と一匹で妥当な量だと思ったから頼んだし」

 

ぶつぶつ言いながらも食いまくる俺とシンク。まだ夕方だが、成長期かつ腹ペコな俺達には大した問題ではない。

 

「ルーク、醤油を取れ」

 

「ん、醤油な。えっと、こ……れ?…………ごふぉおっ!!」

 

それはもう、盛大に吹き出しましたよ。

 

「な、ななな、リグレット、お前、今、何つった……?」

 

俺の耳と記憶が正しければ、俺は今“ルーク”呼ばれた。

 

「醤油を取れと言った」

 

「絶妙なボケはいらねえよ! お前、俺のこと“ルーク”って呼んだよな!?」

 

「ああ、そう呼んだが……どうして驚く?」

 

「だってお前、今まで俺のことゴミでも見るような眼で“出来損ない”とか“レプリカ”とか“使い捨ての代替品”とか――――ってぇ、まじでゴミ扱いじゃねえかっ!!」

 

比喩じゃなかったことに今更ながらに気付いた。やべ……また自殺したくなって来た。

「がるるるぅぅっ!」

 

リグレットが何か言いかけたが、それはライガによって邪魔された。俺が吹き出したモノを盛大に顔で受け止めたライガが、復讐の為か俺の足に噛みつきやがったのだ。

 

「うおっ! マジでやめろ、ひっかくな噛みつくなっ! アリエッタ、助けてくれ!!」

 

「……まだ食べちゃ、駄目」

 

「まだって、俺は後から食われるのかよ!」

 

「ルークを食べたって不味いだろうに。あー、考えただけで吐気がしてくる。……ング、あ、これ意外といける」

 

「てめぇ、自分の皿だけ確保して矛盾したこと言ってんじゃねえよ!! いい加減にそのもぐもぐを止めろ!」

 

「シンクの意地悪っ! アリエッタの分取らないで!」

 

「やめろ、アリエッタっ! 譜術を使おうとすんな、俺の分やるから、な!?」

 

「あ……ありがとう、です」

 

「料理貰っただけで目をキラキラさせるなよ。あー、また吐気が。……ング、ん、こっちも中々」

 

「シンクのばか~っ!」

 

急激に騒がしくなる食卓。飛んで来た醤油の瓶を空中で軽々と掴み、リグレットはふっとため息をついた。

 

「…………私はどうやら、見誤っていたようだな。魔弾が聞いて呆れる……」

 

言葉とは裏腹に、リグレットの表情は柔らかかった。どういう意味で言ったのかは知らないが、見てないで助けてくれ。切実にそう思う今日この頃。

 

 

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