TOA ~突き進め、我が道を!~   作:あきあ

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第三話 命の取引

やっとこさ食事が終わった時には、俺の体はズタボロだった。

 

アリエッタの譜術とライガの復讐、便乗したシンクの悪戯。それらを一身に受けた俺の気分は既にブルー。リグレットは我関せずと一人で黙々と食事を進めるだけで、俺に加勢する気など皆無だった。

 

「ルーク、お前は私に言ったな。アリエッタはもう子供ではないと」

 

ライガと戯れるアリエッタを横目に、リグレットは食後のお茶をずずーっと飲む。

 

「…………前言撤回って言いたいが、荒れるのは最初だけだと思うぜ。心配いらねえよ……多分な」

 

無責任な言葉だとは思うが仕方ない。俺は既に瀕死寸前なのだから。

 

「直球でいいと思うぜ」

 

「野蛮な貴様ならそれでいいが、アリエッタは繊細だ」

 

俺のアドバイスを速攻で切り捨て、ついでとばかりに机に突っ伏す俺にグミを投げつける。不覚にも涙が出た。少し前のゴミ扱いからすれば、なんたる進歩。だってグミだぞ、グミ。

 

「アリエッタ、来なさい。導士イオンについて伝えることがある」

 

「イオン様!?」

 

表情を一変させたアリエッタを、リグレットは自分の横に座らせる。優しく彼女の頭を撫で、リグレットはゆっくりと語りかける。

 

「……アリエッタ、お前はどうして導士守護役から外されたと思っている?」

 

リグレットの姿に、かつて“母上”と呼んでいた人の影を見た気がした。気分が沈みかけたが、今はアリエッタだ。そっと溜め息をつき、アリエッタに目を向けると、彼女は瞳を潤ませていた。

 

「……アニスが、イオン様を取ったから」

 

「違う。良く聞くんだ…………」

 

アリエッタの悲しみの表情を見てリグレットは言葉に詰まる。困ったように俺をじっと見つめ、必死にアイコンタクトを送ろうとする。しかし俺には伝わらない。

 

「……リグレット、何で? 何でイオン様は、アリエッタをすてたの……?」

 

アリエッタの瞳に涙が浮かび出す。困った表情は消え去り、リグレットは俺に殺気を含んだ視線を送りつける。

 

すまん。

 

俺は口パクで伝えた。まさか本題に入る前から泣くとは……リグレットに殺されたらどうしよ。

 

どうにかしろ。責任を取れ。撃つぞ。

 

顎でアリエッタを示し、銃をちらつかせる彼女。俺にどうしろっつんだ。

 

「直球は……不可能だ、俺には無理だ」

 

「当然だ、野蛮人」

 

「こういう場合、どう伝えればいいんだ……」

 

「…………」

 

アリエッタの反応にリグレットも焦っているのか、まったく言葉が出てこない様子。

 

俺の中の彼女のイメージ、冷静沈着絶対零度超冷血漢がどんどん氷解していくのを感じる。……とか考えている俺も何と言っていいのやら。要は現実逃避だったりするのだ。

 

「……まったく、見てられないね」

 

傍観を決め込んでいたシンクが盛大に溜め息をつき、俺とリグレットを半眼で見やる。

 

「僕にも関係あることだし、僕が話すよ。あんた達役立たずは邪魔しないで静かに見てるんだね」

 

言い返すこともできず、すごすごと引っ込む俺達。情けねえ。

 

先ほどから疑問符と涙しか浮かべていないアリエッタに、リグレットと場所を入れ換えたシンクはみじんも緊張を感じさせずに話しかける。

 

「いいかい、アリエッタ? 本物の導士イオンは二年前に死んだ。今の導士イオンはレプリカだ」

 

な、こいつ、気遣いも何もあったもんじゃねえ!

 

「……え? イオン様が……死んだ? シンク、何言ってる――」

 

「黙って最後まで聞きなよ。導師イオンが死んで、レプリカと入れ替わった。その事実の漏洩を防ぐために、アリエッタは導士守護役から解任された」

 

「……うそ、そんなのうそだもんっ! イオン様は死んでない……!」

 

顔を涙でぐしゃぐしゃにして泣き叫ぶアリエッタに、シンクは淡々と繰り返す。

 

「何度でも言うよ――アリエッタが知っているイオンは死んだ。あんたも薄々気付いてたんでしょ、イオンは別人だって」

 

「――……っ!」

 

「だと思ったよ。僕はオリジナルを見たことはないけど、今のイオンとじゃあ雰囲気ががかなり違うって噂はよく聞いたからね」

 

当然だろう。例えいくら外見が一緒でも、例えいくら性格を真似してみても、完全に成り代わることなんて不可能なのだから。オリジナルイオンの一番近くにいたアリエッタが、距離をおかされたとは言え、疑問を抱かないはずがない。

 

「さて、と。到底、僕の言葉だけで信じるなんて出来ないだろうし……イオンのレプリカが存在している証拠を見せてあげるよ」

 

「……しょう…こ?」

悲鳴に近い泣き声は鳴咽になり、ぼろぼろと涙を流しながらもアリエッタはシンクにしっかりと視線を向ける。

 

シンクは片手を仮面にかける。静かに息を吐き、ゆっくりと仮面を外した。

 

「…………イ…イオン…様…?」

 

両腕で強くぬいぐるみを抱きしめ、息を飲む。信じられないといった瞳でアリエッタはシンクの素顔を凝視した。

 

「僕はイオンじゃない……本物のイオンのレプリカ……シンクだ。……これでも信じられないなら、僕と同じ顔のやつに聞いてみるんだね」

 

「うそ……イオ……死んで……レプリカ……シンク………いっ、いやあああああ――――っ!!」

 

泣き崩れる少女。その悲鳴は全てを拒絶するようでありながらも、全てを悟った上での悲鳴だった。

 

「……あとは、あんた達の仕事だよ」

 

シンクは静かに告げて仮面をつける。きっと、シンクもシンクで苦しいのだと思う。

 

「……なあ、リグレット。俺がアリエッタを慰めるのは、ちょっと無理だわ」

 

アリエッタの家族を奪い彼女を孤独にしたのは俺であり、俺はレプリカでもあるのだ。

 

「わかっている。シンク、ルーク、すまなかったな」

 

何についての謝罪かわからなかった上に、その言葉に何故か心臓を握り潰された気がした。

 

「すまなかった」

 

今度はアリエッタにその言葉をかけ、リグレットは優しく抱き締める。

 

「………りぐ、れっ…と……イオン…様、がっ……ううっ……イオン様がっ……」

 

「アリエッタ、今は泣きなさい。……本当にすまなかった」

 

まるで姉妹にも親子にも見える二人。母が娘に対して、娘が母に対して、自分達の本心を晒け出し合うかのような姿を見て、先ほどの感情の理由がわかった気がした。

 

 

……俺には理解できるはずがなかったのだ、リグレットの言葉を。アクゼリュス崩落の罪を犯すまで、本気で苦労も苦悩もせず、自ら世界を知ろうとも考えようともせずに、浅い人生をただ怠惰に送って来た俺だ。そんな俺に、リグレットの本心からの謝罪は重すぎたのだ。それを思い知らされた。

 

小さな子供のようにわんわんと泣くアリエッタと、優しく慰めるリグレット。彼女達の姿を見ながら、俺は誰にともなく呟いた。

 

「……ほんと俺って、どうしようもない馬鹿だよな。今も前も……」

 

* * *

 

泣き疲れたアリエッタはそのまま眠ってしまい、会談は中途半端のままお開きとなってしまった。

 

予想外に時間がかかった割には、やっとイオンの依頼が終わっただけ。俺にとっての本題には触れてもいないのだから、俺は自分の計画性のなさに失望した。おそらく――ではなく確実に、調子にのってメニューの上から下までを注文するという暴挙に出たのが原因だ。

 

「――というわけで、明日の昼にはダアトを出ることにしました」

 

「……は?」

 

「だーかーらー、明日の昼にはダアトを出るって言ってんだよ」

 

ベッドの上に寝転んで何やら小難しそうなタイトルの本を読んでいたシンクに、俺は自分が読んでいた音素学の本を投げて返す。

 

本を受け取り、俺に侮蔑の視線を送るシンク。

 

「…………一通り読みはしたんだよ。完全に理解出来たことは、俺が実践して覚えるタイプってことだけだ」

 

「ふんっ」

 

鼻で笑うシンクをなるべく気にしないで、俺は今後の予定を伝える。

 

「朝にリグレットとアリエッタと話して、次はイオン達に会いに行く」

 

イオンの名前を聞いたシンクは眉をひそめたが、ぱたんと本を閉じ起き上がる。

 

 

「……あてはあるの? ていうか、捕まるんじゃないの?」

 

忘れていた。俺はアッシュの目から見たことをシンクに言ってなかったのだ。簡潔に説明してみると、シンクは意地の悪い笑みを浮かべた。

 

「よっぽど信用がなかったんだね」

 

「うるせえ」

 

軽口を叩きつつも、俺が取り出した地図を見ながらシンクは何やら計算をしている。

 

「タルタロスの速度を考えると、もうベルケンドに着いてるだろうから……無理だね、明日の昼にベルケンドに向かっても、もう出発した後だよ」

 

「だろうな。だから今から、アッシュに連絡取ってみる」

 

偶然とはいえ、それっぽいことが一度できたのだ。あの時の感覚を思い出し意識を集中してみる。

 

「…………」

 

「…………」

 

「…………」

 

「……俺はさ、みんなはダアトかバチカルかグランコクマに行くんじゃないかと思うんですよ」

 

「ふんっ……アッシュに連絡入れられなかったんだね。ほんと役立たずだよ」

 

シンクの冷たい視線が痛いです。仕方ねえじゃん、出来なかったんだから……。

 

「俺は悪くねえ俺は悪くねえ俺は悪くねえ俺は悪くねえ。悪いのはアッシュだ」

「気持の悪い言い訳はやめなよ」

 

そうだった。鬱になってる場合じゃなかったのだ。

 

「まあ、あんたの意見は正しいと思うよ。一番可能性が高いのはグランコクマだね」

 

「何でだよ? どっちかっていうとバチカルじゃねえのか? スコアの通りだとしたら、戦争はバチカルが仕掛けるんだろうし」

 

俺の当然の疑問に、シンクはさも当然と答える。

 

「アクゼリュスのパッセージリングが壊れたから、次はセントビナー辺りが崩落するからさ」

 

絶句した。ありえねえ。

 

「もっと早く言え! 呑気にしてる場合じゃねえ! さっさといっ…でえぇええっ!!」

 

熱血してセントビナーに向かおうとした俺の頭に、シンクが投げた分厚い本の角が直撃した。あまりの痛さに俺は身悶える。

 

「少しは落ちつきなよ。別にいますぐ落ちるわけじゃないさ。まあ、そういうわけだから」

 

「…………」

 

心臓に悪いやつだ。豆腐の角で頭打てばいいのに。

 

「……じゃあ明日はマルクトか。さて、と……俺はちょっと身体動かしてくるわ」

 

もう夜中だが、朝から昼まで身体は眠っていたので疲れていない。こんな時は適度な運動がベストだろう。

 

「あっそ。僕は寝るから、一人で適当に頑張りなよ」

 

シンクの部屋を出て、教えてもらった訓練場までの道を歩く。

 

……それにしても、セントビナーまで落ちるのか。それも俺がアクゼリュスを落としたせいで。

 

……ふぅ……鬱だ……。

 

途中、何人かの兵士に出くわしたが、俺がよっぽどアレな顔をしていたのか、皆は走って逃げていった。

 

「こ、幸福が奪われるっ!」

 

そんな言葉も度々。

 

……ふぅぅぅ…………鬱だ……。

 

死ぬほど沈んだ気持で訓練を始める。さっき読んだ音素を操る術を試してみたが、上手くいかない。鬱な気持はいつの間にか苛立ちに変わり、大好きな剣術の訓練へと切り替えた。テンションが異常だったせいか、ぶっ倒れるまでやってしまった。

 

今度は鬱な気分に逆戻り。立ち上がるのも億劫だ。……もう寝よう。

 

* * *

 

「顔を洗ってこい。目障りだ」

 

昨日約束した時間にシンクの部屋へと戻った。扉を開けるなり、俺の額にリグレットの銃口が押し付けられた。引金に指がかかっているのは気のせいであれ。

 

「……ドッキリ?」

 

「こちらの台詞だ。なんだその死んだ顔は。気分が悪くなる」

 

酷い言われようだ。俺がいったい何をした。言い返してやろうとしたが……止めた。命は惜しい。

 

顔を洗って床に座る。ベッドはアリエッタとリグレット、椅子はシンクに占領されている。

 

「……もしかして遅刻か?」

 

「いいや、この二人が早すぎるのさ」

 

不機嫌そうに目を擦るシンク。こいつも銃で起こされたんだろう。

 

「さて、私にも時間がない。昨日の続きと行きたいところだが……大丈夫か?」

 

「夢見が悪かっただけだ。あと寝違えた」

 

あのリグレットが同情するほどに俺の顔はアレだったのか……。

 

「あー……本題の前に、アリエッタに一つ言っときたいことがある。……聞いてるか?」

 

「……はい、です」

 

昨日よりかは落ち着いているがまだ不安定なアリエッタ。空気が重い。

 

「えっとさ、難しいとは思うけど……レプリカイオンのことあんまり怨まないでくれよ。他人に成り代わるってのは……結構きついんだ」

 

「…………」

 

アリエッタは無言で頷く。……自分で言っといて何だが、完全に納得するのはやっぱり難しいだろうな。

 

「……ふぅ。俺がこれからヴァン師匠と敵対するってのは話したよな。で、お前達がここにいるってことは、俺の質問に答えてくれる気があるって考えていいんだろ?」

 

「まあな。聞くことを聞いたら、お前達が一人になった時を見計らって射殺する予定だったが……不本意なことに一つ借りができてしまった」

 

「そろそろ我慢の限界だ。たった今からお前の愛称はトリガーハッピーに決定――ごめんなさい嘘ですすみません許して下さい銃を下ろして下さい」

 

畜生! やっぱりぴったりのネーミングじゃねえか!!

 

「……閣下の計画に関する以外の質問には答えてやろう」

 

自覚があったのか、リグレットは手の中の譜銃を見つめながら言った。……顔が若干赤いのは目の錯覚であれ!

 

「じゃあさ、お前がヴァン師匠に協力するのって、やっぱりスコアか?」

 

「…………そうだ。私はスコアを憎んでいる」

 

「理由は……言いにくいよな、その様子じゃ」

 

苦い表情のリグレットに、ついつい嘆息。どうやら傷口だったらしい。

 

「いや、話してやろう。不公平はよくない」

 

「踏み倒そうとした奴の台詞じゃねえな――うおっ! マジで撃つなっ!!」

 

「ちっ……外したか。まあいい。一度しか話さない、していて面白い話ではないからな」

 

――リグレットは静かに語り出した。

「私には弟が一人いた。私と同じくオラクル騎士団に入団していて……戦争で死んだ。……そこまでは、到底納得は出来ないが、仕方のないことだと割りきることができた。割り切るしかなかった。しかし弟の死は……スコアに詠まれていた。当時はそのスコアを知っていて弟を戦場に送り出したヴァン・グランツを、殺してやろうとも思った。まあもっとも、実際に襲撃したがな」

 

「…………は?」

 

シリアスな雰囲気だったが、思わず間抜けな声を出してしまった。……リグレットがヴァン師匠を、殺そうとしただと?

 

「……まあ、それから色々とあり、私は閣下の理想に共感して今の状況に至るわけだ」

 

「色々って……」

 

詳しいことがまるで分からない。襲撃までしておいて、何がどうなったら……。

 

「……非常に納得できんが――お前は『人類皆殺し』に共感したんだな?」

 

自分でも驚くほどに冷たい声が出た。殆ど睨みつけるような視線に、リグレットは多少揺らぎながらも頷く。

 

「……そうだ」

 

……言いたいことは山ほどあったが、取りあえずアリエッタにも同じ質問する。

 

「アリエッタ、お前は何でヴァン師匠に協力するんだ?」

「……総長は、アリエッタに居場所をくれたから、です。人間として生きれるようにしてくれたのも、イオンさまに会わせてくれたのも、ぜんぶヴァン総長のおかげです。……それに、アリエッタがお手伝いをすれば、総長はフェレス島を作ってくれるって約束してくれました」

 

フェレス島って何だ? と視線でシンクにたずねてみると、辞書を投げつけられた。

 

調べてみると、ホドが沈んだ時に波に飲まれた島らしい。

 

「アリエッタの生まれた場所だよ」

 

短くシンクが説明を入れた。

 

「……ってことは、アリエッタはスコアをどうにかしたいんじゃなくて、ヴァン師匠への恩返しが理由なのか?」

 

「はい……」

 

「……ふぅ、ったく」

 

何と言うか、アッシュとかガイに八つ当たりしたい気分だ。……いや、正直に言おう。ヴァン師匠に少し殺意を覚えた。

 

「……ようはお前等、ヴァン師匠が大切なんだな? リグレット、お前はヴァン師匠が世界ごとスコアをぶっ壊して新しく作りなおすって言うから、それに協力する。アリエッタ、お前は恩返しとフェレス島復活のため。それで合ってるな?」

 

こくりと頷く二人。

 

「俺が言えたことじゃねえけど――お前等二人ともいい加減にしやがれ」

 

「貴様に――」

 

口を開いたリグレットを睨みつけ、強引に話し続ける。

 

「まずリグレット! ぶっちゃけ簡単に言うと、お前はヴァン師匠が好きなんだろ」

 

「な……っ!」

 

「それはわかる。ヴァン師匠は、なんつーか、雰囲気が凄い。お前が尊敬するのはよーく理解できる」

 

「は……? ……尊敬……いや、うむ……そうだ。尊敬だ」

 

何だか挙動不審なリグレット。何言ってんだ、こいつは?

 

「……だからってヴァン師匠を全肯定すんなよ。お前だって色々と考えて出した結論なんだろうけど、それでも俺は言わせてもらうぜ。――ふざけるな、簡単に結論なんて出してんじゃねえよ。もっと犠牲を出さない方法は、探せば絶対に見つかるに決まってんだろうが!」

 

「…………」

 

「次、アリエッタ! 恩返ししたいなら、ヴァン師匠が勝手に無理だって諦めた方法を探して叩きつけてやれ!」

 

「え……はい……え……?」

 

「――最後に二人とも!」

 

困惑しているリグレットとアリエッタを見据え、俺は大声で叫ぶ。

「お前等がしようとしてること、レプリカで世界を作りなおすなんてことは――この世界全てに対する侮辱だ。この世界だけじゃねえ、お前等が創るレプリカ世界に対しての侮辱だ。オリジナルとレプリカは一緒のモノじゃない。それぞれ別のモノで、代わりなんてきかない……たった一つしか存在してないモノだ!」

 

一気に喋りすぎて、息があがった。……つーかシンクの部屋、雨漏りしてやがる。うわ、水が目に入った……。

 

「……ルーク、どうしたの?」

 

「見ろよアリエッタ、シンクの部屋雨漏りしてるぜ。こっち来んな、来たら濡れるぞ……」

 

近寄ってきたアリエッタを追い払い、俺は顔を拭う。

 

「え?……雨なんて――」

 

「……シンク、きちんと修理しておきなさい。後々面倒なことになるといけないからな」

 

「りょーかい。……あ、でも僕ってクビじゃないの、裏切るんだから? ってことで自分でやりなよ、修理は」

 

「却下だ。なおして出ていくのがせめてもの礼儀というものだろう」

 

「……?」

 

…………。気をつかわせてしまった。最近なんか情緒不安定気味だ……我ながらかっこ悪い。どうにかしないと。

 

場は何とも言えない雰囲気に包まれていた。俺の勢いが九割を占めている言葉でも、考えるところがあったのだろう。リグレットとアリエッタはうつ向いて物思いにふけっている。

 

「そういえばさ、アリエッタに敵討ちがどうとか言ってなかったっけ?」

 

シンクの言葉にアリエッタがはっと顔を上げる。

 

「ああ、そのことか……」

 

「ルークは、聞いたら得するって言いました。聞かせて下さい……」

 

戸惑いが混じった表情のアリエッタに向かい、俺は思い切り頭を下げた。

 

「すいませんでした! 許してくれなくていい……兎に角すいませんでした!」

 

「……謝られても……アリエッタはどうしていいか、わからないです……。アリエッタは、ママ達の仇を取りたい……」

 

うつ向いてしまったアリエッタに、俺は自分の考えを告げる。

 

「全部終わったら俺は多分死刑になるだろうからさ、その時はアリエッタ――お前が俺を殺してくれ」

 

「――……っ!?」

 

揃って驚愕する三人。いきなりかもしれないが、これが俺にできる償いだと思う。

 

「俺はお前だけへの償いじゃあ、死ぬ気にはなれなかった。……だけど今の俺は犯罪者だ。どうせ死刑になるんだから、お前が俺を殺してくれ」

 

「……少し待て」

 

リグレットが静かに言う。

 

「アクゼリュスの崩落はスコアに詠まれていた。お前に罪はない」

 

それは俺も考えたし、ユリアシティの市長もそんな感じのことをちらりと言っていた。だけど、それじゃあ駄目だと思う。

 

「俺はスコアをぶっ壊そうとしてるんだぜ? その俺がスコアを理由にはできないだろ。スコアに詠まれててもやっちゃあいけないこともあるって、俺が示すべきなんだと思う」

 

そのくらいやらないと、俺は納得できない。

 

「……で、かっこつけたこと言ったわけなんだけど……実は頼みがある、っていうか、ぶっちゃけ交換条件なんだけど……」

 

自分でもしまらないと思うけど……まあ、仕方ない。

 

「俺が目的を果たすまで、敵討ちは待ってほしいんだ。……さらに言えば、俺に協力してくれたりすると、早めに俺を殺せたり、犠牲なしでスコアを壊せたり、色々と特典がついてくるわけだ。……どうだ、アリエッタ?」

 

ちょっと無理かな、と思いながらもついつい期待を持ってしまう。

 

急展開についてこれず目をぱちぱちとさせるアリエッタに、俺はここぞとばかりに追い討ちをかける。

 

「それにさっきも言ったけど、レプリカでフェレス島を作りなおしても、出来るのは別物だぞ」

 

「………え、ええっと……」

 

ぬいぐるみを抱きしめ、うんうん唸るアリエッタ。俺は真剣な表情のまま黙って彼女を見つめ続ける。じーーー……。

 

「やめろ、野蛮人」

 

声とともに、頭に衝撃がはしる。

 

「――いってぇ! リグレット、てめぇ、本気で殴りやがったな!?」

 

「当然だ。アリエッタを脅すような馬鹿に手加減の必要はない」

 

「な! 脅してねえだろ!」

 

「鏡を見てみろ。ガラの悪い不良が映っているだろうから」

 

「誰が不良だ!」

 

「あんた以外に誰がいるっていうのさ、元不良貴族さん」

 

「シンク、見損なったぞ! お前まで裏切るのか、このちびっこめ!!」

 

「…………まだ成長期が来てないだけさ」

 

「お、おい……そんな落ち込むなよ……」

 

「ふっ、お前も人のことを言えないだろう。元不良ちびっこ貴族ルーク」

 

「リグレット! てめぇ、言っていいことと悪いことがあるぞ!!」

 

「事実を言ったまでだ。元不良ちびっこ馬鹿貴族ルーク」

 

「……わかりました。アリエッタは、ルークに協力します……」

 

「リグレット!! てめぇ、いい加減に…………ん?」

 

絶叫する寸前、何かとてつもなく重要なことを聞いた気がした。間抜けな表情で見つめる俺に、アリエッタはこくりと頷く。

 

「協力する、です」

 

「え、えっと……あ、よろしくお願いします」

 

「よろしく、です」

 

「…………」

 

絶句する俺。何だか心配になりシンクを見てみると、肩をすくめている。リグレットは眉間に皺を寄せている。

 

「……ま、いっか」

 

うん。上手くいきすぎな気がするが、気にしないでおこう。

 

「……はじめから、アリエッタを仲間に引き込むつもりでいたのか」

 

リグレットが難しい顔で言う。まあ、二人――いや、アッシュもいるから三人か。三人も六神将から抜けたのだから、面白い話ではないだろう。

 

「いや、別にそういうわけじゃねえよ。昨日も言ったように、俺は平和主義なんだ。話し合いをしようと思ったのは、ヴァン師匠やお前達と戦うにしても、せめて何で戦わないといけないかくらい知りたかっただけ。シンクとアリエッタが俺に協力することになったのは……まあ偶然で奇跡に近い」

 

「奇跡、か。よくもぬけぬけと」

 

ぎらりと俺を睨むリグレット。いや、嘘はついてないんですけど……。

 

「ほんと、奇跡だって思ってるって。俺が一番びっくりしてる自信がある」

 

どんな自信だ、とシンクが呟いた気がするが無視。

 

黙ってしまったリグレットに、俺は少し前から疑問に思っていたことをたずねる。

 

「なあリグレット。お前、スコアに依存してるこの世界は腐ってる、みたいなことティアに言ってたよな? やっぱりお前は、スコアもこの世界も両方とも壊したいと思ってるのか?」

 

「……ああ、そうだ」

 

「そっか……」

 

それがリグレットの本心なら、俺にはどうすることもできない。間違えてるとは思うけど、リグレットだってそんなこと百も承知の上での答えなのだろう。

 

空っぽだったシンクは俺の言葉で、多少は考え方が変わった。――が、リグレットは無理だろう。俺程度の言葉では軽すぎるし、彼女は空っぽではないのだから。

 

「そろそろ時間だ、私は行かせてもらう。シンク、アリエッタ、お前達のことは閣下に伝えておく。ルークにそそのかされたと」

 

ヒールで床を叩き、通り過ぎざまに静かに言った。扉を開けようとするリグレットに、俺は首だけ向ける。

 

「ついでに、近い内に会いに行きます、って伝えといてくれ。じゃあな、リグレット。色々と話せてよかったぜ」

 

「私こそお前と話せて良かった」

 

「は……?」

 

あまりの言葉に驚愕した。なんの冗談だよ。

 

「私も閣下も、お前のことを見誤っていた。今日のことがなければ、閣下の計画は易々とお前に潰されていただろう」

 

背中を向けたままで、顔は見えない。声は冷静そのもので、感情は読めない。

 

「……過大評価だろ、それは」

 

「いいや、正確な評価だ。現にお前はシンクとアリエッタを味方につけた。覚悟しておけルーク。たった今からお前は最要注意人物だ」

 

「…………」

 

何を言っていいかわからないで迷っているうちに、リグレットが扉を開いた。

 

「あ、リグレット……アリエッタは……」

 

アリエッタが上げた寂しげな声に、リグレットは振り返り優しく微笑む。

 

「アリエッタ、身体に気をつけなさい。ルークとシンクに意地悪をされたら、いつでも戻って来ていい」

 

「は、はい……!」

 

嬉しそうに返事をしたアリエッタから、シンクに視線を移すリグレット。

 

「アリエッタをあまり苛めるなよ」

 

「僕には身体に気をつけろ、とかないわけ?」

 

「お前は殺しても死にそうにない。……まあ、せいぜい長生きをするんだな」

 

ふんっ、と鼻で笑うシンク。リグレットは俺を見ることなく部屋から出た。

 

「……ルーク。あまり死に急ぐな」

 

扉が閉められる寸前、小さな声で言われた。

 

死に急ぐ、か。……その通りかもしれない。俺は死ぬことで、色々なものから逃げたいのかもしれない。

 

 

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