TOA ~突き進め、我が道を!~   作:あきあ

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第六話 小さな世界に決別を

バチカル襲撃から数日後、ついにセントビナーが崩落したらしい。その際アッシュ達がシェリダンから徴収した、空飛ぶ譜業・アルビオールで見事全員無事に救出したとか。

 

何でもそのアルビオール、宇宙人からの贈り物らしい。過去にもアルビオールに似た、円盤型の空飛ぶ乗り物が多数確認されているから間違いないんだとか。

 

「ほんと……どうやったらそんな発想に行き着くのかな……。恐怖で頭が狂ったんじゃないの、全員」

 

シンクのぼやきに、俺とアリエッタは堪らず叫んだ。

 

「え!? 宇宙人の贈り物じゃないのか!?」

 

「うそ!? 宇宙人の贈り物じゃないの!?」

 

「違うに決まってるじゃないか。あくまでそれは噂。アルビオールは最近発掘された創世暦時代の音機関を使って、シェリダンの人間が作った物。宇宙人は全く関係ないよ」

 

むう……そうだったのか。噂ってのはやっぱり、そんなに当てにならないのかもしれない。がっかりだ。

 

…………まあ、そんな馬鹿みたいな噂が広まるのも、仕方ないのかもしれない。一人で超振動を起こせる危険人物が野放しになっている今の状況、少しでもそれを忘れようとみんな必死なのだろう。

 

…………きつい話だ。

 

「今日……ですよね。アリエッタ、楽しみです」

 

「楽しむことじゃないんだけどね」

 

唐突に言われたアリエッタのちょっと呆けた感想に、シンクは律儀に突っ込む。

 

まあ確かにシンクの言う通り、楽しいイベントではない。

 

今日はこれからベルケンドに出向いて――ヴァン師匠に会わなければならないのだ。

 

例の新聞に、六神将とヴァン師匠専用の暗号文で日付と待ち合わせ場所を書いておいた。

 

ベルケンドは一応ヴァン師匠の重要拠点。『レプリカ計画』の要でもある研究施設のある場所なので、すっぽかされることはないと……思いたい。

 

だって重要拠点と言っても過去の話で、シンクとアリエッタが俺についた時点で放棄しているのだから。

 

「はぁー……ぶっちゃけ何かたるい……」

 

来なかった時のことを考えると、もう鬱になりそう。

 

 

*

 

 

「き、貴様は『赤い悪魔』……っ!?」

 

ベルケンドに入ろうとしたらいきなりそんなことを言われた。

 

赤い悪魔って何だよ。

 

門兵の大音量の叫びで、詰所からどんどんと兵士が出てくる。その数ざっと二十。

 

厳重警戒体制になっているとは聞いていたが、ここまでだったとは……。

 

予定では、先に町に入ったシンクとアリエッタが「レプリカルークが町から出て行くのを見た」と言って兵士達を町の外に駆り出してくれているはず。

 

しかし見る限りではそんな様子はない。

 

あの二人が前のように遅刻した可能性も否定出来ないので、誤魔化して時間稼ぎをする方向で行くことに。

 

「赤い悪魔ってあのルークのことだろ? どうして俺と指名手配犯を間違えるかな……、俺はただの運び屋さんだってのに」

 

はぁ、と大袈裟に溜め息をつき落ち込んで見せる。

 

「嘘をつくなっ! 赤い長髪に碧目、どこからどう見てもレプリカルークだろうが!!」

 

威勢はいいのだが、兵士達の腰は引けている。まあ相手が化物じみた破壊力を持っている危険人物なのだから、怖がるのは無理ないか。

 

「あのなあ……兵士さん、俺の髪は橙色だぞ。第一髪なんていくらでも染めれるし、瞳の色だって隠せる。指名手配犯が変装もなしに出歩くなんてあり得ないだろ」

 

何か言われる前に抱えていた荷物を広げて見せてやる。

 

「出来れば早く通してくれねえかな、これを指定時間内に届けなきゃいけないんだよ」

 

荷物とは先日解体したワイヨン鏡窟にあった音機関の部品の一部。

 

「ほう……これは中々……」

 

「ああ、珍しいなこれは」

 

兵士達は興味津々で部品を覗き込む。もしや音機関都市の住民はみんなして音機関が大好きなのだろうか。

 

馬鹿な発想だとは思いつつも、そっち系の会話で攻めてみる。

 

「どうだ、すげぇだろ、これ。特注品で値が張るって言うんで、わざわざ徒歩で運んで来たんだ。馬車だと揺れるだろ?」

 

「おお、それは正しい判断だ。何と言っても音機関ってのはデリケートで――――」

 

兵士達の反応は…………うん、何か想像以上でした。

 

それはもうすっごい食い付き様で、聞いてもないのに音機関のことを説明してくれちゃったり、自分達は専門じゃないが子供の頃から音機関と共にあるんだよ! と熱弁してくれたりと、もうぶっちゃけうざかった。

 

「あーとってもゆういぎなじかんだったなあ。それで俺って通っていいの?」

 

棒読みで実に端的に感想を述べると、兵士達は語りきって満足したのか笑顔で答えた。

 

「ああ、いいぞ。よくよく考えてみれば、赤い悪魔の育ちは貴族なんだ。だから坊主は違うな」

 

何か馬鹿っぽい顔してるしな。貴族には見えねえや。どっちかって言うとどっかの悪ガキって感じだ。

 

兵士達は揃って失礼なことを言いつつも、笑顔で俺を町の中に入れてくれた。

 

…………。

 

……………………。

 

………………………………。

 

「え……? あれ……? ……えっと…………入れちゃった?」

 

なんと町の中に入れてしまった。警備がずさんなのか、俺がそんなに貴族っぽくなかったのか……どっちにしても頭が痛くなる。

 

確かにバチカルの王族の髪の色は赤は赤でも真紅で、俺の橙に近い赤とは違う。シンクはそこらへんがレプリカの『劣化』と言っていたが、それでも俺が七年も貴族として育てられて来たのは事実なのに……。

 

「そういえばナタリアも金髪だよな……」

 

逆に自慢出来るほどの俺の記憶力を信じてやれば、ナタリアの両親の髪の毛は赤と黒。ナタリアの母親を実際に見たことはないが、何時だったか肖像画で見た覚えがある。

 

よって、ナタリアのような金髪の子供は生まれないはずなのだが……。

 

「……実はナタリアも偽者だったりして」

 

…………ま、そんなわけないか。ナタリアは絵に描いたような王族そのものだし。俺は自分の飛躍し過ぎた発想にある意味感心してしまった。流石は俺。

 

…………。

 

言っていて少し虚しくなって来ました。

 

自分で言って落ち込むという奇行もほどほどに、俺は大通りから外れ少し危なそうな薄暗い道に入る。

 

ベルケンドの町にはいたるところに音機関が配置されていた。駆動音は絶えることなく、目に映る光景も飽きが来ない。

 

だがそれも日の当たる場所の話で、例えどんな町でも寂れた人が来ない静かな場所は存在する。

 

ヴァン師匠を呼び出した場所は、そんなところだった。

 

「それで、だ…………お前等は何してんだよ」

 

とても衛生状態が良いとは言えない路地裏で、シンクとアリエッタは菓子をもぐもぐとやっていた。

 

「それはこっちの台詞さ。何でルークが町に入れてるわけ?」

 

「アリエッタ達は……まだ何もしてないです」

 

不思議そうに俺を見る二人。不思議なのはお前等の怠けようだ。

 

「お前等が時間になっても動かなかったから、仕方なく強行手段に出たんだよ」

 

強行手段は嘘だが、予定時間に行ったのに兵士達がしっかりいたのには本気でびびった。

 

「時間って……作戦までまだ一時間もあるけど」

 

シンクの呆れたような声に、俺はハッとした。

 

「もしかして俺……一時間間違えた……?」

 

恐る恐る二人を見てみれば、無言でこくりと頷かれた。

 

何てことだ……。

 

初歩的とかそんなレベル以前のミスだ。さりげなく本気で捕まりかけていた。

 

「ルーク、顔が真っ青です……。大丈夫?」

 

よほど俺の顔が青ざめていたのか、アリエッタが駆け寄って来た。

 

「ああ……大丈夫だけど……。俺、やっぱり緊張してんのかねえ」

 

ヴァン師匠と会うのはアクゼリュス以来だ。もう覚悟は済ませたはずなのだが、それでもやはり完全とは言えないらしい。

 

「安心してもいいと思うよ」

 

ぽつりとシンクが言う。そっけない声だったが、どことなく優しさを感じた。

 

「文字通り全身全霊をかけてるんでしょ? ヴァンに何を言われようが、ヴァンが何をしようが、ここで立ち止まる気はないんでしょ? ルークはルークで――」

 

シンクの言葉を遮り、俺はしっかりと口に出して言う。

 

「大丈夫だよ、もう大丈夫だ。シンク、それは後にとっとかねえといけねえんだ、ちゃんと覚えてる」

 

目を瞑り、自分の頬を両手で叩く。すっとする痛みと共に、気合いが入った。

 

俺の顔を見て、シンクとアリエッタは満足そうに一度頷いた。

 

「ファイト」

 

「ファイト……です」

 

俺は不適に笑い、頷き返した。

 

「安心して任せろ――俺はルークだぞ」

 

 

*

 

 

日も暮れ始め夕日で全てが赤く染まる頃、己の副官であるリグレットだけを伴い、ヴァン・グランツは現れた。

 

鋭い眼光で、威厳に満ち溢れた動作はとても二十代には見えない。若くしてオラクル騎士団主席総長まで登り詰めた男の醸し出す空気は、それに触れるだけで身が切れそうだった。

 

「一つ聞くが、お前は私にとってティアが弱点に成り得ると思っているのか」

 

ヴァン・グランツが発した低く重たい声は、俺への問いかけではなく、断定の意を込めたものだった。

 

「貴方を呼び出せる可能性が僅かでもあるものは、全部使いました。それだけです」

 

ティア、テオドーロ市長、アッシュ、呼び出しに応じなければヴァン・グランツに縁のあるものを全て壊すと宣言していた。

 

「私がここに出向いたのは、シンクとアリエッタに最後の確認をする為だ。既に役目を終えたレプリカには、用はない」

 

冷たい言葉が胸に刺さるが、この程度は覚悟していた。

 

ヴァン師匠は俺達三人の前で立ち止まり、シンクとアリエッタを交互に見る。

 

「あくまでも、お前達は私から離れると言うのか」

 

ヴァン師匠の眼光に怯んだ様子も見せず、シンクは口許を吊り上げた。

 

「リグレットから聞いてるでしょ? 僕はあんたの創る世界より、この世界を選んだ」

 

アリエッタもシンクに続き、泣きそうになりながらも言う。

 

「アリエッタは……イオン様が生きていたこの世界が、好き。それにルークとシンクが……アリエッタに教えてくれました。なくなったものは、もう元には戻らないって」

 

二人の否定の言葉に、ヴァン師匠は静かに頷いた。そして無言のまま俺達に背を向けて歩き出す。

 

…………徹底的に俺を無視するつもりか。

 

それなら。

 

それなら俺も勝手にさせて貰おうじゃあないか。

 

「ヴァン師匠」

 

俺の声に、師匠は歩みを止めた。『師匠』を強調したためだろう。

 

あれだけ存在を否定したにも関わらず、未だに師匠と呼ぶ俺を理解出来なかったのかもしれない。

 

振り返りはしないが、師匠は一瞬でも止まった。この機会を逃しはしない。

 

「俺の世界の四分の一は――旅の仲間、ガイやティア達でした」

 

唐突に語り出した俺に、リグレットが眉を少し上げた。俺はそれを無視して続ける。

 

「四分の一は――バチカルの、かつては家族と呼んでいた人達」

 

一旦区切り、一息つく。

 

「そして、俺の世界の半分は――ヴァン師匠、貴方でした」

 

その言葉に、ヴァン師匠は静かにこちらを向いた。読み取ることができない表情は、確かに俺が尊敬して止まなかった人。

 

俺にとっては、世界で一番大きかった人。

 

「だけどよ――――」

 

一度目を瞑り、全てを吐き出す。

 

「――それも今日までだ」

 

ヴァン師匠の目をしっかりと見据る。

 

「アクゼリュスを落とした後、仲間とわかれた。バチカルを襲撃して、俺はルーク・フォン・ファブレとしての居場所をなくした。――――だから、今からは最後の半分とお別れだ」

 

ヴァン師匠から視線を外し、三人を順に見て声を張り上げる。

 

「リグレット、シンク、アリエッタ、お前等三人が証人だ! よーく聞いといてくれよ!!」

 

ヴァン師匠に視線を戻し、思い切り笑ってやる。

 

「今から改めて宣言する――俺はてめえの敵として全身全霊をかけて邪魔させてもらうぜ――ヴァン!!」

 

「俺の小さかった世界とは今日で完全にお別れだ。たった今この瞬間から、俺はてめえの操り人形じゃなくて、ただの『ルーク』だ。――俺は俺で俺以外の誰でもなく、俺は俺として俺らしく生きてやる!」

 

俺の声だけが木霊する路地裏。しばらくしてヴァンは僅かに口許を緩めた。

 

「お前は……『聖なる焔の光』ではなく、『聖なる焔の光』のレプリカとしてでもなく、お前自身として私に敵対する……そういうことか?」

 

やっと言葉を発したヴァンに、俺は鼻で笑って答える。

 

「当然だっつーの、『聖なる焔の光』なんざたかがスコアが決めた役割じゃねえか。スコア程度に言われなくても俺は自分の意志でやりたいようにやるし、どうせこの俺がスコアをぶっ壊すんだからそんな役割は関係ねえよ」

 

もうそんなご大層な役割は必要ない。そもそもスコア通りの世界ならば、『聖なる焔の光』はもうその役目を命と共に終えているはず。

 

だから今の俺は、ただの犯罪者。

 

それ以上でもそれ以下でもない。

 

『聖なる焔の光』として戦うか、ただの『ルーク』として戦うか。

 

結局することは同じなのだから、端から見ればその違いは大した意味を持たないだろう。

 

だが、俺にとっては重大な意味を持つ。

 

俺は瞳に力を込めて、どこか楽しそうなヴァンの野郎の顔に、指を突きつける。

 

「もう一回言うぜ――俺はお前を認めない。お前がこの世界を壊すって言うんなら、俺はこの世界を守る。『聖なる焔の光』なんてご大層なモノじゃなくて、ちっぽけな何処にでもいる一人の人間として――全身全霊をかけて余すところ無く完膚なきまでにどこまでも徹底的に、ヴァン・グランツを邪魔してやる」

 

必要以上に敵意を込めた俺の心からの言葉。嘘偽りのないその言葉を受けて、ヴァンは静かに笑った。

「私は――ルーク、お前を認めよう。『聖なる焔の光』としてのお前も、そのレプリカとしてのお前も、例えいくら脅威になろうと私の駒にすぎなかった。だが、ただの『ルーク』ならば話は別だ。認めよう、『ルーク』の存在は私のシナリオになかった」

 

ヴァンが右手を静かに持ち上げる。その手は俺の前に差し出された。

 

「――ルーク、私の手を取れ。お前にはその資格がある。『聖なる焔の光』としてではなく、『ルーク』として私の元に来い」

 

圧倒的な威厳を持つその声に、憧れ続けたその声に、心が揺れた。

 

俺は今、この人に認められている。

 

到底言葉に出来ないほど嬉しかった。

 

……だけど。

 

だけど、もう答は分かりきっている。

 

「取らねえよ馬鹿野郎」

 

差し出されたその手を、払い除けてやった。

 

ヴァンの右手を左手の甲で打払った乾いた音が、心地よいほど辺りに響く。

 

言葉での決別は、胸に穴が空いたかのような感覚を覚えた。

 

しかし行動での決別は、確かな手応えに胸が弾んだ。

 

――これでようやく、俺は俺として立てる。

 

おそらくは、爛々と瞳を輝かせ邪悪に口角を上げているであろう俺に、ヴァンも同じ表情で返した。

 

「惜しい」

 

払われた右手は、腰に帯びた剣に伸びる。

 

「実に惜しい。――だが目的遂行の為には、ここでお前を討たない手はない」

 

その気になれば何時でも俺程度の首を切り落とせる状態で、ヴァンは俺を睥睨する。

 

「お前の準備した策ごと切り裂いてやろう。先にも言った通り、今の私に人質は意味を成さない」

 

物理的な策だとしても自らの実力で打ち破る。ヴァンの瞳と剣はそう語っていた。

 

呼び出し、待ち伏せたからには策がある。そう考えるのは当然のこと。

 

だが、『当然』なんてモノ――そんな常識を俺に求めるのは間違えている。

 

「はっ。策なんてねえよ、殺したいなら殺せ。と言うより、ここで死ぬってのが俺の策か」

 

「…………」

 

「――――……っ!」

 

相変わらず無表情のヴァンと、僅かに動揺を見せたリグレット。やはりヴァンはこの程度では驚かないか。

 

両手を大きく広げ、俺は抵抗する意志がないことを示す。

 

「今の俺じゃあ、てめえを殺せない。シンクとアリエッタがいたって、そっちにはリグレットもいる。だから俺は抵抗しない」

 

驚いてはいないものの、俺の真意が見えないのかヴァン目を鋭くする。

 

「矛盾している。お前はまだ何も出来ていない。戦争が起こらなかった程度のこと、スコアは物ともしないぞ」

 

「おいおい、勘違いすんなよ。俺だってそのくらい理解できてるさ。その程度じゃあ到底スコアに詠まれた未来は覆せない、わかってる」

 

だからこそヴァンは『レプリカ計画』なんてものを考えたんだ。

 

だから、ちっぽけな俺だけの力で、スコアを壊せるなんて思ってもいない。

 

「俺がやりたいことは、キムラスカ、マルクト、ダアトの協力関係を作ること、世界を一つにすることだ。一つになった世界にはヴァン、その歳で騎士団のトップにまで登り詰めたお前の力がいる。ここでお前が俺を殺せば、お前は自動的にそこに組み込まれるだろうよ」

 

死ぬことだけが、罪を償うことではない。ヴァンには、統一された世界で存分に働いてもらう。

 

世界共通の大犯罪者にして超危険人物を排除した功績は、ヴァンを徹底的に縛りつけるだろう。

 

ヴァンの罪を新聞に書かなかった目的は、そこにある。

 

「お前の監視は、ジェイド辺りが喜んでやってくれるだろうよ」

 

邪悪に笑う俺に、ヴァンは冷静な瞳を向ける。手は剣の柄から離れていた。

 

「私の目的はこの世界のスコアからの脱却。お前が言っているのはこの世界の平和。私とお前では見ているものが違う」

 

 

「だから勘違いすんなよ。スコアを壊すには、人類が生き残ればいい。その兆しが見えれば、てめえは動く。だってそうだろ? ヴァン・グランツがレプリカ計画を考えたのは――この世界が後少しで滅びるから」

 

「――――……っ!?」

 

ここに来てようやく、ヴァンの顔に驚愕が浮かんだ。

 

「知って、いたのか……?」

 

冷静さを欠いたヴァンは、戸惑いながら俺に聞く。

 

実際には、確信はなかった。バチカルから逃げ出す時、自分で思った言葉に覚えた僅かな違和感。

 

それからずっと違和感の正体を明らかにしようと、必死に思考した。

 

そして辿り着いた、笑えない冗談のような答え。

 

「始めはよ、スコア自体に疑問を持ったんだ。スコアに詠まれたことは、実際に起こる。俺やシンクのようなイレギュラーもあるけど、大筋は変わらない。それで次は、ユリアが残したこの世界自体の未来を詠んだスコアに疑問を持った。ユリアの残した譜石は七つ。で、今は六つ目のスコアの途中。残りのスコアはあと一つと半分くらい」

 

それに気づいた時、本気で恐怖した。

 

「だったら――七つ目のスコアの続きは? なんでユリアは七つしかスコアを残さなかった? …………考えられる理由は二つ。一つ、ユリアの力でもそれ以降の未来は詠めなかった。もう一つは――それ以降の未来を詠む必要がなかった」

 

つまり人類はそこで滅亡する。

 

俺の言葉を受けて、ヴァンは静かに頷いた。

 

「そうだ。第七譜石には、人類の滅亡が詠まれている」

 

簡単に肯定したヴァンに、俺は少々拍子抜けしてしまった。まあ、ここで誤魔化す意味はないから肯定はするだろうが、それにしてもやけにあっさりしている。

 

「そう。少し考えれば誰でも思い当たることなのだ。それなのに誰もがスコアを信じて疑わない」

 

首を数度横に振り、悲嘆にくれるヴァン。

 

ヴァンの言うことはわかる。何せこの俺でも気づけた事実なのに、今まで誰も気づかなかった。それはもう異常だ。

 

だからこそ俺は自分の予想に確信を持てなかった。俺の予想をシンクやアリエッタに言った時も、二人は口を揃えて「考えたこともなかった」と答えたし。

 

それにしてもヴァンの慎重さには呆れてしまう。第七譜石のことはリグレットにしか言っていないらしい。現にシンクとアリエッタは知っていなかったし、リグレットに驚いた様子は見られない。

 

思考にふける俺は、ヴァンの声で我に返った。

 

「だからこそ私はこの腐敗しきった世界を壊し、新たにレプリカ世界を創造しなければならない」

 

一辺の迷いもなく言い切るヴァン。……ヴァンもまた、リグレットと同じくこの世界を憎んでいると言うことか。

 

「私はこの世界のために生きるつもりはない。今回はお前を――スコアの真実に気づいたお前を称え、私が引くとしよう」

 

もう話すことはないと言わんばかりに背を向け、歩き出すヴァン。

 

…………どうやら、命拾いしたっぽい。

 

ヴァンの背中を見ながら、ほっと一息つこうとした瞬間、

 

「閣下。少し時間を頂いてもよろしいでしょうか」

 

リグレットが唐突に口を開いた。ヴァンは歩みを止め、若干戸惑った様子を見せながらも頷いた。

 

それを確認したリグレットは無言で俺にスタスタと近づいて来た。

 

「目を瞑れ」

 

真ん前に迫り淡々と言うリグレット。

 

な、何なんだ……一体……。

 

妙な迫力に飲まれ、俺はつい言われるがまま目を瞑ってしまった。

 

「ぐおぁっ!!」

 

脳天にとんでもない衝撃が走った。俺はあまりの痛みに堪らず地面を転がる。

 

「ちょっ!? えっ!? い、いってぇぇえっ!! あ、頭死んで天国がっ!?」

 

しばらくして俺の口から出た言葉は、もうなんか意味をなしていなかった。

 

涙が滲んでいるが、譜銃のグリップで俺の頭を殴った犯人、痛みの元凶であるリグレットを殺意を込めて睨む。

 

睨む。

 

睨む……。

 

睨んだけど……リグレットの瞳が恐くて、首ごと反らしてしまった。

 

「私はお前に言ったはずだ。死に急ぐなと」

 

もう何か、余りの恐怖でついつい正座してしまった。

 

「は、はい。確かにおっしゃられました」

 

「では聞くが、お前は今まで何をして来た? 言ってみろ」

 

銃口を眉間に突きつけられ、俺は迷うことなく敬礼した。

 

「アイアイサーッ! バチカルを襲撃して指名手配されてベルケンドに変装なしで潜入してヴァン・グランツと会談いたしました!!」

 

「違う」

 

一言でばっさり切られた。ついでにまた頭を殴られる。

 

痛みで地面を転がる俺を、リグレットは冷めきった瞳でもって見下ろす。

 

「お前はバチカルで自殺未遂の計画を実行し奇跡的に生き残り指名手配を受け、ここで閣下に情けをかけて頂きまたしても奇跡的に生き延びたんだ。お前を殺せば閣下が統一された世界で監視を受けながら貢献させられることになるだと? それは何だ? 本気で言っていたのか? そんな簡単な話ですむか、この馬鹿が。それに変装なしで町に入っただと? お前はこの短期間で何度自殺しようとすれば気がすむんだ」

 

「すみませんでした!」

 

俺はもう迷うことなく土下座した。俺の人生で、初めて土下座した。後悔はない。だって死にたくないもん。

地面に頭を擦りつけること数分、ふと疑問が浮かんだ。

 

今さらな気もするが、一応聞いておく。

 

「あのよ、リグレット。なんでお前がそこまで怒ってんだ? お前って敵じゃん」

 

そう言ったらまたしても睨まれた。とっさに頭をかばったが、予想外にも殴られなかった。

 

「…………アリエッタだ。お前はアリエッタと約束しているだろう、それを破ることは許さない」

 

ああ、そういうことか。納得して、俺はつい調子にのっていたらないことを口走ってしまった。

 

「大丈夫だって、俺だって死ぬつもりはなかったさ。ちょっとは運任せもあったけど、ギリギリで生き延びれる作戦を三人でたてて来たんだからよ。それにしてもやっぱり――リグレットって優しいな」

 

俺の意識はそこで飛んだ。綺麗にぶっ飛んだ。リグレットに譜銃で頭をかち割られ、ブラックアウト。

 

起きたら町の外だった。

 

ヴァンとリグレットは俺に止めをささずに去って行ったらしい。シンクとアリエッタが守ってくれたのだろう。

 

「それにしても……スコアの真実、か」

 

ヴァンが最後に言った言葉。どうしてか妙に引っかかる。何かがおかしい。

 

ヴァンは真実に気づかないこの世界を腐敗していると言った。スコアに従う、自分達の意志が欠如している世界を。

 

でも。

 

でもなんで、皆は疑問に思わないのだろうか。第七譜石の後の未来のことを。

 

ユリアが残した譜石が七つしかないことには、誰も疑問を抱いていない。

 

「…………つーかそもそも、スコアって何なんだよ」

 

第七音素に含まれる記憶粒子を詠み取るモノ。

 

じゃあ、記憶粒子って何だ?

 

「…………頭痛くなってきた」

 

考えることが多すぎて嫌になる。

 

結局のところ、何でヴァンが第七譜石の内容を知っていたのかもわからない。

 

それに第七譜石が人類滅亡を詠んだモノなら、ユリアは人々がスコアを遵守することを望んでいたわけではなく、むしろ未来への警告の為に第七譜石を残し、スコアに詠まれた未来が覆されることを望んでいたことになる…………のか?

 

何かとっても重大っぽいことに気づいたのが、可哀想な頭を持つ犯罪者な俺だけって辺り、オールドラントはそろそろ本気でやばいのかもしれない。

 

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