TOA ~突き進め、我が道を!~   作:あきあ

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第八話 雪上の合戦

悠然と広がる海は、燦々と輝く太陽を白く煌めき返す。穏やかな波は白い煌めきを一瞬たりとも留めることはなく、それは刹那の宝石として次々と世界に溶けて行く。

 

シェリダンの港、そこに集まったキムラスカ、マルクト、ダアトの兵士達から離れた所。

 

俺はそこで大海原を進むタルタロスを見送りながら、一人虚しく呟いた。

 

「…………ヴァンの糞野郎、マジで来なかったじゃねえか」

 

ヴァンにとって地核が振動していることは相当なアドバンテージだったはずだ。地核の振動は大地を液状化させ、パッセージリングを暴走させる。パッセージリングの暴走は、プラネットストームを過剰にし大量の第七音素を作ることになる。

 

レプリカを作るには大量の第七音素が必要だから、ヴァンはこの計画を邪魔しにくると踏んでいた。

 

なのにヴァンは来なかった。

 

「……やっぱ納得いかねえな」

 

「ま、いいんじゃないの。楽できたし」

 

どうやら部下に後のことを任せたらしいシンクとアリエッタが、並んで俺の後ろに立っていた。

 

不覚。全く気づかなかった。

 

「何もなくて、アリエッタも嬉しい…です」

 

人形を抱き締めて、ほっと一息つくアリエッタ。

 

「まあ……そうなんだけどな。タルタロスにはあいつ等が護衛についてるし、成功は成功だ」

 

もう作戦の失敗は疑いようはないし、今更俺にできることはない。

 

相変わらず指名手配されている俺は、一応フード被って変装しているとは言えバレない保証はないので、見つからない内に撤退した。

 

正直に言って、ヴァンと直接戦うと相当気合いを入れて来ていた。だから何と言うか……うん、虚しいですね。

 

 

*

 

 

結論だけ言うと、地核の静止はあっさりと成功してしまった。

 

しかし多少問題は残る。

 

曇天から降り続ける雪の中、俺達はケテルブルグ付近の雪山を登っていた。

 

「で、地核にローレライが閉じ込められてるってマジなのか?」

 

「ええ。私の身体を使って、何かを伝えようとしたらしいけれど……私はよく覚えてないの」

 

一応コートを着ているとは言え、元がヘソ出したナイスな服装な俺は寒さのあまりガタガタと震えている。そんな俺を呆れたように見ながら、ティアが申しわけなさそうに言うのだった。

 

ローレライ、ね。

 

シンクから地核にはローレライがいるとは聞いていたが、閉じ込められてるというのは知らなかった。

 

「なるほどね、ヴァンの奴そんなことまで隠してたのか。僕ってよほど信用されてなかったんだ」

 

あいつなんて用心深いんだよ、とシンクは呆れたように吐き捨てた。

 

「それでアッシュ、ローレライは何て言ってたんだ?」

 

「どうして俺に聞く」

 

「ああん? どうしてって、あの声はお前と俺にしか聞こえねえだろ。お前が一番聞こえてる可能性高いじゃねえか」

 

相変わらず不機嫌そうなアッシュは軽く舌打する。こいつは喧嘩売ってんのか。

 

「さっき言っただろうが、ローレライはティアの身体を使ったんだよ。俺だってかろうじて『地核から解放』、『永劫回帰』、『悪夢だ』、『やつの呪縛』、『責任を取れ』って単語が聞き取れただけだ」

 

「……は? まるで意味わかんねえじゃねえか……つーか『責任を取れ』って……は?」

 

何の責任だよ。皆に視線で尋ねるが、揃って首を横に振られた。

 

わからないらしい。

 

俺は大きく嘆息して、ついでにくしゃみをした。

 

いや、マジで寒い。

 

今こんな辛いめにあっているのは、俺と何時もの二人シンクとアリエッタに、アクゼリュス以前のメンバーとアッシュを加えた十人。それと数匹のライガ。

 

何時もはセフィロトに向かう時に他にも護衛がつくらしいのだが、今回は雪山という悪条件のため無理だったらしい。

 

「それにしても、パッセージリング起動するのに、ティアとアッシュがいねえと無理ってのは面倒な話だよな」

 

ぼやく俺にジェイドが苦笑する。

 

「超振動の制御ができれば、貴方にもパッセージリングの操作はできますがね」

 

「ん? 超振動ならもう制御できるぜ。ついでに治癒術もある程度使えるようになったし」

 

「な! ほんとなのか、ルーク?」

 

なぜか驚愕するガイ。その声が大きすぎて、隣を歩いていた俺はついつい耳を塞いでしまう。

 

「ああ、アリエッタにしっかり教えてもらったからな。つーか、何でそんなに驚くんだ?」

 

「いや、だって……お前が譜術をねえ」

 

「馬鹿にしてるんだな、それは」

 

ガイの腹を軽く殴り、制裁を加えた。

 

「あ、そういえば」

 

超振動で思い出し、俺はアニスと手なんか繋いで仲睦まじく歩くイオンに言う。イオンとアニスは……まあ、そういう関係になったらしい。

「イオンは、身体は大丈夫なのか?」

 

「ええ、大丈夫ですよ。アクゼリュスからは一切、ダアト式譜術は使ってません。セフィロトのダアト式封呪はルークの助言通り、アッシュが超振動で破壊してくれていますから」

 

「そっか。ならいいや。つーか、マジでできたんだな、超振動でダアト式封呪消しさるって」

 

自分で言ったことだったが、びっくりだ。まさか本当に可能だったとは。

 

やっぱ超振動って反則だよなあ、としみじみ思いながら俺達は進んだ。

 

進んだ。

 

進んだ。

 

進んだのだが、雪山は辛い。まだ頂上が見えてこない。フレスブルグのふーちゃんも、鳥だから寒いところでは上手く飛べないらしい。だから自力で登るしかないのだ。

 

「どうして、ナタリアはここにいるの?」

 

最初は慣れない相手に戸惑っていたアリエッタだが、今ではすっかりと仲良くなってしまったナタリアとティアと楽しそうに会話している。

 

「え、わ、私は一国の姫として……」

 

「でも、お姫様がこんな所に来るって変……です」

 

「いえ、ですから……」

 

アリエッタの鋭い……いや、当然の質問にナタリアはしどろもどろにしか返せない。

 

「アリエッタ、ナタリアはアッシュのことが――」

 

「ちょ、ティア!!」

 

微笑みながら答えるティアに、ナタリアは顔を真っ赤にして叫んだ。

 

その横ではイオンとアニスが楽しそうに様子を見ている。

 

「だってよ、アッシュ」

 

「だとよ、アッシュ」

 

シンクとガイも悪乗りして、アッシュをからかう。アッシュは顔を真っ赤にして……気持悪いな、あいつ……押し黙っている。

 

「…………」

 

「どうかしましたか、そんな顔して」

 

皆の様子を何とはなしに眺めていた俺を、ジェイドが真剣な顔で見つめる。

 

「老けて見えます」

 

……失礼なやつだ。

 

「いや、ただみんな幸せそうだからな、嬉しいんだ。アリエッタも最初は親の敵だからって、お前等とは話し難そうだったろ? だけど結局、俺を殺すってことで全部流してくれそうだしな。シンクだって最初は生きることは楽しくないなんて言ってたけど、今じゃああんなに楽しそうに笑ってるし」

 

慌てて弁解するナタリアを見て、可笑しそうに笑うアリエッタ。

 

キレたアッシュからガイと共に逃げつつ、楽しそうに笑うシンク。

 

「……貴方はやはり、生きるつもりは――」

 

――ぞわりと、背筋に寒気が走った。

 

「全員構えろ!!」

 

叫びながらジェイドを突き飛ばし、後ろに飛んで俺は剣を抜く。

 

それと同時に、俺の足下の雪が小さく爆ぜた。

 

「ちっ! ここで来るかよ!!」

 

「すみません、油断しました!」

 

立ち上がり槍を取り出すジェイド。皆も状況を掴んだようで、それぞれ武器を構えた。

 

俺は神経を集中させながら前方の崖の上、そこに立つ三つの影を睥睨する。

 

「ハーハッハッハ! ジェーイード! ようやく会えましたねー!!」

 

耳障りな高笑いと共に、崖から巨大な譜業兵器が降って来た。

 

この声、聞き覚えがある。

 

「死神のディストか……」

「薔薇です、薔ー薇!

私は死神なんて名前認めません!」

 

譜業兵器に搭乗しているディストの声は拡声機を通してのもので、ノイズが入るせいかやたら煩わしい。

 

譜業兵器の後ろから、残り二つの影も姿を現す。

 

譜銃を両手に構える金髪の女性。

 

黒い鎧に全身を包んだ巨漢。

 

「リグレットにラルゴ……残りの六神将が揃い踏みか」

 

俺は油断なく周囲を見渡して、シンクとアリエッタとジェイドにアイコンタクトを送る。

 

――今の状況は、危険だ。

 

六神将が出て来たということは、ここで俺達を潰すつもりだろう。恐らく、相当な数の兵士達も来ている。最悪、ヴァンがいる可能性だってあり得るのだ。

 

「……ティア、アリエッタ……私はお前達をここで討つ」

 

銃口を向け、冷たく言い放つリグレット。

 

…………何だ、この感じは? 俺はふと、違和感を覚える。

 

「…………教官」

 

「…………リグレット」

 

唇を噛み締めるティアとアリエッタ。お互いにもう言葉は要らないという状態。

 

……やはり、何かがおかしい。

 

「おい……リグレット」

 

「…………」

 

違和感の正体を探ろうと声をかけるが、リグレットは俺に一瞥をくれようとさえしない。

 

「お姫様はお姫様らしく、城で大人しくしていればいいものを……」

 

「私は王族として、父の代わりとして、国を……いえ、世界を救う責任があります!」

 

「父、か。…………もはや、容赦は必要ないな……!」

 

ラルゴとナタリアが睨み合い、場の空気が更に鋭くなる。すでに何時戦いが始まろうとおかしくない。

 

俺はそんな空気の中、もう一度シンク、アリエッタ、ジェイドの順に視線を送る。

 

「全員に伝えたよ」

 

「準備完了……です」

 

「任せましたよ」

 

三人の素早い返答に、俺は聖樹の御剣を構えた。

 

と、同時にジェイドが声を張り上げる。

 

「行きますよ!!」

 

ジェイドの合図で、山頂にに向かい疾走するライガ達に皆は飛び乗る。

 

俺はライガ達の前方――六神将の方に剣を振るった。

 

「燃え尽きろ――――魔王絶炎皇!!」

 

集束された音素が一気に解放され、刀身から吹き出した炎はリグレット達を薙ぐ。

 

視界を奪われた相手の頭上を飛び越え、ライガ達は山頂に向かって走る。

 

「え!? ルーク、貴方まさか!」

 

「前見てろ! まだ敵はいる!!」

 

ライガの上からこちらを振り返るティアに、俺は叫び返した。

 

どうやらシンクの奴、細かい説明は省きやがったらしい。ジェイド以外が、残った俺、シンク、アリエッタに驚愕している。

 

「ジェイード! 待ちなさーい! 私を無視するなー!」

 

「やべ! 目くらましになってねえ!」

 

譜業兵器にあの程度の炎が効くはずがなく、ディストはライガ達を追って行ってしまった。

 

「まあ問題ないでしょ。この二人さえ足止めしてればね」

 

「アリエッタのお友達は、強いから大丈夫だもん」

 

シンクとアリエッタは気丈に言い放ち、それぞれが位置を取り直した。

 

シンクは俺の横に並び、アリエッタは後ろに下がる。

 

これで俺達の準備は整った。

 

「おい、お前等。パッセージリングに何しやがった」

 

「…………」

 

俺の質問には応えず、ただ静かに立ち塞がる二人。しばらく均衡状態が続いたが、シンクがそれを破る。

 

「ルーク、おかしいよ。敵の数が少ない……いや、あの三人以外いない」

 

「いない……?」

 

言われて慌てて確認するが、確かに俺達が包囲されている様子もなく、ジェイド達が敵を払いながら逃げている気配もない。微かに聞こえるのは、遥か先からの譜業兵器の駆動音だけ。

 

――脳裏を、嫌な予感がかすめる。

 

「リグレット、正直に答えろ! お前等は――いや、ヴァンに何があった!」

 

冷静さを保てず、俺は叫んでいた。しかしリグレットは、静かに首を横に振る。

 

「…………決着を、つけさせてくれ」

 

「リグレット!!」

 

俺の叫びに応えたのは、リグレットではなくラルゴだった。その巨大な鎌を横溜に構え、静かに威圧する。

 

「小僧、これは総長の命令だ。これでもう言葉は必要ないだろう」

 

眼光鋭く睨むラルゴに、譲る様子はない。俺は舌打し、忌々しく告げる。

 

「くそっ! わかったよ、やってやろうじゃねえか!」

 

荒々しく剣を持ち直し、俺は腰を低く落とす。話しは、あの二人を叩きのめしてからだ。

 

「僕はリグレットとやる。アリエッタは譜術で援護を」

 

「俺はラルゴか……」

 

「どうせリグレットとは戦い難いとか思ってるんでしょ」

 

「…………」

 

皮肉げに言ってくるシンクに、俺は何も返せずに黙るしかなかった。

 

「覚悟は……いいようだな」

 

譜銃を突き出したリグレットの声を皮切りに、俺達は駆け出した。

 

雪に足を取られそうになりながらも、俺は地を這うようにラルゴに肉薄する。

 

「おぉらぁっ!」

 

低い体勢のまま切り上げ、横に薙がれたラルゴの大鎌を上に弾く。弾かれた鎌は柄を中心にくるりと回転し、そのまま降り降ろされた。

 

しかし、既にそこに俺の姿はない。

 

「ぬっ……消え――」

 

「――飛燕瞬連斬!」

 

ラルゴの後ろに高速で回り込み、身体を捻りながら地を蹴る。

 

斜めに跳躍しながらの斬撃。そして音素を纏った足で空を蹴り身体を反転させ、幾度も斬撃を浴びせる。

 

「これで――ラスト!」

 

最後に一撃、相手を打ち上げるように切り上げた。

 

「軽い!」

 

「ぐっ……!」

 

しかしそれは力強く地を踏みしめたラルゴには効かず、逆に俺の身体が鎌によって吹き飛ばされた。

 

攻撃が、重過ぎる。

 

直前で身体を捻り芯はずらしたにも関わらず、柄の部分が当たった脇腹は悲鳴を上げている。

 

「ふん、あの速度で鎧の隙間を狙うか。効いたぞ」

 

「なーにが効いたぞだよ。全部微妙にずらしたクセに」

 

追撃はせず、ラルゴは鎧についた傷をさする。本来の技より多めに打ち込んで、それでも鎧の隙間を通せたのは三発だけ。

 

少し離れた所では、リグレットの銃撃をシンクがかわしながら接近していた。

 

「…………ファーストエイド」

 

手を脇腹に当てながら、小さく詠唱した治癒術を発動し傷を癒す。

 

「治癒術が使えたのか……厄介な奴だな」

 

「ばーか。回復ができなきゃ、鎧でガチガチに武装した相手に身体張って様子見なんてしねえよ」

 

「様子見ねえ。随分と余裕だな。初めて会った時からかなり成長はしたようだが――実力の差がわからないわけじゃあないだろ」

 

気分を害したのか、ラルゴは顔をしかめて首を鳴らす。実力の差を見せつけてやる、というところか。

 

「なら俺も本気で行くぜ、様子見は終了だ。てめえなら俺が本気を出しても――死にはしねえだろうからな」

 

俺は不適に笑い、指を聖樹の御剣の刀身に走らせた。周囲の音素が急速に刀身に集束し、淡く光を放つ。

 

俺の全力は相手が並の実力なら、自分が疲れて倒れるか相手が死ぬかの二択。しかしラルゴなら、この反則的な威力にもギリギリ堪えられるだろう。

 

「行くぜ――魔神拳!」

 

拳から音素の衝撃波を放ち、それに追随しラルゴに接近する。

 

「火竜爪!」

 

「喰らうかよ……!」

 

大きく振るわれた大鎌から火の刃が飛び、衝撃波ごと俺を切り裂かんと迫る。俺はそれを上に飛んでかわし、そのまま落下の勢いと共に蹴りつけた。

 

しかしラルゴに効いた様子はなく、俺が着地した瞬間を狙い鎌で薙払ってきた。

「ぐっ……一々重てえな……」

 

鎌の形状のため、斜め後ろから襲い来る刃を、半身になって木刀で何とか防ぎ、そのまま何とか拮抗を保つ。

 

「はっ。本気を出しても大した変わりがないぞ!」

 

「うるせえよ。今からが本領……だっ!!」

 

一度強く鎌を後ろに押して、完全にラルゴに背中を見せるように反転しながら背中から倒れた。俺の上を刃が通る。

 

「しっかりと受けねえと、足――飛ぶぜ」

 

素早く身体を起こし、その勢いごとラルゴの足を切りつけた。

 

「なっ!?」

 

寸前のところで柄で俺の一撃を受け止め、ある程度威力を殺したにも関わらず、聖樹の御剣はラルゴの具足を砕いていた。

 

「ちゃんと音素で強化しとかねえと、こいつの前じゃあ、鎧なんてただの重りにしかならねえぞ」

 

言いながら、俺は防御だけで精一杯のラルゴを何度も切りつける。

 

まともに一発喰らえば即死しそうなラルゴの攻撃は、正直、嫌になるほど恐い。しかし鎌なんて武器、懐に入っちまえば中々当たりはしないだろう。

 

とは言え、俺が全力を出せる時間も限られている。アリエッタの援護だって、雪で動きを制限されたシンクに精一杯で、期待は出来ない。

 

「…………畳み掛けるか」

 

意識を集中し、周囲の音素をフォンスロットを通じて体内に取り込む。戦闘中のためか、異常に高まった集中力は、激しい打ち合いの最中にもそれを可能とした。

 

「獅子戦哮!」

 

ラルゴの全身から音素の衝撃波が放出され、俺の身体は吹き飛ばされた。

 

やはり多少の隙があったらしい。

 

「いってぇなあ……まあ、準備できたからいいけどよ」

 

跳ね起き、木刀を相手につきつける。俺の息は既に上がっており、呼吸は荒々しかった。

 

「その馬鹿げた破壊力の副作用か」

 

「関係ねえよ。どうせ次で決着だからな」

 

鎧を削られ、至る所にダメージを負ったラルゴ。だが全ての傷は軽く、急所も外れている。

 

普通にやっていては、やはり勝てないだろう。

 

ハイリスク・ハイリターンが俺の基本姿勢だ。だから今取る行動はもう決まっている。

 

「ラルゴ、次が最後だ! 別に逃げてもいいけど、受けるつもりならお前も全力で来い。じゃねえとマジで死ぬぞ」

 

俺の言葉を受けて、ラルゴは大きく笑った。楽しくて仕方ないのではなく、呆れてしまったような笑いだ。

 

「お前は甘すぎる。これは殺し合いだぞ。スコアによって支配された世界は壊れるべきだと考える俺と、スコアによって支配された世界は変わるべきだと考えるお前。スコアをどうにかしたいという目的は同じだが、その手段は違う」

 

言い聞かせるような様子から一転、ラルゴの瞳が真剣さと強固な意志を湛える。

 

「これは俺とお前の生き方を賭けた戦い! そこに情け容赦は不要だ!!」

 

ラルゴの叫びに、全員が動きを止めた。シンクとアリエッタ、リグレットも何事かとこちらを見る。

 

目的は同じだが、手段は違う……か。ラルゴも俺も、同じ目的のために戦っている。

 

そう。今、世界はスコアから脱却したと思われているが、恐らく実際は違う。まだ、根本的には何も変わっていないのだ。

 

ヴァンもラルゴも、だからまだ世界を壊そうとしている。

 

だけど。

 

だけど、ラルゴの言っていることを、俺は認めるわけにはいかない。

 

気づけば俺は叫び返していた。

 

「ふざけんなボケェっ! てめえと俺の目的が同じ? んなわけねえだろうが!! スコアぶっ壊してもこの世界が残ってなきゃ意味ねえんだよ!! それに生き方を賭けた戦いだから殺す気で来いだぁ? 俺の生き方は『もうこれ以上殺さないように努力する』、に決まってんだ!! 生き方貫き通す為に殺し合ってたんじゃ本末転倒じゃねえか馬鹿野郎!!」

 

全部否定されるとは思っていなかったのだろう、ラルゴは唖然としていた。

 

俺はそれをチャンスとばかりに、ラルゴに向かって疾走する。

 

しかし流石は六神将。ラルゴは一瞬で気を持ち直し、大鎌を構えた。

 

「真っ向から迎え撃つ!!」

 

結果的に挑発となったようで、ラルゴは逃げずに撃退を選んだ。

 

「紅蓮――」

 

「烈震――」

 

ラルゴは身体を紅く染め、空間が裂けるほどの勢いで大鎌を大きく薙ぐ。

 

俺はそれを、体内に取り入れた全ての音素の半分を纏わせた突きで、強引に弾く。

 

「――旋衝嵐!!」

 

「――天衝!!」

 

ラルゴから巨大な炎の竜巻が発生する。猛り狂う炎の化身は、俺を飲み込み焼き付くそうと迫る。

 

俺は第二音素を纏った拳を振り上げ、地を巻き上げた。高く昇った雪の大地は、炎の竜巻に衝突する。

 

「ぐあ……っ!!」

 

しかし、炎の竜巻は止まらなかった。雪により火力が下がり、勢いも殺されはしたが、俺はそれに飲み込まれ吹き飛んだ。

 

「残念だったな、小僧……」

 

身体中に裂傷と火傷を負い、身動きが取れなくなった俺を見ながら、肩で息をしながらも、ラルゴは不適に笑った。

 

「体力の低下で、全力を出し切れなかったか」

 

鎌を肩に担いで、こちらに近づこうとするラルゴ。

 

止めを刺すつもりらしい。

 

だが。

 

「バーカ。まだ終わってねえよ」

 

俺は邪悪に笑って、眼を瞑った。

 

意識を――ラルゴの後ろに突き刺さった、聖樹の御剣に向ける。

 

「凍っちまいな――守護氷槍陣・改」

 

聖樹の御剣に集束されていた第四音素が解放され、眩いばかりの蒼い光を放つ。

 

「な!? いつの間に……!!」

 

ラルゴの炎によって溶けた雪は、空中に多量の水分として漂っている。それが爆発的な勢いで凍り付いて行き、ラルゴを襲った。

 

「く、くそっ……動けん……!」

 

聖樹の御剣を中心とした巨大な氷は、ラルゴを完全に巻き込み束縛した。

 

治癒術で最低限身体を癒し、氷から顔のみを出したラルゴに近づく。

 

「はっ。これで俺の勝ちだな」

 

「小僧、お前最初から……」

 

「一応、さっきの技のぶつけ合いは『俺自身』の全力だったから、嘘はついてねえよ。最後のは木刀の力だ」

 

忌々しそうに舌打するラルゴ。まあ、何を言っても騙したことに変わりはないからな。

 

しかしだ。

 

「戦いに卑怯も何もねえだろ、騙された方が悪いんだ。勝ちゃあいいんだよ、勝ちゃあな」

 

俺は竜巻に飲まれる寸前に、ラルゴの後ろに投げて突き刺していた聖樹の御剣を地面から抜いた。

 

「じゃ、気絶でもしてな」

言って、ラルゴの後頭部を殴る。ラルゴは間際まで氷から抜け出そうとしていたが、最後は呆気なく気絶した。

 

これで俺の勝利だ。

 

「さーてっと。助太刀にでも…………って何だよ、その目は」

 

シンクとアリエッタの助太刀をしようと振り返れば、三人ともが俺に何とも言えない目を向けていた。どうやらさっきからずっと見ていたらしい。

 

「……完全に悪役のセリフだね」

 

ボソッと呟き、俺から視線を外すシンク。アリエッタもリグレットも、ふいと顔を背けた。

 

「な……間違えたこと言ってねえだろ、俺は」

 

「言い方が……ダメ」

 

人形を抱きしめ、ダメ出しするアリエッタ。隣に控えていたライガまでも、ぐるぐると鳴いてアリエッタが正しいと肯定を示す。

 

何だかなあ……。これじゃあ本当に俺が悪者みたいじゃねえか。

 

俺はとぼとぼと歩いて、シンクとアリエッタに近づいた。

 

俺が離れたため、氷付けのラルゴの所までリグレットが後退した。

 

「まさか、ラルゴが敗れるとはな」

 

そう言うリグレットも、良く見れば足に傷を負っていた。

 

流石にシンクとアリエッタ、元六神将二人を相手にするのは無理だったらしい。

 

ラルゴが俺を退けるのを待ち、反撃する作戦だったのだろう。しかしそれも失敗に終わったわけだ。

 

「リグレット、俺達の勝ちでいいな? その足で三人を相手にするのは無理だろ」

 

まだ譜銃を下ろそうとしないリグレット。何とか説得出来ないものかと思いつつも、俺は戦う準備をする。

 

と。

 

低く重い音が、響き出した。上の方から聞こえるその音は、だんだんと大きくなって行く。

 

「やば、雪崩だ……!」

 

シンクの焦った声を聞いた瞬間、俺は走り出していた。

 

ラルゴは動けず、リグレットも足を痛めている。助けないと死ぬ。

 

「シンク、アリエッタ連れて逃げろ!」

 

「馬鹿! あんたも怪我が……ああー! もう! アリエッタ、崖の下まで走って!!」

 

アリエッタをライガに乗せて、俺とは反対側に駆けて行くシンク。

 

俺はそれを一瞬だけ確認して、リグレットとラルゴに向かって全速力で向かう。

 

「リグレット、ラルゴの氷溶かせ!!」

 

「馬鹿! 死ぬ気か!?」

 

「いいからやれ!!」

 

体内に音素を取り込みながら、悲鳴を上げる足を前へ前へと出す。

 

 

 

「間に合え!」

 

山肌を凄まじい勢いで飲み込む音は、すぐそこまで迫っていた。視界の隅では白い壁が押し寄せて来る。

 

譜術で氷を溶かし始めたリグレット。俺はその前に立ち、襲い来る雪崩に向かって手を突き出した。

 

「はぁぁああああああっ!!」

 

絶叫と共に、音素を解放する。両手から放出される光の奔流。

 

解放された超振動は、目前の雪崩を文字通り消し去る。

 

「ぐ……っ! や、やべえ、力が……」

 

既に限界近くまで擦りきれた精神力では、超振動を制御しきれない。

 

だんだんと小さくなる光の奔流。俺はそれを何とか持ち直そうと、更に集中力を高める。

 

だが。

 

「あ……?」

 

プツン、と俺の中の何かが切れた。

 

同時に、超振動の発生はピタリと止まる。目の前には、ただ白色が広がっていた。

 

「ルーク!」

 

凄まじい衝撃。

 

何も考える間もなく、全身を打ち付けられる。

 

飛びそうになる俺の意識をなんとか繋ぎ止めたのは、轟音に掻き消されかけた小さな悲鳴だった。

 

 

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