知波単学園との交流
──日本本土、熊本にある広々とした屋敷。
立派な木、立派な従者、立派な戦車、まさしく三大流派「西住流」家元が住まう屋敷であった。
そんな場所に一人の男子学生が訪れていた。
「────」
学生に相対してテーブル越しに座っているのは、西住流家元の西住しほであった。
互いに体ピクリとも動かさず沈黙に浸る。
「────」
家元であるしほ自身、正直言って困り果てていた。
何故ならば、目の前にいる学生、つまり士魂高等学校の生徒「西住小次郎」が非常に怒っていたからだ。
「(まずいわ……非常にまずい)」
小次郎が転生者なのはしほにとって重々承知であり、そもそものこと小次郎は西住家のご先祖様なのだから、その先祖が怒っている事態にしほは直面していたのだ。
どうしたものかと、しほは内心頭を抱えそうになる。
「あ、あの……ご先祖様?」
先祖が怒り続けている状態に堪えたのか、しほが先に口を開く。
すると転生後の学生とは思えないぐらいの鋭い眼光がギロリと、目の前のしほを睨んだ。
「(て、転生したとはいえ流石は元現役軍人の睨みね……、家元である私が軽く怯えるなんて)」
そう考えていると、小次郎は睨むのを止めて軽くため息を吐いた。
ゆっくりと用意されたお茶を飲んで一息つくと、小次郎は口を開く。
「──何故、俺が怒りをあらわにしているか……わかっているか?」
突然の問いかけに、しほは戸惑う。
だが流石は家元だけあって、しほは冷静に返す。
「……はい、本来の西住流から大きく変わってしまっている、ですよね?」
「違う、俺だって勝利への考え方が変わった事だけならばなまだ怒らん」
そう言って小次郎は、もう一杯もらったお茶を即座に飲み干して、勢いよく置いた。
この行動にしほは思わずビクッとしてしまう。
だがこの後の言葉が一番しほに刺さってしまうのだった。
「──そのせいで、貴様は大切な娘の一人を深く傷つけてしまったことに、俺は怒っているのだ」
「…………っ」
──何も言い返せなかった。
しほは確かに厳格な家元であるが、まほとみほのたった一人の母親でもあるのだ。
正論過ぎて、反論さえ浮かばない。
ただ黙って重い重いたった一つの言葉を聞くことしかできないのだ。
「どうして、その事を……」
「我が校の情報通である猪俣を舐めちゃいかんぞ、そんな情報ぐらいならすぐに知られていた」
「う……」
小次郎の言う猪俣という男、かつて大日本帝国陸軍少佐であった陸軍中野学校出身者である。
ハルピンの特務機関に所属していたこともあり、情報には長けている。
「……申し訳ございません」
せっかく立ち直りかけていたしほに対し、タイミング悪く小次郎に叱られたことによってショックと罪悪感が来襲する。
そんな状態を察したのか、小次郎は再びため息を吐く。
「……まったく、これは重症だな、お前も親ならシャキッとしろ」
「え……?」
「あの二人だって、母親がそんな状態になっているのを見たくはあるまい。ならば立ち直れ、いつみほが元気に帰ってきてもいいように」
「あっ……」
そう、小次郎は説教と同時に励ますためにも西住邸を訪れていたのだ。
まほの話を聞いた小次郎は、しばらくは知波単学園との交流のために双方の学園艦が日本本土に停泊しているため、ついでと言わんばかりにやってきたのだった。
「ご先祖様……はい、わかりました」
「それにほら、見てみろ。お前の旦那が心配そうにしているじゃないか」
「え……?」
小次郎の顔が向いている場所を見る、そこにはしほの夫……西住常男がこっそりとこの部屋の状況を見ていた。
心配そうな顔をしている常男を見たしほは、クスリと笑った。
「ははは、前から思っていたが優しい旦那じゃないか」
「ええ、私の自慢の夫です」
ようやく笑顔を見せたしほを見て小次郎は表情を緩くする。
そして鞄を持ち立ち上がった。
「まだ話をしたい所だが、そろそろ帰らねば知波単学園との練習試合に遅れるんでな」
「ご先祖様、貴方から見て知波単学園はどうですか?」
「テレビで見てはいるが、あの西絹代という隊長、なかなかやり手かもしれん」
「知波単学園の伝統を重んじつつも大改革を成功させた事は私も知っております、どうかお気をつけて……」
──小次郎はしほと常男にお辞儀をして屋敷を後にした。
そして屋敷の外で待っていた車に乗り込み、知波単学園が待つ場所へと向かっていった。
──試合会場に到着すると、士魂高等学校の戦車部隊そして新たに発足した士魂歩兵大隊が既に集まっていた。
小次郎は真っ先に樋口校長と東條教頭に会いにいく。
「西住小次郎、ただいま戻りました!」
「戻ったか、あと一時間で試合が始まるから知波単学園の隊長に挨拶してきたらどうだ?」
「そうさせていただきます、では失礼します!」
場を後にして小次郎は、知波単学園の隊長である西絹代の元へ歩いていく。
知波単の陣地に入っていくと、丸眼鏡におさげな髪型の少女が近づいてきた。
「俺に何かようか?」
「もしかしてですが、貴方が西住小次郎殿でありますか!?」
「そうだが……君はもしや車長の一人か?」
「やはり! 私は福田はるであります! 九五式軽戦車の車長をしております!」
ビシッと敬礼をする福田に小次郎はニコリと笑う。
「ハ号か……良い戦車に乗ってるな」
「恐縮であります! 本日は試合の程よろしくお願いします!」
「ああよろしく、互いにしっかりやろうな」
ではこれで、と福田は持ち場に戻っていく。
するともう一人、小次郎の元へやってきた。
「貴方が西住小次郎殿ですね?」
「そういう貴方は隊長の西絹代さんか」
──西絹代、知波単学園の戦車隊長になったばかりの生徒である。
先代の隊長が急に戦車道を辞退し、彼女が後任の隊長となった。
それからすぐに知波単学園の伝統と重視しながらの改革に着手、それが大成功するのだった。
「はい、まさか軍神西住戦車長にお会いできるとは思いもよりませんでした」
「ははは、俺は軍神という器じゃないさ」
互いに握手をしながら会話をしている。
手を離した後、西絹代は口を開いた。
「本日は陸戦道として初めての練習試合に協力していただき感謝しております」
「こちらも同じ気持ちさ、やるからには正々堂々と挑むから覚悟しておけよ?」
「承知しました。 では我ら知波単学園、全力をあげて貴方がたと戦います!」
両者は敬礼をしてその場を後にする。
互いの準備は完了、生徒達は整列を開始した。
この練習試合には多くの観客が集まっていた。
半数は一般人、もう半分は士魂高等学校と知波単学園の生徒達であった。
観客席の中には樋口校長と東条教頭の姿もあった。
試合が始まるので観客席に移っていたのだ。
「さて校長、この度の試合はどうなると思う?」
「ハッキリ言って予想がつきません。 いくら戦場の経験があるとはいえ……これはスポーツです。 ルール上負ける可能性もあるでしょう」
「ふーむ」
二人が勝敗を話し合っていると、一人の男が声をかけてくる。
この男の名は阿南惟幾、元陸軍大将である。
そして現在は知波単学園の理事長でもあるのだ。
「お二人、本日は我が知波単学園との練習試合の承諾、誠にありがとうございます」
「阿南、貴様が知波単学園の理事長をしていると聞いた時は驚いたぞ」
「それは私も同じ心情、あの東條大将が温情な教育方を行っていると聞いた時は仰天しましたな」
「フンッ、生まれ変わって何十年経ったと思っているのだ。 貴様は俺より十歳も若くて羨ましいくらいだ」
「四十代は素晴らしいですぞ? 脳の回転が五十代後半の閣下よりかは遥かに回転数が多い」
互いに睨み合う。
バチバチといった音が聞こえるかのような空間、樋口校長は苦笑いをしていた。
「あの、お二方? 試合が始まりますよ?」
「……ふむ、そう樋口校長が言うなら今は止めておきましょう」
「……まあそうだな、喧嘩より生徒の試合の方が大事だ」
やっと終わった言い争いに樋口校長はホッと息を吐く、いよいよ練習試合の始まりである。
士魂高等学校か、または知波単学園か、いよいよ────。
『それでは、士魂高等学校、対、知波単学園』
『──試合、開始‼︎』