SCP学園 ~鉄色の青は青春を送れるか?~   作:SCP学園モブ

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第1話 >突然のノア<

 それは、しばらく平和が続いた何の変哲もない天気のいい日のことであった。

 先生は今日もシャーレのオフィスでデスクの上にたまった仕事を処理していた。

 

『先生緊急事態です!』

『今通話できますか!』

 

 先生のスマホに、突如として緊急連絡のモモトークの通知が来る。差出人を確認すると、ミレニアムのセミナー所属、早瀬ユウカからであることが分かった。

 焦燥した様子が伺える文面から、先生は急いで彼女へ向けて通話を発信する。

 

「"ユウカ、どうしたの?"」

『せ、先生、大変です! ノアが……ノアが急に消えちゃったんです!』

「"ノアが消えた? どういうこと?"」

『と、とにかく! すみませんがミレニアムに来てもらえますか!? 詳細はそこで話しますので!!』

「"分かった。すぐに向かうから待ってて"」

 

 震えた声色からは彼女の動揺が伝わってくる。どうやらただ事ではないと先生は判断し、席を立って急いで向かう準備を始めた。

 ユウカの同級生、ノアが消えたとはどういうことなのか。一体彼女の身に何が起こったのか。突然やってきた事件の情報に多くの疑問と心配を浮かべながら、先生は準備をすまして急いでミレニアムへと向かっていった。

 

――――――――――――――――

 

「"はぁ……はぁ……お待たせ、ユウカ……!"」

「先生! これ、お水です……!」

「"ぁはぁ……ありがとう……!"」

 

 ユウカからの連絡から数時間後、先生はミレニアムに到着した。相当急いできたのであろう。汗をかいた先生の息は上がっており、肩で呼吸しているのが分かる。

 先生は彼女から受け取った水を一気に飲み干し、息を整える。そうして改めてユウカに何が起こったのかを聞くことにした。

 

「"ユウカ、連絡にあったノアが消えたってどういうことなの?"」

「はい、詳細をお話します。こちらにどうぞ……!」

 

 ユウカは先生をミレニアムタワーの中へと案内しながら事の経緯を話していった。

 

「私とノアは、今日もセミナーの仕事をデスクでしていました。そして昼の時間になったので、ノアと一緒にお昼ご飯を食べながら椅子に座ってお話していたんです」

「"うん……"」

 

 ユウカは顎に手を当て歩きながら当時の事を鮮明に語る。

 先生も彼女の話を真剣に聞く、話を聞く限りはまだなにもおかしな点はないように感じた。

 

「そのときノアに後ろの醤油を取って欲しいって言われて、取るために一瞬目を離したんです。そうして、振り返ったときには、もう――――」

「"――ノアがいなくなっていたんだね?"」

「はい、そう、なんです……! お弁当もスマホも残したまま、椅子ごと、完全に消えてしまったんです……! 今、みんなでノアの捜索も行っているんですが全然見つからなくて……!」

 

 改めてその瞬間を思い出して動揺する彼女を先生はなだめる。

 落ち着いた彼女は先生に感謝の言葉を述べると、スマホの画面を先生へ向ける。その画面に映るのは一つの写真であった。

 

「"これは……?"」

「ノアがいなくなったあと、入れ替わるようにでてきた椅子です。このタイプの椅子はミレニアムでは扱ってなくて、ノアが消えたことと関係があるかと思って写真を撮ったんです。今この椅子を特異現象捜査部に調査してもらっています」

 

 一見なんの変哲もない、プラスチックと鉄でできた人一人が座れるような椅子であった。

 何か変に感じるところはないかと、二人でその写真を眺めていると後方の扉が開き、人が入ってきた。

 

「終わったよ、ユウカ……あ、こんにちは。先生も来たんだね」

 

 振り返るとそこにいたのは、ヴェリタス副部長の各務チヒロであった。

 

「チヒロ先輩、ありがとうございます!」

「"こんにちは、チヒロもノアのことを受けて?"」

「うん、ユウカのお願いでノアが消えた瞬間の防犯カメラの映像を解析してた」

 

 そう言って彼女は手元のタブレットの防犯カメラの映像を見せた。

 そこにはユウカの話した光景そのものが映っていた。一室でユウカとノアの二人が談笑しながらお弁当を食べる。ノアがユウカに醤油を取って欲しいと言い、ユウカが後ろを向いたとき一瞬にしてノアの姿が消えていたのだ。ノアの居た場所には、先ほど見せられた件の椅子。

 

「"確かに、一瞬でノアがいなくなっている……!?"」

「カメラの映像をしっかり解析したけど、結果は間違いなく本物だったよ。ハッキングの痕跡もなかった。……つまり、信じがたいけど神隠しのように本当に一瞬でいなくなってしまったってことになるね」

「そんな非科学的な……じゃあノアは一体……?」

 

 実際に消える様子を見ることはできたが、如何せん情報が少なすぎると先生は頭を悩ます。

 

「"ユウカ、さっき見せてくれた椅子は特異現象捜査部にあるんだね? 手掛かりも少ないし私もそれを見に行きたい"」

「はい、その椅子なら今は特異現象捜査部の部室にあるはずです。ヒマリ先輩に連絡しますね」

「じゃあ私はヴェリタスの方で他のカメラ映像の解析も続けてみる」

 

 ユウカはスマホを取り出し、特異現象捜査部の部長である明星ヒマリに連絡をとる。チヒロもスマホでヴェリタスの仲間に連絡を取りながら部室へと戻っていった。

 ヒマリにこれから向かうということを伝え、二人はそのまま椅子の実物を見るために特異現象捜査部の部室へと向かっていった。

 

――――――――――――――――

 

「や、二人とも。部長から話は聞いてるよ。こっちにきて」

「ここが特異現象捜査部の部室……!」

 

 特異現象捜査部、その部室の入り口で部員の和泉元エイミが二人を出迎える。彼女に案内されるまま部室の中へと入っていくと、奥から人影が二人の元へ向かってくるのが見えた。

 特異現象捜査部部長兼、ヴェリタス部長の明星ヒマリである。

 

「部長、連れてきたよ」

「ありがとうございます、エイミ。さて、お二人ともようこそおいでくださいました、このミレニアムの誇る超天才美少女ハッカーの私、明星ヒマリが部長を務める特異現象捜査部のもとに」

 

 ミレニアム史上三人しかいない「全知」の称号を持つ明星ヒマリ、そんな彼女が現在部長を務めている特異現象捜査部に二人はやってきた。車椅子にのったヒマリは二人に向き直る。

 

「"やぁヒマリ、突然だけど例の椅子について見せてもらえるかい?"」

「えぇ、話は聞いています。こちらへどうぞ」

 

 そういうとヒマリは車椅子で部屋の中央に二人を案内する。

 そして案内された先に、既に写真や映像で見ていたあの椅子の実物があった。

 

「"これが……?"」

「はい、こちらがその椅子そのものになります」

 

 先生はその椅子に近づく。椅子の全体を見まわしていくが、やはりプラスチックと鉄で構成されているなんの変哲もない椅子である印象を受けた。

 

「私たちの方でもこちらの椅子を調べてみたのですが……やはり普通の椅子としか分かりませんでした。内部構造や構成要素など調べる限り、どこにでも売られていそうな一般的な椅子……としか言いようがありません」

「そんな……じゃあこの椅子もノアが消えたことに関係はないんですか……?」

 

 普通の椅子である。そう分析結果を述べたヒマリに対してユウカが落胆の声を上げた。

 しかし、その声に対しヒマリは「いいえ」と返した。

 

「確かに、調べた上では確かに何の変哲もないただの椅子です……しかし、状況証拠など多くの要素を顧みると、この椅子が何かしらの関りを持っていることは確実」

 

 ヒマリは人差し指を立てて続ける。

 

「これこそ、私たち特異現象捜査部の研究分野です! 科学では説明のつかないオカルトやオーパーツ……この椅子も恐らくその類の物でしょう。ノアはこの異常現象に巻き込まれてしまったのです」

「"なるほど……"」

 

 椅子自体が科学では説明できない超常的な力を持つオーパーツである。そう仮定するヒマリは、その後ノアがどのような形で巻き込まれたかも推測していく。

 

「ヴェリタスから送られてきた映像などを見る限り考えられる可能性として、キヴォトス中のどこかに存在したこの椅子とノアの座る椅子の位置座標が入れ替わった……が挙げられるでしょうか。彼女がスマホを残して消えてしまったのでGPSなどで追跡できないので確証は得られないですが……。どうにかしてノアの居場所を追跡したいとこですね……」

「ミレニアム中を探してもらってはいるんですが……ここまで見つからないとなると、学園外のどこかに……?」

 

 何かしらの超常現象が関わっている。その可能性だけでも得られたことは大きな一歩である。しかし肝心のノアの居場所についての手掛かりはあまり得られなかった。

 他の学園にも要請してノアの捜索を行ってもらうべきか。しかしミレニアムの外交にも関わる問題にもなりえる。ここは慎重に判断をせねばと先生は頭を悩ます。

 ふと先生の口から言葉漏れた。

 

 「"ノアの居場所か……"」

 

 

 ――――そう呟いた一瞬だった

 

 

「…………んぅ」

「「「「…………え?」」」」

 

 その場にいた誰もが驚愕した。誰も椅子から目を話してはいなかった。

 

 ノアが……帰ってきたのだ。ミレニアムの椅子ごと。突然のノアである。

 先ほどまで凝視していた椅子は既にいない。本当に椅子と入れ替わる形でノアが現れたのだ。

 

 彼女は椅子の背もたれに体を預けて、すやすやと眠っていた。突然の事にフリーズした四人、その中でユウカはようやく帰ってきたノアの体を揺らし起こしにかかる。

 

「ノア! ……ノア! 起きて!」

「んぅぇぁ…………ぇ? あれ? ユウカちゃん?」

「……ノアぁ!」

「ちょ、え!? ユウカちゃん!?」

 

 ノアが目を覚ますや否や、思いっきり彼女をユウカは抱きしめる。ノアが帰ってきた事実に感極まったであろう。

 目覚めれば違う場所、先生やヒマリ、エイミに囲まれる上に抱き着かれるなど突然の出来事の連続にノアも困惑する。いったん彼女たちが落ち着くまで少し間を置くことになった。

 

 ――――――――――――

 

 ユウカもノアも落ち着き、念のため椅子からは降りてその場で質問を行うことにした。横にいたヒマリやエイミも、これからの彼女の質問の答えを記録する用意を整えている。

 

「"というわけでノア、昼頃お弁当を食べていた時に何があったのかを話してもらいたいんだ"」

「あの時のこと……ですね」

 

 ノアはその時のことを鮮明に思い出す。彼女がユウカに醤油を取って欲しいとお願いした次の瞬間、彼女の目にする光景がすべて一変したあの時の事を。そしてその場で聞いた、耳馴染みの薄い、ある学園の名を。

 

「――――――SCP学園」

 

 先生がまだ足を踏み入れていない、謎に満ちた学園の名を、彼女は思わず呟いた。

 

 




SCP-396「>突然の椅子<」
https://scp-wiki.wikidot.com/scp-396
http://scp-jp.wikidot.com/old:scp-396

簡単解説
 世界中にあるどこかの椅子と入れ替わる椅子のオブジェクト。聴覚があるらしく周りの人間が話した言葉に関連する場所の椅子と入れ替わることが多い。
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