あと全部のイベやってきました ついでにサボってた紛争ノードもやってきた 8後半エフェクト派手で音ゲーすぎる
「ああ、まず最初に言っておくけれど、君は死んではいないからね」
「そっか」
最初こそ焦ったが、別に内臓の損傷はさほど問題ではない。
エーテル結晶が生えた内臓も、穴は即座に覆ったから、致命傷でないのは理解している。
問題があるとすれば、俺が意識を失ったことにより例のあの力が効力を失った可能性があることくらいだ。
「というか、そもそもあれは何なんだ? あの妙な力」
自称神様の用意したお菓子とジュースを口にしながら、俺は疑問を口にした。
おそらく俺に起こっている現象のすべてを知っているだろう。聞くのが一番早い。
「それについての説明もあるからわざわざ呼んだんだよ。夢枕にでも立とうかと思ったけれど、正直あの世界にこれ以上干渉するのは止したくてね。君からこっちに来てくれて助かった」
「……? それってつまり」
「うん、意識喪失の脳死状態。一時的に御臨終ってところかな」
「まっっったく無事じゃないけどぉ!?」
「話が終わったら起きられるから気にすんなよ」
そう言いながら、自称神様は俺と同じように、置いてあったコーラを飲む。
「君が使っているあの力は、
「……なるほど? わぁ、すごいわかりやすい。なんて言えばいいかわかんなかったのに」
「額面通りのものではないけれどね。もっと言えば人間の本質、その人をその人たらしめる根源的な仮想物質だ」
「え、物質なの?」
「基本的には精神的なもので、存在しないものと同義なんだけれどね。君は自分の魂を物理的なものとして扱って利用できるわけだ」
「一回死んだからかな」
「いいや」
俺の推測は、即座に否定された。
「非常に稀有なことに、君は生まれたときから魂の形を認識していたよ。そして自在に扱っていた。それは間違いなく周囲に強い影響を与えていた」
何が言いたいのかよくわからなくて、俺は口に飲み物を含むことで次の言葉を待った。
意味は理解できる。それでも、内容は不服だ。
それならば、どうして俺の前世は、あんなに酷いものだったんだろう?
「美しさとは凄まじいものさ。ただそれだけで、この僕の目に止まるくらいにはね。見ただけで気が触れて死んでしまうような、醜いバケモノも、逆に美しいものも見てきたけれど、それを人間が持っているとあっちゃ、まさに青天の霹靂」
「……何が言いたいんだ?」
「残念なことに、君は前世で生まれたときから──人を狂わせるくらい、美しい人間だったということだ。残酷な虐待痕が、辛うじて君の神格化を防いでいたに過ぎない。あの悲惨な境遇でなければ、君はそのうちに今世と同じことになって、世界と共に心中していただろう」
そんなわけがあるか。
と、笑い飛ばそうとしたが、目の前の自称神様の顔は至って真面目だった。
わざわざ嘘をつく理由もないだろう。
じゃあ、本当にそういうことなのだろうか。
「君は本当に救世主としての適性があったよ。それも前世の時点から。だからうまくやれば、実際にキリストの再演はできただろう。ただ、あのやり方じゃあ君の計画は成就しなかったんじゃないかなぁ」
「──なんで」
「自殺って罪だからね」
その言葉は、びっくりするほどすんなりと、俺の中に入ってきた。
確かに。
この世すべての罪を背負って死ぬ必要があるのに、死で罪を作り出していては本末転倒ではないか?
自分のやっていたことが完全にズレていたことを理解し、顔が赤くなっていく。
ばかな。そんな初歩的なことを見逃した上で、「死ななきゃいけない(キリッ)」とか言ってたのか。
やばい。急速にやらかした実感が湧いてきた。
こ、これが黒歴史……?
「まぁ、気が動転してたんでしょ。これに関しては完全に僕のミスだから、謝っとく。ごめんね」
「あえ、なんで?」
「君がある程度幸せになったら、少しずつ記憶を返そうと思ってたんだけれどね。想定してたよりもずっと、君のメンタルが弱かったから」
「喧嘩売ってる?」
「前世を耐え切れたんだから、これくらい行けると思ったんだけどねぇ。たしかに幸せな記憶だけある状態からつらい過去を思い出したらしんどいに決まってるわ。マジごめん」
許せねー。
軽い態度で謝ってくるこいつを、どうしてくれようか。
キレた俺をけらけらと笑っている姿に、更に怒りが湧いてくる。
「ただ、記憶を返さないわけにもいかなかったのさ。君の魂は記憶と紐付いちゃってるからねぇ。魂を分割することによって没収するしかなかった。君からずっと魂を取り上げるわけにもいかないし」
「ん……なんで? 別にこんなのいらなかったのに」
「こんなに美しいものを不完全な状態で置いておくのは損失だろ。自覚しろアホ」
「はぁーっ!? さっきからお前なんなん!?」
なんなんだ、人のことをアホだとかなんだとか。
彼の目の奥には、執着の色が見えた。少し恐ろしくなる。
わずかな身震いと共に縮こまった俺を見て、やつは未だけらけらと笑っていた。
「君は自分の価値を低く見積もりすぎなんだよ。環境のせいだろうけど、その態度は不愉快だ。なんだったら転生なんてさせずに、僕の手元に置いてても良かったんだぜ」
「……じゃあ、有無を言わせずにそうしたら良かったじゃん」
「心底迷ったさ。でも君があんなふうに笑うから、幸せになってほしいと思っちゃったんだ。参ったね」
彼は笑っていた。
まるで何もかも愉快でたまらないというかのように。
この逢瀬に焦がれてやまないというかのように。
その笑みには、熱がぱちぱちと、弾けていた。
「この僕ですらこう思ってしまうんだ。君は本当に美しいさ。まさしく魔性と呼ぶのが似合う」
「嬉しくないなぁ」
少なくとも、今世はこの魅了のせいで面倒なことばっかりだ。
──と。
ふとここで、疑問に思ったことを聞いてみることにした。
「カリンちゃんに魅了があんまり効かなくなったのはなんで? 俺が無意識に力を弱めたとしても、ホロウ脱出のときのあれで特に何もないのはおかしいでしょ」
「あー、あれね。簡単だ。あの子はそんなのなくても君のことが大好きなんだから、今更脳に雑な情報送り込むだけの魅了なんて通用しないよ」
「ぬぇっ」
「綺麗な魂を見せびらかしてるだけであれだけ効果あるんだから、まぁ効かないのを疑問に思っても仕方ないか。使い方ヘッタクソだよねー」
「お前煽り入れないと気が済まないの?」
「いや、全部のわざ覚えててなんでもできるはずのアルセウスがずっとメロメロしか使わなかったら勿体なく思うでしょ普通……」
どういう喩え?
しかし、そうか。
そういうことなのか。
ちょっと顔が熱い。
そっか。
いつなんだろう。前までは、ちゃんと魅了が通ってたはずなのに。
きっかけがわからない。
孤児院に行ったときには、もう平気だったから……あれか?
ひょっとして、一緒に火鍋屋に行ったときなんだろうか?
と、当時のことを連想して。
あの辛さに悶えている写真のことを思い出して、妙な気分になり、口をもにょもにょとさせる。
なんだろう。今更恥ずかしくなってきた。
「君が脳に流し込んでくる情報なんかより、ずっと強く君のことを想えるなら、レジストできるって感じかな。ただ人にはキャパシティもあるから、それができないからって君のことを思っていないわけではないのはわかってるね」
「うん、それはもちろん」
お兄さんとか、リンちゃんがそうだろう。
あれだけ言われて俺のこと大事に思ってないとか考えたくない。仮にそうだったらこわい。
つまるところ、結局魅了でめんどうなことになるのは変わらないのだろう。
これまでよりも制御はできるだろうから、それでなんとかするしかないか。
「さて。他に聞きたいことは何かある?」
「……じゃあ、なんで俺って、あの世界に転生したの? あのまま死ぬほうが、ずっと楽だったのに」
「けど君は、生まれ変わって良かっただろ?」
「まぁ……うん」
「さっきも言ったけれど、僕の動機としてはそれだけだ」
あのとき。
死んだって言われて、安心してしまったとき。
俺は一体、どんな顔をしてたんだろう?
「それに加えて僕以外の動機もある。そうだね、気がかりだったらしいし、それも見ておくべきか。ちょっと失礼」
「……見る? どういう」
俺が聞き終わるまでの間に、やつは俺の額に触れていた。
頭の中に、直接何かの映像が浮かぶ。
見覚えのない場所で、見覚えのある面影の人たちの姿が、見えた。
結局、あの子の人生ってなんだったんだろう?
毎年この季節が来ると考えてしまう。
物心ついたときから虐待をされていて、日々傷が絶えなくて、私と一緒にいることが全部楽しいみたいな。楽しいことを全然知ることができなかった、そういう子だった。
僅かな間でもその止り木になれたのは、私もまだ捨てたものじゃないだなんて思った。
けれども、それでもあの子の人生を終わらせたのは私だから。
こんな私のもとにたどり着いてしまったのは、あの子にとって最後かつ、最大の不幸であったように感じてしまう。
まさかこの飽食の時代に飢えるなんて、とは思うけれど、当時の私はなんと言ってもアホだった。しっかりと資金を食いつぶしたうえで、夢だなんだと言っていた。
結果としてあの子を殺してしまったのだから、どう悔やめばいいのかすらわからない。
ただ、何をすればいいのかもわからなくなって、生きることさえ億劫だった。
まるで「火垂るの墓」みたいな話だった。
例えば私が恥を偲んで誰かに助けを求めていれば、そんなことだけでも、思いつきさえできていれば、あの子は死ななかったのかも。
そう考えると、ますますと自己嫌悪が起こってくるが、それでも私は死ぬわけにはいかない。生かされた命であるからだ。
あの子の死は、全て私に責任があるものである。それは誰にも、当人にも背負わせるつもりはない。
神様。
あの子はまるで、神様みたいな子供だった。
出会ったときは、体には酷い痕が残っていて、苦しそうだったけれど。
そのときでも、なお美しい子だった。
切られてない長い髪の毛も相まって、最初女の子だと思ったのは内緒である。たぶん嫌そうな顔をするから。
まるで手入れもされていないだろう髪は、瑞々しさを保ったまま光を反射していた。
神様が落ちてきたんだ、と思ったのは、間違いでもなかったような気がする。
神様じゃなかったとして。
間違いなくあの子は、天使だとか、そういう存在だった。
それについては間違いないんだと思う。
だって、飢えたとき、自分を食べたら良いって、死んでしまうような子なんだ。
他者への愛が重い、とも言えるし。
でも同時に、命が軽い、とも言えてしまう。
むしろ、あの子にとっては後者のほうが強かったんだろう。それはとても、悲しいことだ。
ともあれ、私は毎年あの子のことを考える。
なんなら四六時中考えていると言っても過言ではないか。
なんせ、あの子をモデルにした主人公の、転生小説まで書いてしまってるのだから。
私の信仰なんて、結局なんとなくでしかない。
こうであったらいいな、程度の思いで、なんとなく信じているくらいのものだ。
だから、なんとなく、あの子が転生してて、そこでとびきり幸せになってほしいな、と思う。
そっちのほうが、よっぽど救いになる。
それで、私のことなんか忘れてしまうのだ。
あんな死に方したんだ、みたいなことも忘れて、自分が生きていることに疑問すらなくなって、それで次こそは天寿を全うしてほしい。
あの子が幸せになってくれること以上に、私が嬉しいことはないから。
神様がいるとしたら、もう手の届かない場所にいってしまったあの子を、どうか幸せにしてあげてほしいと思う。
「──ぇ、あ、おねーさん……?」
「君宛の祈りはいくつかあってね。その中でも強い情念が含まれてるものだよ」
「……あはは……そっか。そうなんだ……」
なんで俺は、あそこで死ぬなんて選択をとってしまったんだろう?
それであの人を傷つけるなんて、今ではすぐわかるというのに。
なぜあのときに、そんなことさえ考えられなかったのか、わからない。
結果として、不要な後悔を与えているというのだから、どうしようもない。
でも、少なくとも。
俺はお姉さんと会えて幸せだったよ。
それを不幸だなんて、これっぽっちも思ってない。
でもそっか。
いつか忘れるのが怖いって思ってたけど、お姉さんのほうは違うんだ。
忘れてしまうくらいに、俺が幸せになるほうが、良いんだ。
そういうものなんだ、人が生きるのって。
「じゃ、次行こっか」
「次? 他にも誰かいるの?」
「そりゃいるでしょ、忘れてんの?」
誰だろう。
あんまり心当たりがない。
小学生のときの話である。
一年生のときから、孤高というか、なんというか。ともかく、そういう、話しかけるのも臆するくらいの雰囲気をもった同級生がいた。
同年代とは思えないくらい頭が良い人だった。幼少期に美醜の概念はさほどなかったが、それでも美しい人間だと思った。
休み時間なんかは図書室で、よくわからない本を読んでいた。一度見たけれど文字がびっしりと書かれていて、当時は理解することもできなかった。
体は弱かったけれど、それもまた、彼を遠ざける一因だったと思う。
なんというか、住む世界が違うように思えるのだ。
彼はそういう人だった。
仲良くなったのは、小学校三年の頃だった。
体育の時間のこと。見学の最中に体調を崩した彼を、保健室に運んだのがきっかけだ。
先生はいなかった。とりあえず体温計を使わせてもらったのを覚えている。
熱が出ていたけれど、親を呼ぶなというから、話を聞くことにした。
どうやらあまり家での扱いがよくないらしい。ひどい話である。
けど、先生には言わないでほしいと頼まれたから、それなら仕方ないと、黙っていることにした。
思い返せば、このときに親や先生、まともな大人に伝えられていれば、話は違ったのかもしれない。
けど当時の俺は、彼の真剣な顔のせいで、守るべき秘密として認識してしまった。
事の重大さを認識できなかったのだ。本当に馬鹿な話である。
その日以来、遊びに誘うようにした。
人を遠ざけるような雰囲気に反して、彼は気さくで、誘いは断らなかった。以降は友人も少しずつ増えていって、クラス全体に馴染んでいった気がする。
頭はいいのに、遊びとか、楽しいことを知らなかった。
だから、「楽しいことをしよう」って、ちょっとカッコつけて、言ってみたのだ。
まるで弟ができた気分だった。
けれど、彼は突然学校に来なくなった。
ある日、偶然会った彼は、記憶の中にある姿とは、随分変わっていた。半分以上死んだような見た目だった。
生きていることが奇跡だった、とすら思う。
話しかけても、彼は俺のことを忘れていた。
おかしな話だった。頭が良いはずの彼が、記憶力がいいはずの彼が、もはや別人みたいに、ずたぼろになっている姿に、打ちのめされたことしか覚えていない。
中学校に上がって暫く。彼と会わないうちに、訃報を聞いた。
学校に連絡があって、クラスメイト全員に事情が伝えられた。
出来の悪い作り話とかでよくある、酷い話だった。
もしそうなら、最近流行ってる転生モノとかいうやつも、本当にあってもいいだろう。
死の安寧なんて言葉はあまり好きではない。苦しむために生きてたのかって話になってしまうから。
でも、生きてるうちに良いことがなかったのなら、死後に救いがあってもいいんじゃないかと思う。
友人だった俺から見ても、死んでいいような人じゃなかっただろう。
なんでこの世界は良いやつから死んでいくんだ?
高校のときに死んだ友人も、良いやつだったから、余計にそう思う。
だから、そういうやつばっかり向こうに持ってってしまう神様ってのがいるのなら。
彼らが幸せになれるようにしてやってほしい。
祈るだけで救われるなんて、そんなの嘘っぱちだと思っているけれど。
結局俺には、彼らの安寧を祈ることしかできないのだ。
だから、もし神様がいるとしたら。
彼らが、こんな人生のことをまるきり忘れてしまって、新しい人生で、良き友人に恵まれて、笑いの耐えない生活を送っていますように。
そんな夢物語のようなことを、叶えてくれますようにと。
木っ端なこの命の細やかな望みが、叶うようにと祈っていたい。
「得難い友人を得たねぇ」
「……俺にはもったいないくらいだ」
そっか。
名前ももう忘れちゃったけれど、彼もこんなふうに思っててくれたんだ。
もし。
もしあのとき、彼の手を取って逃げていたら、俺は死ぬまえに幸せになれたんだろうか。
──そんなこと、考えてもどうしようもない話だ。
後悔は後からしかできないし、過ちは過ぎてからしか判断することができない。
そういうものだから、俺がこうして死んだのは運命なのだというしかない。
そうやって全部片付けるのは逃げだと思っているけど、起こってしまった過去に関しては、そうなる定めだったと思う以外に、納得する方法がないから。
「ま、そういうわけさ。君と関わりの深かったふたりぶんだけでも、君の存在を僕が見つけられるくらいには強烈な情念だった」
「あは、そっか。そうなんだ」
涙が溢れてきた。
それでもこれは、悲しいからじゃなかった。
「──俺、生きてて良かったよ」
「その言葉を待ってたんだ」
そう言って、自称神様は、笑った。
まるで、神様みたいな笑顔だった。
「ありがとね。俺にチャンスをくれて」
「いいってことさ。これでも僕は神様だからね」
「そっか。……そのわりにはなんだか、人間くさいような気もする」
「僕は世界の外にいる神様だからね。君たちの考える神様とは大きく異なっているだろうさ。実際のところ、大きな力を持っただけの個人に過ぎない。でもせめて、君たちに会うときは、君たちの考える神様らしい振る舞いをしようと意識はしている」
「できてないけどな」
「手厳しいねぇ」
たはー、と笑うそいつは、どう見ても人間と相違ない。
或いは、神様も、人も、そう変わりないものなのかもしれない。
勝手に偉大なものだという幻想を押し付けているけれど、ちょっと違う理で動いているだけで、同じように感情のある生き物なんだろう。
「……うそ。さっきはちょっと神様ぽかったよ」
テキトーで、胡散臭くて、なんかアホっぽいけど。
それでも俺の恩人のひとりで、俺の理解者のひとりなんだ。
この神様のことが、今は案外嫌いじゃない。
「さて、そろそろお別れかな」
そう言って、彼が立ち上がった。
「知りたいことは大体わかっただろう? 早く戻って、君の大切なお友達を安心させてあげるといい」
「ん。ありがとう、色々と助かったよ」
「君はこの先の人生で、存分に幸せになると良い。次に会うときは君の寿命が尽きたときだろう。それまであの神様のいない世界で誰にはばかることもなく生きていくのさ」
「……うん」
返事をすると、意識が少しずつ薄れていく。
──そういえば。
「最後に聞きたいことあるんだけど」
「何かな? 何でも答えちゃうよ」
「なんで俺、女になってるの?」
「僕の趣味」
直後、意識がなくなった。
暗転。
目を覚ますと、カリンちゃんが俺の顔を覗きこんでいた。
「──ひゃわ、わ、わっ!? ぁ、目、目を覚まされたんですね!? よ、よかった……」
「うん。ごめんね、カリンちゃん。俺どんだけ寝てたの?」
「あれから一時間も経っていないかと」
「そっか……よかった。それと、ごめんね。心配かけて」
逆に言えば、小一時間はカリンちゃんに心配させたということになる。
申し訳ない。
体の調子は万全だ。むしろ、目覚める前よりも調子がいい。
自分の体内をチェックするように魂を確認すると、どうやら体内のエーテル結晶はすべて排除できたらしい。
よし。
「病院での診察ですが、体に問題はほぼないとのことでした。エーテル侵食の影響で一時的に意識を喪失しているだけ、らしいです……でも、なんで血を吐いたのかがわからなくて……」
「あははー」
笑ってごまかすことにした。
過去とはついさっき別れを告げた。
俺はこれから、この愉快な世界で、みんなと一緒に幸せになってみせる。
改めてそう決意して、俺はベッドから起き上がった。
カリンちゃんが俺を抱きとめて、生きている実感が全身に広がっていった。