例えばそれはちえのわのような   作:moti-

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 ジェーンのストーリー、パイセンのストーリーどっちもよかった。でもボンプがかわいそうな目にあってるのはつらいな

 難易度悪夢の依頼敵の攻撃痛すぎてワロタ


Null

 

 軽急な救済を待つ俺に、望んだ通りのものはやってこなかった。

 生きることは苦痛だった。愛するには、少しばかり煤け過ぎていた。それを拭ってくれる相手も見つけられず、俺はいつも一人だった。

 

 孤独を、望んだわけではない。

 というか、誰も望まないだろう。一人ぼっちは嫌なんだ。

 

 おそろしい風貌の男だって、嫌らしい眼つきの男だって、金を信奉する男だって、あるいは誰かを陥れる女も、周りを遠ざける女も、俺を捨てた女すらも。

 

 一人ぼっちは嫌なんだ。

 

 

 

「──んむ」

 

 目を覚ますと、抱きしめられていた。

 こういうことは、珍しくない。顔を傾けて相手を見ると、周りを信じることができない顔の男が眠っていた。

 起きているときのような険は、取れていた。

 

 この世界において、俺は天使のような扱いをされている。

 

 埒外の美を持つということはそういうことだ。

 中身が俺のような俗人で悪いと思うが、まぁ体は完璧なのだ。許してほしい。

 

 俺は止まり木だ。

 俺を買って、共に眠った人間は、まるで救われたかのようになる。そんなに大層なものではない。

 彼らは勝手に俺に何かを見出して、そして自分で勝手に救われていく。

 

 ──その気持ちを、俺はこの間味わった。

 

 うん、あれは良いものだ。よーくわかる。

 そのおかげで、この仕事……と言っていいのかよくわからない同衾への意識も変わった。

 

 こんなものに金を払うなんて、という気持ちは、共感によって押し流された。

 推しからのファンサがもらえるならそりゃあそうするよね。

 

 なんとなしに、男のごわごわとした髪の毛に触れた。

 軽く弄っていると、違和感があったのか、目を覚ましてしまう。

 

「……!? ……! ……!! ……!?!?」

 

 ──あ、壊れた。

 

 

 

 

「──カリン。最近は調子が良さそうですね」

 

「ライカンさん。そうでしょうか? えへへ、そうかもしれません」

 

 あの美しい女性は、きっと大成するだろうと思った通りに、夢に励んでいる。

 ならば自分も頑張らなくてはならない。そう思って、更にやる気が高まっていた。その成果はちゃんと出ていたようだ。

 

「すごいね、カリンちゃん。私はそんな頑張れないや……ねむ」

 

「エレンはもう少しやる気を持ちなさい」

 

「はいはい、ボス」

 

 いつものやり取りが行われているのを尻目に、カリンはふと、「次はいつ会えるのだろうか」と考えた。

 初めて訪れてから、彼女は何度かヴィクトリア家政に依頼をしていた。そしてその度にカリンが出向し、評価をもらっている。

 

 正直に言うと、彼女の夢の手助けは、おそらくライカンのほうが上手に行えるだろう。

 元々引っ込み思案のカリンでは、ありとあらゆる視線を集める彼女に対して有意義なアドバイスなどできない。

 だから、カリンが訪れる度に少しずつ進歩しているのは、それは偏に彼女自身の努力の成果である。

 

 ──といっても、彼女は受け入れないだろう。

 そんなに悲観することないのに、とカリンは思った。

 それはそのまま、ヴィクトリア家政の他メンバーからのカリンの評価と一致するのだが。

 

「そういえばカリンちゃん、最近音楽の勉強してるよね」

 

「は、はい! 最近指名してくださる御主人様のために、カリン、勉強してます!」

 

「あ、あのキレイな人。そうなんだ……じゃあさ、最近流行ってるこの曲、知ってる? すごい勢いでバズってるんだよね」

 

 その言葉の後に、端末のスピーカーから流れ始めた音楽を聴いて──あ、と思った。

 この、人を蕩かすような声は、間違いなく彼女だ。

 

「はい、知っています!」

 

「いいよね、これ。中毒性あって」

 

「でもエレンさん、どうして急にこの曲を……?」

 

「──これ歌ってるの、あの依頼人じゃない?」

 

 びしっ、と。

 その言葉に、カリンは固まった。正しかったからだ。彼女の言葉の通り、この曲を歌っているのは、あの美しすぎる女性である。

 

「やっぱり。この()()()()()()()()()()()()()、そうだと思った」

 

「そそ、その、内緒にしたいことのようなので、ナイショにしてもらえると……」

 

「もちろん言わないよ。説明するのもめんどくさいし。……ただ」

 

「た、ただ……?」

 

「もし良ければ、次の依頼なんかがあったとき、付いていっちゃダメかなって──」

 

「エレン、それはあなたの手が空いていて、御主人様からの許可があってからの話です。カリンにあまり無理を言わないように」

 

「はいはい、わかってるよ、ボス」

 

 ──と、ライカンが途中で割って入ったことにより、カリンはほっと胸を撫で下ろした。

 勿論、エレンは人の夢を笑うような人間ではない。寧ろそれを肯定してくれる人間だろう。

 だが、あの美しい依頼人は、人が増えることを許容してくれるだろうか。

 

 ……大丈夫そうだと思う気持ちも湧いてくる。

 

「……とはいえ、彼女は我々にとって良い取引先になり得るでしょう。我々ヴィクトリア家政としても、今後とも懇意にしていただきたい気持ちもある」

 

「じゃあ……」

 

「そうですね。次にいらっしゃった際に私から進言させていただきます。そこで許可を頂ければ、エレンも同行するように」

 

 ──という話をして、数日後。

 

「お友達も来てくれるって? いいの? え、こっちはいいですよ。じゃあそれでお願いします」

 

 そうやって即答する様を見て、カリンはどことなくもやもやした気分を抱えるのだった。

 

 

 

 

 新エリー都ヤヌス区六分街。

 ホビーショップとゲームセンター、その他ラーメン屋にコーヒーのチェーン店、そしてレンタルビデオショップが存在している。

 

 さほど大きな場所というわけでもないが、むしろこのくらいがちょうどよかった──前世の商店街を思い出すから。

 

 ゲームセンター「GOD FINGER」の中に入ってみる。

 店内に入っても、帽子と眼鏡はそのままにしておく。あまり効果があるようには思えないが、面倒なことになる可能性はわずかにでも下げたい。

 

 思えば、前世でもゲームなどしたことがなかった。

 カリンちゃんもそこまで経験がないようで、特有の騒がしさに挙動不審になっている。

 

 反対に、今回のもうひとりの同行者であるエレンちゃんは慣れているようで、表情を変えることなく中の様子を見ている。

 

「ゲームやったことないんだっけ」

 

「ないよ。こんなにうるさいものなのかね」

 

「どこもこんなものだと思うけど。それで、ゲームやってみたいんだっけ。何か気になるの、ある?」

 

「わかんないし、とりあえず見て回ってもいい? カリンちゃんは何か気になるものある?」

 

「ふぇっ、わ、私ですか? ご、御主人様は何かございませんか……?」

 

「わかんないんだよね。あ、でもこれかわいいかも」

 

 クレーンゲームの景品として設置されている、ボンプのぬいぐるみに目が惹かれる。やってみる? というエレンの問いかけに頷いて、ポケットから財布を取り出す。

 ひとまず適当に500ディニーを入れて、6回の操作権を得た。

 

「前後に動かすときは、こんな感じで横から見ると距離感わかりやすいよ」

 

「御主人様、頑張ってください!」

 

 と、動かしてみるのは良いのだが。

 掠りこそすれど、うまい具合に挟まって落とせない。あっという間に6回のプレイを終えて、とりあえずで更にクレジットを投入する。

 

 というのを、6回ほど繰り返して。

 

「ダメだ、とれねー……」

 

「ハマっちゃったね、呼ぼうか? 店員さん」

 

「いいよ。お金だけはいっぱいあるんだし」

 

「え、エレンさん。代わりに取ってあげるというのは……?」

 

「それやるとつまんなくない?御主人様がいいならそうするけど……」

 

「もうちょっとでいけそうな気がする……!」

 

 と言って更にコインを投入する。不安そうにおろおろと見守るカリンちゃんと、ぼーっとして見ているエレン。退屈させて申し訳ないと思いつつ、意識を集中させて挑む。

 

 7500ディニーぶんの死闘を終えて。

 無事俺はボンプぬいぐるみをゲットするのであった。

 

 

 

 

「あ、リンだ」

 

 不意に口にしたエレンの視線の先を見る──そこにはひとりの女の子がいる。ゲームの筐体からちょうど立ち上がったところで、向こうもこちらに気づいたようだった。

 

「ぷろ──リン様!」

 

「エレン、それにカリンも! あと──」

 

 ふたりを順に見て、それから俺を見て、リンと呼ばれた少女は、固まってしまった。機能停止。

 これも覚えのある反応だ。眼鏡越しとはいえ、俺と目が合った人間は、よくこういう反応をする。

 

「すっごいキレイな人……ふたりともひょっとして、お仕事中?」

 

「そ」

 

「はい、今の御主人様ですっ」

 

「そうなんだ。たしかになんというか、オーラが違うもんね」

 

 と言って、こちらに向き直って、少女は。

 

「はじめまして、リンです! ここのすぐ近くにあるレンタルビデオ屋、「Random_Play」を、お兄ちゃんと経営してます!」

 

「はじめまして、リンちゃん。俺は■■、暇だから六番街の案内をしてもらってるんだ。後でお店にお邪魔させてもらってもいいかな」

 

「もちろん! 是非来てください! ──そうだ、ちょうど四人だし、せっかくだからみんなでスネークデュエルでもやらない?」

 

「スネークデュエル?」

 

 俺は勿論、カリンちゃんもわからなさそうに首を傾げている。

 おそらく口ぶりとしては四人用のゲームなのだろうが。

 

「御主人様も、カリンちゃんもわからないでしょ。一人用もこっちにあるし、一回やり方を覚えてからでいい?」

 

「いいよ! さ、こっちにどうぞ、カリンも!」

 

 と言って席に座らされる──画面にチュートリアルが表示されている。操作方法は至ってシンプルで、迷うところはない。とりあえずやって覚えるか、と硬貨を取り出した。

 

「はい、これカリンちゃんのぶんね」

 

「え、あえ、その」

 

「こういうの、基本雇い主がお金出すものでしょ? ほら、遠慮しないで」

 

 と言って1プレイ分のお金を握らせ、そのままじっと見つめる。あたふたとしていた彼女は、後ろにも視線を巡らせたのち、観念してクレジットを投入した。

 それを見届けてから、こちらもプレイを開始する。

 

 ──ふむ、なるほど、これはなかなか……。

 

 なるほど、一瞬で終わるなこれ……。

 速攻でゲームが終了したためそのままコインを投入。後ろで少し困ったような苦笑いの気配がした。

 

 結局、カリンちゃんが終わるまでの間に俺は3回プレイをやり直していた。

 こ、これが才能の差……。

 

 プレイ方法もわかったため、いざ対戦開始。

 どうやらこちらは制限時間の間にいくら死んでも良いようだった。そして最終的に一番サイズが長ければ良いらしい。

 

 つまり、制限時間ギリギリに相手を倒せば良いのではないか?

 任せろ、足を引っ張るのは得意だ。そう意気込んで、対戦が始まった。

 

 あっちょっ。

 えっ、なんか上手くない? 君。

 えぇー?

 あっ。

 はぁ。

 

 

 対戦結果。

 

 エレンちゃん一位、カリンちゃん二位、リンちゃん三位、俺四位。

 

「くっ、最後にしょうもないミスをするとは……ビリーに負けてから変なミス癖がついてる……」

 

「エレンさん、おめでとうございます!」

 

「ありがと。御主人様も、そんなに落ち込まない。さっきはじめて触ったゲームなんだし」

 

 まさかリンちゃんと共倒れするとは。

 ちくしょう。お前はいつもそうだ。些細なミスひとつなくせない。

 でもこの美貌がある限り俺に好意を持たない人間は存在しないので誰も俺を愛さないということはない。

 

「あーあ、負けちゃった」

 

 と言いつつ、あんまり気分は落ち込まなかった。むしろ不思議と充足感すら感じる。

 ゲームセンター、暇つぶしにはいいのかもしれない。また今度、このメンバーを誘って来ようと、そう思った。

 

 

 

 

「はぁ、楽しかったー。ごめんねお兄ちゃん、店番任せて」

 

「ああ、いいよ。それにお客さんを連れてきてくれたじゃないか。最高ランクの会員になってくれたし、いくつかビデオを借りていってくれたし、店番するより良かったんじゃないか?」

 

「えへへ、そうでしょ。まぁ偶然なんだけどー……」

 

 思い返して、あの美し()()()女性のことを思い返す。

 帽子と眼鏡で隠されていたが、そんなもの関係ない。

 髪の毛先、指の形、腕のしなり、体の揺らぎ。体のありとあらゆる全てが、鮮烈に「美」という概念を体現したかのようだった。

 ──恐ろしい、と、思った。

 

 何故だろうか。どこか悍ましさすら感じるほどのそれは、ひとりの人間が有しているものとは思えなかった。

 気づけば魂まで骨抜きにされてしまうような、そんな常識外の美しさ。

 

 そもそも、エレンが仕事だというのにあれだけ丁寧に対応していること自体がおかしいのだ。

 あれで彼女の担当になるのがはじめて、というのが、リンには信じられなかった。

 バレエツインズではじめてヴィクトリア家政と出会ったときのことを思い出す。あのとき、エレンは初対面のリンに対してつっけんどんな態度を取っていたというのに。

 

 そしてそれだけの美しさを、彼女は無垢に相手へと振りまいてくる。

 優しさには優しさで、愛情には愛情で。合わせ鏡のように、向けただけの気持ちをそのまま返答してくる。

 

 なにより、一番怖いのは。

 

「──リン、どうしたんだい?」

 

「あのね、お兄ちゃん。今日のあの、すごくキレイな人なんだけど」

 

「うん」

 

「私、自己紹介して、ちゃんと名前を聞いたの。キレイすぎて、気が動転してたのかもしれないんだけどさ……」

 

 一番、リンが恐ろしいと思ったのは。

 

 

「──なんて言ってたのか、わからないんだ」

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