例えばそれはちえのわのような   作:moti-

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 ゼンゼロのマルチおもしれ~~~~~ チャンネルも試してみたい

 衛非地区関係の話もやりたいネ ストーリー見直すまで待ってください、本作の時系列めちゃくちゃなので


ヴィーナス

「退屈だね〜。君、いつもこうやって過ごしてるの?」

 

 罵倒されたような気がする……。

 微睡みを壊さないように、俺は目を閉じてベッドに寝転んだまま、彼女に応える。

 

「今日は何もしない日なの。最近頑張ってたから」

 

「ふぅん? よくわかんないや」

 

 などと言いながら、ぐいぃと体重を寄せてくる。その重みに「ぐぇ」だなんて声を零し、ふと疑問に思った。

 

 はて。

 なんで彼女はここにいるのだろう。

 

 「シード」ちゃんのほうに目をやると、視線を察知したのか目を合わせてくる。

 

「ンナ、どうしたの〜?」

 

「……別になにもー」

 

 まぁいいか。こういうこともたまにはある。

 俺はゆっくりと、再び意識を微睡みへと溶かしていく……。

 

 とはいえ、何も本気で怠惰に暮らしているというわけではない。

 微睡みというのは瞑想している状態に似ている。こうやって、世界をあるがままに感じていると、なんだかなんでもできそうな気だってしてくるのだ。

 この全能感は、俺の能力にとって重要なのだ。つまりこれは修行。

 修行なのだから、いくらやっても許される。

 すや……。

 

「眠っちゃうの? お寝坊さんなんだねぇ」

 

「んむ……」

 

 つんつんと頬を突かれ、顔を背ける。「シード」ちゃんはそれを追いかけて反対側の頬を突っついてくるから、逃げるようにごろりとベッドを転がった。

 

「もー、寝かせてよぉ」

 

「え〜、せっかく遊びにきたんだもん。ちょっとくらい良いでしょ〜?」

 

「良くないよぉ」

 

 仕方がないので起きることにする。軽く体を起こせば、髪の毛がふわりと体を覆った。

 ……伸びている。

 「シード」ちゃんは、俺の髪の毛を手でくるくると弄びながら、「わぁ」と声を零した。

 

「不思議だね〜? さっきまで短かったのにこんなに伸びちゃった。ンナナ、手品かな〜?」

 

「なんだろうねぇ」

 

 はて、一体何が起きたのだろうか。

 このような変化があったということは、当然俺の力が何らかの影響を及ぼしたのだろう。だが自覚がない。

 これまででも前例がない事態だ。ふむ、と髪の毛を指で触れながら、俺はひとまずカリンちゃんに連絡をした。

 

 

「はわわっ……」

 

「はわわ〜」

 

 

 到着したカリンちゃんの第一声がこれであった。そのままあれよこれよと整えられ、大福とカリンちゃん二人の手によってコーディネートされた結果。

 

「はわわっ……」

 

「はわわ〜」

 

 なんだか探偵みたいになった。

 トレンチコートと探偵帽と眼鏡。髪は「シード」ちゃんライクに編み込まれたものを後ろに垂らしている。

 

「す、すてきです……! やっぱりご主人様はこういう服も似合いますね……!」

 

「ンナナ! ンナナナナ!」

 

「ンナンナ〜。かっこいいね」

 

「あはー……ありがとう?」

 

 なんかコスプレしてるみたいでちょっと照れるな……。とはいえ、ドレスとかと比べるとこういう服はちょっとテンションが上がるような気もする。

 小道具がいくつかあったほうがそれっぽいか? 手帳と万年筆と煙管、懐中時計を生成する。

 

「ああっ! タバコはダメですよっ、まだまだ早いですから!」

 

「吸わないよ……見た目だけ」

 

 とはいえ心配させるのもな。そう思って煙管だけを消した。自分の目を疑うように、「シード」ちゃんはぱちぱちと目を瞬かせてから手を覗き込んでくる。

 

「不思議だね〜? 種も仕掛けもございません、って感じかな〜?」

 

「うーん。種はあるかなぁ」

 

 あくまでも魂の力を使っているだけだから。素になるものが存在しているなら、それは種があると言ってもおかしくないのではないだろうか。

 俺の言葉に、「シード」ちゃんは何かを納得したようだった。

 

「君もヘーリオス研究所からきたのかなぁ。ンナ、それにしては僕たちとは質が異なるような気も?」

 

「ヘーリオス……?」

 

「こっちの話だよ〜」

 

 そう言って「シード」ちゃんははぐらかした。

 ……まぁ、余計な詮索はしないでおこう。

 人には知る必要のないことだってあるから。

 たとえわかってしまったとしても、知る必要がないなら考えなくていい。

 

 俺は救世主じゃない。そんなものにはもうならないから。

 ──酷い話だ。

 

 ふぅ、と息をつく。

 なんだか着替えたら気力を使い果たしてしまった。ころんと布団に転がり、カリンちゃんが俺の足を持ち上げてくるりと後ろに一回転させ、そのまま抱っこでベッドから下ろしながら言う。なんで一回転させたんだろう。

 

「せっかく着たのにしわくちゃになっちゃいますよ、もうちょっとだけ起きておきましょう? お客様もいらっしゃいますし……」

 

「……むー」

 

「はわわっ……」

 

「はわわ〜」

 

 カリンちゃんが言うなら仕方ない。

 それになんだかんだ、この服は嫌いではないし。いくらシワなんて一瞬で直せるといっても、そうやって力に頼り切りになったら本格的にダメ人間になりそうだし。

 仕方がないから、俺は起き上がる。

 時計を見ると時間は朝。──朝? 今日は夕方までごろごろする予定だったのに……。

 萎みかけた心を引き起こして、この先の予定を考える。

 

 とりあえず、まずはご飯を食べるところから始めよう。

 

 

 

 

「はわわっ……」

 

「はわわっ……」

 

「はわわ〜」

 

 なんか照れるな。視界の端でカリンちゃんがドヤ顔しているのがわかる。

 リンちゃんたちまでこの反応ということは、カリンちゃんのセンスは正しかったといわざるをえない。

 

「似合ってるよジューダス! かわいいねジューダス! よしよしよしよし」

 

「待つんだリン、グレースさんみたいになってるよ。それに触れるのはズルいんじゃないだろうか。ここは公平に不干渉でいこうじゃないか」

 

「おにーさんも別に触っていいんだよ……?」

 

 性別がどうとかの話は今更だ。そもそもこの容姿を売っていたのだから。

 でも進んで手を出す者もそんなにいなかったか。俺を屈服させようって人はある程度近づいたらたじろいで何もできなくなっていた。

 というか、そういう人にはむしろこっちから触りにいってたな。手が触れるだけでも、少しだけ心は和らぐし。

 擦れた価値観は生き方を物語っている。そういう人は、昔の俺を見ているみたいに思えてしまうから。

 

「ジューダスってなんかお兄ちゃんに甘くない……? 不公平じゃ……?」

 

「そんなことないよぉ」

 

 リンちゃんもお兄さんも、どちらも俺の恩人で、特別な人だ。だからどちらも同じくらい大切に接してるつもりである。

 

「というか「シード」とジューダスって知り合いだったんだ? 意外な組み合わせというか……」

 

「そうかな?」

 

「ンナナ〜?」

 

 俺と「シード」ちゃんはお互いに顔を見合わせて、首を傾げる。

 そういえば一体何の用なのだろう。さらっとうちの家にいたし、流れでここまで一緒にきたけれど。

 

「組み合わせよりも、「シード」が誰かに関心を向けるのが珍しくみえるというか」

 

「そうかな〜?」

 

「そうなんだ……」

 

 初めて会ったときに拉致られた身としてはなんだか意外だ。

 まぁ、どうやら目的があってのことだったらしいし。

 自分の望みが叶うかもしれないのなら、細かいことなんて気にならないものだ。俺もかつてそうだった。

 

「というかそもそも、「シード」ちゃんは何者なの? リンちゃんたちに似てる気配はするけど」

 

「……わかるんだ? 魂っていうのは本当に便利だね」

 

「魂……?」

 

 リンちゃんは困ったように笑って、「シード」ちゃんは何かに引っかかったかのように首を傾げる。

 

 想像はついている。おそらく「シード」ちゃんの語っていた、ヘーリオス研究所なるものが共通項なのだろう。

 そしておそらく、そこでは俺とはまた別種の──超人的な力について研究していたに違いない。俺の能力から連想する時点で、そういうものだと考えられる。

 で、リンちゃんたちと「シード」ちゃんは同じくそこの出身である、と。そうでないにせよ、何かしらの関係はあったのだろう。

 

「ってことだと思うんだけど、合ってる?」

 

 説明するべきか否かで悩むリンちゃんのために、自分の推察を語ることにした。彼女の反応的に、俺が知っていて良いことのようだから。

 

「うん、正解。なんだろう……久しぶりにジューダスがちゃんとしてるところを見た気がする」

 

 どうしよう、否定できない。

 実際最近は色々と失敗しているから何も言い返すことができなかった。

 

「ねぇねぇ、()って何? プロキシ君の口ぶりだとまるでなにかの道具みたいだけど、僕の知ってるものと違う気がするな~」

 

 「シード」ちゃんはこちらの顔を覗き込みながら言う。

 飄々とした態度だけれど、どこかただの興味を越えた真剣さがあった。

 

「俺が扱う力の名前だよ。誰もが持っていて、誰もを構成しているもの。カリンちゃんも、リンちゃんも、お兄さんも、「シード」ちゃんも──」

 

「「ビッグ・シード」には?」

 

 食い気味に。

 彼女は言葉をぶつけてくる。

 

「彼にはあった?」

 

「あったよ」

 

 じゃないと、俺は彼を見つけられなかっただろう。

 俺の言葉に、彼女は嬉しそうに笑った。

 

「良かった──じゃあ、僕はちゃんと「ビッグ・シード」の後を追えてるんだ」

 

「「シード」、あんた……」

 

 しかし疑問だ。

 知能構造体にも、魂が見えるものと見えないものが存在する。

 その差は一体何が分けているのだろう? 俺はどのラインでそれを区別しているのか。

 

 俺の意識が区別しているのか。

 だとしたら、それはなんだか、ひどい話だ。

 

「──むぇぇ」

 

 と。

 そんなことを考えていたら、突然「シード」ちゃんに頬を引っ張られた。

 

「おぉ~、すっごく伸びるね~」

 

「……と、いうか……伸び過ぎじゃないかい? えっ、いや、ちょっと待ってくれ。人の頬はそこまで伸びないんじゃないか? えっ、えっ?」

 

『マスター、助手二号がステータス「混乱」を獲得。残り1ポイントの正気度減少で短期的発狂に至る可能性があります。対処法を検索しますか?』

 

「ごめんFairy。私たち二人が逝ったらあとは任せるね」

 

『マスター。これまでのログから私への「ジューダス・ウィクス」の脅威度は493%だと推測されます。マスターの対応が不可欠であると判断。ショック療法を提案します』

 

「リン様、アキラ様、き、気付けが必要でしょうか……?」

 

 髪の毛の長さとほっぺの大きさがほぼイコールになったところで、「シード」ちゃんの猛攻はストップした。なんかこれ操作ミスって意味のわからない状態変化を許容するようになってるな。

 伸びたほっぺのサイズをきゅぽんと戻して、再び「シード」ちゃんに伸ばされながら、彼女の行動の意図を考える。

 

「あはー、「シード」ちゃんってば、優しいんだねぇ」

 

「ん~? いきなりどうしたの~?」

 

 たとえそれが偶然であったのだとしても、思考の渦に呑まれかけた俺を助けてくれた。

 つまり、それでいいのだろう。

 価値判断の基準は人それぞれで、あるいは魂にしたってその有無は関係がないのかもしれない。

 あくまで機械であった大福が今となっては随分と変わっているように、どう見るかの違いでしかなくて。

 

 魂がない機械に見えても、それがあると思えばきっとあるものと変わらないのだ。

 そして俺がどう思おうと、他者の基準はその人にしか変えられない。

 

 

 心の在り処なんて、俺にも見えないんだから。

 

 だから不安になる必要なんてないんだよ。俺は彼女に笑いかけた。

 

 

 

 

 見透かされたな、と思った。

 笑みを見るだけでわかった。

 上から見られているかのようなその感覚には覚えがある。

 

(おんなじだ)

 

 頭の中に浮かぶのは、身近な人たち。

 

(「ビッグ・シード」とか、「鬼火」隊長とか、「トリガー」とかと、おんなじ感じがする)

 

 けれど、きっとそれよりももっと怖いものなんだろう。

 

 プロキシ兄妹は、彼女のことを落ち着きのない子供のような目で見ているけれど。

 彼女の瞳の向こう側には、何もかもを見透かすような、宙からの光のような()を感じる。

 

 それに惹かれて覗き込んだら、きっと大変なことになるのだろう。「シード」は思った。

 「シード」ですらそう思った。

 

 だから人は、彼女の瞳を求めて、そして連れて行かれるのだろう。

 ──どこへ? 宙の向こうへ。そしてきっと宇宙の果てへ。

 

 同じなのだ。例外を除いたすべての人間にとって、彼女は「シード」にとっての「ビッグ・シード」と同じ。

 本来彼女は遥かな高みから人を見下ろしているし。

 そうやって、人の手を取る側の人間なんだと、「シード」は理解する。

 

 けれど。

 その本質の姿よりも、気の抜けた表情をしているほうが似合っているように思った。

 

 何故だろう。こんなに美しいのに。

 そっちのほうがもっと美しいと、そう思ってしまった。

 

 

 それは。

 それはかつて、「シード」に手を差し伸べたときの「ビッグ・シード」と同じ名前の感情であることを、彼女は知らない。

 故人の想いを詳細に知ることはできない。本人から聞けばわかるけれど、遠い場所に行ってしまった人と話すことはできないから。

 

 彼女がこのままでいられる世界であればいいな、と思う。

 そして「シード」は、彼女の瞳から目を逸らした。このままなら、知らなくてもいいことまで知ってしまいそうだから。

 

(プロキシ君、頑張ってね~)

 

「はわわっ……」

 

「はわわっ……」

 

「はわわっ……」

 

 少し目を離した隙に、彼女の姿はまた大きく変わっていた。

 全体的に縮んでいる。弱っちそうな、小さな姿だ。

 みんなが顔を赤らめて動揺しているのはよくわからないけれど、楽しそうだからシードもその場のノリに混じってみる。

 

「はわわ~」

 

 なんだか楽しかった。

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