例えばそれはちえのわのような   作:moti-

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 大変お待たせしました(納得いかなくて書き直した)

 まったく関係ないんですけどReDreaming Angelめっちゃ好きです MVで羽ちゃんのヘイロー光ってませんか? あれ光るんだ
 というか前Verの妄想エンジェルイベすごく好きだったんで順当に曲が脳に染み付いています 思い返すと地味にFairyとアリアの匂わせもやってたような 素敵やん……


わすれモノ

 

「ご主人さま、ご主人さま〜っ!」

 

 音響室でスピーカーと向き合っていた俺の耳に、カリンちゃんの声が届く。どこか焦ったような、驚いたかのような声だ。

 こんなに取り乱すなんて珍しいものだ、と思いながら、俺は扉を開く。

 すたすたと早歩きで近づいてきたカリンちゃんが、そのまま俺の目の前までやってきて、チェーンソーを持つ手に力を込めたまま言った。

 

 

「ゆ、ゆゆ、幽霊さんが出たんですっ!」

 

 

 その言葉を聞いて、俺はひとまずカリンちゃんを部屋の中へと引き込んだ。

 

 さて、一体どういうことだろう。詳しい話を聞かなきゃならない。

 スピーカーからポップな曲を流し、ほどほどに音量を上げて、俺はカリンちゃんに話を促した。

 別に怖がってなんかない。

 

「何があったの? 幽霊って」

 

「さ、さっき見たんです! お掃除していたら、やけに窓が曇ってみえて……な、何かあったのかと思って近づいてみたんです。そうしたら……」

 

 もっとテンポが早い曲に変更して、カリンちゃんの言葉の続きを待つ。

 

「空間が歪んでいたんです。ちょうど、人の形に。そ、それに、女の人の声も……!」

 

「ふむー」

 

 死者の魂が彷徨ってここに来てしまったのだろうか。

 しかし妙だ。どうして俺の家に出てきたんだろうか。俺に下手に近づけば、逆に消えてしまうというのに。

 

 ……。

 やだなぁ。

 幽霊の正体なんてだいたい何かを依り代にしてこの世に残っている死者だ。雅ちゃんの刀にいるものと同じ。

 今更恐れるようなものではないが、だからといって自分からそれに近寄りにいくのは嫌だ。

 だってびっくりさせられそうだし。

 別に察しがついてる以上怖くはないけど、ああ言うのって大体悪性に堕ちてることが多いので、変な嫌がらせをしてくる気がする。

 そう、俺はホラーが怖いわけじゃない。

 びっくりするのが嫌で、だから怖がっているように見えるだけだ。

 そもそもいきなり大きい音出したらみんなびっくりするに決まってるじゃん。それを怖いというのは暴論だ。だから俺は怖がっているわけじゃない。

 

「ちなみにどこに出たの?」

 

「寝室です」

 

 なるほど。

 

「今日はここで一緒に寝よっか」

 

「で……でも、本日は、来客の予定がございますよ……?」

 

「あはー」

 

 そういえばそうだ。今日はお仕事の日であった。こういうとどの仕事かわかりづらいな。安眠を与えるほうのお仕事である。

 珍しい。最近は家へと訪れる人もめっきり減ってしまったのだが。

 代わりと言わんばかりに曲の再生数は日々凄まじい勢いでカウントが増えている。そのほうが健全なような気がするので、俺としては喜ばしいことだ。

 

 しかし、そういうことならなんとかしなきゃいけない。

 スピーカーの音を止めて、一息。

 そばに置いてあった紅茶を飲み干して、仕方がないと立ち上がった。

 

「……ねぇ、カリンちゃん」

 

「は、はい」

 

「一緒に行こ?」

 

「……ひゃ、はい……」

 

 そういうことになった。

 二人なら驚かされても怖くない。完璧な判断だと言えよう。

 

 

 

 

 寝室から移動している可能性を考慮して、広い家の中をゆっくりと一つずつ確認する。

 無駄に広いのでこれだけでもかなり時間を使う。そもそも俺は全体像を把握していないので、ところどころ知らない部屋がある。この家に関しては今や俺よりもカリンちゃんか大福のほうが詳しいだろう。

 

 あれこれ扉を空けつつ、時々知らない部屋についてはカリンちゃんに聞いてみる。

 

「脱衣場っぽいけど……この先ってどうなってるの?」

 

「ここは……温泉ルームです!」

 

「知らなかった……誰か使ったりしてるのかな」

 

「お客様がいらっしゃったときにお使いになられますね。バスルームのほうはご主人様以外は使用されていないようですが」

 

「なんでだろ」

 

 あっちは寝室に近くて便利なのに。

 便利なので、防水仕様の端末を壁にセットしてのんびりできるようにしている。

 そのへんのカスタムが邪魔というか、どうすればいいかわからなくて気不味いのかな。

 

「それは……なんというか、意識しちゃうからじゃないでしょうか……?」

 

「んー? 何を?」

 

「あ、ぁ、失礼しました、忘れてください……」

 

 少し顔を赤くしたカリンちゃんがそのまま小さくなっていった。

 あんまり気にしないほうが良さそうなので、忘れることにしよう。

 

 軽く中を見てみる。幽霊らしき影はない。

 意外と広い。一人で入る想定ではなさそうだ。とはいえ俺が誰かと一緒に入るということはまずないので、完全に無駄である。

 そもそもお風呂場に相当するものが二つあるのはおかしいのではないだろうか。

 しかもサウナルームまで完備されてるみたいだぞ。過去の俺は汗にすら気をつけなきゃいけないほどだったので知っていたとしても使うわけがなく。

 

 圧倒的無駄……! これまであまり意識してこなかった金持ちの道楽というものを強く感じさせる一室であった。

 

「この部屋は? こっちも脱衣場があるけど」

 

「こちらはプールですね。こちらもたまにお客様がご利用なさいます」

 

 プールまであるんだ。

 ひょっとして俺の家、遊び場としてすごく優秀なのではないだろうか。

 今度仲良くなったみんなを招待してみようかな。

 一緒に映画を観ることしか考えてなかったけれど、みんなと泳いで遊んだりするのは楽しいかもしれない。

 でもそうなると水着を着なきゃいけないわけで、それはちょっと面倒で嫌だ。あくまで候補としておこう。

 

「こっちの部屋は?」

 

「ビリヤードやダーツのゲーム台が置いていますね。たまに使用人の方々が、ご主人様の当番を決めるときに使っているのを見ます」

 

「ほへー」

 

 そうやって決めてたんだ……。

 確かに料理係とかよくわかんないローテーションしてると思った。そもそもあまり顔を合わせることはないので、見る顔にばらつきがあるのは当然だと思って気にしていなかったのだが。

 

「こっちの部屋は……」

 

「ゲーム室ですね。いろんなゲームの筐体が置かれています」

 

「娯楽系完備されてる……?」

 

 ひょっとして、これだけ用意しておけば家から出たくなることもないなんて思っていたのだろうか。

 というかたぶんその想定だったのだろう。カリンちゃんに会うまでは、関係なくほとんどを寝室で過ごしていただけで。

 

 ネットだけあれば、いくらでも時間をやり過ごすことができる。前世ではそんなものなくても苦痛な時間をやり過ごせていたし。

 実際にそのときの記憶がなくても、体に染み付いていたようだ。それにあのときは自分が嫌でどうしようもなかったし、能動的に何かしようなんて思ったのは退屈にしびれを切らしたあのときくらいじゃないだろうか。

 

 ともあれ、ここにゲーム機があるならこっそり練習することもできそうだ。毎日取り組めば、経験値はきっとみんなに追いつく。

 最弱だった俺が凄まじい追い上げを見せたらみんなはどう思うだろう。特に気になるのはリンちゃんの反応だ。

 今度リンちゃんとやることがあったら驚かせてやる。ふふん。

 

 こうして見回っていると自分の家の妙な大きさを実感する。

 おそらく商業施設くらいの規模感はある。実際に元商業施設の土地を使って作ったんじゃないだろうか?

 それをたったひとりのために用意するというのは、なかなか奇妙な話だ。そんな価値があるのかと疑問には思うが、価値というものは他人が決めるものなので、俺はそれに口出しする気もない。

 

 そもそも恩恵を享受している立場の人間が何か言うべきことでもないだろう。

 俺は山の中にある小さなログハウスで、ゆったりと日々を過ごすだけでも贅沢だと思うけれど。

 

 そのまま、カリンちゃんに部屋について聞きつつ、幽霊探しをしていく。

 

 茶室やら何やら、娯楽系統の部屋が多く、なんとなく寂しい気持ちになる。使われていないというのに手入れされたその部屋は、やはりどこか空虚だった。

 

 いっそ幽霊でも使っていてくれればと思うが、一通り探してもそれらしき影は見つからなかった。

 たまに使用人の人たちが使っているのは、この部屋たちにとっての救いのようにも思える。

 なら俺が使うようにすればいいじゃないかと思われるかもしれないが、やはり俺には寝室やその周辺で足りていて。

 かわいそうだからと惰性で使うのは、それこそ意義を台無しにしているようで、寂しくなる。

 

 こんなものを用意させてしまう美しさというのは、やはり恐ろしい。

 どれだけの人がこの家を用意することに賛同したのだろう。わからないけど、きっと俺が想像するよりも多い。そんなの、正気の沙汰とは思えない。

 

「…………」

 

「……? どうかなさいましたか?」

 

「ん」

 

 表情には出ていないはずだが。

 流石というべきか、カリンちゃんは少し悩んだ俺の機微をすぐさま理解したようだ。心配そうな視線をこちらに向けてきている。

 

「……これはすごく、試すみたいで、面倒くさい質問なんだけど」

 

 何を聞こうとしているんだろう。いちいち言葉にして、安心を得ようとする自分がどこか浅ましく思えて、口にする最中もどこか気分が沈んでいく。

 

「カリンちゃんは、こんな家を作ってあげようってほどに、俺に価値があると思う?」

 

 俺の言葉を受けたカリンちゃんは、軽く目をぱちぱちとして、「ええと」と言葉を留めた。

 

「あると思います。カリンは、この家はご主人様に似合っていると思いますけれど」

 

 カリンちゃんの言葉に、どことなく気まずさを覚えた。

 こう探索してみて、俺はこの家に良い印象を持てなかったから。

 

「けれど、カリンがたくさんお金を持っていて、あなた様に何かをあげられるとしたら、きっと別のものをプレゼントするでしょう。それは他の皆様よりも、カリンがちょっとだけ、あなた様と親しいからです」

 

「……そっか。じゃあ、もしそうだったときカリンちゃんは、俺に何をくれる?」

 

「そ、そうですね……」

 

 何を思いついたのか、カリンちゃんは直後に顔を紅くして、頭を振った。

 その後に表情が小さいながらもぐるぐると変わり、やがて腹が決まったのか一瞬長く目を瞑ったあと。

 少し上擦った声で、俺から少し目を逸らして、彼女は言う。

 

「……そ、その。……一日専属メイド権というのはいかがでしょうか……? 今とそんなに変わりませんが……」

 

 かわいい。

 先ほどまでの気分が一瞬で吹き飛ぶような、目が覚めるような感覚だった。

 

「……うん。俺は、それが一番嬉しいよ」

 

 そうだ。

 俺にとっては、傍にいてくれることがどんなことよりも嬉しいんだ。

 いつかお兄さんが俺に言ってくれたのと同じ。

 例えばどんな救済よりも、こんな素朴なことのほうがずっと救いになる。

 

「この家をプレゼントしようと思った皆様は、これだけ大きく作ってやっとあなた様に釣り合うと思ったのでしょう。使うかはともかく、楽しんでくれたらいいなと思ってあれもこれもとたくさんの設備を用意されたのだと思います」

 

「でもそれは、使われないものがかわいそうだ」

 

 俺が考えすぎなんだろうか。

 使われるために作られたものが、使われることなく終わるのなら、それはどうして生まれてきたのかわからなくなるじゃないか。

 

「……そう思われるあなた様だからこそ、皆様が何かをあげたくなるんじゃないでしょうか」

 

「そうかな」

 

「ええ。カリンはそう思います」

 

 そもそも話したところで解決するようなものでもない。自分の中のもやもやをカリンちゃんに押しつけただけだ。

 納得できないことも知っていた。だって俺は、自分にまだ価値を見いだせてないから。

 俺に価値があると思っているみんなと、前提が食い違っている。

 

「──え、えいっ!」

 

 むにゅっ、と。

 俺のほっぺをカリンちゃんの手が包み込んだ。

 じんわりとその熱の感覚が頬に染み込んでいく。

 

「……ど、どうですか? ちょっとだけ、気分は楽になりましたか?」

 

「うん。すごく」

 

 気を遣わせてしまったな、と思う。

 でも、俺がカリンちゃんの立場だったらきっと同じことをすると、そうも思う。

 だからと言って気を遣わせたいわけじゃない。気落ちした心を上向きにしようと、俺は努めて忘れることにした。

 

 

 

 

 思考が完全に寄り道してしまっていたが、幽霊を探すというのが家探しの目的だったわけで。

 とうとう俺達は寝室へと辿り着いてしまった。

 他の部屋には影も形も存在せず、カリンちゃんが嘘を言うこともないので、動いていなければこの中に幽霊らしきものがいるはずだが。

 

「……開けるよ」

 

「は、はい……!」

 

 ゆっくりと扉を開いて、部屋の中を覗き込む。

 

 普段俺が眠っている位置らへんに、確かに空間の揺らぎがあった。

 

『──────』

 

「っ、こ、声が……!」

 

「うーん」

 

 なんだろう。

 何か違和感がある。雅ちゃんの「無尾」とはかけ離れた感じがある。

 

 あれとは何かが違う。

 まるで魂を引き剥がしたかのような。

 

「……ああ、なるほど」

 

 死者ではない。

 向こう側に触れているわけではなく、生きた魂が外に出て彷徨ってしまっている、というわけか。

 

 これならまだ取り返しがつく。

 体がないのはどうにもしようがないが、支障なく話すことができる程度にはできるだろう。

 

 自分の内側を意識する。

 自分の()()をほんの少し。欠損を補う程度に──

 

「──ぁっ!?」

 

「──だ、大丈夫ですかっ!?」

 

 カリンちゃんが俺を庇うかのように立ち、チェーンソーを構える。

 けれど意識している暇がなかった。視界が明滅する。何か溢れているような気がするけれど、それを意識することもできない。

 

 痛い。

 信じられないほどに。

 

 やたらと膨れ上がったほんの僅かな一欠片ですら、俺から完全に切り離そうとすると激しい痛みが湧き起こる。

 そりゃそうか。あの神様気取りは確か、俺の魂は記憶と紐づいていると言っていた。

 本来ただの意思の力であるそれと、俺は密接に結びついている。雅ちゃんに斬られたときは、根本がくっついていたからわからなかったが。

 無理矢理に切り離そうとすると、当然身体へのフィードバックはある。

 

「……ね、カリンちゃん、お願い」

 

 息も絶え絶えに、俺はカリンちゃんに声をかける。

 ちゃんと喋れているのかな。なんだか上手く呂律が回らないような。

 

「手を」

 

「こ、こうですか!?」

 

「ありがと」

 

 手が握られた。暴れないようにぎゅっと握ると、カリンちゃんもこちらの手を握り返してくれる。

 

 なら安心だ。

 そのまま、俺は一気に自分から魂を切り離す。

 

「──ぃ、ぅ──」

 

 奥歯を噛み締めて、悲鳴を押し殺す。

 同時に、何か欠けたような感覚があった。

 だがそれもすぐに押し消える。全身を襲う痛みと倦怠感だけが残って。

 

「……うぅー……痛いよぉ……」

 

「き、聞こえますかっ!? 大丈夫ですか!? 一体何が、てっ、手当は」

 

「大丈夫、大丈夫……」

 

 涙が溢れているのを感じる。

 魂の分割はこんなに大変なのか。記憶がないからわからなかっただけで、実はあの自称神様にもこんな痛みを課されてたらどうしよう。ちょっと怒るかもしれない。

 

 ともあれ、切り離した俺の魂をちょこんと操って、例の幽霊へとくっつける。

 他人の願望を受け取って大きくなっていく俺の魂は、他人の魂と違和感なく融和する。これはそういうものだと()()()

 

『……ん……ここ、は』

 

 混ざり切るまでの時間が過ぎて。

 やがて、希薄だった姿がはっきりと見えるようになる。

 

「……ああ」

 

 そういうことか。

 俺は彼女のことを、知っている。

 

「カリンちゃん、見えてる?」

 

「……はい。この方は……」

 

 なるほど、カリンちゃんにも見えている、と。

 不味いな。カメラに映るとすれば面倒だ。監視カメラをシャットアウト。見えてるとすればあまり効果はないが、見えてないことに賭けよう。

 

『──てん、し──? 私は死んだのかしら』

 

「いや、生きてるよ。身体は今ないけれど」

 

『……そうなの? あ、ホントね……浮いてるわ。なんだか不思議な感覚。こんなに身体が軽いなんて』

 

 どこか夢の中にいるような、呆けた心地で、彼女は周囲を見渡していた。

 

『なんだか悪い夢を見ていた気がするわ……私は……私は──』

 

 そこで、ふと彼女の表情が変わった。

 凍りついた、と言ってもいい。

 

『私は──誰?』

 

 ああ、そうか。

 そりゃ、あそこまで弱っていたなら、そうもなるか。

 

「……記憶喪失、ということでしょうか?」

 

『……ええ、そうみたい。妙に清々しい気分以外、何もわからない』

 

 カリンちゃんがちらりとこちらを見る。どうすれば良いのか測りかねているようだ。

 とりあえずケータイ端末を取り出して、カメラを向ける。……映ってない。よし。でも虚空に喋ってると怪しまれるから監視カメラは切ったままで。

 

 俺は彼女へと手を伸ばした。

 

「それなら、気が済むまでここにいなよ。身体も記憶もないなら、どうしたらいいかわからないでしょ?」

 

『……良いの? こんな、幽霊みたいな状態の人間よ? 気味が悪いとは思わないの?』

 

「まったく。理解が及ぶなら大丈夫」

 

 これは本当。

 驚かせてこないし。それだけでもう充分だ。

 

「それに、この家は部屋がたくさん余ってるから。どうせなら使ってもらいたいよ」

 

 そうだ。

 俺の中のもやもやを解消するのに、住む人が増えるというのはちょうどいい。

 とはいえ、身体がないんだし、肉眼で見えるのなら多少は制限もあるけれど。

 それでもこの家には持て余した部屋が驚くくらいの数存在する。彼女が使ってくれるのなら、それは部屋も本望だろうと俺は思える。

 

『……そう。なら、お言葉に甘えさせてもらうわね。えぇと……あなたたちの名前は?』

 

「ジューダス・ウィクスだよ」

 

「カリン・ウィクスですっ!」

 

『まぁ、かわいらしい姉妹』

 

 くすくすと彼女は笑った。

 険も嫌味もない笑みだ。

 

『私は……そうね。何を名乗ろうかしら』

 

「あ、それなら俺に案があるよ」

 

 頭の中で、いつかのあの笑みを思い出す。

 いつか俺がそうしてもらったように。

 

 

「記憶がなくて、まっしろだから──『シロ』はどうかな?」

 

 

 彼女はそれを聞いて、ちょっとだけ笑った。

 

『……私の服も、それに髪も真っ黒よ? それに「まっしろ」は、なんだかおかしいわ』

 

「……ダメ?」

 

『ううん、むしろ好きね。それじゃあ、私は「シロ」──そう呼んでちょうだい。ジューダスちゃん、カリンちゃん』

 

 彼女は、そう言って笑った。

 まるで影のない笑みだった。

 

 そうやって笑えるなら良かったと、俺は思った。

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