ただTOPSがきな臭くなってきたぞ どーすんだこれ
あとr-906(敬称略)が妄想エンジェルの曲作ったのマジですか おかしくなる〜
同居人が増えた。
話したときはあまり深く考えず、有り余っている部屋を自由に使ってもらうくらいのつもりだったのだが。
『……ほら、起きて。もう朝よ? カリンちゃんだって準備が終わっているわ、待たせちゃうわよ』
「……んぃ……起きます……」
ここ最近で慣れた声に、俺は目を開いた。しょぼしょぼする瞼を軽く擦り、その刺激で意識を起こしていく。
『おはよう、ジューダスちゃん』
「おはよぉ、シロさん……」
向けた視界の先で、彼女は優しそうな笑みを携えていた。
従者服だ。スカートじゃなくてズボンの方の。俺とは違い、スタイルの良いシロさんが着ると様になっている。
どうしてこう、従者の真似事などをしているのか。俺にはよくわからないが、本人たっての希望なので任せることにした。
俺としても彼女の意思は尊重したいし。
だが俺にはカリンちゃんがいる。他の仕事で来れないときだってあるが、だいたいの場合にいる。そしてカリンちゃんはメイドとして優秀なので、あまり手伝うようなこともなく。
最終的に、俺に甘いカリンちゃんがなんだかんだで許してしまうところを担当するようになっていった。
例えば規則正しい時間に起こすだとか、外に出るときの着飾り方だとか。そういうものをやってくれている。
「おはよー、カリンちゃん」
「おはようございます、ジューダス様、シロ様」
朝だというのに眠気の片鱗を見せないカリンちゃんは、俺達ににこりと笑って挨拶をした。
食卓に並んだ朝食の前に座る。俺の意向で、カリンちゃんも同じように座っている。
豪奢とは言い難い。むしろ素朴だ。だがそれで良い。
俺もカリンちゃんも朝から量を食べるような気質じゃないし、そもそも前までは朝食を食べないことも多かったし。だから、このくらいでちょうど良いのだ。
パンにバターを塗ろうとして、ひょいっと横からバターナイフが拾い上げられた。
そのまま俺の前でパンに塗りこまれていく。
「別にやらなくても」
『良いじゃない、このくらい。私がやりたいんだから』
俺の後にカリンちゃんのぶんまで同じようにして、シロさんは笑った。
彼女に身体はない、魂だけの存在だ。食事を摂る必要はなく、毎食の時間を傍に控えて、ただただじっと見ている。
それは羨望のようにも、博愛のようにも見える。ただじっと見ている。
一度聞いてみたが、それでも退屈ではないようだ。
その感情は、彼女の失くした記憶に関係するものなのかもしれない。
俺は彼女のことに詳しくないから、彼女に何があって、どうやって歩む道を決めたのかについてはわからないのだが。
知ろうとすれば神託で知ることだってできるけれど、もう無いのならば、そっとしておくのが正しいと思う。
無理に過去を思い返す必要はない。
俺のときは大変なことになったし。
家から出る支度をする。
珍しく、軽く化粧をしている。シロさんから教わったものだ。
服も黒地のフォーマルスーツ。窮屈だけれど、ドレスなんかと比べればまだ面倒くさくないだけマシか。
「いってきます」
そのまま、歩いて家を出る。
転移すればいいだろ、とは思うけれど、たまには歩かないと気分も落ち込む。
歩くのはあまり好きではないけれど、気分転換だと思えば丁度いい。
『……この家って、少し寂れた場所にあるのよね。なんだか意外だわ』
周囲を見回しながら、ちょっと透けているシロさんが言った。
まばらに人がいるが、誰も宙に浮いた彼女を気にした様子はない。
魂の濃度を少しだけ調整することで、俺にだけ見えるような状態になっているのだ。
いつまでも家の中というのは気が滅入るだろうし、なんとかならないかと試してみたらなんかできた。
そういうことで、たまにシロさんは俺やカリンちゃんの外出に着いてくるようになった。カリンちゃんにはこの状態の彼女が見えないので、こっそりと着いていっている。
それも彼女なりの暇つぶしなのだろう。楽しんでくれるなら、こちらとしても試してみた甲斐があって嬉しい。
『ジューダスちゃんなら、もっと街の中心あたりに居を構えていてもおかしくないと思ったけれど』
「うーん」
そうなると隔離策が上手くいかないと思ったのかなぁ。
土地の問題は、資金のことを考えたら障害にもならない。だからもっと他の思惑があるに違いないし。
今も昔も、俺の扱いは変わらない。存在がすべての生物にとっての爆弾になりうる。
俺の魅了は美しさによるものだが、じゃあ何が美しいのかといえばそもそも大本の魂だ。
今も昔もそれ自体は変わらない。変な力を使えるようになって、隠すような慎みを覚えたとしても、俺が他人を狂わせるほど美しい事実に変化はない。
記憶を取り戻す前は、欠けていて完全な状態ではなかったから違いがあったけれども。
それでも幼少期の頃だけのわずかな欠片で、容易に人を狂わせることができる。どころか、俺を見ただけの相手をそのまま殺すことだってできたのだろう。
そんなものを、建物に封じているとはいえ大勢の人が集まるような場所に置いておくのはどうなのだろうか。
ということで、俺はこうして少し離れた場所に置かれるようになった……というのが事の流れなのだろう。事実は知らないけれど。
だがまぁ。
「喧騒に俺は似合わないよ」
『……ふふっ、それもそうね』
なんか自惚れみたいに聞こえるかも。
だが事実だ。俺は暗い性格をしているのだし、ガヤガヤとした喧騒には似合わない。心のほの暗さが透けてしまうだろうから。
訪れたのは治安局だ。
『……何故かしら。ちょっと落ち着かないわ……』
入るや否やそわそわとし始めたシロさんに少し苦笑を誘われつつ、そのまま俺は奥へと進んでいく。
受付の人が指した先へと、いつものように。
通された面会用の部屋の椅子に座る。
ややあって、今や見慣れた顔の人物が俺の対面へと連れてこられた。
「久しぶり。前は先月だったかな?」
「そう、ですね。先月です」
目の前の彼は、活力がある、実直な顔つきをしている。俺の顔を見て、小さく頬が綻んだ。
「最近は何か変わったことなんか、ない?」
「特には。……ああ、俺達で彫った神像が売れましたね。5つ彫ったうち全て完売で、しかも彫刻師からすごく褒められたんです。刑期が終わったら、そっちの道を考えてみるのもいいかもしれないって話をしてました」
「おお、すごいね。その神像ってどんなの? モチーフとか」
「…………」
彼は気まずそうに俺から目を逸らした。はて。
そこから幾らか話していく。
最近は調子が良いこと。仲間内での草野球で分身する魔球を開発したが、投げた自分すら正しい球がわからず誰も捕れないこと。囚人たちの間、どころか治安官たちの間までにも俺が話した言葉を集めた本が出回っていること。
最後はやんわりと止めた。効果はないだろうが。
俺変なこと言ったかなぁ。ちょっと不安だ。
「──いつも、ありがとうございます。俺達を気にかけてくれて」
「気にすることじゃないよ。俺がしたくて、やってるんだし」
「……ジューダスさん。俺はあなたと会うまで、正義だの優しさだのは全部嘘っぱちだと思ってました。陽のあたる正道に価値なんか感じられなかった」
でも今は。
彼はそう続けて、小さく笑っていた。
「少しでも正しく生きる道を探しています。……本当に、ありがとうございます。やったことには、償い切れないけど」
「…………」
俺も、何が正しいだとか、自分のやっていることが正義だとかは思っていない。
だからその言葉に関しては、何を言えばいいのか咄嗟に出てこなかった。少しだけ考えてから、俺は口を開く。
「……人はみんな違うから、受け入れられないことだってある。だからぶつかりあって、分かり合えなかったりする。今時みんなそんなもので、優しさでさえ裏を疑っちゃうけれど」
「……はい」
「それでも、ホロウに飲まれかけた世界で俺達が生きてるのは、先人たちが素朴な善性で命を賭して生き残る余地を残したからだよ」
「俺もそうありたいと思っています」
「ううん。そこだけに感化されちゃダメなんだ。彼らのやったことは素晴らしいことだ。それに他に選べる選択肢があったのか、俺は知らない。だから上から無責任なことだけ言ってるのかも。だけど」
それでも。
「生きててほしいよ、みんな。君もそうだよ」
「──────」
「だから、みんなで生きられる未来を探そう? もしもホロウが今、この瞬間俺達を呑み込もうとしていたとしても、みんなで頑張ればなんとかなるかもしれない。……頑張って、それでもなんとかならなかったときは」
……そうだ。
そんな状況なら、言い訳なんてしていられない。
大事にしたい人たちがみんな、呑み込まれてしまうのなら。
「俺もいる。絶対になんとかするなんてことは言えないけど、今の俺ならだいたいのことはなんとかできるし」
それがきっと、俺が救世主として生まれてきた意味だ。
自堕落なんて言っていられない。
みんなで明日へと進んでいくための、一つの希望の形として、俺は生まれてきたのだろうから。
そのまま、しばらくの間ぐるぐると入れ替わっていく人たちと話す。
すべての面会が終わって、外に出た頃には日が沈んでいた。
朝からと考えたら、結構長く話していたようだ。魂の状態を維持することで肉体の疲れはないのだが、体が妙に固まっているような感じがする。
軽く伸びをして、気だけを晴らす。
『……どういう付き合いの人たちなの?』
「付き合いらしい付き合いはなかったかな。昔悪さをした人たちだよ。たまに話にくるんだ」
最初に話したのは、大福と出会ったときに出会ったホロウレイダーたちのリーダーだ。
彼が捕まって以降、こうして軽く話にくることがあった。それだけじゃない。治安局に捕まって、今刑罰を受けている人たちとは、全員話したことがある。
『……どうして? あなたがそんなことをする必要はないでしょう?』
「必要なことだけやって生きてるわけじゃないよ。正しさを主張するつもりもない。道を踏み外した人より、品行方正に生きてる人のほうがずっとすごいこともわかってる」
本来はそういう人たちを褒め称えるべきなんだろう。自分自身の市場価値を理解している以上、俺がこうして面談をすることに対して不公平だと思う人たちがいることもわかる。
だがまぁ、これは俺がやりたいことだ。
「俺がやってるのは、ただ進むべき道を示してるだけだ。それが正しい道とは思ってない。あくまで俺の思う正しさでしかないから、間違ってるのかもしれない」
それでも、彼らが少しだけでも堂々と生きられるような道なんじゃないかと思う。
そうやって、昔の俺みたいな子供に、手を差し伸べてくれれば、それはきっと助けられた誰かにとっての指針になる。
──あるいは、少し前の俺みたいな人に、優しさで怒ってくれるようであれば。
「人に優しくするのって、恥ずかしいし、怖いし、大変なことなんだよ。だから、俺が理由になれるなら良いことだと思った。そうやって、少しずつでも善意が回って、世界が優しくなればいい」
『……無理よ、そんなこと』
「一人なら無理だね」
だけど、みんななら。
俺が向けた視線の意味を感じ取ったらしく、シロさんは顔を歪めた。
『嫌よ、私。そうやって手を差し伸べて、あなたがボロボロになっていくのは見たくない』
「俺はいなくならないよ。カリンちゃんが……俺を大好きだって、言ってくれる人がいるから。何があってもいなくならない」
足を止めた彼女へと振り返って、俺は言う。
シロさんは、なんだか追い詰められたみたいな顔をしていた。まるで嫌なことを振り払うかのように。誰かに縋りそうになった気持ちを、振り切るように。
『……わからないの? 正しさなんて、悪い人に簡単に食い潰されるのに。そんなこと、……』
彼女が見てきた世界を、俺は知らない。
元々の彼女の視界がどんな風に染まっているのかわからない。けれど、きっとその人生は俺のように波風のないものではなかったのだろう。
記憶のない彼女だって、その見方は変わらない。人というのはそう簡単に変化するものではないから。
「……それでも俺は、世界に優しさが溢れることを、祈ってるよ」
彼女が絶望だけで生きてきたわけじゃないと、そう思っていたい。
だって、
「少なくとも、あなたは俺のために泣いてくれるんだから」
振り向いた彼女の目からは、小さく涙が溢れていた。
人を想って涙を流せる人が、優しくないわけがない。
『……ズルいわね、あなた』
「たまに言われる」
そう言って笑えば、彼女は煙に巻かれてくれることにしたのか、困ったように笑ってくれた。
──そうだ。
どんな人だって、優しさを持っている。
本当はそのはずなんだ。ただ、人生の忙しなさのせいで見えなくなっているだけで、根っからの悪人なんて存在しない。
だからこそ、少し悲しくなった。
目の前の彼女が、あんな生き方を選ぶに足る理由があったということだから。
↓今回ゼンゼロ要素少なくなったぶんの追記です↓
「スクーターかぁ」
じっと見つめてみれば、シードちゃんは頬に手を当てて「ふふ〜ん」と自慢げな声を零した。
「気になるの〜?」
「少しだけ」
この間リナさんから聞いたが、人は長距離の移動を楽しいと思うようになっているとのことで。
ワープを多用しているのはそのあたりの楽しみを喪っているのではないか? と思い始めたわけだ。
車とか、バイクとか。なんでもいいけれど、とにかく手軽な移動手段なんかを見繕ってもいいんじゃないか。
そう考えて、まず真っ先に思いついたのはシードちゃんのスクーターだ。
というわけで眺めていたのだが。
「でも、君ってあんまりこういうの得意そうじゃないなぁ〜。もし転んじゃったら危ないし、やめておいたほうがいいかも?」
たしかに、バランス感覚なんかには自信がない。スクーターは辞めておくべきか。
「カリンちゃんはどう思う? 乗り物とか乗ったことある?」
「わっ、私ですか……? あっ、チェーンソーなら……!」
「えっ?」
「乗り物なの?」
「あっ、映像あるよ。見る?」
ということで、リンちゃんの用意した映像を拝見。
チェーンソーの刃を地面で回転させつつ、器用に側面の部分に足を乗せて高速移動するカリンちゃんの姿がそこにはあった。
「危ないよ……!?」
「すご〜い! 今度一緒にツーリングする〜?」
「シード、ダメだよ。こんなので公道出れるわけないからね!」
カリンちゃんのほうを見ると、彼女は照れと反省を覗かせる表情をしていた。
だがライカンさんに「たまにノコギリ部分を落下させる」と聞いているこちらとしては気が気じゃない。
かつて自由落下の勢いを止めたくらいに頑丈なのは知っているけれど、それでも心配が勝つ。あまりやらないでほしい。
「……というかそもそもなんだけど、ジューダスって免許取れるの?」
「あっ」
そういうわけで、この話はすべてなかったことになった。
後日雅ちゃんに話したら、「走ればいい」と言われた。それができるのは君だけだと思う。