ふと思った。
テキストだけでの交流なら俺でも気兼ねなく他人と交流できるのではないだろうか?
というわけでインターノットのサブアカを作ることにした。
気楽に誰かと交流するためのアカウントだ。
これにより俺もリンちゃんやエレンちゃん、カリンちゃんに頼らず世の中の流行に乗れるというわけ。
ユーザーネーム……。
どうしよう。
「…………」
よし。
アイコンはどうしようか。
当然俺の写真を使うのは論外だ。
好きなものを写真にしたいところだが。
「……あ、そうだ。大福こっち向いて」
「ンナ?」
近くで衣服の整理をしていた大福をパシャリ。
きょとんとした顔がキュートなアイコンだ。これで良いだろう。
自己紹介欄。特に思いつかないので記入なしで。
これでアカウントのセットアップは終了。
気楽な電子の海へと飛び込んでゆく準備ができた。
「ん」
アカウントを作ったばかりだというのにメッセージの通知が届く。
よくわからないアカウントだ。どうやら今しがた作られたばかりのようだが。
【NO NAME:まったくひそひそと何をしているのかと思ったら……あんまり僕が不安になるようなことはしないでくれよ。心臓に悪いだろ? 僕に心臓はないが】
「ブロック、と」
どうやらスパムのようだ。まぁこんな出来たてのアカウントに即関わってくる時点でろくなものじゃないか。
きっとそういう業者なのだろう。なんにせよブロックするのが正解。
話題になっている投稿が流れてきたので、ぼーっと軽く目を通す。
何かしら面白い投稿はないだろうか。
「ネコちゃん、ネコちゃん、ウーフちゃん、これは……すごい、おっきなボルゾイだ。……木より大きくない……?」
全ての投稿をリポストしてかわいいと一言返信していく。
いつの間にか流れてくる話題は動物一色に染まっていた──。
カリンは訝しんだ。
ここ数日の間、義妹の様子が少し変わったように見えるのだ。
前から暇なときはぼーっとSNSを見たり動画を見たりしていたのだが、どこか隠れるようにやっているのだ。
もちろん視線誘導に長けた彼女のことだ。一見してそうとはわからないようには隠されている。
しかしカリンにはお見通しだ。彼女は自分の意識をがらりと切り替える癖がある。そのスイッチの際には必ず普段よりほんの数瞬長い瞬きをするのだ。
また、纏う雰囲気の質も僅かに変わる。今の雰囲気はどことなく、誰かに合わせるときの、抑え込まれた雰囲気に近い。
しかも今回は普段と違い、お仕事のときにすらどこかほんの少し切り替えられていない気配が感じられる。
ライカンやリナはほんのわずかに疑っており、注意するべきか悩んでいたが。
それでもカリンに気を配るように告げて用心の軽い注意だけで済ませるあたり、確信は持てていないようだった。
普段カリンたちの前で気の抜けた姿を晒していることから勘違いしそうになるが、ジューダス・ウィクスという少女はありえないほどに演技が上手い。
相手から見た自分の姿をイメージできているかのように、求められている役割を容易くこなしてしまう。
これで自分には才能がないと思っているあたり、その程度のこと、彼女にとっては「できて当然」の範疇にあるのだろう。
「おかしいとは思いませんか……?」
『そうね、私はカリンちゃんの観察力のほうに驚いているわ』
親愛なる同居人ことシロに対して話したところ、どことなく感心した様子でそう告げられた。
『私には普段通りに見えるけど……でもたしかに、普段よりちょっと笑顔が多い気はするわね』
「あれは誰かとお話するときの笑顔です」
『それもわかるのね……』
簡単だ。
ジューダス・ウィクスという少女は自発的に笑わない。笑顔の中で特に多いのは、何かに関わって心の古傷に触れたときに浮かべる自嘲の笑みで、その次が誰かを思うときに見える慈愛の笑み。
眉と目尻の落ちる角度でよくわかる。にへらとかわいらしい笑みは、口角の上がり方でその感情の大きさがどのくらいかある程度数値化できる。
『SNSでもしてるんじゃない? あの子、普段は人と深く関われないもの。きっとそれが楽しいのよ』
「そうなると、誰にも教えていない秘密のアカウントがありますね……おそらく最近作ったばかりの……。おそらくは九日前、私とシロさんがどちらも出かけていたタイミング……」
『えっと……どうしてそう思うの……?』
「カリンの知るすべてのアカウントは近頃動いていませんし、DMでずっとやりとりするほど特定の誰かに肩入れするのは、ご主人様が意識的に避けていることです。それに最近のご主人様は一人ぼっちを怖がっていますから。一人の際に気を紛らわすために、不特定多数の誰かと話すアカウントを作ったと考えるのが自然です……!」
その言葉を聞いて、ぱちぱち、と、シロは目を瞬かせた。
『……そうなの? 全然気づかなかった……』
「取り繕うのが上手ですからね。お外だと、お仕事モードなので気にならないみたいですが、お屋敷の中にいるときは一人になりたくないみたいです」
『だからこの間シャワーのお誘いがあったのね……』
「えっ」
『えっ?』
やや気まずい沈黙を、気に留めない様子で破る声がする。
「二人ともさっきからどうしたの? お仕事の話?」
『ふふ、お出かけの話をしてたのよ。ジューダスちゃんの服のパターンをそろそろ増やさなくちゃって』
「今500セット以上あるけど……? 一年ぶん以上あるけど……?」
「和装はまだ試してませんよね。着物なんかはどうでしょう?」
「ンナ!」
『さすが大福ちゃん、もうすでに絞り込んであるわね……』
「もういいよぉ。ていうか、着物ってひらひらしてて邪魔だし落ち着かなさそうだし……服を買いに行くたびに採寸するのめんどくさいし……そもそもそんなにいっぱい買っても管理が大変じゃん……高いんだし……」
『お金を使いたいんじゃなかったの?』
「俺の体はひとつだけなのにもったいないことしないの。服がかわいそうだよ」
正論である。
なお、話している間もこの美しい少女はたまに端末へ目を向けていた。やはり闇のSNSにどっぷりとハマっているのは間違いないだろう。
いっそのこと聞いてみようか。
この美しい少女は自分の隠しているパーソナルな部分について、聞かれればさらけ出してしまう傾向にある。
SNSのアカウントくらい大した情報でもなく、さらっと教えてくれる可能性は高い。
どうしても隠したいことなのか、それともそうでないことなのかは、顔を見れば判別がつく。
前者なら即座に聞かなかったことにすれば問題はないようにも思う。
少し悩んで、カリンは聞いてみることにした。
「……あの、ジューダス様……最近は端末で何かを見ているようですが、何を見ているのですか……?」
「んー? ……インターノットだよ?」
「インターノット……投稿もお気に入り投稿の数も増えていませんよね?」
「あはー……そこまで見てるんだね……?」
何かおかしいだろうか。
これでも義姉なのだから、義妹のことは知っておかなくてはならないのではないだろうか?
カリンが首を傾げていると、どこか言いたいことを呑み込んだ表情で、シロが問いかける。
『……別のアカウントを作ったのかしら? サブアカみたいな……サブアカ……何か脳裏に引っかかるような……』
「ん、そんな感じだね。これまでのアカウントはいろんな人が知ってるし、ちょっと」
「……そのっ、教えてもらえたりってしませんか……?」
「……んー……ダメ」
「あっ、で、ですよねっ、すみません変なこと聞いちゃってっ、今すぐどこかで消滅してきますっ!」
「ダメだよ??」
まぁ、それはそうだろう。
そうじゃなければアカウントを分ける際に、すぐに教えてくれるはずだ。隠す必要のないものを、彼女はわざわざ隠しはしない。
むしろ断るほど重要なことなら、無理に聞き出すつもりもない。
隠したいことの一つや二つ、誰にだってあるものだ。むしろ教えたくないものがあるというのは健全なのではないだろうか。
どこか寂しいような気持ちもあるが、それよりも彼女の中にそのような人間らしい感覚がまだ残っていたことに、カリンは少しだけ安心した。
だって、それならまだ──と、続きかけた思考は、続く言葉によって爆破される。
「……その……裏アカってやつだから、ナイショだよん」
頬を赤らめて、まるで伽のような艶やかな表情で、彼女はぼそりと呟いた。
世界が凍ったように沈黙する。
ただ一人、携帯端末を眺める少女だけは、沈黙を気に留めず、普段通りの姿でソファーへともたれかかっていた。
「は、はわ、はわわわわわ……っ」
カリン・ウィクスは絶望した。親愛なる妹が裏アカを作ってこっそりと何かしていることが判明したからである。
サブアカであれば何も言わずにそのまま引き下がっていたことだろう。
だが
その言葉の重みは、サブアカの比ではない。冷静でいることなどできるわけがなかった。
「はわわわわわわわわ……」
「……なんだって!? ジューダスが裏アカを……!? ……ちょっと待っていてくれ。Fairy、今すぐインターノットの新規アカウントでジューダスらしき人物のアカウントを探してくれないか?」
『了解しました、助手二号。ハイパーウルトラエクセレントパフォーマンスモードに移行します』
「お兄ちゃんのバカーっ!」
とあるビデオ屋の電気代がはるかに高騰する蛮行はかろうじて食い止められた。
「そもそもハイパーウルトラエクセレントパフォーマンスモードって何?」
『その名の通り、限界を越えて120%の性能を引き出す私の新しい最強形態です』
「もうわかっただろう? ジューダスが絡むとFairyはおかしくなるんだって」
「お兄ちゃんもだけどね」
『否定。一流のエレガントなAIアシスタントは常に冷静沈着です』
「やっぱり第一次ジューダスショックでどっかバグったんじゃない?」
『否定。そうやって私の機能を疑うのですね。私が無骨なAIアシスタントだから……』
「はわわわわわわわ……」
まともなのは自分だけか。
リンは小さく息をつき、とりあえず収集をつけようと口を開く。
「裏アカって言っても、ヤバい内容とは限らないでしょ? 愚痴とかを吐き出すだけのアカウントとかじゃないの? 身体の一部でもバレてたら、絶対話題になってるよ」
「で、ですが……わざわざ裏アカと呼ぶのは、後ろ暗い気持ちがちょっとでもあるということです! それが危ういんです……! このままじゃ……」
「うーん、そうかい? ジューダスはリテラシーちゃんとしてるほうだと思うけれど」
「そうそう。意外にそのへんの知識もあるし。だから、カリンが心配してるようなことにはならないよ」
「で、ですが……」
と、慰めてみるものの。
リンは兄のほうへと顔を向けた。
アキラもまた、同じタイミングでリンへと視線を向ける。
どうやら同じところが引っかかっている様子だった。お互いに一つ頷いて。
「カリンはどうしてそんなに心配してるの?」
と、聞いた。
そう。
ジューダス・ウィクスの理解度において、カリン・ウィクスはおそらく本人よりも詳しく、そして正しく理解をしている。
彼女のリテラシーが思いの外ちゃんとしていることだって、当然知っているはずなのだ。
そんなカリンが、どうしてここまで懸念を顕にするのか。『パエトーン』の二人には、それが疑問だった。
「……その」
カリンは、言いづらそうに、視線を中空へと彷徨わせた。
まるで何かを見るかのように、僅かに中空で視線が止まって、そしてすぐ逸れる。
「……あの方が、天啓を受けることは知ってますよね」
「うん。それでたまによくわからないことをしだすよね」
「それです。あれは他人からのイメージや情念を受信しているんです。そしてそれに影響されて、少しずつご主人さま自身も変わっていきます……」
「……確かに、ジューダスは他人の願いを受け取って姿が変わることがあったな。つまり?」
「……はい」
そう、それはつまり。
「変な天啓を受信したら、それに応えてホンモノの裏アカができてしまう可能性があるんです……!」
そうなるとどうなるだろうか。
当然、大惨事である。
まさに爆弾。かつて『見えてる地雷』とまで様々な勢力から理解されつつ、それでも皆がほしがった少女だ。
当時よりもさらにインフレを重ね、当然のように世界規模の威力になってしまっている以上、最悪の場合、この世界は滅ぶ。
たった一つの裏アカによって。
あまりにも馬鹿らしい話だが当事者となれば焦燥を感じるものだ。
まだアカウントがどのようなノリで動いているのかはわからない。それでも確かに、死神が一歩近づいてきたことを感じる。それくらいに、カリンの話した可能性は深刻だった。
「それは……マズいな。だが、天啓といっても都合良くSNS関係のものが届くものだろうか?」
「天啓はジューダス様が触れている物事に関係したものから優先的に受信するようになっているようです。つまり裏アカを楽しんでいる今、裏アカに関係する天啓が届く確率は高まっています……!」
「うーん、どうしようもない感じだね。たしかにちょっと怖いかも。それじゃあこっちで──」
「何の話してるの?」
ころん、と。
まるで人懐こい猫のように、リンの視界の中に、今話題にしている少女の姿が映る。
「ぅあ、え、ジューダスっ? どうしてここに……」
「待ち合わせがてらビデオ屋に遊びにきただけだよん。なんちゃって、ふふ」
ぴーすぴーす、と両手の指を二本立ててはにかむ少女の頭をわしゃわしゃと撫でる。
ひゃー、なんて鳴き声をあげながら、彼女は楽しそうに笑っている。
「……?」
その姿に。
どことなく、違和感があった。
「それで、何の話してたのみんなで。俺を抜きにしてこっそり。むー」
「ジューダス?」
「ん、なぁにリンちゃん。謝罪かな? ふふん。別に俺は怒ってないよん。でもどうしてもというなら聞いてあげるのもやぶさかじゃ」
「なんか……キャラ違わない?」
しゅん。
そんな音を立てて、目の前から彼女の姿が消えた。
消える一瞬、なんだかとても恥ずかしそうに表情を歪めていたような。
「……………………」
「……………………」
「……カリンの懸念、当たってるかも。少なくとも今のジューダスは……度を越してアホの子だったもん」
「それはわりと元々じゃないか?」
「そ、そんなことないですっ」
気が抜けているときはそんな感じだけれど。
という言葉を、リンは呑み込んだ。
「というか、待ち合わせか。一体何の待ち合わせか……カリンはわかるかい?」
「今日は特に予定もなかったはずですが……あっ、もしかして!」
「うん。ひょっとしたら……例の裏アカ関係かもしれない」
三人はそれぞれの顔を見合わせて、頷いた。
そして数十分後、再び現場に現れたジューダスを見つけ、尾行し。
──ジューダス・ウィクスの今日の予定が一体なんだったのかを、知る。
「──レミエール?」
「──やぁ。はじめまして、救世主さん。キミとは話してみたかったんだ。いつか会えるとは思っていたけど」
「……こんな方法でコンタクトを取ってくるなんて思わなかったよ。そうだよね? 初代虚狩りさん。まさかSNSを使いこなすなんて」
「ちょっとお勉強はしたけどね。でもおかげでキミは、思惑通りに私のところにきてくれた」
浮ついた思考が冷えていく。
ゆっくりと、自分の中で何かが冷めていく。──植え付けられた興味だ。
「俺の性質を利用して、無理矢理縁をつなげてきたわけだ」
「ごめんね。こうでもしないとキミの拒絶に勝てないからさ。……本来はこうして私が出てこれるはずもないんだけど、ね」
「んー?」
なんだか何かを隠しているような話し方をしている。
まったく、天啓を悪用しおって。いやこれまだちょっとキャラブレ残ってるな。
さすがは初代虚狩りというべきか。こうも的確に俺へと思念を届けるなど、並大抵の技ではない。
「何を言おうか悩んでたけど……まずは、お礼をしなきゃね。この世界に残ってくれて、本当にありがとう。……あ、このスコーン食べる? いっぱいあるから、食べていいよ」
「どういたしまして。いただきます」
「……ふふっ」
ほんのりとした甘さがちょうどいい。うん、美味しい。
人の顔を見て笑っている不届き者のことは知らんぷりして、俺はとりあえず口寂しさを解決することにした。
「飲み物もあるよ?」
「ん、ありがとうね」
「……ふふ、ダメだ。キミが食べてるのを見てると、なんだか耐えられないや。美しさっていうのは本当に毒だね」
そういって、彼女はころころと笑った。
「ねぇ、救世主さん。それとも、人類の天敵? 神の子か、降臨者──どの呼び方がいいかな」
「どれもヤだ。今の俺にはジューダス・ウィクスっていう立派な名前があるんだから」
「そう。そんなにあの子が気に入ったんだね、救世主さん」
嫌だって言ったのに。
まぁ、今更そんなことで俺も怒ったりはしない。どうとでも呼べばいいのだ。
ただ、ジューダスと呼んでもらえるのが、一番嬉しいだけで。
「ねぇ、救世主さん。あなたの世界はどんなところだった?」
不意の。
そんな言葉に、俺は彼女へと意識を向けた。
「ん……ちょっと、抑えて。そんなにキラキラされると、こっちの目が潰れちゃうでしょ」
彼女の目に、涙が伝う。意図とは別の生理反応のようだった。まるで無理に押して、水分が流れ出てきたかのような。
慌てて意識を切り替える。
急に核心をつかれて、制御を誤ったようだった。
「……なんでわかったの?」
「だって、力の規格が違うから──ヤンキーもののバトル漫画に、宇宙規模の攻撃ができるような漫画のキャラがいるみたいな感覚かな。キミの力は、この世界にとって異物なんだよ。別の法則で動いてるみたいだし」
「なるほど」
「ああ、私はキミがこの世界に降りてきてくれて、良かったと思ってるよ? だからこんなに悠長にしていられるんだし。──もうちょっと早く、キミがいてくれたら……なんて思ったりはするけれど」
「……ごめんね?」
「ううん、こっちのほうこそごめん。こんなこと、話すつもりなかったのに。あ、これ飲む? コーヒーは飲めるかな?」
なんだかちょっと馬鹿にされたような気がするので、受け取って一口。
口の中に苦みが広がって、俺は少し眉を顰めた。
「ふふっ……」
「……俺の世界がどんなところか、だっけ。たぶん、平和なところだったよ。ホロウ災害なんてなくて。俺の生きてた頃は、平和ボケの時代だなんて言われてて。救世主なんて、きっといらない世界だった」
「そっか。平和なのは……羨ましいかな。でも何か、思うところのありそうな顔をしてる」
「うん。俺は望まれていなかったから。覚えている限りでは、お姉さんと、あと同級生のお友達──くらいかな。少なくとも親には望まれていなかった」
せめて、俺が両親の愛で生まれていたのなら。
あんな人生は送らなかったんだろう。
少なくとも母親は、自分のことを振り返れる人だったらしいし。
──そんなこと、今更考えても意味がないけれど。
「ふぅん。私が思ってた世界とは随分違うね。もっとこう、星を巡る冒険〜、とか、ファンタジーな世界でドンパチやったりとか、そういう感じなのかなって思ってた。まぁ、でもキミは自分から動くようなタイプじゃないもんね」
そう言って、彼女は笑っている。
「ねぇ、救世主さん」
「んー?」
「ありがとう。キミのおかげで、この世界は変わったよ──先が見えなくなったんだ。定められた運命を、壊してしまった。……キミが因果に縛られない、雲の上の人だから」
「運命、因果……ね」
確かに俺は、この世界にとっての異物だ。
本来歩むべき道のりを、壊してしまったりしたのだろう。
彼女の言葉には、理解が及ぶ。
「だからお礼に忠告しておいてあげる。
その言葉に、心当たりのようなものはなかった。
「キミは世界の終わりに立ち向かって死ぬ。今のキミには、そこから逃れることはできない」
だから、そんな言葉も──どこか遠くの話のように聞こえるのだ。
「せっかくお話したんだし、生き残ってくれると嬉しいな──またね、ユーザーネーム『かりん党』さん?」
美しい少女と別れ、路地を曲がった先で、レミエール・ダンは呟いた。
「出てきていいよ? ずっと見てたんでしょ」
『……見えるのね。今の私、普通の人には見えないはずなのだけど』
「見えるよ。キミのほうが上手く隠れてたから、こっちにきちゃった」
どうやらあの少女は随分と愛されているらしい。
なんとなく、羨ましくも思ってしまう。
そんな気の迷いに化かされたのか。彼女は口を滑らせていく。
「あの子は誰にも救えないよ。この世界の運命は壊せても、規格の違うあの子自身が持ち込んだ運命は壊せない。だから、彼女の死は避けられない」
『嘘ね。不可能じゃないんでしょう?』
「どうかな。……なんて韜晦しても意味がないね。うん、不可能じゃないよ」
どこまでを語っていいか、などは考えない。
結局のところどうするかは、当人次第なのだから。
「キミが彼女の十三階段になればいい」