例えばそれはちえのわのような   作:moti-

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スシローにいっぱいおかねとられちゃった


マリオネットダンサー

『ねぇジューダスちゃん。あなたはなんでその名前を名乗ってるの? 自分でつけたそうだけど』

 

 ふと思い立ったかのように、シロさんが言った。

 そういえば彼女に話してはいなかったか。

 少し「んー」だなんて考えるそぶりをしながら、ちらりとカリンちゃんの方を見る。

 目が合って、なんだかわからなさそうに微笑まれた。かわいい。

 

 命名したときのことを振り返りながら、俺は口を開いた。

 

「裏切り者って意味の名前だね。救世主として生まれて、結局そうなることから逃げた俺には似合ってるでしょ?」

 

『ちょっと待って』

 

 いきなりストップが入った。

 まるで衝撃の事実に堪えるかのように、シロさんら片手で額を覆って、もう片方の手でこちらに静止を呼びかける。

 彼女のこんな姿は初めて見る。

 

『救世主ってなに?』

 

「言ってなかったっけ? 俺の体質はそれなんだけど。そのせいで天啓とかあったり人の願いを受信したりするんだよね」

 

『聞いてない聞いてない聞いてない聞いてない』

 

 そういえば振り返ってみるとちゃんと話したことはなかったように思える。

 魂がどうこうと話したことはあった気がするが、それと救世主が結びつくことは普通に考えたらないか。

 

 俺にとっては当たり前のことだから、特に意識することもなかったし。

 

『えーと……だからそんなにめちゃくちゃな力なのね……なんか説明はついたけど腑に落ちないわ……』

 

「意外といると思うよ、同じ体質の人」

 

『そんなわけないでしょ??』

 

 そうかなぁ。

 実際に前世の俺という例があるし。

 救世主の体質といえど所詮は人間だ。いかに奇跡を起こせる器だとしても、死ぬときは死ぬ。

 

『……ああもう、何もわかってなさそうな顔してる……!』

 

「かわいいですよね」

 

『かわいいわね〜……もう!』

 

 シロさんがどんどんとキャラ崩壊していく様を眺めながら、俺はふと思った。

 

 救世主にならないと決めたはずなのに。

 今の俺は、その道を進んでいないか?

 

 それに気づいたとき、少しだけ寒気のようなものを感じた。

 まるで、決められた道を進んでいるかのように。

 自分の意志など関係ないと言わんばかりに、少しずつ俺は、救世主へと駆り立てられてしまっている。

 

「……ねぇ、カリンちゃん」

 

 だが、それを怖いと思う心はまたたく間に凍りついていく。

 至ってフラットに、俺はその事実を噛み締めた。それがどんなに怖いことなのか理解しながら、恐怖を感じることが出来ない。

 

「? どうかなさいましたか?」

 

 それでも。 

 彼女の顔を見ていると、凍ったはずの心が、少しずつ動いていくかのようで。

 

 寸分まで出かかった言葉を、無理矢理に俺は呑み込んだ。

 

「……なんでもないよ」

 

 ──何を言おうとしたのだろう。

 

 言うべき言葉など、持ってはいないのに。

 

 そうやって黙り込んだ俺を、二人がただ見ていた。

 何も言わず見ていた。

 

 

 

 

 どことなく憂鬱だった。

 気分が上がらない。それでも仕事はやってくる。

 着替えて外に出れば、普段通りとは行かないけれど、ある程度取り繕った表情を作れる。

 

 それでもやっぱり、憂鬱だった。

 何かが釈然としないような、そんな感覚が胸に詰まったままだ。

 そしてその憂鬱を言語化することができないから、胸に支えた感情がどこまでも頭の中をもやもやで汚す。

 

「あ、やっほー。奇遇だね〜?」

 

 珍しく歩いていたからか、ふと知り合いを見かけて足を止める。

 「シード」ちゃんが、アイスを片手にこちらを眺めていた。

 

 そのままスクーターに乗ってこちらに近づいてきた彼女が、俺の顔を見て。

 

「ん〜……食べる?」

 

 そう言ってスプーンを差し出してくる。そのままほっぺにぐいぐいと押し付けられた。

 ちょっとだけべたつくのを状態をいじって無効化しながら、俺は彼女の攻撃から逃れるように数歩後ろに下がる。

 

「あは、食べないよ」

 

 一応俺の自認は男なわけで、こういう接触は避けておいたほうが無難だろう。

 俺自身はともかくとして、「シード」ちゃんに悪いような気がするから。

 

「ふーん……ん? なんかこれ、さっきより美味しいかも……」

 

 そう言って、彼女はじっと俺を──俺の頬を見た。

 

 嫌な予感がする。即座に彼女へと背を向けて、そのまますたすたと歩き始めた。

 すいい、と。後ろから聞こえる駆動音。

 

 わりとすぐに追いつかれてしまったのか、とんとん、と肩が叩かれる。

 絶対に振り向かないぞ、とそのまま真っすぐ歩いて。

 

「ふぎゃっ!?」

 

 何もない空間で、何かに顔面から激突した。

 

「だから警告したのに〜」

 

「……言ってよ……」

 

 おそらく、ちょうどここに『ビッグ・シード』をステルス状態で置いていたのだろう。

 常時能力を使用しているわけではないから、こういう事故もたまに起きる。今回は怠さのままに周辺の確認をせずに歩いていたせいだ。

 

 立ち上がって、息を吐く。

 予想してない衝撃はびっくりするから嫌いだ。なんだか痛いような気もするし。

 

「んむっ」

 

 と、その隙を見計らって、口の中にアイスが放り込まれる。驚いて振り返れば、俺の頬にぷにっと「シード」ちゃんの指が突き刺さった。

 

「はい、僕の勝ち。なんで負けたか明日までに考えといてね〜」

 

「むむ……」

 

 負け。

 確かに、今回は完全にしてやられたような気がする。

 だがちょっと待ってほしい、果たして審判がいないのに公平に戦いになるのだろうか。

 そう思い脳内カリンちゃんにレフェリーを任せたところ100対0で俺が敗北。もちろん異を唱えられるわけもないのでそのまま俺の完全敗北という結果が出て終了した。

 

 仕方がないので、口の中のアイスに意識を向けることにした。

 鮮烈に甘い味わいは、なんだかわたあめみたいな風味がして心地良い。ころりと舌の上で転がすと、形が喪われていくような感じがする。

 そうして溶けて、喉の奥へと消えていった。

 

「美味しいね」

 

「そうだね〜」

 

 彼女はゆったりと笑って、自分の口にまたアイスを掬って放り込んだ。どこか愉快そうに、笑っている。

 

「今日はお仕事?」

 

「うん。最近ホロウの様子がおかしいってことで、何か異変がないか見に行くことになったんだ。バレエツインズにいくことになってる」

 

「ふ〜ん? じぃーっ……」

 

「…………」

 

 そう言って、顔を近づけてこちらを見てくる「シード」ちゃんと視線をあわせる。

 彼女はまばたき一つせずにじっとこちらを見据えて……気まずくなってきたので、俺のほうから少し顔を引いて、目を逸らす。

 

「……『シード』ちゃん?」

 

「──────」

 

 ヤバい、バグった。

 目の前で手を振ってもほっぺを引っ張っても効果がない。どうしようか、と思えば。

 

 俺の後ろに置かれていた「ビッグ・シード」の手が動いて。

 「シード」ちゃんの頭に指が弱々しく乗せられた。

 

「……」

 

「──……っ」

 

 そこで、シードちゃんは気を取り直したようだった。自分の頭に乗せられた手を疑問の表情で見て、ぱちぱちと目を瞬かせ。

 

「……ねぇ、気のせいかな。今、『ビッグ・シード』がここにいた気がするんだ」

 

 そう、弱々しく呟く。

 

「いたんじゃない?」

 

 実際、俺は何も干渉していない。

 実際のところ誰かが操作をしたみたいなオチかもしれないし、何かしらの偶然で信号が発生したみたいな、夢のかけらもないような現実なのかもしれない。

 

 俺の感知圏内には何もなかった。

 だから何もなく、残念な現実の選択肢だけが頭に過る。

 

「案外奇跡って起こるものだからさ」

 

 それでも今、「シード」ちゃんを正気に戻したのは、間違いなく彼で。

 そこに何かの意思を見出すのは、至極自然なことなんじゃないかと思う。

 

 俺の価値観では、人は生き返らないけれど。

 それでもその痕跡が、誰かをそっと導くこともあるのだろう。

 

「そっか」

 

 そう言って、「シード」ちゃんはくしゃくしゃに笑った。

 俺の嘘に勘付いたのか。それでも、それでいいと思ったのか。

 彼女は様々な感情が入り混じった表情で、笑っていた。

 

 

 

 

 

 目の前には、巨大な球場空間が広がっている。

 まるで世界を飲み込むかのような色彩のそれは、いつ見ても気味の良いものとは言い難い。

 

 世界そのものに空いた穴かのような。

 世界から拒絶されているかのような。

 

 人によっては眺めているだけで気分を害してしまうだろう。

 それはトラウマだとか、あるいはこの異物感のせいだとか、様々だ。

 かくいう俺も好きだとは思わない。こんなものがなければ、と、眺めている目が険しくなるのを実感している。

 

 だがそんなことをしていても何も変わらない──いや、最近の俺ならやろうとしたら目からビームとか出る可能性だってあるから、本当にそうであるかは断言できないが。

 ともかく変わらない。

 

 とん、と。

 ホロウへの一歩目を踏み出した。

 

 外からは見えることのなかった、寂れた塔が視界いっぱいに飛び込んでくる。

 

「……これが」

 

 バレエツインズ。

 

 かつて興行施設だった、とは聞いている。

 そしてヴィクトリア家政とリンちゃんが、はじめて出会った場所だとも。

 

 だがこうして自分の目で見ると──

 

「……思っていたよりも」

 

 そこから先の言葉は続けなかった。

 もはやただの廃墟だ。

 金持ちが持っていた建物ということもあって、いろんな人が足を踏み入れて荒らされてしまっているようだし。

 それに、この建物そのものが虚栄の象徴かのように見えてしまう。

 まるで俺みたいに。

 

 忘れよう。

 そうやって思考を打ち切って、俺は「シード」ちゃんと更に歩を進めた。

 

 本日は非番で暇を持て余していたとのことで、急遽動向してくれたのだ。

 ……誰かと一緒に街で遊んでいたらしいけど、大丈夫なのだろうか。相手のほうに連絡をちゃんと入れたのだろうか。

 もうホロウに入ってしまったのだから、それに関してはもうどうしようもないことだ。

 考えないようにしておこう。

 

 内部に入ると、暗く、閑散としたエントランスが姿を現す。

 もはや寂れた廃墟は、入った時点でどこか不気味さを醸し出していて、先への恐怖を煽るようだった。

 

 とはいえ、仕事中の俺がそのようなものに怖がるわけもない。

 そして「シード」ちゃんも特に臆してはいないようで、まるで無警戒の状態で一歩足を踏み入れた。

 

 

 瞬間、視界が変わる。

 

 

 瞬間的に、二つのホロウの裂け目が発生する。まるで意思を持っているかのように、()()()()()()()()()()()()()()()

 対応は一瞬だった。

 俺は「シード」ちゃんの手を取って、一歩彼女の方向へと地を蹴り出す。これで分断は避けられるはずだ。

 

 そして、俺達は空中へと投げ出された。

 

「僕たちを追い出したいらしいね~?」

 

「なんの準備をしているのやら」

 

 ──気味が悪い。

 暗躍している姿は見えているのに、その意図がまったくわからない。

 はたして「始まりの主」は何を考えて、このように能動的な行動を取っている?

 

 まぁいい。今はとりあえず、この状況をなんとかしよう。

 ここは転移で対応を──

 

「!」

 

 転移のために魂を操作した瞬間、また不自然に内部環境が揺らいだ。

 そして、直後に裂け目が発生する。

 

 警鐘が響く。あれに落ちるのはマズい。直感が──天啓が、そう告げていた。

 だが一瞬転移の手を止めたせいで間に合わない。俺の思考可能域を越えている。

 どうする、などと逡巡する一瞬さえも無駄な間だ。対応できない。そう結論が出た瞬間。

 

「僕がついてきて良かったね~?」

 

 「シード」ちゃんが展開したビットが、掬い上げるようにして俺たちを裂け目から遠ざける。

 

「んぐ……ありがと」

 

 わずかとはいえ自由落下の状態だった。そのうえ、彼女のビットが人を持ち上げるには重心の安定する位置を狙わなくてはならない。

 つまり、自分の体重ぶんの衝撃が、今俺のお腹に走ったわけで。

 ちょっと……いや、だいぶ痛い。だが、今は力を使うわけにもいかないので、泣く泣く痛みが引くのを待つ。

 

「まだ終わってないよ。『ビッグ・シード』!」

 

 直後。

 

 また俺達を狙うように、裂け目が空いた。

 

 ビットから跳ぶようにして、昇ってきた「ビッグ・シード」のコックピット内へと入り込む。

 旋回するような挙動で、俺たちは間一髪で裂け目を回避した。

 

「──うわ、まだまだ来てる……!」

 

「勝負だね~? 僕たちは負けない、よっ!」

 

 追従するように発生する裂け目を、「シード」ちゃんは自在に操縦することで回避し続ける。

 時折正面に予測されるように発生する裂け目すら乗り越えて、高度を下げながら進んでいく。

 

 そして、なりふり構わなくなったのか。

 裂け目が全方位、俺たちを全面から覆うように展開された。

 

「また後で来よう、今は他を探索しよ~!」

 

 そんな気の抜けた「シード」ちゃんのセリフは、俺が転移を開始したのと同時だった。

 建物内部へと転移する。座標は指定している暇がなかったので適当。

 

 どうにも遠ざけようとする意思を感じるのだ。

 万が一のため備えていて正解だった。そうじゃなければ、最後のものには対応しきれなかっただろう。

 

 見失ったのか、はたまた向こう側も限りあるリソースでの妨害だったのか、屋内に入ってからは先ほどのような妨害は一切ない。

 

 いや、それどころか。

 

「……エーテリアスがいないよ? なんかヘンな感じ」

 

「本当にね」

 

 このホロウは外部からの観測ではわずかに不規則な揺らめきがある程度で、大きな変化はない様子だったのだが。

 こんな異変を見逃していたのも妙な話だ。

 誰も気づかないくらい事態が急変したのか。

 

 ──それとも、誰もこの事実を伝えられないような状況だったのか。

 

「……『シード』ちゃん、ちょっと周辺を探るね。対応おねがい」

 

「了解であります~」

 

 軽く周囲の状況を確認する。

 

 エーテリアスの反応は──ない。

 生存者の反応──ある。それも、複数。

 

 妙だ。何故ここに留まっている?

 明らかにこのホロウの様子は変だ。命知らずのホロウレイダー……というような感覚もない。

 

「……どうやら人がいるっぽい。見に行ってみる?」

 

「そのあたりは任せるよ。なんだか、ここのホロウはヘンな感じだし~……讃頌会みたいなのが何かやってるのかも?」

 

「それじゃ、まずは一番ここから近い位置から様子を見に行こっか」

 

 そうやって、移動を開始しようと、正面へと目を向けたとき。

 

 

 通路の奥に、なにかが立っているのに気づいた。

 

 

 それはまるで、ドレスのような装甲だった。

 まるでつま先だけで立っているかのような、刃と一体化した足先は、外見上はバレエのダンサーを思わせる出で立ちだ。

 ライカンさんから聞いた情報と合致する。

 つまりこいつが、「マリオネット」と名付けられた、ここの主のようなエーテリアス。

 

 「シード」ちゃんが無言でビットを展開する。

 俺は──魂の揺らぎが起こらないように、慎重に自分自身の状態を強化していき。

 

 まるで何かが通り過ぎるかのような風と同時に、マリオネットが視界から消えた。

 

 少なくとも、俺の視点ではそうだった。

 なら「シード」ちゃんは? そう思って視線を横に向ける。

 彼女はなにかを避けたあとのように、スクーターを横に大きく傾けていた。

 転んでいないのが不思議なくらいに、鋭く倒れ込んでいる。

 その顔色は、珍しく真剣そのものだった。

 視界の端に、なにかが映る。

 

 いつの間にか後ろにいたエーテリアスの手に、貫かれたビットが突き刺さっていた。

 

「なるほど」

 

 そして、俺は理解した。

 

 このホロウに全然エーテリアスがいなかった理由。

 それは──このホロウにあるリソースを、ほとんどすべてこいつが占有しているからだ。

 

 つまり、このエーテリアスはここの主のようなものであり。

 ここのホロウをほとんど一人で維持し続けている──そういう次元の怪物ということ。

 

 ライカンさんから聞いた話とは違っている。

 ──おそらく、これが「始まりの主」の干渉なのだろう。

 

 まったく面倒だ。しっかり俺用のメタまで用意した上に、純粋に強い敵までいる。

 「シード」ちゃんがいなければ結構な窮地だったかもしれない。

 咄嗟の判断力に劣る俺は、諸々考慮することが多い状況に弱いのだから。

 彼女が気まぐれでついてきてくれて本当に助かった。

 

 さて、ここからどうするか──そう思って身構えていると。

 

 マリオネットは、まるで何かに意識を取られたかのように、虚空へと目を向ける。

 

 そのまま、一礼して去っていった。

 なにかの指示が下されたかのような。

 あるいは、優先順位が入れ替わったかのような、不自然な挙動だった。

 

「……行っちゃったね?」

 

「うん。でもなんで?」

 

「う~ん。エーテリアスの習性って色々あるからね~。特殊な習性とか、そういう情報はないの?」

 

「特殊な、習性……」

 

 ──ある。

 マリオネットに関しては、存在する。

 

「……あのエーテリアスは、音楽に反応して現れるって聞いたよ。ってことは、他の人のところに行ったのかもしれない」

 

 俺の言葉に、「シード」ちゃんの目が少し鋭くなった。

 たった一回の交錯でも、その強さはよくわかる──一般的なホロウレイダーであれば、一瞬で命を奪われてしまうことは想像に難くない。

 

「テレポートは使えるの?」

 

「中に入ってから妨害はないけど……邪魔されない確証はないよね」

 

「でも向こうが距離を無視できる以上、真っ当な手段なら追いつけないし……」

 

 どうするべきか、やや迷う。

 

 

 

 

 

『”──誰か、誰か助けて!”』

 

 

 

 

 

 ──脳内で、激しく警鐘が鳴った。

 

 それは助けを求めるかのような、純粋な悲鳴のような音だった。

 誰かの声が頭の中を劈くように鳴り響いている。

 暈けているように聞こえるが、その声音とほんの少し訛ったようなイントネーションを、俺は知っている。

 

「『シード』ちゃん」

 

 手段を選んではいられなくなった。

 俺は一言だけ彼女の名前を呼び、そのまま()()()()()座標へと転移を開始する。

 

 彼女の表情はまるで、そうすることがわかっているかのような表情で。

 

 それが今の俺には、心強かった。

 どんな妨害でも越えていけると、そう思ったのだ。

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