まるで神話のような戦いが終わって、もう一週間が経った。
あれだけの戦いの規模だというのに被害はほとんどなく、世界はすぐに元の形へと戻り始めている。
「──えっ、あれ、ミスターノーバディ……?」「あ、おい声がデカいって、そっとしとけ」「お人形さんみたい……かわいい」
とはいえ、何もかもが元通りというわけではない。
周囲のざわめきから目を逸らすように、ルミナスクエアから見える波を、美しい少女は眺めている。
車椅子の上に、腰掛けて。
表情自体は以前とそう変わらない。
それでも、身体の重みに耐えかねるかのように、小さく息をついている姿が見える。
あいも変わらず美しいその様が、どこか今にも吹き飛んでしまいそうなほどに儚く見えて、カリンは少し落ち着かなかった。
始まりの主との戦いで、彼女は常識外の力をほとんどすべて使い果たしてしまっている。
今ここにいるのは、等身大な少女だ。
彼女が魂と呼んでいた異質な力はもう利用できないようで。
エーテル適性も最低よりすこしマシ程度。
もうホロウに入るなどの無茶はできないだろう。
今の彼女にできるのは、それこそカリンと出逢ったときと同じくらいのこと程度。
とはいえ、美しさ自体は力に依らない自前のものだったらしいため、未だに傾国と言っていいその魅了自体は残っているのだが。
下手をすれば人を狂わせてしまうほどの美貌だけが残ったのは、良かったのだろうか。
カリンにはわからない。
ただ、もう以前のようにホロウに入って戦ったりすることはないのだろうな、とは思う。
そもそも、今の彼女はまともに動けないのだし。
「……ねぇ、カリンちゃん」
美しい少女が、言った。
「……筋肉痛って、こんな辛くなることあるんだね……」
そう。
人智を超えた力を得た代償として。
彼女は尋常でない筋肉痛に苦しめられてしまったのである──。
「──ふぅ。天気が良い日に散歩するのって、意外と気分転換になるね」
状態を固定しているときには、こんなことを感じもしなかった。
便利だからといって使い続けるものじゃないな。時には新しい刺激も大切だ。
「そうですね。普段からお昼はカーテンを開けるようにしてはどうでしょうか? 暗いままじゃ、気分だって落ち込んでしまいます」
「……うん。そうしようかな」
車椅子が、カリンちゃんの歩みに合わせて進んでいく。
ゆらゆらと揺られながら、俺は少しだけ空を見上げた。
些細な揺れでも身体が引き攣る状態だ。本来なら、外に出ようなんて思わない。
それでもカリンちゃんが車椅子を押してくれるのなら、こんな身体でも落ち着きのほうが勝るのだから不思議だ。
「ねぇ、カリンちゃん」
「はい。どうかなさいましたか?」
「シロさん、元気にしてるかな? いきなり身体に戻ったんだから勝手が違って大変だよね」
「そうですね……最近気温も安定していませんし、体調を崩していなければいいですけど……」
ついつい、そんな中身のないことを聞いてしまう。
これから会いにいくんだから、いちいちこんなこと話す必要はなかった。
浮ついてるのかも。
あのとき以来会えてないからなぁ。
思い返すと、シロさんとは数ヶ月くらいしか一緒にいなかったのか。
お姉さんもすごく長い間一緒にいたわけじゃないし。
カリンちゃんなんて、あのときたった一ヶ月で俺の世界を広げてしまった。
なんだろう。
惚れっぽいのかな。
それとも、俺はそれだけ誰かといっしょにいたかったんだろうか。
そうして、暫く車椅子で揺られて。
俺達は治安局へと辿り着いた。
手続きを終わらせて、普段通り面会室へ。
そこに、半透明でない彼女がいる。
「やっ」
「お久しぶりです」
「ええ、久しぶり。そっちは……うん。元気そうで良かったわ」
そういって、シロさんはへにゃりと笑った。
肩の荷が下りたような笑みだった。
「思っていたよりも刑期は少なかったわ。本当は二度とあなたたちと会えないと思っていたんだけど」
「そうなったら泣くよ。わんわん泣くよ」
「それは見てみたいわね……」
辛いもの食べさせたら簡単に泣くぞ。
じゃ、なくて。
「今回あなたを助けたことが減刑に影響したみたいね。あとは人材を遊ばせておく余裕もないってところかしら? 首輪付きとして各所への協力を条件に、面会は自由みたい」
「まぁ、未だにホロウは健在なわけだし」
始まりの主を封印したとしても、結局ホロウは健在だ。
それに結使とかいうやつが健在な限りまた復活するらしいことを考えれば、正直あまり状況が好転したとは言えない。
「そっちはどう? 始まりの主を封印して、何か変なことが起きたりしてない?」
「今のところは特に。力を全部そっちに捧げたから、むしろ変なことが起きなくて気楽かも」
力に責任が伴うというのなら、今の俺に力はない。
肩の荷が下りたような気分なのは俺も一緒か。
「……もう天啓なんかに惑わされることもない?」
「うん。人の願いで自分が変わるような感覚もない。あのときの光で奇跡は打ち止め」
あの光は綺麗だったな。
自分が歪んでいくのは怖かったけど、あれが二度と見られないのはちょっと残念なようにも思える。
儀玄さんあたりが取りまとめてやったりできないかな。ちょっとできそうな気がするんだけど。
「……あの変質、結局体質が原因なのね。始まりの主が言ってたことは全部間違ってたというわけ?」
「そうでもないよ。俺の意思が弱かったからっていうのも理由の一つ」
始まりの主が同じく魂を扱えるのであれば、体質だって近しいはずだから。
力に対する認識は、ともすれば俺よりも深いだろう。
「俺って意思が弱いから。人の願いについつい応えたくなっちゃうんだ。八方美人な気質があの変化の原因」
他人に頼られる経験が少なかったからなぁ。
おかげで頼られるとついついやってあげたくなっちゃう。
「そうやって、自分を悪く言わないでください。知らない誰かのお願いを叶えたいと思うのは、あなた様が優しいからに他なりません」
「ふふ。カリンちゃん、八方美人ってね、元々は『非の打ち所がない完璧な人』って意味なのよ。つまりこれは自分のことをすごく褒めてる」
「なるほど!」
「ち、ちが……あは、それでいいや」
なるほど、じゃないよ。
あーもう。
いや、この二人の前で自虐した俺が悪い。
こんなこと聞かせるものじゃないっていうのにね。
「だから、ちゃんと自分の意思を貫き通していれば変質の影響は少なかったんだよ。体質のせいというよりは自分自身のせいってほうが近くて」
「でも、そういうところもあなた様の魅力ですから」
「ええ。そんなジューダスちゃんだから、みんな助けたいって思ったんじゃないかしら?」
「…………」
……まぁ。
実際、あの恥も外聞もない『お願い』にみんなが応えてくれたのは、俺の弱さを曝け出したからなのかも。
あのとき、俺が死んだとき。
理屈の上では復活できるとわかっていた。
それこそ、他人から欠けた魂を補ってもらえれば。
シロさんが自分の魂を全部費やして俺を蘇らせようとしたのは、方法としては正しい。
でもそれじゃ、代わりにシロさんがいなくなってしまう。
だからあのとき、全世界のみんなにお願いしたのだ。
ちょっとだけ力を貸してほしい、と。
つまりこうだ。
俺の魂は今、みんながくれた光で構成されている。
それがあのとき、シロさんの魂を譲り受けることなく復活できた理由だった。
「……そうかも」
だから、二人の言葉に同意する。
ちゃんと自分を愛してあげないと。
「ところで……ジューダスちゃん」
「んー?」
「あなたのことは、なんて呼べばいい?
「あー」
確かに、そこは二人からすれば疑問か。
「ジューダスがいい。俺は今、ここに生きてるから」
未来。
俺の前世の名前は前に進むためのお守りのようなものであって、今の『ジューダス・ウィクス』を生きるための寄る辺だ。
だから、みんなに呼んでもらう名前はジューダスがいい。
それは、みんなといっしょに生きていく証でもあるのだから。
「そう。なら、ジューダスちゃんね」
「うん」
そうして。
詮無い話をしていれば、面会の時間はすぐに終わってしまう。
「そうだ、二人とも」
「んー?」
「愛してるわ。二人とも、妹みたいに思ってる」
最後のさいご。
そんなことを、シロさんが笑って言って、照れくさそうに目線を逸らした。
俺達は、少し顔を見合わせて。
「……あはっ、またね、
「ま、また来ます……
そう言って、笑ったのだ。
「──あっ! ミスター・ノーバディだ!」
治安局からの帰り道。
そんな声が聞こえて、振り向いた。
小さな子どもが、そこにいる。母親らしき人物が慌てて手を引いている姿も見えた。
カリンちゃんが、車椅子を押す手を止める。
「やぁ」
そうして俺は、その子へと手を振った。
駆け寄ってくる姿は、いつか友人だった誰かのようだ。
魂の力がないと言っても、魅了を抑える感覚はもう覚えている。
昔の俺よりもずっと上手にやれるはずだ。そう思いながら、制御を心がける。
「虚狩りになったんでしょ! おめでとう!」
「ありがとう。でも、もう俺に戦う力はないから。記念みたいなものだね」
「そうなの?」
「うん。そうなんだ」
そう言うと、その子は少し悩んで。
「そっか……ありがとう!」
と。
「これまで戦ってくれて、ありがとう!」
そう言って、頭を下げた。
「…………」
「あの、すみません……失礼しました」
母親が、頭を下げて少年の手を引いていく。
離れる前に、彼女は言った。
「その、助けてくれて、ありがとうございます」
そう言って、二人は俺から離れていった。
車椅子に、寄りかかる。
「ねぇ、カリンちゃん」
「はい」
「……俺が力を手放したこと、正しかったと思う?」
たぶん、他の選択肢はあった。
力の全部を使い果たさなくても、始まりの主を封印することはできたはずだし。
ここまで強固に封印をしたとして、自衛する力がなくなったとなれば本末転倒なような気もする。
「どうですかね……でも一つ言えることがあるとしたら、力っていうのは戦うためのものだけじゃないと思います」
「……だから、戦う力がなくてもいい?」
「あなた様が不要だと思ったのなら、なくても良いでしょう。今の選択を、どう思っていますか?」
「……わかんない。いつか後悔するときがくるかもだし、ちょっと早まったかなとは思う」
ただ、まぁ。
「みんなと一緒なら、この先どんな困難だって乗り越えられるとも思ってる」
「信じてるんですね」
「信じさせてくれたのは君だよ」
「……ふふ、ありがとうございますっ」
そう言って、カリンちゃんは笑う。
筋肉痛のせいでその顔が見えないのは、残念だった。
「……こんな街中でお熱いですねぇ」
「ね〜」
「ふぇっ!?」
どういう組み合わせ……?
疑問に思わず硬直してしまった。
ダイアリンちゃんとシードちゃんが、並んで立っている。あまり接点の想像できない二人だが。
「……ジューダスさん、この人ずっとついてくるんですけど。助けてくれません?」
「懐かれたんじゃない?」
「懐いちゃった〜」
うへぇって顔してる。
シードちゃんのこれは冗談だから安心してほしい。
「……で、力を手放したのが正しかったかどうか、ですか。別にいいんじゃないですか? あたしだってこんな力、うんざりすることのほうが多いですし」
「僕も同じかな〜。君が弱っちくなったんなら、僕たちが守ってあげればいいだけでしょ?」
二人は、あっけらかんとそう言い放った。
元々誰か一人に押し付けるのが好きではない気質だろうから、なんだか想像通りだ。ちょっと笑ってしまう。
「
「そうそう、君にお礼を言いに来たんだ。ビッグ・シードとお話ができたのは君のおかげだし。おかげで言いたいことを言えたから……ありがとう」
「……んまぁ、そうですね。あんたは生者も死者も、すべての人間の気持ちを一つにした──そんな奇跡を起こしたんだから、それだけでもう充分な功績じゃないですか?」
ダイアリンちゃんは、ぶっきらぼうに少し目を細めながら笑っている。
人間のどうしようもなさを知っている彼女だから、きっと多くの人たちの上辺に見える心変わりに物申したい気持ちがあるのだろう。
それでも、あの光を否定したくないと思うのは、彼女が心の底で善人の存在を諦めていないからだ。
「だからまぁ、何と言いますか、そうですねぇ」
ダイアリンちゃんはそう言って、肺の中を振り絞るかのように息をこぼした。
「安心してベッドでごろごろしててくださいよ。ぐちゃぐちゃになって困った顔してるより、そうやってへらへらしてるあんたのほうがずっとお似合いだと思いますから」
「そうだね〜。ホロウに入って険しい顔してるよりもずっと良い気がするな〜」
なるほど。
俺が悩んでたことを結構気に掛けてくれてるみたいだった。
やっぱり、彼女は面倒見が良い。
「ありがとね、二人とも」
俺は笑った。
今なら後悔なんかしないと言い切れそうだった。
「──あら? ジューダスちゃん! 久しぶりね!」
日も暮れる頃、「Random_Play」に訪れると、そこにはアストラさんがいた。
隣にはもう一人、金髪の女性が立っている。
今のところ見覚えのない人物だが。
「──彼女がミスター・ノーバディ……身体が悪いのか? あの戦いのせいで?」
「ううん。ジューダスのこれは普通に筋肉痛」
「筋肉痛? ……まぁ、そういうこともあるか」
納得するんだ。
「始めまして、ジューダス・ウィクスだよ」
「始めまして。アストラのマネージャーのイヴリン・シェヴァリエです」
イヴリンさん。
名前は聞いたことあるな。いつぞやにリンちゃんかおにーさんが言ってたような。
「やぁ、ジューダス。それにカリンも。何かお求めかい?」
「ん、こんな身体だからね。時間を潰せるものを探しにきたんだ」
「なるほど。それじゃあ僕が案内……っと、そうだ。ジューダス」
「んー?」
「お帰り。君が無事で良かったよ」
「……うん、ただいま。みんな、助けてくれてありがとうねぇ」
そうして、軽く棚を確認する。
俺が車椅子だからか、お兄さんが手に取るのを手伝ってくれるようだ。こちらの目線の先を指して、いくつかピックアップしてくれる。
「何を借りにきたの? 私のおすすめはコレよ!」
「お嬢様。あまり押し付けは良くない」
「それは前に見たよん。とりあえず、なんか時間潰せそうなのを……」
「ジューダス、意外と羽の真似するよね」
癖になるよね。
いくつかお兄さんにビデオを見繕ってもらったので、レンタルを済ませて膝の上に乗せる。
車椅子を押す都合上カリンちゃんに持ってもらうわけにもいかない。
袋を抱きかかえるように、手に持って。
「……で。アストラさんはどうしてここに?」
「今聞く?」
「遊びに来たの! ちょうどジューダスちゃんの話もしてたのよ。虚狩りになってて、びっくりしちゃった」
「記念みたいなものだけどね。もう俺に戦える力は残ってないから」
「それなら……歌に専念してみない? ジューダスちゃんの歌を楽しみにしてる人がたくさんいるもの! うちの事務所なんかはどう?」
「……うーん」
少し、考えた。
確かに、気が向いたらそういうのもありか。
力がない以上、昔の生活に逆戻りなんだし。
「考えておくよ」
「本当!? ならそうね……イヴ」
「ああ。決心がついたとき用に、連絡先を渡しておこう。勿論、無理強いはしません。貴方の選択に委ねます」
手渡された紙を、ポケットに仕舞っておく。
失くしたらダメそうだ。落とさないようにちゃんと奥へと入れておこう。
「あと……あの光は美しかった。素晴らしいものを見せてくれて、ありがとう」
そう言って、彼女はこちらに微笑んだ。
家へと戻ってきて、シアタールームでカリンちゃんとひとつだけ映画を見る。
眺めていた映画は、昔から人気のヒーロー映画だ。
ヒーローといってもすべてを救えるわけではない。
悲痛な運命の渦中にあって、それでもなお立ち上がれる人物こそ、ヒーローと呼ぶにふさわしいものなのだろう。
今回の話は、他の世界とか、宇宙とかの存在なども出てきており、お祭り作品といった様相だった。
ヒーローものってこんな世界観ややこしいのか。ファンも大変だな、と思う。
「面白かったねぇ」
「はいっ! 特に、あのリーダーみたいな人……仕切り方とか、立ち方とか、すごくライカンさんに似ていましたね」
「たしかに……言われてみればそうかも」
そんな感想を交わしながら、終わったあとの余韻に浸る。
「ねぇ、カリンちゃん。俺がもし、他の世界から来たって言ったらどう思う?」
映画を見て、少し思った。
別の世界だなんて、まるで俺みたいだな、と。
「……たしか……初代虚狩り様が言っていましたね」
聞いてたんだ。
まぁあの時期は結構浮かれてたし、ついてきてたのも理解できるんだけど。
「……特に、何か思うことはありません。どんな出自であれ、今ここにいるあなた様が変わるわけじゃありませんから」
「そっか」
「あ、でも、それでも、どんなふうに過ごしていたのか、どんなことが楽しかったのかは気になります。お姉様だって……あのとき、挨拶だけはしましたけど、もっといろんなお話を聞きたいです!」
「それなら」
身体を、少しだけ前に倒した。
筋肉痛の違和感は残っているけど、話したい気持ちのほうがずっと強いから気にならない。
シアタールームの椅子に座って、首だけを向けていた状態から、上体を彼女のほうへと向ける。
「いっぱい話したいことがあるんだ。夜ふかししちゃうくらい、君に伝えたいことがある」
「……それじゃあ、いっぱい聞かせてください。あなた様の見てきた世界のことを」
そう言って、カリンちゃんは優しく俺の手を取った。
身体に障らないように、抱きしめるようにゆっくりと引いて、立ち上がるのを助けてくれる。
「いっぱい、いっぱいお話をしましょう? あなた様のことを、カリンはもっと知りたいです」
「うん。……あは、今度シロさんにもお話しなきゃ。外泊できるようになってから、だけど」
何から語ればいいだろうか。
話したいことがたくさん頭に浮かんで、ぐるぐると回る。
「あのね、
最初に口にするのは、とりとめのない話。
日常のちょっとしたことすべてが色づいて見えたときの、細やかだけど大きな幸せの話。
どうしてこれまで言えなかったのか。
こんな弱さをさらけ出すのが怖かった。
カリンちゃんはきっと、すべてを包んで受け止めてくれるってわかっている。だけど、だからこそ。
そんな彼女の前では、どうしてもカッコつけたくなってしまうから。
楽しかったこと。
嬉しかったこと。
悲しかったこと。
苦しかったこと。
それらすべて、全部隠すことなく、俺は彼女へと語っていく。
「──君がどこにいても、この先どういう生き方を選んでも、その道が素晴らしいものであることを祈ってる」
いつか、時間が過ぎて。
離れ離れになってしまうときが来るかも知れない。
そうだとしても、カリンちゃんが無事なら俺はそれでいい──と、思っていたんだけど。
「でも、それでもぼくの傍にいてくれるなら。それが一番うれしいかな」
「……います。ずっと一緒にいますよ。カリンの世界は、あなた様がいてこそです」
「……あはは、ありがとう。ぼくも君と、ずっと一緒にいたい」
夜が更けて。
朝が来て。
いつの間にか、眠ってしまっていて。
そうして、朝が来てもずっとずっと、言葉が枯れるまで話し続け。
──俺は、正体不明ではなくなった。
はじめまして。
どうぞよろしく、新エリー都。
正体不明でも、救世主でも、神様でもない──■■
ジューダス・ウィクスは、ここにいる。
世界の問題は解決してはいない。
この先に待ち受ける苦難がどれほどのものなのかも、わからない。
けれどそんなものはもうどうだっていい!
みんなで手を取り合えば世界も救えるのだから。
──だから、日常は続く。
俺は、ここにいる。
こんな終末と喧騒の世界で、俺は確かに生きている。