透き通る世界を照らす赫き星   作:お茶犬大家族

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心配性ワイ「よーし本文完成したぞ、さて投稿……する前に一回見直しとくか」

「ヨシ!……いややっぱ不安やな、また明日再確認するだべか」

翌日

「修正ヨシ!……本当に?また先延ばしかなぁ」

更に翌日

「ヨシ!(ry」


更新が不定期かつスローなのはこんな事情も原因の一つです。しかしそれでも見落としてしまっている箇所が多少あるようで、読者の皆様による誤字報告は本当に助けられております。

今後とも拙作をご愛顧賜りますよう、お願いします。




九天を辿る光

 

 

「くそっ、まだ痛むな……。まあ収穫はあっただけ良しとするか」

 

 

 空崎ヒナとの交戦をやむ無く中断した後、私は一時の休息をとって再び雲の上まで飛び立っていた。そこそこの時間は経っているというのに、奴に負わされた傷の痛みは未だ完全に癒えていない。しかし奴のお陰で、今の身体でもこの世界の猛者と十二分に戦えると判明できた。骨折り損にはならなくて良かったよ。

 

 空はいつしか茜色に染まり、太陽は地平線にその姿を徐々に沈めている。時間帯によって様々に色を変える空を地上から見上げるのもまた一興だが、遮蔽物が何もない雲の上から眺めるのは格別だ。これに勝るものはない。

 

 そんな燃え盛る夕焼けを嗜みながら天空を移動してると、何やら食欲を掻き立てる香りが鼻孔をくすぐった。一旦停止して眼下に目をやると、巨大なビル群が立ち並ぶ地上が確認できる。

 甘美な匂いの発生源もあそこからだろうと、どことなく嗅いだことのある香りを伝に辿っていけば直ぐに特定できた。

 

 するとそこには摩天楼の街並みの傍らにぽつんと構え、もくもくと煙を上げる小さな屋台があった。屋台といえばユクモの村やカムラの里にも似たような物が少なからず存在していたが、まさかキヴォトスでも見られるとは思ってもみなかった。

 無骨なコンクリートジャングルに囲まれる中、こぢんまりとした木製のそれはなんとも風情が溢れていて実に面白い。丁度腹も空いてきた頃合いだし、立ち寄ってみるか。そう決めた私はさっそく地上に狙いを定め、心を弾ませながら降下するのだった。

 

 風圧で店を吹き飛ばすわけにもいかないため、少し離れた空き地で降り立つ。そこからゆったりと一分半歩くと、食欲を唆る匂いと共に先程まで見ていた屋台が現れてきた。

 台車の側面にある看板に大きく書かれた『柴関ラーメン』という文字、どうやらこいつが店の名前みたいだ。垂れ下がっている暖簾にもラーメンと印字されており、大方そいつを中心に扱っているのだろうと推測できる。

 だがちょいと変だな。匂いや煙は立ち込めているというのに、座席には誰一人座っていない。もしや営業時間を過ぎてしまったのか? 少々不安気に暖簾を払い、毛むくじゃらの背中に声を掛ける。

 

 

「失礼、まだ店は開いているだろうか」

 

「ああ、お客さんかい? 安心しな、まだまだ営業真っ只中だよ。むしろこんなに空いてるタイミングに来られるなんてラッキーじゃないか?」

 

 

 振り返ったそいつの外見は、まさしく犬の獣人と言えよう。青い法被を着た犬公の声はとても溌剌としていて、性別は恐らく雄だと考えられる。たしかこの犬種は柴犬とか言ったな、さしずめ店の名前もそこから取ったのだろう。

 

 

「なら良かった。他の客が見受けられなかったのでな、閉まっているのではと考えていたんだ」

 

「確かにこの夕飯時にしちゃあ閑古鳥って感じだな。自慢になるようだが、ウチはそれなりに人が集まってくれるんだがね。まあ、こういう日があっていいかもしれねえな!」

 

「へぇ……」

 

 

 随分な自信じゃないか、こいつは期待できそうだな。

 

 何? 犬が当たり前のように立って喋っているのに違和感を持たないのかだと?

 まあ確かに普通であれば奇怪な光景だろうが、以前私が暮らしていた世界にも人間の言葉を話す二足歩行の猫がいたのでな。それと似たようなものだと思えば、さほど困惑することはなかったよ。

 

 席に付き、カウンターに敷かれていたメニュー表を手に取る。やはり店名の通り、ラーメンを中心に取り扱っている店のようだ。選り取り見取りで実に悩ましいが、延々と逡巡していても仕方ない。いっそのこと、この男に聞いてみるか。

 

 

「店主、ここのお薦めはなんだ?」

 

「うーん、正直好みなんて人によりけりだしなぁ。まあでも、やっぱり店名にもしてる柴関ラーメンに限るだろうな! 迷ったらとりあえずコレを選んどきゃ間違いねぇよ。どんなお客さんでもぜってえ後悔させないって自負はあるぜ」

 

「なるほど。じゃあそいつの並をお願いしようか」

 

「はいよ! ちょっと待ってな!」

 

 

 そう言うと男は厨房へと向き直り、調理を始める。

 

 

「しかし姉ちゃん、ここらで見ない顔だが遠くから来たのか? 常連さんの顔は大体頭の中に入っているからな、新規の人かどうかも自然に分かっちまうんだよ」

 

「……そうだな。とても遠い所からだよ」

 

 

 ただそこには、もう二度と帰ることはできないだろうがな。なんて事を胸中で笑い飛ばしながら物思いに耽る。その数十秒後――

 

 

「ほいっ、お待ちどうさん! 柴関ラーメン並一丁!!」

 

 

 店主の生き生きとした声と共に、丼がカウンターに置かれる。だが私の目に飛び込んで来たのは安牌な量のラーメンではなく、座っているとはいえ、私の頭の高さよりも大きく盛られたものだった。どういう事だ?

 

 

「店主よ、これは本当に標準の量なのか? 写真とは随分絵面が違うが……」

 

「おっと、こいつは参ったな。手元が狂っちまったか。まあせっかくだし、初回サービスってことで食えるだけ食っていってくれ」

 

 

 ……へぇ、なんとも粋な計らいをするじゃないかワン公。貴殿の心遣い、ありがたく受け取らせてもらうとしよう。

 

 

「そうか、では遠慮なく頂くとするよ」

 

 

 丼を引き寄せ箸を手に取り、褐色の汁の中から麺を掬いあげる。湯気が立ち昇るそれに息を吹きかけ、少しだけ冷ましてから口へと運んだ。これは昼間のファミレスでドリアを頼んだ際、唇から伝ってきたその熱さに怯んだのをヘルメット団員に鼻で笑われた失敗から学んだことだ。そいつには軽く拳骨を飛ばしてやったが。

 口に含んだ所から麺を吸い込み、麺全体を口内に取り入れてから咀嚼した。すると――

 

 

「……美味いな」

 

 

 自分の意思とは無関係にそう言葉が溢れ出し、自然と箸が進んでいった。

 

 

「ほほう、いい食いっぷりだな姉ちゃん。服もちょっとボロボロだし、さてはどこかでドンパチやってきて腹減ってたんだな? クールビューティーな外見とは違って好戦的な性分たぁ、ギャップがあっていいね」

 

(ん? この私が好戦的だと?)

 

 

 指摘されて考えてみれば、自分はこんなにも血の気が多かったか? こちら側から宣戦布告をするなんてことはあまり無かったはずだが……。

 

 

 

 ああ、わかった。

 

 

 

 

 ()()()()()()()。何度も立ち向かってくる奴の勇姿が、私の闘争心という名の蝋燭に火を灯したのだ。しかし灯りを点けたそいつ自身、この滾るような闘志を最もぶつけたい相手がこの世界にいないとは……。

 

 

「惚れるだけ惚れさせておいて最終的にはさよなら、か。タラシめ」

 

「……っと、男関係だったか? 悪い事聞いちまったかな……」

 

「そう気に病まなくていい。奴とは言うほど仲睦まじい間柄じゃないさ」

 

 

 まあなれるとしたら、なってみたかったものだが。以前の図体では到底叶わなかっただろうが、人間の肉体となった今なら――いや、最早それこそ夢物語だな。考えても無駄か。

 

 

「そう言ってくれて助かるよ……。まあでも、悩みがあるなら先生の所にでも行くといいさ。きっと親身になって聞いてくれるぞ」

 

(……また先生、か)

 

 

 先生、その名前を聞くのも三度目だな。二度目は空崎ヒナとの交戦中。一度目は確か、風紀委員会の小娘達と戦う前だったか。

 奴らに喧嘩を売りに行く際、戦車の中でヘルメット団員が――

 

 

『姐さんがいれば、たとえ先生がいたって怖くないですぜ!!』

 

 

 なんて嬉々としながら操縦桿を操作していたことがあった。

 

 

 『連邦捜査部S.C.H.A.L.E(シャーレ)』もとい、シャーレの先生。そいつはキヴォトスの外から来た大人であり、これまでに幾多の学園の窮地を救ってきたのだという。広大な砂漠に囲まれた廃校寸前の学校。二つの学園がその長年の因縁に終止符を打とうとしたが、第三者によって大混乱に陥れられた出来事。その他にも様々な問題を解決してきたようだ。

 極め付けとして、キヴォトスが存亡の機に瀕した事変。それにおいても、これまで救ってきた生徒達と一蓮托生して乗り越えたなんて、まさしく英雄と言えるような存在じゃないか。付け加えて言うならば、最後に挙げた事件が解決した日からそんなに時間は経っていないらしい。通りで噂が絶えず、評判もいい訳だ。

 世界を救ったという点では、何処となく奴に似ている気もするが――

 

 

(あの小僧は今頃、どのように讃えられているのだろうか)

 

 

 人類の大敵たる私を葬ったのだ。さぞや盛大な凱旋パレードでも開催していることだろう。それ相応の栄光なのだ、でなくては討たれた甲斐がない。

 

 

「姉ちゃん、さっきから箸が止まってるが……やっぱり多すぎたか? 無理しなくてもいいんだぞ」

 

「そんな事はない。ただ少し過去に浸っていただけだよ」

 

 

 そう言って再び丼に箸を伸ばす。その後も軽口を叩き合いながらラーメンをつつき、気が付いた時には丼の底が現れていた。

 

 

「……まさかスープまで飲み干しちまうとは思わなかったなぁ」

 

「ご馳走様。大口を叩くだけあって中々に美味だった。もう一度来たいぐらいだ」

 

「ははっ! なんなら常連になってくれてもいいんだぜ? 地元の人達にも是非宣伝してくれよな」

 

「ああ、考えておくよ。勘定、ここに置いておくぞ」

 

 

 懐から財布を取り出し、定額分の金銭をカウンターに置く。

 

 

「おう、580円丁度だな。毎度あり!!」

 

 

 そんな店主の張りのある声を背中で受けつつ、屋台を後にしようとした時だった。

 

 

「……ん? ちょっと待ちな姉ちゃん!」

 

「どうした。まだ何か?」

 

「銃がどこにも見当たらないが、嬢ちゃんもしかして丸腰なのか? もしや誰かにひったくられたとか――」

 

「いや、最初からそんなもの所持していないよ。生憎持ち合わせが少なくてな」

 

「……なるほど。分かった、ちょっと待っててくれ」

 

 

 すると彼は屋台の陰にその身を隠し、何かをがさごそと探し始める。すると――

 

 

「おっ、あったあった。ほら、良かったらこいつを使ってくれ」

 

 

 そう言われ店主から渡されたのは、拳銃と複数個の弾倉。そして銃を収納するためのホルスターだった。

 

 

「護身用にと忍ばせていた物なんだが使う機会が無かった上に、最近バイトの子にグレードの高いやつをプレゼントされたから持て余してたんだよ。無駄にするくらいならあげちまえってな」

 

「ラーメンはともかく、ここまで貴殿にしてもらう必要はないと思うのだが……」

 

「訳ありなんだろ、気にしないで持ってけ。もし嬢ちゃんが出世したら、そん時に倍にして返してくれたらそれでいいさ」

 

「……そうか、何から何まですまないな。この恩義は必ず果たすよ。ではまた」

 

「おう。達者でな!」

 

 

 そうして今度こそ店から立ち去る。腹は十分に満たされ、彼の人柄の良さも相まってとても充実した時間となった。

 いつの間か日もすっかり落ちてしまったようで、青黒い夜空に浮かぶ星々が地上を見下ろしていた。

 先ほどの空き地で飛び立つべく、ぶらりぶらりと夜道を歩く。その道中ラーメンで(ほて)った体を涼風に冷やされ、どこか心が清らかになっていくように感じた。

 

 

 目的の場所まで到着したため、絹のような純白から一転して鼠色に染まった雲を貫き、天空へと上昇する。時刻は月の高さからして戌の刻に入ったばかりだろう。眠るには少し早いだろうし、今の内に寝床を探しておくか。

 そうして都市部の空を離れ砂漠化が激しい地域のほうへと向かったのだが、ほとんどの建物が大きく傾いていたり酷く見窄らしくなっているなど、私の感性には少々合わないものばかりだった。

 

 

(もしかしたら、ここを切り抜けるまで見つけることは困難かもしれない。ただ砂漠全体の広さが分からない以上、延々とこうしているのは……うん?)

 

 

 なんだあるじゃないか。周囲からは生物の気配を感じられず、外観も比較的綺麗であり高さは少し物足りないが、平面はとても広々としていて寛ぎやすそうだ。建物の周りは外壁に囲まれており、砦か何かの用途として使われていたのだと推測できる。

 よし、今日の所はひとまずあそこで一夜を明かすとしよう。

 

 

 凸状に聳える建物の頂上に降り立ち、仰向けに転がり込む。そうして天を見上げると、数千の星々が夜空を彩り、その中心を横切るように天の河が流れていた。そしてそれらに同化するように、遥か上空に浮かぶ巨大な複数の円。

 なんと美しい光景なのだろう。だが、しかし――

 

 

(神は何を思って、私をこの世界に飛ばしたのだろうか)

 

 

 私がこの世界に降り立ったのは作為的なものか、それとも偶発的なものなのか。どうして人間の肉体として生まれ変わったのか等、様々な疑問が頭の中を錯綜する。

 まあ、真実がどうであれ私には関係ない。私はただ以前と同様、この世を思うが儘に生きていくだけだ。

 一つ志を立てるとするならば、そうだな……。

 

 

 

 

(このキヴォトスにどれだけの猛者がいようと、私は常勝無敗であり続ける)

 

 

 

 

 

 

 

 

(この天彗龍を斃す事が許されるのは、あの男だけなのだから)

 

 

 

 そう誓った私は眠りにつくまでただ物静かに、幻想的な空を延々と眺めていた。

 

 






Q:確かお金持ってないはずでは?
A:ヘルメット団からくすねた。

それにしてもハンターくんに激重感情を抱いているバルクさん。超常生物の人外ヒロインが、矮小な人間に好意を向けるというこんな関係性……嫌いなオタクはそうそういないでしょう。

オイラも大好きでゲス!!
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