透き通る世界を照らす赫き星   作:お茶犬大家族

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紅く断ち切り天を裂かん

 

 

 

「お前達のやり口は把握した。もう私の想定を超える事はない」

 

 

 おどろおどろしい空気が漂う中、その台詞は発せられる。アビドスの空は快晴である筈なのに、校庭はまるで曇天のような暗澹(あんたん)とした空気が漂っていた。その重く淀んだ雰囲気の根源が、たった一人の人間によるものとは誰が信じられるのだろう。

 

 

「ところでお前達の名前を聞いていなかったな。良ければお伺い願おう」

 

「……私達はアビドス廃校対策委員会。そして私は小鳥遊ホシノ。君は?」

 

「知りたければ捕らえてみるがいい。起こり得ぬ事だがな」

 

 

 そんな彼女の台詞と共に、手に持つ拳銃が臙脂(えんじ)色の靄に包まれる。それを見た先生はとある考えを抱く。

 

 

「"あれはまさか、彼女の神秘……?"」

 

 

 そう彼が言葉を吐いた直後、暗転していたシッテムの箱のディスプレイが点灯する。

 

 

『恐らくその通りでしょう。現在彼女の身体を解析したところ、胸部から凄まじい量の生体エネルギーが検出されました』

 

『もしかすると空気を取り込んでいる瞬間こそ、絶好の機会の最大のチャンスな打開策の突破口かもしれません!』

 

 

 アロナ構文はさておき、二人による有益な情報を受け取った先生は再度計略を巡らせた。

 

 

 

「まずお前は邪魔だ、失せろ」

 

 

 しかしその刹那、彼女が常人離れした早撃ちを見せる。彼女の神秘を宿した緋色の弾丸。だがそれはホシノを狙ったものではなく、シロコやセリカ、ノノミへ向けたものでもなかった。

 

 

 とすれば一人しかいない。

 

 

「ゔぅっっ!?」

 

「"なっ、アヤネ !!"」

 

「裏で何をがさごそとしているのかと思っていたが、先程の煙幕は奴の仕業だな? 三下にしては面倒なので消させてもらった」

 

 

 彼の比較的近い位置にいた、アヤネに向けてのものだった。しかもそれは彼女の眉間をピンポイントで撃ち抜き、意識を一瞬で奪い取ってしまう。

 

 

「何で急に正確に……。最初に撃った時とは別物……!」

 

「銃撃時の反動、弾の速度、体全体へ入れる力加減。その他諸々を計算に入れれば、拳銃の扱い方も概ね熟知した。もう誤射する事はないと思え」 

 

 

 無意識の内に疑念を唱えたシロコに答えるように、少女は淡々と述べる。

 

 

「だから何だってのよ……」

 

 

 そんな彼女の言葉に、セリカの怒りは沸々と込み上げていく。

 

 

「その舐め切った態度を叩きのめしてあげる!!」

 

 

 次の瞬間、セリカが少女に向かって加速する。同期を傷付け貶された彼女が纏うは、烈火のような怒気。

 

 

「この私に正面突破など愚の骨頂」

 

 

 しかしそれに対する相手の眼差しは、酷く冷たいものだった。

 

 

「距離を取りたい気分かな」

 

「逃げんじゃないわよ!」

 

 

 そんな台詞と共に彼女は後ろへと跳躍する。そんな彼女に追走を仕掛けるべく、セリカが更に踏み込んだ時だった。

 

 

「ぇ……何?」

 

 

 彼女の足元から突然眩い光が生じ、舞台のフットライトの如く彼女を赤く照らした。そして次の瞬間――

 

 

「ゔあぁっっ!?」

 

「"セリカ!!"」

 

 

 轟音と共に暗赤色の爆炎が発生し、彼女を激しく吹き飛ばしたのだ。

 

 

("あの爆発はさっき撃った光弾と同じ……それを地雷として設置したのか!")

 

 

 先生の推察の通り、彼女はこっそりと気弾を自身の足元にばら撒いていたのだ。だがしかし、それは注視しなければ気付けない程の極小の光。しかしながら龍気は高密度まで圧縮されているため、通常の大きさで射出する光弾と遜色ない威力を有する。

 そして先ほどアヤネを弾いた射撃も、怒りを買って自身に注意を引きつけ、足元のトラップに気付かせないための視線誘導。セリカはその術中にまんまとはまってしまったのだ。

 

 

「ふん……」

 

(っ! 今!!)

 

 

 彼女を吹き飛ばし、距離を離した少女は遮蔽物が比較的少ない開けた場所に躍り出る。それを好機と見たノノミは即座に機関銃を構え、銃撃の体制を整える。そうしてトリガーを引こうとした、その瞬間だった。

 

 

「この障害物の数々も鬱陶しくなってきた――開拓でもするか

 

 

 彼女の意味深な発言に、思わずノノミは手を止めてしまう。

 その刹那、少女は前方へ勢いよく飛び出し、左足を限界まで伸ばして横向きの体勢となった。

 

 

 次の瞬間、ホシノ達は信じられない光景を目にする事になる。

 

 

 

「フゥゥンンッッ!!」

 

 

 

 彼女は左足を軸に、反対側の足で地面を掻きながら大きく一回転をかける。それはコンパスで円を描くように繊細かつ、己が持つ圧倒的膂力で力強く回ったことで、なんと彼女の周囲に巨大なつむじ風が発生したのだ。更にはグラウンドの砂や遮蔽物も取り込んだことで、これは最早竜巻だと言ってもいい規模だ。

 

 

「やばすぎるってっっ!!」

 

「なっ、何よこれっっ!!」

 

「何が起きているのっっ……!?」

 

 

 重量のある障害物さえ呑み込んだのだ。その突風はホシノとセリカ、シロコの身体をいとも簡単に浮かび上がらせた。凄まじい風速で数秒間旋回させられた後、彼女達は勢いのまま散り散りに投げ出される。

 

 

「なっ、皆さんっっ!!」

 

 

 ホシノとセリカは校庭の外壁に激突し、シロコに至っては住宅街まで吹き飛ばされてしまった。唯一無事だったノノミは仲間の安否を呼びかけながらも、砂嵐から目を離さず射撃の準備を整えていた。

 そうしてやっと砂嵐が晴れた、その瞬間だった。

 

 

「いない……!?」

 

 

 彼女の姿がどこにもなかったのだ。ならばと即座に左右に目を通わせるも、そのどちらにも彼女はいない。

 ノノミが思案を巡らせようとした、その瞬間。

 

 

「"ノノミ! 上!"」

 

「っ!!」

 

「流石に鋼龍や嵐龍には及ばんか」

 

 

 なんと彼女は自身の作り上げた竜巻の気流に飛び乗り、その風速を利用して加速していたのだ。そこからノノミの頭上を取り、彼女を見下ろす形となっていた。ノノミも迎撃するべく、瞬時に銃口を上に向けようとしたが――

 

 

「ちょっと放しておけ」

 

「ぐぅっっっ!?」

 

 

 右の踵落としが銃身に叩き込まれ、マシンガンと共に彼女の身体は急激に前屈みになってしまう。無防備に晒された彼女の頭部を狙い、少女は身体を捻り今度は余った左側の足でノノミの側頭部に後ろ回し蹴りを叩き込んだ。それにより彼女は激しく地面を転がり、マシンガンを手放してしまう。

 

 

「せっかくだ、たまには己が体で獲物の威力を知るといい」

 

 

 少女はそう言いながらノノミが手放した機関銃を拾い上げると、翼から龍気を噴出して空中へ浮かび上がる。すると起き上がった彼女の上を周回しながらトリガーを引き、豪雨のような銃弾をノノミに浴びせていく。

 

 

「貴様も天に舞え」

 

「かはっっ!?」

 

 

 そのまま流れるようにノノミの正面へ急接近すると、彼女の土手っ腹を蹴り上げ、天高く垂直に吹き飛ばす。そして機関銃と翼の噴出口、その照準を真上にいる彼女に合わせる。そして――

 

 

 

ダッダァーーン!!

 

 

「うむ。中々雅な花火だ」

 

 

 無数の鉛と光の弾を射出し、空中で大爆発を発生させたのだ。その数秒後、爆煙の中から姿を表したノノミは漏斗雲のように煙を纏い、地上へ激突する。

 

 

「くっ……うぅ……」

 

「あれで意識を刈り取れんか。大した丈夫さだ」

 

 

 それでも尚、戦闘不能になっていなかった彼女にとどめを刺すべく、機関銃を投げ捨てつかつかと歩み寄る。

 その時だった。

 

 

「私だって銃は撃てるんですよ!」

 

「くたばり損ないが……」

 

 

 意識を取り戻していたアヤネが少女に向けて発砲したのだ。しかしその弾丸は難なく躱され、今度は少女が拳銃の矛先をアヤネに合わせる。

 

 

「虫けらは大人し――っ!」

 

「後輩達はこれ以上傷付けさせないよ!!」

 

 

 その刹那、背後から突き刺さる殺気に彼女は手を止める。後ろへ振り向くと、そこにいたのは暴走機関車の如く猛進するホシノだった。いち早く駆け付けるためか、盾は小さく折り畳まれ背中に背負われていた。

 少女はすぐさまそちらに標的を変え、2発の鉛玉を速射する。

 

 

「その程度ならおじさんも躱せる!」

 

「ならばこの神速の突きはどうだ」

 

 

 しかしホシノはそれを潜り抜け、彼女の至近距離まで着実に迫る。そんな彼女を穿つべく、少女は右腕で凄まじい速度の打突を放った。

 

 

「それも当たらないねぇ!」

 

 

 それをホシノは申し合わせたかのように少女の右側に回り込み、散弾銃の照準を定める。そうしてカウンターの一撃が与えられる――筈だった。

 

 

「その避け方は知っている。だから対処法も出来ている」

 

「づぅっっ!?」

 

「弾はあまり消費したくないんだ。早く倒れてくれ」

 

 

 なんと彼女は脇の下に拳銃を潜らせ、そこからホシノを狙撃したのだ。更に少女は追撃として、左翼で薙ぎ払いを仕掛ける。

 

 

「まだやられないよ!」

 

 

 ホシノは咄嗟に盾を展開してそれを防ぎ、辺りに甲高い金属音を響かせる。全体重をかけた彼女は完全に受け止めたと思っていた。しかし――

 

 

「うへぇ……ちょっと、嘘でしょ……」

 

 

 盾からぎりぎりと金属が軋むような音が鳴り始めた、その刹那。

 

 

「むうぅぅんっっ!!」

 

「冗談きついってっ!!」

 

 

 翼が強引に振り切られ、ホシノはいとも簡単に吹き飛ばされてしまう。その勢いのまま彼女は回転草(タンブルウィード)のように、グラウンドを激しく転がっていった。

 

 

「貴様が陥落すれば後の人間は問題ない」

 

 

 彼女は攻撃の手を緩める事はない。大地を蹴り抜いて加速し、地面に横たわるホシノの元へと向かっていく。

 

 

「私達は眼中に無いってわけ? いい度胸じゃない!」

 

「猫耳っ……!」

 

 

 しかしそれよりも早くセリカが銃撃を行い、眼前を通る幾多の銃弾によって阻まれた少女はブレーキをかける。

 

 

「本当に丈夫で面倒な種族だな、キヴォトス人とやらは!」

 

「"セリカ! 来るよ!"」

 

「言われなくっても!」

 

 

 先生や標的となった本人も攻撃の矛先が変わったのを察知し、瞬時に迎撃体制に入った。けれどセリカも長年の戦いによって磨き上げられ、易々と間合いに入られるような実力の人間ではなくなっている。ただでさえ距離も離れているのだ、彼女の元へ無傷で辿り着くことは出来ない。先生達はそう考えていた。

 

 

 

 だが目の前の女は、()の天彗龍バルファルク。彼らの常識は通用しなかった。

 

 

「図に乗るなよ、三下が」

 

「「"なっっ!?"」」

 

 

 彼らの予想を裏切り少女は龍気を駆使し、50mはあろうかというセリカとの間隔を一瞬で詰め、その懐に堂々と侵入してしまう。

 それもそのはず、先程の竜巻で遮蔽物の類いは無造作に放り投げられたため、今の校庭は更地と言ってもいいほど見晴らしが良くなっていた。それ故、彼女の直線的な動きに目が慣れていなかったのだ。

 

 

「っ! でもこのくらい!」

 

 

 急に目の前に現れた存在に対して彼女も動揺していたが、即座に冷静になりバックステップで距離をとろうとした。

 

 

「いっっっだ!」

 

「残念。少し遅かったな」

 

 

 しかし既に、彼女の手にはセリカのツインテールの右サイドが握られており、退くことを許さなかった。髪が強く引っ張られる痛みで、セリカもたまらず顔を強張らせる。

 

 

「ふんっ!」

 

「がっ……!?」

 

 

 すかさずセリカの後頭部に手を回した彼女は、相手の顔面に強烈な頭突きをかます。立て続けに脳を強く揺さぶられ、千鳥足になっている彼女に対しても奴は無慈悲だった。

 

 

「貴様はここで退場してくれ」

 

 

 次の瞬間、彼女は翼での横薙ぎをセリカの脇腹へ放つ。神速で振るわれたそれにより、セリカの身体は軽々と吹き飛ばされ――

 

 

 

ガシャンガキィィンッッッ!!

 

 

 

 本館の3階にある窓ガラスを突き破り、建物の奥へと姿を消していった。

 

 

「セリカちゃん! お願い返事をして!」

 

 

 ホシノはすぐさまインカムで安否を問いかけるが、返答は来ない。恐らく今の衝撃で気絶してしまっているのだろう。それを理解したホシノはその元凶のほうに向き直り、睨みつける。

 

 

「ほう、かなり飛んだな。死んでいないと良いのだが」

 

 

 だが当の本人はそれを悪びれるどころか面白がり、目の上に手を当てながら彼女が飛んで行った方向をまじまじと眺めていた。まるで自身が打った球を見上げるゴルファーのような仕草。

 セリカをコケにするようなその行為は、ホシノ達を憤らせるに十分すぎた。

 

 

「いいかげん大人しくしてもらう!」

 

 

 直後、外壁を飛び越え戦場に戻って来たシロコが空中から標的を狙い撃つ。

 

 

「おかえり。たがもう手遅れだ」

 

「なんて反応の速さっ……」

 

 

 しかしそんな不意打ちの射撃でさえ、持ち前の超反応と剛翼で防がれる。それでも尚シロコは着地すると、即座に少女に向かって走り出した。彼女のスピードは、アビドス生の中でも随一の精度を誇る。

 

 

「この程度の縮地、私は見飽きる程に体感している」

 

「くゔうっっ!!」

 

 

 だがなんと奴は前方へ跳躍し、シロコの頭を掴んで倒立すると、そのまま手で踏み切り向こう側へと通り過ぎた。更に奴はすれ違いざまに翼を彼女に向け、龍気をその背中に浴びせていったのだ。

 新体操でもするかのように柔軟に行われたそれに寒慄しながらも、先生は苦渋の決断を取る。

 

 

「"……アヤネ、ここは私がなんとかする。ノノミは私が見ておくから、君はセリカの救護にあたってくれ"」

 

「ですが先生! 私まで抜けたら更に連携が乱れ」

 

「"頼む"」

 

「っ……分かりました。ご武運を!」

 

 

 

 先生の指示を受けたアヤネはグラウンドに背を向け、校舎の中へと入っていった。そうして校庭に残ったのは先生を含めて4人。

 そんな彼女の背中を遠巻きに眺めた少女は、冷淡に言葉を吐く。

 

 

 

「このままいけば私を追い詰められる。そんな思い上がりをした者ほど、早々と涅槃に就いたのだ」

 

 

 

 己が元来持つ圧倒的な戦闘力。冷静に戦局を捉える戦術眼。相手の実力を測り、ごくわずかな時間でそれを上回る即応力。それこそが、彼女が天彗龍の一族にて最高傑作と呼ばれる所以であった。

 

 

「悲観する必要はない。お前達の敗北は揺るぎない運命なのだから」

 

「ふーん。でもさ、その逆境を乗り越えてこそカタルシスが生まれるってもんだよね!」

 

 

 冷酷な演説を続ける彼女にホシノは反論し、眼前の相手に向かって肉薄する。

 

 

「笑止」

 

 

 しかし奴の方向から()()()()()()()()()が響き、ホシノは驚きつつも瞬時に盾を前にして防ぐ。そして盾から少し顔を覗かせると、先程の音の正体を理解する。

 

 

「なっ、それはセリカちゃんの銃!」

 

「どうやら吹っ飛ばした際に落としていったようだ。それで少し拝借させてもらっている。こいつの撃ち方も今までの奴の動きを見て、大体理解した」

 

 

 いつの間にか彼女の手には、セリカの愛銃『シンシアリティ』が握られていた。それをホシノが問い詰めたと同時、少女は再びその銃口をホシノに合わせる。

 

 

「味方の鉛玉を食らうのはどんな気分だ?」

 

「癪に障る事しか言えないのかな!」

 

 

 だかホシノは左へサイドステップを取り、その銃弾を躱してみせる。すぐさまショットガンの照準を合わせ、自身の神秘を込めたカウンターの射撃を行おうとした。

 

 

(なっ……神秘を纏えない!? なんでッッ!!)

 

 

 だが何故かいつものように、神秘を発動する事が出来ないのだ。その原因を探るべく、彼女は今までの戦闘の流れを思い返す。

 

 

(まさか! あの子の神秘の特性!?)

 

 

 そうして導き出した仮説は、先ほど自身に喰らい付いた弾丸だと考察する。答えを述べるとすれば、その仮説は当たらずと(いえど)も遠からずだ。『相手の神秘を封じ込める』。それこそが、彼女の持つ龍属性エネルギーの効果の一端であった。

 

 

「そういえばこんな物も落としていったな」

 

 

 その瞬間、彼女は懐から取り出したスモーク弾を地面に叩きつける。それによりグラウンドに再び白煙の世界が広がった。

 

 

(たとえ神秘が使えなくても、銃弾が撃てないわけじゃない!)

 

 

 だがホシノは即座に意識を切り替え、眼前に広がる真っ白な世界に突っ込む。

 

 

「大体そのあたりでしょ!」

 

「"っ、ホシノ! 待っ――"」

 

 

 そうして彼女が野生の勘で凶弾を放った瞬間、先生の静止の声が響き渡る。しかし正面からは確かに銃弾が命中する音が伝わり、ホシノは標的を撃ち抜いたと考えていた。

 

 

 だが次の瞬間、彼女はその意味を知る事になる。

 

 

「おや、仲間を撃つなんて酷いじゃないか」

 

「なっ、シロコちゃん! ごめん!!」

 

 

 なんと奴は背後から迫っていたシロコの存在に勘付いており、彼女の首元を掴んで肉壁として防いだのだ。

 

 

「お前は用済みだ」

 

 

 彼女はそう言うとシロコの体を高く掲げ、何故かホシノではなく校舎のほうに向けて投げ飛ばす。

 

 

「こふっ!?」

 

「ノノミちゃん! ……ちぃ!」

 

 

 その射線上にいたのはノノミ、奴は密かに復帰していた彼女の存在すら察知していた。そうして激突した二人は密着したまま地面へと沈む。そんな彼女達の姿に、ホシノはその元凶を糾弾する。

 

 

「人を盾にするなんて汚い真似して、恥ずかしくないの?」

 

「戦場に卑怯も善悪も無い。強い者だけが生き延び、弱ければ淘汰されるのみ。それが大自然の掟だ」

 

「大自然って……いくらアビドスが荒廃が進んでるからって、それはちょっと大袈裟じゃないかなぁ?」

 

「……理解してくれなくて結構」

 

 

 彼女はその台詞と共にスタートを切り、ホシノに向かって飛びかかる。

 

 

「まだまだ爆弾は隠し持ってるんだよね!」

 

 

 それに対してホシノは手榴弾を彼女の目の前に放り投げる。だがしかし、それは起爆する事のないダミー爆弾だった。

 

 

(避ける瞬間はいくらこの子でも無防備だ。そこを突けば!!)

 

 

 彼女はそう企てていた。だが――

 

 

 

「炸薬の臭いがしないぞ。この爆弾――贋作だな?

 

「っ!!」

 

 

 現実とは非情であった。彼女は爆弾に額を小突かれながらも接敵を続けたのだ。彼女の異常なまでの嗅覚によって見透かされ、ホシノの動きが一瞬止まったその刹那――

 

 

「失望したぞ、小鳥遊ホシノッ!」

 

「がはぁああっっ!!」

 

 

 ホシノの胸部に痛烈な横蹴りが繰り出され、彼女は大きく弾き飛ばされてしまう。

 

 

「ぐぅ……かはっ……!」

 

「悪いが私にハッタリは通用しない。ここぞという時にしくじったな」

 

 

 筆舌に尽くし難いその衝撃に苦しみ悶えるホシノに、奴は彼女の元まで歩み寄る。するとホシノは横たわりながらも、相手を睨み付けていた。

 

 

「そんなに大事か、奴らが」

 

「っ……決まってるでしょ」

 

 

 彼女はおもむろに起き上がり、言葉を紡いでいく。

 

 

「先生がいたから、私達五人はこうやって平穏な日々を過ごせてる。皆がいたから、私は人間らしくいられた。そんな恩人をそっちの一方的な都合で痛ぶられるとか、誰が許すっていうのさ」

 

 

 

 

「先生もあの子達も、私の掛け替えの無い大切な人達だ。もう誰にも奪わせはしない。アビドス(ここ)が私の帰る場所だから」

 

 

 

 

 その決意と共に、ホシノは正門を背にする形で立ち上がった。ボロボロになりながらも彼女の瞳に宿る炎は、未だに消えていない。

 そんな彼女を前に少女は目をすっと閉じ、こう呟いた。

 

 

「最後くらいは大胆かつ豪快にいこうか。こいつで幕引きだ」

 

 

 そう宣言を言い放った直後、彼女は龍気を噴出して遥か上空まで一気に飛翔する。次の刹那、少女は眩く輝く真っ赤な閃光となり、弧を描くように高速で旋回し始めた。

 

 

("こんなのまるで彗星じゃないか。いくらなんでも桁外れ……いや待てよ、これって!")

 

 

 天空で今起きている光景を目の当たりにした先生は、ある結論を導く。

 

 

("まさか私やホシノが見た彗星、もとい不審な飛行物体の正体。それこそが彼女だったのか!?")

 

 

 その解に辿り着いたと同時だった。アビドスの空を周回していた光が一定の距離を飛行すると唐突に宙返りをし、グラウンドにいるホシノに向かって急降下を行ったのだ。

 

 

「そんな直線的な突進、撃ち落と……ッ!?」

 

 

 ホシノはすぐさまショットガンで撃墜しようとした。しかし得体の知れない悪寒に見舞われたがため、直前でシールドに切り替え防御の体制に入る。

 しかし――

 

 

 

「ぐうゔぁぁっっっっ!!」

 

 

 

 想像を絶するほどの衝撃がホシノに襲いかかり、盾もろとも彼女の体は凄まじい速度で吹き飛ばされてしまう。アビドス高校の正門を通り抜けると、通学路のアスファルトを削りながら激しく転がっていき、地平線の奥へと姿を消していった。

 

 

「改めて敬意を表する、アビドスの諸君。誰一人戦意を失うことなく、よく最後まで立ち向かった」

 

 

 そう呟いた少女は前方から目を離し、校舎のほうへと顔を向ける。

 

 

「だがこれが現実だ。故に、もう抗う必要はない」

 

「まだ……終わってない」

 

「私達が負ける訳には……いかないんです!」

 

 

 傷だらけになりながらも尚、先生との間に立つシロコとノノミの気迫に少女は舌を鳴らす。

 

 

「五対一でやっとであるのに、貴様ら二人でどうにかできると「いいや、まだ三対一だよ」……」

 

 

 後方から聞こえてきた声により言葉を遮られた少女は、そちらへと向き直した。

 

 

「驚いたな。盾越しとはいえ、あれをまともに受けて立っていられた者は滅多にいないのだが」

 

「お生憎様。私は人よりちょっぴり鍛え方が違うんだよ」

 

 

 そう、先ほど彼方まで吹き飛ばした筈のホシノだった。

 

 

「ふっ、まるで神獣のような眼光よ。それが貴様の本性か」

 

「なるべくこんな姿を後輩達には見せたくなかったけど、もういいや。君に勝つためならなんだってする」

 

 

 正門にどっしりと構えている彼女の覇気は、まさに修羅。普段のほんわかな気風はまるでなく、獲物を確実に仕留めにかかる猛獣の如きオーラを纏っていた。

 

 

(まあしかし、いくら奴でも今すぐ機敏に動くのは難しいだろう。ならば)

 

 

 だが今更そんなことで怯えるような肝っ玉ではなく、彼女は自身の目的を果たすべく思考を凝らしていた。そこから導き出した答えは――

 

 

(奴が完全に回復しきる前に、あの二人を潰すのが先か!)

 

「貴様は後回しだ」

 

「なっ!!」

 

 

 なんとホシノに背を向け、大地を蹴り抜いて先生達のいる方向へと加速したのだ。

 

 

「さあ、止めてみろ!!」

 

 

 そうして彼女が砂煙を上げながら三人に向かって接近し、やがて前に立つ二人は蹴散らされる――

 

 

 

 

 と、思われていた。

 

 

「っ、なんだこれは……」

 

 

 彼女の進行方向の虚空に突然、漆黒の靄が発生したのだ。すると次の瞬間。

 

 

「むおぉっっ!?」

 

 

 その奥からアサルトライフルの銃口が頭を覗かせ、彼女を狙い撃ったのだ。少女は即座に右へ回避し、その不気味な真っ黒の何かを睨みつける。やがてそれはシミのようにじわじわと広がり、その空間に歪みのようなものを作り出す。

 

 するとその中から、何者かの色白な足がぬるりと姿を現した。先生も一瞬何が起きているのか分からないようだったが、すぐにその正体を理解する。

 そうして彼らの目の前に降り立ったのは――

 

 

 

 

「"シロ……コ……?"」

 

「久しぶり、先生。そして皆も」

 

 

 このキヴォトスとは別の時間軸からやってきたという、もう一人の砂狼シロコ。もといシロコ*テラーが大地に足を下ろすと、先生のほうへ振り返り微笑んだ。

 

 ひとまず皆が無事で良かった、あの子には感謝しなくては。ホシノがそう安堵した途端、今度は自身の右後ろでジャリッ……という誰かの砂を踏んだ足音が鳴った。

 

 

(っ! まさかあの子にも増援が!?)

 

 

 と、ホシノはそちらに瞬時に振り返る。

 

 

 

 

 しかし、その心配は杞憂だった。

 

 

 

 

「やっと見つけた。今度は逃がさないわよ」

 

 

 

 その音の正体はあのゲヘナ風紀委員長、空崎ヒナだったからだ。今の彼女が纏うオーラは、ホシノですら気圧されるような途轍もないものだった。

 

 

「な、なんで風紀委員長ちゃんが……?」

 

「話は後にしましょう。今は翼持ちの彼女を制圧する事が先決。違う?」

 

「……うん、そうだね。とりあえず一言だけお礼を言っとくよ、ありがとう」

 

 

 まさかのここきて、キヴォドスの中でも指折りの猛者とも言える者達の加勢。予想だにしない事態に戸惑うホシノだったが、即座に臨戦体制へと入った。

 

 

「"この土壇場での彼女達の加勢はありがたい。でも、なんで二人が?"」

 

「何はともあれ、少なくとも希望は見えてきたみたいだよ先生。現に――」

 

 

 未だ思考が定まらない彼に、シロコは前向きな言葉を投げかける。言われるがまま少女のほうに目を向けると、その意味を理解した。

 

 

 

「……」

 

 

 

「あの子の顔付き、今までの涼しい顔から明らかに変わった」

 

 

 彼女の言葉の通り、奴の顔は険しく変化していた。二人の参戦は間違いなく、この戦況を大きく揺るがす一手となっていく。

 

 

 






原作より早めのクロコさんの参戦なり。

気づけばお気に入りに登録してくださった方が500人近くに。皆様のご厚意が、何よりの励みとなっております。

今後とも何卒よろしくお願い致します。
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