透き通る世界を照らす赫き星   作:お茶犬大家族

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生きてるゥ^〜 ええ、長らくお待たせしました……






硝煙うずまく黎の御前

 

 

 突如自分達の元へと現れた一人の生徒により、劣勢へと追いやられていた先生とアビドス高校の面々だったが、キヴォトスでも屈指の猛者達の加勢によって戦況は劇的に変わった。

 すると件の生徒は駆けつけた人物の一角、空崎ヒナにぼそりと話しかける。

 

 

「生きていてくれて嬉しいよ、空崎ヒナ。貴様は死ぬには惜しい人間だから」

 

「やはり敢えて生かされたのね。でもその慢心故に、今日貴方はここで捕まる」

 

 

 そう言い終えたヒナはホシノの横を通り過ぎ、少女を睨みつけながら歩み寄る。

 

 

「ずっと貴方に会いたかった。この借りはどこへ逃げようと、たとえ地獄の果てだろうと見つけ出して返す」

 

「粘着質だな、随分と」

 

「執念深いと言ってほしいわね。そしてなにより――」

 

 

 

 

「先生を傷つけようとしたのは絶対に許さない。覚悟なさい」

 

 

 その瞬間、周囲の空気がより一層変化する。それは少女も無論察し、先程までとっていた澄まし顔から、微かに眉間に皺が寄った顔付きをしていた。

 そうして校舎側には二人のシロコ、そしてノノミ。校門側はヒナとホシノが立ち塞がり、彼女を挟み込む形となっている。少女は双方からぶつけられる鋭い眼差しを撃ち落とすかのように、交互に視線をゆっくり通わせる。その膠着状態が数秒経ったときだった。

 

 

「まったく、これまで好き放題暴れてくれちゃって。流石のおじさんもお冠だよ?」

 

 

 いきなりホシノがそんな風に話を切り出し、ゆっくりとターゲットへ迫っていく。

 

 

「でも私達も鬼じゃない。今すぐ降参するなら許してあげなくもないかなぁっ!!」

 

「ふっ!」

 

 

 その台詞を言い終えようとした瞬間、彼女は今までにないほどの早撃ちをみせる。間一髪のところで少女が避けた瞬間ヒナがスタートを切り、爆発したかのような踏み込みで少女に接敵。その最中に鉄床を正面に持ち替えると、彼女の胴体目掛けて強風を伴う横薙ぎを放った。

 しかし少女は即座にライフルを間に入れ、機関銃を受け止める。けたたましい音が周囲に響き、そこから鍔迫り合いの状態になる――

 

 

「腰が入ってないわよ、貴女」

 

 

 かと思われた。

 

 

「はぁぁッッッ!!」

 

「しぃぃ!!」

 

 

 しかしヒナは強引にマシンガンを振り抜き、彼女を吹き飛ばした。

 

 

「吹っ飛ばされる人の気持ち、分かってくれた?」

 

 

 すると今度はヒナの陰からホシノが飛び出し、再度接近する。

 

 

「舐めるなよ、若僧が」

 

 

 しかし少女は地面を蹴り、ホシノの頭上を取る。その直後ライフルによる袈裟を真上から落とされるが、ホシノはすかさず散弾銃を間に入れて受け止めた。そのまま銃を180度回転させる事で相手のライフルを強引に下げ、前屈みになった相手の横顔に拳を一つ叩き込む。

 

 

「づぅ……!」

 

「そろそろソレ、返してもらうよ」

 

 

 肩越しに睨み合っていた二人だったが、ホシノは突然ショットガンを投げ捨てる。身を翻すと同時に隠し持っていたハンドガンを取り出して彼女と向き合い、その銃口を相手の腹部に押し当てる。

 

 

「もう一回吹き飛ぼうか!」

 

「がはぁっっ!」

 

 

 次の刹那、零距離かつ連続の速射を盛大に浴びせた。それは彼女の体を後方へ激しく飛ばし、持っていたライフルを捨てさせる事に繋がった。

 

 

(神秘もいつの間にか使えるようになってた。永久的に封じれる訳じゃないらしいね)

 

 

 更にその射撃には自身の神秘を込めていたらしく、相手の能力の特性をホシノはより一層理解する。

 

 

「今のは効いたぞ」

 

(怪我をする前よりも動きがいいとはな、いよいよ獣じゃないか)

 

 

 少女は吹き飛んだ先でそう言うも、すっくと立ち上がる。そうして眼前に立つホシノに鋭い視線を刺し、俊敏になった彼女の動きに感嘆の念を抱いた。

 

 

「さてと、前回はお互い本気を出せずに終わったわね」

 

「ああ、貴様にとっても悔いが残る戦いだっただろうに」

 

 

 するとその言葉と共にホシノの横に並ぶ形でヒナが姿を現し、少女もまたそちらに目線を返す。

 

 

「ええ、だから喜びなさい。今日は心置きなく、初っ端からフルスロットルでいってあげるから」

 

「あちゃぁ、こうなった風紀委員長ちゃんは怖いよ〜。早めに白旗を振ったほうがいいんじゃない?」

 

 

 そうして二人は彼女へ向けて先程以上の覇気を出す。しかしそれに対する本人の回答はこれだった。

 

 

「ほざけ。私は不退転にして不撓不屈。撤退や降伏などあるものか」

 

「そう言うと思ったわ。なら始めましょう」

 

「うん。第二ラウンドと洒落込みますか!」

 

 

 そうしてまた戦いの火蓋が切られ、三人は同時にスタートを切って激戦へともつれ込んだ。

 

 

 

 

 

 こうしてホシノとヒナが二人かがりで彼女と交戦している間、シロコ*テラーは踵を返して先生達の元へと向かっていた。

 

 

「ごめん先生。遅れて」

 

「"いや、来てくれただけでも嬉しいよ。もしかして……プラナが?"」

 

『はい。シッテムの箱のシールドにあれだけの衝撃を与える相手ともなれば、アビドスの皆様でも太刀打ちできるか判断しかねたためです』

 

『ヒナさんは私から応援要請をしました。比較的近い場所にいたのが彼女で、どうやらアビドスとの境界付近でパトロールをしていたようです。そこで私から急遽、先生名義で立ち入り許可を出しました!」

 

「"なるほど。ありがとう、二人とも"」

 

 

 プラナとアロナの助力に感謝の言葉を送ると、校舎の中からアヤネが再び校庭に現れる。

 

 

「先生! 只今戻りました!」

 

「"アヤネ! セリカの容態は?"」

 

「幸いな事に、命に別状はありませんでした。なんとか意識も取り戻し、今は安静にさせています」

 

「"そう、良かった……"」

 

 

 最悪のケースを避けられた事に先生はホッと息を吐いた後、彼は一つの疑問をシロコ*テラーに投げかける。

 

 

「"シロコ、君は彼女について何か知らないかな? 少なくとも私達は全く知らなくて……"」

 

「ごめん、私もあの子については全然知らない。私のいたキヴォトスには、あんな人いなかった」

 

「そう……分かった。それが聞けただけでも十分だよ」

 

 

 しかし返ってきた言葉は彼の望んでいた答えではなく、益々疑念を積もらせる事となった。

 

 

("彼女の力は絶大ではある。ホシノはさっき三体一とは言ったけど、この二人が来てくれたなら……!")

 

 

 だがそれでも彼は長々と気後れする事はなかった。そうして一つの決断を下す。

 

 

「"シロコ、ノノミ、二人は一旦休んでて。彼女はひとまずホシノ達で抑える"」

 

「先生、私はまだ……!」

 

「ええ! この好機を逃しては――」

 

「"動けるようになったら、戻ってもいいから"」

 

 

 彼女達の闘志に、先生は否定的でいて肯定的でもある言葉を返す。

 

 

「……はい、分かりました♪」

 

「ん。大人しく言う事を聞く」

 

 

 すると二人はすんなりとそれを受け入れた。それに対して先生は微笑み、少女と交戦中のホシノ達に指揮を執ろうとした瞬間だった。

 

 

「先生、ちょっと耳を貸して」

 

「"いいけど……どうしたの?"」

 

 

 

〜〜〜〜

 

「"っ!"」

 

 

 シロコ*テラーに耳打ちされた言葉に彼は目を丸くする。そうして彼女とアイコンタクトを取り、互いに頷いた。

 

 

「"分かった、ならそれで行こう。それじゃあアヤネ、二人をお願い"」

 

「はい。先生、シロコ先輩。ご武運を!」

 

「ん。大丈夫、勝つから」

 

 

 そうしてシロコ*テラーは戦場のほうへ振り返り、神速の踏み込みで少女に向かって爆進する。

 

 

「邪魔だ」

 

 

 だが背後から近付く彼女の存在に気付いた少女は瞬時にそちらへ向き、拳銃を横一閃に振って広範囲に銃弾を乱射する。

 

 

「フウゥゥッ!」

 

「なんと……!」

 

 

 しかしシロコ*テラーはそれをスライディングで回避し、少女の真下へと滑り込んだ。更にその手にはショットガンが握られており――

 

 

「いい位置」

 

「づゔぅぅ!」

 

 

 彼女の眼下から灼熱の散弾を浴びせ、その長身を浮き上がらせる。そのまま流れるようにシロコ*テラーは立ち上がり、追撃の回し蹴りを放つ。

 

 

(今の一瞬で分かった。あの女もかなり厄介だ)

 

 

 しかし彼女はすんでの所で腕を入れ、急所への攻撃を防いでいた。それでもシロコ*テラーは攻撃の手を緩めず再び接敵し、少女との接近戦へとなだれ込む。

 

 

「貴様、あの狼娘の親族か? しかしなんだ、何か異質な物を感じるぞ」

 

「ノーコメント」

 

 

 そんな会話を繰り広げていた中、互いのバックブローがぶつかって止まる。その瞬間――

 

 

「どのような猛者でも眼球は脆いものよ」

 

(っ! 目突き!!)

 

 

 少女は二本指でシロコ*テラーの左目を狙いにいく。だが彼女は目尻を削られながらも、直撃を回避してみせた。

 

 

「その銃も素敵だ、くれないか」

 

「ぐっ!?」

 

 

 しかしそれは囮。次の瞬間彼女は相手を蹴り飛ばし、同時にショットガンを奪い取る。すかさず目の前の人間に照準を合わせるとトリガーを引き、凶弾がシロコ*テラーに浴びせられるかに思えたが、彼女は瞬時に盾を取り出して銃弾を防いだ。

 

 

「貴様、一体どこからそれを出し――っ!」

 

「この空崎ヒナから目を切ってはいけないわ」

 

 

 更には少女が彼女を狙い撃っている隙を突き、ヒナが彼女の左後方を取っていた。だが瞬時に少女は左足でバックキックを放つ。

 

 

「貴方、翼はよく動くみたいだけれど――」

 

 

 しかしヒナはその剛脚をひらりと右に躱す。そして――

 

 

「尻尾は案外使わないのね」

 

「づぅっ!?」

 

 

 彼女の長い尻尾を掴んだ次の瞬間、アーチを描くように振り回して地面へ叩きつけた。

 

 

「まだ終わらないわよ」

 

「ごぁっ!」

 

 

 しかしヒナはその手を離さず、反対側へもう一度振り落とす。そうしてまた体を捻り、二往復目に入ろうとした時だった。

 

 

「調子に……乗るな!」

 

「ぐゔぅっっ!」

 

 

 彼女は龍気を噴出して回転をかけ、無理矢理ヒナの手を振り解く。そのまま行われた高速のスピンキックがヒナを捉え、彼女は遠方へ激しく弾かれていった。

 そうして彼女が地に足を付けたと同時、右前方からシロコ*テラーが再び肉薄していた。少女はすぐさまそちらに意識を向け、槍翼での刺突を放つ。

 

 

「……そういうことか」

 

 

 しかし、それは先程も発生した真っ暗な何かに阻まれる。その直後、シロコ*テラーは彼女の背後に再び姿を現した。

 少女は気配を辿って振り向きざまにショットガンをそちらに向け、トリガーを引こうとしたが、それよりも早くシロコ*テラーが彼女の手首を掌握する。

 

 

「貴方も宙を舞うべき」

 

「うぅっ!」

 

 

 次の瞬間、彼女の視界は反転する事となった。シロコ*テラーが放ったのは合気の技、それにより少女の体は浮かび上がる。

 

 

「確かこの拍子だった、なっ!」

 

 

 しかし彼女は先日のヒナに倣って片足を伸ばし、それを対処してみせる。更にはその体勢から相手の顔面を貫くべく、槍翼を高速で突き出した。

 

 

「ただでは退かない」

 

 

 だがそれよりも早くシロコ*テラーは退き、紙一重のところで回避してみせる。それは同時に相手を自由の身にさせる事にはなったが、彼女は退く前に手榴弾を一つ置き土産していた。

 そうして二人が後ろに飛び大きく距離を取った瞬間、その中心地で爆弾が炸裂する。

 

 

「抜け目のない奴め」

 

 

 そんな悪態を吐きながら少女は正面の黒煙を睨み付ける。そうして煙が晴れていくとヒナが左(はす)向かいから、その反対側からはシロコ*テラーが鋭い眼光を放っていた。

 

 

「風紀委員会の皆のけじめ、ここで取らせてもらう」

 

「これ以上貴方の思い通りにはさせない」

 

 

 そんな啖呵と共に双方から放たれる威圧感は、まるで金剛力士像のような荘厳さが醸し出されていた。

 そして更には――

 

 

「流石だねぇ、二人とも。ちょっと休めたお陰で、だいぶ調子は取り戻せたよ」

 

 

 少女の背後にホシノが立ち、彼女にもまた尋常ならざるオーラが垣間見える。自身に拮抗しうる実力を誇る三人に囲まれたことで、少女は怏々とした表情を浮かべていた。

 

 

「私には休む暇さえ与えないとはな」

 

「悪いけど、私もこれまで多対一の状況は何度も経験してる。言い逃れはできないわ」

 

「戦場に卑怯も糸瓜も無い。君の台詞だったもんね」

 

 

 だがそれに対するホシノ達の顔色は、至って冷静であった。戦局が彼女達に向いているのはその場の全員が理解していた。

 

 

(しかしこの状況にも徐々に慣れるでしょうね。短期決戦、それしかない)

 

(さて、どうする。この流れを崩せる、奴らに揺さぶりをかけられるような何かがあれば……)

 

 

 しかしヒナはそんな優位な状況であっても決して気を緩めず、戦況の流れを冷静に解析する。それに対して少女は押され気味な現状を打開するべく、計略を巡らせていた。

 そんな時だった。

 

 

「にしても本当に助かるよ。改めて礼を言っとく」

 

「貴方達には過去に迷惑をかけたもの。この程度の手助け、どうって事ない」

 

 

 二人のそんな会話を聞き、少女はとある仮説を頭に浮かべる。

 

 

「まさか以前、風紀委員会が攻め入ったという地はアビドス(ここ)だったのか?」

 

「まあね。でも今となっては昔の事だよ」

 

 

 そのホシノの答えを聞いた瞬間、少女は面白可笑しく軽薄に嗤い出す。

 

 

「ふふっ! そうかそうか。だがしかし、心の何処かで許し難い気持ちも少なからずあっただろうに」

 

「……何が言いたいのさ」

 

 

 ホシノがそう問い質すと相手は醜悪な笑みを浮かべる。そして――

 

 

 

 

「だが安心するといい。奴らはこの私が襤褸(ぼろ)雑巾にしてやったからな。痛快だったぞ、木っ端共が綿毛のように吹き飛んでいく様は」

 

 

 なんと風紀委員会の面々の存在を嘲り笑ったのだ。

 

 

「イオリだったか、奴は特に滑稽だった。因果覿面。そんな言葉が似合うくらいには這々の体だったよ」

 

「……っ!!」

 

 

 誰にでも分かる明らかな挑発。先日のように過去の事を言われるだけならまだ良かった。だが彼女達の存在意義を貶すような発言に、ヒナは苦虫を噛み潰したような表情を浮かべる。そして彼女はすぐにでも声を張り上げるだろうと、少女の思惑通りになるかと思われていた。

 

 だが実際、いの一番に怒髪天を衝いたのは――

 

 

「……正直、さっきまでは君の強さを尊敬してたよ。一族の最高傑作――それを体現するような矜持を感じた」

 

 

 

「でも今はただの外道にしか見えなくなった。そんな娘に私達が負ける道理はない」

 

 

 なんとホシノだった。幻滅を含んだ最低評価を受け、少女もまた憤る――かに思えた。

 

 

「外道か……。まさしくそうだろう」

 

 

 

「私は龍。神をも喰らう化生(けしょう)。故に人心など解さぬ」

 

 

 彼女が返したのは絶対零度の圧と視線。その無機質な形相は、それこそ残忍酷薄な悪鬼羅刹そのものだった。

 

 

「来るがいい。本当に落ちぶれたかどうか」

 

「言われなくてもそうするさ!」

 

 

 次の刹那、ホシノは眼前の人間に向かって加速する。

 

 

「"ホシノ! 足元!!"」

 

「え……あっ!!」

 

 

 しかし先生の声を受け、彼の言う通りに下に目を向けるとその意味を理解する。そして瞬時に後ろへ飛び、地面に向けて散弾を放つ。

 

 

「本当にいつばら撒いてんのさ、これ!」

 

 

 すると先程セリカを吹き飛ばしたものと同じ爆炎が発生した。まったくそういった挙動を見せていなかった彼女の技術にホシノは慄く。

 

 次に駆け出したのはシロコ*テラー。ハンドガンを手に眼前の敵に肉薄し、対象の元まで着実に迫る。だが相手は即座にそちら散弾銃を向け、自身に迫る彼女に凶弾を放つ。

 しかし再び眼前の空間が裂け、鉛玉は真っ黒なそれに飲み込まれる。それと同時にシロコ*テラーは相手の背後を取るが、少女は振り向き様に銃身で薙ぎ払う。

 だがシロコ*テラーはまたもや姿を消し、その一閃は空を切る。その時、既に彼女は相手の頭上に回っていた。そうして上段から銃弾が少女に浴びせられる――かに思えた。

 

 

「かぁぁっ!!」

 

「ゔうぅっっ!!」

 

 

 なんとそれさえも瞬時に反応し、空中にいた彼女を槍翼で遠方まで叩き落としたのだ。

 

 

「まさか異空間を自在に行き来できる人間が存在するとは、流石に度肝を抜かれた。しかしその事実さえ分かれば造作もない。()()()()()()()()()()()()()()のだから」

 

 

 まるで彼女と同じような能力者を知っているかの如く、淡白に論説する少女。

 

 

(だがそれは一対一での話、この状況においては厄介なのは変わりない。ならば今一度、気を引き締める必要がある)

 

 

 しかしながら、彼女は警戒を怠る事はなかった。そうして意識を再度改めた次の瞬間。

 

 

 

「ハァァアアアッッッ!!」

 

 

 

 彼女は再び空気を取り込み、龍気の精製を開始する。

 

 

(今っ!!)

 

 

 ようやく見えた勝利への突破口。ホシノはすぐさま地面を蹴り、最高速で彼女の懐へ飛び込む。

 

 

 

 

「うつけが」

 

 

 

 しかし相手は突然、空気の吸引を中断した。その刹那――

 

 

 

「ガアアアアッッッッ!!」

 

 

「ぐゔゔっっっ!?」

 

 

 何と吸い込んだ空気の一部を利用し、轟くような怒号を上げたのだ。その凄まじい声量は最早衝撃波そのものであり、彼女を盛大に吹き飛ばした。そうして激しく地面を転がる彼女に、少女は冷淡に吐き捨てる。

 

 

「まさか真正面から狙いに来るとは実に短略的。貴様らしくもない」

 

 

 ならばとヒナは機関銃の照準を定め、彼女の胸部を狙い撃とうとする。

 

 

「させんよ」

 

「つぅぅっ!!」

 

 

 しかしそれよりも速く少女は散弾銃で牽制し、彼女の動きを封じた。そうして改めて空気を取り込み、龍気の精製を完遂させようとした――その瞬間。

 

 

「っ!」

 

 

 野生の勘で、何処からか自身を狙う殺気を気取る。即座にそちらに目を向けようとした刹那――

 

 

「私もいるという事を忘れては困りますよ!」

 

 

 シロコ達の介抱を一通り終えたアヤネが、彼女へ向けて発砲する。

 

 

「しつこい」

 

「かはっ……!」

 

 

 しかし彼女はその不意打ちを難なく躱し、アヤネにカウンターの一撃を浴びせる。そうして仰向けに倒れゆくアヤネだったが――

 

 

 

「流石ですね……。しかし、もう一人忘れていませんか?」

 

 

 

 その口角は不気味に吊り上がっていた。その瞬間、少女は先程察知した殺気から意識を切っていた事に気が付く。

 

 即座に彼女が半歩退いた刹那、辺りに一発の銃声が鳴り響いた。

 

 

「づぅっ!」

 

 

 それは無防備であった彼女の頭部を掠り、すぐに彼女は自身を穿った弾道の根源を目で辿る。

 

 するとそこには――

 

 

 

 

「私の事を忘れるなんて、ほんっといい度胸してるわね!!」

 

 

 

 別館の窓からライフルの銃口をこちらに向ける、セリカの姿があった。

 

 

(復帰してくるのはまだいい。だが何故貴様が()()を……)

 

 

 そう、確かにセリカのライフルは現在もグラウンドに投棄されているため、本来であれば彼女に狙撃されるなんてことは無い筈であった。

 しかしこの戦場へと介入してきたシロコ*テラーの存在により、戦況が大きく狂ってしまっていたのだ。

 

 

 

 

 

 彼女が校庭に現れる少し前――

 

 

「あっったま来た! 絶対あいつに吠え面かかせてやるんだから!」

 

「セリカちゃん! まだ安静にしてないと!」

 

「でもこのままじゃ先輩達が……!」

 

 

 意識を取り戻したセリカの介抱をアヤネが行っている時だった。

 

 

「セリカ、アヤネ。とりあえず落ち着いて」

 

「「なっ、シロコ先輩!?」」

 

 

 言い合っていた二人の前に突如漆黒のゲートが開かれ、そこからシロコ*テラーは姿を見せた。彼女は先生達と合流するより先に、アヤネとセリカの元へと向かっていたのだ。

 

 

「応援要請を受けた。アビドスが窮地に立たされてるって」

 

「なるほどね。先輩が来てくれたら百人力だわ……!」

 

「で、でもセリカちゃん。銃はどうするの?」

 

「ゔっ、それは……」

 

「……セリカ、ちょっと待ってて」

 

 

 すると虚空に手を翳し、小さめのゲートを開くとその中に腕を伸ばす。何度かまさぐるような仕草をした後に腕が引き抜かれると、彼女の手には一丁のライフルが握られていた。

 

 

「これ、使って」

 

「あ、ありがとう――ってあれ? これ私のやつにそっくり……いや似てるどころか全くおんなじじゃない!」

 

「……シロコ先輩、まさかそれって」

 

「うん。向こうのセリカの銃」

 

 

 彼女の言葉に二人は目を見開く。

 

 

「どうしても、手放せなくて」

 

「ええ……ありがとう二人とも。一旦ありがたく使わせてもらうわ」

 

 

 そうして意気揚々と戦場へ戻ろうとするセリカだったが、シロコ*テラーはそれを手で制止する。続けてその手で招き、寄ってきた二人にこう言った。

 

 

「私に考えがある」

 

 

 

 

 

 

 

『あの子は恐らくセリカから意識を切ってる。意識が戻ろうと、銃が無いという理由で脅威とは捉えない』

 

 

(先輩の言った通りだったわ。でも――)

 

 

 事実、少女はセリカの存在を完全に意識から外していた。シロコ*テラーの策略を聞いた彼女は、密かに好機をずっと伺っていたのだ。

 

 

『ごめん皆、仕留めきれなかった……!』

 

「いいやナイスだよセリカちゃん。それで十分だよ」

 

 

 するとホシノが少女の背後から接近する。その殺気を探知した彼女が即座に振り向き、引き金に指をかけようとした瞬間。

 

 

「そろそろ散弾銃(それ)も離そっか」

 

 

 ホシノはこちらへ向けた彼女の手を狙い、コンマ一秒早く発砲する。

 

 

「づぅ!!」

 

「龍気ってやつも充填しきれないでしょ」

 

 

 そうして彼女が散弾銃を手放した時には、ホシノは既に目と鼻の先までいた。次の刹那ホシノの右足が前方へ跳ね上がり、前蹴りの体勢に入る。だが相手の目はそれを捉えており、瞬時に腕が交差するよう前へ出して防御体制を取る。

 

 しかしホシノのそれは、巧妙なフェイントだった。

 

 

「なーんてね」

 

 

 彼女の右足は前ではなく真下へと振り落とされ、大地を震脚する。すると即座に左足が振り上げられ、彼女のガードを弾き飛ばした。無論そのガラ空きになった胴体を、ホシノは見逃すことはない。

 

 

「やっと良いの入ったねぇ!!」

 

「ごはぁぁっっっ!!」

 

 

 ホシノの神秘、そして全体重と膂力が乗せられた渾身の回し蹴りが彼女の胸部に叩き込まれた。

 その衝撃で胸に溜め込んでいたエネルギーが暴発したのだろう、彼女は勢いよく前方へと吹き飛んでいく。地面にバウンドして身体が反転するがその勢いは止まらず、グラウンドの砂を巻き上げながら4、5m進んだところでやっと静止した。

 されど彼女も伊達ではない。静止した瞬間と同時に起きあがり、ホシノがいるであろう正面へと向き直る。

 

 

「これしきのことで私が――「知ってるよ、だからほら」っ!」

 

「遅い」

 

 

 しかしすぐさま背後に回っていたヒナが、起き上がった彼女の背中に愛銃の先端を添わせる。

 

 

「さっきのお返しよ、受け取りなさい」

 

「ぐううぅぅっっ!!」

 

 

 そしてありったけの銃弾を零距離でぶっ放した。吹き飛んでから立ち上がるまで10秒にも満たない僅かな時間であったが、それでも彼女にとっては十分すぎたのだ。

 

 

「ッ! 離れろ!」

 

 

 少女もすかさず背後にいる人間に向かって翼を振るうが、ヒナはそれを後ろに大きく飛んで回避する。痛烈な攻撃を立て続けに受けても尚動ける彼女の強靭さに、ホシノは内心驚嘆していた。

 しかしホシノは唐突に口を開く。

 

 

「それ、結構キツいんじゃない? もうやめたほうがいいよ」

 

 

 彼女がそう言うのには理由があった。なぜなら――

 

 

 

「片目がどうした……この程度で私は退かんぞ」 

 

「へぇ、逞しいね」

 

 

 先程セリカが放った銃弾は少女の右瞼を大きく切り、流血によって右側の視界が潰される結果となっていたからだ。

 彼女の言葉と同時にホシノは飛び出し、その距離を詰めにかかる。だが相手も瞬時に拳銃を引き抜き、迫り来る敵に鉛玉を3発速射する。

 

 

「どうしたの、精度が落ちてるじゃん」

 

 

 しかしそれをホシノは当たり前と言わんばかりに潜り抜け、接敵を続けた。ならばと少女は集中力を上げ、再び彼女を狙撃しようとした瞬間。

 

 

「見えてない分、やはり注意が散漫ね」

 

 

 彼女の死角から現れたヒナが、機関銃による鉄槌を脳天目掛けて振り下ろす。だが少女も超反応、その袈裟を紙一重で躱した。

 

 かに見えた――

 

 

「一太刀躱したくらいで安心しないで」

 

 

 なんと真下に落とされていた機関銃が、今度は思い切り跳ね上がる。

 

 

「燕返しよ……!」

 

「がぁああっっ!!」

 

 

 そしてその逆袈裟は彼女の胴体を諸に捉え、豪快に弾き飛ばしたのだ。そうして激しく地面を転がる彼女を流し目で見ながら、ホシノはヒナの隣に並ぶ。

 

 

「セリカちゃんも目を狙ったつもりはないんだろうけど、下手に退いたせいで逆に痛手を負った感じだね」

 

「ええ。それでも彼女なら片目のハンデなんて、いずれ克服するでしょう」

 

 

 

 

「だけど戦場とは非情なもの。このまま一気に畳み掛けるわよ」

 

「分かってるって」

 

 

 二人はそう闘志を更に高め、ゆっくりと起立する少女に意識を向ける。

 

 

(こうなれば……!)

 

 

 すると彼女は力強くバックステップを踏み、ホシノ達と大きく距離を取った。そうして翼を大きく広げ、前方へ向けた噴出口から火花が散るような音が発生する。

 

 

「あの時の光線ね……。そうはさせない」

 

 

 その動作に見覚えのあるヒナは銃口を標的に向け、とある体制に入った。その直後――

 

 

「消え失せろ!」

 

 

 少女の剛翼から極太の光線が放出し、それがホシノ達に襲いかかる――筈だった。

 

 

「それも貴方の専売特許じゃないのよ」

 

 

 なんとヒナの獲物からもアメジストの光線が放射され、彼女のそれを堰き止めたのだ。

 

 

 

 

バホォォォオンッッッ!!

 

 

 

 

(奴め、まだこんな芸を隠し持っていたか……!)

 

 

 ぶつかり合っていた二つの光線はやがて大爆発を発生させ、その硝煙はアビドス高校はおろか住宅街の一部をも呑み込んだ。ヒナの技に恨み節を吐きながらも周囲に立ちこもる黒煙の中、彼女は息を殺して360度全域に警戒をとった。その直後――

 

 

「さっきの借りを返してあげる!」

 

 

 地上まで降りていたセリカが煙を裂き、彼女の真正面から現れる。そしてその首を削ぎ落とすべく、ライフルで横薙ぎの体制に入った。

 

 

(この女は直情型。躱して反撃を――)

 

 

 その予備動作を視認していた少女は、それを極限まで引きつかせてから屈み、そこからのカウンターを画策していた。

 

 

「私がそんなに単細胞に見える?」

 

 

 しかしそれは寸手のところでピタリと止まる。その刹那――

 

 

「今の私はすこぶる冷静、よ!」

 

「ぐぅっ!」

 

 

 横に意識を向けていた彼女の土手っ腹を、真正面から蹴り飛ばす。袈裟はブラフ、セリカの本命はこの前蹴りだったのだ。そうして少女は背中から地面を滑っていった。

 

 煙も段々と晴れていく中、彼女はすぐに起き上がり周囲の状況を確認し始める。

 

 

 

「これで王手――かな?」

 

 

 するとそこは死地だった。彼女の頭上の周囲にはミサイルが搭載された無数のドローンが飛んでおり、地上では三角形を描くようにシロコ*テラー、ヒナ、ノノミの三人が機関銃を構えながら取り囲んでいた。

 

 

(舐めるな! こんな包囲網すぐにでも!)

 

 

 しかし彼女はすぐさま翼に龍気を集中させ、上空まで回避するべく試みる。

 

 

「づうっっ!」

 

 

 しかし、立て続けに受けた攻撃の痛みが今になって襲いかかる。それによって彼女の体が弛緩した瞬間、三丁のマシンガンが繰り出す鉛玉の嵐、二人のシロコによって作り出されたミサイルの豪雨が彼女の元へと向かった。

 

 そうして彼女のいた位置を中心に、大規模な爆炎が巻き上がる。それにより生じた黒煙に意識を向けながら、全員が自身の獲物を静かに構えていた。

 するとその数秒後。

 

 

 

「これしきの……ことでっ、私がっ……」

 

「嘘……あれでもまだ動けるんですか!?」

 

 

 覚束ない足取りではあったものの、彼女が黒煙の中から姿を現した。綺麗に整えられていた銀髪は、砂や煤を被ってボサボサになってしまっていた。

 猛攻を受けてもなお立っている少女に、アヤネも思わず声を荒らげる。

 

 

「……いいえ。そうでもないみたいよ」

 

 

 しかし冷静に彼女を見ていたヒナが、それを否定した直後。

 

 

 

「っぅ……」

 

 

 彼女は体は崩れ落ち、片膝を付いて顔を伏せたのだ。放たれていた覇気も、先程までのものからは想像もつかない程に薄れていた。

 それを感じ取ったヒナは先生に指示を仰ぐ。

 

 

「先生、無理に長引かせて必要以上に叩くべきではないわ。彼女は私が引導を渡してくる」

 

「"ああ、お願いするよ"」

 

 

 そうして彼女は相手の元まで近付き、下を向くその頭に機関銃の照準をおもむろに合わせた。

 

 

「話は後で聞いてあげる。一回眠っておきなさい」

 

 

 

 

 

 

*

 

 

 

 

 

 頭を垂れている、だと……? この私が……?

 

 

 

 私が……天彗龍が負ける……? ふざけるな! そんな事があってはならない! 思い返せ、私がこの世界で高みを目指したのは何の為だ!?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そうだ、最愛の人間(あの狩人)の為にだ。

 

 

 

 

 

 倒れる事は恥ではない。そこから立ち上がらない事こそ何よりの恥! 現にあの男は、私に勝つため何度も這い上がってきたのだろうが!!

 

 

 

 

 

*

 

 

 

 

 

「原始も知らぬ貴様ら如きに……!」

 

「っ!?」

 

 

 突然爆発的に闘気が高まった目の前の人物の変わり様に、ヒナは思わず目を見開く。

 

 

「"ヒナ!! 逃げて!!"」

 

 

 彼が叫んだ刹那、槍翼での超高速の横薙ぎがヒナを捉え、彼女は校舎の外壁と大激突する。壁は激しく崩壊し、瓦礫や砂埃によってヒナの影はその中へ溶けていった。しかしそれの元凶は彼女に意識を向ける事はなかった。

 

 

(奴の……あの男の強さを、証明する為にも!!)

 

 

 

 

「こんな……ところでっ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「負けるものかあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ァァァァァッッッッッ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

「っ!!」

 

「おや、どうかしましたかツルギ?」

 

「……いや、なんでもない」

 

 

 

 

 

「……へぇ、こいつは凄げぇや」

 

「んー? なんだかリーダーご機嫌だね。いい事あった?」

 

「まあな」

 

 

 

 

 

「ふ〜ん。やな気分」

 

「ミカさん、体調が優れないようでしたら保健室に……」

 

「ううん、大丈夫! 心配しないで!」

 

 

 

 

 

 

 彼女が轟かせたその咆哮は、キヴォトス全土にまで響き渡るかのように木霊した。彼女がこの世界に降り立って初めて見せた、明確な強い感情。それにより生じた気迫は、それだけでホシノ達を半歩退かせた程に圧倒的であった。

 

 

 

「私は絶対に負けられんのだ。それが私に唯一できる、奴への(はなむけ)なのだから」

 

 

 

 その瞬間、彼女の眼差しは研ぎ澄まされた刀のように煌々しく変わる。纏っていた空気も今までの冷たいものから、どこか温もりを感じる気高いものへと変化していた。

 それを受けたホシノは朗らかに笑う。

 

 

「へぇ、いい顔をするようになったじゃん。あれだけ言っておきながら君にもいたんだね。大切な人が」

 

 

 

 

「それなのに……どうしてそうなっちゃったのさ」

 

 

 しかしそう続けた彼女の顔は、どこか悲しさを思わせた。

 

 

「"ああ、だから今日ここで止めないといけない。彼女にこれ以上、間違いを犯させないために"」

 

 

 先生のその言葉に、ホシノ達は静かに頷く。そうして彼女が起こした一連の騒動は、とうとう終わりを迎える事となる。

 






次回 人類 対 天彗龍 完全決着


 プレナパテスの時間軸におけるセリカは行方不明となっており、本来ゲーム内においてはクロコはセリカの銃のみ所持していません。
 というのを独自設定としていたつもりでしたが、投稿後に3章のスチルでちゃんとシンシアリティがあった事を見落としておりました……。
 当方のガバっぷりを酷く反省致します。


 期間も文章も長くなってもうた……。流石に年を越すまではプロローグ編を終えられる……と信じたい。

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